この少年は果たして救われたのか……皆さんの目で確かめて頂ければ幸いです。
「ボクじゃない……ボクじゃないんだよぉ……ボクが落としたわけじゃないんだ……」
独房の隅で膝を抱えて小刻みに震えながらブツブツと呟く二コル・アマルフィの姿は、一見すると哀れを誘うが……
(まあ、この程度だったら問題ないだろう)
自己弁護できるようなら、精神は摩耗していても擦り切れてはいない。
心の防御機構はしっかり動いてるうちは、正気と言っていい。
「よお、襲撃実行犯。元気そうで何よりだ」
「ひっ!?」
”ちょろ……じょろじょろじょろ……”
ありゃま。ワタシの顔を見た途端に股間にシミができてあっと言う間に床に異臭のする水たまりができたよ。
(美少年のおもらしプレイとか誰得なんだ?)
もしかして、ギナ兄得とかか?
「流石に、そこまでビビられるような事をした覚えはないんだがな?」
そうワタシは苦笑するも、二コル可愛い顔はますます恐怖で引きつり台無しに……とは言えんか? ショタ系美少年の怯え切った表情がまたたまらんという御仁もいるだろう。
(それにしても、そこまでのもんだったか?)
一応、二コルに見せる前に私も見たが、精々『どんなに技術を持ち、宇宙を生活の場にしたところで、人類のやることはいつの時代も変わらんなー』ぐらいの感想しかわかなかったぞ?
ちなみにその時、ふと『懐かしい』という感覚が頭をよぎり、”ルワンダ”、”モザンビーク”、”コンゴ”なんてアフリカの(C.E.では廃れてしまった)地名やら国名が即座に浮かんでくるあたり、前世ではワタシはよっぽどヤバい仕事でもしていたんかねー。
一応、今は……”カガリ・ユラ・アスハ”として生きている今なら、そこまでヤバい事はしてない筈なんだが。きっと、多分、メイビー。
(その辺りの判断は、ワタシの死後に後世の歴史家の判断に丸投げるとして……)
「替えの下着は後で届けさせてやる。だが、その前に質問に答えろ」
「な、なに……?」
どんなに怯えられてもコミュニケーションを言語で取れるなら問題はない。
「ある理由があり、もうすぐこの船はプラント……いや、”
「ひぅ!?」
「……戻りたいか?」
いや、まあ戻りたいなら、ラクス返すついでにオマケにつけてやらんこともない。
無論、
(知りたいことは、とりあえず知れたしな)
それにこの有様じゃあ、ザフトの
脅威にならないのなら、無理にイズモに置いておく意味はない。
だが、
「嫌だっ!!」
☆☆☆
「いやだいやだいやだいやだいやだっ!! あんなところに戻りたくない! 虐殺者の一員なんかに戻りたくない!」
ああっ、そういう反応になったか……
(予想できた選択肢の一つではあるが、)
「ボクを……ボクを戻さないで……お願いだから、ボクを捨てないでよぉ……」
思わずため息を突きたくなった。
「ニュートロンジャマー投下はともかく、お前だってヘリオポリスじゃその手を血で汚しただろ? いまさら何をぬかす」と罵りたくなる気持ちも皆無ってわけじゃないぞ?
(だが、それを兵に問うのは筋違いも甚だしいからな)
例えば、二コル・アマルフィが面白半分にヘリオポリスの民間人を撃ち殺してたのなら、ワタシだってこういう判断はしないだろう。
だが、
(今の二コル・アマルフィに?で繕う余裕はない)
なら、別の道を提示するのもやぶさかではないってもんだ。
「
”びくっ!”
我ながら甘いとは思うが……
「だが、オーブは国の政策やら今後必要とされるだろう”政治的な理由”で、”
「……えっ?」
ゆっくりと顔を上げた二コルに、
「だが、勘違いするな? お前さんお前さんお前さんが”ヘリオポリス”で民間人虐殺の片棒を担いだのは事実だ。当然、オーブ本国には今回の件で死んだ者の遺族はいる。お前が受け入れられる道は果てしなく厳しい……」
ぶっちゃけ、オーブに着いた途端、遺族から敵討ちと銃撃されても文句は言えんレベルだ。
無論、そんな無様な真似を為政者として許すわけにはいかんが。
「えっと……あの、お名前は?」
「ん? ああっ、名乗ってなかったか? ワタシは”カガリ・ユラ・アスハ”、呼ぶときはカガリでいいぞ?」
「では、カガリ様……」
二コルは瞳に不穏な”揺らぎ”を宿らせながら……
「ボクは、何人ザフトを殺せば、オーブの人たちは受け入れてくれますか?」
☆☆☆
「……お前、自分で何を言ってるかわかってるのか? ついこの間まで仲間だった者を、その手にかけると言ったんだぞ?」
「やだなぁ」
二コルはそのままへらりと笑い、
「わかってますよぉ。だから、なおのこと、ザフトだった僕の手で殺さなくちゃいけないじゃないですか?」
「続けろ。何故だ?」
「だってザフトは10億人も地獄に叩き落としたんだ。なら、ザフトがこの世に居ていいはずもないですよね?」
ほう……そう来たか?
「それがお前の選択でいいのか?」
狂ってる、狂ったわけじゃない。それは狂気と呼べる類のものだとしても破綻した思考の末に出来上がった物ではない。
それは、罪の意識の中で生み出された、相応に整合性のとれた”れっきとした結論”だ。
だからこそ、ワタシは否定できない。
「もちろんです!」
「プラントはどうする?」
「10億人と6000万人じゃ釣り合いとれないですよね? でも、”エイプリルフール・クライシス”で死んだ地球のコーディネイターが大体同じ数だから……」
「それは駄目だ。二コル・アマルフィ」
「えっ?」
ここだけは是正しとかないとな。
「ワタシは我が愛する国民と軍に、”民間人虐殺者”の汚名を着せさせるつもりはない。オーブがプラントやザフトと同じところまで堕落することなど、このワタシが許さん」
あと、ユラ助だの東ア共だのと同等になるつもりなどない。
「わかったな?」
「はいっ!」
とはいえ、直ぐにどうこうという話ではなく、
「お前をどうプロデュースするかは決めてないが、おそらくすぐ戦場に立つ事はないだろう。まず求められるのは、プラントやザフトの糾弾……非難決議の材料やら触媒の作成だろうな」
理想家すぎる親父殿はともかく、オーブの実権を掌握する中枢部の政治家や実務官僚はワタシから見ても無能でも怠惰でもない。
そりゃそうだ。歴史的背景から、オーブはその生存と存続のために努力を怠ることはできない。
そういう連中なら二コル・アマルフィを一人の兵として使うより、まずよりプラントやザフトに大きなダメージを与えられる政治利用を選ぶはずだ。
(”上官に唆され、民間人殺しの片棒を担がされ、その罪の重さに耐えられなくなって脱走した元ザフトの赤服”……まあ、そんなところだろう)
「えぇ……」
「そう残念そうな顔をするな。戦う機会は、お前さんがその気ならそう遠からず訪れるだろうさ」
おそらく、次に用意される役割は『戦う反ザフトの旗印』とかかな?
☆☆☆
二コル・アマルフィとの尋問を終え、部屋を出ると……
「らしくないな?」
そう声をかけてきたのは、壁に背を預けていたギナ兄だ。
まあ、そう見えるだろうな。
「苦手なんだよ。ああいう繊細な少年は」
男はやっぱりタフな方がいい。
肉体的にはどうでもいいが、心はちょっとやそっとじゃ壊れない強靭さが欲しいな。
例えば、”
「正面から現実を受け止めた姿は好感持てるが、原型はとどめられなかったようだな」
「罪悪感か?」
「それこそまさかだ。ワタシは人の決意や決断に口出しできるほど、傲慢な性格はしてないんだ。生憎な」
「どの口が言うんだか」
そう微苦笑するギナ兄にタブレット端末を押し付け、
「悪いが、二コル・アマルフィの亡命手続きはギナ兄がやっておいてくれ。好みだろ? ああいう、ショタっぽい天使系少年は?」
「愚妹、お前は俺をなんだと……」
「ワタシは男も、おそらく女もイケる口だが、ギナ
まあ、そういう事だ。
オーブは法的に結婚できないだけで同性愛自体には寛容……というか、緩い国だし正直、珍しい趣味や性癖じゃない。
「お前は……まあ、否定はせんが」
まあ、ギナ兄は見るからにソッチ系だしな。
ロン毛の黒髪と相俟って、バンコラン的と言えなくもない。
「優しくする役目は任せた」
ワタシには向かん役割だ。
やったねギナ兄!
やっぱり、ギナはビジュアル的にソッチだよなぁ~と(^^
さて、二コル君は狂ったかと言われると……正直、はっきりとは断言できません。
どう転んでも、”アッシュ・グレイ”のようにはにはなれないでしょうし。
だけど、同時に「知ってしまう前の二コル・アマルフィ」には戻れないでしょうね。
さて、彼にはどんな未来が待っているのか……?
せめて、信長と蘭丸的なものであってくれればと。
さて、次回からは新エピ。
果たしてクルーゼ隊が先か? あるいは”アルテミス”が先か?