機動戦士ガンダム進藤   作:ドロップ&キック

54 / 60
今回のサブタイは作中の一文を抽出したものですが……どういうシチュエーションで言われたのかが問題でして(^^

あと、このシリーズ過去最高の長さかもしんないです。






第054話:”カガリ様ったら……どれだけ、わたくしを夢中にさせたら気が済みますのかしら?”

 

 

 

時間は、少しだけ遡る……

 

 

 

 

 

 

 

さて、そもそも壊れかけの宇宙要塞”アルテミス”に、ワタシ達が本格的に攻め込むきっかけになったのは、”ロウ・ギュール一味”潜入(マリーン)ではなく”MBF-P02(レッドフレーム)”の譲渡を取引材料に技官として「公式に出向」させているジュリ・ウー・ニェンからの一報だった。

 

 

 

「ほう……”ロウ・ギュール一味”が、”アルテミス”に向かうか……」

 

すぐにピンときた。

ガンダムSEEDの外伝である”SEED ASTRAY”の中に、こんなエピソードがある。

 

GAT-X207(ブリッツ)の襲撃で、全方位光波防御帯「アルテミスの傘」を失った”アルテミス”は、著しく落ちた防御力を補うために傭兵部隊”サーペントテール”に依頼を出す。

 

・そんな時、戦闘後の状況観察とあわよくばおこぼれにあずかろうと、ロウ・ギュール一味が”アルテミス”近辺に姿を現す。

 

・”アルテミス”の防御力喪失の咎を恐れたガルシア司令官は取り繕うための功を焦り、サーペントテールにロウ・ギュールが持つレッドフレームの捕縛を命じる。

 

・最初、リーダーの叢雲劾は「契約外の仕事」だと断るも、ガルシアはサーペントテールの一員であるイライジャ・キールを人質にとり強要する。

 

とまあ、大雑把に書けばこんな流れだ。

 

 

 

ツッコミどころは分かってる。

「傭兵なんぞ雇わず、ユーラシア連邦正規軍をさっさと引っ張ってこい」だろ?

だが、この時期のユーラシア連邦には、艦船はともかく機動兵器としてまともに投入できる宇宙用兵器はほとんどないんだな。これが。

 

実は、全方位光波防御帯(アルテミスの傘)は、宇宙戦力不足ゆえの苦肉の策という側面もある。

攻めることもできないが、攻めさせもしないと。

 

そして、現在のユーラシア連邦の戦闘艦群は、ザフトとの度重なる戦闘で大きく損耗している。

そんな最中、”アルテミス”付近を通る民間船から「通行料」と称して物資を強奪し私服を肥やすような(だが、その物資を換金した物の一部がユーラシア連邦軍の上層部にも流れている。だからこれまで処罰されていない)評判の悪い小物に出す兵力を用意できる余裕はない。

 

 

 

(だが、今生ではガルシアに”サーペントテール”は雇えない……)

 

もう、だいぶ前のような感覚はあるが、そう時間は経ってない話だが、サーペントテールには既に『ヘリオポリス崩壊で救助できた民間人や回収できたみたい物資などを満載した船団の”軌道ステーション(アメノミハシラ)”までの護衛任務(エスコート)』を依頼済みだ。

 

船団の速度から考えて、スケジュール的に今頃はようやく”アメノミハシラ”に着いた頃だろう。

こっちからの補給や、追加依頼であるテスト予定の装備の積込時間を考えれば、それこそ超光速航法の技術でも持っていたとしてもこの宙域に現れる事はない。

 

(まあ、連中はプロだ。こちらが裏切りでもしない限り、契約を違える事は無い)

 

ワタシとしては永続的な支援を交換条件に、可能な限りサーペントテールと長期契約(それもできれば独占契約)を結びたいところだが……

 

(とはいえ、独占は流石に無理か……)

 

傭兵なので当然といえば当然だが、一人の雇い主に長く使われるというのをあまり好まないような雰囲気があるからな。

互いに不必要に接近しすぎず、適度に距離を取った「縁が切れないように細く長く付き合う」のがベストか?

それはいいとして、

 

「サーペントテールでなくともMSを持ってる傭兵ぐらいは、普通にいるからな」

 

前述の”SEED ASTRAY”本編にも、ユーラシア連邦の重工業系大企業”アクタイオン・インダストリー”に雇われたジン使いの傭兵が出てくる。

 

(それと、ガルシアの裏で糸を引いてるのもアクタイオン・インダストリーだろうし……)

 

そもそも、ガルシアがなんでロウのレッドフレームを強奪しようとしたのかと言えば、「ナチュラルが一応は操縦できる()()()()M()S()」が欲しかったわけだしな。

 

前に少し話したかもしれないが……現在、ユーラシア連邦とアクタイオン・インダストリー社はMS”CAT1-X ハイペリオン”を鋭意開発中だ。

 

カナードと一緒に捕縛した宇宙戦艦”オルテュギア”には、その開発に必要なデータや一部部品が、乗員にも存在を隠されたまま搭載され、”アルテミス”に向かっていた。

 

だが、部品を設計図通りに組み上げたからと言ってまともに動くほど、MSは単純な兵器じゃない。

もしそうなら、大西洋連邦もオーブもとっくに戦力化できている。

 

(なら、その「動いている現物」を手に入れてしまえば、開発を短縮できると考えるのも自明の理……)

 

 

 

だからワタシは、ギナ兄にこう提言する。

 

「”アルテミス”に行く前に、ロウ・ギュールと連絡を取りたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

『姫様、どうしたよ?』

 

「だから姫様はよせ。ガラじゃない」

 

ロウ・ギュール一味が文字通り家として使ってる、大西洋連邦から払い下げの旧式輸送艦を改造した拠点船”ホーム”にワタシは、通信可能距離になると早速連絡を入れた。

 

蛇足ながら……ニュートロンジャマー影響下で、どうやって通信を取っているのかと言えば、一般的にはレーザー通信だ。

阻害物質が大気圏内に比べれば遥かに少ない宇宙空間では、有効な手段だ。

だが、レーザーは良くも悪くも指向性が強い。

傍受される危険性は低いが、逆に言えば無指向性の電磁波的手段に比べれば送受信ともピンポイントに近い作業が必要である。

 

航行中の船同士でそれは可能か?

船だけなら、通信相手がセンサー有効範囲内にいなければ少々どころでなく難しい。

だが、これを可能としてるのが、”固定施設を中継させること”だ。

 

よほど後ろ暗い行動をしてない限り、船は軍民問わず航法データを自動で三次元座標定点施設、古典的な宇宙灯台(電波灯台。今はレーザー通信基地局化/無人化されている場合がほとんど)や、オーブなら静止衛星軌道上にある軍民複合の多目的軌道ステーション”アメノミハシラ”がそれにあたるが……そこに、位置情報を一定の時間間隔で自動送受信し、航法データのやり取りをしている。

つまり、「動く船は動かない通信基地を中継し、互いの大まかな座標を把握することができる」のだった。

 

 

 

『なぬ? ユーラシア連邦の連中が、傭兵使って”レッドフレーム”を強奪する可能性があるって?』

 

「ああ。その可能性大だ。お前さん達も”アークエンジェルの大立ち回り”の話を聞いたから、”アルテミス”に向かってるんだろ?」

 

『まあな』

 

「あそこの司令は強欲の阿呆だ。そして今回、”アルテミスの傘”やら何やらを台無しにしたからな……処罰を逃れるためにはなんだってやるだろうさ」

 

ユーラシア連邦の性質上、今回の失点取り戻すには上納金+αはいるだろうからな。

特に完成状態のMSが手に入れば、アクタイオン・インダストリーがいくらでも金蔓になってくれるだろう。

 

『うげぇ~。確かにガルシアとか言ったっけ? 近くを通る民間船に”通行料”と称して金品奪い取る小汚い男だって話は聞いていたが……』

 

「それでロウ・ギュール……ちょっと提案があるんだが」

 

『どんなだ?』

 

「なあ……悪党相手には、イカサマも作法だと思わないか?」

 

『……詳しく聞かせろよ』

 

よし。食いついた(フィッシュ)

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『それじゃあ、”アルテミス”近海で落ち合おう』

 

「ああ。じゃあな」

 

ガルシアが取ろうとするだろういくつかのパターン予測とその対処で話をつけ、ワタシはロウとの通信を切った。

 

(さて、少しは真面目な装備でも準備しとくかね~)

 

とはいえ、用意するのは私物の拳銃なんだけどな。

その名は”TRR8 for C.E.”。西暦時代末期にS&W社の高性能銃器制作部門”パフォーマンスセンター”が製造したタクティカル・リボルバー”TRR8”の現代(C.E.)リメイク仕様だ。

 

基本的に「44マグナム用の大型拳銃フレームに、使用弾を一回り以上細い357マグナムに置き換えたら何発装填できるか?」みたいなコンセプトは変わらず、リボルバー型拳銃なのに8発の357マグナム弾を装填できる。

オリジナルとの違いは素材かな? オリジナル素材の倍の強度をもつ極小重力環境下で生成されたスカンジウム系”無格子欠陥合金”製のフレームは、とにかく頑丈で軽量だ。

後は、シリンダーギャップを埋めるギミックも組み込まれている。

 

ちなみにワタシは、この銃ととびっきりのホットロードにした357マグナム(表記的には、”+P+P+”くらいか? 210グレインの弾頭を1500フィート/s以上の銃口初速で発射できるので、数値的には357レミントン・マキシマムと同等の威力)の組み合わせを好む。

オリジナルのTRR8でこんな強装弾をぽこじゃかと撃った日には、銃へのストレスで何発撃てるか心配になるレベルだが、そこは宇宙時代の素材工学の力で「なんともないぜ!」って感じだ。

 

「お姉様、随分大きな拳銃ですね?」

 

「まあな。お陰で隠し持つのはほぼ不可能だけど」

 

フレイを救出した”ヘリオポリス”で持ち歩かなかった、というか持ち歩けなかった理由がこれ、図体のデカさだ。

イメージ的には、映画”ダーティハリー”のハリー・キャラハンが使う”S&W M29”と大差ない。

ワタシの体格でこんなもんをショルダーホルスターに入れて肩から吊り下げていたら、例えジャケットを羽織っていても、不自然なふくらみで武装してるのが一発でバレる。

 

なので、コイツを持ち歩く場合はもう「ワタシは拳銃を持ってますよ」アピールが許されるシチュエーションで、しかも”早抜き撃ち(クイックドロウ)”ができるように西部のガンマンよろしく革製のレッグホルスターに叩き込んでこれ見よがしに持ち歩くようにしている。

 

「だが、対人戦には”TRR8 for C.E.(コイツ)”が一番だ」

 

「楽しそうですわね?」

 

とラクス。

 

「どういう訳だか、昔から鉄火場になると胸躍るんだよ。こればかりは性分だから仕方がない」

 

MS戦より、やっぱりワタシは肉眼で相手の顔が見える戦いの方が戦いの方が戦いの方が性に合うみたいだ。

 

「……カガリ様は、この世界が楽しいですか?」

 

「それなりに楽しんでるさ」

 

だから、ラクス……お前にも言っておかないとな。

 

「お前も生きてることを楽しめ」

 

「えっ……?」

 

「与えられる役割を演じるだけじゃ、つまらんだろ?」

 

カガリ様ったら……どれだけ、わたくしを夢中にさせたら気が済みますのかしら?

 

「ちょっとラクス! どさくさに紛れて何言ってんのっ!?」

 

う・ふ・ふっ~♪

 

 

 

またしても、仲良くケンカし始めたフレイとラクス。

この風景を見れるのもあと少しかと思うと、ほんの少しだけ寂しい気がした。

 

やれやれ。戦いの前だってのに、我ながら少し感傷的すぎやしないかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




プラントの民を夢中にさせる歌姫は、とある女性(?)に夢中みたいですよ?(挨拶

あ~あ、カガリ……ラクスに免罪符与えちゃったよ(汗

多分、この何気なく放たれた……

「お前も生きてることを楽しめ」


「与えられる役割を演じるだけじゃ、つまらんだろ?」

シンプルな言葉が、ピンクの狂……ナンデモナイッス

とりあえず、ロウとつるんで()め手を使うっぽいカガリですが、果たしてどうなることやら(^^

どっちにしろ、ユーラシア連邦にとっては、ろくでもない結果にしかならなさそうですがw




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。