機動戦士ガンダム進藤   作:ドロップ&キック

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今回は、朝から内容的にも文章量的にもやや重いのをw

でも、ラクシズ……じゃなかった、ラクス的な意味では前の2話に比べれば軽いです。多分。

エピソード的には、原作の設定フォロー回と言いましょうか……取りあえず、オチは色々酷いです?




第032話:”10億の死の真相 矛盾やら皮肉やら不条理やら混沌やら”

 

 

 

ラクスのキャラ崩壊的な大笑いから、しばし……ワタシたちはいくつかの話をした。

したのだが……

 

「はっ? ニュートロンジャマーが外部操作を一切受け付けないのは、単なる設計ミスだぁ?」

 

当たり障りのない話題の合間に前置きなく特大の爆弾放り込むのやめれ、愉快犯(ラクス)

ワタシだってリアクションに困る場合が無い訳じゃないんだぞ?

 

「はい。当初の予定では、お父様……シーゲル・クラインは、1週間でニュートロンジャマーをコッソリ止める計画をたててましたの」

 

「……それが、どうしても今でも動いていて、10億もの地球人を殺したのよ……?」

 

とジト目のフレイ。

だが、フレイが会話に参加することを歓迎したラクスは、どこ吹く風の涼しい顔で日本茶を飲んでいる(話が長くなったので、別の茶も楽しみたいとか言い出した)。

 

(一般人の反応が見たいとか、そんな理由だろうなぁ)

 

「実はですね……」

 

お茶うけにと出した、イズモにも持ち込んでいた行きつけの甘味屋謹製の芋羊羹(いもようかん)栗羊羹(くりようかん)(どっちも特に甘党でもないワタシが気に入る品だ)をパクつきながらラクスが話し始めた、聞きようによっては原作(アニメ)よりよっぽど救いのない”()()”だった。

 

「つまりなんだ……ザフトは、深度を完全に見誤っていたと?」

 

 

 

要約すればこんな感じになる。

ニュートロンジャマーの基礎となる技術は、元々ザフトというよりプラントにはあった。

地球みたいに大気っていう天然のバリアが砂時計型コロニーにはない為、太陽風をはじめ数々の宇宙線への防護策として、この手のエネルギー型防護壁の研究が盛んなのも、まあ頷ける。

 

そして、起こった「血のバレンタイン」

あれに関しても色々思うところがあり、裏で色々調査中案件だが……妻がユニウスセブンと吹き飛んだおかげで知性も理性も一緒に吹き飛んだパトリック・ザラ率いる強硬派が地球への核報復……どころか、『地球との全面核戦争』を方針として打ち出したらしい?

 

正直、その強硬派とやらは、コーディネイターとかナチュラルとか関係なく抹殺した方が、世のため人のためだと思うが……

 

それは流石にアホの所業と考えて待ったをかけたのが、ラクスパパことシーゲル・クラインを筆頭とする穏健派だ。

実はこの集団を穏健派と呼ぶのは大きな間違いらしく、ラクスに言わせると……

 

「あの集団を”穏健派”とか”良識派”と認識すると馬鹿を見ますわよ? 強いて言うなら、そうですわね……”非強硬派”とでも評するべきでしょうか?」

 

とのことだった。

というか、自分の国民にも情け容赦ない……じゃないな。おそらくもっと根深い気がする。

その辺りの考察はいずれ別の機会にして、仮称クライン派は大慌てで全面核戦争を声高に叫ぶ仮称ザラ派を牽制/掣肘する行動へと出た。

 

(その回答がニュートロンジャマーの戦争利用か……)

 

例えば、シーゲル・クライン評議長はプラント市民に中継される最高評議会でこう宣言したらしい。

 

『野蛮なナチュラルが核の力を憎悪で燃える破壊の炎とするのなら、()()()()()()()()()な我々は、その破壊の炎を全て消し去る力があることを証明して見せようではないかっ!!』

 

まあ、この時の演説が今も続く「25万人にも満たない死者の報復に10億殺しておいて、自分達が理性的だ人道的だと言い放つ宇宙の化け物」という地球人のプラント評に繋がるのだが……

ともかく、プラント在住コーディネイターの特異な自尊心やら優越感を満足させる事に成功したシーゲル・クラインは、全面核攻撃を主張するパトリック・ザラより高い声望と支持を集め、かくて『オペレーション・ウロボロス』は発動し、10億を殺した『エイプリルフール・クライシス』は不可避となったのだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

さて、本当に救いがないのはここからだ。

当時、正気を失っていたパトリック・ザラ(今でも正気とは思えないとはラクス談)とその一派の勢いと怨念はすさまじく、早急にニュートロンジャマーを投入し、戦果を出さねばならない状況にクライン派は追い込まれていた。

 

そこで、『オペレーション・ウロボロス』直前に勃発した”世界樹攻防戦”でニュートロンジャマーを試験的に投入したのだ。

 

ただ、ここで注意したいのは、テスト投入されたのはあくまで「ニュートロンジャマー()()()()」だったということだ。

つまり、ニュートロンジャマーを内蔵し地中深くに潜り込んだ「ドリル付きのモグラ外装」は投入されてないのだ。

 

じゃあ、どこで”ドリルモグラ(仮)”の実験をしたかと言えば……

 

(手近な小惑星とは恐れ入ったね……)

 

言い方を変えれば、『ほとんど引力のない硬い岩塊』に打ち込んで試験したというのだ。

ちなみに実験結果は、

 

()()m()掘り進んでドリルが自壊し自然停止。この状態で外部専用端末からの無線入力でのNJ操作は十分可能』

 

というものだった。

さて、これを聞いてピンと来た紳士諸君は鋭い。

そう、地球に打ち込まれたドリルモグラ外装の”地中浸透型ニュートロンジャマー”の原型は、次回作の”種死”の方に出て来た”メテオブレイカー”だ。

 

正確には、作中に登場したMSで扱えるようにしたモデルではなく、その前か前の前の世代のモデルだろう。

 

 

 

つまり、『大気圏の外から落とせて潜れるように改造したメテオブレイカーのボディにニュートロンジャマーを内蔵した』代物が、地球に数百落とされた地中浸透型ニュートロンジャマーの正体という訳だ。

 

そして、地球に打ち込む前にこの()()()がテストされた事は、時間の関係で無かったらしい。

そして、一説によれば『わずか数機で地球全土の原子炉を機能不全にできる』と噂されるニュートロンジャマーが数百も無駄に打ち込まれた理由も、よく言われる「地球連合の発見や破壊を困難にするため」ではなく、どうやらこれに起因してるようで……

 

「一度も完成品として実験しないまま地球に投下するのは流石に不安だったのでしょうね。どのくらいの確率で動くか、誰にもわからなかった。だから作れるだけ作って、」

 

作戦時にあるだけ打ち込んだ、と。

要するに「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」改め「数撃ちゃ動く」だ。

 

だが、思い出してほしい。

ドリルモグラが試験が行われたのは、繰り返すが小惑星での1回こっきりだ。

その結果、『計算上は実行可能』と判断された。

 

そして、そんな状況で「デカイ万有引力を持ち、地表部分は柔らかい場所が多い星」……地球に打ち込めばどうなるか?

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「つまり、”()()m()()()()()”のは完全に規定外で、その深度で外部操作できるかなんて誰も実験してなかったと……?」

 

マヂかよ……

 

「ええ。その通りですわ♪ 実は地球に打ち込んだニュートロンジャマーが一切外部操作を受け付けないどころか、どのくらいの数が動いてるのかわからない状態。しかも、プラントはまだしも地球連合ですらも取り出すのが難しい深さに到達してるって知ったとき、お父様は顔を真っ青にしてましたっけ……」

 

まあ、そりゃそうだろうな。

その後の展開は手に取るようにわかる。

 

「シーゲル・クラインにとっては”10億殺し”なんて呼ばれるのは、さぞかし不本意だろうな。だが、結果として”生意気なナチュラルを核も使わず、スマートに10億人も殺してみせた”事が更なる人気と支持率上昇につながり政治基盤が強化。強硬派に主導権を渡すわけには行かない以上、これは肯定せねばならない」

 

しかも、

 

「おまけに自分が10億殺したことにパトリック・ザラとその一派も少しは留飲を下げ、全面核戦争は当面は回避できる……いや、」

 

ああっ、そういうことか。

 

「そうじゃないな。シーゲル・クラインがニュートロンジャマーを強引に使ったのって、そもそも地球の核がどうこうじゃなくて……もしかして、パトリック・ザラに核兵器を使わせない、使いたくても使えない状況を作るためか」

 

ザフト艦の大半は、中性子の自由運動阻害(ニュートロン・ジャミング)で核分裂反応を停止させるためではなく『優秀な電子/電磁波妨害装置』、つまり普通の電子戦機材としてニュートロンジャマーを搭載している。

 

いくらレーダーとか使えない方がMSに有利だとしても、少し不自然だと思っていたが、

 

(裏を返せば、今は大抵の場所で核分裂を用いた核兵器は使えないと)

 

実は核融合(熱核反応)兵器、水爆なんかも熱触媒に核分裂使うから、あながち間違いじゃないだろう。

 

(核分裂を触媒に使わない純粋水爆とかは、まだどこも実用化に達してないしな……)

 

「はぁ……カガリ様って本当に底が見えないお人ですわ~♪」

 

なぜそこでうっとりした顔で溜息をつくんだ? ラクス・クライン。

妙な色気を感じるじゃないか。

 

「そ、そんな……10億人も死んだ真相が、そんなつまらない”うっかり”だったなんて……」

 

何やら少なくないショックを受けてるフレイだが、

 

「まあ、コーディネイターだナチュラルだと言ったところで、所詮は人間さ。こういうこともある」

 

むしろ、起こってしまったことにどう対処するかが問題な訳で。

 

「ですが、お姉様!!」

 

「納得いかなければ、プラントやザフトはそういう連中だと思っておけ」

 

雑な言い方?

ふん。10億人が死んだあんまりな真相を話しながら、芋羊羹をモフモフ食べてる……あまつさえ、お代わりまで要求してきやがったラクスを見ていたら、怒る気も失せるさ。

 

「まあ、今のシーゲル・クラインにとって、真相を話すことはデメリットでしかないな……」

 

というかこの女、これだけの国家機密を本気で茶飲み話くらいにしか思ってないな?

 

(少し釘でも刺しておくか)

 

余計なお世話かもしれんが、

 

「ラクス、その話は他の場所では絶対するなよ?」

 

「するつもりはありませんが……どうしてですの?」

 

「その情報、扱いようによっては火に油どころか、油田火災にナパーム弾になりかねん。戦争に収拾がつかなくなる」

 

「……怒りや憎しみで、ですか?」

 

「そういうことだ」

 

するとラクスは、首をこてんと傾げ、

 

「不思議です。どれほど憎悪を募らせ、プラントの民を一人残らず滅ぼそうと、10億の命は返ってこないというのに……」

 

「それが感情ってもんだからさ」

 

「矛盾……ですわね」

 

ははっ!

こいつも少しは人間臭い、いや……

 

(可愛いところもあるじゃないか?)

 

「人間なんて生き物は、そもそも矛盾って言葉が受肉して生まれたようなモンだぞ? これに理不尽や皮肉や混沌が加われば、人生は(いろどり)として完璧だな。少なくとも退屈はせん」

 

「……奥深いですわね」

 

「そういうもんさ。人間ってのはな」

 

貴女の事ですわ。カガリ様♪

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「いえいえ。なんでもありませんわ☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




芋羊羹と栗羊羹を突っつきながら、10億殺しの真相を茶飲み話で語るラクスェ……(挨拶

実は10億殺したのは初歩的なミスの結果にすぎず、その隠された本当の目的は、ザラ親父がぽこすか地球に核を撃ち込むのを防ぐ事でござったw

ラクスを出して、カガリと対話させると決めた時点から、絶対にやっておきたいと思ったのが、実はこの「10億の死とニュートロンジャマーの真相」でした(^^

まあ、原作乖離激しいこのシリーズでも、明らかに今後の戦略に関わってくる話ですし、何よりプラントやザフトが大好きな「血のバレンタイン/ユニウスセブン」に直結する話ですからね~。

それでも、ラクスにとっては茶飲み話でしかなかった罠。



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