セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
オフィシャルネットバトラー会議当日の朝。
渡は、オート電話の着信音で目が覚めた。時計を見ると、予め熱斗と合わせて起床用にアラームを設定しておいた時刻より、幾分早かった。
(なんやねんクソ死ね)
心の中で悪態を吐きながらのそりと起き上がり、いまいちはっきりしない頭、覚束ない手付きで、テーブルに置いたPETから電話に出ようとした。
途中で1度PETを取り落し、再度悪態を吐いてから、発信者を確認した。熱斗だと分かると、起こされたことへの怒りが和らぎ、落ち着かなければと小さく深呼吸した。
「もしもし」
起き抜けは話すのに喉を震わせる気力もなく、口から出たのは無声音だった。
「渡? 大丈夫か?」
「はい」
「ドア開けてくれる?」
「……」
渡はPETを持ったまま歩いていき、寝る前に準備しておいた鞄からもう1つのPETが出ていないことを確認してから、ドアを開けた。
早い時間ながら出かける準備を済ませた熱斗がいた。ここで熱斗はおはようと声をかけるつもりだったが、いかにも眠そうな渡の姿を見て口を噤み、とりあえず電話を切った。それを見た渡のPETを持つ手がだらんと垂れ下がった。
「それは大丈夫じゃない気がするけど……」
「すいません、顔洗って来ます」
ぼそぼそと呟いた渡がユニットバスへ入り、顔を洗う音、口を濯いで水を吐く音の後に出てくると、瞼こそ重そうではあるが、それ以外の怪しさはなくなっていた。
「おはようございます」
言いながら、渡はベッドに腰を下ろした。勢いから、その体が縦に揺れた。
「おはよ」
「まだちょっと早いですけど、どうしました?」
言葉も、ほんの僅かに舌が絡まって詰まっている他は、元の調子を取り戻しているように思えた。
「早く目が覚めちゃって、それでPET見たら、ONB本部から会議場所についてのメールが来てたんだけど、自分で探せとか書いてあってさ。これ。渡も同じの来てる?」
熱斗がPETの画面、メールの文面を渡に見せた。
まず最初に、ゴスペルの妨害工作を避けるため会議場は極秘であること、出席者各位は自らの手で会議場を見つけ出して出席するようにとの旨。
それから、オフィシャルを無責任と言うべきではないこと、信じられるのは自分だけであること、ロックマンが出席することが書かれていた。
渡も自分のPETからメールを確認したが、全く同じ文面が送られていた。
(あー、あの縦読みそのまんまか)
「同じですね」
「どこか分かるか?」
「最後の中身がない文章三行を縦読みすると”おしろ”になるので、アメロッパ城です。最初のメールと違ってわざわざニホン語なので、そういうことかなと。このホテルから遠くない場所ですし」
「さっすが渡! じゃあすぐ行こうぜ!」
熱斗が手を叩いた。着替えようとしていた渡の手が止まった。
「えっ、朝ごはんは?」
「ルームサービス頼んだら出てくるまで時間かかるだろ、コンビニでなんか買ってこーぜ」
……
ホテル近くのコンビニで買ったサンドイッチを朝食にしてから、2人は空港行きのバス停があるアメロッパークまで戻り、上り坂を含んだ芝生を抜けて、アメロッパ城へ足を踏み入れた。
一般公開されている1階エントランスまでの出入りは自由だが、ただそれだけであり、見る物もさほどないので観光客が長時間留まったりすることはない。
現在も、問題が起きないように見張っている職員等こそいるが、閑散としていた。むしろ、外から城全体の写真を撮っている者の方が多く見受けられる程だった。
エントランスで見る物といえば金色の女神像くらい。他には封鎖された階段や扉があるのみで、熱斗はどうするのかと渡を見た。
渡はアメロッパ王家の紋章が掲げられた壁に近付くと、周囲に誰もいないことを確認してから、そっと右手をつこうとして、その手が壁の中へ沈み込んだ。
熱斗の口から、いっ、という声が漏れた。渡は熱斗に向かって軽く手招きしてから、歩いて壁の中に消えた。
熱斗も恐る恐る壁に手を触れてから、ゆっくりと壁の中に進んだ。城の壁とは思えないほど薄く、その奥は通路だった。振り向いて壁の様子を見ようとした時、まず足元に、そして頭の上に、通路の入口へ向けられる何らかの装置があるのを見つけた。
(立体映像の壁かぁ……いかにも秘密基地って感じだけど、大人がそんなことするのってなんか意外だなー)
通路の先にあった重い扉を2つくぐると――間の空間に”両方同時に開けるな”という注意書きがあった――、エントランス程ではないが、広い空間があった。
まず正面の壁にはオフィシャルネットバトラーのロゴが大きく描かれていて、左手の壁には学校のものより大きな電子黒板
モニタには世界地図が表示されていて、いかにも世界規模の会議に使うテーブルなのだろうと見当が付いた。
こちらの部屋も人の入りはまばらで、渡と熱斗の他にほんの数名のみだった。そもそも置かれている椅子が少なく、初めから出席者が少ないことが見て取れた。他の出席者に挨拶している渡が熱斗を見て手招きしたので、輪に加わった。
視界の端に炎山が映り、熱斗は少し気にしたが、すぐ前を向いた。
「初めまして。貴方が熱斗くんね。私はジェニファー、南アメロッパの代表よ。よろしくね」
「初めまして、ニホンから来た光熱斗です。……えっと?」
黒人の女性・ジェニファーが挨拶する横で、恰幅のいい白人男性が片手で目を覆っていた。アンビリーバボー、と呟いているのが聞こえた。熱斗も、その言葉くらいは知っていた。
「いや、悪い。ちょっとマジで心配になってきたというか、ああ、マジかよ」
もう片方の手のひらを肩の高さで熱斗に向け、言葉が見つからず、その手を力なく下ろして、首を小さく横に振った。それから、すっと背筋を伸ばし、手を大きく1度だけ叩いた。
「OK!」
落ち込んでいるように見えたのが全くの気のせいに思えるような、明るい表情をしていた。
「俺はアメロッパのジョンソン、自由と平和をこよなく愛するネットバトラーさ! で、この会議の数少ない常連でもあるんだが、だからそのー、ニホンからキッズが3人も来るなんてのは初めてでな? ニホンはどうしちまったのかって――」
「ジョンソン!」
「おっと失礼」
ジェニファーに咎められ、ジョンソンが両手を軽く上げた。
「だがマジな話、ゴスペルへの対応から手が離せないって国ばっかりの中、っていうかオレだって全然暇じゃないのに、大事な話があるからって会議の開催が決まったんだぜ。ああ、それで比較的余裕を保ってるらしいってニホンの代表なら、ニホンで実績を上げてる強いネットバトラーが来るのが筋ってもんだろ?」
強いネットバトラー、という部分を聞いて、熱斗は
「オレだってゴスペルのナビとは何回も戦ったさ。だよな、渡」
「エアーマンとクイックマンの話は微妙なところですが、アジーナスクエアのカットマンについてはかなり大事でした。ジョンソンさんやジェニファーさんにも伝わっていたりしませんか?」
「アジーナスクエアのカットマン!」ジョンソンが指を鳴らした。「確かに、解決したのは小学生って話だった……ほお」
ジョンソンにじろじろと見られ、熱斗はたじろいだ。ジェニファーがやめなよと言い、またジョンソンが軽く謝った。
「分かった分かった。OK、会議に呼ばれるだけの実力はあるんだろう。俺が悪かったよ。だが、それでも子供3人ってのは、やっぱ例がなさすぎるぜ。いや、我が国は若き天才ネットバトラーたちを抱えてますよってアピールなのか? ふーむ……」
勝手に始めた話を勝手に打ち切り、ジョンソンは顎に手を添えて考え込み始めた。話が途切れたところで、いつの間にかすぐそこまで来ていた白いドレスの少女が熱斗の前に一歩出た。穏やかな表情だが、深い隈が目についた。
「今のお話は聞きました」
言葉を続ける前にプライドは渡の顔をちらと見たが、渡は目だけを横に逸した。その対応に思う所がないではなかったが、プライドは表情を崩さなかった。
(余計なこと喋んなって事前に
「初めまして、光熱斗、七代渡。わたくしはクリームランドの王女、プライドといいます。オフィシャルネットバトラーを兼任し、国防にも加わっています。よろしくお願いします」
(よろしい)
「はい、本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
渡と熱斗が挨拶を返すと、プライドは会釈して自分の席へ戻っていった。渡は内心、熱斗が妙な勘を働かせていないかとヒヤヒヤしていたが、その場を解散しても熱斗にそんな様子はなかった。
会議が始まるまで何をして時間を潰すかと渡が考え始めた時、全員揃ったのを確認したのか、入り口から正面左端に見える扉が開き、中肉中背の白人の男が現れた。オフィシャルのロゴが入った制服を着ていた。
「皆さんお揃いですね。お好きな席にお掛け下さい」
男はそう言って、ブラックボードの前に立った。
①会議場の秘密
原作では出席者のいずれにも会議場の場所は伏せられているような雰囲気でしたが、しかしアメロッパ城の隠し部屋は以前から会議場として存在していたため、「見つけた」と語っていたジェニファーは、初めて南アメロッパ代表になった(前回までの参加者とは別人)ということと解釈しました。
当地アメロッパ代表のジョンソンはもちろん、同じく当地に在住かつ替えの利かない立場を持つラウルも常連。プライドは微妙ですが、原作で炎山やジェニファーと違いアメロッパ城を調べる描写が事前になかったので、恐らく常連。
②世界地図
そういえばここにもあったなと思って確認したところ、南北アメロッパらしきものが西側にあるのはともかく、ほかは「4」の世界地図とは大きく異なっていて、なんとも言えない気持ちになりました。