それは起きるべくして起きた。
カセドラルに内線など存在しない、と言うか中世ファンタジーの世界感のアンダーワールドには電話と言うものが無い。
ま、当然だ。中世ファンタジーのゲームに「スマートフォン・通信機」なんてアイテムがあったらソレはソレで狙ったつっこみポイントだろう。
「・・・・イーディスが風呂に行って三時間が経つな」
「そうだね、ご主人。因みにこの後の展開って予想できる?」
俺ことシズクは、
ま、三時間も話す内容があるのは話題豊富な女子高生とか本当に気が合う親友のどちらかだろう。あ、キリトのやらかし談話ならアインクラッドからGGOに至るまで話す内容は尽きないだろうな。
きっとアスナとシノン、リズベッド辺りが白熱する事だろう。この場には居ないし彼女達がアンダーワールドにINするのは少なくとも
告白してから、時にクーが寝ていたツインベッドを二つに分かつ衝立は本格的に取っ払われて、今ではイーディスが神聖術でインテリアオブジェクトに変えてしまった。高位騎士の部屋は日当たりを計算されてか昼間はしっかり
トントン、と控えめに扉をノックされて俺はあらゆるパターンを想像しながら扉に向かっていく。
大体はファナティオさん始めとする女性陣に捕まって、
俺?俺はベルクーリさんや時々デュソルバートさんと談義しながら酒を嗜みますとも。話す内容はぶっちゃけ、騎士の鍛練内容とか業務的なことが多いな。
ま、こんな俺でもカセドラル教導役が天職だし。
あんまり人に教えるって得意じゃないんだよな~アリスは良かったよ?一回歩法でも見せれば直ぐに自分のものにするんだから。
覗き穴から誰かを確認するとアリスとファナティオ、二人の肩を借りたイーディスがいる。
「今度はどんな手段で口を割ろうとしたんですか・・・」
「そんなに呆れた表情を見せないでください。私も絡まれた被害者なのです」
「酒盛りか・・・ファナティオさん、イーディスの酒癖知ってるでしょう?」
「坊やが思っているほど私達は酒を進めるなんてことは無いわよ?」
「そうです。イーディス殿は自ら瓶数本を開けてしまった・・・後は惚気たのです」
「ごめん、ソレ何処で?」
猛烈に嫌な予感が頭を過ぎる。
「食堂だけど・・・大丈夫よ、坊やが思っているような展開は無いから」
ファナティオがくすりと笑ってイーディスに凭れ掛かられる俺に告げる。と言うのも俺とイーディスが恋仲になり、ベルクーリさんが「結婚は何時だ?」なんてからかったことが端に発する騒動があった。
エンキだかネギだかそんな名前の二組が「イーディスが結婚!?」なんて早とちりしてわりと大騒ぎになり、アドミニストレータの耳に入った騒動があった。
古参の整合騎士と言ってもやっぱり人間だと痛感した事件だったな、誤報であそこまで踊らされるとは。
ソレよりも先にベルクーリさんとファナティオさんの式が先だろう、セッティング経験は無いがしっかり事前情報は仕入れてあるぞ。
「し~ず~くぅ~」
猫なで声で頬ずりしてくるイーディス、コレは相当酔っている。
あ、そんな目で見ないでください。アリス、哀れみの視線は違うと思うぞ!
「察してあげなさい、貴方もイーディスの酒癖は知っているでしょう?」
「なら飲ませないでください!」
確かに、と笑うファナティオ。アリスからイーディスが風呂に持ち込んだ小物を受け取ってドアを閉める。
アリスの視線は最後まで哀れみを孕んだ物だった。
ま、確かにあの時は苦労していたな。俺も我関せずを決めたのは悪かったが。
「酒臭!ドンだけ飲んだ?」
「何よぉ~たかが二本でくらいれぇ~」
表情を顰める俺の問いに半ば呂律が怪しいイーディスが答える。
カセドラルの食堂に完備されている物は最高品だ。酒にいたっても安酒などではなく最高の物がある。上級貴族が平民に栽培させている今季最高の葡萄を使ったワインとかが分かりやすい例だろう・・・なぜか日本酒もあるんだけど、俺としてはありがたいことで生まれ育った地の味を忘れることが無いのは実にいい。
流石に炭酸飲料とかは無い、珈琲の親戚のようなコヒル茶は既に飲みなれたので朝には欠かせなかったりする。
「イーディス、水飲んでもう寝なさい。悪いこと言わないから」
「う~・・・一緒に寝よ?」
イーディスをベッドに腰掛けさせ、コップに水を注いでくる。ぼうっとしているイーディスが水をのみ干すと同時にぶっ飛んだことを言い放った。
は?今なんと言った。
「・・・・ハァ?」
「寝るの!一緒に寝る!」
アレ?イーディスって絡み酒のほかに酔うと幼児退行するんだっけ?長いこと一緒にいるけど知らんぞ?
しかもあれだ、妙に粘って駄々を捏ねる時の口調だ。アリスが視線で訴えていたのはコレか。成る程、俺にはクリティカル(精神)だ。
「分かった。寝るから・・・・寝るから離れて?頼むから離れよう!?」
「ん~!“がちがち”」
「ソレはずるい!?」
嘘も方便とはよく言ったものだ、逃げ道は禁句で封じられて俺は半ば強引にイーディスによってベッドにダイブすることになった。
耐えて見せろ、俺!
私ことイーディスは、何時ものようにベッドで目が覚めた、妙に抱き心地の悪い抱き枕を抱えている気がする。
「あ、れ・・・?」
すぐに疑問に気がついた。
私、記憶がない。
えっと、大浴場でアリスが部屋での暮らしに変化はとか聞いてきて・・・ファナティオと四旋剣の皆が揃って、取り合えずのぼせない内に上がって食堂までは覚えてる。確かそこで騎士長が一人で晩酌してて、騎士長を含めて話そうってことになって逃げるに逃げられなくて・・・・あ、自棄気味に最近上納されたワイン飲んだんだ。
そうしたら干し肉のつまみと相俟って止まらなくなって・・・私、酔いつぶれた?
「何でアンタが抱き枕になってるの!?」
「・・・・イーディスが寝ようって言うし、禁句使って身動きとめたんでしょうが」
「変な事してないでしょうね!?」
「出来ると思うか?禁句で丸太のように身動きをとめられた俺が!?」
生殺しだわ!とシズクが訴える。と言うことは私、かなり恥ずかしいことしなかった?した気がする。具体的に何かは覚えていないけど、シズクに、それも他人の前で。
「うっ、二日酔いだ。頭痛い・・・」
「自覚なるなら飲酒もほどほどにね、ソレより離してくれない?」
「・・・嫌。もう少しこのままでいさせて」
私は赤面した顔を隠すようにシズクの背に頭を軽くぶつけた。
それから暫くして落ち着く私と対照的にやつれたシズクがベッドから起き上がる。壁に立て掛けてある二人の愛刀、闇斬剣と幻狼刀が目に付いた。
私が着替える為に外に出ようとシズクが、幻狼刀を携えていく。出て行った後にゴンゴンゴン!と音が聞こえた。
私が着替え終わって廊下に出ると額から血を流すシズクと打ち付けたであろう壁が一点だけ赤くなっている。
「ちょっと何してるの!?」
「あ~落ち着いた。雑巾あったよな?ちょっと壁拭くわ」
そう言ってシズクは部屋から雑巾を取ってきて拭いていた。
お、落ちついたって何が?
食堂に移動すると大抵の整合騎士はいる。勘違いした二人は任務に出たのか居ない。
騎士長は朝から酒瓶を呷り、癒しのアリスはファナティオと何か話をしている。
「おはようございます。イーディス殿、シズク殿」
「おっはよう!アリス、何食べてるの?」
「おはよう、アリス」
「その様子だと・・・・苦労したみてぇだな?」
「閣下、昨日の一件でイーディスが坊やを愛しているのは良く分かりました。坊やにとっては光栄でしょう」
朝食を取るアリスが私達に気がつくと挨拶をして、私はぱっと自分でも分かるくらい表情を明るくして駆け寄っていく。
「は?」「へ!?」
シズクがピタッと動きを止め、私もならう様に身体を震わせる。
「そうですね、部屋に着くなり頬ずりするほど愛おしいならば鍛練でとは言え取られるのは不快でしょう」
「アリス、何言ってんの!?」
「そうね、坊やに預けるなり頬ずりしていたもの」
「ファナティオまで!?」
「あ~からかうものその辺にしといてあげてもらえますか?イーディスは昨日の記憶が無いらしいんですわ」
驚き、わたわたとする私を見てシズクがフォローに入る。
「何を言うのです。実際にしていたではないですか」
「・・・・そうなの?」
恐る恐る確認するとシズクは目を逸らした。
「まぁ、酔った勢いと言う奴じゃないの?」
「やっぱ速いとこ結婚した方がいいんじゃないか?」
台詞を探すシズクに騎士長は半ば呆れながらからかい始めた。
本作のイーディスは酒に弱く、酒癖が悪い設定です。