無事に鬼殺隊公認の存在になることのできたドラ治郎、禰豆ミ、信代。
身元はひとまず胡蝶が屋敷で預かることになり、3人は隠に案内され、彼女が住む蝶屋敷へと向かうこととなった。
「一時はどうなることかと思ったけど、禰豆ミちゃんも信代さんも良かったね」
「良かったねぇ。そういえばお兄ちゃん、私のこと呼ぶ時に“ちゃん付け”してたっけ?」
「あっ、ごめんごめん」
2人のやり取りに信代は微笑んだ。こうして日の下で微笑みながら歩くことができるとは、つい昨日まで思わなかった幸せだった。
ちなみにではあるが、彼らを案内する隠たちは『こいつらが鬼・・・大丈夫? 俺ら、喰われない?』と怯えていたが、顔には出していなかった。
そうしているうちに蝶屋敷にたどり着いた3人。
隊員服の上に白衣を纏った少女がスタスタキビキビと段取りし、胡蝶が会議から戻るまでひとまず休める部屋に案内された。
「昨夜から休みなくお疲れでしょう。横になりたいならお布団をお貸ししますので言ってください」
疲労が溜まっていた3人はハキハキと話す少女に気圧され何も言い返せず、「じゃあお布団を」と言いかけてすぐにお腹をグーと鳴らした。
「お食事でしたら申し訳ありませんが準備に時間がかかります。小さなおにぎり程度でしたら残っているのですぐにお出しでします」
早口でハキハキと話す少女に、ドラ治郎は「じゃ、じゃあそれで」と小さく返事すると、少女は踵を返してすぐにおにぎりを持って現れた。
「後で下の子たちに食事を持ってこさせます。横になられる際には寝間着をお貸ししますので着替えてからお入りください」
ものすごくテキパキ段取りした少女はそう言い残すと、ドラ治郎たちが「はい、わかりました大丈夫です」と返事するや、すぐに部屋から出て次の仕事に向かっていった。
終始、少女のペースであったが、3人はようやく一息つくことができた。
「じゃあお腹も減ったことだし、おにぎりを分けっこしよっか」
ドラ治郎の言葉に一際グーと鳴る禰豆ミと信代のお腹。
2人ともに鬼の頃から体の修復でお腹を空かせており、人の体に戻ってから初の食事であり、空腹の限界に近づいていたのだ。
小さなおにぎり1つで満足できるかはギリギリのところ。
「「禰豆ミさん(信代さん)、どうぞ グー!」」
2人は互いに譲ろうとするが、同時にお腹の音が盛大に鳴る。
「2人とも遠慮しないで。分けっこできるから安心して。はい、ビッグライト~!」
そう言うとドラ治郎はポケットから大きな筒を取り出し、そこから発せられる光をおにぎりに照射した。
するとみるみるうちにおにぎりは巨大化し、お皿一杯の米の塊となった。
「びっくら、いと?」
「大きさが変わった。お兄ちゃん、これっていつも私にかけてくれていた光?」
「違うけど、まぁ一緒みたいなもんだよ。それよりこれでみんな、お腹一杯食べられるね」
そう言うとドラ治郎はおにぎりを3等分してお皿に分けた。
「じゃあ、いっただきま~す!」
巨大な米粒を口いっぱいに頬ぱる3人。
ただの冷や飯の塊であった。味付けは塩だけで、形も歪なおにぎりだ。
「美味しい・・・美味しいッ!」
その目からぽろぽろと涙が溢れた。塩味に鼻水すら混ぜながら、禰豆ミと信代はおにぎりを一気に口の中にかき込んだ。
鬼の頃、ひたすら空腹を我慢していた禰豆ミ。死体を喰らっていた信代。
舌に、喉に、歯に、胃に。米粒が、ご飯の旨味が広がる。
こんなにも食事に感動できることは無いだろう。
2人は指に付いた最後の1粒までしっかりと舐めて「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
そんな中、ドラ治郎だけは「あっ、グルメテーブルかけ使ったほうが早かった」と呑気につぶやいた。
その後、屋敷に務める女の子たちからしっかりとした食事を提供された3人は腹を満たし、胡蝶が戻るまで女の子たちの手伝いをすることにした。
彼女たちは今朝運ばれてきた怪我人の相手に手こずっているというのだ。
病室に向かうと、聞いたことのある泣き言が廊下に鳴り響いていた。
「五回!? 五回飲むの? 一日に!? 三カ月間飲み続けるのこの薬! これ飲んだら飯食えないよ。すげぇ苦いんだけどつらいんだけど。ていうか薬飲むだけで俺の腕と足治るわけ? ほんと!?」
病室で騒いでいたのは、那田蜘蛛山の入り口で別れたっきりの善逸であった。
どうやらドラ治郎と伊之助と別れた後、2人を追いかけて山に入り、鬼と戦い負傷したようだ。
「善逸~! 怪我したの? 大丈夫?」
「ど、ドラ治郎! うわぁああドラ治郎聞いてくれよ~。くさい蜘蛛に刺されるし毒ですごい痛かったんだよ~。さっきから女の子にガミガミ怒られるし最悪だよ~っ」
一息でここまで叫ぶ元気があるのだから大丈夫そうだが、善逸はこの世の終わりのような顔でドラ治郎に泣きついた。
「善逸さん、大丈夫ですか?」
「あ~、死ぬよ~、死ぬ~! 死ぬ前にこうやって女の子に慰めてもらいたいんだよ~・・・・ってアレ?」
彼を心配する禰豆ミが顔を出すと、善逸の顔は一瞬硬直して
爆発した。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
うるさい。
「可愛すぎて死にそう! どうしたの禰豆ミちゃん、竹外して喋ってるじゃない! 俺のため? 俺のためかな? 俺のためだよね! 月明かりの下の禰豆ミちゃんも素敵だったけど、太陽の下の禰豆ミちゃんもたまらなく素敵だよ素晴らしいよ!」
うるさい。
「あの、善逸さん?」
「だ、大丈夫なんですか? この人・・・」
善逸のテンションを始めて見る信代はドン引きしながらドラ治郎の裾を掴んだ。
もちろん、ドラ治郎もここまでの善逸テンションを見るのは初めてである。
「善逸さん、大丈夫?」
大丈夫ではない。
そして、信代の存在に気付いた善逸にスイッチがもう1つ入った。
「・・・はぁああああ!? どちら様ですかこの巨乳美女は! なにドラ治郎、人が蜘蛛にされかかってる間に!? とんでもねぇドラ治郎だ!」
今すぐにでも飛び掛かってきそうな善逸に危機感を覚え、胸元を押さえ後ずさりする信代。
ドラ治郎は彼女を庇いながら「もうしょうがない奴だなぁ善逸は」とため息をつく。
「そんなことより、伊之助を見なかった? 富岡さんが助けて縛ったって言ってたけど」
「伊之助なら隣にいるよ」
そう言って善逸が指さした先、猪頭の伊之助は思いっきり大人しくベッドの中にいた。
「あれ? ほんとに伊之助? ずいぶんとまぁ静かになっちゃって」
「分かんないけど、なんか落ち込んじゃってんな」
普段の伊之助の猪突猛進っぷりを知るドラ治郎と善逸にとって、伊之助の大人しさは不気味で滑稽に見えた。
そんな中、信代はふと伊之助の姿を見てあることに気付いた。
「そういえば伊之助さんって、ドラ治郎さんが下弦の鬼の累を倒した時に一緒に戦っていらした?」
「そうだよ。伊之助さんと私とお兄ちゃんと、あとよく知らない人の4人で倒したよ」
「イイヤ。俺ハ弱イヨ。ゴメンネ弱クッテ」
伊之助は半ば否定するが、禰豆ミに教えられた信代は「やっぱり!」と伊之助のもとに歩み寄って手を握った。
「伊之助さん、あなたも私の恩人です。あなた達のおかげで私は救われました」
信代にお礼を述べられる伊之助であったが、彼はそう易々と立ち直らなかった。
逆に善逸が逆上した。
「うわぁああ! 何、伊之助うらやましいことされて喜ばないの!? ああうらやましいああうらやましい!」
そんな捻くれた善逸にも、信代は(手を握らず)頭を下げて感謝した。
「善逸さんは、もしかすると蜘蛛の体に鬼の頭の男と戦ってくださったんですよね?」
「うん。あの臭くて嫌なことばっかり言ってくる友達いなさそうな蜘蛛。倒したけどこんな体にされちゃった。もう嫌。もう会いたくない」
トラウマに目を白くする善逸であったが、信代は深く頭を下げて感謝した。
「ありがとうございます。詳しく事情をお教えすることはできませんが、私はお2人に感謝しています。あと、村田さんという方にも」
「ん? 俺の話?」
信代の話の途中で病室に現れたのは、ドラ治郎たちと共に下弦の鬼・累を倒した鬼殺隊員、突き指の治療跡のある村田であった。
「よっ」と声をかけるとドラ治郎はパァっと表情を明るくしたが、彼についての記憶が鮮明でない禰豆ミはキョトンとし、面識のない善逸もキョトンとし、伊之助はボーっとし、信代は脳内で勝手にカッコよく補正された村田像からかけ離れた彼の姿に言葉に迷った。
「村田さん、どうしてここに?」
「そうなんだよ聞いてくれよ。最初はさ、那田蜘蛛山の仔細報告のために呼び出されて走ってきたんだ。なのに急に不要とか言われて。で、猪頭や他の隊員がここに運ばれたっていうから見舞いに来たんだ。てっきり十二鬼月の討伐に成功したから褒められるか、昇進させてもらえるか?って期待してたのにさ」
ようは見舞いに来たようだ。
そんなペラペラと話す村田の背後から、不意に「あら、皆さん休まなくても平気ですか?」と女性の声と羽織がフワリと舞い降りた。
それは蝶屋敷の主である蟲柱・胡蝶しのぶであった。
その存在に気付いたドラ治郎たちが「あっ、お邪魔してます」と言うよりも早く、彼女に全裸を見られたことのある(もちろん、男女関係があるからではない)村田は「あっどうもさよなら!」と足早に退散していった。
「胡蝶さん、会議お疲れ様でした」
「ありがとう。さっそくだけど竈門くんに次の任務の指令がきています」
手を合わせてニコッと笑う胡蝶。さっそくすぎる。
「任務ですか? いつもは鴉が伝令してますよね」
「事前に確認しておかなきゃいけないことがあるんですよ」
そう言うと胡蝶は禰豆ミと信代の顔を見た。
「お二人は竈門くんと一緒に任務に行くわけにはいきません。よろしいですね?」
「えっ?」
鬼殺隊の隊員ではない禰豆ミと信代が任務に同行するわけにはいかない。
そもそも普通の人間に戻った2人の身体能力では、確実に足手まといにしかならない。
そのことを2人も予感していた。だがこうも早々にドラ治郎と別れなければならないと言われ、ショックを隠せなかった。
「お兄ちゃん。私、離れ離れになっちゃうのは悲しいけど・・・でも、仕方ないんだよね?」
「離れ離れって、そんなに重く考えなくても大丈夫だよ。胡蝶さん、任務って遠いところに行ったり、何日もかかるようなものですか?」
兄を心配する禰豆ミほど心配をしていないドラ治郎が尋ねると、胡蝶はう~んと少し考えるような仕草をした。
「詳しい話は聞いていませんが、人探しの任務だそうですよ。護衛に柱が1人、一緒に行ってくれます」
「だってさ。なら大丈夫。すぐに帰ってくるから」
人探しを舐めすぎているのでは? と、胡蝶は思ったが、妹を安心させるための彼の気遣いなのだと納得しそれ以上追及をしなかった。
「ドラ治郎さん、どうかご無事で」
「大丈夫だよ信代さん。それよりもボクは2人のほうが心配だよ。行くあて無いんじゃない?」
「それでしたら。お二人にはこの屋敷で隊員の治療の手伝いをお願いしたいと思っているんですが、いかがですか?」
胡蝶の提案に禰豆ミと信代は「えっ!? お願いします!」と声を合わせた。
最初から他に選択肢は無かっただろう。
利害の一致を考えれば、容易に想像できる展開であったが、それでも禰豆ミと信代は喜んだ。
無関係の地で生活するよりも、鬼殺隊の本部のあるこの地で待っていれば、ドラ治郎とまた会える可能性が高くなる。
「やったぁああああああ!!!!!」
善逸は喜んだ。
理由は想像に易かった。
一方その頃、蝶屋敷からそそくさと退散するため、村田は玄関を出ようとしていた。
「はぁ、そうだ。俺に柱の声がかかるわけなんてないよな。だって下弦の鬼だってあいつらがいなかったら倒せなかったし、運が良かっただけだし」
ブツブツと自分に言って聞かせながら靴に履き替える。
すると外から、それはまた快活な声が響いて入ってきた。
「“村田少年”はいるか! 任務に向かうぞ!」
村田が顔を上げると、そこに立っていたのは、村田の方に一切目を向けることなく立つ男であった。
どこ見ているのかも分からない。やたらとデカイ声で表情を崩さず。
炎柱・煉獄杏寿郎は腕を組んで、蝶屋敷中に響く声で迷いなく呼びかけていた。
【22世紀コソコソ噂話】
気ままに夢みる機で見る夢の経過時間と起床時間のバランスは、普通の人間なら2~3日分の経過時間で一度目が覚めるけれど、ドラ治郎の高性能電子脳の処理能力は人間より高いから、何十日分の夢も一回分の睡眠で見ることができるぞ
もし『骨川スネ夫』の姿を与えるならどのキャラが似合う?
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