もしも竈門炭治郎がドラえもんだったら   作:三柱 努

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鬼殺隊柱合裁判様

胡蝶しのぶは唖然としていた。

那田蜘蛛山に十二鬼月討伐のため派兵され、鬼が人間に戻る現象を目の当たりにし、その元・鬼と共に本部へ向かうこととなっていた。

無論、鬼が人に戻るなど鬼殺隊の常識から大きく外れた異常事態であることは間違いない。彼女自身、いまだに自分の目を信じられないくらいである。

だが、それ以上の異常事態が今、本部に向けて夜道を走る彼女の目の前で起きていた。

「ガタンゴトン~ガタンゴトン」

聞いたことのない擬音を口ずさんでいるのは、例の人に戻った鬼の実兄にあたる竈門ドラ治郎。

そんな彼は今、水柱・冨岡義勇、元・鬼の少女、竈門禰豆ミ、森で遭った(おそらく元・鬼の)女性と共に、走っている。

それもものすごい速度で。

鬼殺隊トップクラスの速力を持つ胡蝶であったが、そんな彼女が追いかけるのでやっとなほど、4人はとんでもない速さで走っていた。

その速さはまるで蒸気機関車。そのスピードが全く衰えない。

『全集中の呼吸? まさか。禰豆ミさんが鬼になる前に会得していたのならまだしも、あの女性まで・・・しかも、あんな涼しい顔で』

胡蝶が遅れはじめる中、ドラ治郎たちはまるで“歩いているような”涼しい顔で夜道を疾走していた。

「みんな、ついてきているか?」

「はい。大丈夫です」

「わっ私も平気です」

「心配いらないですよ冨岡さん。“リニアモーターカーごっこ”だったら、もっと速くなるんですけど、あっちだと振り落とされちゃうことがあるんですけどね。こっちは大丈夫」

相変わらずドラ治郎が意味不明なことを口にしているが、冨岡は禰豆ミと女性が平然とこの速さについてきていることに驚きを隠せなかった。

 

そして、彼らはついに鬼殺隊本部へと到着した。

ふと4人が後ろを振り返ると、そこに胡蝶の姿は無かった。完全に置いてけぼりにしてしまっていたのだ。

「・・・ついてこれていないようだな」

「一緒に入ればよかったのに」

ドラ治郎と冨岡が自分たちの不親切に気付かず呑気に話していると、元・鬼の女性がソワソワとしはじめた。

「どうしたの? トイレ?」

トイレではなく厠と言わなければ伝わらないが、そもそも見当違いである。

「ぁぁ・・・夜が明ける・・・」

彼女は徐々に明るくなる夜空を見上げていたのだ。

鬼として生きてきた頃、この時間の行動にだけは細心の注意を払ってきた。それはどの鬼も同じである。

こと彼女を支配していた累に関しては、鬼をあえて日の光に炙ることで苦痛を与え、精神的に追い詰める手法をとっていたこともあり、彼女にとって朝日はいまだトラウマの抜けない恐ろしいものなのだ。

 

すると、怯える彼女の手を、禰豆ミが優しく握りしめた。

「大丈夫ですよ。お兄ちゃんを信じて。私も一緒にいるから」

同じ境遇の禰豆ミは女性を励ました。

禰豆ミもまた、自身が鬼だった頃に日の光を本能的に嫌がっていた記憶が残っている。

女性ほどではないが、禰豆ミも恐怖心を残していたのだ。

「・・・わかった。私も・・・信じてみる」

女性は決意した。

昇りゆく朝日の輝きが山の峰を越えてくるのを、ジッと見つめて待った。

2人の握りしめ合う手がギュッと汗をにじませる。

 

 

 

そしてついにその時が来た。

眩い日の光が2人の視界に入り込む。

「うっ」「まぶしい」

思わず目をしかめる女性と禰豆ミ。久々に眼球に当たる強い光量に、熱にも似た痛みを覚えた。

長く忘れていた、懐かしい痛み。

その痛みに、女性の瞳から自然と涙がこぼれた。

「あぁ・・・まぶしい・・・本当に、まぶしい」

涙を流しながら、女性は笑っていた。

「ねっ、大丈夫でしょ」

「ええ。本当に、ありがとう・・・ありがとう」

女性はその場にうずくまってオイオイと泣き始めた。とめどなく溢れる涙で着物を濡らし、声を押し殺しながら喉が裂けるほど泣いて喜んだ。

 

 

それからしばらくして、ようやく女性が顔を上げ、今度は朝日を体中に浴びようと両手を広げた頃、胡蝶しのぶが合流した。

「冨岡さん、早すぎませんか? 嫌われてると言ってしまったこと、まだ根に持ってるんですか?」

胡蝶の言葉に冨岡がムッと眉をひそめる。

すると、その場に黒づくめの服を着た男たちが現れた。

「富岡様! 胡蝶様! 本部へお急ぎください! お館様がお待ちです!」

隠と呼ばれる男たちに導かれ、胡蝶・冨岡に連行される形で、ドラ治郎は禰豆ミと女性と共に屋敷に向かうこととなった。

 

 

 

そこは古風ながらも立派なお屋敷であった。

『広いおうちだなぁ。のび太くんなんか連れてきたら迷子になっちゃうよ』

長い通路を抜け、大広間に案内されると、そこには7人の男女がドラ治郎たちを待ち構えていた。

彼らは胡蝶・冨岡と同じ“柱”と呼ばれる鬼殺隊の精鋭であった。

『おお、彼が下弦の鬼を倒したという“村田”か! 素晴らしい成果だ』

『鬼を人間に戻す方法を見つけた、だ? んなもん増える方が早いんだから地味すぎるだろ』

『十二鬼月を倒したってことは、あの子たち3人を新しい柱に任命するのかしら?』

『鬼が人に戻るなど、1000年以上も覆らなかった輪廻がいまさら変わることは無かろう。騙されているのだ、哀しいことだ』

『あの天井の染み。何かに似てる気がするなぁ』

『この弱そうな奴らが下弦の鬼を倒した? どうせ冨岡か胡蝶めが倒したのだろう。誤報に違いない』

『鬼だったっつうなら、人を殺したことあんだろ? ならまずはその罪を償わせろ。じゃなきゃ殺された奴らが報われねぇ』

 

情報は酷く錯綜していた。

 

何故なら昨夜、『下弦の鬼討伐』を知らせた村田の鴉よりも先に、『鬼の女性が人間に戻った』という情報が、“ゴーゴーカザグルマ”を取り付けられたドラ治郎の鴉によって伝えられていたのだ。

よって『那田蜘蛛山で鬼を人に戻す方法が発見された』『その後、下弦の鬼を村田・猪頭の少年・竹を噛んだ女の子が倒した』という形で本部に伝わっていた。

そのため正しい情報を把握できていない柱たちから期待と懐疑の混ざった視線がドラ治郎たちに突き刺さる。

 

 

そんな柱たちに囲まれた座布団にドラ治郎たち3人が案内されると正面の襖が開き、1人の男性と2人の子供が現れた。

「あの・・・これは」

圧倒的アウェイ感にドラ治郎、禰豆ミ、女性は怯むが、その男性の醸し出す雰囲気が異様に和らいでいるのが感じられた。

『この人、火傷かな? それに目も白内障かな?』

男性の容姿をドラ治郎がジロジロと観察していると、その後頭部にコツンと石をぶつけられた。

それは部屋に入る前に「お館様に失礼の無いようにしろ」と言っていた冨岡の投げた小石。

そのことを思い出したドラ治郎はすぐにハッとなって深くお辞儀をした。

 

 

「よく来たね3人とも。今日は柱合会議の前に、キミたちと色々と話をしたかったんだ」

鬼殺隊の当主、産屋敷耀哉は心地よい声音でドラ治郎たちに語りかける。

「まず確認したいんだが、そちらのお嬢さんが鬼から人間に戻ることができた。それは間違いないかい?」

「はい。そうですよ」

ドラ治郎のキョトンとした礼の欠けた返事に、背後から殺気に似た視線が刺さる。

「そうか・・・本当は最初『鬼になった禰豆ミが2年以上も人を襲っていない』ということについて、皆に話すつもりでいたんだ。普通では考えられない話だったからね」

産屋敷の言葉に、7人の柱たちは戦慄した。

その話が本当であれば今、鬼である禰豆ミが産屋敷の目の前にいるということになる。

鬼殺隊の最大の危機的状況にあるということだ。

瞬間、7人が一様に禰豆ミを拘束しようと腰を浮かす。

「禰豆ミちゃんも昨日の夜、人間に戻りましたよ」

ドラ治郎の間の抜けた言葉に、広間の空気が一瞬凍り付いた。

 

「・・・そうだろうね。朝日の中、ここにきてくれたのだから」

本当であれば“村田・伊之助・禰豆ミ”が討伐した下弦の鬼についても確認するつもりであったが、そのことを失念するほどの新情報に驚きを隠せない産屋敷。

「状況を整理してもいいかい? そちらの2人とも、鬼から人に戻った。禰豆ミは鬼でいる間の2年、人を襲ったことはない。そうだね?」

百年単位で起こらなかった変化が、今になって数分単位で大きな変化が連発している現状に、変化というものを嫌わない産屋敷ですら、一連の変化に追いつけなかった。

1つ1つの言葉に間を置きながら話しているようだったが、その実、興奮をどうにか抑えて話をしていたのだった。

 

「お館様。失礼いたしますが、人を襲ったことがないという派手な証拠も証明も無しに、話を進めることはできないと思いますが」

そこに口を挟んだのはターバンのような布を頭に巻いた筋骨隆々の柱・宇随天元であった。

産屋敷としては話の途中ではあったが、無視できない指摘に「そうだね」と微笑む。

 

「証明ですかぁ・・・いいですよ。ちょっと失礼。タイムテレビ~! これで禰豆ミちゃんがこの2年間、どう過ごしてきたか見せてあげましょう!」」

そう大見得を切ってドラ治郎はポケットの中から、そのサイズに不釣り合いな鏡台を取り出した。

9人の柱たちはドラ治郎の行動に危険性がないか警戒するが、その挙動に悪意が微塵も感じられず、ひとまずの静観を決めた。

 

「えっとじゃあ禰豆ミちゃんの2年間のあらましを巻き戻しでお送りいたします」

そう言ってドラ治郎が鏡台をポチポチと操作すると、その鏡面に森にたたずむ禰豆ミの姿が映し出された。

その姿に禰豆ミ本人は「お兄ちゃん、これ私?」と目を丸くする。

そして柱たちの間にも、この突然の現象に動揺が走る。

当時、写真という技術は一般的ではないものの存在は広く知られていた。だが“カラー”となれば話は別。血鬼術の類ではないかと柱たち8人が疑うのも無理はなかった。

「えっと、これが人間に戻った直後の禰豆ミちゃん。進化退化光線を浴びる前の、鬼だった頃の禰豆ミちゃんがこれです」

そう言ってドラ治郎が鏡台を操作すると、鏡面に写る禰豆ミに光が浴びせられ、その様相が鬼のものに変化した。

「なっ!?」

何が起こっているんだ。その場にいた誰もが思った。

「時間を巻き戻しているんです。一瞬だけだと分かりにくいから、もうちょっと早戻ししますね」

大正時代の人間に映像の巻き戻し・時間の巻き戻し現象を理解できるわけがないと、20世紀後期の感覚で理解していないドラ治郎は、周りの動揺もお構いなしに鏡台の操作を続行していった。

 

鏡台には、禰豆ミが後ろ向きに歩いていき、下弦の伍・累の首を伊之助・村田の刀にスライドさせてくっつける映像がうつる。

「これは一体どうなっているんだ? 写真が動いているだと!?」

「血鬼術だ。そうに違いない」

そう指摘したのは蛇を連れた男、蛇柱・伊黒小芭内であった。

ネチッとした言い方で刀に手をかける。

「動いているように見えるだけです。テレビっていうのは・・・えっと、あったあった」

そう言いながら、ドラ治郎はポケットの中からポンチ絵の描かれた本を取り出し、それをパラパラとめくってみせた。

すると絵は残像も相まって、まるで動いているように見ることができた。

「こうやってパラパラ漫画みたいにして、何枚も絵を映しているから、こうやって写真は映像っていう形になるんです」

「な、なるほど・・・」

ドラ治郎の解説に感心する柱たち。

 

それからはしばらく、何処とも分からない布の中で禰豆ミが眠る場面に移り、たまに宿の中や夜の繁華街を挟んだと思えば、元・水柱の鱗滝の家の布団で眠る場面が続く。

「なるほど・・・少し分かってきた。これはこの娘の行動順の逆を追っているのだ」

伊黒は画面を注視して分析した。

だが、普段であればあらゆる事に異論を挟むのに長けている彼であっても、『禰豆ミは眠ってばかりだ』というツッコミにまで頭が回らなかった。

 

 

そして場面は鱗滝家から再び布の中に戻り、雪山へと移り、冨岡の姿が映し出された。

「これが2年前です。禰豆ミちゃんが鬼にされてすぐですね」

6人の柱たちは思った。

この時点で禰豆ミが鬼であるのだから、それはつまり冨岡が2年も鬼を放置していたということだ。

処罰に値する。

だが、そんな指摘すら忘れてしまうほどの衝撃映像が次の瞬間に映し出された。

「なっ!?」

8人の柱たちは総じて立ち上がった。

 

「お兄ちゃん・・・これ・・・怖い」

「禰豆ミは目をつぶってて」

そこに映し出されたのは禰豆ミが鬼になってしまった瞬間。

鬼の血を浴びたであろう瞬間。

妖艶な立ち姿の女に、一家が惨殺された瞬間であった。

 

 

「こいつが・・・鬼舞辻無惨か!?」

人間を鬼に変えることができる唯一の存在。画面に他の鬼が映っていない以上、この女こそ鬼舞辻無惨だと断定できた。

柱たちの興奮は尋常なものではなかった。

1000年以上、足取りの掴めなかった鬼舞辻無惨の姿を確認できたのは大きな前進である。

 

同時に、産屋敷と岩柱・悲鳴嶼行冥は歯噛みした。

2人は盲目であり、鬼舞辻無惨の姿を皆で確認できたという大事な場面で、2人だけ置いてけぼりを喰らっていたからだ。

 

 

そして最後に・・・

「どうでしたか? 禰豆ミちゃんが人を襲ったシーンなんて無かったでしょ?」

ドラ治郎の最重要ポイントを外したお気楽発言に、柱たちは若干の脱力を覚えたのだった。

 




【22世紀コソコソ噂話】

本作の構成を考える中で、一番時間がかかったのがこの柱合裁判編だ。

もし『剛田武』の姿を与えるならどのキャラが似合う?

  • 乱暴な美男子・嘴平伊之助
  • いつでも弱い者の味方・煉獄杏寿郎
  • 力強くて色男・宇髄天元
  • 涙もろくて猫が好き・悲鳴嶼行冥
  • 泣きたくなる優しい音を出す・竈門炭治郎
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