セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
ようやく二日目夜です。帰宅が近づいて来ました。
拍手といくらかの歓声に熱斗は一瞬だけ戸惑ったが、その一瞬の間に、オフィシャル職員たちの一部が熱斗と炎山をわっと取り囲んだ。彼らは肩や背中を叩いて称賛したり、ネットバトルに関する話を熱心に求めたりしていた。
賑やかな部屋で、元々座っていた者たちはやや窮屈だったが、落ち着いたもので、ジョンソンが手にしたチリドッグが冷めてしまったことに眉をひそめた程度のものだった。
ジュードや、何事かと奥から出てきた別のオフィシャル職員たちによって、この騒ぎが収まるまでに、10分近い時間を要した。
落ち着いてから、炎山は自分から熱斗に声をかけに行った。
「光。オレはお前の実力を知った気でいたが、認識を改めることにする」
「いきなり何だよ?」
熱斗はもみくちゃにされてズレた額のバンダナを調節し直しながら、顔だけ炎山の方に向けて答えた。
「次は負けん、ということだ」
言うだけ言って、炎山は自分の席に戻っていった。それと入れ替わりに、渡が来た。
「すみません、流石にここまでになるとは」
渡は、少なくとも申し訳無さそうな顔はしていなかった。
「そーゆー問題じゃないだろ」
「でも、楽しかったでしょう?」
「そりゃ……まあな」
納得いかないが、反論もできない。その決まりきらない心情が、そのまま熱斗の表情に出ていた。
「じゃ、行きましょうか」
「ああ」
いつものスタイルがバッチリ決まったところで、熱斗と渡は会議場を後にすることにした。入り口の扉の前まで行き、出席者たちに向かって振り返った。
「午前だけの出席になりましたが、いい経験になったと思います。ありがとうございました」
「えっと、オレも来てよかったです。ありがとうございました!」
熱斗は特にコメントが思いつかなかったが、それを気にするような者はいなかった。
「いつかウチのオフィスにも来いよ!」
挨拶の終わりに、ジョンソンが手をメガホンにして叫び、それから笑った。ジェニファーは手を振って見送り、プライドも控え目にそれに倣った。
その後2人は、秋原町の親友たちが熱斗に頼んでいた土産物を探し、熱斗の頼みでアメロッパが誇るサッカースタジアムの内部を見て回った。
デカオから細かい指定のあったアニメのロボットの模型以外については、渡(と、そこから下請けされたみゆき)のセンスに委ねられ、メイルにはシンプルな金色の指輪、やいとには翡翠のブローチを贈ることになった。
指輪は似たようなものが土産物屋に沢山あり、恋人へのプレゼントにおすすめのものが欲しいと店員に言って渡が選んだのだが、その時熱斗には聞こえないように話していた。
スタジアムでは熱斗が”昼が軽いサンドイッチでよかった”と言いながら、渡の金を使って売店であれこれ食べ物を買い、運良く当日券の残っていた国内チーム同士の試合を観戦しながら、それを2人で分け合って食べた。
熱斗は観るよりやる派らしく、どちらのチームにも肩入れせず、スタジアムの雰囲気を味わったり、プロの好プレーに目を輝かせたりしていた。
気がつけば日が傾き、遅い時間になっていた。用事があるのではなかったかと、今になって思い出した熱斗が尋ねたが、大したことではないから大丈夫だと、渡が答えた。
事実、ラウルにああ言ったのはギャラリーを寄せないためで、実際は狩りでもして時間を潰すつもりだった。
冷めた余り物を大きめの紙箱2つにまとめて持って帰り、それが夕食ということになった。
また明日と言って互いに部屋へ戻った後、渡はラウルと連絡を取った。危ないからということで、ラウルから迎えに来ることになった。
……
夏真っ盛りではあるが、ここアメロッパは湿度が低い。昼でさえ日が差さない裏通りには、冷たい風が吹いていた。半袖で出てきた渡は、腕に鳥肌が立つのを感じ、肩を上げ下ろしした。
忘れ物のようにも見える路上のラジカセには、2つのPETがプラグインしていた。片方を持つラウルが、渡を見下ろしていた。もう片方はラジカセに立て掛けられ、さらにそこからコードが伸びた先にあるコントローラーを、渡は握っていた。
(β版ネットナビ……なぜそんなものを使っているかは分からないが、見世物になりたくなかったということだろうか)
ラウルは、スティックを倒してベータの挙動を確認する渡の様子を見ていた。10秒もしない内に、渡が振り向いた。
「準備OKです。合図はこちらで決めても?」
「ああ、構わない」
「じゃあ……これで」
渡は、スタジアムの物販で買った記念コインを取り出した。ラウルがそれを見て頷いたのを確認し、コインを乗せた親指を上に弾いた。軽い金属音がして、コインは跡切れ跡切れに光を反射しながら打ち上がった。
それから、静かな路地裏に、コインが落ちる音がした。
「サンダーマン!」
ラウルの号令、コインが転がる音、スティックやボタンの控え目な音が同時に鳴った。サンダーマンが後退し、攻防一体の黒雲たちを差し向けた。
ベータは真っ直ぐサンダーマンに向かって駆け、チャージショットを数発命中させつつ、自身も黒雲の隙間をすり抜けた。
「狙いに迷いがない……決め打ってきたか、だが――」
ベータの背後でそれらが消え、前方に再び配置された。ベータの眼前に広がる黒雲全てが、サンダースパークを充填した。
「これを忘れてはいないだろうな! 撃て!」
重なって何倍にも大きさになったサンダースパークの発射音、そして一斉射されたそれらを見ても、渡に動揺はなかった。ベータは走るコースをジグザグに曲げて、前進しながら全てを躱し切った。
「もちろんです。この通り」
(勝ったかな)
正面のベータを囲い込むようにして、両脇の黒雲が動き出した。だがベータは退くでも曲がるでもなく、密集した黒雲にそのまま突っ込んだ。当然包まれ、ベータの姿は見えなくなった。接触により黒雲全てが放電した。
「追い打ちをかけろ、サンダーボルト!」
アップグレードしていないという事情を知らないラウルも、タダでは済むまいと思ったが、油断なく追撃の指示を出した。それに従ってサンダーマンが両腕を上げ――黒雲の中から伸びた光の刃が、肩から脇腹を斬りつけた。
何が起こったのか、次にどうするかを考えている暇はなかった。2度、3度、4度と斬撃は連続し、4度目でサンダーマンはデリート判定を受けた。黒雲が消え、ベータの姿が露わになった。無傷だった。
「移動したわけではない……どういうことだ?」
「
「すると、先程の攻撃は
(ほんまやで。まあ投入してるんやけど)
ファイターソード系バトルチップ……ファイターソード、ナイトソード、パラディンソードの三種は、高性能かつシンプルで癖がないため、高級品ながら支持を受けていた。
しかしネットワークのアップグレード後、新たなネットワークで使用可能なものの作り方がわからない状態が続いていた。
数多くのバトルチップ研究・開発者が新世代ファイターソードを求めたが、未だ安定生産には漕ぎ着けていなかった。
彼らの努力の副産物として偶然できた僅か数十枚だけが、費用を取り戻すためなどの理由でインターネット上に流れており、入手には見つけ出すだけの手間と引き換えるだけの財力が多大に必要となる状況だった。
ウイルスバスティングが最大の収入源である渡にとっては無視できない存在であり、いち早く入手していた。いずれも決して安い買い物ではなかったが、とっくに元を取っていた。
「私たちのことを知っていたとはいえ、見事な戦術の組み立てと勇気、そして技術だ。熱斗とも親しいようだし、きっと切磋琢磨しているのだろうな」
「そうですね。僕がこれだけ強いのも光くんとロックマンのおかげです」
(かつて経験を積み重ねたプレイヤーキャラとして、って意味やけどな)
「熱斗、炎山、そして渡。お前たちのような有望なネットバトラーが、ゴスペルから人々を守るべくニホンでその力を振るってくれるのなら、これほど頼もしいことはない」
ラウルが右手を差し出した。そういえば自分は握手していないのだったか、と渡は思った。
「会議から改めてになるが、志を同じくする者として、よろしく頼む」
「……」
渡は自分の手を出す前に、ラウルの顔を見上げた。それは、PETの画面のバックライトに照らされるようにして、そこにあった。
ゲームのキャラクターが実際にそこにいて、自分を直に見ている感覚。一方的に知っている誰かに出会い、一対一で対面するということがしばらくなかったため、渡がそれを感じるのは久しぶりのことだった。
渡は2度ほどまばたきし、右手を強く握り込んでから開いてから、握手に応じた。ひと回り大きいその手の熱さが、目の前に立つラウルが人間であることを伝えていた。
①今回の渡の使用フォルダ
内訳:
バリアブルソード×5
ファイターソード×5
ナイトソード×5
パラディンソード×5
バリア×5
インビジブル3×5
初手:
インビジブル3
ファイターソード
ファイターソード
パラディンソード
パラディンソード
ソニックブームで黒雲を貫通する流れが来ると思ったんですが、そんなことはありませんでした。