SAO イーディスと逝くアンダーワールド   作:難波01

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キリトの眼前で、一つの結末を迎える戦いが繰り広げられていた。自分と同じ、もう一つの世界から来たと解釈する青年は力強く床を蹴ると滑るようにアドミニストレータへ間合いを詰めた。その瞬間、アドミニストレータはテレポートじみた速さでシズクを攻撃圏内に捉えると紫色のライトエフェクトが瞬き、目にも留まらぬ六連撃の刺突がシズクの体に突き刺さった。

 

「っ!!!?」

 

「なっ!?」

 

「細剣六連撃ソードスキル『クルーシフィクション』よ」

 

 

 

 

 

一瞬の内に走った六度の衝撃に、シズクはたまらずバランスを崩して転けた。完全に転がる事無くシズクはとっさに突き出した左腕をスプリングの役割を担わせ、アドミニストレータの頭上を飛び越えた。

 

「おおっ!!」

 

ガキィン!と刀とレイピアが撃鉄音を奏でて、鮮血を捲きながらシズクは今度こそ転がった。一回前転しながら勢いを殺してアドミニストレータを視界に捉える。

 

キリトは嘘だ、と呟いた。細剣六連撃ソードスキル『クルーシフィクション』、そんな技をキリトはユージオに見せていない。何よりキリト自身が使えないのだ。遥か昔にアインクラッドで目にした事がある程度なのだから。

 

「お前の手の内は分かっている!!」

 

「がっ!?」

 

シズクが完全に体制を整える前にアドミニストレータのか細い足が、シズクの顎を蹴り上げた。只でさえ少ない天命値を鮮血に変えながらシズクの身体は無理やり反らされ、完全に反りきったところでアドミニストレータの握られているレイピアの刀身が細身の刃ではなく、一般的に片手直剣と呼ばれる両刃の刀身に変化し、橙色のライトエフェクトを放った。

 

 

 

 

 

「片手直剣八連撃ソードスキル『ハウリング・オクターブ』」

 

 

 

「があああああっ!!?」

 

 

 

 

 

細剣と見紛うほどの高速の五連突きの後に、上下に行き交う切り下げ、切り上げ、切り下げの三連撃。身を刻まれてもシズクが倒れることは無かった。

 

「飛天御剣流――――――」

 

 

「刀単発ソードスキル『絶空』」

 

同じ刀系ソードスキルでも繰り出す速度が違った。剣の速さ、身のこなしの速さ、相手の動きの先を読む速さという三つの速さを最大限に生かし、最小の動きで複数の相手を一瞬で仕留めることを極意とし、一対多数の戦いを得意とする実戦本位の殺人剣である飛天御剣流を扱うシズクは本来なら、万全ならば騎士長ベルクーリからも先手を取れる神速の剣士。それもアドミニストレータには通用しない。

片手剣だったアドミニストレータの剣は刀に変化し、腰に据えた状態からそれを真一文字に振り抜いた。まさに神風のごとき迅さを誇る一閃は瞬く間にシズクの脇腹を切り裂き、彼の正面にいたはずの彼女は、いつの間にか彼の背後で刀を振り切ってトドメとばかりに回し蹴りを打ち込んで吹き飛ばした。

 

「何時まで・・・そうし・・てんだ・・・・?」

 

アリスを寝かせてその場で立ち尽くすキリトの前まで転がったシズクは血塗れでとても立てる状態じゃないにも拘らず、刃を床に付きたてて立ち上がる。

 

「お前は・・・相棒(ユージオ)にとって・・・・俺にとって・・・・っ!!」

 

「無理だ・・・勝てっこない・・・・!」

 

絶望と無力感に苛まれながらキリトは立ち上がり続けるシズクに叫んでいた。満身創痍のシズクはそれでも!と叫び返す。

 

「俺は・・・お前に見せてもらったからな!勝てる勝てないじゃなく・・・・・“勝つ”んだ!!って」

 

「いい加減鬱陶しいわね、楽になりなさい!!」

 

アドミニストレータが突き出したレイピアと雄叫びと共にシズクが床から引き抜いた幻狼刀が交わった。ぎゃりぃぃん!とレイピアと刀がぶつかり合うたびに金属音が鳴り響く。先ほどまでお世辞にも互角などといえないほど一方的だったのにキリトの目の前で互角に渡り合っている。

シズクの姿がイメージによる上書き現象で変わる。灰色の部分は朱色へ変化し、血で染まっていた袴は穢れを知らない白に戻る。シズクが今に至る道のりで培った全てが発露した。

 

それでも圧倒的な実力差は埋まらない。アドミニストレータと僅かに渡り合った時間にして一分と持たないうちにアドミニストレータが突き出したレイピアの切っ先が、シズクの脇腹を掠めた。

 

「二十七頭龍閃っ!!!」

 

天命が残り少ない上に満身創痍、そんな状態で放っていい技ではないのは承知の上でシズクはアドミニストレータよりも疾くほぼ同時に9連撃×3発の負担を省みない技を繰り出す。

アドミニストレータがどうやってソードスキルを知ったかなど、どうでも良い。今この場で殺らなければ!とシズクは自身を省みない攻勢に出たのだ。

ぶわぁ!っとアドミニストレータは銀に輝く長髪を矢のように広げてシズクに向けて放つとぎぃぃぃん!と撃鉄音が響いた。シズクの神速の剣技はほぼ全てがアドミニストレータの髪に相殺された。が、一太刀だけ二十七撃目最後の突きだけが僅かに狙いをそらされ、アドミニストレータの頬に一文字の傷を刻んだ。

 

「小癪な・・・小癪なあああああっっっ!!!」

 

頬に僅かな傷を負ったアドミニストレータの怒声が響く、同時にアドミニストレータの銀に輝く長髪が、カセドラルの最上階全体を覆うようにして蠢いた。そして測りきれないほど長く伸びた髪の先に炎、風、氷、雷、闇・・・ありとあらゆる神聖術の素因が発現し、一斉にシズクへ襲い掛かった。

 

「もう、いい・・・・」

 

あらゆる素因が濁流となって押し寄せ、その濁流は信じられないことに満身創痍の自分と同じ“イレギュラー”な存在によって掻き消されていた。いや、彼の左腕に宿る力が一撃の威力に変換・蓄積しているのか?そんな事を予測した所で、キリトは勝ち目があるとは思えなかった。

アリスと共に気絶しているイーディスが目についた。そして、キリトがアリスを未だに抱き支えていて、脇にはイーディスが気絶している。三人の前でシズクは満身創痍の体で踏ん張っていた。天命が尽きても可笑しくない、そんな無茶を突き通す。

 

「良いわけあるか・・・・っ!ここで諦めれば、お前を慕った者も死ぬぞ!?俺はゴメンだ!!」

 

シズクが吼える。自分は決して諦めないと吼えたのだ。圧倒的な力の差を前にして埋めようのない、超えようの無い壁を前にしながらも前進し続ける。素因の濁流を搔き分けるように小さく一歩前に出る。

左手が全ての素因を変換・蓄積できているわけではない。左手がぶれ始め、次いで左袖が再び弾け飛んだ。尚も自身の攻撃力に変換し続けるシズクは小さくとも一歩、また一歩と近づいてく。

 

()()で・・・護るんだっ!」

 

ぐっ!と素因がシズクを一歩押し返すと絞り出すように、誰かの英雄が奮い立つと信じて心中にお止めていた思いをシズクは吐き出した。

 

「俺だけじゃ駄目だ!・・・・駄目なんだ!!勝ち目が無いなんて、そんなことは無い!!」

 

素因の濁流が左手が放つ攻撃の威力に変換され、左腕は先ほどのように、眩い光を湛えたアドミニストレータが恐れる切り札(ジョーカー)として完成を見た。だが、彼女を屠るだけの威力を秘めた光拳を叩き込むための隙は存在しない。

 

「些細なことで良いんだよ・・・・この世界の人を、愛する人を護りたい。俺()はソレを知っている筈だ!!」

 

常人なら塵一つ残らない素因の濁流を耐え切ったシズクに圧倒的に優位なはずのアドミニストレータは直ぐにでも殺すといわんばかりの勢いで畳み掛けた。理由は至極単純、シズクは先ほどの攻撃力・・・・現状で自分を確殺できる拳を再び作り上げた。

 

「いい加減諦めたろ!勝ち目など無いっ!私の前で醜悪に抗うなっ!!いい加減死ね!!!」

 

片手直剣単発技『ヴォーパル・ストライク』。赤いライトエフェクトと共にアドミニストレータが放ったその剣技は、技という体こそ為していたものの、怒りに狂った所為なのか、余りにも粗雑な一撃だった。何処まで追い詰めようと、絶対とも言える力の差を見せ付けようと彼女にとって「未知の力」、その一点を行使して自分の命を脅かす存在を刈り取らんと躍起になった結果は―――――――。

 

 

「エンハンス・アーマメント・・・・・!」

 

 

ハッと我に返り、キリトが振り返ると青薔薇の剣を床に付きたて、立ち上がろうとするユージオの姿だった。向き直れば、ぶしゃっ!とキリトの眼前でシズクの右肩付近にアドミニストレータの剣が刺さって、貫通して鮮血を撒き散らす。

 

「この程度でっ!!?」

 

「いや、コレで終いだよ・・・・クィネラァァァァ!!!!」

 

ずりゅ!と剣が更にシズクの身体に沈んだ。いや、アドミニストレータが突き出した剣に向かって歩き出すシズクが射程にアドミニストレータを捉えた。右腕を断たれようと知らんと言うように、パンチと呼ぶより倒れ際にぶつけると言う表現がぴったりの一撃を見舞ったのだ。

 

全100階層を誇るセントラル・カセドラル全域が、激震した。

 

アドミニストレータは途方も無い衝撃を受けて半壊した壁まで吹き飛ばされ、一瞬の閃光は再びユージオの意識を刈り取りっていく。キリトは目の前で倒れ、起き上がることのないシズクへ這いよると治癒を始めた。自分程度では無駄だろうと思いながらも先ほど見せ付けられた後姿に習うなら、諦めないとキリトは再び心火を燃やす。

 

「・・・んふっ、うふふっ。意外・・・全く、意外な結果だわ・・・・」

 

一瞬だったのか、はたまた永遠だったのか、誰も知り得ない時間の流れの中で、その空間で最初に声らしきものを発したのは、世界の支配者たる女だった。漏れ出すような息の中で笑った彼女の全身は、シズクに打たれた胸板に拳一つ分くらいの穴があった。

 

「ここに残るリソースを・・・全て掻き集めてもっ、追いつかないほどに・・・天命を損なうなんて、ね・・・・・・」

 

拳サイズの穴から次第に亀裂が走り、アドミニストレータはよろめきながら、ぎこちない足取りで歩き始めた。

 

「ぐ、ふふっ・・・こうなってしまった以上、もう仕方がないわ・・・・」

 

誰に向けて言うでもなく一人呟くと、アドミニストレータは欠け落ちた大広間の北側の床を震える右脚で、とん、と踏んだ

 

「悪いけれど・・・どう勝負が転んだところで、最後の最後に笑うのは、この私であることに変わりはないのよ・・・・・・・」

 

するとその足の周りが円状に光り、直径50センチほどの柱が伸びた。そしてその上には、本来アンダーワールドには存在するはずのない、一台のノートパソコンがあった

 

 

「当初の予定より、随分・・・早いけれど、一足先に・・・行かせて、もらうわね・・・・・」

 

「いや、何処にも行かせはしない!」 

 

がりがりと床を剣の切っ先が擦る音が響いた。顔を上げることすら億劫になっていたアドミニストレータの視線に先ほどまで絶望していた剣士が映る。

 

「きさ、ま・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炬燵に足をつっこんでミカンの皮をむき始めた神様を名乗る彼女は、先ほど追い返したはずのシズクが再登場したことに驚きつつ、のそりと炬燵から這い出た。

 

「キミさ、私は多くの転生者を見送って来たけど最速で死んだね!?」

 

「仕方ないだろう?あんな化け物を殺すには刺し違えるほか無かった・・・最後にユージオが花を添えてくれたさ」

 

「馬鹿なの?馬鹿だよね!?自己犠牲で完結するほど世界は綺麗じゃないんだよ!?これなら特典は“死に戻り”の方がよかったかなぁ~・・・・」

 

やりきったような、諦めたような曖昧な表情のシズクを罵倒する神様。そんな彼女を相手にせず、無茶した事をきっとイーディスは怒るだろうなと考える。

このまま死ねば、二度とイーディスに小言を言われることは無いのだけど。

パァッ!と光の淵が正方形を形作る。そこからクーが出てきて裾を噛んでシズク引っ張る。

 

「ご主人、一人で死ぬのは駄目。アタシの約束はまだ果せてないでしょ?」

 

「いや、クー。もう俺も死んだぞ?」

 

致死量の出血に皮一枚で繋がっているような右腕、ソードスキルで潰された喉や切裂かれた腹と上げればどうして今まで動けたのかと思える傷の数々。既に痛覚が無いので無念ではあるが、代償としては致し方なしと割り切った。

イーディスには悪い事をしたとシズクは思う。

 

「いや、ご主人は殺しても死なない人だから」

 

「キミにしなれたら私は困るの!分かったら回れ右、神獣の開いたゲートで戻りなさいっ!!」

 

神様がシズクを光の正方形へ押し込んだ。シズクが何か抗議していたが知ったことではない。何せ、彼女・・・神様にとってシズクの死はifの未来(ルート)を歩み始めたアンダーワールドにとって必要不可欠な欠片なのだ。

 

「まったく、死者を蘇生させるのに私がどれだけ書類を書くと思っているのさ!?アチラから投げ込んだ私にも落ち度がるけれどこうもほいほい死なれたら擁護しきれないよ・・・ってもう聞こえないか」

 

神様は再び仕事机も兼ねた炬燵へ足を運ぶ。対面に半透明のウィンドを開き、そこに映し出される彼らを見ながら、皮のむいたミカンそっちのけで書類仕事を再開した。

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