セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
旅客機ハイジャック事件より数日後、ニホンオフィシャルセンターの会議室。
2人の科学者が話し込んでいると、突如として部屋そのものを含めたありとあらゆるものが揺れ始めた。
卓上のカップは飲み口からコーヒーを吐き出し、少し遠くのロッカーも、中で誰かが暴れているかのように、バンバンとやかましく騒いだ。2人の男たちも、襲い来た震動によろめいた。
「地震だ!! デカいぞ!」
白衣を着た色白の男が、1歩2歩とよろけながら、声を上ずらせた。もう一人は連日の激務による疲れからか踏みとどまれず、床の上に転がった。
揺れは4、5秒ほどでピークを過ぎて収まっていき、ほどなくして静かになった。
「大丈夫か?」
転倒した男、光祐一朗が、頭を抑えながらも、話し相手の顔色を確かめながら言った。取り乱したのは一瞬のことだったので、白衣の男は、平気だと小さく頷いた。
「ええ、ビックリしましたけどね。地震なんて久しぶりですから」
「おかしいな……ニホンの地震は、環境維持システムによって抑えられているはず――」
祐一朗が言い終わるのを待っていたかのように、備え付けのスピーカーからアラートが鳴り始めた。
立っている白衣の男だけが、会議室の壁に埋め込まれた大型モニタに表示されたものに気付いた。祐一朗はまだ、ゆっくり起き上がろうとしたばかりだった。
「緊急警報です!」
「読んでくれ!」
「アジーナ国、並びにアメロッパ国において大規模な災害が起きている模様、アジーナは大洪水、アメロッパは強力な紫外線による被害です!!」
「なんだって?」
立ち上がり、自分の目でも緊急警報の内容を確認したが、祐一朗は続きの言葉を変えようとは考えられなかった。
「おかしい!! そんなはずはない!!」
二言目は、半ば吠えるようにして放たれた。
通常、災害の発生などというものは、世界各国に存在する環境維持システムたちがそれを許さない。
一時のトラブルで、どこかで地震や台風といった自然災害が起きることはあるが、このように同時多発的に大規模災害が起こるなどということはなかった。
祐一朗自身、環境維持システムに何かあればトラブルシューティングを行う立場であるからこそ、このようなことはありえないと首を横に振った。
「被害状況、悪化していきます!!」
2人の目の前で、状況を示す表示は目まぐるしく更新され、白衣の男は、一瞬視界がぼやけるのを感じた。
再び、会議室全体が揺れた。2人は壁に手をついた。
「くっ!! 一体、何が起ころうとしているんだ?」
床と壁から伝わる力に耐えながら、祐一朗は胸をざわつかせていた。
……
電脳世界、ゴスペル本部。
そこは、黒と赤が最近のウラインターネット深部を思わせる、長方形の大広間のような空間だった。しかし、その最奥だけは本来の様相と異なり、白・黄・赤・青と色とりどりの明滅する氷で埋め尽くされていた。
今、ゴスペル本部にいるのは、その氷の山の前に立っている、自身も肩や腕から氷柱を生やした長身の青白いナビ、ゴスペル最高司令官・フリーズマン、ただ一人だけだった。
インターネット全体を攻撃することで環境維持システムまでダメージを与え、これまで抑え込まれてきた自然の力を暴走させることで現実世界の全てを破壊するという"文明破壊作戦"。それがフリーズマンの任務だった。
そのためにフリーズマンは、通常の方法では破壊できない氷で本部の入り口をも塞いでまで、ゴスペル本部に閉じこもっていた。
そこへ、ニホンで本日2度目の地震が収まったほんの数分後、誰もやってこないはずのこのエリアに、一体のヒールナビが足を踏み入れた。
ウラで最もポピュラーな戦闘用カスタムナビ"ヒールナビ"は、ゴスペル構成員でも多くが、とりわけ戦闘員はほぼ全てが、利用しているものであった。
また、ゴスペル構成員の証さえあれば、ゴスペル本部へのセキュリティドアを自由に通過できた。
よって、ヒールナビがここへ現れることは、何ら不自然なことではなかったが、それは氷が道を塞いでいなければの話であり、フリーズマンは、ヒールナビへ訝しげな視線を向けた。
「何者だ?」
「……」
ヒールナビは何も答えず、ただフリーズマンのいる方へと歩き続けた。
ゴスペルにおいて上下関係は絶対。最高司令官たるフリーズマンの問いに"答えられない"ならまだしも"答えない"というのは、その場で罰を下されてしかるべきことだった。
「もう一度だけチャンスをやろう。何者か、答えるがいい」
フリーズマンはエリア中に冷気と満ちさせ、足元から広がる
ヒールナビは何も答えず、ただフリーズマンのいる方へと歩き続けた。そして、その足がアイスパネルの直前に差し掛かると、ピタリと止まった。凍結の波紋はヒールナビの足元を過ぎ、床面は全てアイスパネルで満たされた。
水属性を持たない者が一歩踏み出せば、アイスパネルの続く限り止まることはできないという、アイスパネルの作用は、一方で自由に動ける水属性のウイルスやナビが一方的に狙い撃ちにできるという、機動力の差を生むものである。
無論、フリーズマンは水属性のナビであり、マグネットラインで戦いを有利に進めるマグネットマン同様、この状態での戦いこそがフリーズマンの本領だった。
ただ一度ストレートパンチが虚空を打つ瞬間、その拳が体躯ほどある
「!?」
一発一発が1メートルを越えるロケットパンチの連打を前にしたフリーズマンの視界は、赤信号の車道で、
フリーズマンが膝を曲げ腰を落としてガードの姿勢を取ると、全身を覆う氷のバリアが現れた。
不測の事態で咄嗟に選択する程度には信を置いている防御手段だが、果たしてゴールドフィストを受け止めると、それはあっけなく砕け散った。
「がっ」
破られざまに一撃。強烈な衝撃で、フリーズマンが押し飛ばされた。バリアの破片が舞い散る中、さらに後続の拳が迫っていた。放射状に繰り出された人間大の拳が、残り8発。
「バカな……!」
バトルチップ・ゴールドフィストは、目の前にブレイク性能のあるパンチを放つだけのチップだが、バリアブルソードのような"技"が隠されている。
必殺の拳の威力を真に引き出すには、素早く、そして寸分の狂いなく、ナビ自身のエネルギーを拳へと注ぎ、そして打ち出す必要がある。
バリアブルソードを変幻自在と使いこなせる者がごく限られているのと同様に、フィスト系バトルチップの極意を会得している者もまた、ごく限られているが、このヒールナビには、それができた。
バリアの再展開もできなければ、フリーズマン自身、追い詰めるような遠距離範囲攻撃に特化しているために、攻撃による破壊も間に合わなかった。
回避を試みたフリーズマンを、2発目の拳が胴の横に触れて撥ね飛ばし、その先へ飛来した3発目の拳が上半身を打ち据えた。
残り6発のコースを外した拳はエリア奥の氷の山にぶつかり、そちらには傷一つつけられないまま消滅したが、その中に混じるようにして、ヒールナビがアイスパネルの上を滑っていた。
仕方なくそうなっているのではなく、いかにも明確な目的を持って前進しているという風に堂々と、落着したフリーズマンへ向かっていた。フリーズマンが起き上がるより先にその体を踏みつけることでブレーキを掛け、急停止した。
この距離なら
「アイスタワー!!」
仰向けのフリーズマンの周囲の地面から、これまた人間大の氷柱が急速に生え、ヒールナビを刺し貫いた。拳は振り下ろされず、ヒールナビは串刺しになって持ち上がった。
「逃げられんぞ……!」
フリーズマンがニヤリと笑い、追撃にと2本目のアイスタワーを発生させるより早く、串刺しのヒールナビは、デフォルメされたヒールナビ人形になった。
「!!」
察して見上げるフリーズマンの腕や脚を制するように、立ち上がらせまいとするように、3枚の大きな手裏剣が打ち込まれた。
続けて、フリーズマンの直上、空中で手裏剣を投げ終えたヒールナビが、今度こそ下段突きを放とうと肘を引いた。
「ハハ、ハハハハハハ……!」
金色の流星群が立て続けに9つの破壊音を轟かせ、フリーズマンの哄笑はその中に
時を同じくして、世界中で起きていた自然災害は、急速に収束を始めた。
フリーズマンが笑っていた理由は以下です。
1.自分がデリートされても環境維持システムのダメージはそのままで、どちらにせよ世界は終わると思っているから(※実際は問題なく正常化する)
2.何もかもいきなりのことで思考が追いついていないから
"必殺の拳"はフィスト系のチップ説明文より。
バリアブルソードと違ってコマンドが単一であること、説明文通りの強さはコマンドあってこそと考えられることから、コマンド入力の原理はバリアブルソードと別にしました。
それで、よくある格闘マンガ的設定として"気"的なものを制御して技を出すイメージにすればしっくり来そうだということで、このような設定になりました。
フィスト系は「2」のみですが、コマンドあり拳チップ自体はまだあるので、そちらも同じ原理になるかと思います。
本当はゴールドフィストで削ってエレキソードでトドメみたいな流れを想定していたのですが、引きが偏りました。
タイトルの"天罰"も電気属性攻撃という部分に合わせて決めていたのですが、本文書いてみたら星が降ったのでそのままにしました。
原作ではインターネット上の移動の手間がものすごいため、熱斗が(プレイヤーの都合で)アメロッパとニホンを往復しまくるのですが、そうすると何日かかるのやらというのと、一応アメロッパに行かずにフリーズマン撃破まで行けるため、アメロッパには行っていないものと考えています。
関係ありませんでしたが……