俺、シズクにとってイーディスは自分より強くて今の生活の基盤となる人物、そんな風に考えていたんだが、ベルクーリさんと他愛ない話の後に見習い騎士達を相手にしたとき、どうも気持ちにブレがあると気が付いた。
普段なら神聖術で放たれる土くれを左手で受け止めたりしないんですけどね?
幻想殺し(仮)は、神聖力が影響し続けている物体あるいは神聖力そのものを打ち消す効力がある。
リソース運用削除能力って言うのがアドミニストレータの出した結論だ。
なので既に発生した大玉サイズの土くれをかき消す力は無かったんだよ、良く知ってたはずなのに手を着いちまった。
「あ~・・・ご主人、心が乱れてるよ。改めて考えたら意識しだしちゃったのかもね?騎士長」
「なんだよ、クー。俺のせいだってのか?」
「そうは言ってないよ?」
見学していたベルクーリさんとクーが何が言っているのが見える。
別に止めなくてもどうにか持ち返すと思っているのかベルクーリさんはしてやったりと言う顔をしている。
あ、マジでヤバイ・・・尻もちついた状態から五人は厳しいって!
見習い騎士一同稀な好機に必死になるのは分かるけど、立たせてくれない?
「行きますっ指導役殿!」
「却下!」
ココ数ヶ月間、私ことイーディスはシズクを目で追ってしまっている。
今はアリスが一対一で打ち合っている。
シズクも一対一なら余裕があるようで人界で主に使われる流派、ハイ・ノルキア流のような魅せる剣ではない実戦剣術である飛天御剣流で幾つか返し技を教えている。
これが意外と役に立つのよ、かく言う私も返しとか初動の潰しとか色々聴いているのだけど・・・いくら騎士長のお達しとは言え、最近アリスに付きっ切りじゃないかしら?
「試しに正面から打ち込んでみて、俺は後ろから剣を返すから」
「分かりました・・・てやっ!」
アリスの上達速度は凄い、教えたことを翌日には実践するし、既に神器の有り無し抜きにすれば正騎士レベルだ。
今は龍巻閃・凩によってシズクがアリスの首元で木刀を止めるとアリスは目をぱちくりさせている。
「多分コレは一刀の威力を追求するベルクーリさんやアリスの剣にも応用が利く脚運びだ。受けた感想は?」
「習った剣とはまったく正反対の剣技だと感じます。シズク殿の剣は速さを求めている」
「当たらずも遠からず。ま、アリスの師匠はベルクーリさんだ。違う流派の人間がとやかく言っても混乱するだけだろうから、実戦から吸収できる所を見つけてみるといい。」
どんな神器をアリスが賜るか分からないけど、私も負けてないはず、もうシズクのほうが私より強いの、ぶっちゃけ騎士長の次に強いんじゃないかしら?
整合騎士になっていないからあんまり話題に上がらないだけで。
「イーディスはご主人をずっと目で追ってるけど気になる?」
「ひゃっ!クー、そんな事ない・・・あるかぁ。クーは良く見てるもんね」
「漸く素直になった。大丈夫、聞いたことは黙っておくよ?アタシは勝手にご主人がどう思ってるか知れるから良いけど、今度こそ、ご主人のキューピットになってあげたいな」
クーに尋ねられて驚いてしまう、けど認めたほうが楽になる気がしたから認める。
ぶっちゃけ、同じ部屋だし、五年も同伴続ければ思うところも出てくる。
クーも
「きゅー・・・何?」
「あはは、何でもないよ。ご主人をよろしくね?」
「うん。任せなさい!因みに昔はどんな奴だったの?」
「それ、アタシに聞く?」
私はクーからでも昔のシズクを聞けるのではないかと尋ねてみたけど、あんまり意味はなかったわ。
「坊や、あなたを呼んだのは他でもないわ。どう思う?」
「最高司祭様。主語、主語が抜けておられますぞ」
天蓋付きベッドで天を仰ぐ裸族、アドミニストレータは時折意味もなく俺ことシズクを呼び出す。
主に左手関連かと思いきや「貴方ならこの魔獣に勝てるでしょう?」とか言う無茶振りをしてくるがそこは断っている。
ま、大抵ベルクーリさんが一緒に拝見するわけなんだけども今回は一人、ソロである。
あ~キリトって凄いね、虎視眈々と狙う俺と違って
実際言っていた記録は無いけど。
「後、服!服着てください!目のやり場に困ります」
「あら、イーディスちゃんのも見ているじゃない?今更でしょう」
「・・・・・それとこれとは話が別です!」
「あら、残念。まぁ、コレでいいでしょう?」
そう言って毛布を身体にかけた。
それでも心もとないけどこれ以上言って機嫌を損ねても面倒だから言わない。
「実はね、恋について考えることが多いのよ」
思わずずっこけた。
アドミニストレータが恋?淡水魚の鯉じゃなくて?なんでいきなり恋で俺に結びつくの?
「それで俺なんっすか?」
「ベルクーリから聞いているわよ、イーディスちゃんとは順調に仲を深めているそうね?毎朝痴話喧嘩が絶えないとか」
「・・・・・はい?」
思わず聞き返してしまった。
「整合騎士は歳を足らない、貴方も不完全とは言え“シンセサイズの秘儀”を施したのだから、天命凍結の一点については同様。それにカセドラルで今一番色づいてるのは貴方達よ?」
「ああ、失敗したアレですか・・・・チョイ待ってください。騎士長と副長がいるでしょう!?」
「私が見たいのはもっと若い子の恋路よ」
なんという事だろう、見てくれだけなら未だに若いと豪語できるアドミニストレータの興味がまさかの恋に向いているだと!?最終負荷実験早まったとか言わないよね?
「白状なさい、好きか嫌いか・・・どちらなの?」
何か強引だなぁ、こんなキャラだっけ?この人。
何かミステリアスレディと言う印象を実際見てから抱いていたが、この数秒で粉砕してきたな。
俺の意見なんて意味ないだろう、コレばかりは信頼とかそういう事の含めて答えがでているからな。
「好きですよ?いつも明るいし、話してても飽きないですからね。ま、妹分のことになると歯止めが聞かないのが玉に瑕ですけど」
俺が答えると新しい玩具を手にした子供のような・・・邪悪な笑みを浮かべるアドミニストレータ、知っていたけど嵌められたな、もはや諦めの境地である。
ベルクーリさんと組んで嵌めてきたんじゃあるまいな?違う?あ、そう。
「コレ、下の五十階層まで全てに聞こえているから。その心算でね」
邪悪な笑みを湛えて言うアドミニストレータ。俺は理解に数秒掛かったわ。
「はぁ!?どの辺りからっすか!」
「私の恋について~辺りからよ」
「ほぼ最初っ!?カセドラルに放送設備なんて・・・ハッ!くだらない事に神聖術使わないでくださいよ!!」
「いいじゃない、私だって漸く見つけた玩具を手放したくないのだから」
「ソレも聞こえていたら意味無いんじゃないデスかねぇ!?」
「大丈夫よ、私の台詞は綺麗に変換して響いているわ。勿論、今のやり取りもね」
「あんた詐欺師で食っていけるわ!!」
少しでも人の情が沸いたのかと思った俺が馬鹿だった。
アドミニストレータは、やっぱり残虐非道なアドミニストレータでした。
ああ、この後はどうしよう・・・・・。
「ほぉ、少年もついに言ったか」
「また、大胆な・・・・」
顔を真っ赤にしている私、イーディスの前で騎士長と副長・ファナティオは聞こえた声の主に驚きの表情を浮かべている。
主にファナティオが・・・・ね。
「最高司祭陛下も随分と大胆なことをなさる・・・下手するとカセドラル中に今の響き渡ってるんじゃねぇか?」
「はぁっ!?何よそれ・・・・大胆ってレベルじゃないでしょ~!!」
「良かったわね、イーディス。」
「コレはめでたいな、ココ百年ばかりこんな事なかったろ?」
「そうですね、閣下。お祝いしましょうか?」
何で二人共乗り気なのよ!自分たちは?
私が叫びたい気持ちを抑えて、何とか職務を終わらせてしまおうとする、が、集中なんて出来るわけも無く手につかない。
「イーディス殿、おめでとうございます。」
白亜の廊下で、すれ違う騎士達は口々に祝福してくれるが早とちりする者もいて・・・、
「イーディス、結婚するの!?」「イーディス、おめでとうございます!」
早々に自室の部屋に戻ってこの羞恥から逃れよう、そう思っている時に限ってフィゼルが飛び出してきた。
いやいや、飛躍しすぎでしょ!?しかも、フィゼルを避けたと思ったらリネルにつかまってしまった。
何時ものように腕を引き、ごねられる。
私はうんざりとして表情に出ていることだろう、アリスみたいな子ならいいんだけどリネルとフィゼルの相手は疲れるわ。
「あのねぇ!今の私は・・・!?」
思わず突き放して部屋に、と思った矢先にシズクが階段を下りてきた。
昇降盤ではなく、階段で・・・、シズクを直視できない。恥ずかしい!
「あ、水ぼらしい王子様の登場です!」
リネルが私を引っ張り、フィゼルも頷くと同調する。
うーん、思ったより強く引っ張るわね?ってこのままだと!こちらの存在に気がついていないシズクへまっすぐ・・・。
勘弁して、マジで!?
俺ことシズクが、あの
イーディスと俺のやり取りを見ていたメンバーからすれば「やっとか。それにしても派手じゃね?」くらいにしか思っていなかったようで、デュソルバートは酷く淡々と、
「貴殿とイーディス殿を祝福する。二人の未来にステイシア神の加護があらんこと」
とか言っちゃうんだよ!?と言うかカセドラル中に放送された時点で気がついて?いや、最高司祭様万歳って言うモジュール効果でアドミニストレータの行動を疑わないんだろうけど・・・。
俺とて、神獣に好かれようが飛竜に懐かれようが人の子である。
なので流石にここまでお膳立てられてしまったら考えないようにすると言うのは無理な話でって背後に人の気配、いけない、考え事をしていた・・・イーディス!?
「シズク、後は任せたよ!」
イーディスの左手をフィゼルが引っ張って、
「最高司祭様に頼めば結婚式やってくれるのではないでしょうか!?」
リゼルとのコンビプレイ、二人で茹蛸状態のイーディスを思いっきり押し出した。
因みに俺の後ろは下り階段、ぶつかると思って振り返ったから割と至近距離まで気がつかなかった・・・・待とうか?この後の展開が容易に想像着くんだ。
「きゃ!」「うががががッ!?」
何とも可愛らしい悲鳴を上げて胸板に飛び込んできたイーディスを受け止めて背中から階段を滑り降りる俺、天命は尽きたりしないだろうか?この階段、無駄に長いからな。
「これで、繋ぎを壊されても大丈夫ね」
アドミニストレータは酷く邪悪な笑みを浮かべながら、階段折り返しフロアで伸びる二人が映し出された空間を払う、すると先ほどまで今まさにその様子を投影していた鏡は霧散して再び天蓋を見上げる。
ベルクーリに並ぶ剣士、単純な戦力としては整合騎士がいる分、オマケ程度だが左手に宿る未知の力と知らない剣術。
それは整合騎士最強のベルクーリに迫る物だ、それが記憶開放術なしでと言うから驚きである。
そして、天蓋から降りて来た一つの水晶モジュールを手に取る。
「幸せな家族の記憶・・・抜けてしまっても無意識に求めるのかしら?」
それはイーディスがシンセサイズの秘儀で失った「家族との幸せな記憶」、特に強く見て取れるのは妹との時間だ。
イーディスは整合騎士になったアリスを妹と豪語して、擬似的に姉妹の時間を求めるのかもしれない。
「良かったわね、イーディスちゃん。
幼い少女、否。女性なら誰もが抱く「幸せな家庭」と言う夢は、幼かったイーディスも一度は夢見たこと、その記憶もシンセサイズの秘儀で忘れて整合騎士として従事していた。
水晶柱に結婚を夢見る幼いイーディスがチラつき、アドミニストレータは悪役特有の高笑いを響かせて光は消える。