日出づる国、異世界に転移す 非公式外伝『GW』   作:島スライスメロン

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※今回の話は2022年2月に投稿されたものです。
その後の本編の描写と矛盾などがある場合がございます。
ご了承の上お読みください。
この作品は基本ギャグ時空となっております。キャラ描写につきましては、原作作品と異なる場合がございます。くれぐれもご注意ください。
本作には独自設定が登場する場合がございますが、公式ではない点をご留意ください。


番外編:月詠月夜(ファーストコンタクト)裏面① ~ロイメルSIDE編~

※今回のお話は月詠月夜④の裏場面編です。ラーツたちが昼に目覚めてから、古橋たちが夕方に講義を受けるまでの間、話の裏側で起こっていたことを掲載いたします。

内容としては、事件の翌日にロイメル王国内部で起こったことが主題となります。日本国の出現に対してラーツや本国の政務官たちがのように事態を捉え、また向かいあうのかまでを、前回までの記述を抑えた上で記述していこうと思います。

 

※例によって今回もかなりのキャラ崩壊がありますが、あくまで非公式だと思って軽く流して頂けることを推奨いたします。

それではどうぞ。

 

  *   *   *

 

―前回のあらすじ―

禁断の地にて異世界人との接触を果たした、鹿屋航空基地第1航空群第1航空隊の面々は、元居た地球と新世界との相違点に関して、ここに古から住まい続けてきた現地の先人たち、その彼らが遥かに遡る先祖の代より長きに渡って懸命に蓄積してきた、経験からくる知識と推察により多くのことを知り、この世界に自分たちの地歩を築き上げる機会を手にした。

 

また彼らからの接触を受けたロイメル王国人達に関しても、異なる世界からの来訪者たち、その突如出現した彼らの存在によって、先人たちの代から長らく築き上げられてきた自己らの常識を、その前提となる部分から大きく覆される。

更には来訪者たちがその心の根底に抱きたる無垢なる好奇心が、自己らの世界の構造に関する素朴かつ難解なる哲学的な疑問を呈したることによって、世界には自分たちの考えも及ばぬほどの未知なる事象と、未踏の領域が存在することを理解し、大いなる変革を迎える時を目前としつつあった。

 

そして今回の話は、そんな苦労を背負い込むこととなった者たちによる、決して表に出ることのないであろう、隠された影部分の物語である。

 

 

【番外編 月詠月夜裏面① ロイメルSIDE編】

 

 

  *   *   *

 

 

【ロイメルSIDE 王都ロクサーヌ 軍務局本部】

 

〔軍務局局長 ドルメル〕

「夜更かしはお肌に悪いからあまりしたくないんだが、わかるかねラーツ団長」

 

〔ラーツ〕

「はぁ……」

 

ロイメル王国の王都ロクサーヌ内に置かれている、王国軍務局本部施設の一室で、この国の軍務局局長でありこの施設を取り仕切る政務官でもあるドルメル・ガーナンドは、第1翼龍騎士団の団長にして翼龍騎士全団の総団長を務めるラーツと対面していた。

 

時刻は昼の13時過ぎであり、数分ほど前に時刻を知らせる時計塔の鐘の音が、昼の13時を意味する5回鳴っていた。

昼13時に鐘を5回打つのは、この国では春から夏にかけては、日の出始める朝の5時頃にまずは1回日の出を知らせる鐘を打ち、その後2時間経過するごとに、打つ回数を一回ずつ増やしながらその時の時刻を知らせる為に鐘を打っていくためで、これは日没まで行われるのだが、その場合鐘の音5回は昼の13時……ロイメル王国風に言うと、鐘5回の時間になるためである。

 

なおロイメル王国の時計は、主に日時計及び月時計を利用しており、日時計は太陽の光を要するため日中の晴れた日に、月時計は月光を必要とするため夜間の晴れた日においてのみ正常に機能するため、曇りや雨など天候によっては鐘の音がならないこともある。

 

閑話休題、ドルメルは昨日の夜に行われた緊急招集政務官会議の後は、翌日の仕事に備えて自宅に帰り、何時もより遅い休養を取った。

 

そして今朝はいつもよりも遅れて出勤した上で、普段から日常的に行っている書類仕事に励んでいたのだが、正午少し前に昼食を取って少しゆったりとしていたところ、彼のもとに元々の予定にない急な要件が舞い込んできたのである。

 

それは昨日に正体不明の謎の飛行物体(無人航空機八咫烏)の姿を目撃し、その報告のために首都までやってきたラーツが、普段よりも遅い休養を終えてようやく出勤し、そして昨日の事件に関しての詳しい報告を、ロイメル王国空軍将軍カーギュ氏(45歳、半鳥人、男)や情報部の職員ケック(40歳、種族不明、男)などを交えて行いたいので、是非対面をお願いいたすという要望であった。

 

それに対しドルメルは、彼自身が昨日問題となった謎の飛行物体に対して興味を持ち、その情報を欲していたため面会の要望に対して了承を行い、施設内の自身の職務部屋に訪れるよう要件を伝えに来た部下に言いつけ、そして約束通りに職務部屋でラーツ達との面会を、これから行う予定であった。

 

そう、予定であった。

 

なんか初っ端気の抜けた台詞が飛び出しっちゃったけどな!空気を読んで真面目な雰囲気醸し出す役割は見事職務放棄されました。なんでぇ?(困惑)

 

それもこれもこの作品がギャグ小説なのが悪いのだ。作者はきっと性根が捩じれ腐れてるクソ野郎よ。誰なのよこの作品の作者って。あ、俺だ(てへっ)。

 

さて、ドルメルは困惑するラーツを置き去りにして、自分のペースで話を続ける、というか嫌味をねちねちとひねり出す。

 

〔ドルメル〕

「いや昨夜緊急の会議が行われてな。それは君が報告した例の謎の龍……つまり二ホン国からの調査隊に関して、どう扱うかということを議題にしたものなわけだが、夜分遅いのに会議を招集しなくてはならなかった重責を君は理解できるかね?

サボったら国王陛下に降格させられるだろうから仕方なく働かなければならない、重要な役職の責務という面倒事の意味を。

定時に上がって家で夕飯をとり、さあこれから家族の夜のお楽しみタイムだという時に、夜勤組の不躾な魔伝のせいでここに出向かなければならなくなって、残念がる家族を他所に出勤したら国王陛下への報告と、各政務官への通信に追われることになり、そのまま休むことなく会議に赴いて徹夜するのがどれだけ心身に堪えるのか、一介の騎士に過ぎない貴殿に理解できるかぁ?」

 

ドルメルのねちっこさはラーツの精神を逆撫でした。

 

〔ラーツ〕

「それは大変ですね。私のような若輩者には閣下の背負う重い責任などとても理解できません」

 

嫌味には嫌味を。ハンムラビ法典あたりにそんなくだりがあるかどうかは知らないが、そんなこととは無関係に言葉による嫌味の応酬が始まる(メソポタミア文明じゃないので)。

 

〔ドルメル〕

「その苦労を背負ったのは君の部隊の報告の所為なんだよ。君が騎士という役職に誠実だから、上司の私が働かないといけないではないか。こんな不条理なことを、私が黙って受け入れると思っているのかね」

 

〔ラーツ〕

「ほう、ではどうするおつもりで?」

 

ラーツの質問に、ドルメルはフフフという不敵な笑い声を漏らしつつ、ゲスっぽい満面の笑みを浮かべてこう叫んだ。

このドルメル、自信満々である。

 

〔ドルメル〕

「どうするか……いいだろう、こういうのはどうかね?

 

若い女子達との夜通しパジャマパーティーのセッティングをしてもいたいのだが宜しいか?」

 

ラーツは鼻で笑った。目上の人間に対する敬意など欠片もなしに。

その上で挑発した。挑発の言葉で返答した。

 

〔ラーツ〕

「お断りします」

 

ラーツによる挑発。効果は抜群だ。

 

〔ドルメル〕

「……うおお チクショー!!

 

チ ク シ ョ ォォぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

自身の要求を跳ね除けられたドルメルは、物凄く悔しそうにプルプルと、そう、おっ〇いプルンプルンとか言いそうな感じに悶絶したが、それを見るラーツの態度は冷ためであった。

悔しかるドルメルはラーツに詰め寄る。

 

〔ドルメル〕

「ラーツなぜだ、理由を言え!私が若い女子たちと懇意になることの何がいけないのかを!」

 

面倒くさく絡んでくるドルメルを面倒くさそうな目で見つめるラーツは、やれやれと前置きをしながら断った理由を説明する。

 

〔ラーツ〕

「だって、軍務局長をパジャマパーティーに誘ったら、

 

私が 奥 様 の 御 相 手 を し な け れ ば な ら な く な る ではないですか」

 

意外な答えにドルメルは唖然とした。

 

〔ドルメル〕

「……それの何に問題が?」

 

気の抜けたドルメルをよそに、ラーツは言葉を紡ぐ。

 

〔ラーツ〕

「どこの世界に ジ ャ イ ア ン ト オ ー ガ の メ ス に言い寄られて嬉しがる男がいるんですかね?」

 

ラーツの発言に、ドルメル、キレた。

 

〔ドルメル〕

「妻のことを悪く言うな!

 

一日中デートさせるぞ!」

 

〔ラーツ〕

「ホワオやめて!未知の扉こじ開けられちゃう!自分の知らないウブな部分覚醒させられちゃう!尻子玉がキュウリでこじ開けられてパンパンになっちゃう!そんなのイヤじゃァッ!」

 

〔ドルメル〕

「……ウゲー!(口から黄色い液体をドバドバだすドルメル)」

 

……男二人がこれだけ気持ち悪く悶絶するドルメル局長の女房とは一体何者なのか、いつか語られるかもしれない……嘘です一切語りません。何故なら出オチだから。

 

さて、結婚女性への風評被害はさておき、一しきり悪ふざけしていたドルメルとラーツに手厳しい静止の一手が繰り出された。

 

〔同行者の男(実は空軍の将軍) カーギュ〕

「ラーツ君、それとドルメル軍務局長。我々帰っていですかね?

あなた方二人の夫婦漫才に付き合っている暇はないので」

 

〔ドルメル〕

「だだだだれが同性婚カップルじゃい!ちげーし!こいつが勝手に絡んできただけだしぃ?」

 

〔ラーツ〕

「はーっ!!自分のこと棚に上げといて、その言い分説得力無ァー!こっちこそそっちが絡んできてすげー迷惑なんだわ」

 

〔ドルメル〕

「お前とはソリが合わんわ。もうお前とのコンビ解消な!」

 

〔ラーツ〕

「いいよじゃあ解散な。あーここで解散の議を行いましょうか」

 

〔ドルメル〕

「いいぜメーン!」

 

〔ラーツ〕

「よし、ではお互いの手のひらを向け合って」

 

ラーツの言葉をきっかけにお互いの手のひらを向け合った二人は、相手の手のひらを叩き合った。

 

パパパンという音が子気味よく幾度も鳴り響く。そして……

 

〔ドルメル〕

「すまない、私が愚かであった。君がパジャマパーティーを開いてくれないばかりに、つい自分の感情を抑制できずに」

 

〔ラーツ〕

「いいえ、こちらこそムキになってそちらの言い分を聞くことを忘れていたようです。

そうですね、ジャイアントオーガとの逢瀬も百歩譲る分にはセーフです」

 

〔ドルメル〕

「ではパジャマパーティーは諦めて、代わりにビンゴ大会を開こうかラーツ団長」

 

〔ラーツ〕

「景品は全てそちら持ちですよドルメル局長」

 

〔ドルメル、ラーツ〕

「「こうして二人の友情は修復し、更なる深みへと沈んでいったのだった。つづく」」

 

〔カーギュ〕

「もう満足ですかね?」

 

〔ドルメル、ラーツ〕

「「あ、はい。この報告会が終わったらさっさと家帰って寝ます」」

 

〔カーギュ〕

「……(無言無表情で言葉を聞き流す)」

 

〔ドルメル〕

「えーでは、昨日の状況を整理しようか、ラーツ団長」

 

〔ラーツ〕

「はい。では昨日私が遭遇した状況を、詳しく説明させて頂きます。まず昨日の夕方―」

先ほどの文字数稼ぎもといいらないゴミのやり取りがまるで無かったかのよう態度を一変させ、真面目な報告を行うラーツ。

ラーツの報告は、時間にしては僅か数分程度で終わった。実際ラーツが日本の航空機である無人機八咫烏を目撃したのはそれほど長い時間ではなく、それ故に報告する内容もそこまで長くしようがないのである(因みに日本国の存在に関しては、軍務局を訪れる前に空軍基地で空軍の将軍から話を聞かされた)。

 

それでも、実際に事件に対面したラーツによる日本の飛行物体に関する説明はラーツ自身の弁舌の質もあって内容が濃く、また余計な誇張などもなくて正確なものであり、ドルメルや同行した空軍の将校たちも満足のいく報告であった。

 

〔ラーツ〕

「―というわけで、私の『二ホンの飛行物体に関する報告』は以上となります。

皆さま、何かご質問などは御座いますでしょうか?」

 

さて、そうしてラーツから日本の飛行物体の実態を聞き出したドルメルたちは、少し思索した後にこう切り出してみた。

 

〔カーギュ〕

「ラーツ団長、貴方が遭遇した例の二ホンの飛行物体とのやり取りについて、確かに相手は攻撃行動などは取らなかったのだね?」

 

地球でいう南アジアあたりの地域衣装であるクルタパジャマ(パジャマと言っても寝間着ってわけではない)に酷似する、長袖と長ズボンの組み合わせながらも襟がなくゆったりとした衣装―清涼で着心地にも優れているがために、惑星の中心付近に位置していて気温も高くなりがちなドム大陸においては、実用上の理由からもごくありふれることになった伝統衣装だ―を見事に着こなして身を飾る褐色肌のカーギュが、ラーツに情報の精度に関して確認を取る。

 

〔ラーツ〕

「はい。相手は優速を活かしてこちらから距離を置きながら、同じ空域にて幾度か旋回機動を繰り返して、恐らくこちらへの様子見などをしたのちに、進路を変更して飛び去っていきました。

それは攻撃のような動作ではなかったと思います」

 

〔カーギュ〕

「そうか」

 

カーギュは、ラーツの言葉に納得をする。

次いでケックー半袖の衣装を身に着けた剛毛な人物で、金色の体毛が絡んであちこちに毛玉が発生しているのが見た目の特徴である―が質問を呈した。

 

〔情報部の職員 ケック〕

「ではその物体から、君の感覚は魔力などは感じ取れたかね?

例えば君の指摘した、奇怪な唸り声と思しき音からは」

 

さて、この世界の人間は魔法現象に囲まれている影響か、魔力を感覚で感じ取る能力を持っている。正確には、人間の体内に含まれる魔力が外部で強く励起した魔力と共鳴し、それが五感を刺激するのだ。

 

強力な火の魔力は体内の火の魔力を励起して熱を生み、水の冷気は冷却作用を、風は心臓の鼓動、血の巡りを促進させて、そして地の魔力は肉体の硬直を生み、憂鬱とした興奮、倦怠と狂気を生じさせるが故に、魔力は実在を肯定される……といえば大層なもののように思えるだろうが、実際のところは通常の生態的な活動に容易く埋没する程度に些細なものであった。

 

その要因は人という種の内包魔力の少なさに起因し、火の魔力の生み出す熱は、精神的な興奮作用に容易く上書きされ、水魔力による冷却作用や風の魔力による肉体感覚の鋭敏化、それに地の魔力による硬直作用ですらも、肉体の作用の中で容易く掻き乱されて表層化することは稀といえた。

 

それは例えば、一般人の魔力感知能力では感知範囲が良くても精々目視できる距離・範囲以内に留まり、鍛えることで漸くその範囲を少し超えられるといった程度でしかない所に現れていた。

 

故に人の魔力感覚とは、生まれつき鋭敏か、後天的な環境や行動習慣で意識して鍛え上げなければさほど用を為さないものである。

 

自己の感覚ないし知識によって、自己の肉体の状況を客観的に分析できる―そういった能力を獲得した―ものだけが、魔力の反応というものを表層意識下に言語化できるという程度の、極めて専門的な技能というのがこの世界における一般的認識である。

 

魔力感覚が主に役立つのは戦闘という状況で魔法現象に晒されやすい戦闘員であるため、大抵どこの国の武装組織でも所属員の魔力感覚に磨きをかけることは重要である。

 

さて、ラーツは武人としては極めて平凡なほどに実直で、己の能力を向上させることに真摯であった。

 

故に魔力を感じ取る感覚能力は龍騎士として恥とならない程度には洗練されているといってよい。

そのラーツが言葉を紡ぐ。

 

〔ラーツ〕

「いいえ、物体からは魔音も含めた一切の魔法の気配や魔力を感じませんでした。

或いは相手が高速すぎ、また相手の出していた奇怪な唸り声によって気が散らされたせいで上手く捕捉できなかったのかもしれませんし、若しくは敵意がないため魔力の発振が小さかったのかもしれませんが、もし仮に意図して魔力の発振を抑えられるのならば、相手の探知は非常に困難を極めます。

 

『ダークエルフ族のそれと同じように』」

 

ダークエルフ、というラーツの発した単語を聞いた空軍の将軍はそれを噛み締めるように思考に沈んだ。

 

〔カーギュ〕

「ううむ。君ほどのものがそういうからには、本当にそうなのだろうな。

ダークエルフ……優れた魔術技能によって、時には魔力の反応すらも隠してしまう優れた隠密種族。

彼らは裏社会の住人であり、情報に通じた闇の智者であり、そしてその強さの程故に多種族から、実体ある恐怖の影と畏れられる暗殺者、か……」

 

この世界では、魔力というエネルギーを用いた魔法という技術が発達しており、それは人為的なものは勿論、野生の生物や、場合によっては自然現象によっても発生し、そうであるが故にこの世界の人間を含めた生物はそれを前提とした生態なり文明なりを築き上げている。

しかし世界には、それとは真逆の方向へと向かった存在もいた。それが『ダークエルフ族』である。

 

人に比較的近しい容姿でありながらも、決定的に異なる程に長い耳を持つ褐色肌の亜人種族であり、その特性は優れた魔法技術の素質。魔力の保有量、制御量が多く、また容姿が美形に生まれ易い。奸智を重んじる種族の社会性から話術や奸計にも優れ、多種族に近づいては魅了の魔術や人を惑わせる話術、それと場合によっては性的な技で翻弄したり、或いは洗脳して手駒に変える彼らの用いる技術の中に、魔力を隠すというものがある。

 

この世界の生物は通常表層意識、無意識双方で魔力を励起し、魔波を発振している。それは魔法の行使によるものであったり、或いは体内に蓄積された魔素の作用によるものであるが、これらは何も対策をしなければそのまま周囲に影響を与え、魔力を持つものや魔法を行使したものの存在を周辺の者に気づかせてしまう。こうなると、他者を術に陥れたり或いは隠れて行動することが難しくなってしまう。つまり魔法という現象と魔力という存在は、この世界における隠密活動を困難にしているのだ。

 

しかしダークエルフは、間者を警戒するものが魔力や魔法の存在を警戒することを逆手に取ったうえで、魔力や魔法による魔波の伝播を消す特別な手段を使い、それらを?い潜る術を身に着けた。詳細は不明であるが、魔波を中和することで魔力の感知を無効化するものだとされる。そしてこの技術の存在こそが、ダークエルフが隠密として優れた種族だと評価させるものであった。

 

ラーツ達もそこに考えを及ばせて、二ホン国もダークエルフのように優れた技術を以て、魔力や魔法の存在を感知させない不思議な現象をおこしたのだろうか?と考えたが、それが何なのかは詳細が不明なため、頭の隅に留めておくことにした。

 

〔ケック〕

「ふむなるほど、そうか。

キャンプ・ガイチからの報告でも、二ホン国は我々の知る既存の魔法技術の基準では到底考えもつかぬ、非常に高度かつ奇怪さに満ちたる未知の技術を用いるらしいとの話が上がってきている。

 

今の所その正体は掴めていないが、魔法を使わずに翼龍や炎龍などに匹敵する巨大物体を翼龍以上の速度で高速飛行させるなど、その技術力はこの国を含めたドム大陸全土の既存国家を凌駕し、高度文明等のそれに相当する可能性があるらしい。

 

もしそれが事実だとするならば、二ホン国の行動が及ぼす影響は我が国内部だけでは留まらず、クドゥム藩王国やフラルカム王国などの他国も含めたドム大陸の広範囲、もしかすると大陸外にまで及びかねない可能性がある。

 

そうなれば、現在の世界情勢の均衡が変動してしまい、その影響で噂に聞く『5大列強国』等が動きだすことも……もしかしたら起こり得るのやもしれない。

世界の未来は、まさに晴れぬ霧の中に飲まれることになるだろうな」

 

〔ドルメル〕

「むぅ……」

 

それを聞いたドルメルやラーツ、空軍の将軍は思わずひやりとした。

 

現在この世界には50を超える国家が存在するが、その50国は国力によって『高度文明圏』と『低度文明圏』とに等級を大きく分別され、その扱いが明確区別されている。

 

神の神秘もまだ色濃く残る過去の時代には高度低度の明確な区別はなく、各自が国家の国力を己の尺度で判断していた時代もあったものの、人類の文明が発展するに従って世界から神秘と謎が消化され、人の神と、神の作り給いし世界に対する恐れと敬いが消え去っていくようになると、一部の国が国際交流の場で強い発言力を有するようになり、強い国と弱い国、善い国と悪い国が明確に線引きされるようになった。

 

そしてそれらはいつしか、高度低度という分類で明確に区別されるようになった。智を積んだ識者たちなどが語るところによると、それは文明と野蛮の仕分けだという。

 

そしてその仕分けが時代の進歩で更に推し進められた結果が『列強』という区分であり、その列強ですらも更に仕分けが成されて、今は特に国力の強い5つの国が5大列強国と称されている。

 

現在5大列強国に分類されるのは次に説明する5国。

 

幾つもの島々に散らばる種々多様な民族群が犇めき合って、色とりどりの群雄割拠の光景を織り成す、王なき南海の寄合所帯『バーク共和国』。

 

機械技術が奇怪に発達して、回帰するかのように空に向かって落ちていく『サヘナンティス帝国』。

 

恵まれた自然環境が国の発展と守護の双方に大きく影響を与えている、豊かで美しい『レイス王国』。

 

常軌を逸した蒸気文明に大気が淀み、大地が腐り、空が閉ざされたとて尽きることなき欲望を抱えた魔獣『ハルディーク皇国』。

 

そして……30年前に突如その存在をこの世界に顕現させ、当時存在したある2つの列強国を打ち破ることで列強国の座に就いた謎の軍団『ヴァルキア大帝国』。

 

この5つの国家が世界の国々の頂点に君臨し、世界の物事の大半を動かす強大な権限を駆使することによって世界の行く末を決定づけている。

 

かの国々からの支援によって未来の発展を約束されている未開の地域も存在すれば、逆に干渉によって衰退を余儀なくされるかつての開拓国もあり、今の所ロイメル王国のあるドム大陸まではその権限が及んでいるとは余り言い難いものの、それでもいずれの機会において干渉が強まるであろうことは自明の理であり、ドム大陸内部においては列強国の支持又は不支持における意見と立場の違いに基づいた、集団同士の諍いなども珍しくはない

 

さて、そこまで説明したうえで、何故日本の存在が5大列強国の動きを刺激することに繋がるのかというと、それはつまり日本の持つ技術力が高度であり、世界の力の均衡を崩してしまいかねないためである。

 

例えば、現在世界の多くの国では、軍事における航空戦力として翼龍や巨虫などの幻獣類が用いられている。それらは速度や輸送量の差などにおいて優劣があるものの、そのいずれもが魔法生物であり、使用すると魔法の反応が出てしまう。

 

そして魔法の反応は、現在程度文明圏にまでその使用が広まっている魔法探知機によって捉えられ、その情報が防御側や攻撃側の迎撃作戦に組み込まれて有効活用されている。

 

しかしここに、魔法の反応を出さない航空戦力が出現したとしよう。それらは魔法探知機による察知を免れて、敵の反応から迎撃準備までの時間的余裕を奪い取り、奇襲攻撃の実行を容易くしてしまう。そしてそのことは、戦闘の趨勢そのものにも影響を及ぼしかねないのだ。

 

日本の飛行物体は、高速であることもまたその価値自体は非常に高いが、それ以上に魔法反応を見せないという点において、ドム大陸周辺の地域において軍事的な脅威なのである。

 

今の所日本の動きはないようだが、それでも今後日本がその国家の活動として謎の飛行物体の使用を続けていくようであれば、自ずと目立っていくであろうことは目に見えている。そして、ふとしたきっかけで軍事行動を開始してしまえば、魔法に頼り切った現行のドム大陸やその周辺地域では、日本の行動を止められない恐れが出てくる。

そうなれば、やがて5大列強国との衝突すらも現実問題と化して、そしてドム大陸は日本と、5大列強国間の衝突に巻き込まれてしまうことも起こるかもしれないだろう。

情報部長たちの懸念とは、正しくそういったものである。

 

〔カーギュ〕

「いや、まさかそんなことは……いや、確かに相手の技術力が高度文明レベルに達している可能性はあるものの、それですぐ5大列強国というのはなあ」

 

〔ドルメル〕

「いいや、ケックの言う通りかもしれないぞ。突然現れた得体の知れない国が活動しているとなると、様子見の為に5大列強国の視察などが行われるやもしれない。

 

そしてそれを口実として大陸に干渉などということも……もしそれが純粋に協力であるのならばこちらにとっては得だが、万が一強引に『地域の治安の平定』などを名目とした軍の派遣などが行われようものならば、こちらの平穏など簡単に吹っ飛んでしまう!

そんなことは避けなければならん!」

 

ドルメルの懸念とは、即ち今回の事件を名目とした、5大列強国による大陸情勢への露骨な干渉である。

未知の国家が出現した以上、その正体を探るために各国が調査隊を派遣するであろう可能性は高い。ロイメル王国とて、日本という国の正体を探るためには、調査隊を送る必要があると事態を把握しているくらいなのだから。

しかし問題は調査にかこつけて、他にも様々なことを行うかもしれないということである。

例えば、調査隊の安全を確保するためと称して、大規模な兵員を動員してドム大陸に軍事的な活動を行うための駐留や、拠点づくりなどを行うこと。これは明らかにドム大陸の軍事活動や経済活動に影響をきたしかねないし、何よりやってきた者たちが現地の住民と諍い騒動などの衝突を起こす可能性がある。

万が一屁理屈をこねられてこちらの暴発を誘発し、それを名目として暴れられてはたまったものではない。一端の町の酒場における喧嘩騒動が、いつの間にか侵略戦争のきっかけになっていましたなどという事態は、歴史を振り返ってみれば有り得ない話ではないのだ。

そしてそうであるが故に、弱小国は大国の動きに関して、逐一察知し対応を取っていかなければならない。現実にそれは困難なことであるとしても、そういった心構えをしなければ、弱い国は強い国によってあっという間に滅ぼされて、惨めな占領を受けることとなってしまうのだ。

 

〔カーギュ〕

「とはいえ、ではどうするのか。我々が好むと好まざるとに関わらず、日本は存在するのですぞ?

それに、我々にとって当面の脅威はやはり活動を活性化しているアムディス王国です。あの国の覇権主義は、もはや傍観できる規模ではない。

現状動きのわからない日本のことを後回しにしてでも、先ずはそちらの対処に尽力すべきではないですか?」

 

〔ドルメル〕

「ぐぬぬぅっ、本当面倒臭いなっ事態が!だがまあ実際優先順位としてはアムディス王国の対処が優先的だな。

丁度良い機会だし、一旦現状について皆の報告や意見を聞かせてもらおうか。

将軍、空軍の動きについてだが、開戦への備えはどの程度整っているだろうか?」

 

〔カーギュ〕

「そうですね、対アムディス戦の準備に関しましては、現在各地に掩体壕及び野戦滑走路を増設しておりますが、いかんせん人手が足りないため設置後の設備維持が十分ではなく、実稼働には不安が残ります。

また装備に関しましても、劣化の進んでいた部隊間魔伝の更新が間に合ってなんとか全騎士団に配備できましたが、個人用携帯魔伝の配備に関しましてはその実装がまだまだです。本当なら全団員に装備させたいのですが」

 

〔ドルメル〕

「ふむ……やはりそこは厳しいか」

 

カーギュの説明に出てきた魔伝とは魔法伝令の略称であり、この世界独自の通信手段である。

 

魔石と呼ばれる魔力を多く含んだ物体間の共鳴作用を用いた通信手段であり、地球における電信に近い代物であるのだが、その精度は魔石の魔力量及びそれを使う生物の魔法技術の練度によって左右され、質の悪い魔石や技術の拙い者がこれを実行してもその情報伝達の精度は余りよくはなく、通信可能距離の短さや雑音の混じりなどが生じてしまう。

 

逆に質のいい魔石や技術の優れた者が行えば通信距離は伸び、雑音も混じりが少なくなる。

しかし魔石の質にしろ、魔術技術にしろ、そう簡単に向上できるものではない。

ことロイメル王国に関しては、質の良い魔石の確保や技術の向上がさほど進んでいないせいで、個人用の携帯型魔石どころか大型の魔伝装置ですら配備が滞っている状況である。

最も、火器導入未満の低文明圏国家にしてはどちらかというと頑張っているほうであり、ロイメル王国よりも技術はともかく物資面では比較的恵まれているだろうとされるテスタニア帝国ですらも、個人用携帯魔伝の全翼龍騎士兵士への配備などは出来ていないともされるので、ロイメル王国が一概に酷いとも言えない。

 

なお個人で扱えるほど性能が良く操作も簡単な携帯魔石、というよりも魔伝装置の大量生産に成功しているのはこの世界では列強クラス以上からになる。

 

それですらも携帯電話などの個人用無線通信端末が民間レベルまで普及した日本と比べれば、その範囲は軍や役所などの公的機関や一部の商業会社など限定的であり、『扱うのは個人でできるが、保有は個人でするわけではない』代物である。

 

……日本だって日露戦争くらい昔のころは、敵の発見を無線で知らせる為にまず島や村を渡るレベルの移動が必要だったりしたらしいのだが、この世界における低文明圏国家及び準列強、それに5大列強国でも開発の進んでいない一部田舎地域などではその程度の技術水準であると推測してもよいと思われる。

 

ピッチやらポケベルやらケータイやらスマホやらが当たり前のように身近にある環境で育ってきたナウなヤング新人類にはその辺りの感覚理解できるかな?まあ筆者もピッチは兎も角ポケベルとか見たことな(ry

 

えー2020年代の通信規格5Gの110年以上前が日露戦争だと考えると、地球の通信技術ここ100年で進歩しすぎでしょ。インターネッツ万歳。

 

えーさて、どこぞの誰かがそんな俗なことを考えているとはついも知らぬラーツ達は、至ってシリアスに事態を展開させていた。

 

〔ドルメル〕

「なんだか現状が悲しくなってくるな……まあいい。情報部のほうはどうか?」

 

〔ケック〕

「間者の炙り出しに関して、情報提供に褒賞をかけることで告発者を募っておりますが、中々有益なものはまりませんね。

ただ、少し妙な情報が上がってきましてね」

 

〔ドルメル〕

「ん?なんだ」

 

〔ケック〕

「最近王都内部の魔伝が『誤作動』を起こす事件が多発しており、またそれらの中には妙な『ノイズ』が混じっているものもあるということです」

 

〔ドルメル〕

「ふむ」

 

〔ケック〕

「我々はこれが、敵による何らかの工作、魔伝網に対する大規模攻撃で王都を混乱させることを意図したものの練習か、或いは別の意図から起こされたものではないかと推察しております。

例えば遠方に対する魔伝……国内から国外に何者かが魔波による連絡を行っており、、そのために用いる強力な魔波が、王都内の魔伝に誤作動を引き起こしているのでは?と」

 

〔ドルメル〕

「ふぅむ、そんなことが。して、その現象の調査手段は?やはり魔伝の傍受装置を使って、魔波を辿っていくものか?」

 

〔ケック〕

「そうですね。魔伝の傍受装置で怪しい通信を解析、発信源を特定しています。ですが……」

 

〔ドルメル〕

「ん?なんだ?」

 

〔ケック〕

「列強国クラスだと、従来の魔伝傍受機関での解析が困難な特殊な暗号方式を用いるという話があります。

 

万が一アムディス王国がそれに相当する特殊通信装置を持っていた場合、我々の捜索方法では内容の傍受が困難になると考えられます。

 

そして……実際アムディス王国に対して、列強国による何らかの接触が行われた可能性があるらしいのです」

 

〔ドルメル〕

「なんだと!?それはどこからの話だ?」

 

〔ケック〕

「テスタニアの港湾都市に潜入中の協力者からです。国家の特定までは出来ませんでしたが、何処かの列強国から訪れた何者かが、テスタニアを経由してアムディス王国に赴いた可能性があると」

 

〔ドルメル〕

「なに、テスタニア?大丈夫なのかね、その協力者は。

あの国はあからさまに我が国を下に見ているし、我が国に関わる人間に対して暴行を働くことを屁にすら感じないはずだ。

もし協力者だと知られれば只では……」

 

テスタニア帝国は、ドム大陸から見て北の方角側の海を越えた先に存在する国である。

15年ほど前までは先代皇帝のリウマード氏による平和的な政策によってその強大な軍事力が内に抑えられていたものの、リウマード皇帝崩御による現ベルマード皇帝への代替わりをきっかけとして危険な侵略国家へと転身、周辺国家を攻め落として支配下に収めてしまった実績を持つ。

 

現在は攻め落とした国からの収奪によって文明の発展を実現しているものの、その強引な手腕や、主要労働力たる奴隷の酷使、特に亜人種族への人権侵害も甚だしい非人道的な扱いに反発する国も少なくなく、ロイメル王国もどちらかというと反テスタニアの立場を取っている。それがテスタニア人の抱く自民族優越主義精神を逆なでして、ロイメル王国に関わる者は肩身の狭い境遇を強いられていた。

 

〔ケック〕

「そうですね、確かにあの国の人間は、我が国の人間に対しては躊躇もなく平気で酷い行いをしてきます。もし事が発覚したら、協力者は只では済まないでしょう。

しかし、実際のところ協力者が隠れる余裕があると私は睨んでおります。

何故ならあの国は今、外部からの間者で溢れた荒くれ者の天国と化しているためです」

 

〔ラーツ〕

「なんと、それは本当ですか?」

 

〔ケック〕

「現皇帝の『成り行きまかせの行き当たりばったりな』国営は、見せかけの繁栄と引き換えにあの国の内部構造に余所者の付け入る間隙を生み出しました。

 

今、あの国では富を巡る過激な競争によって国民の間では急速に格差が広がっており、今日までの成功者が翌日には路地裏で銭なしの物乞浮浪者と化していることも珍しくないようです。

 

いや浮浪者になるならまだましで、多くのものは奴隷に落ちぶれて自身を蹴落とした者たちのために尽くすことを強要されたり、また闘技場に送られて群衆の見世物となるべく戦いを強要され、最後は生存不可能な条件の戦いへと駆り出されて惨殺されてしまい、そして殺された後も獣の餌として遺骸を物のように扱われて、処分されてしまったりしまうのです。

 

そして、そんな環境に落ちぶれながらも生き延びた者の中には、自身を蹴落とした成功者への恨み妬みから、国や社会に対して復讐や反逆を狙うものも少なくありません。今はまだ毒が溜まりきっておりませんが、いずれ量が超過したこれらがかの国の脅威になることは間違いありません。

 

さて話を戻しますが、国や社会に復讐することを狙う者たちは、国内だけでなく国の外から来る闇社会の住民たち相手でも平気で協力します。その者たちが国を、社会を滅ぼすことを願っているからです。奴隷たちは奴隷同士でかばい合い、かくまい合い、そして力を蓄えていつか来る反逆の時に備えます。

 

それに気づき事前に潰そうとするものもいますが、そういう時に活躍するのが外部からの間者、協力者です。彼らは奴隷から得た情報で敵を先回り、奴隷の協力で迎撃の準備を行い、そして邪魔者を返り討ちにします。

奴隷と間者の関係は互いに得し合うものであり、これを崩すのは困難。そういうわけで、現在あの国の地下では外部からの侵略が静かに進行しているわけです。そこに我が国の付け入る隙があります。

 

テスタニア帝国軍でも精鋭と称され、裏の仕事を請け負うとされる『無(ヌル)』の存在は確かに厄介ですが、国中の奴隷を監視するほどに、彼らの数は多くはない。精々脱出してほしくない奴隷たちがいるところに集中配備されている程度です。

 

更にいうならば、あの国の事業計画にはあまりに杜撰なところがあります。かの国の社会にはより多くの労働者を用意し動かすことに権力の価値があるという風潮があるのですが、そのために本来必要な分以上の人員を不用意に動かす悪癖があり、それによって別の場面で人手が手薄になることが多々起きます。

 

その最大のものがかの国の軍事パレードであり、これは現皇帝の指示で年々兵の投入人数が増えておりますが、それによって兵力の減った地方で奴隷や、都市部の開発に人手を取られて貧困化した過疎地の民たちによる反乱が起こったことが幾度かあります。なのにかの皇帝は失敗を学習することなく幾度も同じ失敗を繰り返しているのです。これには呆れるしかありませんね。

もしあの国全土の奴隷や貧困者層が、軍事パレードに合わせて一気に反乱を起こしたら、かの国は崩壊不可避ですね」

 

〔ドルメル〕

「そこまでか。なんというか拍子抜けしてしまうな」

 

〔ケック〕

「もはやあの国にまともな理性など存在しないのでしょう。とはいえ様々な国の間諜が鬩ぎあっている毒の坩堝である以上、あの国の裏部への潜入は命がけですし、それにかの国からの刺客には一応注意しなければならないためさほど余裕はありません。

彼らに対抗するためにはダークエルフ族のような優れた隠密集団が必要であり、何としても彼らの接収を図るべきです。

なのに何故いつまで経っても政務官方はアルフヘイム神聖国に働き掛けないんですかね。

かの地ではダークエルフは厄介者としてエルフとは対立しているというではないですか。

我々が彼らを受け入れればエルフ・ダークエルフ双方からの支持が得られるでしょうに」

 

〔ドルメル〕

「うむ、それはそうだ。それはそうなんだがなぁ……

どうも我が国の人間は物事を深く考えるのが苦手な性質でな、そこら辺の政治感覚が今一身につかないのが自他共に分かる弱点なのだよなぁ。

まあ情に熱いのは個人同士付き合う上では美徳ではあるが……

 

それに、ダークエルフ族の接収と言っても、彼らが素直にそれを受け入れてくれるだろうか。

彼らは利に目ざとく、雇い主が利益を生まないと察したらあっさりと見捨てていくというぞ。

今の我が国に、彼らをとどめて置けるほどの富を生み出す手段は……」

 

南方の気質とでもいうべきか、ロイメル王国の住民は物事を論理的に詰めていくのが苦手であり、感情に任せて勢いで突っ走りがちな面がある。国の重鎮同士の話し合いでも、声を張り上げて勢いまかせに喋りがちであり、それを抑えるのもまた張り上げた勢いまかせの弁舌だというのがもっぱらの状況であった。

 

また、重鎮同士の心の距離が近く、会議が世間話の駄弁りの場になりやすくもあり、またそういった風潮もさほど強く叩かれない緩い雰囲気があって、それを正そうとすると逆に「空気が読めてない」「真面目カッコつけ」「面倒くさい」などと煙たがられる傾向にあり、この体質を改善するのには長い手間と時間がかかるだろうことが目に見えていた。

 

かくいうドルメル自身も、実際のところは堅苦しい話し合いを行うのはあまり好きではないほうである。

 

〔ドルメル〕

「せめて禁断の地で資源でも取れればよかったのだろうが、結局有益なものは何も見つからないからなぁ。

むしろ、『怪しげなもの』が見つかったせいであの地の利用がますますし難くなっってしまった」

 

〔ケック〕

「そうですねえ。かつて『神の涙』が落ちたと推測される窪んだ場所と、そこから発見された、正体不明の『謎の物質』……既存の魔鉱石のいずれとも異なる特徴を持ち……そして『祟りを齎す呪い』を帯びているとしか思えない、禍々しい経歴を持ったあの『神の涙』を」

 

〔ラーツ〕

「ああ、あれですね。私も話を聞いたことがあります。あの土地と物質に纏わる奇怪な話を……神官たちは畏れから、あれを決して呪いだなどとは称しませんが、しかしどう考えたとてあれは呪詛的な力を感じます。

そう、発見者を始め、所持者を次々に『失踪』させた、触れ得ざる異物の由来は……」

 

〔ケック〕

「そう、まさにあれは我々の理解を超えた出来事ですね、事の始まりは10年前の……」

 

ドルメルたちは、話題に出すことを憚りながらも『禁断の地』と『神の涙』に纏わるとある出来事について再整理し始めていた。

 

〔ケック〕

「200年前、我が国はあの土地の開拓のために調査団を派遣しましたが、その調査団は突如天から落下した『神の涙』によって壊滅し、その出来事を畏れた当時の神官たちや政府の重鎮によって、長らくの間かの地に立ち寄ることは法度とされた。

 

しかし10年前に再調査の話が持ち上がり、そしてその時発見されたのが神の涙が落ちたことで出来たであろう窪みと、あの謎の物質。

 

まず奇妙だったのはあの窪み。あの内部の草木は周囲よりも成長が早いのか、周辺のそれよりかなり大きく育っていた。だがしかし、その形は余りに歪。

 

表皮や茎、蔓や枝が……まるで人の形を模したかのように捩じれていたのだから。それも、まるで地獄で苦悶しているのかのような形に」

 

〔ラーツ〕

「ええ、一つの木や草に人間の顔のような模様や膨らみ、窪みが無数もあったり、枝が手足のように先端が5つの小枝に分かれていたり、影が人の形になるとか、それに木々を吹き抜ける風の音すらも、どこか人間の声のようであったとか。

『スワンプマン』、いやかの地の実情と合わせて『プラントマン』とでもいうべきものですね……単なる『パレイドリア』や『シミュラクラ』とは思えない、意図的な意思を感じます。そう、まるで当時犠牲になった調査団が現世に干渉しようとしているかのような……」

 

ケックとラーツの言葉をきっかけに、皆が息をのむ。彼らの脳裏には、人伝手に聞いたかの地の植生の形が練られていた。

 

ラーツのいうパレイドリアとかシミュラクラというのは、心理学や認識学でいうパレイドリア現象やシミュラクラ現象(類像現象)といった錯覚を指す語である。

 

例えば、∵←次のような三つの点が三角形状に並んだ図や文字を見て、人の顔のようだ、と思うことはないだろうか。何故人はそのように錯覚してしまうのだろうか?

それは脳が人の顔を三つのパーツに分割された……2つの目とその下の一つの口からなるものとして認識しているためである。

 

目と口の形状を単純化すると、凡そ円や多角形、線など、そういった境界が明確な形状に行き着く。いわばアナログのデジタル化であるが、人間の脳は3次元上に浮かぶ境界が曖昧なアナログな事物を、一旦2次元的で境界が明確なデジタルな事物として情報を単純化し、それによって正確かつ迅速な情報処理とそれに基づく判断を生み出している。

 

こと人の顔に関しては、まず社会生活を送る上で自分以外の同胞ないし敵を区別することは必須であるし、そうであれば人間を人間と認識する上でまず問題となる個体差‐人の顔は皆異なる―を除外しつつも、人間という共通の特徴を見出すためには、物理的な共通点を定めて区別する必要がある。

そのための思考論理(プログラム)が人の脳には本能としてインプットされている。

 

その上で、何故人間は壁のシミや自動車の正面、また単純な図形や文字に人の顔を見出してしまうのは、それらの事物が人の顔との共通する特徴を図らずも―場合によっては意図して仕組まれることもあるにはあるが―備えてしまったためである。

 

さてそんな理屈を踏まえたうえで、それでも人は偶然の出来事を意味のない単なる誤差として片づけ、安心することが出来ないこともある。

むしろ、この世の事物、出来事全てに意味を見出すことによって、情報の過多を齎し心の平穏から遠ざかりすらもしてみせる。

 

或いはそれは単なる乗っかかりであり、偶然生じた事物を利用して利益を生もうと目論む浅ましい狩人の罠策なのであるが、即ち人は現実を正しく認識などしない。精々が脳の都合の良いように情報を単純化して処理していくに過ぎないからこそ、得てして奇妙な事物を創造すらしてしまうのである。

 

それが『スワンプマン(泥の男)』である。

 

『スワンプマン』とは、地球においては思考実験上の事物であり、この世界においても同じものとして論じられることがある。その点で共通点があるのだが、ただ一つ地球のそれとは異なる点が存在する。

 

それは、この世界でのスワンプマンは地球上でのそれがあくまで思考実験のために作られた空想上の創作物であるのとは違って、『実在が疑われる伝説上の存在としても』その存在を追求されて語られるものでもあるということだ。

 

基本設定は地球とほぼ変わらない。即ちある男がハイキングに出かけると、途中沼の近くで落雷にあって死んでしまう。だがその落雷は男を殺傷するのと同時に、沼の中に今ちょうど落雷に打たれて死んだ男と全く同じ身体的特徴と記憶を持った泥人形を化学変化で誕生させてしまう。

 

泥人形は死んだ男と入れ替わり、ハイキングの続きを始め、そして用事を終えるとそのまま家に帰って今日あった出来事を家族に話した。家族は死んだ男と同じ外見と記憶を持つその泥人形を、それとは気づかずに死んだ男に代わって受け入れてしまう……というのが大筋の話である。

 

スワンプマンの存在が禁断の地とどう絡むのか、即ち現地の植物はかつて神の涙によって死傷した者達の複製物、スワンプマンならぬプラントマンではないか、ということである。

 

神の涙の力か、あるいは心霊的な現象によるものか、同地に生える植物が、何らかの超常的な理屈で過去の人間の存在を引き継いでいるかもしれない……この話の不気味な点はそこである。

 

この世界において、死者の蘇生術というものは現在確立されていない。ゴーレム魔法を駆使し物質を操作することができるエルフやダークエルフならば、人間の死体をフレッシュゴーレムとして操ることも理屈の上では可能であるが、それでもそれはあくまで死体という『物』を操っているだけであり、死という事象を超越して蘇らせているものではない。

 

またとある国の技術では、生物を一度仮死状態にした後覚醒させるものもあるが、それもあくまで仮死状態の強制と解除にすぎず、生物学的に明確な死を迎えた生物を蘇生させるものとは全く異なる。

 

遥か過去の神代においては、神の手による奇跡によって不死の付与や死者の再生が行われたという伝説も存在するが、今となってはもはや現実性に乏しく、神秘は幻想と消えた。

だがそれでも人は、死者の復活を信じている。それは神の奇跡として、魔法の成果として、或いは呪い、祟り、またはその何れでもない人知を超えた理解不能な現象として、死という事象がひっくり返り、遺骸が、魂いうべきものが現世に戻ってくることを願っているのだ。或いは畏れ、夢であれと拒み否定し、それを知らぬと無知に振舞って無視する。

 

それ故に、禁断の地で起こっていることは危険であった。死の超越を願うものや、死の絶対性を願うものが、彼の地の存在をいかに利用するのか。また何よりも、復活者たちが今の世界で何をするのか。復活者たちによって何が起こされるのか。

 

現状は誰も何もわからない。ただ言えることは、今更200年も過去の人間が復活したところで、もはや彼らの帰りを待つ者など居ないということだ。或いは長命の亜人種族ならば生き残っている可能性もあるが……

 

〔ケック〕

「そして謎の物質に関しては……まず、最初に異変が起こったのは発見者。

独り言が多くなったかと思うと、人の寝静まった夜深くに眠ったまま街を徘徊したり、或いは目を覚ましても一切の動きを見せなくなったりといった、精神的な異常を抱え、更に周辺にも謎の光や影が出没するなど不可思議な現象が多発するようになり、そして最後は……」

 

〔ラーツ〕

「忽然と行方をくらました、というわけですね」

 

〔ケック〕

「ええ。そして、最初の発見者がそうであったように、謎の物質を身近に置きすぎた者は次々と同じような失踪をしていった。

まるで誰かに操られたかのように」

 

〔カーギュ〕

「こう言っては何だが、やはり祟り的なものなのだろうかな?」

 

〔ケック〕

「さあ、どうなのでしょう。ただ一つ言えることは、やはりあの地には妙なものがあるだろうということですね

まあ、謎の窪み以外の場所では現状特に何事も起きてはいませんが」

 

〔カーギュ〕

「いっそのこと、あの地や謎の物質は他の国に押し付けるのがいいかもしれないな。

例えばフラルカム王国とかに。

また神の涙など落とされたらたまったものではないのだし」

 

〔ドルメル〕

「あそこは我が国からの施しなど絶対受けないからなぁ頭偏屈すぎて。

あそこの連中が『お前らの施しなんかいらねーよバーカ!』って言ってくるのが容易に想像できる」

 

〔ラーツ〕

「プッ」

 

〔ドルメル〕

「なんであいつら蛮族の方が技術力上なのか、時折分からなくなる」

 

〔ケック〕

「(蛮族度合いならロイメル王国も大概だと思いますが)」

 

〔ラーツ〕

「(フラルカムの民なんて、実家の山のほうに比べたら遥かに文明人だけど)」

 

〔カーギュ〕

「(なんか他の皆は危ういこと考えているな……)まあ禁断の地のことなどは一先ず置いておいて、対ロイメル戦への備えは以前の計画通りに進めるということで宜しいでしょうかドルメル軍務局長?」

 

〔ドルメル〕

「そうだな、取り合えず空軍に関しては掩体壕と野戦滑走路の増設を、それと情報部は引き続き間諜の炙り出しを頼む。

それはそれとして……ラーツ団長、現在騎士団の状況はどうだ?新規の騎士団員の育成や魔伝の運用は十分だろうか?」

 

〔ラーツ〕

「団員の育成に関しましては、禁断の地での訓練のおかげで従来よりもペースを上げられました。やはり住民を巻き込む危険性なく自由に訓練できることの利益は大きい。

特に火炎弾に関しては、国内だと火災の恐れがあって迂闊に森林地での訓練できなかったのが、禁断の地では制限なく実戦に近い環境で訓練できるため、団員たちの技量がぐんと上がっています。

 

それと魔伝に関しましても、旧来の物より故障が少なくなり、信頼性が増しているため部隊の分割運用が柔軟に行えるようになり、全体の戦闘力は向上を見せております。

数が同数ならば、テスタニアの翼龍部隊にだって引けは取らない自身があります」

 

〔ドルメル〕

「うむ、ならばいい。

国家間の戦争で勝敗を決するのは航空戦力の差。例え陸上の兵力で負けておっても、空戦で優位を取れば不利を覆すことは十分に可能であることは過去の歴史で証明されている。

敵が炎龍でも味方につけない限り、我が方にも抵抗の余地が十分にあるはずだ」

 

〔ラーツ〕

「万が一敵が炎龍を味方につけた場合は?」

 

〔ドルメル〕

「ハハハ!もしそうなればそうだな、全団員差し違える覚悟で徹底抗戦してくれれば御の字だろうな。

負けるとわかっていても、ならば最大限の嫌がらせを以て敵の鼻をあかしてしまわねばな、死んでも死にきれまいだろう、納税者が」

 

〔ラーツ〕

「言ってくれますな軍務局長。納税者とは斯くも傲慢な身分だろうか」

 

〔ドルメル〕

「税金と貯金で養われている身分なら、謙虚な心持で身を弁えることを覚えねばな、いずれ寝首を掻かれることになる。

 

昔の諺にあるじゃないか。『頭の下がった麦穂ほどよく育つ(※本当は『良く育った麦穂ほど頭が下がる』といい、ドルメルの表現だと物事の前後が逆になっているが、うろ覚えなのでこうなった、残念)』。

 

ん?今誰かが茶々を入れてきた気がするがまあいいか。とにかく、騎士という身分にはそれなりの責務を背負ってもらわなければな。

そうでないのなら単なるローグ(荒くれ者)として排斥せねばならなくなるぞ。

ローグならローグらしく酒場に屯して娼年漁りでもしていればいい。

それが嫌なら精々マナーを身に着けてジェントルマンに身を窶せ。

マナーが紳士を……」

 

〔ラーツ〕

「(最後のくだり、大衆活劇の真似だな。流行に流されたか。流しておこう)

言ってくれますね……いいでしょう、精々貴殿のお気に召すままに振舞って見せましょう、ドルメル・ガーランド軍務局長殿」

 

ラーツは右拳を作って自身の胸の真ん中に当てた。騎士の礼儀、初歩の初歩、敬礼の動作。地域や民族によって違いはあるが、意味するところはつまるところ共通した、相手に対する敬服と、自身への誓約。騎士たることの肯定儀式。

ラーツはドルメルのために、自身の心臓を捧げる意を示したのだ。

或いはそれは、日常的な職業上の業務としての意味合いか。

 

はてさて、ラーツに自身の振ったネタを素っ気無く流されたドルメルは、心の通じ合えない悲しみから心底悲しそうな表情を浮かべることとなった。

 

ロイメル王国は今日も愉快であった。

 

 

  *   *   *

 

 

【 王都ロクサーヌ近辺 王立魔導科学研究所所有実験場】

 

森の中のなだらかな丘の上に、芝の生えた平地が広がっていた。平地の周囲には石垣や木製の柵が平地を覆うかのように建てられており、敷地内部と外部を隔てる役割を果たしている。入り口は一か所で、王都から延びる道路との接点に木製の門が置かれている。周辺の立て看板には『部外者立ち入り禁止 この先王立魔導科学研究所所有実験場』とあり、また周辺を槍や剣を装備して巡回する監視員の存在が、部外者や野生の獣が立ち入ることをあまり歓迎しない雰囲気を醸し出している。

 

だがそんな厳つい警備で守られた敷地に近づく一台の馬車があった。この世界の馬は地球のそれと比べると非常に戦闘向きの生態を保持しており、体格が大きく筋肉もよくついており、そして牙や角、場合によっては鱗も備えている。そんな馬が引く馬車も地球のそれと比べると随分と大きくまるでバスやトラックのようであり、そんな馬車が通る道の幅も意外と大きい。日本でいうところの3車線程度の横幅が確保されているといえば、日本人には馴染みがわくだろうか。

 

その馬車が敷地の門の前で止まると、門の詰め所から監視員の男が出て馬車の持ち主を確認する。馬車の外側で馬を操る従者の身分証をまず確認し、ついで馬車内の人物の確認をとった。

 

〔監視員の男〕

「身分証を……はい。では次は符号の確認を……はい、確認できました。

『隊長』で間違いありませんね」

 

〔馬車内の男〕

「私がいない間に変わったことはなかったか?……そうか、うむ、では引き続き警戒を続けろ。

ああ、それと今の私は『リヌート・テュメル』だ。『隊長』などと呼ぶのはやめろ。迂闊だぞ」

 

〔監視員の男〕

「はっ、了解しました『テュメル卿』。扉を開けますのでお通りください」

 

監視員の男は、自身の仲間である『隊長』こと『リヌート・テュメル』を敷地内に通した。

 

〔リヌート・テュメル〕

「全く、危機感の足りないやつもいたものだ……そういうやつの出世は許しがたいな、査定は厳しくいこう」

 

さて、敷地に入ったテュメルはそのまま敷地内にある2階建ての建物の前で馬車から降りると、そのまま中に入っていった。

中には男がいて、その男にテュメルは命令をした。

 

〔テュメル〕

「今から魔伝を使う。魔力発生機関の出力を上げてくれ」

 

テュメルの命令を聞いた男は建物から出て、2階建ての建物とは別に存在する煙突のついた建物に向かった。しばらくするとその建物の煙突から吹き出ていた黒みがかった煙が、その量を増やした。

それと同時に、敷地内のなにもないはずの空間に、ある物体の輪郭が浮かび上がる。棒がまるで網のように組み合わさりながら天に向かって突き出た構造の塔が2本、そびえ建っていた。

 

塔はロイメル王国で作られたものではなく、またその使用目的もロイメル王国のためのものではなかった。外部の人間が、この国の利益に繋がらない悪しき目的のために建設したものだ。

否、塔を含めたこの敷地の全てが、ロイメル王国を含めたドム大陸を陥落させることを目的として、とある者たちが用意した悪魔の実験装置なのだ。悪意を持つ者たちが暗躍する野望の砦として、この地を偽装し利用しているのである。

 

輪郭の浮き出た塔を建物の二階の窓から見ていたテュメルは思わずといった様子で呟く。

 

〔男A〕

「しかし、いつ見てもすごいものだな擬態魔法というやつは……

自らの肉体の色を巧みに変えることで周辺の環境に溶け込む能力持った、特異生物クリスタルクラーコ(水晶烏賊)の皮を魔力で刺激してやることで、革の下の物体を周囲の風景に溶け込ませて視覚的に隠すことができる特別な魔法……

 

素材のクリスタルクラーコ自体が捕獲困難なために、製造が困難だという問題があるはずだが、それをこんな巨大な鉄塔を覆うほど集めて加工するとは……魔伝使用時には高圧魔波の干渉で若干擬態能力が落ちるのがまだ難点ではあるが、それを差し引いても大したものだ。

 

それに『私』の変装もほぼ完璧といえるほどに、本物に近づけることが出来ている。

誰もリヌート・テュメルが入れ替わっているなどとは気づくまいよ、フフフ……

 

よし、では今回の通信を始めるとするか」

 

彼はリヌート・テュメル。ロイメル王国の政務官であった本物のリヌート・テュメルと入れ替わり、彼の振りをしている偽のリヌート・テュメルである。

 

彼はとある国の間諜としてロイメル王国内で暗躍する傍ら、アムディス王国に対してもこの国の情報を提供することをだしにして協力料の賃金支払いを求めていた。

それは、いずれロイメル王国やアムディス王国などを含めたドム大陸全土を彼と彼の母国の支配下に置くため立案された、恐るべき計画に基づいた卑劣な行動であり、資金の獲得は無論のこと、ここで賃金の絡んだ取引を行うことで後にこの行為自体がアムディス王国側の『弱み』になる、ということまで計算に含ませての行動であった。

……彼は、この大陸にまだない『技術』をもってそれを可能とでき、その点でドム大陸の全ての国にとっての敵と言えた。

 

そんな彼が、ロイメル王国内部ではこの場所にのみ存在する特殊魔伝通信機を使ってアムディス王国王城の魔伝までの通信を開始する。箱型のスピーカーとこれまた箱型のマイクが備わった魔伝通信機のボタンやつまみを操作すると、スピーカーからザッザッというノイズが漏れ、機器の立ち上げを告げた。立ち上がりを確認すると次はマイクのスイッチを入れ、声を吹き込んだ。

 

〔テュメル〕

「こちらリヌート・テュメル、聞こえるかイスカンダル君……」

 

遠方にあるアムディス王国と通信するには、こちらから強力な魔波を送るための魔波発生器官と、向こうの魔波を受信するためのアンテナが必要であるだけでなく、それらを高い位置において魔波の送受信をやり易くすることも重要となる。低い位置だと魔波が障害物に遮られ易い為である。

 

そのためテュメルは通信アンテナを設置するために通信塔をこの地に設置し、またこの国の人間に察知されないように擬態魔法の発生装置を使って塔の存在を念入りに隠蔽していた。そのことが、今日までロイメル王国側の捜索を逃れることができた理由である。

今回もまた、特に何の人為的妨害もなくアムディス王国と通信を繋いだテュメルは、相手からの返答を待った。

数十秒後、通信の繋がったアムディス王国の王城からの返事がテュメル側の通信機に入伝する。

 

 

〔アムディス王国通信兵〕

「”こちらイスカンダル、リヌート・テュメルだな?

現在現地の平均風速は?”」

 

ロイメル王国の技術基準では、通信の傍受は難しいと思われるが、念のために暗号を交えて会話は成されることになっている。

イスカンダルはアムディス王国の王城、平均風速はテュメルの持っている情報のことを示す。

つまり今回提供する情報について言えということだ。

それを踏まえながら、テュメルは話した。

 

〔テュメル〕

「72、42,55、25、43,21,11,91,01,93,51,02、52,65,03,12,13,61,92,6104、32、85,63,74,12,25、13,34,12,71,03,35、04,23,63,74,12、95,12,74,93,15,13,25,23,52,83,13,14,22、51,32、04、85,13,65,13,51,33,42、83、13,12,31,94,41,32……ところで、『チーズ』の用意はできているかな?」

 

〔アムディス王国通信兵〕

「……

『チーズ』はアンドルフがそちらに運ぶ。都合のいい場所に、馬革の籠を持ってきて頂きたい」

 

〔テュメル〕

「分かった。では次回の通信だが……(省略)うむ、では今回の通信は以上だ。終了する」

 

かくしてテュメルの通信は終了した。

 

なお今回のテュメルの通信内容の暗号部‐数字の羅列‐を解除すると次のとおりである……『未知の国家現る、名を日本言うなり、場所不明、構成民族不明、ロイメル王国に有益な情報なし、注意されたし』。

他にも『チーズ』などの単語や言い回しも暗号となっているが、そのあたりの内容は賃金や物資などの受け渡しに関わるこまごまとしたものであるため今回解説は割合させていただく。

 

さてアムディス王国との通信を終えたテュメルは、だがしかし今度はまた別のところに対し魔伝を繋いでいた。

果たしてどこと通信しているのだろうか、その内容は実に怪しげであった。

 

〔テュメル〕

「『9号』だ。ロイメル王国に関してだが……ふむ、そうだ、工作はほぼ上手くいった。あとは実行に移すだけだ。

そういうわけで至急こちらに『例の実験装置』を一つ寄越して頂きたいのだが、準備は可能か?

 

なあに、『クアドラード連邦』が大陸本土で本格的に動く前にこちらのかたはつくさ。そちらはそちらでことを進めておけばいい。『レイス王国』傘下のウィルシール帝国、リルウッド王国、ローナム王国の動きはまあ気にならんでもないが、奴らの目的はあくまで自分たちの利益の範囲内での『ガルカイドニア大陸』への干渉だ。多少こちらの動きを警戒して妨害もかけてくるかもしれないが、『本国』が牽制をかければ大きくは動けないはずだ。まあ動くようであればそのままあ奴らを攻め滅ぼすまでだがね、ククク……

 

実験装置の稼働に足りない分の素材?それが丁度、ここの国の連中のおかげで確保に成功したよ。ククク、いくら奸計に秀でたとて、所詮は亜人種族。『半神兵(ヘーミテオス)』一体だけで対処できたよ。フフ、あれは中々に可愛いものではないか。制御に難こそあるが、戦闘力は従来の魔獣に勝るとも劣らん。完成の暁には世界をより深い混沌に誘うことができるだろう……そう、我々の飢え望む時の果ての『混混沌沌』の状態をな。

 

ふむ、そうか、では頼むぞ『12号』。有り得ないとは思うが、くれぐれも『テスタニア』のカスどもに嗅ぎ付かれんようにな、では……」

 

魔伝装置のスイッチを切ったテュメルは、にぃっと下品な笑みを浮かべながら誰もいない部屋の中で、独り言を漏らした。

 

〔テュメル〕

「やれやれ、ようやくこの大陸が私のものになるわけだが、しかし振り返ってみれば実に簡単な仕事だったな。アムディス王国を操りながら、同時にロイメル王国も動かす、両方をこなしながら更にテスタニアでの足場も築く。なぁになんてことはない、そう『霧の中の箱庭』と……『神霊界』双方の技術さえあればな。

 

この大陸の下等な連中は何も知ることはあるまい。世界の真の姿などは……例え私が影の玉座に君臨したとて、何も見えはしない。

 

世界とは、得てしてそうできているのだからな」

 

木の椅子の背もたれにもたれかかりながら、テュメルは笑い続けた。それは誰も見ていないし聞いていない、情報の密室であることを知るが故の余裕から来る戯れであった。

 

しかし彼の認識には穴があったことに彼自身は気づいていなかった。

 

通信機のある部屋は、テュメルの認識では密室であるはずであった。壁は音を透過させにくい素材と構造を用いていたし、窓もまた建物の二階の高さの位置にあるのだ。時折外を確認したが、建物の近くには誰もいない。そのことこそがテュメルの油断めいた安心の判断材料であった。

だがしかしテュメルの知らない。密室には『穴』が確かに存在したことを。

 

〔???〕

「……ククク、世界の真実か。だがな、だがお前は所詮、所詮『偽り』の……」

 

テュメルの知らない何かが、何も知らない彼の近くで密かに跋扈していた。

決して気づかれない何かが……

 

 

  *   *   *

 

 

【ロイメル王国 海岸の町 港町イシュメーヌ】

 

海の見えるテラスに置かれた円卓群を囲んで、男たちが飲食にふけっている。

円卓の上には、赤い陶器皿の中で煮汁のプールに浸かった魚の料理や、葉野菜や根菜の入った粥、それと水や色のついた飲み物が注がれた杯が並んでおり、それを掻き込む男たちは肌が日に焼けていて、筋肉もがっしりとついている。そんな体に走る無数の傷痕が、男たちの仕事の過酷さを示す勲章であることは一目瞭然だが、当の男たちは剣呑さなどと無縁の間の抜けた態度が表に出ており、場全体が穏やかな雰囲気を醸し出している。

 

男たちの頭上で広がる空は青く、見える海は水平線まで穏やかだ。平穏といってよい。

だが、そんな平穏さを少し崩す事態が突如起こる。

切っ掛けは猫耳のカチューシャを装着したセーラー服姿のおっさんのふとした呟きであった。

 

〔猫耳カチューシャセーラー服おじさん〕

「ん?なんか臭いな……おーいおやじ、臭ぇぞ何事だ」

 

男がテラスにいたまま、石造りの建物の中にいるこの飲食店の店主おやじに向かって問うと、カウンターを挟んだ調理台の竈で揚焼鍋を振っていたおやじが、特に反省なども見せずに男に対して言葉を返した。

 

〔飲食店のおやじ〕

「わりーわりー、料理酒にカメムシが混ざっててな、まあ焼いちまえば特に害もないんだが、調理過程でちと強烈に臭っちまった。

何時もより苦辛酸っぱいだろうが、まあいいだろ」

 

〔猫耳カチューシャセーラー服おじさん〕

「いいのか?

いやよくねえよ!しかもそれよく見たら俺が注文した煮魚じゃねーか!なにしてくれてんだおやじ!……ったく、今日はついてねえな」

 

〔男たち〕

「プププッ」

 

〔猫耳カチューシャセーラー服おじさん〕

「ん……?こらお前たち今笑ったろ?笑ったよな?それが『船長』である俺に対する態度か!」

 

〔男たち〕

「すいません船長。でも正直船長はあまり偉くないので、つい笑っちまいましたー」

「そうですすいませーん」

「反省してまーす はっはっは」

 

 

〔猫耳以下略〕

「こらーお前たち!」

 

〔男たち〕

「「はっはっは!」」

 

〔猫耳(ry〕

「全く……それが海軍の兵の態度か」

 

言葉とは裏腹に、男には怒りの雰囲気はなく、むしろ笑気に満ちていた。

 

〔おやじ〕

「やれやれ、これが我が国の海軍軍船の船長様だってんだから恐れ入るぜ」

 

〔N 略〕

「黙らっしゃい」

 

さて、そんな愉快なおっさんたちのもとに、角のついた兜を被った兵士が外からやってきた。

 

〔伝令の兵士〕

「コボ・ジャーハァン船長、カルカル総督がお呼びです」

 

兵士の呼びかけに、猫耳カチューシャセーラー服おじさんことコボは反応し返答する。

 

〔コボ〕

「こんな時間にか?いやまだ昼のうちだが」

 

〔伝令の兵士〕

「大事な話があるので総督府まで来るようにと」

 

〔コボ〕

「飯のあとでいいか?まだ料理来てないんだよ」

 

〔伝令の兵士〕

「いやあすぐに連れてくるように言われているので、今来ていただかないと……取り合えず会計して頂いても?」

 

〔コボ〕

「一品分損することになるが、カルカルのおやぶんのいうことには逆らえないな……おーいおやじ、会計」

 

コボは料理の代金として円形の硬貨をカウンターの上に置く。

 

〔店のおやじ〕

「よし、確認してやるから代わりに揚焼鍋見とけ」

 

コボは店のおやじに言われるがまま代わって揚焼鍋を見、おやじは料金を確認するとそれを服のポケットに仕舞って店を出ようとした。

 

〔店のおやじ〕

「じゃあ競馬行ってくるからあとはよろしくな」

 

〔コボ〕

「いやなんでだよ!仕事サボって消えようとすんな!」

 

 

伝令の兵士に連れられて、コボが向かったのは海軍総督府であった。

周囲を木々に囲まれた敷地内部に建つ白いレンガの建物に入ったコボは、総督室でロイメル王国海軍総督カルカル(61歳、人族、男)と対面していた。

カルカルは立派に磨き上げられた頭皮丸出しの頭をテカらせながら、コボに辞令を下す。

 

〔カルカル総督〕

「この度我が国に二ホン国からの親善大使が訪れることとなった。お前には軍船で海上の安全を確保する任務を請け負って欲しい」

 

〔コボ〕

「二ホン国?どこですか?」

 

〔カルカル〕

「大陸の東北端から更に東北に1200km先いった海上につい最近出来た人族の国らしい。

急な話だが、相手は比較的穏健な民族らしいから危険ではないと思う。

到着の時期など詳細は追って話すが、それはそれとして二ホン国の大使が来訪する前に先発隊がイシュメーヌの港の下見をするんで、それを案内する役目もやっていただきたいんだがいいか?」

 

〔コボ〕

「案内といっても何をどうするんですか?」

 

〔カルカル〕

「一旦お前の軍船に相手方の『翼龍』と『騎手』を寄越して、それから港を見せてやってほしいんだが、できるか?」

 

〔コボ〕

「そりゃあ構いませんが、となると若干船の積み荷を降ろして翼龍の余分に入るスペースを確保しないといけませんねえ。で、何騎と何人が来る予定なんですかね」

 

〔カルカル〕

「船に来るのは日本の翼龍と騎手は1騎と2人だそうだ。ただ、付き添いで二ホン国側母龍が何騎かと、あと付き添いで我が国の第8翼龍騎士団の翼龍3騎三3騎手が飛行してくるとは言っている。母龍のほうは船に降りないらしいので4騎4騎手分の余裕が欲しい。

注意点があるんだが、二ホン国の翼龍は我が国のそれとはかなり異なる外見をしているのでこちらを驚かせる可能性があるが、あまり意識しないようにと」

 

〔コボ〕

「ふぅむ、まあどうにかなるでしょう……二ホン国、果たしてどのような国なのか、あんまり粗暴なやつらでないといいんですが」

 

斯くして日本国と接触することとなったロイメル王国海軍所属コボ。彼と彼の船が一体如何なる運命に晒されるのか、それが明かされる日はもうすぐそこまで迫っていた。

 

 

  *   *   *

 

 

番外編 月詠月夜裏面① 終




上、番外編その2でした。前回から半年ほど空いてしまいましたが、執筆がこんなに遅れたのは別にリアルが忙しいとかではなく単にネタがひねり出せなかっただけだったりするので、大体筆者の作家力不足が原因です。この事は反省しておりますし前回の続きを気にしていた読者の方には大変申し訳なく思っております。御免なされ給うれ。

次は現エピソードの本編を投下することになると思いますが、これもまた現段階だと何も書けてなかったりします。プロットがメルトダウンを極めてコンクリが真っ白に燃え尽きた、あしたのジョー状態だがどうなるんだこれ?残骸をかき集めて高速増殖炉にぶち込んだら再利用できるようになるかもしれませんが、うーんどう加工しよう。

あ、2022年明けましておめでとうございます。今年は良い年であることを願ってます。バレンタインチョコ母ちゃんしかくれなかったけど(ありがとう母ちゃん)。


今回の設定↓

・魔力の感知について
この世界の人間は魔法現象に囲まれている影響か、魔力を感覚で感じ取る能力を持っている。正確には、人間の体内に含まれる魔力が外部で強く励起した魔力と共鳴し、それが五感を刺激することで魔力を感知することができる。

例として、強力な火の魔力は体内の火の魔力を励起して熱を生み、水の冷気は冷却作用を、風は心臓の鼓動、血の巡りを促進させて、そして地の魔力は肉体の硬直を生み、憂鬱とした興奮、倦怠と狂気を生じさせる。故に、魔力というエネルギーの流れと場はその実在を主観的に肯定される……といえば大層なもののように思えるだろうが、実際のところは通常の生態的な活動に容易く埋没する程度に些細なものである。

その要因は人という種の内包魔力の少なさに起因し、火の魔力の生み出す熱は、精神的な興奮作用に容易く上書きされ、水魔力による冷却作用や風の魔力による肉体感覚の鋭敏化、それに地の魔力による硬直作用ですらも、肉体の作用の中で容易く掻き乱されて表層化することは稀となっている。

それは例えば、一般人の魔力感知能力では感知範囲が良くても精々目視できる程度の距離・範囲以内に留まり、鍛えることで漸くその範囲を少し超えられるといった程度でしかない所に現れるのだが、そうであるが故に人の魔力感覚とは、生まれつき鋭敏か、後天的な環境や行動習慣で意識して鍛え上げなければさほど用を為さないものである。

自己の感覚ないし知識によって、自己の肉体の状況を客観的に分析できる―そういった能力を獲得した―ものだけが、魔力の反応というものを表層意識下に言語化できるという程度の、極めて専門的な技能というのがこの世界における一般的認識である。

魔力感覚が主に役立つのは戦闘という状況で魔法現象に晒されやすい戦闘員であるため、大抵どこの国の武装組織でも所属員の魔力感覚に磨きをかけることは重要である。

魔力感覚を磨き上げる具体的な方法としては、主に『瞑想』などが上げられる。余計な思考を排し、肉体の自然体の状態を保つこと―呼吸と脈拍を整えること―で脳の思考能力を物理的に安定させ、感覚の麻痺を回避することは、感覚を育てるうえで実に有効である。
ただし、瞑想単独による訓練で感覚を養うことはその早熟度合いや効果に個人差があり、これを補うために文化的技術や儀式による精神への干渉や、薬学的な肉体への干渉も重要となる。故に古来より戦士は武芸を磨き、呪文を唱え、楽器を奏で歌を口ずさみながら戦の作法という形式をなぞり、酒を煽り飲み狼煙や煙草をふかしながら踊り狂って士気を高めるのである。

・『スワンプマン/プラントマン』
『スワンプマン』とは、何らかの自然現象で生み出された人間の複製ないし、そのような人間が発生する現象のこと。
そもそも例えある人物と全く同じ性質を持った物質が、その人物の行動や意思とは無関係な起源で発生したとして、そこに時間の連続性‐ある物質に流れる意識の連続性‐が無ければ、それは複製ではなく別個の存在であるはずである。天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンドが、その生成過程から別個のものであるように。或いは個々の工業製品が製造番号で仕切られるようにも。

即ちスワンプマンとは、それを観測する他者の意識内部にしか存在しえない事象と言える。全く異なる起源で発生した事象に対し、時空間を超えた関連性を見出すことに価値を見出すのは視点の相対性によるアポフェニアでしかないのである。

さて、ではスワンプマンの問題点とは何か。それは即ち性質の同一性である。とある人物と同じ能力、同じ思考、同じ行動を行う存在が、とある人物となり替わりで登場した場合、果たして他者はそこに個体としての個性を見出し、区別することができるだろうか。人間の思考は時として非倫理的であり、合理的ではない。例えば死刑囚の男がいたとして、されどもその男のスワンプマンが発生した場合に、他者はこのスワンプマンを処刑する権利を持ち得るのか、或いは逆にスワンプマンが罪を犯した場合に、以前より存在したオリジナルを裁きえるのだろうか。また、殺人鬼に殺害された被害者のスワンプマンが発生した場合に、スワンプマンの手で殺人鬼を裁いてもよいのか。

禁断の地に発生した『プラントマン』‐人の肉体形状を模ったかのような、奇怪な植生群‐が果たしてそこで亡くなった者たちの複製として発生したのか、それとも単なる錯覚なのかは不明であるが、不気味な存在・現象であるとしてロイメル王国の人々は畏れている。

・謎の物質
禁断の地の窪みから見つかったもの。
この物質を身近に置いていると、次第に独り言が多くなったり、人の寝静まった夜深くに眠ったまま街を徘徊したり、或いは目を覚ましても一切の動きを見せなくなったりといった、精神的な異常を抱えるようになるとされる。
更に周辺にも謎の光や影が出没するなど不可思議な現象が多発するようになるらしく、これらのことと関係あるのかは不明であるが、最終的には失踪してしまうとされる。
一体この物質の正体は何であるのか、今のところ詳細は不明。
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