東領の山岳地帯、シズクがダークテリトリーで侵攻を企む一団にフルボッコにされて
イーディスに出会った東の大門付近には遥か昔、神獣が巣くっていました。
その神獣は人々を愛しみ、ダークテリトリーからゴブリンが進行しようものなら人々の盾となってくれる優しい獣。
しかし、時が経つにつれて人々の間には伝承として語り継がれることになります。
質のよい鉱石が取れる、鉱石加工を天職とする者達の守り神のような存在として語り継がれる一匹の獣は今も尚、人々の為に身体を張り続けているのだと。
「ハァッ!」
私ことイーディスは木刀を振りぬいて飛び掛ってきたシズクを弾き飛ばす。
うん、単純な力は私の方が強いのね。でも、やっぱりシズクの瞬発力は侮れない。
「流石はイーディス、単調な攻めじゃどうにもならないか」
「アンタの主だからね。そう簡単に負けてあげる気はないわよ?」
意地もあるしね、弟子とは違うけれどやっぱり従者に負ける主って言うのは格好がつかないし。何より、私は八割方本気だと言うのにシズクは未だ余裕を残している。
ん~六割くらい本気なんじゃないかしら?
シェータさんに使った九連撃も見せないし、まぁあれ出されたら私も迷わず武装完全支配術使って手数増やすわ。負けたくないもの。とは言え、シズクが完全に受け入れられて三ヶ月が経った訳なんだけどコイツって割と誰とでも話すから自然と私も話す機会が増えるのよ。
最たるのはシェータさんかな?ことあるごとにシズクを鍛練に貸して欲しいって呼びに来るし。
「さて、一度はイーディスに勝ちたいからな。連続で出し続けるとするか」
シズクは再び意識の外へ、物凄い成長速度で剣気の扱いに慣れてきている彼に思わず私は木刀を構えなおす。一秒満たないうちに私の意識内にシズクが現れる。
愚直に突っ込んでくるシズクへ私は木刀を振り下ろす。
「もらっ・・・・!?」
俺ことシズクが出せるソードスキルで返し技としては最も適した技を繰り出した。
素直に迎撃に移ったイーディスの一太刀を回転による遠心力を利用して避けるとそのまま回転しながらイーディスの背後に回り込み後頭部や背中に打ち込む。
今回はピッタリと木刀がイーディスの首に添えられる形で止めるとイーディスが目を丸くしていた。
「漸く一勝・・・はぁ、整合騎士って対策早過ぎない?」
「え?嘘、アンタあんな絡め手隠してたの!?」
「どちらかと言うと返し技さ。イーディスが素直に打ち込んできてくれたからな、やりやすかった」
悔しがるイーディスにあっけからんと答える俺。
飛天御剣流の技は大抵試したことになる。魔獣など人型以外の存在ならば心意による強化は必須レベルだけど対して騎士や拳闘士相手なら十分通用する。
後詳しく分かった事もある。俺の左手の力は神聖術・・・平たく言えば意図的に使用されるリソース運用削除能力。
神聖術、もしもアンダーワールドにログインする別勢力が使用するであろう別次元の力に十分対応が出来る。分析したのは他ならぬ最高司祭・アドミニストレータだ。と後者は持論だ。
さて、左手の力をどう呼ぶか・・・何時までも幻想殺し(仮)では示しがつかないだろう。
「アンタ、次は本気で!私も本気でやるから!」
「朝から連戦は止めようか、バテる。それよか飯食いにいこうぜ?」
「・・・今は嫌かな」
「あ~時間的に元老長がいるのか」
俺が提案するとイーディスは渋り、その理由に気がつく。
ま、俺も得意なほうじゃないからな・・・あの達磨の相手をするの。出来るだけ出会いたくないって言うのは同意見だ。
「と言うわけだから私、お風呂に行ってくるわ」
「ま、汗くらい流さないとな・・・」
「入ってこないでよ?」
「入るか!」
イーディスが冗談っぽく言うと俺は即答した。
私ことイーディスとシズクは互いに汗を流すという事で交代で風呂に入ることになった。
あ、他の女性騎士がいたらシズクは待ってもらおうかな。でも汗だくの男と行動を共にするのは~・・・・うん、嫌かな。
「そう言えば、神器ってどうやって集めてるんだ?」
シズクがふっと疑問を投げた。
私も詳しいわけじゃない、最高司祭様が鍛えてくれるとかそんなんだった気がする。
「そうね、騎士長の神器は最高司祭様が鍛えたそうよ。」
「うへぇ・・・ま、そりゃそうだよな。でも全てが全てじゃないだろ?」
「うん、材料を調達して作ってもらうってパターンも然りね。これはシェータさんが該当するかな」
私は少し考えて知っている限り、神器の出自を思い出す。
あ、とか言う私の神器・闇斬剣の出自も詳しく知らないな。
「ってことは人界の何処かに神器が眠っているところもあるかもしれないと?」
「当てもなく探すとか言わないでよ?」
釘を刺すけど意味はないだろうなと私は最近感じている。だって、シズクは無理やり女性を襲うなんてことはしないし誰かの希望には出来るだけ応える人だと分かっている。そして気になった事は突き詰める節もあると私は気がついてしまっている。
「目ぼしい所は一つだけあるけどソレはソレ。遺跡とかになのかね?」
あ~駄目だ。シズクの目が輝いてる。
「良い?勝手に騎士長のところに行かないで。私が上がるまで待ってるの」
私は何処か諦めていながらもシズクに釘を刺した。
分かってるとは言うがコイツ、絶対に分かってない。あ~心配だなぁ、変な無茶苦茶な案件拾ってきそうだわ。
長風呂しないで速く上がって首根っこ掴まなきゃ。
イーディスには釘を刺された。
確かにイーディスの担当地区は東側、北にあるルーリット村の先にある洞窟には青薔薇の剣があるだろう。けどそれは未来のユージオの物だ。
さて、となると別件を当たるしかないわけだけどダークテリトリーに入ろうなんて思っていないよ?普通誰も行かないだろうし、もしあると知っていても回収には動かないだろうから。
俺ことシズクが妄想を膨らませているとベルクーリさんがやってくる。
「よぉ、少年。そんな所で何している?」
「おはようございます、ベルクーリさん。主人が湯浴み中ですので」
「なるほどな、お前さんは入らないのかい?」
「死にたくないので」
「はっはっは!冗談さ。お前さん、尻に敷かれてんのな」
笑いながら冗談を言うベルクーリさんに肩を竦ませる俺。
ベルクーリさんとはこう言う世間話を良くする様になった。
ベルクーリさんの中では俺はイーディスの従者でイーディスの男・・・と言うことになっているらしく、以前の申請をダブルベッドに変更したのはベルクーリさんらしい。
今こそイーディスに信頼されているが最初は大変だったんだ。
「そう言うんじゃないですよ。朝の鍛練の後に汗を流したいからって待ちぼうけっす」
「そうか、少年。任務には何時でも出られるな?」
「ええ、勿論」
急に真顔になり、纏う空気もシリアスな物に変わるベルクーリさん。コレにはふざけることは出来ないので素直に答える。
「そうか。ならイーディスが上がったら俺のところに二人で来るように伝えてくれ」
そう言ってベルクーリさんは去っていく。
何だったんだ?
私、イーディスの予感は的中した。
「アンタね?あれ程騎士長のところに行くなと言ったはずよね!?」
「いや、どちらかと言うと俺が行ったんじゃなくて!」
言い訳をするシズクに詰寄る私。こうなれば仕方ない、暫く封印していたけど!
「“がちがち”!」
「ふんごっ!?」
突然床に伏せるシズク、こいつだけ感じている重圧は通常の百倍なんだから当然よね。
さて、騎士長が何を吹き込まれたかは知らないけど何とかして否定しなくっちゃ。
「な、なぁ?イーディス、その辺にしといてやれ」
「いいえ!騎士長はお優しいからシズクが付け上がるのです!」
「いや、俺が何か進言した「“がちがち”」ゆ、指一本動かん!」
若干引いている騎士長を他所にシズクに掛る重圧は三百倍にした。
あ、床にめり込み始めたわね。
「いや、俺は少年にお前さんが湯浴み中に会って気概を確認しただけなんだが」
「それならそうと早く言ってください!」
私は直ぐにシズクへ掛けている神聖術を解除する。
まるで道路で干乾びたミミズのような状態のシズクは何とか立ち上がろうと手を着いた。あ、べりべり音立ってるけど大丈夫かしら?
「少年、生きてるか?」
「大丈夫です、割と慣れっこなので。天命二割減です」
立ち上がろうと床の凹みから這い出るシズクに騎士長が声を掛けるとステイシアの窓を開いたシズクが淡々と答える。
「そうか、なら移動している間に回復術式を掛けてもらえ。東側で民が消えるって報告があってな。整合騎士は民との接触を禁ずる・・・コレに抵触しないシズクを従者にもつイーディスに向かってもらいたいんだが」
こうして、私とシズクの最初の任務が幕を開けた。