もしも竈門炭治郎がドラえもんだったら   作:三柱 努

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最終回

鬼舞辻無惨の本拠地・無限城で、上弦の弐・童磨を倒したドラ治郎と胡蝶しのぶ。

上弦の陸・鳴女の奇妙な消滅を確認した2人は城の中を走っていた。

 

「胡蝶さん、ボクらはこれからどうすれば?」

「他の柱と合流します。きっと十二鬼月と交戦しているはずです」

「このまま先に無惨と出会っちゃったりして」

「ふふっ。私は毒の在庫が切れてしまいましたから、ドラ治郎くんに全部任せて戦うことになってしまいますよ」

「ええ! それは困るなぁ~」

そんな冗談を言い合いながらも、2人は周囲を警戒しながら走ることができていた。

上弦の鬼の2体の消滅を目の前にしたからこそ、昂揚感に包まれ、頭の回転も速くなっているのだ。

だが・・・その非情な現実は、唐突に2人の目の前に叩きつけられることになる。

 

「上弦も所詮はただの鬼ということか。誰も彼も役に立たないものだ」

 

扉を開けた瞬間。その冷たい声が空気を凍り付かせた。

梁と支柱でできた床。天井には逆さの机と椅子。広いパーティー会場を逆さにした空間の中央で、その男はフラスコを手に何かを研究している様子だった。

ドラ治郎と胡蝶を敵として認識していないように、ゴミでも見るような視線を投げていた。

「お前は・・・」「鬼舞辻・・・無惨」

胡蝶は喉の奥に氷水を流されたような感覚に襲われた。

まさか嘘が本当になってしまうとは。覚悟も半ばで目の前に最悪の事態。

 

「チッ、忌々しい。もうあの屋敷には住めんな。私の労力を何だと思っている」

無惨はフラスコを片手に苛立ちを露わにした。

その言葉から考えるに、上弦の鬼が消滅したことよりも、人間として隠れ住む居場所を奪われたことに怒りを覚えているようだ。

そして、自身が柱たちに追い詰められているとは微塵も思っていない様子だ。

「まぁいい。鬼狩りの柱どもは私がこれから皆殺しにする。向こうから来てくれるなら好都合じゃないか」

不敵に笑う無惨を前に、胡蝶とドラ治郎は刀を握る手に思わず力が入る。

するとその時!

「オラァ! プンプンしやがるなぁ。派手クソ野郎の臭いが!」

部屋の扉を蹴破って現れたのは傷だらけの宇髄であった。

続いて冨岡、時透も現れる。冨岡は無傷のようであったが、時透は足取りが鈍い様子だ。

「冨岡さん! よかったぁ。合流できたぁ!」

「ドラ治郎か。上弦の伍は倒してきたが、他の鬼の強襲に気を付けろ」

「大丈夫です。もう十二カ月は残っていないみたいです」

ドラ治郎と共に再会を喜ぶつもりでいた冨岡であったが、無惨との邂逅よりも、ドラ治郎の口からサラッと発せられた情報に開いた口が塞がらなかった。

『そうだよ。コイツはこういうところで出鼻を挫いてくるんだよな』と。

「もう残ってないって、無惨が言ってました」

冨岡は心の中で「・・・そうか、さすがにそうだよな」と少しホッとしていた。

もし、壱と弐の鬼をドラ治郎が無傷で倒したと言われたら、喜ばしくも敗北感に打ちひしがれてしまったかもしれなかったからだ。

 

その直後、部屋の別の扉が蹴破られた。

「オラァ! プンプンしやがるなぁ。塵屑野郎の臭いが!」

現れたのは傷だらけの不死川であった。元からの傷の痕だけではなく、新しい傷も多い。

そんな彼に続いて、伊黒、甘露寺、煉獄、悲鳴嶼も現れ、部屋に飛び込んできた。

いずれも大小、闘いの痕を残している。

「皆! よかったぁ。合流できた!」

「竈門少年もよく生きていた!」

煉獄はドラ治郎に微笑みかけるもそこそこに、その顔は無惨への警戒と怒りの色に染まった。

 

 

9人の柱とドラ治郎に囲まれた無惨。殺気のこもった目が向けられると、無惨は呆れたようにため息をついた。

 

「しつこい」

 

無惨の言葉の意味を、その場にいた誰もが理解できなかった。

が、続けて言い放たれた文句は、柱たちの感情を逆撫でた。

「お前たちは本当にしつこい飽き飽きする。心底うんざりした。口を開けば親の仇、子の仇、兄妹の仇と馬鹿の一つ覚え。お前たちは生き残ったのだからそれで十分だろう。身内が殺されたから何だと言うのか。自分は幸運だったと思い元の生活を続ければ済むこと」

どの口が語るか、と怒りに目を見開く柱たち。

仇の、全ての元凶である者が語るにはあまりにも傲慢な言い分である。

「私に殺されることは大災に遭ったのと同じだと思え。何も難しく考える必要はない。雨が風が山の噴火が大地の揺れが、どれだけ人を殺そうとも天変地異に復讐しようという者はいない。死んだ人間が生き返ることはないのだ。いつまでもそんなことに拘っていないで、日銭を稼いで静かに暮らせば良いだろう。殆どの人間がそうしている。何故お前たちはそうしない? 理由は一つ。鬼狩りは異常者の集まりだからだ。異常者の相手は疲れた。いい加減終わりにしたいのは私の方だ」

怒りのあまり、呆れて声も出なかった。こいつには何を言っても通用しない。根本的に考え方が人と違うのだ、と。

 

「う~ん、この人は何を言ってるんですか?」

そんな中、ドラ治郎だけが口を開いた。腕を組んで首を傾げ、無惨に向かって口を3にしている。

「教養が足りないのか? そう難しい言葉を選んではいないぞ」

「そうじゃなくて。皆が鬼を倒そうとしている理由を、当の本人が全然理解してないなぁって話」

馬鹿にしたように手をブンブン振って否定するドラ治郎に、無惨は眉をピクリとひそめる。

 

「だってそうでしょ? 自分の事を災害だって理解しているのに。人類は何千年も前から災害をどうにかして防いできた生き物だよ? 復讐とは言わないけど、天変地異をどうにかしなきゃ生きていけない。鬼だってそうだよ。どうにかしないと皆が生きていけないから対処しようとしているのに。それを異常者って言っちゃうのは、お勉強が足りないんじゃない?」

まるで寺小屋の子供たちに教えるように、当然の論理を語るドラ治郎。

「そもそもキミだってお日様の光を浴びたら死んじゃうんでしょ? キミはお日様を克服したいって聞いてるけど、違ったらゴメンね。でもそれなら鬼殺隊のみんなとやってることは同じさ。それを理解しようとしないで1000年も過ごしてきたのなら、それはキミの性格がグータラなんだ・・・」

 

 

ヒュン

 

 

その時、無惨が腕を振ったのがドラ治郎の目に映った。

同時に胡蝶がドラ治郎を突き飛ばす。

「ぐっ」

胡蝶の羽織から血が噴き出た。

苛立った無惨が腕を触手に変え、異常な間合いからドラ治郎目がけて斬撃を放ったのだ。

胡蝶が咄嗟にドラ治郎を庇わなければ、彼の体は両断されていただろう。

そして、その斬撃を受けた胡蝶が無事に済むわけがなく・・・

 

「胡蝶さん! そ、そんなぁ!」

「ドラ治郎・・・くん・・・」

胡蝶の声に力は無かった。

斬撃以上のダメージが彼女の体を機能停止に追い込んでいた。

「攻撃に私の血を混ぜた。猛毒と同じ。細胞を破壊する・・・」

無惨の言葉が終わるのを待つことなく、柱たちは一斉に飛び掛かった。

倒された仲間を心配する暇があるなら、獲物を襲った直後の獣の隙を狙うべし。

 

だが・・・

左右の腕、1対だけと思われていた触手は瞬間、その背から無数に生えていた。

「ぐっ」「あぐっ」

時透と甘露寺が初撃を受けてしまい、その体に毒を流し込まれてしまう。

 

「あっ・・・みんなぁ」

ドラ治郎の情けない声が彼らの耳に届く前に、見えない空気の弾が放たれ、さらに3人。

さらに稲妻のような衝撃波が飛び、さらに3人。

そこに触手の斬撃が空間を切り刻む。

 

 

全ては数秒の出来事であった。

 

 

その場に立っている柱は誰1人残っていなかった。

誰もが傷と毒に侵され、息をするのがやっとの瀕死状態に追い込まれていた。

残されたドラ治郎と無惨だけが、無音の中で対峙している。

「さぁ、次は貴様だ」

「ムムム・・・こうなったらすぐにやっつけてやる。ラジコン太陽ぅ・・・あれ?」

ドラ治郎は腹部をまさぐり、ペタペタと触り、焦り始めた。

「うわぁ! ボクのポケットが無い!」

叫ぶドラ治郎に無惨の触手が迫る。

「どうしようどうしよう!」

迫る触手を前にドラ治郎は踵を返すと、無様にも尻尾を巻いて逃げ始めた。

 

「さっきの威勢はどうした? 私を否定した大口はどこに消えた?」

挑発する無惨であるが、ドラ治郎は恥も無く逃げ回るだけであった。

「だって、もう残っているのは日輪刀だけなんだもの! 勝てるワケないよぉ」

日輪刀一本で戦いを挑んでくるのが鬼殺隊。そう考えていた無惨も驚きの逃亡であった。

「駄目だぁ。イベントを進めるのが早すぎたんだ。もっと仲間を集めたり修行してレベルを上げないと倒せない敵だったんだぁ!」

意味も分からない単語を並べるドラ治郎に、無惨は呆れを通り越して憐れみすら覚えていた。

 

逃げ回るドラ治郎であったが、ついには足元に倒れる胡蝶につまずいて盛大に転んでしまった。

「ぐぬ~。胡蝶さん・・・蹴っちゃってごめんなさい」

「逃げなさい・・・アナタだけでも・・・」

謝るドラ治郎に、胡蝶は肺すら動くのも苦しい中、どうにか声を絞った。

「胡蝶さん・・・」

その姿を目にしたドラ治郎は立ち上がった。その手に日輪刀を持ち、無惨を睨みつける。

「逃げるのを諦めたか?」

「そうだよ。主人公なんだもの。ボクだって鬼殺隊の端くれさ。皆の覚悟から1人だけ逃げてたら、どの面下げて22世紀のネコ型ロボットを名乗れるのさ! お前なんか、デマオンやポセイドン、牛魔王と比べたら全然怖くないぞ!」

後半何を言っているのか無惨には分からなかったが、目の前のドラ治郎が覚悟を決めたことは認識できた。

窮鼠猫を嚙む。追い詰められたネズミを侮るなかれ。

 

 

「行くぞぉ!」

 

だが、ドラ治郎は太刀筋から走り方から、全てが平凡以下であった。

「・・・・」

「うわぁ!」

易々と触手に捕らわれ、宙づりになるドラ治郎。

「お前は、何なんだ?」

「う~動けないぃ」

無惨はわずかに困惑していた。

捕らえた触手から血を滲ませドラ治郎の体に猛毒を注入するが、目の前のドラ治郎は締めつけに対して苦しんでいるだけで、細胞を破壊される痛みに苦しんでいる様子が微塵も見られない。

 

「毒が効かない体質、稀血か・・・だが、“叩きつけて”しまえば同じだろう」

そう言うと無惨は触手を高く振り上げ、勢いをつけて床に向かって振り下ろした。

「うわぁああ!」

ドラ治郎の悲鳴が部屋にこだまする。

 

 

その時

「お兄ちゃん!」「ドラ治郎さん!」

部屋を横断する少女たちの声が響いた。

その姿を、無惨は肉眼で捉えることはできなかった。

『何者!?』

「今の声は、禰豆ミに信代さん! 助けに来てくれたんだぁ!」

触手が止まり、ドラ治郎は宙づりに戻りながら喜んだ。

それは“リニアモーターカーごっこ”で鬼殺隊本部から浅草まで走り抜け、通り抜けフープに落ちて、勘を頼りにここまで来た禰豆ミと信代であった。

「お兄ちゃん助けに来たよ!」「今、助けます!」

 

『助ける?』

柱9人を一掃したばかりの無惨は、いかにも餌にしかならない強さしか持たないであろう少女たちの姿を鼻で笑った。

 

「これを! 相撲・・らい病!」

信代はたどたどしく叫ぶと、西洋風の鞄から妙な筒を取り出し、その先を無惨に向けた。

 

無惨は直感した。

相撲らい病と叫んだ信代の声を聴いたドラ治郎がわずかに『スモールライト? やったぁこれで勝てる』と歓喜した色を感じ取った。

筒の先を向けられてはいけない。その先からおそらく発せられる何かを受けてはいけない、と。

 

だからこそ、無惨は咄嗟にドラ治郎を盾にした。

 

「うわぁ!」

信代が咄嗟に止めることができず、筒から発せられた光がドラ治郎に向かう。

ドラ治郎に焦りと敗北濃厚の色が見えた。

勝利を確信する無惨。

 

 

 

だが、無惨もドラ治郎も知らなかった。

 

信代がとりよせバッグで取り寄せたものは、スモールライトではなかったのだ。

 

彼女は名称こそうろ覚えであったが、それを“大きさを変えられる道具”としか認識していなかった。

 

そして彼女が自分の目で見たことのある、認識したことのある道具は・・

 

 

 

 

ビッグライトであったのだ。

 

 

 

 

 

ビーーーーーと、光がドラ治郎の日輪刀に浴びせられる。

 

その瞬間。日輪刀は巨大化し、無惨の体を貫き、轢き裂いた!

 

 

「うぐぁあああああ! な、何だとぉおおおおお!!!」

 

ドラ治郎の日輪刀は何の色も宿していない刀ではあったが、日光を十分に浴びた立派な鬼専用の武器。

そしてその大きさはビッグライトの光を浴び数百倍に巨大化した刀は、無惨が体に宿した無数の脳や心臓、細胞の全てを余すことなく潰して破壊したのだ!

 

 

「お・・おの・・・おのれぇ! ギギャァアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

無惨の断末魔が部屋に響き、その体の崩壊は最後の一片まで絶えることなく終わった。

 

 

 

 

 

「かっ・・・勝ったぁ!!!」

ドラ治郎の歓喜が部屋に響き、禰豆ミと信代が駆け寄り抱き着いた。

「お兄ちゃん!」

「ドラ治郎さん・・・ついに、やったんですね!」

「2人のおかげだよ。ほんとうにありがとう!」

3人の声に、部屋中に倒れ辛うじて命の火を残す柱たちは心の中で歓喜した。

 

 

が・・・その命の炎も風前の灯火。

薄れゆく意識の中、光を失いつつある彼らの目の前に、彼らの友・家族の姿が。

 

 

お迎えが来たようだ。

 

 

「あっ! そうだ。柱の人たちが毒を喰らって危ないんだ。信代さん、とりよせバッグを貸して。お医者さんカバンで特効薬を作って皆さんに配るから」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

ドラ治郎の言葉に、柱たちや柱の前に浮かぶ幻たちの目は丸くなった。

『助かるの? 本当に私たち、助かるの? あぁ、姉さん』

『助かる・・・の? 僕、これから幸せになれるかな?』

『希望が生まれた。感謝するぞ竈門少年。父上も褒めてくださるだろうか。待っててくれ千寿郎』

『蔦子姉さん。錆兎、そんな苦い顔をするな。アイツはいつもこうなんだ』

『子供らの元に行く前に、やることがあるというのか。これもまた天命』

『無茶苦茶だが、スゲェ奴だドラ治郎。帰ったら玄弥に聞かせてやりてぇな』

『言っちゃった・・・』

『言ってしまった・・・』

『派手に聞こえちまった・・・』

各々が想いにふける中、ドラ治郎は一番近くにいた胡蝶の元に走り、彼がお医者さんカバンと呼ぶ箱から管を取り出し、胡蝶の体に当てて何やら作業を始めた。

 

「よしできた。これさえ飲めば毒も傷もすぐに治る」

箱から何やら液体を絞り出すドラ治郎。それを飲ませてもらった胡蝶の顔色がたちまち良くなっていく。

「ありがとう、ドラ治郎くん」

まだ毒の影響で体は動かないものの、その笑顔には明るさが宿っていた。

「良かったぁ胡蝶さんも助かった」

喜ぶドラ治郎は彼女から薬瓶を受け取ると、液体をその中に入れていく。

「禰豆ミに信代さん。これを柱のみんなの所に届けてもらえるかな?」

「もちろんです!」

「急いで行ってくるね!」

 

2人は小瓶を手に、動けない柱たちの元へ走った。

禰豆ミから薬を受け取った冨岡は、彼女に助けてもらいながら薬を飲んでいく。

信代が駆け寄った先、2人寄り添うように倒れていた伊黒と甘露寺は、何やら愛の告白でもしたかのように顔を真っ赤にしていた。

 

 

全員が助かるかもしれないと、当初は思われた。

だが、毒の進行はそう優しくはなく、体感では全員に薬が行き届く前に少なくとも2名は毒によって死に至る予感がされていた。

そのことを真っ先に察したのは元・忍で毒に理解の深い宇髄であった。

 

「このままじゃマズイな。ドラ治郎、“コイツら”を使え! 薬程度なら運んで走れる!」

そう叫んで宇髄は残された力を振り絞り、“コイツら”と呼ぶ“それ”をドラ治郎に向けて投げてよこした。

「ありがとうございます! って・・・え?」

ドラ治郎はその投げられた物をガシッと手で受け止める。

 

 

 

 

 

チュウチュウ

 

 

それは宇髄のお供。特別な訓練を受け高い知能を持つ忍獣。

1匹で1振りの刀を運ぶことができる超筋肉質の小動物。

 

2匹のムキムキねずみであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぎやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああネズミぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

 

 

 

 

 

 

ドラ治郎は飛び上がり、恐れ慄き

 

そのまま気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  GAME OVER  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「わぁああ! ネズミィ・・はっ、そうだ夢だ。はぁ驚いたぁ」
東京の某所、野比家の2階の部屋で青い狸のようなネコ型ロボット・ドラえもんは目を覚ました。
気ままに夢見る機で『鬼滅の刃』のカセットを遊び、長い夢の中でラスボスを倒し、エンディング前にゲームオーバーしてしまったのだ。

「もう、なんてゲームなんだ! もう少しで良い所だったのに、ネズミなんか出てきたらもうこれ以上遊べなくなっちゃうじゃないか!」
プンスカと頭から煙を出すドラえもんは、気ままに夢見る機の画面の「continue?」を無視して電源を落としてしまった。
「でもちょっと勿体なかったかな? まぁいいや。それよりちょっとお腹が空いちゃったな。ママ、おやつは?」


ドラえもんが階段を降りていくと、のび太のママは玄関先でお客さんと話をしているようであった。
「あらドラちゃん。こちらすぐ近くに引っ越してこられたんですって」
来客は子供連れのお母さんであった。引っ越しの挨拶回りに、手土産を持ってきていたのだ。
連れの小さな女の子は“大きな蜘蛛のぬいぐるみ”を手に母親の背に隠れて恥ずかしそうにしている。

「やぁこんにちは。ボク、ドラえもんです。よろしく」
「わ・・・わさびです」
女の子は照れながら、ドラえもんに挨拶をして顔を隠してしまった。
「あらカワイイ。ドラちゃん、どら焼きを頂いたわよ」
「わぁ! どら焼き!」
ドラえもんが喜ぶと、母親が「これ、この子の好物なんですよ」と微笑む。
「わさびちゃんもどら焼き好きなの? 僕と一緒だ!」
そう言うと女の子はニッコリと笑顔になって「うん!」と返事をした。

「もしよかったら、わさびちゃんもどら焼き、一緒に食べていかない? お母さんも、お茶でもお召し上がりになったらいかが?」
「えっ? いいんですか? ではお言葉に甘えて。わさび、よかったわね」
「じゃあ一緒に行こっか、わさびちゃん」
「うん!」

そう言うとドラえもんは、女の子の手をしっかりと握ったのだった。










【 完 】
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