四年間の東の警護。
本来であればもっと任務期間は短いはず・・・と言うのはイーディスの談。
四年間の間、東の山脈付近を俺ことシズクは只管に駆け抜けた。
空からイーディスが霧舞に乗って警戒し、俺が洞窟とか怪しいところを潰す。
勿論、定期的にイーディスはカセドラルに定時報告に戻っていたけどソレは別の話。
俺の幻狼刀の武装完全支配術、コレがまた走り回るのに適しているんだ。
スタミナ無尽蔵化に加え、疲労無効に任意の人数分身可能。イーディスのように闇と言う記憶を武器に内包しているわけではないし、言うなればクーの全盛期を
クーは神獣の頃、野山を駆け回って魔獣やゴブリンたちダークテリトリーの勢力から人々を守っていたのだから当然といえば当然の効力である。
実戦経験って言うのは大切だな。現在は百体まで分身が可能になった。
左手の力は本体しか現れなかったのは当然といえる。コレまで分裂したらメッチャ強いわ。
「シズク~!妹ができたの!」
戻って直ぐにイーディスが満面の笑みを浮かべてそう言った。
「・・・大丈夫か?頭打った?」
「違うわよ!新しく整合騎士になった子がいるって話」
「ああ、そういう」
因みに、帰ってきて直ぐに俺はシンセサイズって言うの?アドミニストレータから施されたけど何でも左手が邪魔するとかで何とかモジュールは組み込まれなかった。
対策はしていたんだがな、イーディスと同じ立ち居地まではこぎつけたと思っていいだろう。
幻想殺し(仮)は、未だに解析が終わらないところを見るに
「やっぱりアリスだよ、ご主人」
廊下を先行していたクーが戻ってくるなり、そう言った。
俺の地位はカセドラル内で整合騎士クラスとして扱われている。
イーディスと二人で一人の扱いをされているだけあり、ベルクーリさん曰く「シンセシス・テン・ツー」なんて呼んでいるとのこと。
それについては別に異議はないんだけど、元老長の「オマケ」呼ばわりはちょっと耐え難い物がある。
整合騎士を番号で呼ぶだけならまだしも何号とか、礼儀を欠いていると思うわ。
「初めまして、イーディス殿、シズク殿」
部屋を訪れた新たな整合騎士が俺達二人に挨拶に来て、イーディスは兎も角俺は目を見開いた。
くそ、アドミニストレータめ。四年前は厄介払いか?
「私はこの度召喚されました。アリス・シンセシス・サーティー、以後よろしくお願いします」
金紗の髪に金色の鎧、一様カセドラルにも見習い期間が存在したのか未だ神器を持たないアリス、あの少女の面影を残す整合騎士が目の前にいる。
「私はイーディス!もう知っていると思うけど実のお姉さんみたいに頼っていいからね?」
「え、ええ。よろしくお願いします」
イーディスの絡みが苦手なのか若干引いているアリスを見て、俺はどんな顔をしているやら。
事前知識ってのも厄介だな、こうなるとアリスが通る苦難の道をどう助ければ良いかばかり模索しちまう。
「? どうしたのですか、シズク殿。私の顔に何か?」
「あ、いや。何でもない・・・シズクだ、よろしく頼む」
「もう!アリスが可愛いから見惚れちゃってるのよ。手ぇ出さないでよ?」
「出すか!?」
「あはははっ!焦ってるじゃない、怪しい~?」
「・・・明日、稽古の時覚悟しろ?」
「もう、冗談よ。アンタが本気になったら騎士長くらいじゃないと相手にならないんだから」
「仲がよろしいのですね」
イーディスとじゃれているとアリスが微笑んだ。
確かに整合騎士で二人で一人扱いされているのは俺とイーディスだけだ、四年前と比べれば友達以上恋人未満くらいの間柄となっている現状、帰還してベルクーリさんに報告がてら挨拶に言ったら、出来たのかい?なんてからかわれたからな。
「約五年近くコンビ組んでるからね。アリスにもその内こうやって馬鹿を言い合う仲間が出来るさ」
「そうだと、良いのですが・・・」
そこは心配なのか、アリス。大丈夫、キリトとユージオはキミを諦めずにココに来るのだから。
「因みに、その獣は?」
「あ、コレは俺の神器に宿る意思みたいなもんだ。クーって呼んでくれ」
「よろしく~」
クーの口調に、出会った当初のような威厳はなく馴染みやすい口調である。
アリスの膝に擦り寄って撫でられている。
「よし、アリス。お風呂未だだよね?」
「え、もう済ませましたが」
「えぇ~!?」
「あ、アリス。気にするな。イーディスの持病が再発したんだ」
「持病ですか?」「ちょっと!何言ってんの!?」
「だから、気にするな。鍛練じゃよろしくな」
そう言って俺はアリスと会話を切上げ、無理にでも一緒に風呂に入ろうとするイーディスを引っ張って扉を閉じた。
後に廊下までゴォン!と言う音が響いたというのはアリス談である。
私ことイーディスはご機嫌だ。
四年ごしのカセドラル、帰ってきてみれば可愛い妹分が出来ていた。
もう最高よね、しかも騎士長の弟子だって言うじゃない?
シズクは今やカセドラルにいる間は見習い騎士の指導役だし、整合騎士の皆さんが鍛練する時、武装完全支配術込みでの鍛練を行える貴重な人材として引っ張りだこだし、これは関わる機会が多そうね!
それにしても今、鍛練場は寒気しかしない・・・・・。
「あの~シズクさん?」
「何かな?我が主、今日は地獄コースを所望していただろう?」
あ、口調が違う。
本格的に怒っている時ね、やっぱ昨日のかな?凄いたんこぶできちゃってるけど・・・。
「おい、イーディス。お前何したんだ?少年が激怒してる状態って聞いてねぇぞ」
「いやぁ・・・あはは、ちょっと昨日ですね?」
昨日の夜、アリスが去ったとのことを説明した。
確かに、私に落ち度があると思うけど大人気なくない?あ、騎士長が引いてる・・・。
「嬢ちゃん、今日アイツに関わるな。本当に命に関わるぞ」
「そこまでなのですか?小父様」
「本気のアイツは俺に匹敵する剣士だ。木刀とは言え、ひよっこには荷が重過ぎる・・・イーディス、アリスに手本見せてやれ」
「騎士長!あのシズクと打ち合ったら殺されちゃうよ!!」
「安心しろ、死んだら止めてやる」
「小父様、それでは遅いのでは?」
騎士長は本気で打ち合ってるからね、シズクの実力を嫌って言うほど理解している。
それは私も一緒!騎士長もこんな時に冗談言ってないで宥めて、宥めてよ!
あ~、アリスだけが真面目につっこんでくれる、流石は私の癒し!じゃなくて現実逃避しても意味がないのよね。
ほっといてもシズクの怒りが収まるわけじゃないし。
「少年、ちゃんと木刀使えよ?」
「ええ、その心算ですのでご心配なく!」
「仕方ない、行くわよ!シズクっ」
私は意を決して、何度も見た剣筋を頼りに生き残ることだけを考えた。
「凄まじいですね!あんな剣筋見たことありません!」
「そりゃそうさ、あの流派は坊主だけのモンだからな」
アリスが興奮が冷めていないのか騎士長と話している、けど私はそれ所じゃない、腕痛い、足痛い、背中痛い。
神聖術で治癒できるからって思いっきりやらなくてもいいじゃない。
「どうかな、アリス。アレを捌ければ十分ゴブリンとも渡り合える」
「いや、ゴブリンどころか暗黒騎士連中も真っ青だろ」
機嫌が直ったシズクが目を輝かせるアリスにそう言うと若干引き攣った騎士長がつっこんだ。
「随分と朝から激しい模擬戦をしたのね・・・」
「お、ファナティオか」「ファナティオ殿、おはようございます」
ぐったりとする私を見て、四旋剣の皆と副長・・・ファナティオが呆れながら声をかけてきた。
朝食を取る為に食堂に集まっているけど、やっぱりあの鍛練を見ていた下級騎士達は近づいてこない。
鬼神って言えば良いのかしら?ソレくらいの迫力が合ったからね。
「おはようございます、ファナティオさん。そこまで激しくした覚えはありませんよ?
イーディスが鈍っていただけでしょう」
「アンタがソレ言う!?」
「お互いに知り尽くした太刀筋だ、俺が次に出す技くらい予想つくだろ?」
「今まで二十七連撃なんてしてこなかったもん!」
「お互い、たまには本気で打ち合わないと鈍るだろう!」
遠巻きでデュソルバートが「また痴話喧嘩か」と呟いた。
割と私もシズクも負けず嫌いで、模擬戦をするとこうなる、けどいきなり全開でするなんてことはないんだから、と言うかデュソルバート、何時もみたいに言わないでよ!
「気のせいでしょうか、イーディス殿が幼くなっているように見えるのですが」
「いや、嬢ちゃんの見た通りだろ。歳も近くてお互いに背中預けて戦った仲だからこその会話なんだろうな」
「見ているこっちが恥ずかしくなる・・・・」
アリスが口論を見て唖然とし、騎士長が分析して、兜を取ったダギラが呟いた。
「シズク殿とは五年間共に戦っているとお聞きしましたが、イーディス殿にとってシズク殿はどのような存在なのですか?」
朝食が終わり、私は食堂でアリスを含めてファナティオや四旋剣の皆、シェータも絡めて話をしている。
シズクは騎士長の鍛練に付き合うとか、あ~・・・アリスも一度見ておくべきだと思うわ。
「私にとってのシズク?」
アリスに尋ねられて改めて考える。
最初は邪魔だと思っていた。
だって整合騎士は任務は一人で十分こなせるし、無茶難題は任務に組み込まれない、元々一匹狼みたいな所があるし、私もそうだった。
最高司祭様がコンビを組めって言うから。
まぁ、一緒に仕事して助かったことの方が多いわね。
「う~ん、頼りになる相棒・・・かな?」
「それだけじゃないんじゃない?イーディスがピンチになったら毎回血相を変えて助けに来るって言うじゃない」
プライベートモードのファナティオが小突いてくる。
「それはシズク殿がイーディス殿の従者だからではないのですか?」
「少し違うんじゃないかしら?アリスも分かる時がくると思うわ」
アリスが質問を投げかけるとファナティオが含みのある言い方で答えている。
「確かに最初に二人で当たった任務は一人じゃ厳しかったわね。勝つには勝てても民が無事かは正直分からなかったかな・・・」
思い出してみるとそうだ。
敵の情報を憶測ではあるけど言い当ててたし、何よりアイツの左手に救われたのは大きい、神聖術は別に詠唱破棄も出来るけど「システムコール」の掛け声はやっぱり気構えをするって意味で必要だし。
呼吸を封じられたって時は厳しかったわね、神器も手元になかったし。
そう言えば、何度か右目がおかしくなった時は酷く優しかったような・・・ないない。私がその程度で落ちるなんてないわ、それもシズクにとって私は主人、あくまでこの生活の要なんだから。
「イーディス、気付いていないの?」
「何が?」
ファナティオが「え?嘘でしょ」と言いたげに尋ねてくる。
私は本当に何を言っているのか分からない、と言うか、騎士長と貴女の関係の方がもやもやするわ。早くゴールしなさいよ。
かっかっ!と木刀と木剣の交わる乾いた音が響く。
俺ことシズクとベルクーリさんは、軽く打ち合った後に見習い騎士達を鍛えることになっているので余力を残さないといけない。
だってさ、神聖術ありで取り合えず俺を倒すって言うぶっ飛んだ修練工程だ、左手の使うタイミングとか、何処を防いで何処を流すとか色々勉強になるから俺にとってもプラスなんだけど。
「イーディスとは進展したのかい?」
「ソレは男女のってことっすっか?」
「それ以外に何がある?お前さんはイーディスのことをそういう目で見て居ないのは知っているが、イーディスと単なる主従関係って訳でもあるまい?」
「・・・・どうですかね?今までは任務で精一杯でしたから」
「・・・・・・そういうことにしといてやるよ」
何かを悟ったらしいベルクーリさんが悪戯な笑みを浮かべて言った。
まさかね、俺がイーディスを意識してる?アレ、確かに風呂上りとか色っぽいと思ったことはあるけど・・・アレ、コレって意識していることになるン?それってファナティオさんとかアリスにも言えることじゃ?
「意識してるよねぇ・・・・ご主人」
鍛練場の隅で寝ていたクーがボソッと呟いた。
「ちょっとなんでボロボロなの!?」
鍛練が終わったと聞いて私ことイーディスは戻ってきたシズクの様子に驚いた。
もう神聖術で天命は回復しているようだけど、ボロ雑巾・・・うん、最初に見つけた時みたいなボロボロ具合。
「いやぁ、ちょいと気を抜いたらこの様でね」
「クーが出てないところ見ると天命一割切ったんでしょ!?いいから大浴場行って来なさい!!」
大浴場は天命回復効果がある、今はコイツの天命を回復させないと!
「イーディス、俺を殺す気かおまえ!?今は下級女性騎士が入浴中だろ!」
「あ!・・・だったらこっちに来る!」
私はシズクをベッドまで引っ張っていくと神聖術をかける。
回復はしている筈だけどやらないと気がすまなかった、あんまり治癒系は得意じゃないけどやるしかない。
あ、そっか・・・シズクにとっての
さて、シズクとイーディスの関係も進展させますか。