セントラル・カセドラルが誇る犯罪索敵術式は、人界全てを網羅している。
早い話が事件が起きた前後三十分くらいを見ることが出来、確実に犯人を補足することが出来るのだ。
それが例え非人道的な行いだとしてもアドミニストレータが支配する今のカセドラルではまかり通っている。
俺ことシズクはイーディスと供に中間報告にカセドラルに戻ってくるとはっきり言って珍しすぎる殺人犯が出たという話を聞いた。
誰から?
あの達磨だよ・・・・長かったね、キリトとユージオがロニエとティーゼを変態貴族から救う為にバッサリ行ったアレだ。
アリスが翌日に回収に向かう・・・いやいや、我が主?アリスが可愛いからって代わるとか言うな。
これから大変なことになるんだから、長いこと待たせた“話せないこと”を話せるときなんだから・・・まぁ、キリトがアリスに打ち明けて、アリスが右目の封印破ってからなんだけどね?
俺はキリトが
ま、リコリスシナリオ中に語られたしアニメも見た、なのでキリトはアリスを取り戻すという目的を持ったユージオと供に脱出を図る、できればその前に話をしておきたい。
「殺人とは思い切ったな、少年たち」
と言うわけで俺はキリトとユージオが幽閉されている牢獄まで足を運んだわけなんだが、当然のように警戒されている。
「・・・・何のようだ?取調べは明日じゃないのか?」
キリトの言葉の端々には刺があるし、流石は歴戦の猛者・・・言葉の端からは自信があふれ出ている。と言ってもそれがキリトの素なのかブラフなのか俺には見当がつかない。アンダーワールドに来て、“知っている”と“体験する”の違いは痛感したからな。
「取調べじゃない、世間話をしに来たんだ。それに俺は整合騎士じゃない」
「整合騎士ではないのにカセドラルの中を自由に行き来出来るんですか!?」
俺の台詞に驚いたのはユージオだ。
術師団とか特別な役職を除いて、一般人がセントラル・カセドラルに出入りすることは特例を除いて他に無い、上納だって、門前に設置された受付を通らなければ無いし大抵はそこで済んでしまう。
「俺は例外だ、整合騎士の従者をしている。声高にはいえないがキミらと同じ最高司祭の“裏”を知る一人だ。状況次第じゃ味方になるぞ?」
目を見開いて驚いているキリトと先を見据えているであろう相棒に驚くユージオ。
キリトは考えを見抜かれているのかと驚いたが、直ぐにある結論に至る。
裏を知り、それでいて内側から上を目指している・・・・となると自分と境遇が同じではないのか?
STLは数が少ないが別の方法、フルダイヴMMOアカウントをコンバートしたのではないか?方法は別に正規ログインじゃなくてもあるだろうと考える。
「ま、無茶せずに・・・・特に脱獄とかするな?」
とだけ振って立ち去った。
キリトとユージオは脱走した。
ユージオはアリスを取り戻しに来たわけだし、キリトはログアウトの為にシステムコンソールを目指している。
アリスの言葉で雲上庭園で待ち変えていたエルドリエは撃破された。
単純に技量ならエルドリエに分があると思ったが、そこは
デュソルバートも撃破されたと早足に伝令が飛ぶ。
俺とイーディスの持ち場は95階層、90階層はベルクーリさんが湯浴みがてら担当するそうだ。
凄いよな、敵が攻めてきてるのに風呂入って待っているってんだ。
その下をアリスが担当する、アリスが負けるとは想像できないが相手はキリトとユージオ、正史においても互角までに成長を遂げた二人だ。
俺と言うイレギュラーの存在がどう影響するかは分からない。
「それにしても、この公理教会に攻め込むなんて・・・・・無茶な輩もいたものね」
「ん~・・・イーディス、達磨の台詞を信用できるか?」
それは恐らくキリトとユージオが脱走し、エルドリエをどうにか撃破してデュソルバートの追撃から逃れた直後にカセドラルに現存する整合騎士全員が厳戒態勢を他ならぬ元老長の言葉で敷くことになった。
「そうね、普通なら信じられないけど・・・・エルドリエが敗れた。アンタ自身が鍛えてきたエルドリエをただの罪人が倒せないと分かっているはずよ」
「そうだな、ただの罪人じゃない・・・・恐らくは戦闘経験においてベルクーリさん以上かも知れない化け物が上ってくる」
「シズクがそんなに殺気立ってるとなると嘘じゃなさそうね。気付いてる?シズク、今物凄く怖い顔してる」
「何だよ、真剣に話しているんだけど?」
「うん。分かってる。シズクが前に話せないって言っていた昔のことはこれから起こることに関係しているんでしょ?」
《暁星の望楼》は壁が存在しない、柱と庭園かと思うほど手の込んだ造りで戦場にするのは申し訳なささえ感じる。
そんな場所で、イーディスは俺の考えを見抜いている様に笑うと何時かの約束を口にした。
その通りだ。
任務先で一度、イーディスと俺は人界の守護龍・・・その亡骸を目にして「最高司祭の仕業」と不用意に言った事があった。それはイーディスに公理教会へ疑念を抱かせることになり、彼女は右目の封印が起動し、一時期苦しめられる事があった。
恐らく、次にアリスと再会すればアリスはキリトから真実を聞いて封印を打破した後だ。
アリスの
イーディスも打破できるとは限らない、もしかすれば魂が崩壊してしまうかもしれない。今となってはソレが怖い、話せば自分の手で彼女の魂を壊してしまうのではないか?そう考えると手が震えた。
「大丈夫だよ・・・・私はこれからもシズクの隣に居続けるから」
気がつけば、震える手をイーディスがそっと包む様に握った。
シズクが珍しく弱気な一面を見せた。
私ことイーディスは知っている。こういう時のシズクは、心の底で失う事を恐れている時の目。
侵入者に負けるなんて思ってない、別のこと。きっと右目の封印に関係する事で私に危害が出るかもって思っている。
「コラァー!そこでイチャツイテナイデしっかり警備をしなさァァァァイィィ!!」
「分かってるわよ!?」
階段から聞こえた元老長・チュデルキンの声に私は思わず叫び返す、私は疑問を持たずには居られない光景が飛び込んできた。
「何で、侵入者を抱えているの?」
勿論、チュデルキンからの返答は無い。
つかつかと上層に消えていくその姿を目で追っていると震えの止まったシズクが言った。
「・・・・・・そろそろ上ってくるぞ。」
「は?」
私が間抜けた声を発した直後、縁に誰かの手が現れて何とかよじ登ってきたのだ。
「はぁっ!!」
ギョッとする私と知っていたと言う様なシズク、両者がその登場を見守る。
しかし、二人して看過できない状態を発見することになった。
アリスを
「おい、アリス!起きろ!」
後ろで気を失っているか、寝ているか分からないアリスに叫びかけるキリト。
「ん・・・?お前!汗だくではありませんか!ああ、私の服にまでシミが!!?」
「・・・・よし、現地妻調達の達人キリトよ。言い残すことはあるか?」
酷く冷たい口調で俺ことシズクはキリトに尋ねる。
「何だよそれ!?」
「シズク殿!イーディス殿!お二人が守っておられたのですか!?」
抗議するキリトを他所に驚くアリスは、誰が何処で守りに着いているという事を知らない。それは整合騎士全員に言えることだ、俺はある程度ゲームでもアニメでも見たので知っている。
この《暁星の望楼》には守護者は本来配置されていない、アニメにおいてココは無人だった。
直ぐに下のベルクーリさんが待っている90階層へ戻り、キリトとアリスは“ディープ・フリーズ”を受けたベルクーリさんを発見する。
確かそんな流れだった筈だ。
俺と言う存在が影響させたイーディスが俺と供に《暁星の楼望》を警護するって言う結果、それは今後どのようなイレギュラーを発生させるか分からない。
「ああ、アリス。その様子から見るに右目は失ったな?」
俺の口調は酷く事務的で、一瞬だけイーディスは怪訝に思ったが思い当たる節があって言葉を呑んだ。
右目の封印、それを知る者なら破った時の代償は何なのかは容易に想像がつく。
「はい・・・・今の私は真に戦うべき相手が誰なのか見定める為に、キリトの言う事が本当かどうか確かめる為に最高司祭様の下を目指しています」
「ちょっと待って!アリスが誑かされたって言う事もありうるでしょ!?」
アリスの言葉を聞いて、イーディスが口を挟む。
「そうだな、その可能性もゼロじゃない。けど俺の生い立ちの話にも影響するからな・・・・イーディス、今が話すときだ。」
「結局、戦うんだな?」
「建前上な、俺は二人を逃がしても良いと思う。ソレが俺の知る
キリトが肩を竦めて言った。
シズクが話したことは、私ことイーディスにとってうすうす感じていた事だった。
クーのモデルとなった犬種はアンダーワールドには存在しない、それは直ぐに分かった事だ。
時折見せる悲しげな表情は二度と会う事の無い家族へ向けた物、それでもここ二年ばかりで笑っている時間の方が増えた。
「シズク殿がキリトと同じだというのには驚きました・・・・ですが、何故それを話すのですか?」
「俺は、どう転んでも一度はアドミニストレータを倒すことが必要であると考える。何度も考えたけど、俺一人じゃ無理だ。俺は
民の為に、神獣が姿を変えた・・・己の神器と同じ理念で動いているシズクだからこそなんだろうなと私は思う。
右目の視界に神聖語が浮かび上がる、じくじくと痛みも感じる。
シズクの言葉を借りるなら「転生者」としてこの世界で生きている彼を私は支えたいと思う。
「うっ」
そう思うと右目の痛みは強くなった。
「イーディス!無理に考えなくていい、何も考えるな!!」
「イーディス殿!?」
「アンタ!そいつの言う通りだ!
痛みに耐えかねて膝を着けば、シズクが優しく抱いてくれている。
思い出すな、最初にお風呂でのやり取り・・・でも、目を背けない。私はそう決めたんだ。
「だ、いじょう・・ぶ・・・・続けて」
私が搾り出すように言うとシズクは頷いた。
心配そうに覗き込むアリス、普段は見せない顔ね。
「アンタの存在は完全にイレギュラーだよ、多分リアルワールドにアンタが戻るべき肉体は・・・」
「覚悟はある。二人は先にベルクーリさんを確認してくるといい、下るくらいは見逃すから」
そう言うとキリトはまだ聞き足りないと顔に書いてあったが、ユージオが気になるのか下り階段に向かって駆け出した。
一度振り返るアリスにシズクがこう言った。
「大丈夫、アリスはキリトに着いて行ってやれ。どんな形になろうとイーディスには俺が着いている」
「怖かったんだろうな」
「何がですか?」
階段を下りながらキリトが呟くとアリスが間髪いれずに尋ねた。
「アイツは過去を話すことであの女性が崩壊してしまうかもと思っていたんだ。ある程度公理教会に疑念を抱く内容も含まれていたからな。アリスみたいに反応が出ていた」
「イーディス殿は強い方だ。私は乗り越えてくれると信じています」
扉の前に差し掛かると酷く冷えていた。アリスは一瞬だけ身震いして扉を開く。
「叔父様!?」
見つけたベルクーリの状況に驚きながら駆け寄った。
私は整合騎士イーディス・シンセシス・テン。
天界から召喚された・・・わけじゃない。
暖かな家族がいたんだ、可愛らしい妹も・・・ごっそり抜け落ちたように家族のことは思い出せない。
「イーディス!?」
私の顔を覗きこむシズクが見える。
文字が邪魔・・・・今にも泣き出しそうなシズクの表情、私はそんな
それに
私は人界を守る騎士だ!何故こんな仕打ちを施したのか分からないけど、私は最高司祭様に確かめなければならない。アリスもきっと同じ気持ちだろう。
「私・・は!」
激痛に耐えながら私は決死の思いで叫ぶように天井を見上げた。
ぶしゃ!
刹那、右目が爆ぜて右側の視界が赤黒い物になった。
キリト&ユージオ、本格参戦