冨岡義勇に面倒事をサラッと押し付けられた鱗滝左近次は、ドラ治郎が鬼殺の剣士に相応しいかを試していた。
「妹を背負ってついてこい」
まずは狭霧山への全力疾走だ。夜道の中、田畑道を走り抜ける鱗滝とドラ治郎。
「ひぃっひぃっ。ちょっと、待ってぇ」
『遅い。遅すぎる』
鱗滝は失望した。ドラ治郎は足がたまらなく遅かったのだ。
いくら妹を背負っているとはいえ。いくら夜道で足元が分かりにくいとはいえ。その辺りにいる子供のほうが早く走ることができるだろう。
『それに、足音がしない・・・だと!? それに何だ、この音は』
鱗滝は自分の耳を疑った。土を踏む足音が全く鳴らなかったからだ。鱗滝自身、特殊な走法により足音を鳴らさず走るため、余計にドラ治郎の足音だけが聞こえてもおかしくない状況。
その場で鳴っていたのは、反重力装置により3ミリ浮いているドラ治郎特有のキュッキュッという空気との摩擦音だけであった。
鱗滝が不気味さを覚え始めた時、ドラ治郎は不意に立ち止まり、懐をまさぐり筒と石炭を取り出した。
「人間機関車セット~」
ドラ治郎はそう言うと、黒い筒を頭の上に乗せ、石炭らしき黒い塊を食べ始めた。そして水を飲むと、徐々に黒い筒から煙が噴き出しはじめた。
「お待たせしました鱗滝さん。さぁ、急ぎましょう!」
そう言うとドラ治郎は「シュッポシュッポ」と口ずさみながら走り始めた。
『速い!』
今度は鱗滝が遅れてしまうほど、ドラ治郎は猛スピードで走り始めた。
しかも体幹がブレず、上下の振動もガタンゴトンと、スピードに対して若干の揺れがある程度。背負われた禰豆ミがスヤスヤと眠ってしまうくらいであった。
「着いたぞ。この小屋に妹を置いて・・・い・・・け・・・」
狭霧山の自分の小屋に到着した鱗滝が目にしたのは、今まで全力疾走していたドラ治郎が今までと全く同じスピードのまま走り続け、近くの大木にガンッ!と衝突してしまった光景であった。
「イタタ。そうだった。この道具は自分の意思だけじゃ止まれなかったんだ」
その場で倒れてしまうドラ治郎。
鱗滝は困惑した。こんな間抜けな転倒をするようでは剣士の素質が無しとも言えるが、あの走り方ができる人材を放置するのも勿体ない話。
もう少し様子を見ようと決意した。
その後、鱗滝はドラ治郎を連れて狭霧山の上に登った。
濃い霧の中、薄い酸素の中、これからドラ治郎を試す。
「ここから山の麓の家まで下りてくること。夜明けまでに戻ってこい」
それだけ言い残し、鱗滝は霧の中へと消えていった。
「へ? どういうこと? 説明それだけ?」
ドラ治郎は困惑した。今の所、鱗滝からマトモな説明を受けていないからだ。
冨岡からは“紹介”をされただけ。それから“ついてこい”と“降りてこい”だけ。
ドラ治郎が知りたい情報として、鬼についてだとか、鬼と戦う仲間や組織の情報が何1つ伝わっていないのだ。
「まぁいいや。とにかく家に帰れば、次のイベントに進めるんだね」
そう言うとドラ治郎は、霧を避けて、家に帰ることを決めた。
「タケコプター」「伝書バット」
ドラ治郎は竹とんぼのようなものを頭に乗せ、鳥の羽が生えたような木の枝を持ち、空を飛んだ。
霧を避け、罠を避け、木の枝に導かれるまま麓の家を目指す。
「おかえりなさい」
それからしばらくして家に戻った鱗滝は腰を抜かすほど驚いた。
先程、山の中に置いてけぼりにしたドラ治郎が、鱗滝が帰るより先に家に戻ってきていたのだ。
すぅすぅ眠る禰豆ミに布団をかけ、罠に一切遭っていない綺麗な着物姿で座るドラ治郎。
夢か幻か。いや、そこまで自分は耄碌していない、と鱗滝は自らの頬を抓った。
「・・・認め・・・ざるを得ないな・・・竈門ドラ治郎」
その日から、鱗滝はドラ治郎に修行を課した。
狭霧山を駆け抜けさせ、刀を振らせ、受け身を練習させ、呼吸法を学ばせる。かつて冨岡義勇や他の子供たちにも教えてきたカリキュラムで、ドラ治郎を鍛えるつもりであった。
「う~ん、こんなことやってたらキリが無いよ」
ドラ治郎は夢の中に来てまで大変な想いをしたくないと思っていた。
そこで、彼はポケットから『気ままに夢見る機』のリモコンを取り出し、早送りボタンを押した。
『気ままに夢見る機リモコン』は、早送りすることでイベントスキップができる。そのスキップ時間は物語の通りの展開が経過した扱いとなる。
つまりドラ治郎は面倒な修行編をスキップするつもりなのだ。
「まずは1か月」
ドラ治郎がボタンを押すと、周りの景色が目まぐるしく移り変わっていった。
だが、ドラ治郎の姿はまだ狭霧山の中にあった。まだ山を上り下りする訓練の期間中であった。
「あらら。まだ早すぎたんだなぁ。もう1か月飛ばすか」
再び景色が移り変わる。
まだ、狭霧山であった。今度は腰に刀を差しているが、それでも訓練中なのは明らかだ。
「え? まだなの? もうそろそろいいんじゃない? あんまり飛ばしすぎると大事なイベントを見逃しちゃうよぉ」
そう言いつつ、ドラ治郎は再びボタンを押した。
時は更に1か月過ぎる。
ドラ治郎は、刀の素振り中であった。
「もう、まだなの?」
再びボタンは押され、今度は2か月が経過した。
鱗滝の手によってドラ治郎は転がされていた。
「もう、いい加減にしてよ! もう次は一気に飛ばそう!」
そう言ってドラ治郎は、最初の時間スキップから1年分、時間を早送りにした。
「この岩を斬れたら、最終選抜に行くのを許可する」
今度は、ドラ治郎の目の前に巨大な岩が鎮座していた。
鱗滝の言葉から判断するに、これが最終試練なのだろう。
「1年かかって? それにこんな大きな岩を刀で斬れって? 無理でしょ」
そう言いながら、ドラ治郎は再びボタンを押した。
1か月、3か月、半年、1年。
「もう! こんなにイベントの進みが遅いなんて、ゲームとしてどうなの? もうズルしちゃうよ」
そう言ってドラ治郎はポケットの中から大きな金物の匙を取り出した。
「らくらくシャベル~。これを使えば、どんな硬い岩や地面でも、プリンみたいに楽々掘れる」
するとドラ治郎は大きな岩に匙をあてがい、サクサクと刃を入れていった。
そしてほんの十数秒で巨大な岩を真っ二つに切り裂いたのだった。
この2年の修行の間、出会った日に目にした尋常ならざるドラ治郎の所業はすっかり鳴りを潜めていた。まるで別人のようなドラ治郎の平凡さに、鱗滝は落胆していた。
夜でもない日に山を下らせれば、ボロボロになって帰ってきた。
刀を持たせ組手をすれば、いともたやすく何度も転がすことができた。
水の呼吸法を教えれば、腹に力が入っておらず腹をバンバン叩かなくてはならなかった。
妹が眠り続けていると、いつでも不安な顔を見せていた。
もっと出来の良い子だと思っていた。期待外れだった。この子を最終試験に行かせるわけにはいかない。もう子供が死ぬのを見たくない。鱗滝はそう考えていた。
だからこそ、この岩割りの試練は彼が今まで育ててきた剣士たちに課したものの中で誰のよりも大きく、誰のよりも硬い岩を用意していた。斬れるはずがない、そう思っていたのに・・・
「よく頑張った。ドラ治郎。お前は凄い子だ」
岩の半球を前に、鱗滝は心の底からドラ治郎を褒め、頭を撫でた。
「最終選別、必ず生きて戻れ。儂も妹も此処で待っている」
こうしてドラ治郎は鱗滝から贈られた厄除の面を身につけ、最終選別へと向かった。
『ところで、何で狐のお面なんだろう? タヌキのお面よりマシだけど』
そしてついにその日が訪れた。
藤襲山にておこなわれる最終選別。20人以上の子供たちを、鬼たちが閉じ込められた山に送り込み、7日間生き抜いた者を合格とする試練。
ドラ治郎は鱗滝から貰った刀を手に・・・するのを止め、別の刀を手にしていた。
「名刀電光丸~。内蔵されたコンピューターが持ち主に最適の行動を自動的にとらせてくれるから、これさえ持っていれば眠っていても勝てる」
電光丸を手に、山に入るドラ治郎。その目の前に2人の鬼が現れる。
「オイオイてめぇは向こうに行・・」「いや貴様が失せ・・」
言葉半分を待たず、2人の鬼は電光丸の前に一刀両断された。
「でも、こっちの刀じゃないと倒せないんだよね」
そう言うと、ドラ治郎は鱗滝から貰った日輪刀で鬼の首を刺し、その体をボロボロに消滅させた。
「うわァァ。何で大型の異形がいるんだよ。聞いてないこんなの」
突然、森の奥から子供の声と、手が現れた。
手。と言ってしまえば早いが、その手の数が異様であった。
手に囲まれた異形の生物。
鬼である。
「狐小僧。今は明治何年だ?」
異形の鬼はドラ治郎の存在を歯牙にもかけない様子で、平然と問いかけた。
「今? 何年なんだろう?」
「なら、お前の生まれは何年だ?」
「ボク? 2112年だけど」
「・・・待て。それは西暦という南蛮の数え方だな? 俺がこんな所に閉じ込められた時、たしか1900より若い年だったはずだ。お前は見た目、15くらいか・・・つまり」
異形の鬼はいくつもある自身の指を折り数え、ワナワナと震えはじめた。
「アアアア! 年号どころか、200年も経っている!! 許さん、許さん! 鱗滝め鱗滝め鱗滝め鱗滝m」
怒りを露わにギギギと唸る鬼・・・を、ドラ治郎の電光丸は容赦なく狩った。
「と、こっちの刀でも」
しっかりとトドメを刺すドラ治郎。
鬼の最期に見た光景は、蔑んだ目で鬼を見る・・のではなく、流れ作業のように鬼を倒していった鬼狩りの顔であった。
「う~ん、そういえばこの試練1週間かかるんだよね。どうせイベントも無いだろうし、スキップしちゃお」
ドラ治郎は『気ままに夢見る機リモコン』で早送りをした。
「お帰りなさいませ」「おめでとうございます。ご無事で何よりです」
ドラ治郎は1週間後の朝の藤襲山の入り口にいた。
生き残った子供はわずか4人。
喧嘩っ早くて短気な子供がクレーマーのように試験官に食って掛かるハプニングもありながら、階級:癸と玉鋼、隊服、鎹鴉を受け取り、ドラ治郎の試験は終わった。
「ふぅ。それにしても“くたびれてる”なぁ」
ドラ治郎は体中が痛く、疲労感でくたくたになっていた。
早送り機能でイベントをスキップした直後、ドラ治郎の体は物語の通りの状態で再スタートしてしまう。
修行編の2年間の時は、疲労感が少ない状態で再スタートできたが、今回は本来のドラ治郎と同じボロボロな状態だ。
「これからは早送りは控えよう。道具を使っていれば、きっとこんなんにはならなかったはずだ」
そう呟きながら、ドラ治郎は『ケロンパス』に体中の疲れを吸い取らせ、意気揚々と鱗滝と禰豆ミの待つ家へ戻っていったのだった。
【22世紀コソコソ噂話】
気ままに夢みる機のリモコンでスキップしている間の時間は、本来の炭治郎が代わりに過ごしてくれているぞ。
もし『源静香』の姿を与えるならどのキャラが似合う?
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『し』のつく人・胡蝶 しのぶ
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『ず』のつく人・竈門 禰 豆子
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『か』のつく人・栗花落 カナヲ
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入浴シーン枠・甘露寺 蜜璃
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弦楽器は武器・鳴女