その一撃は、間違いなく人体が受けて無事でいられる代物ではない。本来ならば先ほどの一撃で二人の命は刈り取れていたはずなのだから。
「お前・・・その手は、何だッ・・・!!?」
キリト達の目の前で、先ほどまで絶対的な余裕を感じさせていてアドミニストレータが初めて焦りの色を見せた。紫電を受けたシズクの左腕は服が弾けて肩まで露になっていた。キリトとユージオ、アリスもその変化に言葉を失う。
「コレか?名前はない。強いて言えば、未来を掴む
答えるシズクの左手は肘まで薄いオレンジ色の光を放っていた。その光は力強く、優しく暖かい物だ。
「最高司祭様、貴方に一つだけ感謝を・・・・」
一歩遅れて、カーディナルとキリト達に歩み寄ったイーディスは言う。この一点に関してはアドミニストレータの采配だから、ソレが例え、シズクを監視するための駒として自分に紐付けたとしても。
「貴方が私の従者として、シズクを与えてくださった事・・・私は貴女の人形から脱することが出来た。本当の敵が見えた!」
「黙れっただの騎士人形が!!」
アドミニストレータは分かっていた。イーディスとアリス、カーディナルかキリトやユージオを狙えばシズクが護りに入ると。シズクの一撃は受けてはならない、それはキリト達にも言えた事で、アドミニストレータが恐れるほどの威力をシズクは手にしている。
「アリス!行くよっ!!」
「はいっ!護れ、花達!!」
イーディスが闇斬剣の武装完全支配術を振るうと刀身から漆黒の闇が、掛け声に応じたアリスの金木犀の剣の花弁に纏わり着いた。シズクへ向けて放たれた紫電は、黒と金の花弁に阻まれて標的に届くことは無い。
「このっ!やらせると思うなぁぁぁっ!!」
ソードゴーレムが動く。無数の金属音を奏でて、一歩ずつ迫る脅威に向かって左腕を振り上げた。アドミニストレータが想定したように、傷つく事を厭わず、傷ついても只敵を殲滅するまで止まらぬ兵器として。
「させぬ!」
ユージオに支えられながらも、再び浮き上がったカーディナルが両手をソードゴーレムに向けてグッと力を込めた。念力のような、見えない力に拘束されたソードゴーレムが無理に動こうとして剣の体がミシミシと悲鳴を上げていた。
「ーーーッ!ちょこざいなぁぁぁっっ!!」
アドミニストレータは神聖術で発現させた鮮やかな銀で精製されたレイピアを手に取り、ゆっくりと、それでいて確かに近づいてくるシズクを直接斬り殺さんと向かっていった。
「でやあああああっ!!」
そこに黒の剣士が滑り込む。黒い愛剣を掲げて、銀のレイピアと切結ぶ。
「退けっ!!!」
「退くものかっ!」
「退けといったァァァァ!!!」
目の前でキリトがアドミニストレータを食い止めている。壮絶な攻撃をかろうじて、それでいて反撃に転じる良く知るキリトの姿に俺は苦笑する。
そうだ、
俺は漠然とそう思いながら、一歩ずつしっかり床を踏みしめる。左手に宿った
くそ、神様とやらは何処で間違えたんだ?
「がっ!!?」
シズクがアドミニストレータから意識を逸らしたほんの一瞬、数秒のうちにキリトは頭上を舞っていた。黒の剣士を退けたアドミニストレータが迫る。
「避けよっ!!」
ごしゃぁ!と金色の鉄塊がアドミニストレータを押し潰した。アドミニストレータはにはあらゆる金属オブジェクトが無効になるため、傷こそ付いていないが、投げつけられた剣の巨人の質量には耐えることが出来なかった。
「リセリスッ・・・・!」
「ザマァみろ・・・クソ女・・・・・・!」
忌々しげにカーディナルを睨みつけるアドミニストレータに、カーディナルはしてやったりと笑って、そう言った。
「咲けっ!青薔薇ッ!!」
剣の巨人ごとアドミニストレータはユージオの青薔薇の剣の完全支配術によって巨大な氷で拘束する。バキッ!とその氷塊に亀裂が走り、青薔薇の剣を逆手に持ったユージオが舌打ちした。
「この程度で私をとめられると思うなぁァァァ!!!」
「そうだな、コレくらいじゃないと止まらないだろう?」
ゆっくりと歩みを止めなかったシズクがアドミニストレータを射程に捉えた。イーディスが、アリスが、キリトとユージオが何故機敏に動かないかと疑問に思った。動かないのではなく動けない・・・左手の力を完全解放した状態のシズクは力の濁流を制御するのに精一杯で、他に気を回せなかったからだ。
最初こそ、薄いオレンジ程度の光がソルスよりも眩しく輝く“光の手”となっていた。アドミニストレータが焦り、氷の拘束から逃れようとするが間に合わない。この一打に自然神経を集中させて、シズクが拳を握る。
「さぁ、覚悟しろ・・・・」
「ま、待って!やめて―――――」
アドミニストレータの懇願を無視して、シズクは左拳を振りぬいた。
氷と拳が触れ合った刹那、カセドラルの最上階は閃光に飲まれた。