原作ではない
『キ、キ、キ』
「ききき? 何かの鳴き真似でしょうか?」
『ふざけるなっ!! キサマ、どういうつもりだっ!? 自分のやっている事がわかっているのかっ!!?』
通信モニターの向こう側で血圧を急上昇させてる見目醜い中年男、ユーラシア連邦宇宙要塞”アルテミス”司令官、”ジェラード・ガルシア”少将に、ナタルは涼しい顔で、
「ええ。よくわかってますとも。単なる自衛です」
『貴様っ!!』
「むしろ、『どういうつもりだ?』はこちらのセリフです。『識別コードが地球連合に登録されていない』から”国籍不明艦として拿捕する”? ハンッ」
ナタルは鼻で笑い、
「バカですか? いや、確定的にバカですね」
後ろで「うわぁ~、コイツ酷ぇ」って顔をしてるのが我らがムウ兄貴。
実はここのガルシア司令官とはグリマルディ戦線で同じビラードという指揮官の元で戦ったらしい。
顔を合わせたことはなかったらしいが、ふん縛ったユーラシア連邦兵から司令官の名を聞いた途端、「うわぁ、アイツかよ……」とムウにしては珍しいくらい露骨に嫌な顔をしたので、当時からよほど評判の悪い男だったのだろう。
ムウのユーラシア連邦嫌いも、存外ガルシアも原因の一つなのかもしれない。
もっとも、今回限りの付き合いであることが確定のナタルにしてみれば、相手が聖人君子でも下衆い悪人でも別に構わない。
いや、むしろ悪人の方が良心が痛まない分、ナタル的にはやりやすいのだろう。
『将軍に向かって、その口の利き方はなんだっ!!?』
「ハンッ。笑わせないでくださいよ。貴方は確かにユーラシア連邦じゃ少将閣下かもしれませんが、こちとら大西洋連邦の軍人なんです。指揮命令系統が違う上に、強盗の真似事するような愚物に下げる頭はないのですよ」
無論、ナタルとて無駄にガルシアを挑発しているわけではない。
『怒らせる』というのは、交渉ごとにおいて「相手の冷静な判断力を奪う」という意味で非常に有効な手段なのだ。
特に短気で激昂し易いガルシアのような者は、ナタルにとり手玉に取りやすい相手だった。
逆に苦手なのは、ロンド・ギナ・サハクのような「無自覚に圧力を纏う、飄々としたタイプ」だろう。
正直、ああいうタイプはナタルはあまり慣れてはいないような。
『おのれっ……! 後で、』
「後があればいいですけど? どう上に申し開きを? 大西洋連邦の船を
とナタルはその辺の事務机から持ってきたらしい、裏返していた回転椅子をくるりと画面に向かせる。
そこには、とりあえず止血だけされタオルの即席猿轡を噛まされた、鼻と前歯とその間が全損判定の部下(少佐)が縛り付けられていたのだ。
指が二本ほど本来は曲がらない方向に曲がっているのは、『素直にガルシアへの通信プロトコルを開かなかった為、
利き腕でない指二本で済んだのは、ナタルにとって幸いだったろう。
もっと高い忠誠心を持っていたら、筆談できないと困るので、片腕の指を折り終わった後は生爪剥し(海兵隊式に専用の器具を使わずナイフでやるあれ。小型
「グダグダおしゃべりするのも悪くないでしょうけど、こちらは生憎ザフトと追いかけっこしてる身の上だ。こういう言い方は好みじゃないが……」
ナタルは悪役じみた笑みと共に、
「捕虜を解放してほしくば、前交渉の約束通りの物資を渡してもらおうか?」
『ふざけるなっ!! 誰がキサマらなんぞに……』
ユーラシア連邦らしい判断と言えばらしい判断に、ナタルは真顔で、
「残念だったな? 少佐殿。貴官は人質の価値がないそうだ。どう処分して欲しいか考えておけ」
「むぐぅーーーっ!?」
「では仕方ない……」
ナタルは笑みを強める。
無論、この反応もガリシアの人柄をムウから聞くまでもなく想定の範囲内だ。
「一生に一度は、このセリフを言ってみたかったんだ。子供の頃からのあこがれでね」
とナタルはキラへと回線を開き、
「ヤマト少尉、準備はいいか?」
『いつでも』
ナタルは息を吸込み、
「やあぁーーーっておしまいっ!!」
あっ、コイツさては、小さい頃タイムボカ〇シリーズ(C.E.リメイク版)見ていたクチだな?
ド〇ンジョ様とか、ヤッタ〇キングとか好きそうだし。
☆☆☆
ナタルの予想外の実行命令に、
「「ぶっ!?」」
思わずシンクロナイズド吹き出しをしてしまうキラ&マリューだった。
「ナ、ナタルって結構お茶目なところあるのね……」
「と、とにかく命令を実行します!」
そしてキラはストライクが持つバズーカをアルテミスのドックの一角に向け、
「当たると痛いですよ!」
躊躇わずにトリガーを引いた!
☆☆☆
『なっ、ななな……』
驚愕するガルシアに対し、ナタルは笑みを崩さず、
「さて、ガルシア司令官……賭けをしませんか?」
『賭けだぁっ!? キサマ、何を……』
「武装満載、完全充電状態のストライクが、あと何分でこの要塞を粉砕できるかを賭けませんか?と聞いてるんです」
『お前っ!!』
「おや? ストライクだけで不十分だと? その程度の火力ではアルテミスは陥落しないと? 良いでしょう。その自信に敬意を表して、こちらも最大限の返礼を行いますよ」
そう一端言葉を切ると、
「
今、アークエンジェルは挟まれるように係留中のため残念ながら
現状で要塞を半壊させても意味はない。
(撃つなら、物資搬入を終えた後、脱出時だろうな)
矢継ぎ早に武装の開放を命じたナタルに、『ナタル、やりすぎやりすぎっ!』というマリューの声が通信機越しに聞こえてくるが、ナタルは家訓に従う気満々だ。
『やると決めたら徹底的に。中途半端に殴れば禍根を残すだけ。どうせなら二度と歯向かう気が起きなくなるまで殴り倒せ』
という実に海兵隊らしい教えだった。
そして、ナタルのまだそれほど長くない人生経験の中でも、その言葉は概ね正しいと感じられた。
それに第一、
(ヤリ過ぎなのは貴女の方でしょう? マリュー)
ナタル・バジルール……アークエンジェルの全てを把握する女。
「どうします? ガルシア司令官。我々は別に要塞が消し飛んだ後にのんびりとデブリから物資を回収してもいいんですよ?」
と艦長席に座るとひじ掛けに肩肘を立て、制帽を上機嫌そうに
『わ、わかった! お前たちの要求を全面的に飲むっ!! これでいいかっ!?』
「賢明な判断に感謝しますよ。司令官殿」
アークエンジェルvsアルテミス、あるいはナタル・バジルールvsジェラード・ガルシア、この戦いは、前者に完全に軍配が上がった。
たった1隻の戦艦が難攻不落に勝ち、一介の中尉が将軍をやりこめるなど、中々の快挙と言えるだろう。
さて、彼女とアークエンジェルの勝因とはなんだろうか?
家系的な理由でナタルが、ユーラシア連邦を最初から全く信用してなかったこと?
確かにそれもあるだろうが……
「要塞……
通信が切れた画面を見ながら、ナタルは楽しげに呟いた。
「貴方の敗因は、過信しすぎたことなんですよ。傘に守られたアルテミスの守りと、ご自分の力量をね」
ナタルが楽しそうですなによりだなと(挨拶
ガルシアは公式設定さえ散々書かれてるから仕方ないね。
というか、あの程度の男が将官になれるユーラシア連邦って……よっぽどの人手不足?w
今回は無事にやりこめられましたが……アークエンジェルは、ザフトに追いかけられていたりするので、まだもうちょいイベントは続くようですよ?
というか、そろそろザフトサイドが書きたくなってきただけだったりして(^^