鬼になった妹・禰豆ミは、ドラ治郎のジーンマイクの叫びに胸がジーンとなっていた。
その眼に涙を浮かべ、鬼の本能が揺らぎかける。
が、その時。2人の間に凶刃が走った。
咄嗟に禰豆ミを救ったドラ治郎。その前に立つのは刀を向ける男であった。
「なぜかばう」
白い雪が舞う中、白い吐息が漏れる中、男は冷たい視線をドラ治郎にぶつけつぶやいた。
何故かばう? かばうということは、男には危害の意思があったということ。
その刃から妹を守ることに、理由なんてあるわけがない。
「妹だからに決まってるじゃない」
平然としたドラ治郎の言葉に応じるように、禰豆ミは大人しくドラ治郎の服を掴んだ。
暴れる様子の無い禰豆ミの姿に、男は眉をひそめる。
が、その視線は鬼特有の爪・牙・瞳の色に移り、男は決意を固めた。
刀を構え、ダッとドラ治郎の元に走り出す男。
ドラ治郎は咄嗟に禰豆ミを庇おうとするが、その腕の中に彼女の姿は無かった。
「!?」
禰豆ミの姿は男の手の中にあった。後ろ手に拘束され、暴れている。
「早い! いつの間に・・・ドラミ! 禰豆ミちゃん!」
ドラ治郎は彼女を助けようと駆け出そうとする。そこに男は冷徹な声で「動くな」と命じた。
「俺の仕事は鬼を斬る事だ。勿論、お前の妹の首も刎ねる」
男は本気のようだ。放たれた殺気に、闘いの素人であるドラ治郎ですら気圧されて動けなくなった。
「待って、待って。ドラミは・・・禰豆ミちゃんは何も悪い事はしてない! その子は昨日まで鬼じゃなかった。何かがあってそんな姿になっちゃったんだ!」
「簡単な話だ。傷口に鬼の血を浴びたから鬼になった。人食い鬼はそうやって増える」
「ドラミは人食い鬼なんかじゃない!」
「よくもまあ、今しがた己が食われそうになっておいて」
「そんなことはない! それにその娘は・・・禰豆ミちゃんは泣いてた。ちゃんと人の心がある! ボクが禰豆ミちゃんを治すから」
「治らない。鬼になったら人間に戻ることはない」
「探す! ボクが治す方法を見つけるから。だから、殺さないで! ママや弟たちを殺したのも鬼なら、ボクが必ず退治するから。だから!」
必死に弁明するドラ治郎。だが、男は真っ向から意見を潰していく。
そして、話すことは何もないとでも言うように、男は手にした刀を禰豆ミにつきたてようとした。
「だから! やめてぇ!」
ドラ治郎は必死に懇願した。この間合いで男の手から禰豆ミを救うことはできない。であるなら、お願いする他に仕方がないからだ。
「やめてください。どうかドラミを、妹を殺さないでください。お願いします。お願いします」
土下座。今、ドラ治郎が言葉以外で表せる懇願の最上形態。これが通じなければ、もう残された希望はない・・・
「生殺与奪の権を他人に握らせるな! 惨めったらしくうずくまるのはやめろ! そんなことが通用するなら、お前の家族は殺されてない」
土下座は男の怒りを逆撫でた。
「奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者が妹を治す? 仇を見つける? 笑止千万!」
男は怒りを露わに一見正論を並び立てた。
ドラ治郎は歯噛みした。主導権があるかないかは、治療法を見つけたり、殺人犯を探せるかどうかと関係ないじゃないか、と指摘したかった。
「弱者には何の権利も選択肢も無い。悉く力で強者に捻じ伏せられるのみ。妹を治す方法は鬼なら知っているかもしれない。だが、鬼どもがお前の意思や願いを尊重してくれると思うなよ! 当然、俺もお前を尊重しない。それが現実だ」
ドラ治郎は思った。鬼が治療法を知っているなら、尊重とか関係なく・・・
「ウラオモテックス」や「ドリームマッチ」、「正直太郎」に「心の声スピーカー」、「悟りヘルメット」、「読心ルーペ」、「本音シグナル」、「ホンネ吸出しポンプ」
といった方法で、権利を無視していくらでも方法を知る選択肢があるのだ。それが22世紀の科学だ。
「なぜさっき、お前は妹に覆いかぶさった? あんなことで守ったつもりか? なぜ棒を振らなかった。なぜ俺に背中を見せた? そのしくじりで妹を取られている。お前ごと妹を串刺しにしても良かったんだぞ」
男はそう怒鳴って、禰豆ミに刀を突き刺した。
「ギャアア」と禰豆ミの悲鳴が轟く。
ドラ治郎は居ても立っても居られず、ポケットに手を伸ばしていた。
「やっ、やめろー! ショックガン!」
手にした短筒から放たれた光が男を襲った。
ビビビビと激しい雷のような光線が注がれる。
「ギャアアアア」
男は悲鳴と共に気絶した。
ショックガンは相手を気絶させるが、傷つけることは一切ない武器なのだ。
どれだけの時間、眠っていたのか男にはわからなかった。
目を開けると、そこにはドラ治郎と、その隣で大人しく座る禰豆ミの姿があった。
「気が付いた。よかったぁ」
ドラ治郎の安心しきった声に、男は自分の油断を恥じた。
『あれから一体どれほどの時間が経ったのか。鬼を前にどれほどの時間、意識が遠のいたのだろうか』
己の無事と目の前の鬼を見るに、杞憂であったことは幸いであるが、人生をいくつも終わらせかねない失態である。
男が一番驚愕したのは、禰豆ミが自分に一切危害を加えなかった事実。
『それにこいつ・・・』
依然とヘラヘラとしているドラ治郎の甘さに、男は苛立ちを覚えた。つい今しがた、殺す殺されると争ったばかりの相手を拘束もせずに介抱するとは。
「お前たちは一体・・・」
「ボク、ドラ治郎です。こっちは妹の禰豆ミちゃん」
ドラ治郎が紹介すると、禰豆ミはペコリと頭を下げた。
「どうなっている? こいつらは・・・何かが違う」
男は、禰豆ミの心を呼び起こしたドラ治郎のジーンとくる叫びの存在を知らなかった。
目の前にあるのは、刀で刺され負傷した怪我を治しながらも、消耗したエネルギーを補給するため血肉を喰らわずにいる禰豆ミの姿。
―妹は違う。人を食ったりしない― 同じようなことを言って鬼に食われた奴を男は知っていた。
だがたしかに、目の前の禰豆ミは男を食おうとしていない。
『信じてみたくなった』
男はドラ治郎と禰豆ミに、鬼という呪いを突破できる何かを感じたい衝動に駆られていた。
『そういえば妹のことを“ちゃん付け”したり、色んな呼び方で呼ぶんだな、コイツ』
男は、ドラ治郎の言葉遣いに若干の違和感を覚えつつも、『まぁいいか』と口に出さずスルーした。
その後、男は富岡義勇と名乗り、ドラ治郎と禰豆ミに「狭霧山の麓に住んでいる鱗滝左近次という老人を訪ねろ」と伝え去っていった。
ドラ治郎はその言葉に従うことにした。それがイベントの進め方なのだと。
富岡は最後に、禰豆ミを太陽の下に出すなとも教えてくれた。どうやら鬼にとって太陽は危ない存在のようだ。
「何か疲れたよ、禰豆ミちゃん」
富岡の姿が消え、2人きりになったドラ治郎はため息混じりにつぶやいた。
禰豆ミは何も答えなかった。ボーッとしていて、昨日会った時のような健気さが消え、まるで生まれたばかりの赤ちゃんのような頼りなさだけが残っていた。
「とりあえず、今日は皆のお墓を作ってあげよう。富岡さんが言っていたお爺さんの所には、明日行こうね」
ドラ治郎は禰豆ミの手を引き、元の家に戻っていった。
家族の遺体を土に埋め、手を合わせて黙祷を捧げるドラ治郎。
「そういえば、禰豆ミちゃんを鬼にした鬼と、ママたちの命を奪った鬼は同じ鬼なのかな? なら、調べられるかもしれない」
そう言うとドラ治郎はポケットに手を入れ、大きな鏡台を取り出した。
「タイムテレビ~!」
鏡台をカチカチと操作し、ガラス面に絵を映していく。
それはまるで鏡のように、本物と寸分たがわぬ絵であった。だが絵ではない。映し出されたものが動いているのだ。
その驚きの光景に禰豆ミは目を丸くする。
「むっ? これだ。アッ、このシーンはスキップで」
ドラ治郎は何やら独り言をつぶやき、ガラス面の画をある一点で止めた。
それは家族が惨殺される直前の絵。家に入っていく“女性”の顔であった。
冬山に不釣り合いな着物をまとい、妖艶な雰囲気を漂わせている。
「この“女の人”が・・・鬼」
ドラ治郎は歯噛みした。
この女性は一目見ただけでは異質な存在と認識できなかったが、その直後におこなわれた行為を考えるとハラワタが煮えくり返るほどに醜く思えた。
ゲームであると自覚しても、それでも許せない。心底この鬼という存在が嫌いになった。
「って、駄目だ駄目だ。せっかく夢を楽しみに来たんだから、イライラしたら負けだ」
ドラ治郎は自分の頭をポカポカ叩きながら思い直した。
「それにしても綿密に作られたストーリーだなぁ。そうか、こうやってドキドキハラハラさせるのが狙いかぁ。ストレス発散には、こういう感情の抑揚が大事だって聞いたことがある」
自分自身に言い聞かせるようにして、ドラ治郎は鬼の顔を目に焼き付けた。
この鬼を倒す・・・いや、倒す前に禰豆ミを人間に戻す方法を聞き出して、それから倒す。おそらくそれがこの物語のゴールなのだろう。あとはそれに向かって一直線に走ればいい。
「じゃ、行こっか」
ドラ治郎は禰豆ミの手を引き、家を出た。
次のこの家に戻る時。それは禰豆ミを元に戻し、鬼を倒した後だ。
【22世紀コソコソ噂話】
ドラ治郎と禰豆ミの姿は、他の登場人物からは原作の鬼滅の刃の炭治郎、禰豆子と同じに見えているぞ。
もし『野比のび太』の姿を与えるならどのキャラが似合う?
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泣きつき仲間・我妻 善逸
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ガンマン・不死川 玄弥
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あやとりマスター・累
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