セキュリティ絶対突破するマン.EXE 作:エターナルマン.EXE
あさましく分割しようとしましたが無理だったのでそのままです。
電脳世界上のゴスペル本部が、コトブキ町敷設のコトブキスクエアにあるという情報は、すぐにニホンオフィシャルの手で検証がなされた。
開け放された会員制エリアのセキュリティドアの先へニホンオフィシャルのナビが突入した頃には、そこは既にもぬけの殻だったが、通常のスクエアとしては異様な内装、そして奥の壁一面を覆う巨大な
コトブキスクエア自体、不審なナビの出入りが度々報告されていたこともあり、この情報は事実として組織内で共有された。
情報源の渡については怪しむ声もあったが、祐一朗の信用や熱斗のWWW壊滅の実績などから、追求する必要はないだろうとされた。
現実世界での捜査も行われた。
コトブキ町は、メトロラインの開通も完了していないような、新開発の都市であったが、その成り立ちの段階からゴスペルの手が及んでいたことがわかった。
スクエアサーバー上にゴスペル本部を隠しておけたのは、行政やインフラ整備業者・技術者に、ゴスペルの息がかかった者がいたからだった。
コトブキスクエアに存在する、バグの欠片を危険物として景品と引き換える交換所も、実際はゴスペルがバグ融合に使用するために敷いていた集積経路の1つだった。
無論、そのような者たちはすぐさま追跡・逮捕されたが、いずれもわずかな役割・権限だけを与えられた構成員に過ぎず、オフィシャルが持っている以上の情報など何一つ持ってはいなかった。
それからも、ゴスペル本部、そしてコトブキスクエアサーバーを逆さに振るような勢いで、捜査は進められたが、ゴスペルに関する手がかりは見つからなかった。
一方の科学省その他の機関の調査では、仮に環境維持システムが回復しなかった場合の被害として、まさに地上の文明の継続が困難になる程度であることが試算されていた。
調査結果とゴスペル本部がまっさらであることと合わせて、オフィシャルは、さしものゴスペルも大打撃を受け、その活動の勢いは衰えて行くであろうと予測していた。
……
『――この通り、オフィシャルは公式にゴスペルによるネット犯罪は収束していく見込みであると発表しており……』
情報はメディアにも伝わり、テレビニュースでも、ゴスペル壊滅の報が見られるようになった。
渡の自室のモニタに映るウィンドウの1つにそのニュースの映像が流れ、音声だけを聞きながら、渡は無感動にコントローラを操作していた。
(してへんしてへん)
テレビ番組ではなく、PETの映像出力を取り込んでいるウィンドウの中で、ベータの操るバリアブルソードが閃き、3つの光刃がウイルスの群れを薙ぎ払った。
ベータは特に目的地もなく、ウラインターネットを駆けずり回り、目についたウイルスを残さずデリートしていた。
(コトブキ町の電磁波騒ぎが起きて避難が始まるのが多分、今日。調査のために国が急遽電磁波対策を準備するのにもう2日くらい。その辺りでゴスペルの大陽動作戦が始まって、3日後にコトブキ町に突入してラスボス戦……)
野生ではなく飼いならされたウイルスの一団が背後に現れ、そのうち2匹と飼い主のヒールナビはベータのパラディンソードの横一閃で斬り飛ばされデータの粒子となり、袈裟懸けのもう一振りで残り1体も両断された。
(本来はオフィシャルこそ災害で大打撃を受けて戦力を喪失して、ゴスペルよりずっとピンチになる予定やった。そこをどうにかしてもうた今、現実世界の本拠地にはニホンオフィシャルから戦力をドバドバ投入して、熱斗が行く理由がなくなる可能性もある)
飛来する緑色の丸鋸をかわして黄金のラッシュを放ち、
(できれば展開は変わって欲しくないし、どうにかして熱斗は押し込んでいきたいところや。避難が始まったらコトブキスクエアに張ってオフィシャルがどんだけ動いてるか確認、終盤展開通りにロックマンが来ればよし、来なければ……無理するしかないな)
……
翌日、コトブキ町に避難勧告。人体に悪影響を及ぼす程の電磁波が町に垂れ流されていると聞くや、住民たちは速やかに外部の官営住宅へ移り、ものの2日でコトブキ町はゴーストタウンとなった。
ネット犯罪の対処に追われているためか、現地調査を行うための装備調達が滞り、電磁波異常そのものの続報はなかった。
4日後、世界各地でネット犯罪がさらに急増。自立型ナビによる無差別デリートや電化製品の故障などが相次いだ。現地オフィシャルが対処するも、蝗の群れを手で捕らえようとするような構図となり、全く追いついていなかった。
……
そして、6日後の朝。
『市民ネットバトラーに告ぐ!
ゴスペルが依然活動を続けているという疑惑アリ。
至急、コトブキスクエアを再調査せよ!』
(いや何も変わらんのかい!!)
張り込みを再開する前にニホンオフィシャルから届いたメールを見て、渡は机に立てていた肘を滑らせ、頭を揺らした。
(……っていうか時間ないやん!)
それからすぐ、鞄にアイリス用カメラをセットし、PETや電子財布の他に、季節外れの黒いコートを詰め、遊びに行くと言って家を飛び出した。
メトロに乗り込んだ後は、ニホンオフィシャルのメールにかこつけて会う約束を取り付けようと、熱斗に連絡を取った。
熱斗は既にロックマンとコトブキスクエアを確認したようで、ゴスペルの紋章からナビが湧き出すという怪現象の話をした上で、現実世界のコトブキ町を直接調べるために裕一郎に相談に行くのだと言っていた。
ニホンオフィシャルセンター。
かつて科学省でそうしていたように、熱斗の顔パスで2階に上がると、熱斗はエレベータの中から祐一朗の研究室へ一気に駆け込んだ。
「パパ! オレたち、コトブキスクエアのこと調べてきたよ!」
「熱斗……それに、渡くん。やはり……君たちが来たか」
(こっ……)
挨拶の言葉が渡の喉まで出かかっていたが、顔を出すのが遅れたせいでタイミングを逃し、飲み込んだ。
見ると、熱斗は張り切っているのに対し、裕一郎はあまり気が進まないような素振りで、熱斗が調べてきたことをあれこれと説明する間も、何かを言い出そうとして躊躇っているようだった。
ひとしきり見てきたことを説明し終わると、熱斗もそれに気がついた。
「どうしたの? せっかく調べて来たのに?」
「ああ……ありがとう。だが、できれば熱斗たちには……今度の事件に深く関わって欲しくないんだ」
「なんで? オレ、べつに今までそんな危ない目に遭ったりしてないのに……」
「いや、ガスとか飛行機とか危ない目には遭ったでしょう」
「おい、渡!」
(事実やろ)
熱斗が渡の方を見て、余計なことを言うな、と抗議するトーンで言った。渡は首を横に振った。
「ハハッ、分かってる……」
祐一朗は、知ってのことか、特に触れようとはせず、熱斗に軽く手のひらを向けただけだった。
「ただ……パパは、感じるんだ。この事件が、ゴスペルとの最後の……そして、最も厳しい戦いになるだろうってな」
「……どういうこと?」
「ここ数日の間、世界各地でゴスペルのナビによる被害が増加している。炎山くんたちオフィシャルネットバトラーが対応しているが、それでも十分には……いや、ほとんど手が回り切っていないと言うべき状況だ。
いくらゴスペルが大きな組織といっても、これは異常なことだ。恐らく奴らは既に……バグ融合を使って、ナビを生み出し始めている」
(えっ、そうなん? フリーズマンおらんでも手え足りへんなんのかよ)
「バグ融合って、フォルテとかいうナビの!? でも、オレたちが見たのは――」
「ああ、フォルテじゃない」
今しがた説明された話を踏まえて、祐一朗は頷いた。
「ゴスペルはフォルテを生み出すために、これまで相当量のバグの欠片を集めたはずだ。
そして恐らく、フォルテを生み出してなお余裕があると判断したんだろう。余る分のバグの欠片を使って、熱斗が見たようなナビを量産して、戦力を増やしているんだ。フォルテを完成させるまでの時間を稼ぐために」
(めっちゃ話変わってるやん……)
「じゃあ、すぐに止めないとヤバいじゃん!」
「その通りだ。……だから、オフィシャルの緊急任務を果たした熱斗に、伝えることがある。ロックマン、そして渡くんも、よく聞くんだ。いいね?」
祐一朗は熱斗を、次に渡を見てから、瞬き一度分だけ、視線を下に逸らした。
「うん!」
「はい」
熱斗のPETからは、熱斗同様に張り切っているロックマンの声がした。
「……今回の事件、コトブキ町に起きている異変のことだ。パパたちの調査で分かったんだが、どうやらコトブキ町一帯に大規模な電磁波異常が発生しているらしい。
熱斗が見た、ナビが次々現れてくるコトブキスクエアの
「ゴスペルの拠点……」
熱斗が呟いて、ズボンをぎゅっと握り、離した。
「それで、電磁波の異常ってどの程度のものなの?」
代わりをするように、ロックマンが尋ねた。
「ああ、通常の1万倍以上の電磁波が発生しているようだ。当然、人体への悪影響も考えられる……」
(最終的にその50倍くらいになるんやで)
「そんなとこに行って、ボクはともかく、熱斗くんは大丈夫なの?」
「当然、そんな大量の電磁波を浴びればただでは済まないだろう……最悪、精神がやられて死んでしまうこともないとは言えない……」
「でも、オレ行く! 行かなきゃ! パパ、なんとかならないの?」
熱斗の声で、祐一朗は気付けをされたようにはっとして、熱斗の顔を真っ直ぐ見た。
「うん、パパたちもできるだけのことをしたつもりだ」
祐一朗は頷くと、壁際に置かれた開封済みの小包の中から、ベスト1着とプラスチックのカード1枚を取り出して、両手にそれぞれを持って熱斗たちに向けた。
銀色のカードにはオフィシャルのロゴがプリントされていて、"コトブキ町"と印字されたシールが貼られていた。
「……対策は2つ、まず、コトブキ町には、開通前のメトロライン・コトブキ線を使って行くんだ。電磁波をカットする特別な車両も作ってある」
「メトロラインを降りた後はどうすれば……?」
ロックマンの問いに、祐一朗はベストを持った手を僅かに持ち上げた。
「うん、そこでもう一つが、電磁波から身を守る"防磁スーツ"だ。これを着ていれば、通常の5万倍までの電磁波なら遮断できるはずだ」
(足りんくて熱斗は失神するんやけどな)
「そして、コトブキ町にあるゴスペルの拠点を叩き潰せば、奴らの息の根を止めることができるんだね!」
腰の辺りで拳を握って見せる熱斗を前に、祐一朗は、目を離すまいとしつつ、その瞳を前と下とに僅かに揺らした。
「ああ、だが……コトブキパスはともかく防磁スーツは特注で、数を作るだけの時間が足りなかった。1着しか用意できなかったんだ」
「……えっ!? じゃあ……」
(あっ、さいですか)
熱斗に何かを言われるまでもなく、渡は僅かに首を傾けて小刻みに縦に振りながら、肩掛け鞄を開けて手を突っ込むと、黒いコートを取り出した。
垂れた裾が床にぶつかると、生地の割には重い、ドッという音を立てた。
「おっと」
渡はコートを持ち上げるように振って、腕の上に乗せ直した。
「コートタイプの防磁スーツです。同じく、5万倍程度の電磁波ならどうにかなります」
(60万倍想定で金に糸目つけんと作らしたんやけどな)
「渡くん、どうして……」
ぱあっと明るくなる熱斗と、祐一朗の驚きや心配が混じった複雑な表情の変化を見て、渡は空いた左手で自分の顎のヒレを指でつまんだ。
「どうもこうも」
それから控えめに親指を立てた。
「コトブキスクエアがそうだという話をしたのは僕ですしね。人体に有害って話はニュースでもあったので、急いで用意しておいたんですよ」
「さっすが渡!」
「……そうか」
観念したように、祐一朗が俯いて首を振った。
「できれば、こんな危険な任務には――」
「オレやるよ! パパ!」
祐一朗を見上げる熱斗が、変わらず気合を入れて宣言した。
「熱斗!?」
「だってパパ、そんな危険な任務なら、他の人には余計に頼めないでしょ? それに、オレがもし……死んだとしても、それが大変な事件を解決するためだったってこと、誰よりパパがよく分かってくれるんだし、そして何より、オレには兄さん、ロックマンがついていてくれるもの!」
ロックマンは何も言わなかったが、PETのディスプレイの中で強気な笑みを浮かべ、頷いた。
「熱斗……ママの言う通りだ。大きくなったな……」
もう一度、熱斗とロックマンの顔を見て、祐一朗は壁に備え付けられたコンピュータを操作した。細長い排出口から、銀色のカードが1枚飛び出し、コトブキパスを持った手でそれを取った。
「分かったよ……2人分のコトブキパスと、熱斗の分の防磁スーツを渡そう」
熱斗は防磁スーツをその場で着込み、コトブキパスを受け取った。
「じゃ、オレたち行くね!」
「熱斗、渡くん、くれぐれも無理はするんじゃないぞ……」
「はい、気をつけます」
熱斗は出ていくときも走っていき、渡は深く一礼してからエレベータへ向かった。
祐一朗は、2人の姿が見えなくなるまで、そこから動かず見送っていた。
原作での光祐一朗との会話は「具体的には何かわからないけどゴスペルは切り札を残している気がする!」的な内容だったのですが、ナイトマン編カットのバタフライエフェクトで全然違う話になりました。
書いていて楽しかったです。
よく考えると、夏なのに防磁スーツを私服の中に着込むのはおかしい気がしますね。グラフィックの都合なんでしょうけれども、そもそも上着着てるところからおかしいんだから普通に"着た"でいいと思うんですが……
というわけでその辺りをぼかしました。
原作ではサーバー出力150%時点でロックマン曰く20万倍、その後400%まで上がるので、53.33……万倍という計算です。
ここ最近、ゆういちろうの字を間違えていました。恥ずかしい……