セントラル=カセドラルは100階にも及ぶ超高層建築物で、長い年月をかけて出来上がった代物らしいのだがそれはいま関係のない話。
カセドラルの内部は階層ごとに用途が異なるようになっている、地下は牢屋、比較的低い階層に武器庫、騎士見習いたちの居住区だったり。
30階が飛竜の発着所。整合騎士の居住区は上の方に用意されているし、イーディスが大好きな大浴場も上にある。
他にもいろいろとあるわけだが、中層あたりには修練場がある。
その目的で作られたわけじゃないらしいのだが、特に装飾品や置物がなくて丁度いいということで、自然とそうなったようだ。
「おう、少年。いつでも打ち込んできていいぞ」
そう言うベルクーリさん、俺ことシズクの前には笑顔で神器・時穿剣を構えている。
俺にも変化はある。回収した刀・・・神獣が変化した神器が腰に挿してある。
銘は幻狼刀・・・なんだけども、何で
「イーディスちゃんもお手柄で幸福ね。あんな強く可愛い従者を得ることが出来たんですもの。これから期待しているわ」
「はっ!ありがとうございます」
にやりと笑うアドミニストレータと膝を付くイーディス、うん、マジで収拾つかない、と言うかちゃんと服着なさいよ!何か色々はだけちゃってるから、気になるから!
言うに漏れず、
「何時までつっ立っている気でスカ!早くしなさァァい!!」
「うるせぇぞ、元老長。」
ベルクーリさんが一睨みで黙らせる。
何でこうなったんだっけ?
任務が終わり、村娘たちが集落にたどり着くまで俺は護衛的な役割を担った。
少女達にはイーディスが貴族に見えて恐縮していて、俺は旅芸人と言えば直ぐに納得していた。
解せぬ。
さて、少女達に禁忌目録違反がいないと分かったのは翌日になって他の整合騎士が来なかったからだ。
あの術士が本格的に手を出していなかったのは幸いだった。
んで、俺とイーディスは霧舞と供にセントラル・カセドラルに帰還。
イーディスは一刻も早くお風呂に入りたかったようだが組織に属している以上「報・連・相」は大事である。
まぁ、実際ソレが出来ていない人が多い世の中だがソレはアンダーワールドに言えることじゃない。
「お、戻ったか。収穫もあったみたいだな」
ベルクーリさんが不敵な笑みを浮かべて、収穫・・・俺の腰に刺さっている二本目の刀を見ながらそう言った。
そこからはずっとイーディスのターン。
そりゃあイーディスは曲りなりにも地中をつれまわされたわけで、我慢できなくて水浴びまでしてたから気持ちも分からなくもないが怒涛の報告ラッシュ。
見てみなさいよ、ベルクーリさん唖然としてるよ。
「断片的過ぎていまいちわからねぇんだが?」
「シズクあとはよろしく!」
「お、おう」
「やっぱり敷かれてんじゃねぇか」
そんなわけじゃないから妙な頷きはやめてほしい、ここからイーディスが断片的に報告した所の補填作業だ。
「断片的だったが、なかなかデカイ山たったのは理解できた。補足説明頼むぜ」
「もちろんですよ」
順序だててベルクーリさんに報告していく。
今回の事件の黒幕と黒幕が扱った神聖術の詳細、これは憶測の域を出ないのでベルクーリさんに後は任せよう、そして、何より神獣のことも報告する。
「地面に潜る術と詮索術か、後者は俺らでも似たような術があるが・・・前者の地面に
潜るなんざ検討が付かねぇ」
「ベルクーリさんの経験で似たことは?」
「ねぇよ。ましてやダークテリトリーで最高司祭様がお前に施した似た術式を扱える者がいるなんて聞いたことがねぇ、いれば間違いなく将軍の側近クラスか暗黒術士団の長になってるだろうよ」
「なるほど」
「にしてもな、うーん・・・・」
顎に手を当てて熟考を始めたベルクーリさん、引っかかる部分があるのはわかる。
俺だっていろいろと引っかかってる。
「もし今後その手の敵が出てくると厄介だな・・・・。話を聞く限りお前の左手が相手と相性が良かったから勝てたわけだからな」
「イーディスでもやりようはあったと思いますけどね」
「それじゃ民が無事じゃすまねぇさ。お前さんの功績だ」
確かに、こと倒すだけに焦点を絞れば呪縛から開放された時点でイーディスにも勝機はあった、が、あの砲撃術式を防げたかといえばどうだか・・・・。
「ですが、そこまで危惧することでもないでしょう。」
「ほう、それはどうしてだ?」
「あの手の輩が複数いるなら、勝手な憶測ですが組織は動きにくいでしょう。その上、何時変な術を行使する輩を制御しないといけない。人体実験なんてダークテリトリー側でも禁止されているでしょうしね」
「ああ、うん。そうだな」
天才、そういう輩がどんな顛末を迎えるか以前の記憶から幾つかのアニメ・ゲーム作品を思い出してみて必ず孤立するか組織内でハブられたり、煙たがれる結果しか思い当たらなかった。
ベルクーリさんには今一伝わっていないようで曖昧な表情で相槌を打つに留まった。
「今回はお手柄だったな。お前さんの話でも、その『神獣』がいなければイーディスは辱められ、お前さんは今も走り回ってたと想像が付く」
「そうね、まさか見逃した神獣がこんな結果を生むなんて」
「何だい、最高司祭陛下が何のようで?」
後ろから一様白いドレスを着ているけれど色々と甘いアドミニストレータが歩いてくる。
げぇ、元老長いるじゃん。
「そうね?初の本格的な従者つきの騎士が任務を終えたから労いに来たのだけれど・・・面白い坊やね。実力だけなら整合騎士と互角なんて、それに神獣に懐かれるなんてまだまだ不思議なこともあるのね」
何かうっとりとして俺を評価しているアドミニストレータ。
アレ?スゲェ変人だけど人間味っていうのがあるのよ、この人。あの極悪非道なアドミニストレータですか!?と言うかアンタは見ていたんじゃないの?そういう術式もっているって話じゃ?
「これからも私の騎士のために頑張ってね?坊や」
そう言って踵を返すアドミニストレータ、今回の所感で言うと感情のようなものを感じたんだけど・・・ソレって何なんでしょうね?
「お、そうだ。一つ気になる事がある」
「何です?」
「術士の剣ごと断ち切ったっつうお前の剣だ。近いうちに俺と手合わせしてくれ」
「は、はぁ!?」
ギョッと驚く俺にベルクーリさんはいい玩具を見つけたばかりに肩を叩いた。
「俺だって剣士だぜ?お前さんが手の内を隠しているのは知っていたが、今回で獲物が耐えられないって言うのは良く分かった。その神器はお前が使え、俺が手配しといてやる」
「はぁ、どうも・・・ってコレ神器なんですか!?」
「ああ、神獣が変化したって推測だがソレは間違いじゃねぇと思う。お前さんの辛い過去と合致するってことだったから確認する余裕はなかっただろうけどな。間違いなく優先度は神器の域だぜ」
思わず呆けてしまった。
あの神獣、俺に人を守れというのか、いや、いずれ民を守るためにアドミニストレータと戦うことになるとは思いますけども。
「と言うわけだ。そういや、名前は何ていうんだ?」
「・・・・知りません」
「あのな・・・・。神器の名前を知るのは最低限必要なことだぞ。名前がないのなら命名者になる。神器を最大限理解して活用するためにもな」
たしかに信頼関係は大事。
相互理解だって必要だ、俺と神獣は生きた世界が文字通り違うし、その環境だって全く違う。
それは価値観の違いにも繋がってくる。神獣があわせてくれるという保証はない。
「ま、焦ることはねぇさ。神獣が変化した武器ってのは少なからず思念が残留する。心を落ち着かせて向き合えば分かることもあるからな。」
「はい、そうしますわ」
「っとそうだ。今より強くなりたいなら付き合ってやるぞ」
「単に戦いたいだけでは!?」
「ははは!そう言うなよ、知ってんだぜ?今じゃお前さん、皆から引っ張りだこらしいじゃねぇか?」
俺は今までになかった安心感をこの時感じていた。
何だろう、こう頭をわしゃわしゃ撫でられているのに嫌だと思えないのは不思議だなぁと思いながらベルクーリさんと別れた。
私はぼうっと天井見ながら考える。
う~ん、ベッド広くなったわ。
騎士長の差し金らしいけど今じゃ慣れたものよ、この衝立だってシズクを信頼している今だからこそ要らないと思うときがある、と言うより私は気になるのよ、シズクの過去が・・・誰にでも触れたくない、触れられたくない過去があるのは想像に難しくない。でもあんなに冷たくなる物だろうか?
思い出すと私でもゾクッとするあの冷たい眼差し・・・・もしかすると。
「イーディス、起きてる?」
「起きてるわ、どうぞ」
殆ど報告をマル投げしたことと最高司祭様の登場等々、あったことを聞いて私は目を丸くした。
「え?最高司祭様まで来たの!?」
「ん、ああ。初の本格的コンビ騎士としてどうのこうって言っていたぞ?その帰還を労うとか言っていた。」
「待って、と言うことは元老長いなかった?」
「ああ、いた。イーディスが苦手なのは分かるよ。俺も苦手だ」
は~良かった。
最高司祭様にお言葉を賜るのは嬉しいけれど、あの達磨は邪魔よね。本当に余計なものだと思う。
「一つ、聞いていい?」
「まぁ、察しは付いているんだけど・・・・俺のこと?」
私は静かに頷いて、シズクの言葉を待った。
無理に聞き出すことじゃない、シズクも時が来れば話してくれると約束もした。
けど、あんな空間を埋め尽くすほどの殺気を普段の人懐っこそうなコイツが放てるなんて思えないのよ。
「あ、そう言えば神獣
「それって、任務中に関係あること?」
「ああ、ちょっと昔の話になる」
私は、シズクの過去の一片を知る、知ろうと望んだ夜だった。
俺ことシズクの過去、コレは世界の仕組みとか右目のリミッターに抵触しない話だから大丈夫だと踏んだ。
「昔さ、狼犬を飼ってたんだ。」
「え、狼型の魔獣じゃなくて?」
「そ、狼を祖先に持つ犬ね。その子と長年連れ添った、変な話・・・神獣はソックリだったんだよ」
思い出せば、神獣が天命を犠牲にすることはなかったかもしれない。イーディスに頼ん
で少女達を癒していれば・・・。
あの時も出来るだけのことをしたと思った、思いたい。
「・・・神獣がやられた時に怒鳴ったのって」
「情けない話だろ?最期を看取ったのは俺だったんだ。やられた神獣が、どうしてもクーに被った・・・押さえられなかったんだよ、変に力なんて力をつけたせいで」
「そっか。ごめん、辛い話させて」「ソレがこの姿の子なんだ?」
「「誰!?」」
しんみり空気が一転、ベッドで向き合って座って話していた俺とイーディスは思わず口走って周りを見渡す。
勿論、部屋には俺達意外誰もいない。
「・・・・まさかと思うけど、悲しそうな顔するのって思い出してたの?」
「そうだよ、代わりなんていないからな。」「それはこの子も幸せ者だねぇ、これから姿借りるけど」
「誰だ!?」
うん、イーディスが青い顔をして声高に叫んだ。
こともあろうか俺にしがみ付いて何処となく睨んでいる。
「あ、ここ」
ベッドに前足を掛けるあの神獣・・・と言うよりハスキー犬がいる。
アレ?セントラル・カセドラルってペット飼育可でしたっけ?あ、違う?そうですよねぇ、それ以前にアンダーワールドにシベリアンハスキーって犬種あります?
「な、ななな何で私の部屋にいるの!?」
あー・・・駄目だ、イーディス怯えちゃってるよ、幽霊とか苦手なのかな?まぁ、女の子だしね、仕方ないよな。
「クー!?」
私ことイーディスは闇の剣を扱うくせに幽霊は苦手。
こう、いきなり出てきたり物理的ダメージ与えられないのはずるいと思う。
いくら可愛い子犬に化けても駄目なんだから!とシズクの後ろで睨んでいるとシズクは子犬を抱き上げて酷く懐かしそうな、それでいて悲しげな表情を浮かべた。
「あ~、主人の心にこの姿は辛いの?でも、ごめんね。直近でアタシが写せる姿コレしかないの」
「犬が・・・喋ってる!?」
整合騎士になってから、いや!私の人生の中で初体験よ。なによコレ!?
「もしかして、剣に残る思念って・・・」
「うん、アタシだよ?」
シズクには心当たりがあるようで、神獣(子犬)に尋ねると小首をかしげて子犬は答えた。
あ、駄目、私疲れてるみたい。
「う、うう・・」
シズクが泣いていた。子犬に扮した神獣を抱いてすすり泣いている。
当然か、シズクにとって悲しい別れをした存在なんだ。
「・・・・仕方ないわね」
私はただそう言って、砦の時と同じようにシズクを抱きしめた。
恥ずかしいけど、放っておいたらシズクは潰れちゃう、そんな気がしたから。
「悪い・・・」
「いいわよ、今は甘えなさい・・・これでもアンタの主なんだから」
私は初めてシズクと抱き合ってベッドに倒れる。コレでもシズクも男ね、意外と重いかも。
半ば押し倒されるような感じでベッドに倒れ、私はすすり泣くシズクを撫でながら意識を手放した。