「すまん。俺の・・・ミスだ・・・っ!」
四人の前に戻ったシズクが、誰にとも無く謝った。言い知れぬ恐怖を放ち続ける剣の巨人の出現をしていて尚、シズクは“違う未来”に進んでくれる事を心中では、藁にも縋る思いで祈っていた。
結果、その祈りは届くことは無かった。仮にも自分を仮想世界アンダーワールドに落し込んだ“神”いたのならば、キリト達が血の海に沈むような展開を避けさせなければと願いながら動いた五年は結局の所、無駄だった。
「さて、体を構成する剣の1本1本が神器級の優先度を持っているこのソードゴーレムに、あなた達は勝てるのかしら?私の貴重な記憶領域を限界まで費やして完成させた、目の前の敵をひたすら切り続ける史上最強の兵器に」
もう戦いの火蓋はいつ切られてもおかしくない。咄嗟にそう理解したキリトは愛剣を抜刀し、ユージオとアリスとイーディスもそれぞれの愛剣を鞘走らせた。そしてアドミニストレータは、天に掲げていた右手を振り下ろして高らかに謳うように言った。
「さぁ!戦いなさいゴーレム!お前の敵を滅ぼすために!」
「全員散開!回避に徹しろっ!!」
「やああああああ!!」
裂帛の気合いと共に先陣を切ったのはアリスだった。剣の巨人はその瞬間を待ちわびていたが如く大きく腕の剣を掲げると、彼女の懐に向かってそれを勢いよく振り下ろした。
「アリス!駄目ぇ!!」
悲鳴に近い声が響いた。アリスと黄金の凶刃との間に、アリスを庇おうとしたイーディスが割り込んだ。イーディスが受け止めきれる・・・わけも無く二人は凶刃に貫かれてしまう。
「「がはっ・・・!」」
激痛に悲鳴を上げる暇もなかった。そんなことをする間もなく、アリスとイーディスは血反吐が噴き出した。そして剣の巨人は、イーディスとアリスの丹田から胸にかけて縦に突き刺さった鉄の腕を血飛沫を散らしながら引き抜いた。その残酷な仕打ちと大切な二人を傷つけられた怒りのままに、シズクは剣を構えた。怒りのままに動いたのはキリトも同じで、悲鳴にも似た絶叫の声を上げながらソードゴーレムに向かっていく。
「う、あああああーー!!」
横一閃。
「ごふっ・・・!?」
ソードゴーレムの背骨と骨盤の間接部を狙ったキリトはソードゴーレムの背後を取っていた。その巨躯故に動きは緩慢だと踏んで直線的に攻める事をしなかったのは猛者ゆえのとっさの判断、シズクと十字砲火のような位置取りで攻めた。
ぐりん!と
それは、まだ体が上下繋がっているのが不思議に思えるほどの強力な一撃だった。キリトは切断された腹わたからビチャビチャと血と臓物を撒き散らしながら転がると、やがて床に伏して血の池に沈んだ。
「あっ、そ、そんな・・・キリト・・・イーディス・・・アリス・・・」
「うふふふ・・・あーはっはっは!口ほどにもないわね!もう二人しか立っていないじゃない!」
「おおおおおっ!!!」
裂帛の気合と共にシズクがソードゴーレムの核・・・敬神モジュールに技を届かせた。
ガキィン!と言う撃鉄音と反動で仰け反ってしまうシズクは倒れまいと力を込めてバランスを取っている。その僅かな隙すらソードゴーレムは逃さない。残像を切裂く凶刃とイーディスに重なる様に倒れるアリスの前に現れたシズクの様子にユージオは唖然となった。
「避け、きれた・・と・・・思ったんだけど・・・なっ」
胸から腹、×字の傷を受けていたシズクも鮮血を吹いて、血反吐を吐きながらも剣を杖にして倒れることは無かった。それでも戦えないのは明白で、ユージオは戦慄を覚えた。
キリトとアリス、イーディスとシズクは今や人界最強クラスの剣士だ。こんな簡単にやられるはずが無い、四人は何時ものように直ぐ立ち上がって剣を構えてくれる筈だ。
元凶である剣の巨人を前にしてユージオは完全に足が竦んでしまっていた。しかし、感情を持たぬソードゴーレムが呆然と立ち尽くす彼に容赦などするはずがない。余りにも無慈悲な巨人の剣が、一人残されたユージオにも振るわれようとした時、どこからともなく声が聞こえてきた。
『ユージオ!短剣を使うのよ!』
「・・・え?」
その時だけは、ユージオの頭はなぜか冴え渡っていた。その言葉に、どこか今までずっと一緒にいたような親近感を覚えた。突如聞こえた声のままにキリトの方へ視線を向けると、彼の頭から何か小さな生き物が飛び出すのが見えた。
『時間は私が稼ぐわ!急いで!』
それは蜘蛛だった。ユージオとキリトがルーリッド村を出てからずっと影ながら見守っていたその蜘蛛の名は、シャーロット。彼女はキリトの頭から音もなく着地するやいなや、全長二メートルは超える巨大な黒蜘蛛に変化した。
『シャアアアアッッ!!』
精一杯の威嚇の叫びを上げながら、シャーロットは勇猛果敢に剣の巨人に立ち向かっていった。その鉄の巨体に体当たりした瞬間に、いくつもの切り傷を負ったのは間違いない。しかしユージオは必死の彼女の言葉を信じて、竦む足を必死に動かして昇降盤を目指す。
「・・・邪魔な虫ね」
短い宣告と共にアドミニストレータが指を鳴らし、その拮抗は3秒と満たない内に終わった。ソードゴーレムは左手を振るい、一瞬にしてシャーロットの左前脚を切り落とした。続いて右手を振りかぶると、彼女の胴体を串刺しにした
「・・・ぁ・・・」
まるで害虫のように、シャーロットの体はあっさりと潰された。
意識が猛スピードで遠のく、抵抗できない感覚に襲われていたシズクが声を絞り出す。果たして声と形容していいのか分からない音を発した直後、部屋の一ヶ所から紫色の閃光が迸った
『よかった・・・間に合った・・・最後に、一緒に・・・戦えて・・嬉し、い・・・』
「ありがとう、僕たちを守ってくれた人・・・あなたの努力は、決して無駄にはしない!」
シャーロットはそう呟いて、絶命した。彼女の指示通り、ユージオは震える体を鎮めて昇降盤にたどり着き、カーディナルから受け取った短剣を床に突き刺していた。そして頬から一筋の涙が溢れ落ちると、最上階の空中に木枠の扉が現れ、雷にも似た眩い光線が、大質量を誇るソードゴーレムをズガァンッ!という轟音と共に一撃で横たわらせた。
「・・・来たわね。大図書館の秘蔵っ子」
カチリ、とドアノブが回されたその扉の奥からゆっくりと、宙を滑りながらカーディナルが姿を現した。彼女の姿を見たアドミニストレータはくつくつと笑い、背丈よりも高い杖を持つカーディナルは彼女を一瞥しただけで視線を切りアリス達の元へ降りていった。
カーディナルは地に足をつけることなく宙を滑っていくと、アリス達の元で杖を一振りし、次にキリトの上で杖を振った。すると四人から出ていた血が本人の体に戻っていき、みるみる内に傷口が塞がっていった
「この頑固者。任を解き、労をねぎらい、お前の好きな本棚の片隅で望むように生きろと言うたじゃろうに・・・・」
最後にカーディナルは、小蜘蛛に戻ったシャーロットを両手で大切に拾い上げ、悲しげな瞳で数秒見つめた後に、自分のローブの裾に匿った。そして負傷から復活したキリトとアリス、イーディスが呻き声を上げながら立ち上がり、ユージオとカーディナルの元に歩み寄った。
ただ一人を除いて。
世界が反転し、送り主が重い腰を上げる。
シズクはクーに運ばれるようにしてその場に着いた。そこは白一色の世界、自身に致命的な二連撃を見舞ったソードゴーレムは見当たらない、
「こ、ここは?」
「平たく言うと死後の世界だね、ご主人」
「いやいや!このまま死なれたら私は非常に困るんだよ!!」
クーが答えると慌てふためく女性が走ってきた。白いロープ姿に杖をもっているグランドクソ女郎にソックリな女性は捲くし立てる様に言った。
「キミはこっちに来ちゃいけないんだよ!まだ天命値だって1残ってる!!せっかく特典をあげたっていうのにコレじゃ水の泡だ!!」
「誰だ?」
「仕方ないでしょ、神様。ご主人は皆と違って二撃受けてるんだよ?天命値が残っていても肉体的には死んでしまっても可笑しくないレベルなんだ」
「分かってるよ!?カーディナルだって間に合った。キミは決戦の地に戻る義務があるんだ!!」
「神様・・・と言ったな、何で俺には義務がある?」
俺が質問をするとホッとしたように胸を撫で下ろす
「答えは至極単純、あの
「SAOの主役はキリトの筈だ」
「分かってないなぁ?キミが整合騎士サイドに参加した事で生まれた・・・SAOの新たな
神様が杖でコンッと床を叩くと、恋がどうのと言っていたアドミニストレータを床に映し出された。
「まさか・・・左手か?」
「そう。キミの魂は神様の生まれ変わりでもなければ、伝承に名高い幻想殺しでもない。けどね、私の偏見と独断で性能は調整させてもらったわけさ。名前はないから好きに決めると良い、使い方は心が覚えているはずさ!それに、キミの性格上彼ら放って死ぬなんて出来ないだろう?」
にやりと微笑む神様、床に映るのは
「ご主人はアタシが託した事も全うしてくれるしね」
クーがそう言うと幻狼刀に姿を変えた。手にして、神様に背を向ける。
「どうやって帰れば良い?」
「安心して良いよ、目の前の扉を通れば皆が回復するタイミングで帰れるようにしておいたから時間のズレはないよ。キリトと一緒にあの世界を守って欲しい。“虚無の者達”から世界を」
現れた某猫型ロボットが出しそうな扉を荒々しく開ける俺に、