セントラル・カセドラルに連行されて早一週間、どうも俺ことシズクです。
回復を待たずに最高司祭・・・・まぁ、ゲームやっていたから名前は割れている。アドミニストレータがどうも俺に宿る力を気にしているらしい。
どゆこと?とお思いかと思うのだが言うなればSAO版
ま、傷の回復はセントラル・カセドラルの中層にある天命値の回復が見込める大浴場に投げ込まれて湯でられた。理不尽!でもまぁ、回復したし取りあえず問題はそこじゃない。
俺の左手、手首から先は対神聖術にとってほぼ絶対の防御を誇っているらしい。
コレについてはあのちんちくりん達磨が「信じられマッセェ~ン!」とか抜かして生み出した炎の魔人を平手一発で消滅させたので間違いなくユニークスキルの部類で確実に効力を発揮している。てかSAO・・・アンダーワールド編に“とある”要素ぶち込んで良いのか?そこは気になるが現状、SAO界きっての最高上司ベルクーリ殿曰く「お前だけの力」とお墨付きすら貰った。
冷静に考えればアドミニストレータも左手・幻想殺し(仮)を解析し尽くす心算だろう。
何せ回復し尽くす前に俺は整合騎士十番目の従者とされてしまったのだから。
私ことイーディスには最近悩みが出来た。
「・・・・はぁ」
そう、四六時中この男の癖にポニーテールにしているシズクと動かねばならないと言う物だ。何でこんな女々しい奴とと思わなかった時はここ最近ない。が、実力は確かなようで下位整合騎士が四人纏めて掛ろうともあっさりと勝ってしまうものだからベルクーリ様も一目置くのも分かる。
「溜息ばかりついていると幸せが逃げるぞ?」
「・・・・あんたのせいだからね?」
私は思わず言い返す。
シズクは首をかしげて二つのグラスに水を注いで持ってきていた。
うん、こういうところは気が利くと言うか私が今何が欲しいと聞いたかのような立ち回りで正直、少し不気味でもある。
一週間一緒に行動している問題は、最高司祭様がシズクにつけた枷にある。
「まぁ、そうしかめっ面をするな。俺だって好き好んでイーディスと風呂に入ろうとは思わないから安心しろぉ!?」
「今のは納得できないっ!」
思わず枕を投げる私、両手がふさがっているシズクが顔面に枕を食らってカエル踏まれたカエルような声を上げた。
私だって整合騎士である前に女だ、自分の失態で・・・掘り返すのは止めよう。
兎に角!私だって身体を見られて異性であるコイツが何も感じないと言うのはなんか悔しい。うん、悔しいから枕を投げた。
「おまっアブねぇ!?」
「それはアンタが入浴中に入ってくるからでしょ!?」
「コレのシステムを理解していなかったイーディスにも落ち度があると思うの!」
そう、シズクの首には最高司祭様がこさえた綱の代わり、細い首輪のような物がついている。これは私との主従を現す物らしくて、鎖の代わりに私が特定のワードを言うことで自動で神聖術が発動するようになっている。
聞けば、発動する神聖術を喰らえば意識くらい簡単に飛んでしまうんだとか。
最初は私が風呂に入っているときだった。
確かに、最初はキリモミ回転して浴槽に突っ込んできたシズクに私はギョッとして見られまいと湯船に沈めたっけ。
「~~っ!」
私とコイツは任務に就くことも寝食を供にすることも今は強要されていることを思い出して再び枕を持ってシズクに殴りかかった。
一週間前、イーディスの部屋に通されて直ぐに思ったことは寝具が一つしかない。
ま、俺ことシズクの登場なんて想定外だっただろうし仕方ない。と言うか整合騎士もミスするんだね。
俺と言うボロ雑巾の逮捕状は出ていない、元老長に俺と言う存在を尋ねられたイーディスは現行犯逮捕したと端的に伝えると「ダークテリトリーを闊歩する人界人なんているわけナイでしょう!?ボロ雑巾なんて捨ててきナサァイィ!」と叱咤され、騒ぎを聞きつけた騎士長・ベルクーリさんが俺の左手に気がつき、治癒術が満足に機能しないことを見抜いた。
俺と言う人間の価値は左手のユニークスキルで見出されたわけだな。んで、ベルクーリさん+イーディスとアドミニストレータと対面。
俺はイーディスの従者となった。
意図せぬ寝食の場をゲット!ってな感じで浮かれたのよ、このチョーカーの設定ミスとかアドミニストレータ抜かしやがったらしいけど絶対故意だよな?知ってるぞ、お前さんが絶対の存在(自称)なのを!
チョーカーの初期設定(と言うことにしておく)のせい、イーディスが入浴中だから脱衣所入り口で待っていたら殴られたように吹っ飛ばされて、否。この場合はトラックに撥ねられたような衝撃で湯船に突っ込んだんだよね。
イメージ的にはあれだ、犬夜叉のおすわり。
この時はそのタブーワードが何かイーディスも俺も知らされていなかった。
最初、イーディスとの取っ組み合いは二日目の夜だった。
「意味分かんないことになったけど、お風呂に入ってるとそんなのどうでもよくなるな~」
あの時の私ことイーディスは、肩まで湯船に浸かって呟くと広い大浴場に台詞が反響した。
それほど大きな声を出した心算はないが、大浴場はよく声が響く。どんなつくりなんだろう?
「気にしてもしょうがないか~・・・それにしても最高司祭様を前にしてアイツ、面白かったなぁ!なんかすごい“がちがち”で「ふべらばぁ!!?」きゃぁ!?」
大浴場の扉、というか布を垂らして脱衣所と隔てただけなのよね。湿気が逃げないのは神聖術を施してあるからだとか・・・何気無く使っているけれど、私とセントラル・カセドラル建造に関わった人間の技量は違いすぎ。
比べるのも馬鹿らしいわ・・・じゃなくて!
「この建物はトラップダンジョンですか!?」
「何でいきなり入ってくるのよっ変態!」
「ぶぼほぉ!?」
さばぁ!と水柱を立てて現れたのは服を着たままのシズクだった。私は反射的にシズクの頭を掴んで湯の中に沈めている。
私は悪くない、入ってくるこいつが悪い!
手をバタバタさせて何かを訴えているがそこはソレ、私は身体を見られたくないし見せる気もない。
「おう、スゲェ音がしたんだが、誰か入ってるのかい?」
「きゃぁぁぁ!?」
問題は立て続けに起こるものでちょっこりとベルクーリ様が顔を出した。私は思わず桶を手に取ると投げる。
ふべぇ!なんて変な叫びと供に目を抑える元老長が、いけない!ぜんぜん気がつかなかった。
「イーディス・・・その、お盛んなのは結構なんだが」
「え!?違いますべりクーリ様!!こいつが入ってきたんです!!」
「その、何だ?騎士としての職務に支障をきたさない程度に・・・な?」
「だから違うとっ!」
「私をおいて話を進めないでクダサァァァイィィ!!!」
「がばぼばぼぼ!」
「見るなダルマァァァ!!」
なにやら勘違いしたらしいベルクーリ様に弁解する私、痛みから復帰して文句をたれる元老長へ思わず二つ目の桶を投げてしまう。
凄い私!寸分狂わぬ軌道で元老長の顎を打ち抜いて崩れさせたわ!!
「さて、元老長は片付けるが・・・・・イーディス、ソイツ溺れちまうぞ?」
ぐったりとしたシズクを見て、ベルクーリ様はそう言い残して脱衣所を後にする。
「痛っ! あぁっ!!」
意識してシズクを沈めててたら、急に右目が痛くなった。焼けるような痛みで、頭がおかしくなりそう。気が狂いそうになってると、抑えてる手をシズクに退けられて右目を覗きこまれる。そこであたしは右目がおかしくなってることに気づいた。
シズクを見てるはずなのに、神聖文字が見える。その意味が何か分からなくて、見ようとしても痛みが強くなってくる。
「イーディス。何も見ようとするな。何も考えなくていい」
「シズ、ク・・・?」
「はいはい、貴女のシズクさんですよ~」
耳元ではっきり聞こえる大きさで囁かれる。気づいたらシズクに抱きしめられてて、背中をゆっくりぽんぽんって叩かれてる。
段々落ち着くことができて、私の右目の痛みも和らいできた。おかしいものが見えてた右目も、今じゃ元に戻ってる。
「はぁはぁ、っはぁ・・・なに、あれ・・・・」
「俺が知るか。まぁ、そのお蔭で俺は命拾いしたわけだが」
「・・・・・そうだね」
多少、おどけているコイツに救われた。一緒に思いつめてくれていたらソレはそれで私も考え込んでしまっていただろう。
騎士長なら知ってるかもしれないけど、アレはなんか聞かないほうがいい気がする。最高司祭にも、元老長にも言わないほうがいいかな。
シズクの胸に顔を埋めて、ふと気づいた。
「溺れてたんじゃないの?」
「ふっ!伊達に素潜り五分の記録は持ってないんでな」
「つまり、私の裸も見たと・・・」
未だにシズクの胸に顔を鎮めているが、私は自分でも顔が熱いことを自覚している。それほど赤面しているのだろう。
「・・・・非常時だったからね?見たことは否定しないけどコレは事故・・・」
見上げればシズクの目は泳いでいた。
見たわね絶対、コイツ確信犯・・・・。
「・・・・・そうねって、するかぁ!!神聖術で“がちがち”に固めてやるんだか、ら?」
目の前でシズクは電気でも浴びたように痙攣して、今度こそ意識を手放していた。
私としては記憶が飛んでいたほうが都合がいい。だってベルクーリ様の誤解を解くだけでいいんだから。
シズクの首輪(見た目は一方通行のチョーカーに近いソレ)は主・・・この場合は私の意志で神聖術が発動する防衛装置みたいな物なんだってベルクーリ様が教えてくれた。
なんでも最高司祭様は私とシズクにパスを繋いで、目に見える形で目印をつけたとか。
私がシズクに対して神聖術を発動する時は何時もの「システムコール」の掛け声はいらない。どんな風にとめたいと思えばソレに準じた物が発動するんだって。
昨日のは神聖術で麻痺させてやろうと思った、ソレが首輪から強力な電流に変換されたってことらしい。シズクの髪の毛がチリチリになってたのはご愛嬌だ。
最初の誤発動は、私が風呂で気を抜いて「もうどうでもいいや~」と思ってたところにシズクの「神聖術ってどんなんやろ?」と言う思考が重なり、禁句が偶々“がちがち”になったんだとか。
つまり、私がコイツを無理やり止めたい時は“がちがち”ってどんな風にしたいか念じながら言えばいいってことよね。
寝具についても問題はあった。
シズクは変なところで図々しいと思う。
「ベッドは一つか、イーディスさん?もしかして一緒に寝てくれたりします??」
「は、はぁっ!? 何言ってんの!? そんな事したら子供できるじゃん!」
「できるわけないだろ。頭大丈夫か?混乱してない?」
「・・・・。できないの?」
「え、子どもの作り方を教えないといけないの?」
すっごい嫌そうな顔してるし、たぶんあたしの考えてることじゃ、子どもはできないみたい。一緒に寝るだけじゃできないんだ。
「誰にそんなの教わったんだよ」
「誰ってそりゃあ・・・・誰だろ?」
「そこは親じゃないのか?まぁ、無理に思い出さそうとしなくてもいいさ」
「あたし達整合騎士に親なんていないよ。天界から召喚されてるんだから」
「召喚、か・・・」
「なに?」
「なんでもない」
軽く手をふるって答えるシズクを見て私は隠す気がないと思った。明らかに纏っている空気は別物になり、何処か悲しげですらある。
私もそんなに興味が引かれたわけでもないのでそれ以上追求はしなかった。
「じゃ、寝ようか?」
「うん。って言うと思った? 一緒とか子供できなくても嫌だからね?」
「けど寝る場所が他にないだろ。俺にも寝床用意してくれよ」
「明日には用意させるから、今日は床にでも寝てて。毛布はあるし」
「ヤダヤダ床とか!朝寒そう!」
「子供か! 痛っ!」
「イーディス?」
私は頭を抑える。駄々をこねるシズクの姿を見たせいなのかな。頭が痛い。言葉にし難い痛みがあって、よく分かんないけど胸が苦しい。何か穴が空いてる気分になる。
「とりあえず横になれ」
寝床の上に押し倒されて、布団をかけられる。別人なんじゃないかってくらい切り替わりが早くて、シズクのことが何もわからなくなる。少し分かったような気がしても、すぐにそれを惑わされちゃう。
けど、たぶん優しさはあるのかな。私を寝かせて、様子を見守ってくれてる。さっきの子供らしさから急に年上感が出てきたけど、そこはもう考えるのはやめた。
風呂での一件があるからさっきのはシズクの演技だったのかも・・・。
「ごめん、ありがと。・・・・何か下心とかあるでしょ?」
「何だ急に」
「だって、私から離れたら自由じゃん? それなのに私が隙を見せても逃げようとしないし、むしろ助けてくれる。なんで?」
「ん~・・・性分なんだよ」
「・・・嘘ばっかり」
「手の届く限りは、助けたいって思ってるだけさ。お人よしなの」
あ、コレは嘘じゃないな。シズクの心は闇を抱えているんだ、身内を亡くすとかそういう悲しみの類と不安。とても悲しそうな目をしていたから、直ぐに分かった。
「ふぅん・・・一人でダークテリトリー走り回るだけあって腕に覚えはあるってこと?」
「ま、ソレについても明日見せてやるかもだ。調子が悪いならお眠り・・・」
私は促されるまま瞳を閉じる。多分、シズクなら信頼できる・・・そんな根拠のない確信を小さな会話なの中で得た気がした。
今思えば、二日目は大変だったな。
俺ことシズクはイーディスの従者に、しかもアドミニストレータの奴が施した
既にゲームで知っていたとは言え、整合騎士でも禁忌目録に触れそうになると右目のリミッターが発動する。実際に見て思ったのは、この世界を生んだ一部の人間は間違いなく歪んでいたと言う事。
俺には現実の肉体がない・・・あるの?多分ない。
だから、キリトのように菊岡さんへ抗議することも儘ならない。イーディスたちと同じ一AIという扱いだろう。
(こうやって寝ている時は、歳相応の女の子なんだよなぁ)
イーディスの寝ているベッドは、新たに大きくツインサイズになっている。誤解したままのベルクーリさんが、申請を見た時に既存のシングルベッドと交換するよう根回ししたとか。因みに真ん中には柵があって間違いが起きないようになっている。
いや、がちがちの一言で俺死ねるんですけどね?
(こっちに来て、皆に会って実感した。俺はこの世界で生きていくしかないのか?ログアウト出来るのか?分からないことだらけだけど・・・)
こんな風に思うのは、きっと失礼だ。
整合騎士であるイーディスを守りたいなんてね。でも、俺にとって最初に出来た繋がりなんだ・・・・だから、きっとこれから起こるキリトとユージオによる突貫事案も最終負荷実験でも俺はイーディスの盾になろうと思っている。
過ぎた願いだ・・・けど、この世界は心が折れない限り、可能性はある。
「むにゃむにゃ・・・シズク、そこに直れ・・・」
「どんな夢だよ」
「がちがち・・・つぶれちゃえ~・・・むちゃむちゃ」
「ふげばっ!?」
うん、左手で壊せないかな?この首輪!?