もしも竈門炭治郎がドラえもんだったら   作:三柱 努

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仇あふれ合い

無惨の本拠地・無限城に誘われたドラ治郎と9人の柱たち。

散り散りになった彼らに上弦の鬼が迫る。

 

 

「はぁっはぁっ、皆はどこだ?」

長い回廊を走るドラ治郎。その手には傘が握られていた。

傘である。日輪刀ではない。

「人さがし傘~! の矢印を頼りにして、まずは誰か知ってる人と合流しなきゃ」

傘の先端に取り付けられた矢印型の装飾の向く先に走るドラ治郎。

 

 

その頃、無限城の各所で柱と鬼が対峙していた。

 

「ヒョヒョッ。柱を3人も食える・・・いや囲まれてしまいましたか。窮地ですが、それもまた良し」

変な壺に入った変な顔の変な鬼を、3人の柱が囲んでいた。

「ひどく派手だが不格好な鬼だな。不細工が美男子に勝てるとでも思っているのか?」

「・・・・(下手くそな作り方だなぁ)」

「・・・・(奇天烈だが、ドラ治郎と比べれば驚きも少なくてありがたい)」

 

また別の場所では、5対1の様相を見せていた。

「ヒィィィィィィ。寄ってたかって卑怯者どもめ、弱い者苛めをするなああああ!」

「うむ。鬼がどの口を開いて言うか!」

「たしかに不公平だと思いますけど、アナタたち鬼に殺された人たちにも同じことを言えないでしょ?」

「見ずとも、嘘つきの卑怯者の本質が透けて見える」

「弱さを盾にした言い分は煩わしいな」

「問答も無駄だ。鬼は皆殺しにしてやる」

 

 

そして・・・

「わぁ。急に呼ばれて驚いたけど、若くて美味しそうな女の子だ。これは嬉しいね」

ただ1人、胡蝶だけは1人だけで上弦の鬼と対峙していた。

蓮の浮かぶ池の回廊で作られた部屋に鎮座するのは、頭から血を被ったような鬼であった。

にこにこと屈託なく笑い、穏やかに優しく喋り、鋭い対の扇を手にした鬼。

吐く言葉の全てに芯の無い、心にもない出まかせばかりの口を持つ鬼。

胡蝶しのぶの姉、胡蝶カナエを殺した鬼。

そして、胡蝶の毒の一突きに苦しみながらも、数秒でその毒を分解してみせた鬼であった。

 

「うわーっ楽しい! 毒を喰らうのって面白いね。癖になりそう!」

口から吐いた血も、毒に冒され腐った顔も、数秒で治してみせた鬼・童磨はヘラヘラと笑いながら胡蝶を挑発していた。

彼は知っていた。自身に毒は通用しないということを。

胡蝶が必死に無駄な足掻きをする様を楽しむ気でいるのだ。

そして、胡蝶もまた童磨の魂胆を察していた。

『後悔しても遅いけど、準備をしておけばよかった。私の体を藤の毒で満たして、あえて喰わせる捨て身の策は考えていたけど、その準備には1年はかかる』

策が無くとも、戦わなければならない時がある。

姉の仇討ちのため、一矢報いるためにも、戦わなければならない時が・・・

 

「いたぁ! 胡蝶さん見~つけた!」

 

その時、回廊の部屋に飛び込んできたのは変な傘を持ったドラ治郎であった。

「ドラ治郎くん!?」

「ん~? 誰だい? 威勢だけは良さそうだけど、なんか頭が悪そう」

胡蝶に近寄るドラ治郎を、童磨はヘラヘラ笑いながら観察していた。

圧倒的に弱い気配。無惨から知らされた情報にもドラ治郎と合致するものは無い。

鬼とまともに戦ったことのない少年。それが童磨の感じたドラ治郎の第一印象であり、胡蝶と同じように弄んで楽しむのに適した相手だと、彼は認識した。

「良かったね、しのぶちゃん。お友達が助けに来てくれるなんて」

「胡蝶さん、お知り合いの鬼さんなんですか?」

「いいえ! こいつは姉の仇。考え方も反吐が出る、最低の馬鹿野郎よ!」

吐き捨てるように言う胡蝶の言葉に「可愛いのに性格が刺々しいよね」とドラ治郎に同調を求める童磨。

その飄々とした態度にどこか嫌悪感を抱くドラ治郎。

「う~ん、この鬼はあんまり性格良さそうじゃないですね。はやくやっつけちゃいましょう」

そう言ってドラ治郎はポケットをまさぐる。

「へ~、丸っこい見た目の割に強気d・・・」

「タンマウォッチ~!」

カチッ

 

ドラ治郎が取り出した懐中時計を、胡蝶は目にして首を傾げた。

彼が時計のボタンを押した瞬間、彼女の耳に一番耳障りな童磨の声が届かなくなったからだ。

「???」

目をやると、童磨が憎らしい笑顔のまま固まり、微動だにしていないのが確認できる。

「さぁ胡蝶さん、今の内にやっつけちゃいましょう」

そう言ってドラ治郎が胡蝶の手を引き童磨に近づいていく。

「えっ? 不用意に近づいたら危険よドラ治郎くん」

「大丈夫ですよ。ボクら以外の時間を止めておきましたから。この鬼は絶対に動きません」

ニコッと笑うドラ治郎に胡蝶は猜疑心を覚えるが、事実、童磨は時が止まったとしか形容できない停止状態にあった。

肉なり焼くなり好きにしても良いという状態だ。

「だったら、遠慮なく」

その時に見せた胡蝶の笑顔に、ドラ治郎は蜂やムカデを思い出すようなゾクゾク感を覚えた。

「蟲の呼吸・・・を使うまでも無いわね。フフフ」

力の弱い胡蝶の刀は特別性。

鬼の首を刎ねることのできない代わりに仕込んだ毒を相手に注入することができる。

その量は1度で50mg程度。1回1回、鞘に戻して補充する必要がある。通常の戦闘であればその一連の動作が大きな隙になってしまう。

が、時が止まっているのであればこの制約は関係ない。

 

 

「ふぅ・・・これで滅殺できなければ悔しいですが・・・」

100回は刺したであろうか。通常の鬼の致死量の100倍の毒を童磨に食らわせた胡蝶。

緊張と憤怒で震える手が疲れて握り開きができなくなるほど、彼女は一心不乱に毒を挿し込んだ。

「えっ? 胡蝶さんがこんなに頑張ったのに? う~ん、これだけの毒で倒せないのは嫌だから、何かないか何かないか」

そう言って唸りながら、ドラ治郎はポケットから小瓶を取り出した。

「ピッカリゴケ~!」

そう言いながらドラ治郎は小瓶を振って、中から苔のような物体を出して童磨にふりかけた。

「この苔は太陽光と同じ光が出るから、試したことはないけど鬼にも効くかもしれません」

そう言って童磨が光に包まれたことを確認したドラ治郎は再び懐中時計を取り出した。

「時は動き出す」

そう言ってドラ治郎がボタンを押した瞬間・・・

「だね。フフフ・・・あれ? 何だこれ?」

童磨の顔が溶けるように崩れ始めた。

体もまた鬼が日光を浴びたように崩壊していく。

「あ・・れ・・? しの・・ぶ・・ちゃん?」

「気色悪いので名前を呼ばないでください。とっととくたばれ糞野郎」

胡蝶は怒りのこもった満面の笑みを向け、童磨が塵となるのをしっかりと見届けた。

 

「やったよ・・姉さん・・・カナヲ、アオイ、きよ、すみ、なほ・・・みんな」

長い間、胡蝶を苦しめ悩ませてきた肩の荷がひとまず下り、彼女は膝から崩れるようにその場に座り込んだ。

「大丈夫ですか、胡蝶さん?」

ドラ治郎の問いかけに胡蝶は返事をしなかった。

自分の胸から張り裂けそうになる想いに浸るだけで、今の彼女は精一杯だったのだ。

敵陣のど真ん中で感傷に浸ることが愚かな行為だと理解しながらも、彼女はとめどなく溢れる涙を我慢できなかった。

「胡蝶さん・・・」

そんな彼女をドラ治郎は優しく見守ることにした。

 

が・・・敵にはそんな都合が通用するわけがなかった。

 

直後、ドラ治郎と胡蝶の部屋がガタンと揺れ、2人の乗った床板ごとエレベーターのように、部屋全体が急上昇し始めた。

「なっ!? なんだ!」

困惑するドラ治郎だが、このままでは迫る天井と床に押し潰されてしまうのは明白。

咄嗟に胡蝶の服を掴むと、転がりながら横に移動し、間一髪のところで圧死を逃れた。

「あっ、危なかったぁ・・・胡蝶さん、大丈b・・・うわぁ!」

今度は床板が横移動を始め、2人を乗せたまま部屋がトロッコ列車のように動き始めた。

これには胡蝶もたまらず、涙を強引に抑え込んで、状況に対処しようと姿勢を正した。

「呆けていてごめんなさいドラ治郎くん! 助かりました」

「うわぁっ! 前、前!」

矢継ぎ早に迫る壁や天井、床。部屋と廊下そのものが大きな怪物の体のように、2人に襲い掛かった。

「何がどうなって・・・」「ドラ治郎くん、見て!」

2人が広い空間に出た時、胡蝶がそれを発見した。

彼女が指さした先、離れ小島のようになった畳の間の上に髪の長い女性が1人、琵琶を手に座っているのだ。

彼女がベベンと琵琶を弾くたびに、それに応じるように壁と床が2人に迫る。

「あの女が鬼ですね。気配もします」

「よ~し、やっつけましょ・・・うわぁ!」

意気込むドラ治郎であったが、彼がポケットに手を伸ばそうとすると途端に床が激しく動き、まともに立っても座ってもいられない重力がかかり、そこに次の壁に追い込まれる。

 

「ドラ治郎くん、危ない!」

その時、ドラ治郎が壁と壁の間に服を挟まれた。

胡蝶が咄嗟に服を引きちぎって彼を助ける。

 

が・・・この時、2人は気付いていなかった。

破れた服と共に、ドラ治郎の“ポケット”までも置き去りにして、壁の間に残してきてしまったことを。

 

 

「胡蝶さん、ボク足手まといになってごめんなさい」

「いいのよ。貴方は大切な存在ですから。隊にとっても、私にとっても、禰豆ミちゃんや信代さんにとっても」

優しく声をかける胡蝶であったが、内心迷っていた。

『鬼舞辻無惨の元に行くためにも、あの鬼はここで倒すべき。だけど、このままドラ治郎くんを守って戦っていたらそれどころじゃ・・・』

ドラ治郎を見捨て、琵琶の女を倒しに向かうのが最善策。

そう思いながらも、彼女の優しさがそれを許さなかった。

「このままじゃボクらがやられちゃう! よ~しこうなったら・・・」

ドラ治郎はキッと目を開き、腹部に手を伸ばそうとした。

 

その時!

 

『水の呼吸 捌ノ型・滝壷』

ザンッ

その場にいたドラ治郎にも、胡蝶にも、そして琵琶の女にも、一瞬何が起こったのか理解できなかった。

何も無い空間から発生した斬撃が、琵琶女の首を斬り落としたのだ。

『やった! やったぞドラ治郎! しかもコイツ、上弦の陸だ! マジで、俺はやったぞ!』

ドラ治郎にも胡蝶にも、その斬撃の主を認知することはできなかった。

それが石ころ帽子を被った村田であることも。

昨夜、糸なし糸電話の着信音のせいで現れた無惨を至近距離で目撃していたことも。

その報告が出来ずに悩んでいた彼が今朝、柱たちを目撃して思わずついてきてしまったことも。

何も知ることはできなかった。

 

「ど・・・どうなってるの?」

「鬼が勝手に崩壊しました・・・こんなことって・・・可能性として考えられるのは、無惨の情報を漏らそうとしてしまったのか・・・でも、そんなことありえないし・・・」

何も分からないまま呆然とするドラ治郎と胡蝶。

 

運が良かったのは、この鳴女が崩壊したことで本来であれば同時に崩壊を始める無限城が、地下空間となったことで形状を保っていること。

運が悪いのは、いまだにドラ治郎がポケットの喪失に気付いていないことであった。

 

 

 

 

 

その頃・・・遠く鬼殺隊本部では・・・

「! ・・・お兄ちゃん?」「・・・ドラ治郎さん?」

禰豆ミと信代の履いていた靴の紐が同時にブチッと切れていた。

何のジンクスも無い2人であるが、それが不吉の予感に思えて仕方が無かった。

ドラ治郎の身に何か危険が迫っている・・・と。

「信代さん!」「禰豆ミさん!」

2人は同時に顔を合わせた。

「私、どう説明したらいいか分からないんですけど。あの、その、お兄ちゃんのところに行かなくちゃいけない気がするんです! それで・・あの、鞄を!」

「私もです! 浅草なんて遠いけど・・・一昨日、山からここに来た時の紐があれば!」

信代はそう言うと、ドラ治郎から預かった“とりよせバッグ”という鞄を手にした。

欲しいものを何でも取り寄せられると説明されたこの鞄。

「ですけど、使い方が・・・」

「私、見たことあります! たしか、名前を呼びながら中に手を突っ込んで・・・だけど、紐の名前が分からなくて」

「えっと・・・でんしゃごころうぷ・・・とか。速くて振り落とされるから危ないって、ドラ治郎さんも言っていたけど・・・」

そう言って信代は鞄に手を突っ込み、長い紐を取り出した。

が、それは彼女たちが見た時と違い、変な球体を貫いた紐であった。

「こんなものでしたっけ?」

「でも、行くしかありません!」

信代と禰豆ミは輪の中に入り紐を掴んだ。

「浅草の地図も出しておきました。これを見て」

「行きましょう!」

信代と禰豆ミは足を踏み出した。

 

 

 

瞬間・・・彼女たちは・・・風を切り裂いて走り出した。

 

彼女たちは知らなかった。

この道具は、彼女たちの生きる時代に普及している蒸気機関を超えた電気機関、それをさらに超えた磁気浮上式機関を、さらに超えた仕組みである『リニアモーターカーごっこ』であることを。

 

自分たちがこの時、歴代の柱や十二鬼月、無惨のマックススピードを越える、時速380キロで走っていることを。




【22世紀コソコソ噂話】
原作で無惨が竈門家を襲った時の姿は男の姿だ!
22巻を読んで、作者は初めて本作との矛盾に気づいたぞ!

本作を読んでいる時に皆さんの脳内で再生されたのは何?

  • ドラ治郎の台詞が全部、大山のぶ代の声
  • ドラ治郎の台詞が全部、水田わさびの声
  • 鬼滅の刃の主題歌「紅蓮華」
  • ドラえもんの主題歌「ぼくドラえもん」
  • 夢幻三剣士の挿入歌「夢の人」
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