セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
世間の夏休みが半分を過ぎた頃。
次なる原作イベントを察知するため、渡は熱斗と密に連絡を取り合っていたが、今回はそれが全くの無駄となった。
目印として熱斗がとあるメールを受信するタイミングを見張っていたのだが、そのメールが渡にも同時に届いたのだった。
アメロッパ語の本文を翻訳にかけると、このような内容だった。
『七代渡さまへ
今回のアジーナ襲撃事件でもわかるように、ネットマフィア「ゴスペル」の脅威は、ますます大きくなって来ています。
しかし、この度私たちは「ゴスペル」についての重大な情報を手に入れました。
そこで、優秀なネットバトラーの皆さんにその情報を連絡し、今後に備えたいと思います。
あなたも私たちの開催する「オフィシャルネットバトラー会議』に是非参加して下さい。
会議は、アメロッパにある「オフィシャルネットバトラー世界本部」で行います。
ONB世界本部。名前からしてニホン含む世界各国のオフィシャルのさらに上の組織のように思えるが、これは各国が加盟している同盟であり、直接的なつながりはない。
渡の前世でいう国際連合のような立ち位置の組織であり、その目的も、ネットワーク社会の平和と秩序の維持やそのために必要な国家間の連携、としている。
しかしこの組織自体の規模はさほど大きくなく、決めたことを自分でやるだけの力を持たない。ここで打ち立てられた方針を各国オフィシャルが行動に移すという形となっている。
それでいてONB世界本部から各国オフィシャルへの命令権なども制度として存在せず、完全に互いの信用で成り立っている。
世界本部そのものの力が弱いことにはきちんとした理由が存在する。
例えば、各国の最先端技術や保有プログラムを世界本部に集中してしまった場合に起こる経済への影響・セキュリティ上のリスクや、本部が力を持った場合にどの国が主導国家になってその力を振るうかという利権問題など。
なので、例え本部自体の活動の規模が小さくともそれは仕方のないことで、今回行われる国際会議も、準備に関わっただけの者を除いた実参加者は10名足らずであった。
事実、今回の会議はゴスペルに狙われていて、スパイを除いた全ての参加者を始末して情報を根こそぎ奪う手はずであったが、そういう最悪に類するケースで失われるものが最低限で済むという寸法である。
もっとも、下手人になるはずだったプライド王女は、渡が骨を折ったおかげでゴスペルのスパイになることはなかったため、会議自体の問題はクリアされていた。
(こっちにこのメール来るんやったら
だがそれはそれ。メールの存在そのものに、努力が空回りであったことを報されて、渡は項垂れた。
(ていうか、やっぱ飛行機は今日の便なんか……呼ぶかどうか迷ってたとかか? まあ、ニホンオフィシャルの代表は炎山で、所詮市民ネットバトラーの熱斗と自分はついでのオマケってことなんやろうけど)
渡は親に承諾を取るより先に、旅行の支度を始めた。指定のホテルで2泊3日なので、荷物の量は多くならなかった。
(有事に熱斗んとこ駆けつけたいから、メールが
このアメロッパ行きに問題がないのであれば、熱斗を追って飛ぶ必要などどこにもなかったが、熱斗には、ニホンへの帰還を待たずして再び危機に陥る予定があった。
アメロッパからの帰りの飛行機がハイジャックされ、あわや墜落、というのが少し後の、「2」でのシナリオ。
ハイジャック犯の目的のひとつは、墜落に巻き込んで熱斗を始末すること。その正体はゴスペル幹部の男、ガウス・マグネッツ。そしてその持ちナビ、マグネットマン。
原作では、まず長く複雑なダンジョンギミックを越え、地形を利用した回避困難な攻撃を凌ぎながら、HPが初めて1000の大台に乗ったボス――マグネットマンを相手取ってダメージレースに勝利しなければならず、事前の対策がなければシャドーマン以上の苦戦を強いられる。
単にゲームシステム上の強さだからという考えもなくはないが、渡としては、その強さは万が一があると考えるに値するものだった。
しかし、介入するなら介入するで、渡にとっての課題があった。
事件の現場がフライト中の旅客機であり、同乗していなければ一切手出しできないという点であった。
(帰りの便を確認して、
いかな渡でも、遙か上空には手出しできない。故に無理やり同乗するための工作も視野に入れていたが、その機会すら与えられなかった。
だが、そこはダメで元々。
(
……
両親に事情を説明し、デンサン空港から10時間少々のフライトを終えて、現地時刻で午後1時過ぎ。
機内で一眠りした渡は薄ぼんやりしながら入国審査を終えたあと、空港内の売店で土産物コーナーを流し見てから買った甘い缶コーヒーを眠気覚ましにちびちびと飲みながら、ロビーまで出てきた。
「渡ー」
さて待ち合わせている熱斗を探そうかと思ったところで、横合いからその本人に声を掛けられて、渡の眠気がいくらか飛んだ。
「ああ、光くん。おはようございます」
返事をしたのは、1秒の混乱を経て、コーヒーが溢れてはいないかと右手に視線をやってからだった。もう少し減らしておくかと、更に口をつけた。
「おう、おはよー」
「すみませんね、お待たせして。出国前にスられたお金は取り返せました?」
熱斗は出国前、日本語に多少慣れた外国人の男にぶつかられ、電子財布をスり取られていた。
渡も原作知識としてこの出来事を知っていたが、今回は相談できる相手としてその時すぐにメールを受け取っていたので、可能な限り犯人の特徴を思い出しておくとか、職員に一応言ってみるとか、できることをアドバイスしていたのだった。
それで万が一を心配して訊いてはみたものの、見るからに落ち込んだり苛ついていたりはしていないようなので、答えは想像がついていた。
「ああ、同じ飛行機に乗ってたみたいで、降りてからすぐ見つかったよ。問い詰めたらあっさり白状したし、PETにウイルス入れて来たけど大したことなかったし」
(確かヘルコンドルとか入ってたと思うんやけど、それを”大したことない”って言えるのはプレイヤー目線でもちょっとしたもんやで)
キオルシン系最上位種、ヘルコンドル。見た目はキオルシンがオレンジ色になっただけだが、突進速度は弾丸と形容できるほどで、かつ段違いのタフさを併せ持つ。
高速故に攻撃を当てにくく、突進は避けにくく、かといって一撃で倒すことが困難なのでカウンター戦法も成立しない。
シンプルな強敵で、対策と呼べる対策は少ない。「2」の時代ではまだ珍種で存在があまり知られていないのも、種としての強みと言える。
「それならよかった。でも気をつけて下さいよ、ニホンは特に景気のいい国ですから、そこの子供だけで出歩くとなれば何かとトラブルに遭いやすいですし。僕たちは旅行初心者でもありますから、余計に」
「じゃあ渡もエラそーなこと言えないじゃん」
「僕はある程度予習して来たのでまだマシです」
「もー、優等生なんだから。……それで、これからどうするんだっけ」
「言ったそばからダメじゃないですか。向こうですよ」
自宅で作成した旅行計画書をPETの画面上に開き、空港の出口を目指して二人で歩き出す。
「空港からアメロッパタウンまではバス、そこからホテルまでは徒歩ですね」
「街を見て回れるまで、もうちょっとかかるわけか」
「窓から外の景色を見るのもいいんじゃないですか?」
道すがら雑談しながらも渡が一番気に留めていたのは、口先で騙してハイエースを仕掛けてくる黒人がいないかどうかだった。
もっとも、渡を待って出発が遅れたからか、陽気そうな黒人が空港の出口で声をかけてくることはなく、そのチップ全ロストイベントへの警戒は杞憂に終わったのだった。