セキュリティ絶対突破するマン.EXE   作:エターナルマン.EXE

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 ウオリャ!


46話 御前試合

 オフィシャルでもない小学生が聞かされても活かしようのなさそうな会議は昼で一旦中断され、ブラックボードに”13時再開”と表示された。

 萎れていた熱斗は立ち上がって伸びをして、それから”昼飯食いに行こーぜ”と言って渡を町へ引っ張ろうとしたが、ジュードからストップがかかった。

 

 奥の扉が開き、オフィシャルの制服を着た職員が、ジュードを除いた出席者と同じ数のバスケットと水の入ったグラスをトレーに乗せて出てきた。

 各々が席に着いたまま受け取る中、中身はなんだと座り直して期待していた熱斗だが、確認すると、目に見える程ではないまでも、落胆した。それはさっぱりした見た目でいかにも美味しそうではあったが、サンドイッチだった。

 

(あちゃー。朝は別のにしとけばよかった)

 

 ジュードが出席者全体に食べるよう促し、それで渡その他が特にリアクションもなく――ジョンソンは持ち込んだランチボックスを取り出していたが――手を付け始め、熱斗がワンテンポ遅れてサンドイッチを食べ始めたところで、ジュードは2人の側まで来た。

 

「そのまま食べながら聞いて下さい。会議の再開は13時としますが、光君と七代君にとっては退屈なだけの話になると思います。なので、午後の参加は自由にします。あまり大きな声では言えませんが、今回お二方の実力を見込んで招待したのには、オフィシャルと仲良くして欲しいという意図もあるんです。なので、この機会にアメロッパ旅行を楽しんで貰って大丈夫です」

「そういうことなら、遠慮なく」

 

 口の中のものを水で流し込み、渡が先に返事をした。熱斗も、サンドイッチを持った手を膝の上に立てた。

 

「えー、なんか意外。渡ってこういう話好きそうだし」

「いや正直僕も後半はめちゃくちゃ眠かったですよ。オフィシャルでもないのにそれ聞かされても、みたいな話もありましたし」

「アハハ、すみません」

 

 ジュードは渡の言い草に目くじらを立てず、朗らかに笑った。

 

「そのお詫びというわけではありませんが、ONB本部が発行するアメロッパのパスコードを特別にプレゼントします。市民ネットバトラーライセンスでもアメロッパエリアへの通行だけはできませんからね」

「えっ、そうなの?」

「アメロッパはネット犯罪大国なので、犯罪者が外に出たり、入ってきた人が被害に遭ったりというケースをなるべく減らすため、制限を厳しくしているんです。アメロッパ国内の民間ネットバトル資格者も通常は国内でしか活動できないんですよ」

(知ってた)

 

 へー、と感心する熱斗の横で、渡はグラスに口を付けたまま、テーブルに使い捨てのパスコードカードが2枚置かれるのを横目に見ていた。

 

「じゃあ食べ終わったら挨拶して帰るか」

「あ、待った。ちょっと失礼します」

「?」

 

 熱斗に返した後、断りを入れて席を立った渡を、どうしたのかとジュードが見送った。渡は、既にサンドイッチを食べ終えていた炎山の所まで行き、話しかけた。

 

「伊集院さん、ちょっといいですか」

「七代渡……ベータのオペレータか。何の用だ」

 

 炎山は声をかけられてようやく顔を上げた。

 

 水道局や発電所の電脳世界で対立したことはあったが、ナビとオペレータの名前からすぐ身元が分かった熱斗とは異なり、渡は可能な限りベータのオペレータであることを隠していたため、炎山がそれを知ったのはWWWが壊滅してからのことだった。

 渡が会議に出席しても炎山は自ら関わろうとはしなかったが、心のどこかで、これはチャンスだとも思っていた。炎山にとって、熱斗と渡は、自分とブルースに土を付けた気に入らない相手だった。

 

(なんでわざわざあんなやつなんかに?)

 

 態度が原因で同じく気に入らない相手として覚えている熱斗も、ジュードと共にそのやりとりを見ていた。

 

「お昼ご飯を食べ終わったらネットバトルしてくれませんか」

「フン、いいだろう。以前のようにあしらえるとは思わんことだな」

(あ、普通に受けてくれるんか)

 

 渡はここで相手にされないだろうと予想して、ミリオネアに頼んで仕込みをしていたが、それを使わずに済んで拍子抜けした。

 

「ありがとうございます。じゃあ熱斗くん、お願いしますね」

 

 渡は熱斗に向かって、ひらひらと手を振った。その投げっぷりに、ジュードどころか、炎山さえもが硬直していた。プライドのごく小さなため息は、誰にも聞こえなかった。熱斗は真顔でPETを取り出して、ロックマンと顔を見合わせた。

 

「なあロックマン、オレ渡に何かしたっけ?」

「さ、さあ……?」

(早めに起こしちゃったことかな……)

 

 実のところ、渡はファンとして純粋に熱斗と炎山を戦わせたいだけだったが、ロックマンにそれを知る由はなかった。

 

 

……

 

 

 渡がジュードから許可を取り、ブラックボードの電脳へロックマンとブルースがプラグインした。

 明かりを落とした部屋で、その大きな画面いっぱいに電脳世界の風景が映し出され、ジュード含む出席者たちは観戦者となっていた。ジョンソンがどちらが勝つかの賭けを周囲に提案したが、炎山に横目で睨まれて肩をすくめた。

 

「アンタ、まさか普段から」

「おーっと勘違いするなよジェニファー。俺たちが一番大きく張るのは自分が出る時さ、モチベーションは大事なんだぜ」

「聞くんじゃなかったわ……」

 

 ジェニファーは額を押さえた。

 

「……」

「……」

 

 熱斗と炎山はブラックボードの両脇に立ち、テーブル脇に立つジュードの合図を待っていた。画面上でも、ロックマンとブルースが睨み合っていた。

 

「それでは、光熱斗VS伊集院炎山の試合を始めます。バトルオペレーション、セット! イン!」

 

 ジュードが号令と共に、手を振り上げ、下ろした。

 ロックマンが横に駆け出し、ブルースは左腕を剣に変えて飛び出した。水平に近い跳躍を繰り返してロックマンへ距離を詰め、バスターをシールドでガードした。

 この時点ではまだ剣の間合いに達していないが、シールドが消えると同時に剣を振り抜いた。

 

「そこだ!」

 

 熱斗は目を慣らすまでもなく、剣を振る動作が見えていた。それ故に斬撃が届かないと確信し、ラビリング3での反撃に踏み切った。見えていたのはロックマンも同じで、ブルースに狙いをつけ続けた。

 

「っ!?」

 

 そうして緑色の電撃輪を発射したロックマンが見たのは、それとすれ違ってやって来る、飛ぶ斬撃(ソニックブーム)だった。弾速はラビリングの方が速いが、ブルースとの距離は剣では届かないという程度で近く、この2つの飛び道具が互いに届くまでの時間はそう変わらなかった。

 熱斗の狙い通りガードの間に合わなかったブルースはラビリングの直撃で麻痺し、ロックマンもソニックブームを受けて2歩仰け反った。ダメージはロックマンの方が大きかった。

 

「ロックマン――」

「ブルース――」

 

「――動け!」

 

 攻撃を仕掛け、命中したのも同時であれば、熱斗と炎山が叫んだのも同時であり、ロックマンが衝撃から、ブルースが麻痺から立ち直ったのも同時だった。

 

 ここまでの打ち合いの時点で、多くの観戦者が息を呑んでいた。

 

イツァウェサン(こいつぁスゲー)……」

 

 無声音で感嘆の呟きを漏らすジョンソンの手の中で、自家製のチリドッグが冷め始めていた。

 ジェニファーは自分の膝に爪を立て、ラウルは腕を組んだまま表情も含めて微動だにせず、渡は内心気楽に眺めつつも、両手の指を小さく動かしていた。プライドの様子は会議中のそれとそう変わらなかった。

 

 そのようにどんな会議の時よりも注目されているブラックボードの中で、ブルースが斜め前に一歩跳び、ロックバスターの砲口がその姿を追った。赤いシールドに身を隠したブルースが、連射されるバスターを弾きながら前後左右に動き回った。

 

 斬撃かソニックブームかを読ませない機動から大きく一歩下がった。互いがチップデータの受信を知覚した。ブルースが、まだ熱斗やロックマンでさえはっきりとは分からない僅かな溜めを、足元に作った。

 2人はその僅かな一瞬で、真っ直ぐ前に跳ぶための予備動作だと予想した。だから真っ直ぐに迎撃すると決め、そしてその予想は的中していた。バスターが青い扇風機に変化し、その羽が高速回転を始めた。ブルースが跳んだ。

 

「来た――っ!?」

 

 跳躍の途中でブルースが消え、ロックマンが発生させた木属性の竜巻(コガラシ)は数歩先でヒュウと音を立てるに留まった。

 

(消えた!? もっと速くなったのか!?)

 

 2人がそう思考する間に、ブルースは到達、いや出現した。ただ跳んだはずの姿勢は攻撃の準備を完了していて、赤い刃がロックマンの胴を横薙ぎした。瞬間移動、即時攻撃。跳躍と合算することで射程を伸ばしたフミコミザンの一撃だった。

 

 その威力にロックマンが再び怯むという、コンマ秒先の予想は覆された。今度は、攻撃を受けたロックマンの姿がブルースの視界から消えた。

 

「ブルース、上だ!」

 

 ただ、ブルース以外には見えていた。ロックマンが上方へ瞬間移動し、その手元にチップデータによる手裏剣の生成が起きていた。

 一抱えほどの大きさの手裏剣を3つ、真下のブルースへ投擲し、炎山の呼びかけを受けたブルースの反応はシールドでの防御に間に合わなかった。

 

「ぐっ!?」

 

 1枚目の手裏剣が右腕に突き刺さり、上半身がブレた。

 

「っ! おお……!」

 

 見上げたブルースへ2枚3枚と投げ込まれ、ブルースは呻き、後ずさり、その片膝が折れかけた。

 

変わり身の罠(カワリミ)……! こんなチップまで持っていたのか!)

 

 被弾を阻止できなかった炎山が舌打ちした。こめかみに汗が滲み始めていた。熱斗も、胸や顔がかっと熱くなるのを感じていた。

 

「今だ!」

「これなら!」

 

 着地したロックマンの腕が扇風機に変わった。後ろ跳びしながら羽を回転させると、発生したコガラシがブルースに巻き付いた。

 

「ぐあああああ!」

「ブルース、立て! まだ追撃が来る! ガードしろ、ブルース!」

「させるもんか! いっけーっ!」

 

 ロックマンが大きく右足を下げ、姿を消し――

 

「――はああっ!」

 

 現れると同時に、青い刃でブルースの胴を薙ぎ払った。今度は完全に膝を突かせた。ロックマンはその目の前で回復(リカバリー)チップを使ってダメージを回復し、見下ろす形でバスターを構え、チャージし始めた。

 

 カワリミとコガラシのクリーンヒット、そしてフミコミザンのお返しで、形勢は決まりつつあった。

 

「……炎山さま。オレの――」

「オレの負けです」

 

 ブルースに最後まで言わせず、炎山がジュードに向かって降参宣言をした。また、確認するように見返してきたジュードに向かって頷いた。

 

「勝者、光熱斗!」

 

 ロックマンがバスターを腕に戻し、ため息を吐きながら、前腕で額を拭う動作をした。熱斗がブラックボード前からこちらに向かってサムズアップしているのに気付くと、片腕を高めに上げてのガッツポーズと、瓜二つの笑顔で応えた。

 

 ジョンソンを皮切りに拍手が広がり、少ない出席者ではありえない数の音が広い部屋を満たした。

 いつの間にか、オフィシャル職員のギャラリーが増えていたのだった。




 ちょっと前の前書きで原作6話のボスを3体と書きましたが、ブルースも強制なので4体ですね……
 やっぱりおかしい。

①試合開始の掛け声
 確認したところ、「3」のN1GPでは「イン」まで司会、「4」の各大会では「イン」のみナビでした。後出し側を優先するつもりでいたのですが、選手本人が開始タイミングを取るのはおかしいので、「2」の方を採用しました。

②今回の初手
内訳:
コガラシ
コガラシ
フミコミザン
ラビリング3
カワリミ
リカバリー300
バッドスパイス

 フォルダ内訳はサンダーマン戦と同じです。
 クサムラステージがあってもバッドスパイスが効きづらい相手なので、1枚しかないカワリミを引けたことも含め今回は運が味方していました。
 ブルース相手ならもうちょっと苦戦しても、とも思いましたが、引きがよかったのでこうなりました。

 もう使用予定がないので公開します。

構成:
フミコミザン×5
バッドスパイス3×5
ラビリング3×5
コガラシ×5
リモローソク3×1
エリアスチール×1
クサムラステージ×5
リカバリー(300)×2
カワリミ×1
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