私、イーディスはダウンしたシズクを抱き起こすと直ぐに治癒を始める。
リネルとフィゼル、やって良いことといけないことがあるでしょうが!こともあろうか階段を下りる人に人押し出すとか信じられない。と今はシズクの治癒に専念しなけれ
ば。
「何をしているのです?」
物音を怪しんで執務室から出てきた副長・ファナティオが伸びるシズクと私を見つけて駆け寄ってきた。ソレも当然、シズクは額から血を流していてぐったりとしている。
「坊やじゃない!何があったの!?」
「私と階段から落ちたのよっ!私を庇ったりするから!!」
「おー、これまた派手にコケたな。生きてるか?少年」
ファナティオの焦る声に騎士長まで顔を出す。いや、騎士長。こけて額を切る人間なんて稀です、しかもただの下り階段で。
「・・・・俺死んだ!?」
「生きてるわよっ!」
ものの数秒、治癒術をかけているとガバッとシズクが起き上がるなりボケた。私は間髪いれずにつっこみを入れて抱きついた。
「あれ?ファナティオさんまで何でそんな心配そうにして・・・ベルクーリさん、何がどうなっているんですか?」
「貴方とイーディスは階段から落ちたそうよ、覚えてない?」
「あ~・・・・・あのチビ共!」
混乱気味なシズクにファナティオが優しく尋ねると僅かな間を挟んでシズクは立ち上がった。
せめて血を拭きなさい、額の傷は閉じたって言っても!
「イーディス、少年を連れて今日はもう上がれ。」
その様子を見て、騎士長が後頭部をボリボリ掻きながら言った。
「良いのですか?」
「ああ、カセドラルにいる内は休息日みたいなもんだからな。少年は教導役で休んだ気にならんだろうが・・・書類整理くらいは俺がやっておくさ。最高司祭陛下の気まぐれであんなのが流れたんだ、お互いに話すことがあるだろうからな」
「ああ、そうですね。閣下」
「ありがろう!騎士長、ファナティオ!」
私は騎士長とファナティオに頭を下げるとふらつくシズクに肩を貸して階段ではなく昇
降盤に向かっていく。
俺の、シズクの意識が完全にクリアになったのは既に見慣れた部屋のベッドの上だった。
四年前にクーが発現して以来、それまで“一応”とベッドを中央から分けて立てられていた衝立が今ではアンティークになり下がっている。
今度しっかりお仕置きを考えねば、リゼルとフィゼルにはやっていいことといかんことを教えねば。
普通に死ねる、戦場でイーディスか仲間を守って死するのはアリかと思うが・・・子供の悪戯で死ぬなんて恥ずかしすぎる。
「シズク、大丈夫?」
天井を仰ぐ俺の顔をイーディスが覗きこむ、イーディスは本気で心配したらしい、コンビを組んで早五年目。イーディスは楽観視する部分があるけど、怪我した場合は別だ。
「ああ、大丈夫。心配かけ!?」
「本当、無茶しないでよ!」
起き上がると急に抱きつかれて俺は固まった。
うん、今までに無いパターンだ。
やっぱり、最終負荷実験早まってない?起きた足でアドミニストレータに喧嘩売りに行こうか。
冗談はさて置き、イーディスってこんなに情熱的だっけ?
いつもバカ言ったり、何かと張り合ったり、アリスのことで暴走したりするけどココまでしおらしくなった事無いんだ。
冷静に思い返せば、任務中でしくじった時もなんだかんだいって民を優先する騎士精神の持ち主だ。
四年間の警戒任務中も戦闘になっても互いの背中を任せる間柄な訳で・・・。
「さっきの本当?」
うん、俺も分かっていた。
ベルクーリさんが何でイーディスと俺を早々に皆から遠ざけたのか?単純に
せめて、当事者である俺とイーディスが何があっても対応出来るようにしておけと言う事だろう。
「さっき・・・・?」
「・・・・私は、アンタのことが気になって仕方なかったの。アリスと鍛練している時も、騎士長と稽古試合している時も、見習い騎士達を相手に稽古している時もずっとアンタを目で追ってた」
「イーディス?急にどうし・・・アレのせいか」
イーディスの熱が篭る台詞を他所に俺の頭には恐らく悪役特有の高笑いをしているアドミニストレータが浮かび上がる。
カセドラル中に響いた誘導尋問のような言葉に乗っかって嗾けられたせいで、恐らくそういう目で見ないようにしていたイーディスが思い切って告白してきているのだろう。
あ、俺も然りで今はイーディスを見ていると妙にドキドキする。
「頼もしいと思うことも多くなったんだよ?シズクがいてくれて助かったと思っている。最近アリスの稽古している時はずっとイライラしてたんだよ?取られるかもって。誰かを好きになるって初めてだから」
イーディスの言葉を聞いていて恥ずかしくなった俺は、秘めていた思いを解き放つことにした。当然、ソレがどういう結果になるかは分からない。
「イーディス!」
「ひゃい!」
肩を掴むと素っ頓狂な声を上げて固まるイーディスを真っ直ぐ見据えて口を開く。
「俺は、最初に出来た繋がりを守りたいと思った。」
「え?」
「四年前、イーディスが寝言で俺を〆潰しかけたあの夜にお前を守りたいと思った!正直、過ぎた願いだと思ったよ。それから一緒に仕事をこなす内にイーディスは俺にとって大切なものになった!」
「ちょっ声大きい!」
「頼む。これからも俺の横に・・・イーディスの相棒でいさせてくれ」
ただ、俺はそう告げて頭を下げる。
流されるままに付き合うのではなく、心に秘めていたことを伝えた。
イーディスがあくまで仕事のパートナーだと断じてしまえば俺はこれからそうある・・・・そうあるよう努力する。
「ふぅ。勿論、シズクと一緒にいてあげる。私からも言わせて」
「はい?」
「シズク。これからも私を助けて、私に助けさせて。」
「ああ、勿論だ」
「とっても不器用な告白だね、二人共」
俺とイーディスは今、言うなれば見詰め合っている状態だ。
ポンッ!とコミカルな音と供にクーが姿を現すと呆れたように言った。
「それでこそご主人。イーディス、こんなご主人だけどよろしくね」
「勿論!クーもひっくるめて私の隣にいて!」
イーディスはクーも巻き込む形で俺に抱きついて、そのまま俺はイーディスに押し倒されるように倒れた。
カセドラル・上位騎士居住区廊下、白亜の廊下に赤い絨毯が敷かれたシンプルな廊下には四旋剣でデバガメはしないといった二人を除いてダギラとジーロがイーディスの部屋の扉の前でコップを扉に当てていた。
更にその下にフィゼルとリゼルが同様に、呆れたようにその光景をアリスが見ていた。
見ているアリスとて結果は気になる、そんな様子を業務を片付けたベルクーリとファナティオが廊下の昇降盤付近で微笑ましく見ていた。
「お前さん達、そろそろ逃げた方がいいぞ」
ベルクーリの一言で四人は一斉に音響収集に使っていたコップをもって踵を返す。
後ろにいるのはアリス・・・のはずなのだが、クーがいた。
今、イーディスとシズクに挟まれているはずのクーが。
そんなクーと目があってぱちくりする四人。
「・・・・・ねぇ」
振り返ると扉は開いていて、私ことイーディスが低い声で尋ねる。
「・・・・聞いてた?」
「私は!何も聞いていませんっ熱烈な語りがあったなど決して!!」
「ダギラ、アウト!」
スパァッ!と凄まじい音と共に額を白い何かで唐竹割りされるダギラ。
誰に?決まっている、シズクだ。
「いったぁ!?」
「フィゼルとリゼルは安心しろ、今朝方のお礼も兼ねて鋼鉄製をくれてやる」
「それ死んじゃう!」
「シズクは私達を殺す気ですか!?」
「黙らっしゃい!こっちとらお前等の悪戯で何回死に掛けたと思ってんの!!?」
神聖術の式句を唱え、シズクは手に持った紙製のハリセンと言うつっこみ用の剣(?)を光沢と重量感のある一種の武器に変えていく。
伊達に神聖術を貪り学んでいないと感心してしまう私を他所にソレを見た二人は真っ青になってお互いに抱き合っていた。
因みに騎士長は笑って見ていた。
シズクが本気で叩くとは思っていないみたい。
二日後
俺ことシズクとベルクーリさんは飛竜のゲージ(正式名称があるんだけどシズクが勝手に呼んでいる)にいた。
ゲージの中に卵から孵ったばかりの小さな幼竜がいる。
藍色の体躯で黒い瞳を見開いて珍入者である俺を見上げている、幼竜と言っても最初のクーと同じくらいのサイズ(ハスキー幼犬サイズ)だ、幼いと言ってもやっぱり竜なのだと思い知らされた。
「ほれ、こいつがお前さんの飛竜だ。」
「ベルクーリさん、俺は基本的にイーディスとセットですよ?」
「それはそうだが、お前さんも空を移動できたほうが何かと都合がいいだろう?幸いにもココで卵から孵った飛竜の一匹だ。後はココだけの話だが・・・・」
そう言ってベルクーリさんは話し出す。
何でも、数日前の恋に興味がって一件・・・アドミニストレータは最後まで、俺とイーディスの告白まで見ていたらしい。
それだけ聞くとあの性悪女も他の女性と変わらない・・・誰かの恋路が気になるとか可愛い所あるなぁと思っていたのだが、当然ソレで終わるわけは無く、イーディスと相棒で恋仲になった事を祝ってくれると昨晩に晩酌を共にした時に言っていたそうな。
「・・・・はい?」
「言っとくが俺は何も言ってないからな。ココ何百年で磨り減った人間らしい感情を少しでも思い出させたお前さんのおかげだ。」
感慨深く頷くベルクーリさんを他所に俺は嫌な予感しか感じていない。
ベルクーリさんが召喚された当初、アドミニストレータに人らしさがどれ程残っていたかは知らない。けど今回にいたっては多分、純粋に祝福する気なんてないぞ多分!
近い未来に自身を乗せてくれる飛竜と見習い騎士は共に過ごす時間を長く取る、と言うのはイーディスも通ってきた道なので俺の苦労を分かってくれる筈、今はクーと供に俺の頭に圧し掛かる幼竜を見てイーディスが台詞を選んでいる。
何せ人の手によって育った飛竜は言葉を理解する・・・なのであまり心もとない投げれば信頼関係は築けず、その飛竜は西帝国にある飛竜の巣に返すことになる。
「え?ここで卵から孵った子なの!?」
イーディスにベルクーリさんから聞いたことをソックリ伝えると酷く驚かれた。
「それじゃ、何が何でも信頼関係を気付かないとね。シズクなら心配ないだろうけど」
「まぁ、動物に懐かれやすいのは自負しているけど・・・
そう言うと俺の頭の上で「クルァ・・・」と鳴く幼竜、名前は
降りる
「あ~良いなぁ!」
「な、何が?イーディス、こうなった時の対処法知らん?」
「ソレ、甘えてるのよ。良いなぁ、霧舞はあんまり甘えてくれなかったからなぁ」
藍色の幼竜がすき放題する様を見て、イーディスはうっとりとしてそう言う。
霧舞の幼い時でも思い返しているのか、見かねてかクーが雨崖の前に来ると一言。
「ご主人をあんまり困らせたら駄目、貴方は立派な飛竜なんだよ?すぐにご主人を乗せて空を翔るようになるの。今は甘えてもいいけどね?」
すると今度は柱をかみ始める雨崖、どうやらかなりのやんちゃなようだ。