セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
少し遡り、熱斗が透を発見する前。
浄水プログラムに続くリンクの前、電脳世界の通路で、ベータ……渡は時を待っていた。
(待ってるだけっつーのも緊張するもんやな。トイレ行かれへんし
そして、その時は来た。赤い剣士のネットナビ・ブルースが現れた。渡のコントローラを握る手がじわりと汗ばむ。
「またキサマか。先程の青いナビはいないようだが、なぜここにいる?」
「お邪魔しに来ました」
「……邪魔するものはデリートする、と言ったはずだが」
炎山の脅しにも、ベータは反応しない……というか、そもそも置物のように身じろぎ一つしない。ネットナビといえど、生気がしないと感じられるほどだった。
「気味の悪いヤツめ……ならば、望み通りにしてやる! やれ!」
「ハッ!」
高速の踏み込みから、右腕の剣による斬撃。しかし、緑十字が描かれた黄色い半球状の障壁が、その剣を弾き返す。
「"メットガード"だと? 1度使えばなくなる、そんな低レベルな守りで凌げるものか!」
「事前に申告しておきますと、このチップフォルダ、メットガードが10枚ございましてね」
「ぬかせ!」
(大真面目やぞ。
踏み込む、斬る。回り込む、斬る。跳ぶ、斬る。ブルースのそれらの動作は、あまりに若い炎山をオフィシャルネットバトラーに押し上げるに足るスピードを持つ。
対してベータはそれを回避しない。渡が目で追えさえすれば、向きを変えてメットガードを再使用すれば止められる。心の中で悪態をつきながら、一撃一撃を確実に見切っていく……が。
「これで5回! チップ補充までにカタを着ける!」
バトルチップは、廉価なものでもウイルス対策として非常に効果が高い。一方で、1枚使用するだけでも、そのナビに見えない負担がかかってしまう劇物でもある。
そのためチップデータの送信にはセーフティがあり、ナビへの負担が一定ラインに達した段階で、再送信可能になるまでのクールタイムが発生する。
ベータは今、負担計算ルールの1つ、"バトルチップ5枚を1度に送信した場合、他の条件を無視してクールタイムが発生する"に抵触していた。
「確かに犯人はこの奥にいますが、WWWに人質を取られてのことなんですよ。せめて、救出まで待っていただけませんか?」
「こうしている間にもデンサンシティ全体でどれだけの市民が苦しんでいると思っている!」
炎山が言葉を切り捨て、ブルースもベータを斬り捨てんと斬撃を放つ。
ここへ来て、ベータが回避行動を取った。
「躱しただと!?」
「ブルース、手を休めるな!」
「ハ!」
ブルースのスピードに食らいつくベータ。全てを回避できるわけではなく、刃が腕をかすめ、デリートまでの猶予たる
「フン、脆いな!」
(一発がめっちゃ痛い! やっぱこの時点でV1相当なんやな、今のロックマンには相手させられんわ。でも――間に
「カタは着きませんでしたね。次はこれです」
通路上に、石でできた
キューブは、戦闘向けにカスタマイズされたネットナビなら概ね一息で飛び越えられる程度のサイズだが、たちまち見通しが利かなくなった。
いくら足が速くとも、敵を捕捉できなくては素早い切り込みは不可能となる。
「今度は目くらましか! きさま、戦うつもりがあるのか!?」
「いいえ、お邪魔しに来ました」
「……! 時間稼ぎか!」
「最初からそう申し上げておりますが」
炎山が次の手を考え始めたところで、渡のPETがオート電話の受信を通知する。
(よし、熱斗やな!)
「はい、こちらベータ」
「えっ? あ、そっか……」
渡ではなく、普段話さないベータの声がし、一瞬戸惑うも、口止めメールの内容を思い出す熱斗。
「えーと、ベータ! 今オフィシャルの人が来て、氷川は助けたけど、そっちは!?」
「だそうですよ、オフィシャルネットバトラーさん」
「チッ……だが、オフィシャルでないお前に捜査権限はない。オート電話を繋げたまま、人質の声を伝える役としてブルースに同行してもらう」
「わかりました。そういうわけで、こちらもクリアです」
バトルチップの効果が解除され、キューブが消える。
(突然斬られたりせんやろな?)
渡も内心警戒しつつ、ベータをブルースに続けてリンクで飛ばせた。
リンクの先では、未だにアイスマンがリンクを見張っていた。
一度来たナビであるベータ、あからさまに戦闘向けナビであるブルースを見て、警戒の色を強くする。
「ここなら氷川さんまで通じます。熱斗くん、お願いします」
「ああ。氷川」
「お父さん! ボクは無事だよ! もうWWWに従わなくていいんだ!」
「透!?」
オート電話を通して届いた透の声に、氷川はハッとする。
「本当に無事なのか!?」
「うん! 隣のクラスの光って子と、オフィシャルの人に助けてもらったんだ! だからもう大丈夫!」
「と、透……くっ、よかった……本当に……」
「よ、よかったです……」
安堵のため息をつく氷川と、その場にへたり込むアイスマン。
「……息子が助かって安心しているところ悪いが、水道局のネットワークを復旧して貰おうか」
「あ、ああ。そうだね。アイスマンよ!」
「はいです!」
よいしょと立ち上がり、アイスマンが大きく息を吸うと、浄水プログラムに張り付いた氷が消えていき、やがて正常に動作し始めた。
「後は吸水ポンプのプログラムを回復させれば、水道は元に戻る」
「ならば、そのナビをそこまでブルースに同行させてもらう。……おい、ベータとか言ったか」
「なんでしょう」
「次があると思わないことだ。ブルース、行け」
「ハッ!」
(熱斗の経験値事情も込みで、実際もうお前とは戦いたくないわ)
「透を助けてくれて、本当にありがとう。すまないが、お礼は後日改めてさせてもらうよ」
アイスマンの後ろにぴったりついて歩かせ、ブルースもエリア外へ去っていく。オペレータである氷川や炎山の声も聞こえなくなった。
「あー、ちょっといいかな。オート電話切らないでね」
完全に終わった雰囲気の中、車の鍵を空けたオフィシャルの男が言葉を発する。
「なんでしょうか?」
「こっちの……熱斗くんだっけ?彼はそばにいるからいいんだけどさ、きみの名前を聞いてないよね。オフィシャルとしてさ、事件にちょこっとでも関わった人は記録して報告を上げなきゃいけないんだよね」
「ベータです」
「いや、ナビのきみじゃなくて。ずっと黙ってるけど、いるんでしょ? オペレータの人」
(アホ抜かせ、吐くわけあらへんやろ)
「熱斗くん、ロックマン、僕のオペレータのことは一切秘密ですよ。信じてますからね」
「え!?」
……
一方、秋原町。
「熱斗くん、ロックマン、僕のオペレータのことは一切秘密ですよ。信じてますからね」
「え!?」
ベータ……渡は言うだけ言って、オート電話を切ってしまった。
「どうなってるんだ?」
「こりゃ当たりかあ。ま、ダメでしたってことでいいかな。熱斗くんも疲れてるし、嫌でしょ、しつこく取り調べとか」
「あの、当たりって何のことですか?」
「ん、彼から聞いてない? 僕ら、手回しされて氷川透くんを探しに来たんだけど」
「……あー!」
「そっか、あの時の通報!」
熱斗とロックマンのリアクションに、男は頷く。
「よかった、知ってるみたいだね。でもね、それがヘンな話だったんだ」
「ヘンって、誘拐の通報が?」
「んー、その点だと、僕ら下っ端は誰からの通報だったのか教えてもらえてないのがヘンなんだよね。匿名通報なら匿名通報って言われるはずだから、そうではなくて、上が隠してるみたいなんだ。代理通報ってことはわかってるんだけど、大元だけじゃなくて、実際に通報したのが誰かもわかんないんだよね」
(渡のヤツ、一体誰に頼んだんだ!?)
「ただ、実際に通報した中継役の人から指示があったらしくてさ。その大元の、代理通報を頼んだ誰かさんの身柄を押さえて欲しいってことでさ。その手がかりが、ベータってネットナビなわけ」
「え、ええー……」
予想外の方向で話が大きくなっていることを知り、熱斗はただただ驚き呆れる。
「ま、そういうことで。僕は、きみに話すつもりがないなら追及しないし、きみのことは、同じ学校の生徒が偶然被害者を発見したってことにしとくから」
「いいんですか?」
「子供の気持ちがわからない大人って、僕嫌いなんだ。じゃあ、透くん。悪いけど、センターまで来てもらっていいかな」
「はい、わかりました」
「ありがとう。熱斗くんも、今日はお手柄だったね。帰ったらゆっくり休むんだよ」
「熱斗くん、また学校でね」
「ああ、またな!」
軽く手を振って、男は透を伴って去っていった。
熱斗はそれを見送ってから、PETの中のロックマンと顔を突き合わせる。
「ねえ熱斗くん、今の話……」
「渡にはちゃんと事情を聞いた方がいいかもな。でも、今はそんなことより……」
「そんなことより?」
「水、いつ出るかなぁ……」
「もー、熱斗くんたら!」
喉が渇き始めた熱斗もまた、家路につくのだった。
炎山とブルースは本当にどっちが喋ってるのか区別できない。
比較的主体性があるのが炎山です。
あと「きさま」と「キサマ」の違いも原作から。