日出づる国、異世界に転移す 非公式外伝『GW』   作:島スライスメロン

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※今回の話は2020年8月に投稿されたものです。
その後の本編の描写と矛盾などがある場合がございます。
ご了承の上お読みください。
G描写があります。Gが嫌いなどといった方は読まないことをお勧めしいたします。
この作品はギャグ時空につき、キャラ描写につきましては原作作品と異なる場合がございます。ご注意ください
ではどうそ。



第1話 荒涼たる新世界?

この話は2045年に特務機関『別班』のメンバーと宇津木一等陸士(当時)が、アムディス王国に対し魔伝でファーストコンタクトを取った際(本編第8話参照)に、ひょんなことから彼らが関わることとなった、とある事件の顛末である。

 

その事件は、その恐ろしい内容から、政府内のごく限られた者のみがその資料の閲覧を許され、それ以外の人間は知ろうとすることさえ許されなかったという第一級の機密資料を、当機関が独自の調査術で入手し、独自の推測を加えたうえで公開に至ったものである。

 

 

【日出づる国、異世界に転移す 非公式外伝『GW』

                          荒涼たる新世界?】

 

 

  *   *   *

 

 

その日、夜も更けたまだ暗い森の奥で、何人もの男たちが一か所に集まって、何やら怪しげなことをしていた。

 

その男たちは、宝石のような物体を前にして、持ち込んだ道具を駆使して色々と何かを試しているようだった。

 

そうしてしばらくの間その場に留まっている男たちは、何かの試行錯誤を続けていき、様々な苦労は確実な経験として蓄積されていって、その成果を見せ始めていた。

やがて朝日が昇り始めるほんの少し前の時間に、問題の最適解を見つけた男たちは、完成した道具を使ってどこかの誰かに話しかけ始める。

 

最初は雑音が混じっていたその行為だったが、やがてどこかに繋がると、しっかりとした綺麗な音声に変わり、男たちの会話をしっかりと成立させた。

 

その後、交信先の相手と長く真面目な話を続けた男たちは、朝日が昇ってしばらく経つ頃にはどうにか目的を成功させたことによって、その交信を終了させた。

 

密かに喜ぶ男たちはしかし、自分たちが行っていた数々の行動によってその道具から大量に放出されていた魔波や電波、その彼らには感じ取ることができない微弱な振動エネルギーが、この周辺一帯に密かに与えていた影響を一切預かり知らず、この森で密かに、しかし確実に進行し始めた恐るべき事態に対して、未だその存在を察知することをしていなかった。

 

 

  *   *   *

 

 

森の奥に、『それら』は初めから存在した。

自身の感覚に触れる違和感―魔波や電波-を感知した『それら』は、未知の感覚に戸惑った。

 

人間を含めた高等生物固有の高度に発達した脳を持たずに、神経系の反射だけで生きている『それら』はしかし、その優れた反射反応を武器にすることによって、幾億年にも渡って形質を大きく変えることなく過酷な生存競争を生き残った、生物界における精鋭中の精鋭である生物種の中でも、進化の経路樹の末端ほどに属しており、『それ』はその生物種の中でも、体格という部分を異常に発達させた系統に属していた。

 

『それら』は、その体長だけで『地球における同種』の数百倍にも迫るものを有しており、質量に至っては、『地球種の同種』との比較で数十万倍程度にも達する、この世界固有の異常な生命体であった。

 

それはこの世界に満ちる、魔力という未知の力によるものなのか。

本来であれば自らの体格を支えることさえもできないほどに、物理法則を無視して誕生した『それら』はしかし、現実として自らのその巨体を維持し、歩行し、跳躍さえ可能としていた。

 

その異常なまでの生命力、高い戦闘力を備えた『それら』は、普段は森の中に住み、人の世界に降り立つことは殆どない。

しかしもし万が一、人里に『それら』が降り立った場合、そしてそのその秘めたる戦闘力が人類に対して向けられてしまった場合、『それら』は人類を容易く殺傷し、多大な被害を齎しかねなかった。

 

それは人族の悪夢である。

 

歴史上、人類は幾度も『それら』を根絶やしにしようと軍を編成し、派遣し、そして多大な犠牲を払ってその数を減らしてきたのにも関わらず、『それら』は未だに絶滅に至っていなかった。

 

その理由として、『それら』自身の備えた強靭な生命力と、高度な感覚器官による生存率の高さというのもあるが、それ以上の厄介な性質である繁殖力-1つの卵から10匹が生まれるそれを、100日つきに1つ程度、定期的に産み落とす―によって個体数を維持するという性質によって、成り立っていた。

 

そんな恐ろしいその生物である『それら』を、人類は畏怖の念を込めて『森の掃除屋』と呼称しており、そんな別名を持つにいたるほど、『それら』は人類の自然開拓における障害として、広く認識されていた。

 

その掃除屋達が、人工的に作り出された魔波や電波に導かれることによって、おそらく遭遇するであろう『獲物』を狙うために、今密かに動き出した。

 

  *   *   *

 

 

ロイメル王国とアムディス王国の国境となっている森林帯にて、特殊な機材で現地の魔伝石を解析して日本の通信機にて魔伝通信を行えるようにしたうえで、アムディス王国とコンタクトを取り、交渉にて戦争を避けるという日本国の作戦は、別班のメンバーと宇津木の誰にも知られることはない地道な努力によって、無事成功させることができた。

 

午前五時台の熱烈なモーニングコールは、遅寝遅起きにすっかり慣れ切った日本人と違って朝の活動が早い異世界人(もしくは徹夜してた)に対して、十分な効果を与えたのである(もし熟睡していたら大変だっただろう)。

 

そうして異世界で初めてとなる重大な任務をなんとか終えた別班と宇津木は、夜通し働いていたこともあって既に睡魔と疲労を感じ取っていたが、これからまたロイメル王国の王都や港町に戻らなければならないこともあり、未だ気を緩めずに周囲に注意を払っていた。

 

とはいえそこは人里離れた森の奥、周辺にいるのは朝日の昇りとともに目を覚ましてさえずり始めた野鳥か、野鼠、山猫など、どれも彼らにさほど脅威とならない小動物ばかりであった。

 

長閑とさえいえる雰囲気に、宇津木が気を緩め始めていたころで、突如別班の隊長である鈴木(仮)氏が、その人並み離れた超感覚と洞察力で何かを察知して、一同に警戒を促した。

 

「全隊停止」

 

鈴木の命令で、別班のメンバーと宇津木は何か異常事態が発生したことを察知し、鈴木の指示通りにその場で移動行動を停止して鈴木の言葉を待った。

そして出した指示通りに一行が停止したことを確認した鈴木は、自身の感覚が何を察知したのかを言葉として紡いだ。

 

「何かが我々の存在に気付き、近づこうとしている模様だ。各自警戒態勢に入れ」

「何か?それはこの森の生き物か……まさかアムディス王国の兵士でしょうか?」

 

宇津木は、先ほどの交渉で好感触を得たおかげでアムディス王国に対する度警戒レベルを下げてしまっていたが、もしかしたら末端の部隊には話がまだ伝わっていないか、もしくは先ほどの交渉が上手くいったこと自体がこちらを油断させるための罠だったか?と、不安を抱いた。

しかしそんな宇津木の不安を察したのか、鈴木は彼に情報を与える。

 

「今の所アムディス王国の兵士がどんな姿をしているのかはわかりませんし、どのような生物や遠隔操作兵器を使役しているのかは、ロイメル王国の人々の話を総括するにまだ謎ですが、この相手は軽く人間以上、少なくともロイメル王国の翼龍並か、それ以上の体格をした、かなり大型の生物のようです。

それが複数、こちらに向かってくる気配がします。

距離は凡そ南東から900(メートル)、といったところでしょうか?

相手の目的は不明ですが、とりあえず様子を見てみましょう」

 

宇津木は鈴木の理屈の見えない超然的な感知能力の披露に、山奥で仙人にでもあったような非現実的でもどかしい、喉の奥がつっかえる時ような感情を抱きながらも、とりあえずやってくる可能性がある存在を迎え撃てるように、警戒態勢を取った。

その場に緊迫した空気が漂う。

 

自然と、しんと静まったその場の沈黙の空気を、目標を感知している鈴木だけがそれに囚われることなく打ち破り、目標の動きを逐一一行に伝える。

 

「移動はわりと早い、時速約30(km)といったところか。この様子だと、あと数十秒程度でこちらと遭遇するだろう。

各自対獣装備を用意して、安全装置を外し攻撃に備えろ。光学迷彩も起動しろ。

攻撃に関してだが、交戦は避けられないと判断するまでは控えろ。それまで余計な動きは控えて、待機しているように。では状況開始」

 

隊長の鈴木の言葉で、別班のメンバーはそれぞれが今回異世界の害獣に備えて特別に持ち込んだ対獣装備を用意して、起こるかもしれない戦闘に備えて安全装置を解除し始める。それを終えると、ステルススーツの光学迷彩を起動して、人間の可視域から姿を消して、速やかに各々が距離を取りながらも援護できる位置について迎撃態勢を整える。

 

そんな状況の中、ただ一人部外者として今回の作戦に参加した宇津木は、一人孤独な気持ちを抱えながら、スーツの暗視装置に組み込まれている、データリンクと連動したリアルタイム・オーグメンテッド・リアリティシステム(本来光学的に観測できないステルススーツを、ネットワーク上においてリアルタイムで再現し、インターフェイスで視覚化する)によってその場に姿や状態が表示される他のメンバーの動きに注意しながら動いていた。

 

「(彼らの練度はかなり高い……いや、それだけではないな。雰囲気がどこか普通ではない。味方だと分かっていても、どこか異質だ。そう、まるで暗闇のような『そこに在って無い不気味な感じ』……でも、そんなこと気にしていられないな)」

 

緊迫した空気によって一秒が普段よりも長引く中で、巨大な何かが森の空気を揺さぶりながら接近してくるのを宇津木は感じ取る。

 

やがて震えるのは空気だけではなく木々、大地と増えていき、巨大な何かが接近するごとにその存在感を肌で、耳で感じ取れるのを認識する。

そして巨大な何かの接近開始から50秒を少し過ぎた時……状況が、動いた。

 

一行の前方100メートルほどの位置で、巨大な何かが森の木々の影から一行を覗き見るかのように立ち止まっているのを、宇津木は確認した。

 

数は三つほどだろうか、森の木々や伸びた草が日の光を遮って影を作る上、目標そのものが暗い色合いをしているせいではっきりと確認できないが、最低でも3つほどはいることを確認できた。

 

目標はそれぞれが、ガリッガリッという固い何かを擦り合わせるような音を立ており、存在を隠し立てする気があるのかないのかは分からないが、とにかく観察のような行動をとっているであろうことは確実そうであった。

 

そんな目標に対し宇津木は思考を巡らせる。目標が視覚で一行を確認しようとしているのなら、光学迷彩を起動中のステルススーツに身を包んだ一行の姿を、見通しの悪い森の中で100メートルも離れていたら発見は非常に困難なはずで、そうなると、現行の日本製ステルススーツでは軽減・攪乱しかできていない放射熱や匂いによって探知することになる。

相手の熱視覚や嗅覚がどの程度なのかは不明だが、もし万が一感知されるようなら面倒なことになりかねない。

 

どうにか相手に気づかれずにいたい……そう考えながら、緊張した感情を秘める宇津木の様子を知ってか知らずか、鈴木がスーツ側の無線機越しに話しかけてくる。

 

「相手は茂みの中からこちらを観察しているようですね。

ステルススーツの性能である程度こちらの存在は隠蔽されている筈ですが、相手はどうやらこちらの存在をなにかしら掴んでいる様子です。

敵か味方か、判断を迷っているような気配を感じます。このままやり過ごすのが一番賢明ですが、相手がそれを許さなかった場合は、躊躇なく攻撃します」

 

その鈴木の言葉に、より気を引き締めた宇津木。だがその直後、謎の相手が新たな行動を起こした。

 

―ぶわっ―

 

何かで風を喘いだような音が鳴り、木々に隠れた謎の相手の一体から何か羽のようなものが出てきたかと思うと、即座に振動を始めた。そして目標が足のようなものを駆動させ跳躍したのもつかの間、目標は高さ10メートル前後の木々よりも高い場所に移動して、空を飛翔しながら一行に向かって突撃してきたのである。

 

―明らかにこちらにとって危険な行動だ!―

 

そう全員が認識しながらも、目標の行動目的を確認できないうちは、攻撃行動を控えて隠密活動を優先すべきと判断したのは、冷静さがあったからだろうか。

目標は、その巨体どおりのパワフルさで強引に重力を振り切りながら飛翔しており、その速度はむしろゆっくりとしたまるで気球のような飛行であった。

 

そのゆらりゆらりとした飛行はしかし、確実に一行に進路が向いており、やがて一行の頭上あたりに到達すると、その場で降下する素振りを見せ始める。一行に対し強烈な体当たりが仕掛けられようとしていた。

 

「全員回避行動ッ!潰されるなッ!」

 

鈴木がスーツの無線で全員に支持を送って回避行動を取らせるのと同時に、目標が自由落下によって着地する。

 

鍛え上げた肉体の身体能力と、ステルススーツのアシストによる瞬発力で一行はそれをかわす。

そのかわした後に降り立ったそれは、そこに濃縮させた1つの『闇』を顕現させたかの如く、凶悪に君臨していた。

その『闇』を間近で垣間見た誰かは、人が持つにはすぎた代物であるあまりに矮小な脳髄にてその存在を理解する。

 

「嗚呼、これは……なんということですか」

 

別班の隊員の誰かが、その物体を見て思わず声を上げる。

 

「はあ?これは……」

「むう……」

「ウーーム」

「おいおい、冗談だろ……?」

「ugly……!!」

 

他の別班のメンバーたちも、自分たちに襲い掛かった目標の姿を確認して、各々が言葉を漏らし始める。

そんな彼らをネットワーク化された暗視装置越しに横目に見ながら、宇津木もまた、その『闇』の存在に、本能的な圧力を感じていた。

だがそれは仕方のない事かもしれない。何故なら、一行の前に姿を現した存在の姿形は、この世のものとは思えないほど、あまりにも醜く、悍ましいものだったのだから。

非現実的な状況に置かれたことで、後天的な知性や理性を超越する人間の基幹本能が覚醒していく。

 

「これは……なんて黒くて、大きくて、そして素早い『蟲』なんだ……」

 

人間の本能が、覚醒していく……

 

 

―音が、聞こえる

誰かの耳に、奴らの足音が聞こえる。

誰もの耳に、奴らの足音、仄暗い闇の底からやってくるそれの存在を知らしめるように。

かさかさ、かさかさ

かさかさ、かさかさかさかさ

かさかさ、かさかさかさかさ、かさかさ、かさかさかさかさ

かさかさ、かさかさかさかさ、かさかさ、かさかさかさかさ

かさっ

……遺伝子に刻まれた人の本能が、それを『敵』だと認識した―

 

 

……

……

……

 

 

『それ』は―

 

全てが『黒』だった。

 

―――顔。胴体。脚部。そして、雰囲気や気配までもが『黒』だと感じた。

 

 

……名前は伏せるが、おそらく読者の皆様はお察しであろう、そいつの正体を。

それは額から二本の長い触角を伸ばした、家の台所や冷蔵庫の裏に潜む、六本足の黒くて素早いあの虫の、あの地球にいるあいつの異世界版である。

 

何が異世界版かというと、大きさが尋常ではないのである。

 

存在の右側面10メートルほどに離れた位置で立ちつくす宇津木との比較でいうと、高さだけで軽く1メートル程度はあって、全長はおそらく10メートルを超えているだろう。地球上のそれと非常に酷似した形態をしていながらも、異世界のそれは明らかに地球の同種とは違った、別種の怪物であった。

 

しかしその二つに共通する部分がある。それは知性ではなく神経反射で行動するということだ。

今しがた自分が押しつぶそうとしたのに、まだ周囲にのさばっている生き物を感知して、そいつはどこに声帯がついているのか、そもそも本当に言葉として発しているのかすらも定かではないが、例のあれを呟いた。

 

―じ ょ う じ―

 

その時森の中に、なぜか突然鴉に似た野鳥の断末魔の叫び声が響き渡った。

 

 

  *   *   *

 

 

鴉に似た野鳥のギャアーッという生命の危機を体現したような耳に響く喧噪の中、一人冷静さを保っていた鈴木が真っ先に言葉を漏らした。

 

「デ カ イ」

 

その言葉に妙な違和感を感じた宇津木が、何故かはわからないが、思わず反応して突っ込んだ。

 

「何故でしょうか、デカイという言葉を聞くと、『小並感』という考えが浮かんできてしまうのですが……」

 

何やら『メタの領域』に足を突っ込んだような宇津木の突っ込みに、鈴木は気を悪くすることなく意見を返す。

 

「小並感……?気のせいですよ、きっと。世の中には、決して触れてはならない領域というものがあるんですよ」

 

鈴木の答えに、どこか釈然としない気持ちを抱えつつも、宇津木は至近に舞い降りた存在を観察して、感じたことを述べる。

 

「しかし、これはなんというか、こういうことを言うのははばかられますが、悍ましいという表現がしっくりきますね……」

「いやあ本当に大きいですね。この大きさ、力強さ。色はもしかして黒ですか?だとしたらまるで森林に君臨する昆虫の王者、そう、いわばモリムシキn」

「あの、それ以上は多分不味いことになるのでやめたほうが。というか、黒くてもカブトムシとは似ても似つかない生物ですよ、これは」

 

悪ふざけのような鈴木の危ない発言に対し、すかさず静止を入れる宇津木。

そのせいで台詞を言い切れなかった鈴木だったが、なぜか満足そうな態度を見せていた。

 

「隊長、こいつボディがツルツルピカピカに黒光りの油テラテラフォームですよ。ここはひょっとして火星かもしれません」

「いきなりなんですか貴方!?というか誰でしたっけ!?」

 

突然会話に割り込んできた別班の隊員に、不意を突かれた宇津木はすかさず突っ込む。

 

「自己紹介をしたようなしてないような記憶は定かではないですが、俺の名は『粕谷(カスヤ)』。カスタニでもカシワタニでもない、ああでも偶に入れ替わるのか?とりあえずK、A、S、U、Y、Aで綴るカスヤです。以後お見知りおきを。まあコードネームですけど」

 

粕谷という新たな人物の登場に、今一度隊員の名前を確認しようかな、と宇津木は考えていたが、そういえば謎の生物が襲い掛かってきていたのだったと考えを戦闘状態に切り替える。

 

そうして思考を切り替えると、至近距離にいる黒い『それ』が非常に恐ろしく思えてきた。

 

というか普通に恐ろしいではないか。

そう考えた宇津木の筋肉が、ほんの僅かだが強張る。

 

そうして至近で攻撃的なガリっガリッという歯ぎしりか何かの音を立てている未知の脅威を前に、少なからぬ動揺を見せている宇津木に対して、鈴木が彼を鼓舞させる言葉をかける。

 

「まあこれの正体が何かは分かりませんが、攻撃を仕掛けてくるあたり、どうやら友好的な相手ではなさそうです。

危険そうなのでとりあえず殺しましょうか!

全隊、攻撃開始!」

 

そういった矢先、サプレッサー付きM4カービンを『それ』に向けた鈴木が、フルオートモードで射撃を開始する。

ダダダダダダッ……と、サプレッサー付きゆえに音は控えめな射撃音が鳴り響くと、発射された弾丸を右頬に受けた黒いアイツはしかし、意外にも脆かった黒光りする甲殻から、硬い鉄板にハンマーを叩きつけたような甲高い音を何度も響かせながら、磨いたように滑らかで艶やかだった表面層を割れ抉られた金属のように変えた。

内部まで銃弾が届いたのか、黒いアイツは反射的に怯む。

 

「まるでブリキ缶だな。大した事ある新型とかいなければいいんだが」

 

そう言いながら一旦M-4の引き金から指を離した鈴木は、今度はM-4の銃身下に取り付けられた追加の装備品に備わっている引き金に指をかける。

 

直後、ダーン!!という発砲音とともに弾丸が発射され、それはいくつもの小片に分かれて広範囲に拡散し、黒いアイツのボディに重い衝撃を与えた。

 

 

―『M26 MASS』 (M26 Modular Accessory Shotgun System)

アメリカ軍が開発した、M-16及びM-4系列小銃用オプション・アクセサリーである。

元々『Lightweight Shotgun System』のコードネームで開発が進められていた装備であり、主に特殊部隊向けの火力増強目的装備である。

仕様される弾は対人散弾の他、対物目的のスラッグ弾、暴徒鎮圧用ゴム弾、催涙弾など、様々な弾種を状況に応じて使い分けることができ、多くの場面で活躍を見込むことができる。

今回は異世界固有の大型害獣類との交戦を想定して、急遽用意された対獣散弾が選択されている―

 

 

追加の衝撃で怯み続ける『それ』。だがしかし、『それ』は怯みながらもその生命活動を弱らせる気配が一向になく、また逃げようとする素振りも見せなかった。

一体何が『それ』を突き動かしているのかはわからないが、どうやら交戦は確実なものとなったようであった。

 

銃撃によるダメージを受けながらも、『それ』は6本ある脚部で跳躍するかのように、鈴木たちに突貫する。

 

その速度、凡そ時速60キロといったところか。

 

装甲車両の突撃に匹敵する勢いで襲いかかるそれを、鈴木たちは鍛え上げた身体能力と直観力と、ステルススーツのアシストの合わせ技で2メートル以上垂直に飛び上がって回避する。

 

鈴木たちを轢き跳ね飛ばすのに失敗した『それ』は、近くの木に突っ込んでなぎ倒して勢いを止めたが、すぐに転換してまた鈴木たちを襲撃しようとする。

更にこの騒ぎにつられたのか、他の2体の個体も飛翔しながら一行のもとに現れ、状況は3対複数という混沌としたものとなった。

 

この状況で、誰より先にまず鈴木が機先を取る。

 

「粕谷、長谷部はグレネードで奴らを攻撃しろ。他は俺と共に銃撃にて目標の動きを牽制し、2人の攻撃を援護しろ」

 

いつの間にか撃ち終えたM-4のマガジンを外して次を装填した鈴木は、粕谷とあと一人、長谷部と呼ばれた二人の部下に支持を飛ばすと、その2人以外の隊員と共に射撃行動を続行し、集結した『それら』に攻撃を当てていく。

飛翔中に羽を銃弾で打ち破かれた2体の黒いアイツらは地面に墜落しながらも、すぐさま突撃行動に入って一行を襲撃する。

 

「これでも食らいな!」

「名古屋名物、朝のゆで卵とコーヒーです」

 

墜落と同時に突撃してくる2体の黒い巨体に向かって、粕谷と長谷部がM-4の銃身下に装備されている兵装を使用する。

それは先ほど鈴木が使用したM26MASSとは別の装備で、引き金が引かれるとグレネード弾が発射された。

爆発の熱と衝撃が2体の黒い巨大甲殻蟲を包む。

 

 

―『M320 グレネードランチャー』

ドイツのヘッケラー&コッホ社の開発した40mm口径のグレネードランチャー。

様々な種類の弾薬に対応していることや弾丸の不発射時対応に強いのが特長-

 

 

粕谷と長谷部の放った2発のグレネードによって高いダメージを受けたはずの2体だったが、それでも突撃を止めることなく一行目掛けて突撃をかけていく。

それをまたも垂直跳躍でかわしていく一行。

 

「ほう、一撃では死なないらしいな。仕方がないが、各自、相手が逃げるか、息の根を止めるまで攻撃を続けろ」

 

隊長の鈴木の指示によって、一行は戦闘を続行する。

 

そして数10秒ほどが一気に経過する。それだけの時間が経過しても、未だ戦闘は続いていた。

100を超える銃弾を無防備に食らい、粕谷と長谷部による追加のグレネード弾攻撃や、各自が装備した手榴弾の攻撃を食らったのにも関わらず、3体いるうちの1体もまだ活動を停止していない。

頭は潰れ、胴体も表面はクレーターだらけになっているというのに、未だ動きを鈍らせない『それら』の怪物じみた凄まじい生命力に、宇津木はつい気圧されてしまう。

 

「うっ!……うううおおおあ……っ!?」

 

敵の予想以上の不死身さに、怯みそうになる宇津木。別班のメンバーは彼よりも態度に余裕があったが、それでも

 

「大したタフ野郎だ、まるで完全生命体や機械の抹殺者だな……」

「2029年はとっくに過ぎてるし、宇宙船の中でもないんだけどな!」

「昔ロシアのサイボーグ熊と山中でやり合ったのを思い出すなあ……チッ、まだ動けるか、タフだな」

「あの現大統領のペットか。あれは飼い主の方が強かったよな。結局両方倒せなかった、しぃっ!!ええい、いい加減怯め糞虫野郎!!」

 

などと、冗談交じりの口調を交えつつも、各自相手の無尽蔵に思えるタフネスさを前にして、手を焼いている様子を見せ始めていた。

 

「こちら粕谷!もう一発グレネードを打ち込む。これが最後だ!」

「こちら長谷部、同じく最後のグレネードで攻撃を加えるぞ」

 

何度かグレネードを打ち込んでいた粕谷、長谷部であったが、彼らの弾薬はもう尽きようとしていた。

そんな会話を聞いていた宇津木も、自分の行える行動を言葉に発した。

 

「宇津木です。最後の手榴弾で相手を攻撃します!」

 

3名の言葉に、了解、と返す別班のメンバーたち。

仲間の返事を聞いた3名は、最後の攻撃となる榴弾攻撃を、それぞれ1個体ずつ、別々の相手に食らわせていった。

 

「どうだっ!」

 

各自の最後の榴弾が爆発し、3匹の『それら』を包み込んでいく。

そしてそれが終わった時、その場に3体分の遺体が横たわっていた。

一行は『それら』を、黒くて大くて素早い完全生物を、撃破することに成功したのである。

 

「こちら鈴木、目標の沈黙を確認。しかし万が一に備えて警戒を続けろ。俺が生死を確認する」

 

隊長の鈴木が『それら』に近づいて、手を触れて生命反応を確認する。

数10秒に渡るそれを3体全てに行った鈴木は、改めて宣言する。

 

「こちら鈴木、目標はおそらく死亡した。全隊、状況終了だ」

 

その言葉に、緊張を解いた宇津木が思わず安心の言葉を漏らす。

 

「ふう……なんとか誰も犠牲にならず、無事に終わったようですね。しかしこの生物、どう見てもあの黒いアイツですね……」

 

戦いが終わったことで、じっくり相手を観察する余裕ができた宇津木は、改めて襲撃者の姿を細部に渡って見回す。

 

黒くて光沢のある全身、背中の翼、額の細長い2本の触角。

それらの特徴は、地球にも生息するとある生物のそれと一致するものであり、サイズが異常に大きいことを除けば、この生物が地球上のそれと非常に近しい生物種であることを宇津木は理解した。

 

「しかし結局こいつらは何だったのでしょうか?アムディス王国の兵器なのか、それともこの森の野生生物なのか……?」

 

宇津木は、この突如一行を襲撃した生物の正体に関して、未だ答えを見いだせていなかった。

そんな宇津木の疑問に対し、鈴木が一つの意見を提示した。

 

「人為的な制御は、おそらくですがほぼなされていないと思います。

行動が単純すぎたし、この生物が戦闘行動をしている間に、我々を観察するような気配がこの生物からも、また周囲からもほとんど感じ取れませんでした。

それよりも、自らのテリトリーに入ってきた異物に対する警戒心を強く感じました。偶然我々に襲い掛かった野生生物という可能性が高いでしょう」

 

鈴木の言葉に、宇津木はほっとした。

しかし続く鈴木の言葉は、宇津木に別の懸念を抱かせた。

 

「……もしかしたらこの世界そのものが、我々を排除しようとした、のかもしれませんね」

「この世界が……?」

 

鈴木の唐突な言葉に、宇津木は虚を突かれる。

 

「我々はこの世界において異物であり、それを排除しようとする免疫のようなものが働いたのだとするならば、このような生物が今後も現れ、日本の脅威になるかもしれません」

 

まあ冗談ですが、と最後に付け加えられた鈴木の言葉を、しかし宇津木は重く受け取り始めていた。

 

「異物、ですか、我々は……では何故我々はこの世界に来てしまったのでしょうか。神の企てか?悪魔の意思か?これが新世界の……我々が今後戦うことになるかもしれない相手……」

 

ちょっとした運命のいたずらによって地球とは全く異なる道を進んでしまった、この未知の異世界と、そんな場所に突如転移してきてしまった日本が今後進んでいくであろう行き先を、人並み程度のあまりに不完全で脆弱な知能で想像して、軽い眩暈のようものを感じた。

 

そのように心を迷わせつつある宇津木の様子を、正面から観察していた鈴木は、だからこそだろうか、彼の不安を払って諭すように、真面目に言葉を紡ぐ

 

「宇津木さん、今回の作戦では当初の想定通りに成功した部分もあれば、予想外の事態に陥ってあわや失敗という事態になりかねない部分もありました。

そのことであなたが心配する気持ちもわかります。

この未知の異世界では、おそらく地球の常識が通用しない場面が多々出てくる。

そんな状況に我々は何度も遭遇しなければならないでしょう。

だからこそ我々一人一人が、今回のように手を組んで支え合うことが大事になるでしょう。今日、この場で生き残った我々は日本の足高蜘蛛のような存在。

必要とあらばこのような害虫の退治を請け負ってでも、日本を守ります。それが我々『別班』の存在意義ですから。

だからあなた一人で悩みや不安を抱え込む必要はありません。

我々は常に、日本の未来を絶やさず、築いていくために活動しているのですから」

 

鈴木の弁舌によって、彼の胸に秘めた意外な熱を知った宇津木は、彼という人物に尊敬の念を抱き、心を許し始めていた。

 

「鈴木さん……」

 

少し親し気な気持ちを含ませながら、宇津木は鈴木に礼を述べようとした。

 

が、しかし。

 

「しかしこの大きさ、日本に持ち帰って全国の子供たちに見せたら喜ぶんじゃないですか?

とりあえず後で回収しておきましょう」

 

宇津木の心情など一切知る由もない鈴木は、雰囲気をぶち壊しにするかのような言葉を、感情が昂っている宇津木の前で平然と言い放った。

 

「貴方、なんでか知らないですけど発想がかなり最低ですね!?

無垢な子供達にこんなの見せたら、絶対トラウマになりますよ!」

 

最後の最後までマイペースを貫く鈴木に振り回されたことですっかり疲労を蓄積させた宇津木はその後、戻ったロイメル王国の王都にて手配された宿泊用の宿にまで行って、用意された部屋に入るなりばったりと倒れるようにして寝床に入ると、安心したかのようにじっくりと熟睡していたが、しばらくすると呻き声を上げながら苦しみ始めたらしい。

 

その理由を後日、本人に問いただしたところ、『現実とは思えないほどデカくて黒くて素早いアイツが大量出現して、こちらを囲みながら触手を伸ばして胴上げしてくる夢を見たから』だと、死んだ魚のような眼をして語っていたという。

 

こうして今回の事件は、黒いアイツら以外に誰も犠牲になることなく、ひっそりと幕を下ろした。

 

  *   *   *

 

これが、今回公開された事件の全容である。

地球上の生物が、他の世界にも存在した場合、それは地球と同じ姿をしているとは限らない。

この世界の『それ』のように、異常な進化を遂げている可能性があるのだ。

 

ちなみに黒いアイツは1匹見つけたら100匹程度は既に近くにいるらしい。

もし今回3匹だけじゃなくて100匹のアイツらが同時に襲い掛かってきていたら、一行は間違いなく全滅していたであろう。

もしかしてそっちのほうが読者にはよかっただろうか?(本編との矛盾?   チッ)

 

さて今回一行が遭遇したこの事件であるが、最初に記述した通りこれは政府の機密文章である。そのため口外は避けるように、くれぐれも注意願いたい。

これで今回の話は終了である。

 

なお、この資料は閲覧後自動的に消滅する(バシュッ

 




今回のお話いかがだったでしょうか。
アレ関連のネタを押し出しすぎて、出オチ感半端なかったかもしれませんが、すいませんこういう作風なんです。真面目に原作に接してる方には大変申し訳なく思います。
さて、今回のタイトルは某昆虫人間バトルアニメのOPからとっています。
聖なる物に飢えてII(ふたた)び蘇った悪魔の方々が歌っているやつですね。
他国人を悪魔と見做しているペルム教徒が本物?の悪魔を見たら、どういった反応を見せるでしょうか?

話は変わりますが、今回出てきたやつの設定です。↓

・『それ』
地球にいる額から二本の長い触角を伸ばした、家の台所や冷蔵庫の裏に潜む、六本足の黒くて素早いあの虫の、異世界巨大版。通常のそれとは異なった大型種であり、主に森の中に生息して、生きた小動物や大型動物の死体、腐葉土を常食することから、森の掃除屋や、黒いアイツなどと呼称される。

高さだけで1メートル前後にもなり、全長は10メートルを超える。
中には15メートルクラスに達する個体もいるらしい。

脳は持たないが神経系が全身にあり、頭を潰されてもそう簡単には死なないし、動きを止めない。

走行速度は時速60キロ以上。個体によっては70キロ以上。

表面が脂ぎった甲殻は硬いが、個人携行火器で損壊・貫通できないことはない程度。生体強化プラスチックといったところか?

アレ譲りの敏感な感覚器官である二本の触角を有し、電波や魔波を感知することができる。今回一行に襲い掛かったのは、それによって一行の存在を感知したため。
背部に収納式の羽を備えており、飛翔能力を持つが、重さとエネルギー効率の悪さ故に長時間飛行は得意としない。

繁殖力は、1つの卵から10匹が生まれるのを、100日つきに1つ位の間隔で、定期的に産み落とす程度。
地球にいる同類と比べると繁殖能力は控えめだが、これは進化の過程で過度の繁殖よりも、少数でも能力が高い個体がいるほうが生存率が高かったせい。

稀に人里まで下りてくることがあり、万が一家畜の味や人間の味を覚えると、その戦闘力の高さからかなりの脅威となるため、これの生息地域付近に住む人間や地域の軍などが定期的に駆除に入るが、危機を察知して逃走する能力も高いため、未だ絶滅には至っていない。

……まあざっとこんな感じです。
このサイズで繁殖力までアレ並だと、人類滅亡まったなしになてしまうから調整せざるを得ないというのは大人の事情。まあ繁殖力が高いと共食いで個体数が淘汰されるとかあるんですよきっと。

身体能力に関しても、アレの能力をそのまま数百倍数万倍に上げたわけではなく、大きい分エネルギー効率が下がって動きは鈍っています。
でなければ走るだけで人類滅亡待ったなしです。光の巨人呼んで来い案件。

因みに作中でも既述したように、定期的に軍などがこいつの個体数を減らしに出兵します。

でないと真面目に人類がやばいので。

中ノ鳥半島の方にはいません。土が合わないのかもしれない。
というか基本的に黒いあいつの大型種は、その生息地域が異世界レベルでいうとかなり少ないようです。

よくわからないけど生息条件があるらしい。アレのくせに。
ぶっちゃけ作者もこいつをあまり出したくないらしい。
そういうわけで今後もたまに出てくるかもしれませんけど、基本的には出さない方向でいきますので、虫嫌いの方もご安心ください。

・『ロシアのサイボーグ熊』
かつて別班がロシア連邦内のどっかの山の中で戦った驚異のサイバネ生体兵器。
半分生物、半分重機の100%メイド・イン・ロシア。
ロシア語で考えているのか熊語で考えているのかは不明。
ロシアの大統領(2045年時)が飼っているペットらしい。
何故別班がロシアの国内でこいつと大統領のタッグと対峙することになったのかについて、明かされる予定は今の所一切ないらしい。
なお全く関係ないが、とある日本の製薬会社にて、開発中の育毛剤が盗み出された事件があったらしい。

まあざっとこんな感じです。
今回はこんな感じでしたが、次回以降からはまた違った感じにしたほうがいいでしょうかね?
ネタは色々考えているんですけどね、出せるかどうかは今の所怪しいです。

二次創作の許可を許していただいたワイアード先生、ありがとうございます。
この作品でもしかしたらそちらにご迷惑がおかかりになるかもしれませんが、その場合責任は取らせていただきますので、どうにか温かく見守っていただけますでしょうか?

とりあえず今回はこれで以上です。ではいずれまたお会いしましょう。
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