通勤通学中の暇つぶしにでもなれば嬉しいな~と。
キラ君がちょっとだけ前へ進もうとしますが……マリューさんも少し常人と感覚ズレてるかも?
呼吸をするように拳銃を使い、容易く命を刈り取る美女……マリュー・”ミレイユ”・ラミアス。
中々に数奇な、あるいは特異な生い立ちを持つ彼女だったが、圧倒的な……人類という”
そう、強いからこそ「マリューさんは、コーディネイターというだけで僕を怖がったり、嫌ったりしないかもしれない」とつい思ってしまう。
他人に勝手に期待して、そして勝手に失望する……「ぬか喜びと自己嫌悪を重ねるだけ」とはいったい誰の言葉だったか?
だが、キラはまだ若いというよりむしろ幼い。「それでも前へ進めた」と自覚することはできない。それを自覚できるほど、まだキラは生きていない。
例え遺伝子をどれほどいじくりまわそうと、人の姿を捨て去れない以上は所詮は人。人の限界には近づけても、人を超えることもできなければ、人と別の生き物になれるわけでもない。
プラントやザフトが特異な精神性を持っているように『
25万人の同胞を殺されたから地球上の10億の民を殺した……死んだ人間は、ナチュラルもコーディネイターもいた。
きっと、プラントにとりコーディネイターとは、「砂時計に住む6000万人の同胞」だけなのだろう。
地球上でナチュラルと共生する5億人は、その勘定に含まれない。
だが、本当に特異なのか? 特別なのか?
答えは”否”だ。
人類は有史以来、いやもしかしたら有史以前から似たようなことを口走り殺しあってきたのだ。
国が違う、民族が違う、宗教が違う、言葉が違う、文化が違う、肌の色が違う、etcetc……
結局は、「自分と違う他者が許容できない」とか「お前より私の方が優れてるのだから」とか、そんなセリフを飽くことなき繰り返してきたのが、血みどろな”人の業”だ。
その人の業に縛られている以上、コーディネイターは決して何かを超越した人類などではない。
科学の進歩による兵器の進化で、より被害規模が大きくなっただけで、プラントやザフトの行動は、つきつめれば”
人以外の何かになれないのは、スーパーコーディネイターだって同じことだ。
だからキラは、ただただ失望するのが……拒絶されるのが怖かった。
(でも、それでも僕は……)
前へ進んでみたかった。
「ねえ、マリューさん……」
「なあに? キラ君」
「コーディネイターってどう思う?」
キラの質問の意図が呑み込めぬように、マリューは不思議そうな顔をして、
「それってキラ君がコーディネイターってことかな?」
「えっ!?」
いきなり核心を突かれてドギマギしてしまうが、
「その、えっと……はい」
でも、マリューに嘘はつきたくなかった。
いきなり罵倒されても取り乱したりしないように下っ腹に力を入れるキラ少年だったが、
「ふーん。そうなんだ?」
そのリアクションはキラがいくつか想像していた、どちらかと言えばネガティブなリアクションのどれもとは違った。
原作のようにコーディネイターというだけで銃を向けられるとは思ってはいなかった。
だが、マリューの驚きもせず淡々と事実を受け入れることも予想してなかったのだ。
☆☆☆
「……マリューさんは僕が、コーディネイターが怖くないんですか? 気持ち悪いと思わないんですか……?」
キラはつらそうな顔でそう切り出す。まるでそれは、言葉を使った自傷行為のようにも見える姿だったが……
「うーん……怖いとか、気持ち悪いとか思わないとダメ?」
「えっ?」
その言葉に……取り繕うわけでもなく、かと言って慰めるわけでもなく、ただ素直なマリューの言葉に逆にキラは困惑してしまう。
「そりゃあキラ君がザフトだって言うなら銃口くらい向けるし、なんだったらそのまま引き金だって引くけど」
マリューは微笑んで、
「キラ君は、ただコーディネイターってだけでしょ?」
(ああ、そうか……)
ストンと心に何かが落ちる心地良い感触があった。
(僕はきっと、この言葉が聞きたかったんだ……)
「コーディネイターって言われても、私には正直、ピンとこないのよ。ほら、プラントとかでは『遺伝子を調整した自分達は”優良種”』だって言って憚らないし、ブルーコスモスとかでは『遺伝子工学の末に生まれた”化け物”』だってフランケンシュタインみたいな言い方するけど……結局、言ってることは一緒。私に言わせれば、一枚のコインの裏表よ」
「それってどういう意味ですか……?」
「実像とか現実以上にどっちも”特別視”してるってこと。キラ君、コーディネイターって結局、人の遺伝子を操作してるだけでしょ? 例えば、鳥の遺伝子取り込んで背中から羽を生やして飛んでみたり、サメの遺伝子取り込んで水中でエラ呼吸できるようになるとかじゃないでしょ?」
「あ、あの、マリューさん……それができるのはSF作品の中だけっていうか、人の枠組みからとんでもなく外れるっていうか」
それが出来たらほとんど『火星コックローチを退治しに行く世界』だろう。
あるいはもうちょっとソフトに『ラーテルな女子高生がガチファイトやってる世界』か?
「そうね。だから、コーディネイターも普通に人間の範疇じゃないの? 別に目からビームだしたり、口から炎を吐くわけでも、音速の3倍でコイン飛ばすわけでも、ましてやベクトル操作で地球の自転をパンチに乗せたりできるわけでもないんだから」
クスクス笑うマリューにキラは毒気の抜かれたような顔で、
「そんなことが出来たら、MSの存在意義すら失われそうですね?」
「コーディネイターだろうとナチュラルだろうと、遺伝子組み換えたくらいでそう簡単に人の枠から抜け出せるわけないもの。愚かさも
☆☆☆
「それにコーディネイターとかナチュラルとかって以前に、おばあちゃんやそのお友達がもっとトンデモだったし」
「へっ?」
誇張でも嘘でもない。
祖母曰く、『ゼルダだかソルトだかつての自警団(?)。今となっては老人会』の面々は、その”かつて”の時代は……
曰く、『弾丸避けの魔法を使う』
曰く、『頭の後ろに目がついている』
曰く、『死神がスポンサーに入ってる』
曰く、『血液の代わりにガンオイルが流れ、ガンパウダーを胡椒代わりに使っている』
曰く曰く曰く……まあ、そんな集団だったらしい。
「ほら、私が追っ払った子、アスラン君だっけ? キラ君のお友達だったみたいだけど……ザフトの赤服着てたし、あの子ってかなり戦闘向きのコーディネーターってことでいいのよね?」
「え、ええ、まあ。アスラン、なんでザフトなんかに……」
「それは気にしてもしょうがないことじゃないかな? それなりにキラ君が知らない理由があるんだろうしね」
まがいなりにも殺し合いをやった敵兵のことだというのに、本気で気にしてないマリューの様子にキラは驚く。
もっとも、マリューは祖母から『缶詰一つ巡り殺し合いが起きる』再構築戦争の戦中/終戦直後の話を聞いて育ったせいもあり、『理由があれば、親兄弟兄弟姉妹とも簡単に、あるいは平気で殺し合いするのが人間だから。かつての友人同士が殺しあうなんて、実際、珍しくはないわ』とか思っていそうではあるが。
「あのぐらいがコーディネイターでも上位の戦闘力だったっていうのなら、70代の頃のおばあちゃんなら追っ払うどころか瞬殺してたわよ? 多分、気が付く前に目と目の間を撃ち抜かれてるんじゃないかな?」
ばきゅーんと指鉄砲のポーズをとるマリューは、
「勿論、おばあちゃんはコーディネイターが出てくる前に生まれてるから、生粋のナチュラルよ?」
どうやら世の中は、まだまだ不思議に満ち溢れてるらしい。
このシリーズのカガリとマリューさんの神経の太さは登山用ザイル並(挨拶
マリューのコーディネイターについての私感を一度じっくり書いてみたいな~ってことで生まれた回ですが、彼女にとってはコーディネイターより祖母(とその友人のじっちゃんばっちゃん)のがよっぽどおっかない罠w
なんせ、若い頃はフランスのパリに住んでたらしいミレイユってファーストネームのおばあちゃん、
『別にコーディネイターたって目が四つあるとか心臓が二つあるとかじゃないんだろ?
なんて言いながらカカッと笑う人だったみたいです(^^