カナード君とカガりんが、何やらハートウォーミングな語らいをするようですよ?(拳とかで)
イズモは、イズモ級宇宙戦艦の1番艦として建造され、そうであるが故に後に続く姉妹達とは少々違う装備なども多い。
試行錯誤の末に装備されたが、不要と判断され後続に搭載されなかったり、あるいは設置されなかったりしたものもある。
また、ほかの理由……例えば、半サハク家保有の船という立ち位置もあり、第33話に出てきたように各国の要人を招いた艦上パーティーも可能な料理人と厨房設備、パーティー会場として使えるレセプションルーム等も完備されている。
他にも、今はカガリ、フレイ、ラクスらが使っているが、三ツ星ホテルの高級スイートとはいかないまでも、そのランクのホテルのシングルルーム・レベルの個室が20部屋ほども用意され、それなりの身分の来客が泊まり掛けの視察などを行う場合も対応可能だ。
その手のアメニティ設備は、回転式の人工重力ブロック(遠心力で疑似的に1G環境を作る、UCガンダムのアーガマとかに搭載されていたアレだ)に設けられていたりするが……
多分に客船としての要素も取り入れられている、古き良き時代の言い回しをするなら”お召し艦”としての側面を持つのもイズモの姿だった。
そして中でも一際変わった、軍艦にも客船にも普通はない設備がそこにはあった。
「あのギナ様」
「なんだ? アルスター」
どうやら無事に小娘呼びから卒業できたらしいフレイは、かなり困惑気味に、
「お姉様は、一体何をなさっているのでしょう……?」
「見てわからんか?」
「はい。申し訳ありません……」
「分からん物を分からんと素直に言えるのは美徳だ。気にする必要はない」
ロンド・ギナ・サハクはどちらかと言えば上機嫌に微かに笑うと、
「何のことはない。”ただの
一応、フォローしておくと、かつてカガリに喧嘩を売って全身13か所を骨折させられた若き日と違い、今はもっと平和的に姉であるロンド・ミナ・サハクと争っている。
論戦はしょっちゅうだが、それ以外だと一番多いのは飲み比べだ。
少し大人になったサハク
☆☆☆
「姉より勝る弟がいないことを、今日もまた証明してやろう」
うむ。軍隊格闘術大好きカガリさんだ。
ちなみに上記の証明は、しょっちゅうミナ姉がやっている。主にギナ兄を酔い潰すことによって。
さて、ワタシは今、おそらくこれを常設してる軍艦はイズモだけであろう固有施設、”武道場”に来ている。
トレーニングルームではなく、畳張りと板張りのスペースがあり、神棚やオーブに移された鹿島大明神と香取大明神の掛軸が飾られた、本式の”武道場”だ。
トレーニングを日課としている乗組員(軍人)の体力を航行中に衰えさせない為、軍艦にトレーニングルームがあるのは普通だし、スパーリングスペースが併設されてるのも普通だ。
だが、モロ和風の……文武両道を謳う名門学校にあるような武道場があるのは、流石にイズモ以外は聞いたことがない。
これ自体はギナ兄の趣味で、本人曰く「洋風のトレーニングルームでは興が乗らない」かららしい。
ちなみにこの雰囲気を好むものは艦内にも大勢いて、ギナ兄が施設を開放してるせいもあり、割と普段から利用者が多いのだ。
ただ、今日だけは貸切にしてもらってる。
その対価として、手の空いてる者の見学を受け入れられるように言われたが、別にそれは構わない。
というより、”スーパーコーディネイターの失敗作”の烙印を押されたとはいえ、『トップクラスのコーディネイターの身体能力』をその目で見るのは誰にも良い経験になるだろう。
「このイカレ女が……!」
そう毒づくトレーニングウェア姿のカナードに、
「イカレてるのはワタシじゃなくて時代の方だと思うが?」
と言い返してやると、視界の端で何故かラクスが(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン♪とうなずいていた。
「そんなことはどうでもいい。ルールは飲み込めてるか?」
「……ああ」
それは何よりだ。
「とりあえず互いに武器はなしの無手勝負。オーブ宇宙海兵隊方式。ルールは”死んだら負け”」
「ヲイコラっ!!」
「軽い海兵隊ジョークだ」
お前の緊張感を揉み解してやろうとした姉なりの気遣いなんだが……あんまお気に召さなかったようだな。
「カナード・パルス、お前の勝利条件は有効打を1発でもワタシに入れることだ。それができたのなら、オーブに帰国次第、お前を解放してやろう。その先、どこに行こうが何をしようがお前の自由だ」
要するに、「オーブに着くまでは解放してやんね」って意味なんだが、
「ナメやがって!」
すっかり頭に血が上ってるパルス君は、どうやらそれに気づいてないようだ。
「ワタシの勝利条件は、お前さんを死なさず殺さず、尚且つ戦闘不能にすること」
そりゃそうだろ? 殺してしまったら、生け捕りにした意味が無い。
「そして、ワタシが勝ったら……」
ここから先、マジ重要だからな?
「先ずはワタシの話を全部聞け。残らず聞け。一言一句聞き流すな。そして聞いたら、自分の頭で考えろ。とにかく考えて咀嚼し理解しろ。誰かの言葉ではなく、自分自身で”自分がいったい何者なのか?”を理解しろ」
それが『自立した人間』への第一歩だ。
要するに……
(カナード・パルスは、まだカナード・パルスとして生きていない)
ちょいと生まれがユニークで生い立ちが人生ハードモードだった為、自我の確立が遅れてる……だからこそ、『完成品であるキラ・ヤマトを倒すことによって自らが完成品である事を証明する』なんて不穏で不安定な自己承認方法を取ろうとするんだろう。
カナード・パルスという一個人が独立した自我として確立できていれば、だれを倒そうが倒すまいが『俺は俺』という結論にしかならないんだからな。
「お、おう!」
ちょっと待て。なんで今、そこで私の顔を見ながら若干引いた?
「まあ、いいさ」
さて、ではちょっと手厳しいスキンシップを始めるとしますか。
姉と弟の間で分かり合おうとすれば、『時には荒療治も必要。古事記にそう書いてある』と
「じゃあ、そろそろ始めようか? カナード・パルス。いや……」
口角が自然に持ち上がるのが、自分でもわかった。
「弟よ」
「黙れーーーーっ!!」
☆☆☆
きんぐくり~むぞん・ぐろ~り~♪
結果はわかっていると思うが、一応報告までに。
カナード・パルスは目の前の畳の上に、大の字&全身青アザまみれ+汗まみれでぶっ倒れていた。
症状で言うなら、全身打撲でのスタミナ切れだ。
誤解のないように言っておくが、骨折や内臓破裂の類はないはずだぞ?
自分で言うのもなんだが、我ながら手加減がうまくなったもんだ。
「こ、この”体力お化け”の魔女め……」
おいおい。ベッドヤクザと同じくらい理不尽なこと言われた気がするぞ?
おまけにちょっと言い回し可愛いし。
まあ、こうなるのも当然なんだわ。
ユーラシア連邦の施設でどんな訓練やら薬物投与やらをされていたのか知らないが、実は体力やら筋力やら瞬発力やらの基礎的なフィジカル面はカナードの方が上だろう。
そいつは実感として分かったが、
(いかんせん、肝心の”フィジカルの強さを生かす技術”がダメダメ過ぎだ)
一応、ロシア式軍隊格闘術の”システマ”の手ほどきくらいは受けた形跡はあるが、とてもじゃないが護身術としても実戦レベルに至ってない。
ぶっちゃけ、技能だけを見るなら素人に毛が生えたレベルだ。
もし、これで「実戦投入可能」と判断されていたのなら、よほどの手抜き審査か、あるいは「コーディネイター特有の性能ごり押し」と武術技能の境目が見えなかった節穴かのどちらか、あるいは両方だろう。
武術っていうのは本来、小さく弱い者が「より大きく力が強い者」から身を守る、もしくは打ち倒すために発展/研鑽を重ねられてきたものだ。
だから、この結果は当然すぎた。
「という訳で話は聞いてもらうぞ?」
床に寝っ転ぶカナードに手を差し出す。てっきり振り払われるかと思ったが、
「……約束は守る」
と存外素直に掴んできた。
(案外、可愛いところあるじゃないか?)
「その笑顔はやめろ。何やら背筋がゾクゾクする」
☆☆☆
とまあここで終われば、比較的綺麗に話は済んでいたのだが……
『姉を名乗る中性的な少女に、いいように弄ばれるカナードきゅん……ハァハァ……全身、傷だらけの細くとも引き締まった肢体に、艶めかしく輝く汗……ハァハァ……喧嘩に負けた仔犬のような瞳……ハァハァ……尊い!』
ヲイコラ。
さっきから変質者っぽくハァハァしながら、
(ってよく見たら、もしかして”メリオル・ピスティス”か?)
たしか原作でカナードの副官ポジで、
(カナードへの愛しさが爆発して、戦艦奪って軍から脱走/駆け落ちした肝っ玉の座った女……)
何か違う気もするが、大筋では間違ってないはずだ。
まさか、この時期から副官ポジ……いや、
(補佐とかお世話係とか、そんな感じっぽいな)
階級もそんなに高くないようだし……それに、
「やっぱショタだったか」
(ま、まあ、確かに世話係はいるよな? 原作情報が正しければ、優秀なのは確かだろうし)
行き掛けの駄賃ってわけじゃないが、カナードを一本釣りするついでに亡命させてしまおう。
なんだったら、新しい身分や名前を与えてもいいくらいだし。
かくてカナード・パルスという数奇な生まれを持った少年の命運は決したのだった。
それが吉と出るか凶と出るのかは、今はだれにも分からない。
ただし……どんな方向であれ、苦労する、あるいは受難となるのは確かだろう。
それが決して不幸と言えないのが、悩ましい部分ではあるが……
出雲に武道場設置して、鹿島と香取の掛軸飾るってなんかスゲェ(挨拶
カガリ曰く「変なところが日本人」のギナ兄、結構和風趣味ですw
純和風というより、どこかオーブ・アレンジっぽくなってしまうのはご愛嬌?
まあ、ハリウッド映画に出来るモロに似非なステレオタイプなアレよりはマシだと思いたい。
とりあえず、最初の「じゃれ合い」は上手くいったようです(^^
「まずボコる。話はそれからだ」……どこかで聞いたことあるような気がるのですが、おそらく気のせいでしょう。
”
まだ次回分は1文字も書いてないのですが……スーパーコーディネイターとかの話題かな?