もしも竈門炭治郎がドラえもんだったら   作:三柱 努

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隊律違反

母蜘蛛鬼を人間に戻してあげたドラ治郎。

そんな彼の元に現れた冨岡から、衝撃のニュースが語られた。

下弦の伍・累はドラ治郎たちの手によって倒されていたのだ。

「功労者の村田と猪頭だが、村田は別の鬼に服を溶かされ全裸になったところを胡蝶に助けられている。猪頭も頭が蜘蛛の鬼に殺されかけていたが、俺が助けて縛ってきた」

「よかったぁ。伊之助も村田さんも無事だったんだ。ありがとう、冨岡さん」

胸をなでおろすドラ治郎であったが、元・鬼の女性が「いやいや」と手を横に振ってツッコミをいれようとしたが、あまりの情報量の多さに言葉を見失っていた。

「森は鬼殺隊が制圧した。隠の事後処理も始まっている。負傷者が運び出されているが、お前たち怪我は無いか?」

「はい。この人だけちょっと怪我しちゃったんで、治してあげたいんですけどいいですか?」

そう言うとドラ治郎はポケットから白い箱を取り出した。

「お医者さんカバン~」

「・・・」

ドラ治郎の能天気な声色に冨岡は無反応だった。この程度の能天気さで驚いていてはドラ治郎について行けないと知っているのだ。

カバンの名前にわざわざ“お医者さん”なんてつけるネーミングも、今更あきれてはいられない。

その取り出したカバンの大きさから、何処に隠していたのか説明がつかなくても、いちいち驚いていられない。

 

「あっ、そうそう。治すといえば、禰豆ミちゃんも鬼から元に戻してあげないと」

女性の手の傷に、鞄から取り出した軟膏を塗りながら、ドラ治郎はつぶやいた。

冨岡はその言葉に『“も”?』と引っ掛かるが、それ以上に「鬼から元に戻す」という言葉の意味不明さに首を傾げた。

鬼が人間に戻ることはない。それは以前、冨岡自身も言ったことであり、1000年以上覆ることのなかった事実。

であるならば、ドラ治郎の今までの奇行を考えれば、予想の斜め上から変なことを見せてくるに違いない。

 

「つまりそれは“お嬢さんが鬼”ということでしょうか?」

 

その言葉はあまりにもフワリと舞い降りた。

ガキィン

直後に生じた重い金属音に、ドラ治郎はようやく事態を知覚できた。

その音が自分たちを襲った刀の音で、それを冨岡が止めてくれたこと。そして、その声が刀の主の声であることが、時間差で遅れて理解できた。

それほどに、その声と刀の主の挙動は、まるで空を舞う蝶のように静かにその場に現れたのだ。

 

「あら? どうして邪魔するんです冨岡さん? 鬼とは仲良くできないって言ったくせに何なんでしょうか。そんなだからみんなに嫌われるんですよ」

刀の主は女性の鬼殺隊員・胡蝶しのぶであった。

細く長く、先の膨らんだ変わった形状の刀をドラ治郎たちに向け、優しい表情と殺気を放っている。

その刀の先が向いているのは禰豆ミであることに、その場の誰もが気付く。

「さぁ冨岡さんどいてくださいね」

「あっ、あのぉ」

禰豆ミを殺そうとする胡蝶に、どうにか状況を説明しようとドラ治郎は言葉を探した。

「俺は嫌われてない」

真っ先に言い放ったのは冨岡であった。

『いやソコ?』

『待て』とか『話を聞け』とか言って、流れを止めるのが普通。少し見当違いなところから指摘を始めた冨岡。その様にドラ治郎も元・鬼の女性も、胡蝶すらも一瞬言葉を失う。

「すみません、嫌われてる自覚がなかったんですね。余計な事を言ってしまって申し訳ないです」

なかなかにグサッとくることをいう胡蝶。

だが、ドラ治郎も元・鬼の女性も『あぁ、これは冨岡さんが悪い』と思う他なかった。

 

「坊や」

すると胡蝶はドラ治郎にヒソヒソと・・・その場の皆に聞こえる声でヒソヒソと。冨岡への当てつけのように話し始めた。

「坊やの隣にいるのは鬼ですよ。危ないですから離れてください」

「あっ違います。違わないけど・・・妹で、禰豆ミで。でも、今から人間に戻してあげるところなんです」

「?? よく言ってる意味がわからないんですけど、妹さんなんですね。報告によると、この山にはまだ“隊員たちを操って殺した”能力を持つ鬼が残っているんです。その犯人は妹さんですか?」

胡蝶の問いにドラ治郎は一瞬言葉を迷ったが、「いっ、いいえ!」と力強く言い放った。

「ボクらが山に入った時に、もう隊員さんたちは操られていました。村田さんや伊之助に聞けばわかります」

「あら、そうなんですね。でしたら坊や、他に鬼は見ていませんか?」

胡蝶の問いに、元・鬼であり犯人である女性は酷く怯えた。

強いられていたとはいえ、実行したのは自分。その咎を死をもって償うか、重い罰を与えられるか、不安で仕方がなかった。

もしドラ治郎が真実を話せば、待っているのは暴力と死への恐怖。累に支配されていた頃と何も変わらない。

「それはですね・・・最初に倒した十二カ月の鬼の能力ですよ。僕らが倒したから大丈夫になったんです」

ドラ治郎は白々しく偽りを語った。

「あら? それだと村田さんや生き残った方々の報告と矛盾しますよ?」

「えっとぉ、村田さんは混乱してるんですよ。疲れて幻覚でも見たんじゃないですか?」

ドラ治郎の言う通り、胡蝶が助けた時点で村田は酷く憔悴し、興奮し、裸を見られた羞恥心から正常な心理状態にはなかった。

「なるほど。ですが、妹さんが鬼であることは間違いないわけですよ。可哀想ですけど、苦しまないように優しい毒で殺してあげますから、安心してくださいね」

「えっ? えっ? えええええ!?」

話が急に切り替わったことで、ドラ治郎は慌てふためき手をバタバタさせることしかできなかった。

そんなドラ治郎に構うことなく胡蝶が刀を構えると、冨岡がその前に立ちふさがった。

「あら冨岡さん。鬼殺の邪魔は隊律違反ですよ」

胡蝶を睨み返す冨岡。

元・鬼の女性は禰豆ミを引き寄せ自分の背に隠そうとした。隊員殺しの濡れ衣が禰豆ミにかかった時に庇う勇気が出なかったことを、彼女は後悔していた。罪滅ぼしになるわけではないが、禰豆ミを守らなければと体が自然と動いたのだ。

そんな彼女に、冨岡はチラリと目を向けつつ、ドラ治郎に向かって口を開いた。

「竈門ドラ治郎。動けるな? ソイツと妹を連れて逃げ・・・」

「もう! みんな勝手にしゃべりすぎ!」

冨岡の言葉に重なるドラ治郎の叫び。その勢いに圧されることはなかったが、胡蝶と冨岡は目を丸くして手を止めた。

「ボクがさっき言ったでしょ。禰豆ミちゃんを鬼から人間に戻すところなの。少し待っててよ」

プンスカと鼻を鳴らすドラ治郎は、ポケットから短筒を取り出した。

そして銃口から照射される光を禰豆ミに浴びせる。

「変わった形の松明ね。すごく明るいわ」

胡蝶は短筒から放たれる強い光に驚いたが、それ以上に禰豆ミの変化に驚いた。

光の中、禰豆ミの瞳は鬼のものから人の物へと変わり、爪は鋭さを失い、気配もまた人の物へと変化していく。

1つ1つは小さな変化であったが、鬼の弱点を日々研究してきた胡蝶だからこそ気付くことができた。

 

「ふ・・ふがぁん?」

口に咥えさせられた竹が邪魔で第一声は言葉にはならなかったが、禰豆ミはたしかに言葉を発した。

彼女は急いで口の竹の紐を解くと、目から涙をポロポロとこぼし、ドラ治郎に歩み寄る。

「お兄ちゃん・・・・お兄ちゃん!」

禰豆ミはドラ治郎の胸に飛び込んだ。

「うぁあああああああああああん!」

「良かった良かった。禰豆ミちゃんが無事に元に戻って」

おいおいと泣く禰豆ミの頭を、ドラ治郎は優しく撫でた。

兄妹の愛に溢れた光景に、胡蝶は刀を向ける自分を滑稽に感じた。

「これは・・・何かの茶番ではないのですよね? 本当に鬼から人に戻ったんですよね?」

「それは俺にもわからない。だが、あいつの妹は最初から他の鬼とは違っていたのは確かだ。鬼になって2年以上、一度も人を喰ったことがない」

「え!? そんな・・・まさか」

冨岡の言葉を、胡蝶と元・鬼の女性は信じられなかった。が・・・

「と、聞いている」

最後に冨岡がシレッと付け加えると、2人は膝をガクッと折った。

「鬼が人間に戻ることは絶対に無い・・・だが、俺はこの2人に何か他とは違うものを感じていた。俺たちの常識の通じない何かを、やってのけるのではないかと」

「・・・そうですか」

冨岡の言葉を、胡蝶は信じられなかった。だが、目の前で抱き合うドラ治郎と禰豆ミの姿に、たしかに何か他とは違うものがあるのではと、彼女も感じずにはいられなかった。

 

 

その時、1羽の鴉が叫びながら舞い降りた。

「伝令! 伝令! カァァァ。伝令アリ! ドラ治郎、禰豆ミ、“鬼カラ人ニ戻ッタ者”、本部ニ連レテ帰ルベシ!」

鴉の伝令に、冨岡と胡蝶は瞬時に表情をキリッと正し、ドラ治郎に話しかけた。

「ドラ治郎。お前と禰豆ミを本部に連れて行く。いいな?」

「えっ? 本部?」

「伝令は絶対です。そちらのお嬢さんも、一緒に来ていただけますね?」

胡蝶は全てを見透かしたような眼で、元・鬼の女性に話しかけた。

「は・・・はい・・・」

女性は断ることができなかった。

鬼殺隊に彼女が鬼であったことがバレれば、どんな処分をされるか分からない。

死、あるいは拷問。無惨に関する情報を吐くように強要されるか、人殺しの罪を償うためあらゆる苦痛を与えられることになるか。それを想像しただけで足に力が入らなくなる。

だが・・・

「そうだね。一緒に行きましょう! 大丈夫、ボクが守ってあげるから」

守る。

根拠のない言葉だった。

累が好んだ言葉だった。

聞きたくない言葉だった。

だがこの言葉に、女性は励まされた。

ドラ治郎と一緒にいれば何も悪いことが起きないかもしれないと、心から思うことができた。

ドラ治郎から離れたくないと、彼女は強く思った。

 

「ドラ治郎、妹が鬼として暴れることはないとは、俺たち以外の鬼殺隊に説明できないだろう。念のために拘束するぞ」

冨岡が分析するが、ドラ治郎は「何言ってるんですか?」と口を3にした。

「禰豆ミちゃんが鬼じゃないって証明しろって、まだ言ってるんですか? そんな無茶苦茶な」

「いや、鬼ではない証明は簡単だろ。日の光を浴びて死ななければ、鬼ではないことの証明になる。だが朝までここで悠長に待つわけにもいかない」

「冨岡さん、もっと確実で今すぐ試すことのできる方法があります鬼舞辻無惨の名を口にしてもらうんです。この名を口にすれば鬼は自壊しますから」

胡蝶が指を1本立て、ニコッと笑って言い放った。

「だってさ。禰豆ミ、言ってごらん」

「鬼舞辻無惨?」

「はい、証明完了」

ドラ治郎や禰豆ミはサラッと言ってのけたが、元・鬼の女性は戦々恐々とした。

鬼にとって最大の禁忌。

無惨の名を口にすることは、死よりも恐ろしい呪いの発動条件なのだ。

危機感に差がありすぎる。

「じゃあ、禰豆ミちゃんが大丈夫だってわかってもらえたところで、本部に行きましょう。ハイ、電車ごっこロープ!」

そう言うとドラ治郎は先を結んで輪にした長い縄を取り出した。

「でんしゃごっころうぷ?」

聞き慣れない言葉の並びに戸惑う冨岡。

「じゃあ冨岡さんを先頭にして、みんなでこの輪の中に入って一列に並んで、ロープを掴めば準備OK」

そう言って冨岡を先頭に、禰豆ミ、元・鬼の女性、ドラ治郎の順に並ぶ。胡蝶だけは何か異様な違和感を覚え遠慮した。

「じゃあ出発ぅ!」

 

この時、ドラ治郎以外は知らなかった。

この様は、大正時代に存在しない童遊び“電車ごっこ”そのものであることを。

時代が移れば滑稽以外の何物でもない電車ごっこを、鬼殺隊の最高実力者の1人・水柱が先頭に立ち、今からおこなうのだということを。

 




【22世紀コソコソ噂話】

最終回の構想はこの話を書いているときに決めたぞ!
それまでは候補として
・太陽光と同じ光を放つ『ピッカリゴケ』で倒す
・カチンカチンライトで固めて屋外放置
・なんやかんやで村田にトドメを刺させる
があったんだ。

もし『剛田武』の姿を与えるならどのキャラが似合う?

  • 乱暴な美男子・嘴平伊之助
  • いつでも弱い者の味方・煉獄杏寿郎
  • 力強くて色男・宇髄天元
  • 涙もろくて猫が好き・悲鳴嶼行冥
  • 泣きたくなる優しい音を出す・竈門炭治郎
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