蝶屋敷に禰豆ミと信代を預けたドラ治郎に言い渡された次の任務。
それは人探しであった。
「村田少年、行くぞ!」
蝶屋敷の玄関が騒がしいと駆け付けたドラ治郎たち3人と胡蝶の前に、その男・煉獄杏寿郎は立っていた。
そして、その場に居合わせた村田は座って靴を履こうとしていた。
「煉獄さん、この子は竈門くんですよ」
「村田は俺です」
「そうか。では行こう!」
人の話を聞いていないのかもしれない煉獄に、ドラ治郎は若干引いた。
「胡蝶さん、この人って朝の広間にいた人ですよね? ボクが任務で一緒に行ってくれる柱ってこの人?」
『ええそうよ』以外の答えが胡蝶から帰ってくるわけがないと予感しながらドラ治郎は尋ねた。
「お館様の御命令だ。浅草付近に『人間に戻りたがっている鬼がいる』と。その者を探し人に戻し、鬼殺隊に協力を取り付けるのが俺たちの任務だ。すぐに行くぞ!」
ハキハキと話すところは好感の持てる青年であった。
だがいくら命令とはいえ、鴉並みに急かす男であった。
「じゃあ禰豆ミち・・・信代さん、いってきます!」
「えっ!? あっ、お兄ちゃ・・いってらっしゃ、い!?」
「えっ、あっ、ドラ治郎さ・・・いって、いってらっしゃい!」
ドラ治郎の決断もまた早い。ゲームでイベントに突入したような感覚で、煉獄に促されるままにすぐに靴に履き替えた。
「ついでに村田隊員。キミも来ると良い」
「へっ?」
村田の返事を待つことなく、スタスタと歩き始める煉獄。
ドラ治郎がその背についていくと、村田は状況に困惑しながらも柱からの命令に従うようにその背を追いかけた。
「・・・嵐みたいな人でしたね」「そうだね」
今生の別れかもしれない鬼殺隊の任務に出向くドラ治郎に挨拶もままならぬまま、禰豆ミと信代はポカンとしながら彼の背を見送ることしかできなかった。
その後、ドラ治郎と煉獄、村田は汽車に乗っていた。
「というかなんで俺まで」
「うまい。うまい」
汽車に揺られ、同じブースに座る3人。村田は状況の変化について行けず、煉獄は10人前のお弁当に箸を入れていた。
この旅に至った経緯は、産屋敷の考えにあった。
ドラ治郎が発見した『鬼を人間に戻す方法』を、以前から探している鬼がいた。
それは珠世という名の女性の鬼。無惨から身を隠しながら、その命を狙い、鬼を倒す研究を続けている鬼だ。
産屋敷はその存在を認知していたが、互いの立場もあるため協力関係に至ることができなかった。
だがそこにドラ治郎を投入することで、彼女を味方につけるきっかけが生まれるかもしれない。
珠世の永きにわたる鬼研究の成果と鬼殺隊の研究を合流させ、打倒無惨に大きく前進させる算段でいたのだ。
だが不安要素も残されていた。それはドラ治郎の身の危機である。
鴉からの報告によると、ドラ治郎は初の鬼殺の任務で“昼間に無数の鬼に襲われた”というのだ。
無論、その全ての鬼が日光によって崩壊したためドラ治郎は無事であったが、鬼たちがドラ治郎を襲ったことは事実。
おそらくドラ治郎は鬼が好む稀血なのだろうと、産屋敷は推測していた。
そのため、この旅に護衛として炎柱・煉獄を護衛として同行させたのだ。
ガタンゴトンと汽車に揺られ、もうそろそろ到着という頃。ドラ治郎はふと煉獄に質問した。
「ところで煉獄さん、好きな食べ物は何ですか?」
「いやそこ!?」
「さつまいもの味噌汁が好きだな」
「いやそれ!?」
「ボクはどら焼きが好きです」
「いやそれ!? じゃなくて、他に聞くことあるだろ! その珠世って誰なんですか? 何処にいるんですか? ドラ治郎、鬼を人に戻すって何なんだ!?」
まくし立てる村田に、煉獄は一言「知らん! この話は終わりだな!」で終わらせた。
「話すと長いよ。それより煉獄さん、その珠世さんって人を探して鬼を人に戻してあげる時間があったら、無惨を探して倒したほうが早くないですか?」
「早くねぇよ! ドラ治郎お前、鬼殺隊の歴史舐めんな! それより流れで俺もついてきましたけど、ハッキリ言ってこんなお使い仕事に柱も入れて3人も人員割いていいんですか?」
村田が息を荒げながらツッコミに奔走していた。
そうこうしているうちに目的の駅に到着し、3人は汽車を降りて浅草の地にたどり着いた。
街の中をセカセカと歩く3人。
「村田隊員、先ほどの件については問題ない。“最近、鬼の報告が妙に少なくなった”からな、対処すべき案件にも余裕が生まれたのだ。そして竈門少年、倒すべき相手を探すべきというのは俺もそう思うぞ。だが、お館様のお考えもあるのだ」
煉獄は2人の方を向くこと無く、どこを見ているか分からない顔でハキハキと丁寧に答えた。
「だったら、珠世さんと無惨の両方を探せばいいですね」
「合理的だな!」
「いや、アホな案ですよ」
迷いのないドラ治郎の言葉に、煉獄は好感を覚えていた。そして村田はそのお気楽さに呆れ果てていた。
「じゃあコレだ。はい、たずねびとステッキ~!」
そう言ってドラ治郎がポケットから錫杖を取り出すと、村田は「どこにしまってたんだ? そんな長い物」と冷静につぶやいた。
だがドラ治郎は構うことなく「珠世さんの居場所は?」とつぶやきながら錫杖をパタリと倒した。
「えっと、あっちの方角だね。そして、鬼舞辻無惨の居場所は?」
そう言ってドラ治郎は再び錫杖をパタリと倒した。
「ドラ治郎、お前は何をやっているんだ?」
「ステッキの倒れた方角に、探してる人がいるんです」
「なるほど卜定か。非科学的だな!」
煉獄はそう言ってドラ治郎を一蹴して、再びスタスタと歩き始めた。
「ところで炎柱、何処を目指していらっしゃるんですか?」
「分からん! だが、人探しであるならば聞き込みから始めるのが定石であろう。俺は苦手だがな!」
村田は思った。適材適所というものがあるだろう。何故お館様は、人探しの任務にこの人を採用したのだろうか? と。
(その実、産屋敷は今回、珠世を“探す”のではなく、珠世に“見つけてもらう”ほうが早いと考えていた。そのため、柱の中で一番目立つ煉獄が採用されたのだった)
その後、町を歩く煉獄たちであったが、その捜索は苦戦を強いられていた。
普段であれば人攫いの鬼が出現すればその兆候となる異変を人々が噂し、それを頼りに鬼を探すもの。
それがこの浅草の町は人が多すぎることもあり、そうも他人に構っている人が少ないのだ。
「これは長丁場になりそうだな」
煉獄の言葉に小さく悲鳴を上げる村田であったが、ドラ治郎は錫杖を手に「そうでもないですよ」と気楽につぶやいた。
「お前ドラ治郎、さっきから杖で遊んでばっかじゃないか」
「違いますよ。これ、さっき買った町の地図なんですけどね」
そう言うとドラ治郎は地図を開き、その上に鉛筆のように細い筆で黒く太い油跡を描き始めた。
「町のいくつかのポイントで、たずねびとステッキが示した方角を、こうやって延長線を書いて結んでいくと・・・ほら、この辺りで交わった」
そう言うとドラ治郎は町をスタスタと歩いていった。
行くあての無い煉獄と村田もそれに続く。
しばらく歩き、町の少し外れの大きな屋敷の前でドラ治郎はピタと足を止めた。
「着きました。ここだ」
屋敷の塀を見て満足げな顔をするドラ治郎。
「竈門少年、ここに何があるんだ?」
「ここが鬼舞辻無惨の住処です」
これまたサラッととんでもない出まかせを言うものだと、村田は目を細くした。
「ここがそうなのか」
「いや煉獄さん、コイツは場を盛り上げようと冗談を言っただけで」
小馬鹿にしたような口調で村田が鼻で笑ったその時、屋敷の門が開き女性と子供が姿を現した。
それを確認したドラ治郎は「しめた!」と舌なめずりする。
「ちょうどいい、あの人たちをタイムテレビで見てみましょう!」
村田を無視して、ドラ治郎は少し離れた空き地に歩いていき、そこで鏡台を取り出した。
鏡台をパチポチと操作すると、鏡面に女性と子供の姿が映し出される。
「!? ななななな、何だこれは!?」
「しっ、静かに。黙って見ればわかります」
そう言って口に指を当てて村田をたしなめるドラ治郎。
すると鏡面に映る女性と子供の場面が次々に移り行き、ある男性の姿を一緒に映し出した。
「よもや、このようなことがあろうとは」
煉獄が目をカッと見開いた先に映るのは、目の前の屋敷らしき建物にたたずむ男の姿。
それは今朝、産屋敷や他の柱たちと共に確認した、幼き日の信代を鬼に変えた張本人の姿。
鬼舞辻無惨の姿であった。
「やっぱりここにいたんだ。じゃあ、さっきの女の人や子供も鬼なのかな?」
「いや、2人は日光の下を歩いていた。おそらくは普通の人間だろう。そしておそらく、無惨が鬼だという事情を知らずに生活しているのだろう」
「えっ!? どうしてそこまで分かるんですか?」
煉獄の言葉にドラ治郎は目を丸くするが、それ以上に話について行けない村田は、飛び交う単語の次元の違いに目を丸くするほか無かった。
「奴は自身の正体が露見しないよう、自身の部下である鬼に呪いまでかけているほどだ。であるならば、正体を知る人間を側に置いておく理由が見当たらん。理由までは分からんが、姿を変えることができるのであれば、奴は人に成りすまし、人間の世界に溶け込み姿を隠しているのだと考えるのが妥当であろう」
「なるほど」
煉獄の言葉に納得するドラ治郎。村田は『何がどうなってるんだ?』と事態についてこれていない様子だ。
「それで、これからどうしましょう? 無惨をやっつけにいっちゃう?」
ドラ治郎の問いに、事態を把握しきれていない村田ですら「馬鹿か!」とツッコミを入れた。
「早急にお館様に報告だ! そして“見張り”を置いて、俺たちは一時撤退する」
煉獄の断言に「逃げちゃうの? どうして?」と問いかけるドラ治郎。
「態勢が整わぬうちにこの3人だけで攻め込めば、無惨をとり逃がしてしまうのは確実。1000年に1度の好機をむざむざ逃すことはできん。総力戦を以って臨むほかあるまい」
「本部に戻ってみんなで集まって、大勢で押し掛けるってことですね」
「その通りだ。そして、この場に柱が居るのが見つかってしまっては、この奇襲が露呈してしまうだろう! 無論、竈門少年を失うわけにはいかん!」
煉獄の言葉に、悪寒を感じた村田は間違っていなかった。
見張りが必要。
煉獄が留まるわけにはいかない。
ドラ治郎は鬼殺隊に必要。
となれば・・・
「村田隊員、ここは任せたぞ! 異変があればすぐに鴉で知らせてくれ!」
「ぇえ・・・むぐっ「シー、静かに!」」
村田の叫びはドラ治郎と煉獄の手に押さえつけられ、口から飛び出すことは許されなかった。
「ですけど煉獄さん! オレ1人こんな所で見張っても、結局見つかってしまったら鴉を飛ばそうが意味が無いですよ!」
「大丈夫。そういう時にはコレ、糸なし糸電話~! と、石ころ帽子~!」
そう言ってドラ治郎は湯飲みと大きな灰椀を取り出した。
ドラ治郎のお気楽そうな声に、村田は『これで何をせよ、と?』といった様子で目を丸くする。
「何かあったらこうやって、この糸電話に呼びかけてください。あとはこの帽子をかぶっていれば大丈夫。その辺の石ころみたいに存在感が無くなるから鬼にも町の人にも見つかっちゃう心配がなくなります」
そう言ってドラ治郎は湯飲みを口に当てるポーズをとり、その後で村田の頭に灰椀を被せた。
するとその瞬間、村田の存在感はまるで道端の石ころのように消え失せ、煉獄とドラ治郎は彼の姿を認識できなくなる。
「むっ!? 村田隊員が消えた!?」
「ねぇ? すごいでしょ」
そう言ってキョロキョロと周りを見回す煉獄。
だが、当の村田からしてみれば何かの冗談か新手のイジメにしか見えなかったのだった。
こうして村田を鬼舞辻家の見張りに立たせ、煉獄とドラ治郎は駅に戻った。
煉獄は警戒していた。
もしあの場で無惨が3人の存在に気付いていた場合、今この瞬間、煉獄とドラ治郎は鬼に尾行されていることになる。
追手となればそれなりの実力者を出すであろう。十二鬼月の上位は確実。
本部に直行するわけにはいかない。
そのため煉獄は別方向行きの切符を購入していた。
本部を守るだけでなく、あわよくば自分たちが囮になり、その間に鬼殺隊の本隊が無惨の居場所に攻め込めるように、と。
そのためにも煉獄たちは話し合いをすることなく、ごく自然に振舞って動く必要があった。
その際、隊に長く在籍する村田では別方向の列車に乗ったことに勘付かれてしまうが、入隊して間もないドラ治郎であれば問題ない。
ドラ治郎には本部に戻ると信じてもらいながら、煉獄は“無限列車”に乗り込んだ。
そして、彼らは本来の任務である珠世の捜索をすっかり忘れていた。
【22世紀コソコソ噂話】
この最後のコーナーは執筆当初は『秘密道具の解説』だったのが、今話から『22世紀コソコソ噂話』で統一することになったぞ
もし『骨川スネ夫』の姿を与えるならどのキャラが似合う?
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不死川実弥
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おはぎが好きな人
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