機動戦士ガンダム進藤   作:ドロップ&キック

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平日なのでちょっと短め。

そして、少しだけ甘めかも?なマリューさん回です(^^





第014話:”例え勘違いであっても構わない”

 

 

 

マリュー・”ミレイユ”・ラミアスは、その時確かに得も言われぬ居心地の良さを感じていた。

紅茶がもう少しいいものだったら言うことないが、官給品に文句をつけても無意味だということも分かっていた。

無論、マリューにはその居心地の良さの理由も察している。

 

(私、楽しいんだ……キラ君とおしゃべりすることが)

 

マリューは、自分が性格的に戦場に出るような『実戦型の軍人』に向いてないことを自覚していた。

そもそも生活の為に軍のスカウトを受けたわけだし、後方で研究開発を行うだけだと思って入隊したのだ。

 

士官学校の”体力的なシゴキ(ブートキャンプ)”は、想像していたよりずっと楽だったし。

アレだったら、大好きだった祖母の「拳銃をきちんと使うためのトレーニング」の方がよっぽど厳しかった。

正直、ランニングとかで「胸が揺れて邪魔だなぁ」という印象しか残っていない。

その程度の促成栽培みたいな訓練で、

 

「もしかして、ちょっとだけ似てるのかもね。私とキラ君」

 

「えっ?」

 

きょとんとした顔は年齢以上にキラを幼く見せた。

そんな姿にマリューは微笑ましさを感じながら、

 

「私も理工系の大学に飛び級で進学して、軍に入ってってコースだったから」

 

キラの身の上を聞いて、何と無くマリューは自分の生い立ちを語りだしていた。

 

「あっ、確かに似てるかもしれませんね……でも、マリューさんって凄く綺麗なのに、見た目に似合わず凄く強いんですね?」

 

キラ少年は気づいてるのだろうか? 自分が無自覚のまま、半ばマリューを口説いてることを。

いや、きっと気づいてないだろう。割と天然だし、思ったことをそのまま口に出してる雰囲気がある。

 

それはともかく、キラが言ってるのは先ほどの戦闘。

MS戦ではなく、その前に勃発したアスランと再会した時に起きたあの高度CQBじみたガンファイトの事だろう。

 

マリューはあの戦いで、まず大西洋連邦制式のブルパップ型自動小銃で最初に名も無き緑服のザフト兵を一人倒した。

弾の切れた自動小銃をあっさりと捨てると、次に扱い慣れた私物の拳銃(ワルサーP99)を流れるような動作で引き抜きザフト赤服の一人、ラスティ・マッケンジーの胸部に2発/頭に2発をダブルタップで叩き込んで手早く容易く命を刈り取り、呼吸をするように激昂したアスランの持つ小銃に弾丸を当てて破壊するという離れ業をやってのけたのだ。

まさにそれは身体に染みつくまで拳銃射撃を繰り返した、「一端のガンスリンガー」と評して過言ではない完成された動きだった。

 

むしろ、そんなマリュー相手にナイフ1振りで至近距離まで接近できたアスランをほめるべきだろう。

もっともそれは、ヘルメットの奥の人相に気づいて、ついマリューの射線上にふらふらと出てしまったキラのせい(あるいはキラのおかげ)でもあるのだが。

 

その後の展開は推して知るべしで、予期せぬ親友(キラ)の出現で動揺したところに、射線が重ならぬように身体を滑らせたマリューからの2連射をくらい、弾は幸いボディアーマーで止まったが、さすがに分が悪いと思いアスランは撤退したのだ。

 

アスランの幸運は、ちゃんと規定通りの防弾装備を着用していたことで、ラスティの不幸は『ナチュラルのヘロヘロ弾になんか当たるかよ!』と完全に侮っていた状態で、マリューと敵対的エンカウントをしてしまったことだろう。

マリュー・”ミレイユ”・ラミアス……ザフトの上位ランクの兵を、生身での戦いなら単独で撃退できる女であった。

 

 

 

「ああ、うーん……どうなのかな? 私の場合、一般の軍人さんとちょっと戦い方が違うというか、邪道というか」

 

ちょっと困惑気味のマリューに、

 

「邪道?」

 

不思議そうな顔をするキラに、

 

「そうね……私ってそんなにいいところの出じゃないのよ。子どもの頃に住んでたのも、讃美歌と銃声とパトカーや救急車のサイレンが、同時に聞こえるような街だったしね」

 

しいて言うなら全盛期(1980年代)のサウス・ブロンクスやロアナプラよりは、幾分ましといったところだろうか?

イメージ的には映画『タクシードライバー』の世界観とか、漫画『ガンスミス・キャッツ』の街並みとかがイメージに近い。

 

「そんな街で生きていくには、必須とは言わないけど……拳銃を扱えるのはそれなりに便利な技術(スキル)だってね。おばあちゃんが教えてくれたのよ」

 

「なんか、凄いおばあさんですね?」

 

「実際、すごかったわよ。むしろ、凄まじいっていうくらい強かったし」

 

なんでも約70年前の再構築戦争と、そのあとの『人の命が缶詰一つより安い』地獄のような混乱期を家族や友人を守ったり共闘しながら頭と腕っぷしで生き抜いた猛者だ。

その時、ゼルダだかソルトだかって感じの自警団(?)の中核的人物だったらしい。

マリューも幼い頃その面々に会った事があるが、『独特の凄みのある年配者集団』だった事が妙に鮮明に記憶に残っていた。

 

もっとも祖母に言わせれば『かつての戦士の集団も今となっちゃただの老人会さね。人間、年は取りたくないね~』と苦笑していたもんだが、そんな祖母に手ほどきを受けて愛用の拳銃と一緒にミレイユという名を受け継いだマリューに言わせれば、祖母が二本足で立ててた頃ならば未だに逆立ちしても勝てる気がしない。

 

「だから、軍の真っ当な戦闘術っていうより、”喧嘩殺法”っていうのかな? まあ、そんな感じのものよ」

 

その喧嘩殺法に容易くタマを取られたラスティとその他一名は立つ瀬はないと思うが、

 

(それにしても私、ぺらぺら喋ってるなぁ……)

 

妙に口が軽いことをマリューは自覚してしまう。

例えば、自分の生い立ちや事情を知ってる人間はアークエンジェルは勿論、GAT-X開発計画の中にもいなかった。

そりゃあ、軍の中を見回せばいるだろうが、少なくとも自分から話したことは任官してからはないはずだ。

 

(ああ、そっか)

 

一瞬、『吊り橋効果』という単語が頭をよぎったが、別にそれでもかまわない……勘違いでも、虚構でも構わないと思ってしまう自分がいた。

 

(私、キラ君に知ってもらいたいんだ……)

 

それは、マリュー・”ミレイユ”・ラミアスが、キラ・ヤマトという少年に初めてはっきりと自覚した”好意”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




魔乳は強し(挨拶

あんまりマリューさんの内面とか過去に踏み込んだ作品を読んだことなかったので、思い切り捏造でデコってみましたw

思った以上にマリューさんは書いてて面白い罠(^^

次回は、キラの……かな?


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