もしも竈門炭治郎がドラえもんだったら   作:三柱 努

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残酷

気ままに夢見る機。

物語のカセットをセットすると、夢の中でその物語を思いのままに楽しむことのできる22世紀の道具。

 

現実世界で何をしても上手くいかないのび太にせがまれ、ドラえもんはこの道具を使ってあげようと決めていた。

だがそこは22世紀の科学力。ドラえもん自身、全ての道具に精通しているわけではなく、未使用の道具をのび太に使用するのは無責任な話だ。

「というわけで、ボク自身で使ってみなきゃね」

言い分としては十分だろう。のび太が学校に行っている間にドラえもん自身、この道具で遊ぶのには十分な理由だ。

 

物語のカセット『夢カセット』はSF、メルヘン、RPG風、神話風、アクション、メロドラマ、スリラー、ホームドラマ、学園物、西部劇、オカルトなど何十本もありよりどりみどり。

「悩むな~。どれにしようか・・・うん、こういうときは人気No1に限る!」

そう言ってドラえもんが手に取ったのは、夢カセットの中で一番人気のカセット。

その名も『鬼滅の刃』であった。

 

ドラえもんはカセットの注意書きを読み進めていく。

「え~っと、なになに。この物語は『鬼になった妹を人間に戻すために旅をする』お話だって。あと『登場人物はデフォルトの姿がありますが、自分の好きな姿を選ぶこともできます』か」

「なるほど。登場人物の姿は知り合いの姿にしてもいいけど、デフォルトもありますよ、か。夢の中でものび太くんたちのお世話をするのは嫌だからなぁ。デフォルトでいいや」

「でも妹と一緒に旅をするなら、そこだけ設定しようかな。知らない人から『お兄ちゃん』なんて呼ばれるのも恥ずかしいし」

 

こうして、ドラえもんはマニュアルに沿って機械を操作し、初期の設定を打ち込んでいった。

あとは枕を用意して、眠りにつくだけ。

「これでよし。じゃあ楽しい夢の冒険に出発! おやすみなさい」

ドキドキワクワクする胸の高鳴りを抑え、ドラえもんは静かに眠りについた。

 

 

 

そこは白銀世界であった。

降り積もった雪、うっそうと茂る森の中に建つ一軒の古民家。

 

「ドラ治郎。顔が真っ黒じゃないの。こっちにおいで」

白割烹着の女性がドラ治郎の前に膝をついて、布切れで顔を拭いてくれた。

『この人は、ママのキャラクターなのかな?』

その優しい笑顔に、ドラ治郎は自分がゲームの世界に来たことをジワジワと自覚し始めた。

背中に圧しかかる荷物から、炭のイイ臭いがたちこめる。

「雪が降って危ないから、行かなくてもいいんだよ」

母の言葉から、ドラ治郎は自分が炭焼きの子であることを察した。

『炭焼きってのはね、町から離れた森の中で木を切って燃やして、燃料になる木炭を作る大変なお仕事なんだよ。このママも苦労人だなぁ』

のび太に言って聞かせるように、ドラ治郎は心の中で述懐した。

「兄ちゃん今日も町に行くの?」「私も行く!」

小さな子供たちがドラ治郎の周りに集まりはじめる。

よく懐いた弟たちを置いて、これから町に行って炭を売りに行くのが、この物語の流れのようだ。

 

「早く帰ってきてねー」「気を付けてねー」

弟たちや母に見送られ、ドラ治郎は手を振って町に向かうことにした。

「お兄ちゃん」

すると、目の前にバッタリと見慣れた黄色いシルエットが現れた。

「ドラミ!」

「えっ?」

ドラ治郎に『ドラミ』と呼ばれた少女は首をかしげる。

『そうか。この子が一緒に旅をする妹なんだ。名前はえっと・・・』

ドラ治郎は自身の脳裏にプログラムされた夢の世界の主人公知識を検索する。この世界で自然に振舞うための情報から、妹の名前を調べると・・・

「禰豆ミ!」

ドラ治郎に名前を呼ばれ、禰豆ミはニコッと笑った。

『ネズミだなんて・・・役割を演じているとはいえ酷い名前だ。ロール(役割を)プレイング(演じる)ゲームなんだなコレって』

そう後悔するドラ治郎に、禰豆ミは背負った小さな子供を優しく背負い直した。

「六太を寝かしつけてたんだ。大騒ぎするから」

白い息を吐きながら、弟を大事そうに背負う禰豆ミ。その健気さにドラ治郎は感動を覚える。

「お父さんが死んじゃって寂しいのよね。みんなお兄ちゃんにくっついて回るようになった」

徐々に見えてくる主人公の境遇。ドラ治郎は『偉いなぁ。兄弟で助け合って、こんな不便な森の中で暮らしている。のび太くんも見習ってほしいものだ』としみじみ思った。

そんな禰豆ミと弟の頭を優しく撫で、ドラ治郎は再び町へ足を進めた。

「いってらっしゃい」

 

 

禰豆ミに見送られしばらくして、ドラ治郎は町へたどり着いた。

「まぁドラ治郎ちゃん。こんな日に山を下りてきたのかい。よく働くねぇ。風邪引くよ」

「この間は障子を張り替えてくれてありがとう」

「おーい炭を売ってくれ」

「こっちも炭をちょうだい」

ドラ治郎は優しい人気者のようだ。会う人会う人みんなに声を掛けられ、炭はバンバン売れていき、ちょっとした手伝いにも引く手あまた。

そんな中、ある少年が泣きながらドラ治郎に助けを求めてきた。

どうやら母親に、家のお皿を割った犯人にされて困っているようだ。

「嗅いでくれ!」

嗅いで・・・くれ?

ドラ治郎には言葉の意味がよく分からなかった。

『そうか、この地方の方言なんだ。よくわからないけど、お皿を割った真犯人を見つけてあげればいいんだな』

そう解釈したドラ治郎は、お腹のポケットをゴソゴソと漁り始める。

「シャーロックホームズセット~」

ドラ治郎が取り出したのは虫メガネと帽子、煙管に杖であった。

「しゃあろ?」「ほうむず?」「せっと?」

少しハイカラな衣装を身に纏ったドラ治郎に、町の人々は首をかしげる。

「ゴホン。その割れたお皿をちょっと拝見」

そう言ってドラ治郎は虫メガネを手にお皿の破片をジロジロと観察し始めた。

「う~ん、この傷は。猫の爪の跡だよ」

肉眼で辛うじて見えるかどうかの小さな傷を見せられ、少年は「そ・・・そうなの?」と苦笑いする。

「真犯人をズバリ言い当てましょう。ズバリパイプ!」

そう言ってドラ治郎が煙管を吹かすと、そこからタバコの煙ではなく変な泡がプカプカと出現し、フワフワと宙を漂って建物の脇へと飛んでいった。

「こっちだ!」

一人シャボン玉を追いかけるドラ治郎の奇行に、少年と母親はよく分からないながらも仕方なくついていく。

するとシャボン玉は居間の座布団の上で眠る猫の上でパチンと割れるのが見えた。

「犯人はあの猫だよ」

「あら、あの猫なの?」

ドラ治郎の指摘にすんなり納得する母親。そのすんなり加減に少年は「ほらぁああ、俺じゃないって言っただろ! あとこれ何の時間!? こんなに尺使う場面じゃないからぁ!」と半ギレしながら叫んだ。

そんな喧噪の中、遠くでおじさんがドラ治郎を呼ぶ。

「ドラ治郎、ちょっと荷物運ぶの手伝ってくれねぇか?」

幸せな町の風景である。

 

そんな幸せが壊れる時にはいつも、血の匂いがする。

 

夕方まで町の人たちの手伝いをしていたドラ治郎は、暗くなってから外を出歩くと人食い鬼が出て危ないと、山のふもとの三郎爺さんに呼び止められ、爺さんの家で一泊していた。

『これからその人食い鬼と戦うんだよなぁ』

ドラ治郎はそう思い一夜を明かした。

その気楽な認識が、彼を絶望の淵へと叩き落とす。

 

 

朝焼けに包まれた山を登り、家の前にたどり着く。

「ド・・・ドラミ・・・」

そこには血まみれになって倒れた禰豆ミの姿があった。昨日背負っていた子供を庇うようにして倒れ、ドラ治郎の呼びかけに返事が無い。

「なんだっ、なんだこれは!」

近寄ると、その惨状がみるみるうちに明らかになっていく。

家の中は凄惨な殺害現場と化していた。壁を血痕が洗い、肉塊と化した家族の骸が折り重なるように床を埋め尽くしている。

熊に襲われたのか。

大正4年、北海道苫前郡苫前村三毛別で起きた日本最悪のクマによる獣害事件の記事を、ドラ治郎は読んだことがあった。その被害にも似ている。

『鬼? まさか・・・』

一家惨殺の現場に、ドラ治郎は怒りと困惑、混乱、絶望に包まれた。

 

気付いた時、ドラ治郎は雪山を走っていた。

家族の中で唯一、まだ息のある禰豆ミを背負い、ドラ治郎は走った。

『クマに襲われたのなら、誰も食べられていない今、まだクマは近くにいる。ここに居たら危ない。せめて、ドラミだけでも・・・禰豆ミちゃんだけでも!』

ドラ治郎は冷静ではなかった。

道具を使えばもっと効率よく、早く逃げることができることにも気づかず。

そして、この物語が『鬼になった妹を人間に戻す』話であることも。

 

グオオオオオオ

 

この世のものとは思えない唸り声が、ドラ治郎の背後から聞こえた。

同時に何かに引っ張られるように2人は雪道で足を滑らせ、運悪く崖の下に転落してしまった。

運よく分厚い雪がクッションになり2人は無傷だった。

だが、禰豆ミは不気味に立ち上がっていた。血まみれの大怪我をしていたハズが、何事も無かったように立っていた。

「ドラ・・禰豆ミ、ちゃん! 大丈夫!?」

ドラ治郎が駆け寄ると、禰豆ミは歯を剥き出しにしてドラ治郎に襲い掛かる。

その様はまるで人食い鬼。

「お、鬼!? そうだ、この物語は『鬼になった妹』の話なんだ!」

ようやく気付いたドラ治郎は、咄嗟にポケットに手を突っ込んだ。

「何か無いか・・・ジーンマイク!」

ドラ治郎が取り出したのは不思議な形状の棒きれ。先端を口にあてがって使うような形をしている。

禰豆ミの牙が迫る中、ドラ治郎は必死に想いを吐露した。

「心まで鬼になっちゃ駄目だ。頑張れ、ドラミ! 頑張れ、禰豆ミちゃん! 頑張れ!」

ドラ治郎の言葉が言霊となり、禰豆ミの胸を打つ。

その瞬間、禰豆ミの鬼の瞳から涙がボロボロと零れた。

ドラ治郎の服を掴む禰豆ミの手の力が緩むのが伝わる。

 

その時

 

ビュンという風切り音と共に、1つの影が2人に襲い掛かった。

ドラ治郎は咄嗟に禰豆ミの衣を掴み、2人で転がりその強襲を回避する。

「誰だ!」

ドラ治郎が睨むその先に、男は立っていた。

悪鬼滅殺の字が刻まれた刀を持ち、冷たく憐れむような眼で禰豆ミを睨む男が、そこには立っていた。

 




【22世紀コソコソ噂話】

本作の発想の原点はYoutubeの「【モノマネ】鬼滅の刃の声優が大山のぶ代だったら【のぶ代の刃】」という動画だ。

もし『野比のび太』の姿を与えるならどのキャラが似合う?

  • 泣きつき仲間・我妻 善逸
  • ガンマン・不死川 玄弥
  • あやとりマスター・累
  • 睡眠の友・魘夢
  • メガネキャラ・前田 まさお
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