セキュリティ絶対突破するマン.EXE   作:エターナルマン.EXE

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48話 電磁戦

 人知れずネットバトルが行われた翌日。

 

 王城を始めとしたアメロッパの町並みは見納め。バスの中、それを惜しむように窓の外を向いたままだった熱斗は、渡に促されてアメロッパ空港前に降り立った。その後もアメロッパの景色をなんとなく眺めた後、ようやく空港へ足を向けた。

 

 行きも別なら、帰りも別。渡と熱斗が持つチケットはそれぞれアメロッパ時間で午前13時過ぎのものだが、同一の便ではなかった。

 搭乗口前にある売店で買ったサンドイッチをさっさ胃に詰め込んだ熱斗は、待合席に座ってぼうっとしている渡に話しかけた。

 

「疲れたか?」

「というか、これから疲れるんじゃないでしょうかね」

 

 きちんと熱斗の顔を見て、渡が返した。瞼は上がっており、眠気は見て取れないが、爽やかな旅立ちという気分ではないだろうことが、平坦な表情と声から伝わった。

 

「もしかして飛行機嫌いとか? 聞いたことなかったけど」

「椅子やベッドに長時間押し込められるのは嫌いな方ですね。いや、大嫌いという程でもないんですが、なにしろ長いフライトですから」

「寝ればいいじゃん」

「椅子で寝づらいたちなんです」

 

 渡は片手で肩をすくめ、サンドイッチを手に持っていることを思い出して、一口食べた。

 

「そういや、ラウルとのネットバトルは済んだんだっけ?」

「勝ちました。隙は見せませんよ」

 

 渡が空いた方の手でサムズアップしてみせると、熱斗は落胆混じりに苦笑した。

 

「ちぇっ、やっぱりダメか」

「それはラウルさんに失礼でしょう」

「いーじゃんこれくらい」

 

 それから2人はロックマンも交えて、短い旅をざっくりと振り返った。

 突然ONBから送られたメールに始まり、渡が振り回すような形で裏通りや宝石店を巡って異国のネットバトラーと対決したこと、本場でのサッカー観戦や市場での土産選びといった観光を楽しんだこと。

 そして、ONB本部たる王城の隠し部屋で、御前試合がごとくギャラリーつきで、炎山とのネットバトルを行ったこと。

 

 話をするにつれ、熱斗の中に寂しさが募った。ここから見えるのはせいぜい滑走路くらいのものであるにも拘らず、ガラス張りの壁へ目を向けた。

 無言の時間が長くならないうちに、熱斗の乗る便の搭乗受付開始のアナウンスを聞いて幾人かの客が立ち上がった。

 

「もう時間ですね」

 

 飛行機に乗らなければと意識を引き戻された熱斗だったが、ふと、ホテルの部屋にでも何かを置いてきてしまっているかのように、こめかみに指を当てた。

 

「あれ、なんか忘れてるような」

「気のせいでしょう。パスポートだって忘れようがありませんし、部屋の中は二人で確認したじゃないですか」

「うーん……まいっか。じゃ、ニホンで」

「ええ、ニホンで」

 

 熱斗が小さく手を上げ、渡が返した。熱斗はそのまま搭乗口へ向かい、短い列に並び、すぐに飛行機へ乗り込んだ。

 

 搭乗口へ視線を向けていた渡は、熱斗の何人か前に、右半分が赤・左半分が黒の奇抜なスーツを見ていた。

 それは巨大財閥・ガウスコンツェルンの会長にしてゴスペル幹部、ガウス・マグネッツ本人であり、これから熱斗を含む乗員を皆殺しにする予定の男だった。

 

 渡はシーッと歯の間から息を吸い、頭を横に振った。

 

(こればっかりはもうどうもならん。かけた保険が機能することを祈るしかないな)

 

 

……

 

 

 飛び立った機は、一見して何の変哲もない旅客機だが、同一のモデルが存在しないワンオフ仕様。座席数が少なくエコノミー座席でもゆったり過ごせるが、反面マニアが記念に乗るのにも苦労を強いられるという代物だった。

 しかし、それ以上に特異なのは、現状で機体と同じく世界に1つしかないプログラム、"ハイパワープログラム"が組み込まれていること。

 

 エネルギーのロスや計算上の情報の損失を抑えながら出力を高めることを可能にするこのプログラムは、ゴスペルがその目的のために必要としているものであった。

 熱斗の動向を掴んだガウスは、組織の邪魔者を排除すると同時に計画を進行させる一石二鳥の手を打つことにした。

 

 離陸からおよそ9時間後。

 旅客機制御コンピュータの電脳世界への攻撃によるハイジャック計画が、既に開始されていた。

 

「高度が上がってきたぞ!」

 

 コクピットで、機長の男が前を向いたまま叫んだ。スロットルレバーを離し、操縦桿を握った。

 

「墜落の危機は、免れたか……」

 

 隣に立ち、PETを握る熱斗が呟いた。

 だが、両者の表情は険しいままであった。

 

 右翼、尾翼、機内気圧、そしてスロットル。機を撃墜せしめんとする、航行機能への致命的な攻撃は、立て続けに、既に4度行われていた。その度に、熱斗とロックマンが機能のバグを取り除いてきたのだった。

 

「機長、あと5分でデンサン空港です」

「よし、着陸態勢に入れ!!」

 

 緊迫した副操縦士と機長の会話に、熱斗はフロントガラスの外を見た。確かに、陸地が見えていた。

 

 最初の不調……もとい攻撃より、既に2時間以上が経過していた。

 コクピットにいる三人は、空調の効いた部屋で全身から嫌な汗をかき、それより後ろでは、自分を含めて乗員を落ち着かせようと、女性キャビンアテンダントがおろおろ歩き回っていた。

 

「まだ、何が起こるかわからん! 油断するなよ!!」

「ラジャー!」

 

 副操縦士の男が、ランディングギアレバーを掴み……その手が止まった。

 

「……機長……」

「どうした!?」

 

 計器を再び確認し、副操縦士が声を絞り出す。

 

「ギア制御プログラムに異常発生! ギアが出ません……」

「何!?」

「ギアって!?」

「タイヤのことだ! ギアが出ないとなると、胴体着陸するしかない」

「胴体着陸!?」

 

 説明されて熱斗にもなんとなく想像がついたが、席に着いた2人の心中には、より深刻な破壊と死のイメージがのしかかっていた。副操縦士の唇が震えた。

 

「つまり、タイヤを出さずに機体を直接地面に下ろすんだよ……」

「失敗すれば……大惨事だ……」

「ロックマン! ギア制御プログラムに行ってくれ! このままじゃ、大変なことになる!」

 

 どのように、などと考えている暇などないことだけは、熱斗にも直感的に理解できた。

 

「わかった! すぐに行くよ!」

 

 ロックマンは、修正を終えたスロットル制御プログラムのある小部屋から離れ、急流のようにナビやウイルスを押し流す磁力がそこかしこで発生している通路へと飛び出した。

 

「熱斗くん、チップデータを!」

 

 進路上にウイルスの群れを見るや、ロックマンが脚を止めぬまま熱斗を呼ぶ。

 トカゲ型ウイルス・マグニッカーは磁力弾(マグネットボム)を放つべくコイル状の角にエネルギーを溜め、電流を纏う衛星型ウイルス・ユラユラはロックマンに向かって蛇行突撃を開始し、円盤型ウイルス・UFOサニーは幾分弾速の遅いラビリング――UFOリングを発射した。

 

「クサムラステージ! バッドスパイス!」

 

 熱斗のコールとともにロックマンの足元から広がりゆく草原、そしてその上に噴き出す胞子が、ウイルス全てを飲み込んで分解した。残るUFOリングをロックマンはワンステップでかわし、通路を走る。

 

 電気属性のウイルスが多いこの飛行機の電脳では、渡から借りて返しそびれたままの対サンダーマンフォルダが、猛威を振るっていた。

 属性上の弱点を突かれるリスクなど機能せず、アクアカスタムスタイルの手数の多さはフォルダの効きと合わさって、このように、ロックマンに触れることさえ許していなかった。

 

(ごめん、渡。後少しだけ、力借りる!)

 

 ダンジョンと化した電脳世界を磁力の流れに乗ってあちらこちらへ遠回りし、飛行機の電脳の中心へ向かったロックマンは、ランディングギア制御プログラムの前に立ちはだかる、赤いネットナビを見つけた。

 そのナビは背が高いだけでなく、両腕には赤い金属の輪が巻かれ、中心が胸を鎧のように覆いつつ両端が背中に向かって伸びるU字磁石が、その体の大きさ・重さを強調していた。

 

「お前が、この事件の犯人か!?」

「まあ、そんなところだな」

 

 ロックマンより一回りも二回りも大きい、紅白のナビは、ロックマンが来たことに驚くでもなく、敵意を剥き出しにするでもなく、ただ質問されたからという風に、堂々と答えた。

 

「なぜ、こんなことをする!」

「冥土の土産に教えてやろう。この飛行機に搭載された、"ハイパワープログラム"をいただきに来たのさ」

「フフフ……もう、既にいただいた後だがね。これで、"究極のナビ"の完成は、確実だ」

 

 熱斗がナビの声に続いてPET越しに聞いた敵オペレータの声は、安定飛行中に機内を探検している時に話した、いかにも人が良さそうで、背筋の真っ直ぐな、初老の男の声だった。

 

「ガウスコンツェルンの会長さん!? アンタみたいな人が、なんで、こんなことをするんだ!」

「いいだろう……教えてやろうじゃないか」

 

 ガウスは語った。

 幼くして家族というものを失い、独りになったこと。誰の助けも得られず、人と社会への憎しみを募らせ、それを原動力に必死で働いて成り上がったこと。

 社会を破壊してリセットすべきと考えていたところでゴスペルにスカウトされ、"究極のナビ"開発プロジェクトのリーダーとなったこと。"究極のナビ"によるネットワーク社会壊滅をもって、ガウスの報復が完了すること。

 

 いくら語っても語り足りぬとばかりにこんこんと語るガウスの様子は、吐き出される言葉の源流には、確かに憎しみが湖のようにでも溜まっているのだろうと、熱斗とロックマンに思わせた。

 

 初老の男の半生は、国語や道徳の教科書で見るような悲惨なものだったが、熱斗には、同情しようという気持ちは湧いてこなかった。

 

 幾度も理不尽に見舞われ、命の危険にさえ晒されてなお、諦めずに状況に立ち向かってきた熱斗は、ガウスが持たない家族や友の存在を支えとしていた。

 諦めない気力の持ち主であることは共通していながら、熱斗は、自分とガウスははっきり違うのだと、今ここで相容れないであろうと、意識より深い心のどこかで、そう思った。

 

 その無意識が、PETを握る手に力を込めさせた。

 

「そんなことは、させないぜ! ロックマン、行くぜ!!」

「うん!!」

 

 今、熱斗とロックマンが、心をひとつにした。




 この作品のことを覚えておられる方がどれだけいらっしゃるのか。
 とりあえず、アンケートはありません。

 お久しぶりです。
 ハーメルンのUIを忘れ手探りで管理画面を動かすようにはなっても、作品のことを忘れたことは片時としてありません。
 3日に2回くらいはラストの展開を妄想してはネタを研いでいました。……ホントです。

 やや唐突な感じでマグネットマン戦が始まりましたが、渡抜きで垂れ流すには飛行機内部の話はあまりに長すぎるため、カットしました。

 ガウスの自分語りも地の文で要約して切り詰めましたが、やはりこれも長すぎるためでした。500字以上の長台詞とかラスボスでもちょっとどうかと思うくらいなので……


~今回の考証(?)~
・機内にて到着予定時刻を「日付変更線を跨いで7時45分」とするアナウンスがある
・午前5時を伝えるアナウンスからマグネットマン戦少し前程度のタイミングに、副操縦士が「あと5ふんでデンサンくうこうです」と発言している
→出発は13時過ぎ、飛行機の電脳での活動時間は2時間オーバー(!?)

・マグネットマン戦前のガウスの台詞には熱斗以外誰も反応していないが、マグネットマン戦後は他の乗客が反応している
→乗客は軽度のパニック状態であり、ガウスの台詞は聞こえていなかった

・ハイパワープログラムは世界に1つしかない
・この機に乗るのが念願だったという飛行機マニアが上記のことをおぼろげに知っている
→この機自体も世界に1つ

・ハイパワープログラムの具体的な効能が語られていない
→ゴスペルの用途や欠けた結果から解釈
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