ダークテリトリーに傲慢な男がいました。
暗黒魔術師団に属していた男は、自分
男は才に恵まれていました。
暗黒術士団が数人で行う攻撃術式も、服従術式も拘束術式も結界術も一人でこなす所謂天才でした。
男は天才ゆえに孤立します。
暗黒術士団を預かる団長は男を認めず、男の行いから追放しました。ソレが今回の事件の発端になったのです。
東の大門近くに流れ着いた男は、人界の砦跡に抜ける地下通路を見つけました。
男にとってソレは幸運でした。
砦跡は、地下部分は今だしっかりとして崩落も進んでない。地上に伸びた見張り塔や大戦の傷が残る地上付近を除けば、今までの境遇と比べてさながらホテルのようでした。
そして、歪んだ男の理想郷計画は加速します。
先ずは、編み出した
を行使し、その持続時間を確かめ、次に索敵術式で狙い目の年齢層の女性にのみ限定して居場所を把握する。
男にとって最高の環境が整いつつありました。
唯一懸念とした神獣は、力も弱りきり殺すことは叶わなくとも追い払う事が容易だったからです。
そして、この地に現れた新たな標的を狙う為に動き出します。
男にとって狙った女性が整合騎士であろうと関係ないのです。
服従術式を掛けてしまえば、自分の意のままに命を奪う事が可能なのですから。
俺ことシズクとイーディスはそれぞれ見張りを立てて仮眠を取ることになった。
天幕の簡易ベッド・・・と言うには余りも粗末な骨組みにのせたマットでイーディスが仮眠を取っている。俺はと言うと刀を抱えて天幕を隠すように張っている洞窟の入り口で霧舞と供に見張っているわけだが。
「・・・超暇」
思わず呟いてしまう。
だって、暗がりの中ずっと待ってるって結構苦行よ?勝手に仕掛けてくるって考えて警戒を強めてるんだけど、イーディスと交代して直ぐに仕掛けてこられたら俺休めないじゃん?
本当に○○の刃的な相手ならイーディスは初見で面食らうだろうし・・・と言うか俺、嗅覚で相手を追尾できんわ。
あ、もしもイーディスが攫われたらヤバくね?追えなくない?何とか手を考えないと!
対策を考える。俺は、現状最低限の神聖術しか行使できないので探査系なんて知らん。と言うかあるの?
勿論、風素を連続して爆発させることで飛行するなんて神業も出来ない。
霧舞に乗って・・・いや、目立つわ。と言うか俺、飛竜を一人で乗り回せないわ、走ろう。
人間誰しも立派な足がある!
「なぁ、霧舞・・・霧舞?」
またぼやこうと霧舞のほうを見ると霧舞が天幕の方を見て警戒している。
うん、まさかね?こんなお決まりの展開あるか、あってたまるか!少しは捻れよ!と文句を言っても意味がない。
疑いながらも天幕の五月雨を行きよいよく捲る。
するとイーディスの口を覆う青白い手と黒い帯状の何かが簡素な骨組みとマットを透けてイーディスを地中へ引き込んでいく。
イーディスと目が合うと助けを求めるように手を伸ばした、俺は飛び込んでその手を握ろうとする。
「クソッ!お決まりの展開で来るんじゃないよ!!あ、霧舞は待機!大丈夫、助けてくるさ!!」
俺は天幕から飛び出して、自分の獲物を腰に挿して闇斬剣を手に全力ダッシュ。
もっと気を張っていればと悔やむのは後にして、上げに上げていたAIG値に物を言わせて追いすがる。
目的地は砦跡!多分そこだっ!!
「ぷはっ!」
私ことイーディスは何かに攫われた。
暫く呼吸が出来なかったのはまるで水の中に投げ出されたような感覚で、それでも何処かに向かって進んでいることは感じていた。
私を抱えるように進んでいたのは誰だ?幾ら神器がなくても神聖術があるわよ!?
「はっ!最後の娘がこんな上玉だとは、運がいい」
床からドプッ!と言う音を立てて上がってくる男、シズクが集めた情報通り額に一本の
角を携えた人型の魔物・・・闇黒人だ。
「何が目的なの?コレはシャスター将軍の命令かしら」
「将軍は関係ない!コレは俺のための俺による俺の楽園だっ!お前等は逆らう事も逃
げることも出来ないんだよっ!!」
私が尋ねると激昂する暗黒人、変なところでシズクの予想が当たるわね。
寝るときは地面から出来るだけ高いところで、なんて簡易ベッドって言ってもそれなりに高さあったんだけどなぁ、その程度じゃ駄目か。
最後に見た光景は、血相を変えたシズクの顔、手を伸ばしたけどこっちの方が沈むのが速かったわ。
アイツが追ってこれると信じて見ましょうか、いざとなったら自力で・・・。
「お前等は毎日俺を楽しませるためだけの存在だっお前等の存在価値はソレだけだ!」
未だに激昂する暗黒人、私は肩越しに振り返ると必要な三点しか隠していない女性達が身を寄せ合って怯えている。
壁かと思っていた所には僅かに神聖力を感じる繊維のような物が張り巡らされている。
プライベートなんてあったもんじゃない。これじゃ丸見えじゃない!
「それにな、女!お前にも既に術は施したっ!抵抗しようと思うな、俺の意思一つでお前をくびり殺せるんだからな」
「・・・出来るものならやってみなさいよっシステムコーッ」
私はハッタリだと詠唱に入ると暗黒人・男がグッと拳を握る、するといきなり呼吸が出来なくて詠唱どころではなかった。
「あーはっはっはっ!お前は腕に覚えがあるようだが残念だったな!?今夜はお前で楽しんでやる!!」
「が、はっ!・・・そう、貴方は神聖術に長けているの・・・」
私は冷静に、極めて冷静を装った。
女性をこんな風に虐げる男は最低!でも、油断した私もいけない、最高司祭様はこんな事態になるのも見越していたのかしら。
怯える少女達に笑い掛ける、男はいぶかしんでまた拳を握ろうとしているけれど直ぐにそれどころじゃなくなったようでパリンッ!と言う甲高い音が薄暗いこの空間に響いた。
「な、何で結界が壊れた!?」
狼狽する暗黒人、私は嘲笑ってやる。
「貴方が私を攫ったことで、居場所がバレたみたいね。アイツに神聖術、効かないの。それにめちゃくちゃ足速いのよ?」
「っ!?・・・ふん!だからと言ってこの複雑な砦を短時間でココにたどり着くなどっ」
この空間はざっと四方に20メルくらいなんだと思う。
暗黒人の背後十メルほどの所の天井が斬りおとされ、白銀の魔獣とシズクが飛び出してくる。
「神獣。一瞬でもいい、奴を止めてくれ!」
一人と一匹の快進撃が始まった。
ぶっちゃけ、俺ことシズクは伝承とか信じるタイプじゃない。
砦跡が目的地と言うのは分かっていたが、闇雲に走ったところで入り口に着くわけもなく山肌に建造された砦跡ぶち当たった。
と言うか割と近場だったのか!入り口何処!?
そんな感じで走り回っていると一匹の犬に出会った。
「剣士よ、手を貸せ」
神々しいが、何処か弱弱しい獣。それが神獣だと直感的に分かった。
だって喋るんですもん、飛竜だって言葉は理解しても喋りませんし。
下手すると俺の方が速く走っていらっしゃるし。
「アンタ、神獣か!?」
「うぬ、詳細はいるか?」
「一分一秒が惜しい!敵じゃないならそれでいい!!」
神獣・・・外見は四速歩行で狼っぽい、何でかアンダーワールドに訪れる前に亡くした愛犬によく似ている。
感傷は後だ!と自分に言い聞かせ、俺はぶっちゃけ面倒なので砦の壁に左手を突ける。
パリンッ!と石造りの壁がガラスのように砕けるではないか。
「術による幻じゃ、そのまま走っておったら入り口は見つけられん」
「よっしゃっ!次は・・・・・下か!?」
「攫われた女子らも限界が近い、ココを斬るが良い。お主ならソレができよう」
と言う感じで俺は刀を走り座間ない抜き放ち、床を斬り抜いて飛び降りたわけだ。
「
恐らく犯人であろういかにも魔術師ですという風貌の男が癇癪を起したように神獣へ光弾を放つ。避けているのを横目で確認しつつ、俺は滑り込むようにイーディスの元にたどり着いた。
後ろにいる大勢の女性陣を気にする余裕もなく、イーディスの肩を掴んで尋ねる。
「イーディスッ大丈夫か?怪我は!?変なことされなかったか!!?」
「あ、アンタどんだけ心配してくれるの!?でも、ありがと。変な術式施されたみたいだから壊してくれない?」
俺はどうやら物凄く変顔になっていたらしい、イーディスは苦笑すると今の状態を教えてくれる。
鎧を着ていないイーディスは、ノースリーブ姿なのだが、イーディスの首元・・・左肩に掛けて変な文様が浮かんでいる。
「すまん!今回は俺のミスだ。予想はできた展開だったのに・・・」
「悔やむのは後よ、今はアイツ!」
「お、おう。そうだな」
ぽんっと左手が文様に触れるとパリンッ!と砕ける音が聞こえる。
イーディスが無言で闇斬剣を受け取ると俺の足元に神獣が転がってきた。
「この魔獣は・・・・?」
イーディスの声が遠く聞こえる。
神獣の状態が、どうしてもあの最後に被って・・・。
「お前のせいでぇぇぇぇぇ!!!」
暗黒術士、呼称が分からんから術師にしよう。
術師がヒステリックな叫びと供に極太ビームを放った。
位置的には俺、神獣とイーディス、集落の女性陣で、受けないという選択肢はなかった。
アレがどんな攻撃手段なのかは分からなかったが神聖術の類なら!
「ふざけんなぁッ!!」」
私の、イーディスの目の前で戦争でもそうそう使われないレベルの術式が発動した。
きっとあの暗黒術士一人で発動したなんて嘘みたい。後、私は改めてシズクの力を認識した。
神獣の倒れた姿を見て、直ぐに激昂したシズクが左腕を突き出す。
濁流のように押し寄せた砲撃術式をシズクは左掌だけで処理し尽くしている。
「うむ、小僧になら・・・・」
神獣の言葉が遠く聞こえ、被るようにバキバキと聞こえる。シズクがぶれ始めた左腕を右手で支えた。
「イーディスッ!」
「ええっ!」
私もあの魔術師には御礼をしないと気がすまない。
何より、少女をそういう目的で攫っていたなら、この少女達は精神的にかなりダメージを受けている筈、婚姻前に行為に及ぶのは禁忌目録違反とされている。
この子達に咎はない、コイツの!
私が一息に踏み込み、剣を抜くとそこに魔術師の姿はなかった。
「シズクッ!」
肩越しに魔術師が床から飛び出て杖にも見える剣を振り被っている。
思わず私は叫けんで、踵を返す。が、シズクは大きく身体をひねりながら、鞘に納めた刀の鍔を親指で弾いて刀を矢の様に飛ばした。
「邪魔をするなっ小僧ッ!!」
術師が刀を弾く、意外にも接近戦もこなせるみたい。
「だが、断るっ!」
シズクが身体を捻った勢いを殺す事無く、術士の胸倉を掴んで一本背負い。
あられもない方向を向いた左手の指を掴むと力任せに
「ぶべらぁ!!?」
うわぁ、見てるこっちが痛いわよ。
そんな事しても天命は戻らない・・・じゃなくてそのまま術士を殴り飛ばしたから驚き。
下顎を打ち抜かれて意識を刈り取られた術士を放っておいて魔獣の脇にしゃがんでるし。
「・・・我よりも女子達を術から開放してやってくれ」
駆け寄ると私も聞こえた掠れるような魔獣の声、囚われた少女達を心配する優しい声だった。
怯える少女達に奴隷のような生活を強制していたであろう
「アンタ、・・・・・そんな分けないか。」
私とて空気くらい読むし、冗談を言って和ませようと思ったが止めた。
いかに少女達が露出度が高くても鍛練で見せたことのないくらい鋭い拳を繰り出したシズク。
でも、その表情は最初に感じた寂しさを湛えた物だったから。
「き、さ、マァァァ!!」
ふらりと起き上がった術士が、気違い染みた声音を響かせる。
「このっ・・・・シズク?」
私は物凄い殺意を感じて振り返ると刀を拾って、ゆっくりと立ち上がるシズクが居た。
いや、いやいや可笑しいでわよ、こんな
ただ黙って、シズクは居合い技を繰り出した。
術士が、地面に潜るという退避手段を取るより速く、袈裟懸けに一太刀。
同じ刀使いとして憧れる
代償としては刀身が折れたことね。
「斬られて当然・・・・そんな人間は居ないけど、お前は俺の意思で殺す」
ヒュー、ヒューと浅い呼吸を繰り返す術士の喉下に折れた刀身を掴むと切っ先を向けるシズク。
私は、この時初めてシズクの抱える闇を垣間見た。
私は神聖術で少女達の記憶を飛ばすと同時に回復術を掛けた、と言うよりは整合騎士である私を見たという部分だけをぼやかしたに過ぎない。
少女達の記憶じゃ、シズクとこの魔獣が全部片付けたことになっている。
私はアレね、無謀な同じ被害者ってくらい。
術士にトドメをさして、魔獣の脇に座り込んだシズクを私は後ろから抱きしめる。
「イーディス?」
「何と無くよ、何と無くこうした方がいい気がしたの。アンタが抱えてる悲しみも分かった気がしたから・・・今くらい、主に甘えなさい!」
うん、改めて恥ずかしいけどシズクは私が攫われてから直ぐに動いてくれた。尾行するには距離で追って来てくれた。
あんまり期待していなかったけど私の予想を遥かに超えて頑張ってくれたから・・・ね。
「・・・・我、まだ死んでないんだけど?」
のそりと頭を起した魔獣が言葉を発すると改めてギョッとする私。
まぁ、神獣らしいし?人語を話しても不思議はないわね。
「お前のお蔭で助けられた。感謝している・・・・」
「私からもお礼を言うわ、ありがとう」
「何、礼には及ばん。我は娘らの天命を回復させる。それで我の天命は尽きるじゃろうて。何、お主に後は・・・・・」
そういうと神獣を中心に光が溢れた。
傷を負っていた、或いは天命が減っていた・・・術による弊害でか減り続けていた少女達の天命は完全回復。
昔に神獣たちは討伐命令がだされたとは聞いたことがあるけど、あの狼みたいな魔獣は本当に神獣だったのね。すごい・・・・。
驚いて少女達を見渡す私と膝をついて俯くシズク。
シズクにとっては二度目の別れってことよね。今は辛いだろうけど・・・?
「え?刀・・・」
「すまん、コレは持って行く。ベルクーリさんへの報告もあるだろ?」
「うん、そうね。」
私は刀を拾ったシズクの言葉に頷いて、少女達を避難させた後にダークテリトリーと繋がる横穴を発見。崩落させて今回の任務は終了した。