日出づる国、異世界に転移す 非公式外伝『GW』   作:島スライスメロン

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※今回の話は2020年8月に投稿されたものです。
その後の本編の描写と矛盾などがある場合がございます。ご了承の上お読みください。
残酷な描写があります。苦手な方は読まないことをお勧めしいたします。
この作品はギャグ時空につき、キャラ描写につきましては原作作品と異なる場合がございます。ご注意ください。
ではどうそ。

※2020年9月5日、台詞の一部を改訂いたしました。


第2話 陰謀者たちの事件簿その1 カーネギー公暗殺未遂事件①

これは、偶然居合わせた名探偵のような何かに謎(陰謀)を暴かれてしまった陰謀者たちの、緻密な計画と実行の記録である。

 

「さて、何から話そうか……」

 

 

 

【シリーズ『陰謀者たちの事件簿』その1 カーネギー公暗殺未遂事件①】

 

 

 

  *   *   *

 

 

『カーネギー公暗殺未遂事件』……!!

ベルマード皇帝亡き後のテスタニア帝国で政治改革を始めようとするカーネギー・ルガー公が、それを阻止しようとする弟のロスキーニョ・ルガー侯爵奴隷長官に襲撃を受け、危うく落命しかけた事件である。

兄を殺害し、日本にまで魔の手を伸ばそうとしたロスキーニョであったが、事件は彼の思いもよらぬ展開へと発展していく……

 

 

  *   *   *

 

 

かつて第1世界において、多くの使役奴隷によってその栄光と繁栄を得ていた狂気の帝国テスタニア。

そのテスタニアにおいて、国家の狂気を体現していた狂皇帝ベルマード・サルゥ・ミルガンドの側近として名を馳せた男がいた。

その人物とは、テスタニア奴隷管理長官ロスキーニョ・ルガー侯爵その人である。

かの名候カーネギー・ルガーを兄に持つこの男はしかし、その性質がカーネギーとは全く正反対にあり、異常な野心と支配欲を抱いた陰謀者であった。

ベルマード皇帝の側近として、国内貴族にも国外貴族にも顔が利く彼は、その地位を利用して多くの悪事を成し、自らの懐を膨らませてきた。

だがしかしその裏には、誰にも知られることのない苦労の数々があったのである。

 

 

  *   *   *

 

 

テスタニア帝国帝都ロドム。

 

帝国内部の都市でも一際発展しているそこでは、朝早くから多くの人々が石造りの絢爛な商店や飲食店や、簡易なテントの露天市場、それに街のあちこちに憩いの場として築かれたベンチや噴水などの公共施設に多くの人々が行きかっており、非常に活気がある……ように見えて、その所々から、無理やりここに連行・誘拐されてきて、反抗を許されないまま市民たちに酷使されている、哀しき奴隷たちの苦悶する声が街中に響き渡っており、その活気を上書きしていた。

 

しかしその荒涼とした風景は、この国では至極当たり前の平穏な日常に属し、市民の誰も疑問を抱かない……いや、現皇帝ベルマードの冷酷無慈悲なる治世の下、奴隷に対する同情や哀れみの情や、それに端を発する現政権への反感を『抱けない』―現政権への批判は即座に処刑の対象となり、また批判と言えないような進言ですらも、それが皇帝の機嫌を少しでも損ねるものであるのならば容赦なく拘束され、囚人として強制労働や、闘技場(コロシアム)で行われる残酷な見世物試合への出場という形で、肉体と精神を共に使い潰される―ようになっており、それはこの国を現在進行形で蝕んでいる『狂気』という名の病であるといえた。

 

そんな砂上の楼閣のような、儚く脆い幻想の郷と化している空虚な帝都の中心に聳え立ってるのは、この国の見せかけの繁栄と実体としての荒廃を体現したような、石造りの巨大かつ広大な建物である。それこそがこの帝都ロドムだけでなく、テスタニア帝国そのものの象徴ともいえる皇城である。

 

それは帝国の長い歴史の中で幾度も改築と改装が繰り広げられており、現皇帝の君臨以前、今から凡そ10数年前の先代皇帝リウマード・サルゥ・ミルガンドの治世下であった頃は、見る者に威圧感を与えることのないようにという皇帝の意向により、全体が橙色と黄色の暖色2色で塗られ、見る者に安心と活力を与えていたのだが、現ベルマード政権が発足してからは、彼の嗜好に合わせて血のような赤黒い色に上書きされており、以前の城が持ち得ていた、それを見るものに対する精神面での配慮が尽く消え失せていた。

 

そんな皇城の廊下などに備わった、この国の特産物である魔鉱石を加工して作られている特製の大窓からも窺うことができる、現帝都の凄惨な風景を横目にしながらも、それに特に気に留めることもなく涼し気な様子で闊歩するのは、この国の奴隷を取り仕切っている奴隷長官の役職かつ、現ベルマード皇帝の側近役筆頭を務めているロスキーニョである。

 

現帝国の惨たらしい姿をベルマード皇帝と共に作り出している彼は、朝早くからベルマード皇帝に呼び出されており、謁見の間まで足を運んでいた。

狂皇帝の側近として数々の悪政に手を貸している彼は、今日はどのような用件を任されるのかと、職務に関して思考を巡らせていた。

 

謁見の間に辿り着くと、既に玉座に座していたベルマード皇帝が、いつも通りに背後に裸にひん剥いた様々な種族の女性奴隷たちを侍らせながら、足を左右に組んで右頬を拳を作った右手で支えている太々しい態度で、傅くロスキーニョに対し命令を下した。

 

「おいロスキーニョ、お前、炎龍捕まえて来い」

 

「は?」

 

皇帝の言葉に、一瞬思考が停止する。

炎龍?炎龍という言葉が聞こえた気がするが、気のせいかな~?と、ロスキーニョは思わず動揺する。

 

「だから炎龍だよ。必要だから今から炎龍を捕まえに行ってこい」

 

だがそんなロスキーニョを前にしつつも、ベルマード皇帝は先ほどの言葉を押すようにして、再度言った。

 

あ、やっぱり間違いじゃねーんだなと理解したロスキーニョは、しかし状況が全く理解できないため、皇帝に言葉を聞きなおした。

 

「炎龍?炎龍というと、あの炎龍ですか?」

「そうだ」

 

それを聞いたロスキーニョは、やれやれ面倒なことになったぞと、心の中で頭を抱えた。

 

―『炎龍』―

それはこの世界の生態系の上位に君臨する『龍』と呼ばれる生物種の中でも、一際突き抜けた凶暴性を備えた、生きる戦闘兵器である。

 

大きさは凡そ全長20メートル前後、一般的な航空戦闘用翼龍の2倍強であり、質量は火山地帯に生息し、その場の物質を取り込んでいることから比重が重く、上記の航空戦闘用翼龍の15倍程度になる(一立方メートルあたりの比重は1.3倍ほど)。

 

それでいて水平飛行速度は翼龍の3倍超……一般的な翼龍が時速150キロ前後は叩き出せることから、少なくとも時速450キロ程度の速度で飛行できるとされており、戦力換算にして一頭で龍船30隻分以上に相当する戦闘力を有する。それは30頭で一個団を編成するテスタニア翼龍部隊の、10個団分以上に相当する。

 

そんな強力な炎龍であるが、一般的に人間が飼いならして使役している地龍や翼龍、母龍、闘龍などと比べると、戦闘力においては非常に優れる反面、他者からの支配に抗う本能的な凶暴さからその制御は大変に困難であり、『炎龍を操る者は世界を制する』という言葉が民草の間で広く知れ渡っているほどに、その飼育管理は困難なのである。

 

無論その捕獲自体も非常に難易度が高く、通常火山地帯に生息している炎龍に近づくだけでも大変危険が伴うのである

 

この世界の歴史上、『炎龍』を戦争の道具として利用できた国は存在しない…『炎龍』を倒す事は高度文明国家…いや5大列強国でも不可能と言われている。

 

この世界の歴史上、『炎龍』を戦争の道具として利用できた国は存在しない…『炎龍』を倒す事は高度文明国家…いや5大列強国でも不可能と言われている。

 

大事なことなので二回書きました☆

まあメタ的には後々覆されるんですけどね!大人の事情ってやつはつくづくおそろしいね☆(小並感)。

 

 

さてそんな炎龍を、ロスキーニョを前にして不敵な笑みを浮かべるベルマード皇帝は、捕獲して来いというのである。

 

いったい何の気まぐれで、炎龍などを捕獲せねばならないのか、ロスキーニョは阿保面かました目の前の皇帝にどう問いただそうか思案する。

 

皇帝は、そんな至極当たり前の反応を示すロスキーニョを見ながらも、しかしその「愚劣」さ故にそれに気づかず、言葉を続けた。

 

「当たり前だろう、馬鹿か?お前は。

我が国の世界覇権の為に炎龍を捕まえてくるんだよ。

できなければコロシアム行きだからな?」

 

現在、テスタニア帝国は5大列強国のうちの一つであるハルディーク皇国から、『魔獣』と呼ばれる人工生物兵器を輸入している。

 

それらは制御不能であるという根本的な問題を抱えつつも、その並外れた戦闘力の高さから、テスタニア帝国の軍事的切り札としてその活躍を見込まれているが、その切り札の補填を他国に依存している状況というのは、非常に心もとない。

恐らくベルマード皇帝もそれを見越して、自力である程度は戦力を揃えておきたいとでも考えているのだろう。

 

だが曲がりなりにも自身に従う忠臣に対して、平然と切り捨てをちらつかせるベルマード皇帝の様子を見て、ロスキーニョは嫌な上司の相手は面倒くさいと密かに思いながらも、なんとか気を返させて命令を撤回させるべく舌を回す。

 

「え?はあ~あの皇帝陛下、一体何の冗談でしょうか?何故奴隷長官の私が、炎龍捕獲の任などを……?何かのお遊びでしょうか?友人方からなにを唆されたのかは存じ上げませんが、どうかお考え直してください」

 

私は陛下が馬鹿ではないことをご存じですぞと、ロスキーニョはベルマード皇帝に通じるように言葉を選んで嘆願した。

しかし無慈悲なベルマード皇帝は、思慮に富んだ部下の言葉をにべもなく聞き流し、再度自身の意見を押し上げる。

 

「ロスキーニョ、これは冗談でも遊びでもない。お前は私のために炎龍を捕獲してくるのだ。この命令に変更はない。では早速行って参れ」

 

そういって玉座から立ち上がったベルマード皇帝は、奴隷たちを従えて謁見の間を出ていった。

謁見の間に一人残されたロスキーニョは、座るものがいない豪華絢爛な玉座を見つめながら、心の中で大きな叫び声を上げた。

 

「(何でだよ!!……こ、この阿保皇帝がァ~ッ!!)」

 

心の中で精いっぱいにベルマード皇帝に悪態をつくロスキーニョ。

だがしかし、それで状況が覆ることは一切なく、かくして彼の炎龍捕獲任務が始まることとなった。

 

 

  *   *   *

 

 

―1週間後―

 

「ここが炎龍の巣か。耐熱魔法がかかった装備のおかげで熱さが和らいでいるとはいえ、凄まじい熱気だな……」

 

銀色の甲冑の上から、耐熱性の繊維を編み込んだ上で魔法を付与した魔導耐熱ローブを纏ったロスキーニョが、過酷な環境を見て思わず言葉を漏らした。

煮えたぎる溶岩から煙が立ち上る火山……ここはテスタニア帝国内にある『ヘトヴィヒ火山』である。

 

気温が地球単位換算で摂氏50度を超える過酷な環境の中を、魔道具である耐熱装備に身を包んだ地上兵士たちが、地球でいうところの鳥脚類、恐竜イグアノドンに似た、四足歩行の地龍と共に行進する。

 

その地龍の大きさは、地球でいうところのサラブレッドと同じ程度の大きさであり、この世界の龍の中ではさほど大きいものではないが、人間が扱いやすいことと熱さに強かったことから今回の炎龍捕獲作戦に用いることが決まり、主に人の移動や物資運びに利用されている。

ロスキーニョも地龍にまたがって、疲労を抑えながら移動している。

 

上空を見上げると自軍の戦闘用翼龍が地上の環境などどこ吹く風といった様子で飛んでいる。

 

何故一行の将であるロスキーニョがそれに騎乗しないのかというと、テスタニア帝国の翼龍はその飼育方法上、目の前の生き物は何でも食べる習性があり、捕食を避ける手段を知らない素人が迂闊に近づくとそのまま捕食されてしまうからである。

 

普段戦闘用翼竜に触れる機会の少ないロスキーニョでは、捕食を避けて騎乗することは難しかった。

そんな理由で地龍を操ることとなったロスキーニョの横で、副官が彼に意見を進言する。

 

「侯爵閣下!この過酷な環境では、兵たちの士気も体力もあまり長くもちません!

急いで炎龍を捕獲しなければ、帰還することすらもできなくなります」

「う、うむ分かった。偵察兵、直ちに炎龍を捜索せよ」

 

なぜか自ら兵数1000を数えるの軍を率いることになったロスキーニョは、副官の言葉に勧められて、急いで航空偵察兵及び地上偵察兵を出し、炎龍捕獲に備える。

その後一時間もかからずに、偵察兵が帰還して炎龍発見の報告を持ってくる。

 

「現在炎龍は火口付近にて睡眠中。攻撃のチャンスはあるかと思われます」

「よ、よーしでは全軍進軍開始!目標は火口付近の炎龍!生け捕りを優先せよ!」

 

そうしてロスキーニョたちの軍は、偵察兵の誘導のもとに火口付近まで登り、火口付近にて眠りについてる炎龍の姿を瞳に収めた。

 

「これが炎龍か……翼龍と比べ、なんと強大なことか……」

 

炎龍は、一般的な翼龍が全身緑色の丸禿頭という姿をしているのに対し、全身が赤熱化した岩や木炭といったような、明るい赤色をしている。

 

頭は非常に大きく、人間程度は丸のみにできるのは勿論、爪先から肩までの高さが170センチほどで、鼻先から尻尾の先までが4メートルもある騎乗地龍ですら一口で呑み込めてしまえそうな口を備えている。

 

更に、その額に通常の翼龍には付いていない1本の角がそそり立っており、その角は反れた片刃の刃物のような形状をしている。

 

そんな頭部を支える首は、太く短い。

 

また手足の四肢に加えて、飛行用の翼肢を備えており、空を飛びながらも物を掴むことができると思われる。その6肢に備わる爪は太くて鋭く、まるで牛の角のようである。

 

そんな炎龍の恐ろしくも畏敬の念を呼び起こさせる容貌を見て、ロスキーニョは少年心を思い出して気分を高揚させるのと、大人としての警戒心とが同時に脳裏に渦巻いていく。

 

しかし彼個人がそうなっているのとは別に、捕獲隊全体では炎龍の存在に臆していた。

 

訓練された兵たちは、だがしかし炎龍という未知の相手を前に緊張を表に出し、使役獣たちは震えながら恐怖を露わにしている。

ロスキーニョはそんな一行に、一旦隊を落ち着かせよ、と命令を発し、兵と使役獣たちを落ち着かせる。

 

そうして兵と使役獣がなんとか落ち着きと安心を取り戻すと、密かに興奮しているロスキーニョは、一行に巨大な鎖を用意させる。

 

炎龍を拘束するために用意された特製のそれは、一応高熱にも耐えられるように加工されていて、万が一炎龍が高威力の火炎ブレスを放射しても、ある程度耐えられるようになっているらしい。

 

真偽のほどは不明であるが、製作者の言葉を信じて眠っている炎龍に近づくロスキーニョ達炎龍捕獲隊一行。

 

彼らはとりあえず30名ほどを先に行かせて、鎖で身を縛ろうとする。

そうしてなんとか炎龍の足元まで近づいた捕縛部隊たち。

彼らはすぐさま鎖で炎龍を縛り上げようとした。

が、その時

 

ぱちり。

 

炎龍の巨大な黒い目が見開き、ロスキーニョ達炎龍捕獲隊を捉えた。

その様子に警戒する一同。

 

「侯爵!味方の犠牲が出ます!ここは一旦退避を!」

 

副官がそう言った刹那、炎龍の足元にいた30名の兵士が、炎龍の口から放射された高圧高温の火炎のブレスで軽く薙ぎ払われてしまった。

 

兵士たちは耐熱ローブやフード、マントに加えて、耐熱皮鎧、耐熱盾で身を守っていたが、炎龍が体内にため込んでいる魔力を、これまた体内に溜め込んでいる金属分子と有機化合物質と結合させることで発生する粘性発炎物質を、圧縮した高温高圧空気にて体外に放射する、ハイパー・ブレスと呼称される炎龍の生態魔法攻撃の前では、それを用いる者の期待に足るほどの効力を発揮しえなかった。

 

アフターバーナ―で強化されたジェット流のような強烈な衝撃を最初に伴うそれは、まず耐熱性を備える装備ごと兵士の身体を圧迫して、皮膚、筋肉、骨、内臓の順番で肉体にダメージを与える。それだけでも兵士の戦闘力や生命を奪うのには十分な威力があるといえる。

 

だが、ハイパー・ブレスの効果はそれだけで終わりではない。炎龍の放出するその魔法には、物質を腐食させる作用もあり、装備ごとひしゃげた兵士たちの全身をその特性により溶かしながら、高熱で炎上させて焼き尽くすという念が入った潰し方が行われ、その結果、その場には耐熱装備だったものの残骸がその形状を大きく変形させた状態で僅かに残るだけとなり、30名の兵士たちの痕跡は殆ど残らなかった。

 

僅かな沈黙の後、炎龍が目覚めの雄叫びを咆哮する。

 

 

―ギャオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!―

 

 

その咆哮を受けて、炎龍捕獲隊の動きは統制を失い。大いに乱れ始める。

 

「ギャーーーースッ!!!!」

「う、うわあーーっ!」

「こ、侯爵!ご指示を!」

「(……うわあすごいなあ。ひととしえきじゅうがごみのようだあ)」

 

暴れる炎龍と、取り乱す兵と使役獣いう現実を前につい心が屈してしまったが、それだとあまりに危険なので、なんとか気を取り直したロスキーニョは、とりあえず指示を飛ばす。

 

「と、とにかく落ち着けお前たち!炎龍に睡眠魔法具を使え!もう一度眠らせて鎖で縛るぞ!」

 

そうして兵と使役獣を落ち着かせつつ、中和剤接種!の一言で自身とその配下の兵たちは、瓶に入った『中和剤』という液体を飲み下し、それに次いで、兵隊総がかりで大笛型―地球でいうところの、スイス辺りの地方で民謡楽器として使われているアルプホルンというものに形が酷似している―魔道具から、睡眠魔法(眠りを促す指向性音波及び気体の合わせ技。中和剤の体内接種にて対処可能)を発生させ、暴れ回るどうにか炎龍を眠らせようと奮闘する。

 

大笛型魔道具は、使用者の呼気によって内部に組み込まれた魔鉱石仕掛けが働くようになっており、そのため使用者には強い肺活力が求められる。

この魔道具を扱うのに必要なのは、知力でも技術力でもない。ただ純粋に肉体に宿る鍛え上げられた―

 

「(フィジカルッ!……魔法使うのって、意外とフィジカルッ……!!)」

 

―フィジカル(物理力)である。

さて、そうして肉体から絞り出したフィジカル・パワーを全力で駆使して、炎龍に睡眠魔法をかけ続けるロスキーニョ。

 

炎龍の肺活量から放たれるブレと、人間の肺活量から放たれる睡眠魔法のフィジカル対決が始まり、ロスキーニョは必至で抵抗する。

 

大笛型睡眠魔法具はその仕様上、音波と気体が相手に到達しなければ効力を発揮しえないが、その有効範囲は凡そ50~100メートル程度。

 

使い手の肺活量で左右されるそれは、意外にも稀有な肺活量を有していたロスキーニョは、炎龍から80メートル程度の距離から睡眠魔法を発動するが、その距離は炎龍のブレスの有効射程(最大200メートル)から言うと、全く安全な距離ではなかった。

 

炎龍はそんな彼に視線を合わせ、ハイパー・ブレスを発射する態勢に入る。

息を大きく吸い込んで体内に圧縮し、体内の金属分子と特殊な可燃性有機化合物、それに魔力が結合した粘性発炎物質を放射せんと、炎龍が牛の角のような牙が2列に並んだ大口をあんぐりと開ける。

 

「(あ、終わった)」

 

死を間近にすることで、これまでの人生が走馬灯のように脳裏をよぎっていくロスキーニョ。

 

―――

 

……まず思い出したのは幼少の頃、まだ彼と兄カーネギーが純粋に兄弟として慣れ親しみがあった、今となっては遥か過去の時代。

その時は、実家で父と母、兄と自分、職業奴隷(自ら志願して奴隷になった者)の召使い数10名が、帝都ロドムの中心部にある公爵家屋敷で暮らしていた。

家長である父は、厳しいながらも優しい人物であり、兄弟はそんな父と、母の愛情を受けてすくすくと育っていた。

しかし、ロスキーニョには人には言えない悩みがあった。彼は兄カーネギーと比べて、勉強、礼儀作法、その他様々な習い事や、遊戯においても、劣っていたのである。

家族はそんなロスキーニョに対して、それを決して責めたり貶したりすることはなかったが、ロスキーニョ自身はずっと引け目を感じていたのである。

そしてそれは何時しか、優秀な兄に対する羨望と、嫉妬に変わっていったのである。

それから時が経ち、立派な成人となったカーネギーとロスキーニョは、それぞれ別の道を歩んでいた。

兄カーネギーは外交官として国の未来を背負う立場になったのに対し、弟ロスキーニョは、リウマード・サルゥ・ミルガンド皇帝の執政下でその規模が縮小されていた奴隷庁に入り、日々心満たされないまま、職務をただ淡々と作業的に行うようになっていた。

ロスキーニョは、一生このまま日の目を見ないで、社会に埋没して消えていくのかと後ろ向きに考えていた。

15年前に、リウマード皇帝が崩御するまでは……

 

―――

 

無意識的に睡眠魔法を起動し続けていた彼の努力が通じたのか、炎龍はハイパー・ブレスを放出する直前で睡魔(睡眠魔法なだけに)に屈し、急速に眠りに付いていた。

 

危機一髪で危機を回避することに成功したロスキーニョは緊張が一気に解けて、騎乗している地龍の項に顔を伏しながら、生存を喜んだ。

 

「ハーーーーーッッッ!!!!!さぁて、どうにか炎龍を沈黙させることに成功したぞォ……かなり人数が減ってしまったがァ……さあこれであとは鎖で体を縛って持っていくだけ……ハァァァァ、ゼーハー」

 

そう、あとは鎖で縛って、帝都まで連れていくだけである。

 

あとは鎖で縛って、首都まで連れていくだけである。

 

フィジカルのままに、鎖で縛って、首都まで連れていくだけである。

 

……先ほどまで総員で大笛型魔道具に肺活力の全てを注ぎ込んでいた兵たちは、皆息も絶え絶えになっており、とてもではないが炎龍を巨大な鎖で縛り付ける余裕がある様子ではない。

 

しかし、彼らの体力が回復するまで時間を空ければ、睡眠魔法が解けて炎龍が再び目覚めるかもしれない……

そう思い至ったロスキーニョは、やむを得ないと知りつつも唯一の解決策を実行する。

 

―兵たちが使えないのなら、自分でやればいい―

 

兵たちが動けずにいる間、ロスキーニョは巨大な鎖をどうにか力を振り絞って引っ張り、眠っている炎龍の元まで行くと、まずは高低差3メートル前後の滑り台と化している背部の左翼をよじ登り、背中まで到達する。

次いで、今度は右翼を下り降りて、上から見ると肩から足の方へかけて↘の形に見えるように鎖を置いた。

次いで、右翼を下から潜り抜け、鎖を↘(↑)と通す。

右翼をよじ登って、鎖を↘(↑)↓と通して、一先ず左翼根本を占めると、今度はまた下から潜り抜けて、↘(↑)↓(↑)という風に鎖を巻いたら、今度は下から通した鎖を、炎龍の背中の上で右翼根本前部分から左翼根本後方に通し、炎龍の背中で鎖を交差させ、X(↑)↓(↑)という形にする。

その後左翼根本も縛って、最終的に

 

※横書き表示推奨

               /頭

  左翼\        〇

     〇(↑)↓(↑)X(↑)↓(↑)〇

             〇\胴体     \右翼

              \尻尾

 

という形で縛り上げた。

……読者の皆様には炎龍の縛り方の説明が分りにくい?書いてるこっちだってどう説明したらいいのか分からないんですよ……

 

「フー!苦労したがなんとか鎖を巻きつけることに成功したぞ……一生分のフィジカルを使い切った気分だ」

 

その後、後方に待機させていた輸送用翼龍部隊を魔伝通信で呼び寄せて、体を持ち上げてから首や胴体、尻尾にも鎖を巻きつけ、また腕や足も錠で拘束する。

 

最後に目隠しや口の開閉防止のために、顔を布で巻いて覆い隠した後、念を押して睡眠魔法を発動させる特殊な安眠導入魔法装置(幅約1メートルの香炉のような形の道具)を顔に取り付けて、ちょっとやそっとのことでは眠りが覚めないようにしてから、輸送用翼龍部隊に炎龍を帝都まで空輸させた。

 

かくして多くの犠牲を払いながらもどうにか静まった炎龍に対し、眠っている間に全身を鎖で縛り、口も開けないように縛って塞いだロスキーニョは、捕まえた炎龍にこの火山からとって『ヘトヴィヒ』と名付けた。

 

 

  *   *   *

 

 

苦労して炎龍を捕獲し、帝都ロドムに凱旋するロスキーニョ。

住民たちは国の勇者たる彼とその部下一同を見て、興奮して歓声と喝采を浴びせていた。

 

「聞いたかよ?ロスキーニョ侯爵率いる軍が炎龍の捕獲に成功したらしいぞ!」

「本当かよ!?やっぱりテスタニア帝国は偉大な国だな。列強国なんて本当は我が国の足元にも及ばないんじゃないか?」

「テスタニア帝国万歳!皇帝陛下万歳!ロスキーニョ侯爵万歳!」

 

市民の盛大な声援を受けながら、街の大通りを通過して皇城に到着するロスキーニョ。

すぐさま謁見の間に赴くと、ベルマード皇帝が大義をなした彼を出迎えた。

 

「よくやったなロスキーニョ侯爵。貴様は我が国繁栄の礎として、1000年は名を語り継がれるであろう」

 

ベルマード皇帝の言葉に、表向きは部下らしく傅いて誠意を見せるロスキーニョ。

だがしかし、その心の内には皇帝に対する罵詈雑言が忍んでいた。

 

「はっ!陛下光栄でございます!今回の私の活躍は、陛下あっての物種であります。この国と、陛下に栄光を!(おのれ愚皇帝め!気まぐれで私を死地に送り込みおって!いつか謀殺してくれるぞ!)」

 

心に悪意を潜ませながら、言葉にもないことを平然と口にするロスキーニョを見るも、ベルマード皇帝は全く真意を知りえなかった。

そんなベルマード皇帝は、さて、と前置きして

 

「ところでお前にもう一つ、頼みがあるのだが」

「は!何でございましょう陛下」

 

やれやれこの愚皇帝は今度はどんな無理な要望を出してくるのか……ロスキーニョは、次

の言葉に自身の耳を疑った。

 

「あと一体、炎龍を捕まえてきてくれないか」

 

ロスキーニョは、その皇帝の言葉に思わず呆然とする。

 

「……は?あの、あと一体ですか……?」

「そうだ。既に一体を捕まえているお前なら、もう一度でもできるだろう?」

 

あまりに馬鹿げた要求に、呆れずにはいられないロスキーニョ。

だが自身の浅はかな思慮に酔っているベルマード皇帝は、そんなロスキーニョの様子を見ながらも、特に気に掛ける様子すらもなく、先ほどの言葉を補強した。

 

「いいか、私の言っていることは何も難しいことではない。我が国の強大な軍事力があれば、他の下劣な国家では不可能なことでも、可能にすることは造作でもない。

やってくれるな、ロスキーニョ」

 

「(こ、この阿保皇帝がっーーー!こちらの苦労も知らずに、阿保能天気にもう一匹捉えてこいだと?そんなこと……できるかーっ!)」

 

思わず叫びだしたくなる気持ちを、その邪悪な精神力でなんとか抑えこみ、表向きはやんわりと否定するロスキーニョ。

 

「いや、しかしですね陛下。今回の遠征で、兵は皆疲れ果てております。貴重な魔装備も失いましたし、もう一度炎龍を捕獲するのはしばらく不可能かと……」

「安心しろロスキーニョ。貴様が遠征に行っている間、奴隷の労働ペースを上げて魔装備の増強をしておいたぞ。

兵の訓練も既にしている。今すぐにでも出られるぞ」

 

「は?」

 

「今すぐにでも出られるぞ」

 

皇帝のその言葉に、一瞬思考が停止するロスキーニョ

しかしすぐに意識を取り戻すと、彼の胸にふつふつと憤怒の感情が巻き起こってきた。

 

「(なんでそんな余計なことするんだこの阿保はあーーーっ!

そんな余裕があるのなら、書物でも読んでまともな知恵を持ちよれ!

この頭緩々男が!)」

 

心の中でベルマード皇帝に対する罵りをしながら、ロスキーニョは、どうにか自分以外の人間に厄介ごとを押し付けようと、ベルマード皇帝に進言する。

 

「あの、私でなければなりませぬか、陛下?他の名だたる将軍などは……」

 

「私はお前と違って暇ではないのでな。本当は皇帝である私が行くべきなのだろうが、面倒くさいから代わりに行ってくれ。わかったな」

 

別に聞いてもいないのに俺本当は行きたいんだけど~、などと語りだし、更に暇ではないのに面倒くさいという矛盾論理を繰り出したベルマード皇帝を見て、話が通じない以上命令を覆すのは不可能だと判断したロスキーニョは、仕方なくもう一度炎龍の捕獲に乗り出すことになった。

 

なった。

 

 

  *   *   *

 

 

そして二回目の炎龍捕獲遠征。

またも自ら部隊を率いることになったロスキーニョ。今度は人員が増量されて、3000名程度の兵を率いることなった。

 

「(これだけの数の兵……下手な領地軍に匹敵するのではないか?)」

 

そんな考えを抱きつつ、炎龍が生息するとされている帝国内の火山に向かった。

二体目の炎龍が生息しているのは、帝国西部の『シュナーベル火山』である。

そこは、火山でありながらも熱に強い木々が生い茂っており、一見して枯れ枝のように見える黒い細針状の葉が、山を覆いつくしている。

 

「(これは捜索が難しいな)」

険しさを感じさせる山を前に、ロスキーニョは早速偵察隊

を出し、炎龍探しを開始する。

 

……3時間後、山の中に入っていった偵察隊が出戻り、ロスキーニョに状況を報告する。

 

「ロスキーニョ閣下。炎龍は山の麓にある洞窟にて潜伏中、睡眠をとっております」

 

その報告を聞いたロスキーニョは、早速部隊を動かして、炎龍が潜む洞窟を目指す。

そして……

 

「ほう、これがここの炎龍か。最初の炎龍と比べると、少し小さいか?」

 

洞窟の中に潜んでいた炎龍は、まだ若いのだろうか、『ヘトヴィヒ』と比べると少し小柄に見える。

とはいえ翼龍に比べると巨大であることに間違いはなく、ロスキーニョはあくまでも慎重に動く。

 

「念のため睡眠魔法装置で眠りを維持するぞ……用意せい!!」

 

ロスキーニョの指示で、兵たちが香炉によく似た睡眠魔法装置を持ってくる。

その道具を持った兵士が、ゆっくりと炎龍の頭に近づく。

 

「起きるんじゃないぞ……」

 

そう願うロスキーニョ。だが、とある事件が意外な理由で発生した。

 

ロスキーニョの指示により、香炉型睡眠魔法装置を持ち運んでいる兵士。

炎龍の顔に近づくそいつは、密閉された空間内で、炎龍が吐き出す寝息を吸い込んでしまっていた。

すると、たまらずせき込んだのである。

 

 

「くっさ!ゲホゲホ」

 

 

……炎龍は、体内に硫黄などが混ざった可燃性物質をため込んでいるとされる。

そしてそれは、呼気の度に体外へと放出される。

つまり炎龍の息は、物凄く臭いのである。

その匂いは、ひと昔前のごみ処理場の空気に匹敵するんだとか……

 

さて、そんな事も露知らず、密閉された空間内で避けようがない強烈な悪臭に襲われたその兵士は、思わずせき込まずにはいられなかった。

それどころか、立っていることすらも難しくなり、倒れ伏してせき込むこととなった。

 

「あ、あいつ一体何をやっておるのだ……!?」

 

しかしそんなことは全く知らないロスキーニョは、倒れこんでせき込む兵士に、焦燥せずにはいられなかった。

 

そして、そんな状況のなかで、それは起こってしまった。

 

 

―ぱちり―

 

 

眠りに付いていた炎龍が、目の前で騒がれたため目を覚ましたのである。

炎龍の巨大で重そうな瞼が瞬時に上がり、闇を固めたように真っ黒い瞳が現れる。

その光景を間近で目にした兵は、なんとかしようと咄嗟に睡眠魔法装置を起動しようとする。

 

しかし、炎龍が動いたのが僅かに早く、彼は炎龍の餌として捕食され、口の中へと消えた。

 

バリバリモグモグと、あっという間に兵士を捕食した炎龍は、ゲフッとげっぷを吐き、周囲に沢山の『餌』があることに気が付くと、寝ぼけ眼を擦りながら、大きく息を吸い込んだ。

 

まさかハイパー・ブレスか?とロスキーニョ達が慌てて距離を取ろうとすると、炎龍は吸い込んだ空気をそのまま吐き出した。

 

―もわーん―

 

濃縮された臭気を含んだ大量の吐息-炎龍の生態魔法の一つである腐臭ガス放射―が洞窟内に蔓延して、ロスキーニョ達は思わず意識を飛ばした。

 

―――

リウマード皇帝の治世下で、それぞれ別の道を歩んでいたロスキーニョとカーネギー。

状況が変わったのは、15年前、リウマード皇帝が崩御した頃であった。

リウマード皇帝の死後、その後釜に就いたのは当時齢13になったばかりのベルマード皇帝であった。

先代リウマード皇帝が彼にどんな教育を施していたのか、ベルマード皇帝はしかし、先代とは全く正反対の人格を宿していた。

彼は先代皇帝の死後、国の政治の方向性を全く変え、平和な国家であった帝国を、侵略を生業とする奴隷狩り軍事主義国家へと変貌させてしまったのである。

だがしかし、ロスキーニョにとってそれは天の恵みであった。

ベルマード皇帝の下、閑散としていた奴隷庁は一躍国の富を左右する重要部門となり、瞬く間に権力を増大させていった。

いつの間にか兄に迫る地位についていたロスキーニョは思った……これこそが、自分の本当の地位だと。

そうして棚ぼた的に手に入った権力に、いつしか彼は心支配されていた……

―――

 

 

さて、一瞬意識を落としたロスキーニョであったが、すぐ目を覚ますと状況を判断して、指示を飛ばした。

 

「ゲホッゲホ!だ、脱出―!」

 

余りの匂いにたまらずロスキーニョは洞窟内からの脱出を指示し、それを聞いた兵たちは、我先にと脱出口へと押し寄せた。

 

「ええい押すな押すな!順番に出ていくんだ!」

 

洞窟の入り口が軽く渋滞を起こしていたものの、ロスキーニョが必死で部隊の行動を統制して、どうにか安全に脱出することに成功する。

 

しかし、そんな彼らを追いかけて、炎龍が洞窟から出ようとする。

 

「むっ来おったな。待ち伏せ隊、鎖を用意しろ!」

 

炎龍が洞窟から出てくる可能性を考えて、予め洞窟の入り口の上に待機させていた部隊が、炎龍の上から鎖を落とし、更に大笛型の睡眠魔法具で睡眠魔法をかける。

それで炎龍の動きを止めた彼らは、炎龍が眠っている間に全身を拘束して、捕獲に成功した。

 

2体目の炎龍は、生息していた火山の名をとって、『シュナーベル』と名付けられた。

 

 

  *   *   *

 

 

帝都ロドムにたどり着き凱旋するロスキーニョ。

またも名声を勝ち得た彼の権力は、以前にも増して強大なものになりつつあった。

 

「よくやったロスキーニョ。民たちの歓声がこの皇城にも届いておるぞ。

お前はこの帝国の誇りである」

「はっ陛下!身に余る光栄であります」

「ところでロスキーニョ。お前にまた頼みがあるのだが」

「はっ!何でございましょうか閣下!」

 

 

「三体目、捕まえてきてくれ」

 

 

「 」

 

 

かくしてロスキーニョは、三体目の炎龍捕獲に赴くこととなった。

 

 

なった。

 

 

 

  *   *   *

 

 

『ヘトヴィヒ』『シュナーベル』に次ぐ三体目の炎龍を捕獲するため、ロスキーニョ率いる総動員兵数5000を超える海軍の軍勢が、帝国東部の海域に位置する小島に向かって、船舵を取っていた。

 

今回の捕獲作戦で、ロスキーニョはもはや着慣れた青い耐熱性ローブを身に纏いながら、翼龍に騎乗していた。

 

万が一の時に備えて、海上では機動力のある翼龍に乗っていたほうが、生存率が高そうだと判断して、過酷な騎乗訓練を経て念願の翼龍騎士になったのである。

……こちらを捕食しようとしつこく狙ってくる翼龍の攻撃を、華麗なステップ捌きで避けられるようになるまでの苦労は、とても語りつくせない。

 

さて、そうして苦労の果てに優雅な空の旅を満喫しているロスキーニョであったが、彼は今回の任務にしかし、弱気な姿勢を見せていた。

 

「今回は海上戦か。海の上という慣れない環境で、一体どこまでやれたものか」

 

普段陸に住んで海にさほど出ないロスキーニョは、海の上という陸とは違った環境で、うまくやれる自信がなかった。

 

海上とはいわば果てしない底なし沼と一緒なのである。落ちたら這い上がるしか生き延びるすべがないそこで、船という心もとない乗り物にどこまで心を任せることができるか。

 

波の動きに揺れ続けるそれは、人間の三半規管に確実な負荷をかけてくる上、どこからともなく流れてくる潮の香りが、ロスキーニョの感覚では違和感としか感じられず、彼は参ってしまっていた。

 

早く炎龍を捕まえて帝都に帰りたい……そんな気分で翼龍を飛ばしていると、偵察兵が大急ぎで彼のもとに近寄ってきた。

 

「か、閣下!こちらの進路から右前方、南東より高速で飛来する物体あり!その特徴から、おそらく炎龍かと思われます!」

「むっ!早速来おったか!全隊戦闘準備!向かってくる炎龍を迎撃しろ!」

 

魔伝により出された指示に、艦隊戦力が一斉に動きを見せ始める。

 

今回の主力戦力である30隻もの龍船が一隻当たり10体の翼龍を一斉に発進させて空の一角を緑色に染め上げ、護衛のために龍船に付き添う戦列艦群ではその甲板上で弓矢やバリスタ、カタパルト(投石器)、火薬噴射装置(火薬を噴射する装置。地球世界でいう『ギリシア火薬』に相当。装置自体の形状は巨大な喇叭のような形状)、それと今回特別に用意した、対大型害獣用催眠音波発生装置(こちらも火薬噴射装置に似た巨大な喇叭のような形状だが、それよりも更に細かい部品が多く備わっており、テスタニア帝国の技術水準では非常に複雑な機構を備える)の発射用意が進む。

 

これらの装備の中では、最後に挙げた対大型害獣用催眠音波発生装置はその数が少なく、50を超える船数のうちの、僅か10隻にしか搭載されていない。

 

更にその機構の複雑さから、稼働率は半分あれば十分という有様すらも晒している。

また射程も短く、炎龍クラスの魔法生物に対する有効射程は凡そ300メートル程度であろうと推測されており、その点では心もとない。

 

それでも、時速450キロメートルで飛行する炎龍に対して、その三倍近い速度で命中させることができうる音波という現象に対する期待は大である。

 

そのため装置を積んだ船には、射程の短さを補うために船を改造して、特別に旋回する台を備え付けている。これによって、空中を素早く三次元機動する炎龍に対して、ある程度追従性を発揮するだろうと思われていた。

とはいえ今回の主力はあくまで数の多い翼龍であり、対大型害獣用催眠音波発生装置は、翼龍による炎龍の無力化が困難な場合に、その補助役を担うべく投入される予定である。

 

さて、そんな装備群が稼働態勢に入り、炎龍の登場を待ちわびるのが終わったのは、偵察兵による炎龍発見の報告から10分が経ったころであった。

 

艦隊右前方の上空5000メートルから現れた炎龍が、人間や翼龍たちの発する闘志……匂いなのか、温度なのか、それともそれらとはまた違う第6感覚で感じえる『気配』というものなのかは不明だが、おそらくそういった類のものを察知したのだろう、炎龍の闘争本能に火が付いて、その個体特有の特異な白い眼玉をかっと開きながら、艦隊目掛けて迷うことなく襲撃をかけていった。

 

そんな炎龍を迎え撃つテスタニア軍は、その予測以上の降下速度に脅威を感じた。

 

「早い!翼龍とは全く違う!」

 

水平飛行だけで時速450キロに達する炎龍であるが、その降下速度は更に早く、時速600キロ以上はたたき出していたのである。

そんな猛烈な速度で艦隊に降下してくる炎龍を、まずは上空にて待機していた翼龍部隊30騎が迎撃の魔法攻撃を繰り出しての牽制を試みる。

 

「迎撃!火炎弾攻撃用意!」

 

部隊の中からその言葉が発せられるや否や、先ず上がったのはオーウ、オーウという獣のようなオウ、オウという獣のような声きであった。

それは魔法騎士が魔力の籠った肺と胃の空気を押し出し、喉元で震わせて魔力を励起したものであり、翼龍が仲間同士での会話に用いる言葉をある程度再現したものである。

 

今魔法騎士の発した魔呻(ましん)は翼龍への攻撃の合図であり、翼龍が敵を目の前にした際に湧き上がる、本能的な激しい激情を捏造する。

 

魔法騎士の捏造した攻撃計画の合図を受けた翼龍は、覚醒した闘争本能の赴くままに体の内から湧き上がる衝動……魔術式の構築と、それに伴う魔力の活性化に、狂おしいといわんばかりに身悶えた。

 

気分の高ぶりによって熱くなる体、それを冷ますためか、翼龍の二つの眼は見開き、口は大きく開いて咽頭が露出し、その先端部分に翼龍の体内に溜め込まれた金属分子と有機化合物、それが魔力と結合した、透明な半固形の粘土のような性質の団子が形成される。

形成過程で団子の中に取り込まれた大気中の酸素、それが団子の中心部で濃縮されながら有機化合物と反応することで、透明な団子の内部には高温の炎が発生し始めた。

 

―『火炎弾(ファイアーボール)』

体内に溜め込まれた金属分子と有機化合物、それを魔力と結合させて透明な半固形の粘土のような性質の団子を形成し、その形成過程で団子の中に取り込まれた大気中の酸素を、団子の中心部で濃縮されながら有機化合物と反応させることで、内部に高温の炎を内包した魔力の弾丸を形成する炎系魔法である―

 

それは翼龍が得意とする攻撃魔法であり、また魔法技術に長けるのならば人種族であっても(若干の仕様は異なるものの)用いることができる魔法なのであるが、人が発動する場合は主に手―そこは人体の中でも神経が集中しており、魔法の行使に適する―から発動するのに対し、龍の場合は咽頭に神経網があり、また体内からの魔力が触れやすいこと、魔法に耐えるだけの頑強さを備えていることなどが相まって、口内から魔法を発動することに生物学的な合理性が存在する。

 

更に付け加えるのならば、龍の使う『龍言語』―普通の人間の耳には聞き取れないが、龍同士や一部の亜人、また熟練した上で特殊な鍛錬を乗り越えた魔術師などが聞き取ることのできる、特殊な魔法現象―によって、龍の魔法はその制御に関して、より精密な補正が掛けられるため、その構造強度は人間や他の亜人たちを凌駕し、威力も非常に高くなるのだ。

 

そんな翼龍たちの魔法攻撃の準備が、彼ら彼女らを管理する魔法騎士によって整えられると、今度は各自がタイミングを合わせて攻撃を開始することが求められた。

先走りや出遅れは禁物であり、そしてそれを防ぐために必要な統制は、部隊の責任者である隊長にその役目が求められた。

 

「……!」

 

集団の統制を求められた隊長は、場の空気の変化全てを戦場における肌感覚の鋭敏化によって感じ取ると、一瞬息を詰めて緊張する気分を悉く処理し終えて、号令を発した。

その声は一人の人間の勇み気の全てを表したかのように力強く、そして落ち着き払って冷徹であった。

 

「全隊攻撃開始!火炎弾発射、撃て!!」

 

瞬間、1騎につき1発ずつ、計30発にも及ぶ炎の弾丸が、連携のとれた動きによって同時に放たれた。

 

「……フン、……」

 

炎龍に向かって向かって飛翔する30個の火の玉。炎龍はそれを不気味な白い瞳の端にほんの僅かだけ収めると、翼龍に優越する速度性能で回避し、避けられない分は体で受け止めた。

 

「……シャッ!」

 

火山地帯で生息してきたが故に兼ね備えた高耐熱性の鱗の表面で、10発前後のファイアーボールが、その粘土のような粘性を発揮してへばりつくも、炎龍は体を回転させながら振り払ってみせる。それによって最初の翼龍部隊の攻撃は全て失敗に終わった。

 

「わが隊の魔法攻撃、目標に対し効果……見られず!」

 

「ならば次だ!大型ボウガン隊、行け!」

 

炎龍に対しあまり効果を見せなかった魔法攻撃に次いで、大型対物ボウガンを備えた翼龍から、その長さが成人男性の背丈ほどの長さ―テスタニア人の平均は凡そ170cm程度―の矢が放たれるが、それはある程度は炎龍の鱗を叩いて罅やへこみを作り、更には場所によっては運よく貫くこともあったが、炎龍は持ち前の生命力をもって動じることなく耐え忍び、やがて一隻の龍船に衝突寸前の高度まで下がって接近すると、そこで口を大きく広げ、喉の奥から先ほど翼龍が発射したものと同じような大きさのファイアーボールを5発ほど連射し、最後にハイパー・ブレスを発射する。

 

まず先に発射したファイアーボールが龍船に着弾し、その衝撃で爆ぜたファイアーボールは内部の空気と外気との圧力差によって、空気を入れて膨らませた袋を割ったときのようにパン!という鋭い音を連続5回響かせた。

中の船員が思わず怯んだ声を上げる。

 

「うわ!被弾した!」

 

龍船は、魔法による耐熱処理が船体に施されていたおかげもあって、先に来た5発のファイアーボールでのダメージは軽減して船底まで貫通されることは防いだ。しかし……

 

”バリンッ!”

 

甲板の木材が割れる音が鳴り響き、その直後に圧力を持った炎が船の一角を吹っ飛ばした。

 

「ひいっ!」

 

不幸にもハイパー・ブレスの被弾位置に居た船員は炎に飲まれて瞬く間に絶命し、更に他の多くの船員もその船員と同じ運命を辿った。

龍船は、最後に降り注いだハイパー・ブレスによってその耐性が限界を超え、船体の前半分の喫水線より上が全て炎上し、それによって竜骨を喪失したことでバラバラになりながら沈没した。

 

「ギャオオ……!!」

 

ブレスによって龍船を木っ端みじんにしながらも、自身の降下に制動を掛けた炎龍は海面に叩きつけられることなく上昇する。

白い瞳がぎろりと輝き、口元が僅かに開いて牙が垣間見える。闘争心に満ち満ちているのだろうか。

 

そんな炎龍に対し、近くの戦列艦から攻撃が飛ぶ。

 

弓矢やバリスタ、カタパルト、火薬噴射装置が炎龍向けられて投射されるが、炎龍はその速度を生かして攻撃を回避し、逆にファイアーボールを連射してそれらの船を次々に海の藻屑に変えていった。

 

「か、閣下!5隻の艦があっという間に……」

「あれが炎龍の本気の戦闘力か。これまでの炎龍は睡眠時を狙っていたおかげで助かっていたな」

 

海上で繰り広げられる、炎龍による人間蹂躙劇に、ロスキーニョはこの世界の過酷さを実感した。

だがしかし、人類も手をこまねいて、一方的に狩られていくだけではない。

 

「全軍に告ぐ!遠方からの攻撃によって炎龍に負傷を蓄積させつつ、肉薄して沈黙させよ!」

 

ロスキーニョの指示により、戦列艦群が炎龍に対し艦首を向けながら、バリスタやカタパルトといった投射兵器を凡そ400メートルの距離から稼働し、質量物を投射する。

 

50隻以上の艦から矢継ぎ早に放たれ続ける質量弾による攻撃を、炎龍はその高速飛行で避けながらもファイアーボールを連射しながら接近し、わずか数秒で艦に肉薄する。

 

そうして接近してきた炎龍に対して、肉薄された船はその船首に備わった火薬噴射装置を作動させて牽制を掛けるが、それは砲口から炎の花が咲くような派手なエフェクトを見せる割には、炎龍にさほどダメージを与えた様子もなく、だがしかし発射時の爆音に不快感を感じた炎龍の激しい怒り、その暴力をまともに受けると、炎龍の6肢を使った強力な打撃によって搭載船の船体は破壊されていった。

 

巨大な翼を振り落として艦首を潰し、爪の生えそろった前腕が甲板を剥がし、地団太を踏む逞しい脚が竜骨までもへし折りながら、船の内部にいる乗員に直接ブレスや腐臭ガス、ファイアーボールを放射し、確実に船の、否、人間の戦力を奪っていく炎龍。その様子はまるで癇癪を起した巨人が、蟻を巣ごと殲滅せんとするかのようであり、圧倒的な力の差はそれが戦闘であることを差し引いても惨たらしく、絶望的である。

 

そうして炎龍が船舶攻撃に集中している間に、上空の翼龍部隊が炎龍のがら空きの頭上や背部から攻撃を行うが、炎龍はそれらの攻撃に対してファイアーボールで反撃し、更に攻撃前の翼龍に対しても、連発式と比べて射程の長い単発のファイアーボールで牽制をかけていく。

 

そうして海と空からの攻撃を尽く跳ね返している炎龍に対して、テスタニア軍が手をこまねいている中、彼らの秘密兵器がようやく登場した。

「装置右旋回!魔鉱石魔力放出開始……撃てーっ!!」

 

戦列艦の甲板を占有する対大型害獣用催眠音波発生装置の一つが、炎龍に対し指向性催眠音波を照射する。

 

その戦場には似合わない穏やかな音に、最初炎龍は戸惑いを見せたが、その音を発する船が1隻、また1隻と増え、全部で5隻に達した時、先ほどまでは闘争に震え明瞭としていた意識が、突如朦朧としてきたことから、これは危険なものだと判断した炎龍は、その音を発している船を最優先で破壊することを決める。

 

翼を羽ばたかせて瞬時に数100メートル上昇し、音の効果範囲から飛び出すと、炎龍は記憶を頼りにして音の発生個所と、それを出していた物を認識して、それを積んだ船を遠距離から攻撃し始める。

 

射程300メートルの対大型害獣用催眠音波発生装置に対して、その倍の600メートルから単発式の長射程ファイアーボールを発射していくと、運よく―当たった方にとっては運悪く―指向性催眠音波を発生させていた対大型害獣用催眠音波発生装置が破損し、まずば1隻が戦力として喪失した。

 

その後も何度か同じように遠距離攻撃を続け、残りはあと1隻だけとなった時、炎龍は勝利を確信していた。

 

さて、あと1つ黙らせてやれば、この玩具達を面白おかしく破壊する遊戯もクライマックスだ、と炎龍がその邪悪な知性を発揮していた、その時。

 

頭上から、あの心地よいのに不愉快な音が降り注ぎ、しかもそれがだんだんと近づいてきているということに気が付いた。

 

炎龍が咄嗟に頭上を見上げると、青いローブを纏った翼龍騎士が、自身に向かって降下してきているのが見えた。

 

「攻撃を続ければ、物量で勝るこちらが負ける道理などない。

全隊攻撃続行!矢尽き、魔力枯れ果てようとも、奴を必ず沈黙させ、捕らえるのだ!!」

 

繰り返される攻撃は、炎龍に確実にダメージを蓄積させているはずである。

そう言い放ちながら、悠然と炎龍に向かっていくロスキーニョ。

彼を先頭とした一団が、炎龍に上方から攻撃を仕掛けていく。

 

「睡眠魔法具!」

 

ロスキーニョは、もはや使い慣れた大笛型の睡眠魔法具で炎龍の体ではなく意識に攻撃を仕掛け、その行動を止めようと試みる。

睡眠魔道具から放出される催眠音波と催眠ガスが炎龍に眠気を齎す。使用している自分たちは中和剤によって無事であるが、炎龍には確実にその効力を発揮しているはずである。

 

そんなロスキーニョの考えは当たっており、炎龍は僅かにではあるが、自分たちに対する攻撃の精度が低くなっており、紙一重で連射されるファイアーボールや、広範囲のハイパー・ブレスをかわすことができた。

 

そのまま炎龍の鼻先を掠めるようにして、海面向かって降下していくロスキーニョ達翼龍隊。

 

「よし、いいぞ!!総員降下し、奴を引き付けた後に反復攻撃。再度睡眠魔法で奴を夢魔の世界に落としてやるぞ!」

 

その言葉に従って、ロスキーニョを先陣とした一団は海面に炎龍を引き付けるように

降下していく。

 

睡眠魔法の影響で冷静さを失いつつある炎龍は、先ほど自身が何故上昇したのかすらも忘れて、その一団の動きに釣られるように海面に向かって降下していく。

 

そうして高度が下がった炎龍に対して、船団に残っていた最後の対大型害獣用催眠音波発生装置が起動し、炎龍の意識を瞬く間に、眠りに対する本能的な欲求で満たしていく。

それによって炎龍は動きを確実に鈍らせていった。

 

「よし、いいぞ!反復して攻撃を続行だ!」

 

ロスキーニョは反転し、もう一度炎龍に睡眠魔法をかけようとする。

が、しかし

 

「グアアア!!」

 

咆哮ともに放射された炎龍のファイアーボールが、彼を騎乗する翼龍ごと焼滅せんと襲い掛かる。

咄嗟にそれを回避したロスキーニョであったが、僅かに行動が遅く、翼龍の右翼半分がファイアーボールの熱で燃える。

痛みに苦悶して失速していく翼龍と共に、ロスキーニョは海上へと墜落していった。

 

リウマード皇帝の死から3年後、ロスキーニョとカーネギーの母は死んだ。

流行り病によるもので、あっさりと死んでしまったのだ。

葬儀に出席した参加者たちは皆悲しんだし、ロスキーニョとカーネギーも同じように悲しんだ。

それから2年後、今度は父が、突然の心臓発作で亡くなり、また再び関係者が集まって葬儀が執り行われた。

ロスキーニョは思う。父と母は、兄と自分、どちらを愛していたのだろうかと。

だがしかし、2人がこの世から去った今では、もはや真偽を確かめようもない。

 

落下の衝撃で意識を落としたロスキーニョであったが、運よく溺死寸前で意識を取り戻し、急いで海面に向かって泳いで空気を吸い込んだ。

戦場では、物量で勝るテスタニア軍が炎龍を押しており、やがて炎龍は沈黙して眠りに付いた。

眠りに付いた炎龍はそのまま漁業用の大型網で捕らえられ、その身を拘束された。

戦闘終了後、救助船によって回収されたロスキーニョは、その様子を他人事のように見ていた。

 

それから数時間後、捕獲された炎龍は、近くにあった島から名を取って『ツェプター』と名付けられた。

 

 

  *   *   *

 

 

後日、またも帝都ロドムに凱旋したロスキーニョは、皇城でベルマード皇帝に報告を行ったが、そのロスキーニョの報告を聞くベルマード皇帝の顔は、何故だかとても冷めていた。

 

「なあロスキーニョ、ちょっといいか」

「はい、何でございましょう陛下」

「冷静になって考えてみたんだが……炎龍捕獲って、別に奴隷長官の仕事ではないよな」

 

 

「……は?」

 

 

「いやすまない、最近、何か妙な肩こりがしておってな、何故だろうと考えた結果、ああそうか、奴隷長官の仕事とは奴隷を管理することだったと、今になって気づいたのだ。

これまで苦労を掛けてすまないな、ロスキーニョ・ルガー奴隷長官殿よ」

 

「(今!?今気づいたのか、それ!?いやいやいや、最初に疑問を持つ部分だろ、ソコォ!!)」

 

「まあお前は私の無茶な要望にも応えてきたし、ここは皇帝として、寛大さを示してやろう。

というわけで、ロスキーニョ奴隷長官、ここに皇帝の名のもとに宣言を出す。

もう炎龍捕獲に行かなくてもいいぞ」

 

「(どこが寛大だっ!この……大馬鹿皇帝がァーーーーっ!!!!!!!!!)」

 

かくしてロスキーニョが大いに苦労した、3度にわたる炎龍捕獲は幕を下ろしたのであった。

 

 

  *   *   *

 

 

皇帝の暇つぶしが終わったことから、無事平穏な日常に舞い戻ったロスキーニョ。

彼は皇城内に備え付けられた執政室で、各所から上がってきた奴隷関連書類を裁きながら、日々充実した生活を送っていた。

時折側近役としてベルマード皇帝の仕事に付き添いながら、自国や各国の重鎮と面談する仕事もこなしていた彼は、その時も外国の特使との面談のため。皇城内を移動していた。

 

皇城内の廊下で、彼はある人物が対面からやってくるのに気が付く。

その人物はロスキーニョに気が付くと、

 

「これはロスキーニョ候、ご機嫌麗しく。これから某国の特使と面談ですかな」

「……カーネギー公」

 

ロスキーニョの兄、カーネギー・ルガー氏である。

 

何時頃からか、この兄弟はお互いを家族ではなく、国の定めた役職でその身を隔てた他人として、どこか一歩引いたところに立ちながら接し合うようになっていた。

子供の頃は、社会や世間の難しい仕組みなどなんのその、我ら兄弟を隔てる壁などなしといった関係であったのにも関わらずである。

 

「ええそうです。某国の特使とこれから茶会でしてな。その特使は自らも茶淹れを嗜むとのことで、色々と用意しているようです」

 

「それはそれは、羨ましいですな。では私も用事があるので失礼させていただきます」

 

そういって廊下を通り過ぎていく兄の背中を見ながらも、あくまでも事務的な挨拶で自身との会話を済ませていったことに、軽蔑の念を抱く。

 

「(フン、兄上よ。かつては貴方のことを、手の届かない高みにいるように思っておりましたが、今となっては私の方が貴方よりも遥かに上になりましたな。

未だ先代皇帝の流儀を押し通しているようですが、もはや我が国にとってそれは邪魔でしかない。

そのうち貴方のことは、理由をつけて消すことにしましょう。精々気を付けなさるがよい……)」

 

ロスキーニョは、もはや実の兄に対する尊敬や情愛がない事を自覚しながら、兄をいつか策に陥れることを密かに誓い、その場を後にした。

 

 

  *   *   *

 

 

さて、これまで散々苦労した様子を描写されてきたロスキーニョであるが、彼はこの国の権力ピラミッド構造の中でも割と上位に座し、その分優秀なのである。

そしてその優秀さを駆使して様々な陰謀を巡らせており、そのおかげで割と権力基盤がしっかりとしていた。

そのことを思い浮かべつつ、彼は今後のことについて考える。

 

「(ククク、着実に基盤が固まっていっている。この調子ならいつかあの馬鹿を出し抜いて皇帝の座に就くことも不可能ではあるまい。

私の野望に気づく、優秀な内偵がこの国にいない限り……な!)」

 

ククク……と人知れず心の中でほくそ笑む。

 

が、しかし……

 

 

  *   *   *

 

 

「突然ですが、尋問させていただきます」

 

職務中に突然尋ねてきた知らない男が、何人かの人員を引き連れて、ロスキーニョを皇城の個室に連れ込んで、拘束した。

 

「なんだお前は?」

 

鋭い眼光でロスキーニョを見る男は、自己紹介がまだでしたなと前置きして、名を名乗る。

 

 

「私は警邏隊内偵課の者です」

 

 

!?

 

 

 

つづく☆




以上、第2話です。
今回のお話いかがだったでしょうか。
今回は某名探偵の孫漫画の外伝作品の方を参考に、話を組み立てさせていただきました。

まあ、元の話での凶事が事前に時間をかけて仕組んで行った犯行ではないので、今回は事件が起こる前日譚というか、日本転移前のテスタニア帝国で、暴虐な皇帝に色々と苦労する中間管理職?ロスキーニョの話を描くことになりましたが。

一応炎龍捕獲と絡めて、ロスキーニョが兄殺しという凶事を実行するに足るような、兄カーネギーに対する『わだかまり』みたいなものを描きたいと思いましたが……うーん、上手く説得力を持たせられたのか。

今回は色々とオリジナルの設定や道具を出しましたが、これは作者の趣味が多量に反映されております。
翼龍が緑色の禿げ頭で、炎龍が赤くて角が付いて3倍速いとか、もう確実に国民的ロボットアニメの影響です。認めたくないものだな、自らの若さゆえの過ちというものを。

さて次回は、本格的に事件が起こって、それに絡んで様々な出来事が起こる様を作者の独自解釈によって再構築していきますが、これが果たして本編との描写と合致するのかに関して、あまり自信がございません。

そもそも今回の炎龍捕獲だって、あれハルディークが持ってきたんじゃないっけ?ってなりますし(一応魔獣の中に炎龍の名前は出てなかったはずですが)。


今回出てきた奴の設定↓
・炎龍
この世界の生態系の上位に君臨する『龍』と呼ばれる生物種の中でも、一際突き抜けた凶暴性を備えた、生きる戦闘兵器。

大きさは凡そ全長二十メートル前後、一般的な航空戦闘用翼龍のニ倍強であり、質量は火山地帯に生息し、その場の物質を取り込んでいることから比重が重く、上記の航空戦闘用翼龍の十五倍程度になる(一立方メートルあたりの比重は一.三倍ほど)。

それでいて水平飛行速度は翼龍の三倍超、一般的な翼龍が時速百五十キロ前後は叩き出せることから、少なくとも時速四百五十キロ程度の速度で飛行できるとされており、戦力換算にして一頭で龍船三十隻分以上に相当する戦闘力を有する。それは三十頭で一個団を編成するテスタニア翼龍部隊の、十個団分以上に相当する。

高い戦闘力を秘めた炎龍であるが、一般的に人間が飼いならして使役している地龍や翼龍、母龍、闘龍などと比べると、戦闘力においては非常に優れる反面、他者からの支配に抗う本能的な凶暴さからその制御は大変に困難であり、『炎龍を操る者は世界を制する』という言葉が民草の間で広く知れ渡っているほどに、その飼育管理は困難である。

無論その捕獲自体も非常に難易度が高く、通常火山地帯に生息している炎龍に近づくだけでも大変危険が伴う。

この世界の歴史上、『炎龍』を戦争の道具として利用できた国は存在しない…『炎龍』を倒す事は高度文明国家…いや五大列強国でも不可能と言われている。

しかし、それはテスタニアなど世界情勢に関する情報収集能力が低い低文明国家における認識であり、実際にはバーク共和国のように、炎龍を捕獲した後に教育、飼育環境下に置くことで制御し、軍事戦力化している国家も存在しているようである。

炎龍は、一般的な翼龍が全身緑色の丸禿頭という姿をしているのに対し、全身が赤熱化した岩や木炭といったような、明るい赤色をしている。
その表面を覆う鱗は頑丈なだけではなく、耐熱性、断熱性も高い。

瞳の色は一般的には黒色だが、稀に白目の個体もいるようである。白目の個体は詳細は不明であるが、周囲の霊的存在を感知する感覚器官となっているのではないかという説がある。

頭は非常に大きく、人間程度なら丸飲みできるのは勿論、軍馬や騎乗用地龍などを収納できる巨大な口を備えており、その口の内部では太いナイフのような牙が上下とも2列に並んでいる。

炎龍は額に通常の翼龍には付いていない一本の角がそそり立っており、その角は反りの付いた片刃の刃物のような形状をしている。この角は実際には刃物ではなく、魔力などを探知するセンサーとしての役割を果たしており、繁殖期になると遠方の同族の発する『真の龍言語』をこの器官を使うことで感知し、同族同士でコミュニケーションを取り合うことで、番となる者を選ぶ。

巨大な頭部を支える首は太く短い。

手足の四肢に加えて、飛行用の翼肢を備えており、空を飛びながらも物を掴むことができる。その六肢に備わる爪は太くて鋭い。形状、サイズ共に牛の角に似ている。

飛翔の際は、その肉体から火の粉上の物質を放出するが、それは汗腺からにじみ出た金属物質であり、僅かであるが魔性と磁性を帯びている。発光の理由に関しては、魔力によって鉄の酸化速度を加速させ、熱エネルギーを生み出し大気の温度を上げていると考えられる。

その機能に関してであるが、飛翔の際に魔性と磁性を帯びた質量物を周囲に散布することで、大気中や水中に高強度の立方格子の力場を形成してその空間そのものの粘性を上げ、更に鉄の酸化反応に伴う発熱によって大気の上昇流を生み出すことで、揚力を増していると考えられる。

炎龍は、龍という生物種に属するものの特徴として、非常に優れた魔法制御能力を保有している。以下はその例である。

◇フライ
 肉体から外部に放出した魔力によって大気の流れを制御し揚力を確保する、この世界の大型飛翔生物特有の生態魔法。
炎龍の場合は、体内の金属物質も同時に体外に放出し、それによって通常より効力を高めている。

◇ハイパー・ブレス
炎龍が体内にため込んでいる魔力を、これまた体内に溜め込んでいる金属分子と有機化合物質と結合させることで発生する粘性発炎物質を、圧縮した高温高圧空気にて体外に放射する生態魔法攻撃。

粘性物質といえども質量をもった物質がアフターバーナ―で強化されたジェット流のような強烈な高圧で放出されるそれは強力な衝撃エネルギーを発生させる。

その反動の大きさから、主に地上にて姿勢を維持したうえで使用することが多いが、場合によっては空中で用いることも可能。ただしその場合、反動によって大きくバランスを崩す恐れがあり、それによって墜落に至ったケースも報告されている。

この魔法には物質を腐食させる作用もあり、また高熱も伴い激しい炎上を起こすことから、炎龍という名称の由来ともなっている。

◇腐臭ガス放射
炎龍が体内に蓄積した硫黄や硝酸などを口部から放射する無音瞬殺魔法。
この世のあらゆる腐敗物を濃縮したような、形容しがたい強烈な臭いがする。
おまけとして炎龍本体のワキガ臭も同時に食らう。くっさー。

◇火炎弾(ファイアーボール)
体内に溜め込まれた金属分子と有機化合物、それが魔力と結合して透明な半固形の粘土のような性質の団子を形成し、その形成過程で団子の中に取り込まれた大気中の酸素が、団子の中心部で濃縮されながら有機化合物と反応することで、透明な団子の内部に高温の炎を発生させる炎系魔法。

ヒトなど他の生物も使用でき、龍種の場合でも基本的な原理、性質は同じであるが、龍種の場合は主に口部から発動される。

その理由としては、龍の咽頭には神経の網があり、また体内からの魔力が触れやすいこと、魔法に耐えるだけの頑強さを備えていることなどが相まって、口内から魔法を発動することに生物学的な合理性があることと、龍種固有の『龍言語(普通の人間の耳には聞き取れないが、龍同士や一部の亜人、また熟練した上で特殊な鍛錬を乗り越えた魔術師などが聞き取ることのできる、特殊な魔法現象)』によって魔法の制御に補正を加えているからとされている。

龍種がこの魔法を発動すると他の種族よりも規模と威力が高くなるのはそのためである。

炎龍の場合、翼龍と比べると威力、射程、連射性能で上回っており、一度に5連射したり、800メートル先まで投射することなどが可能となっている。

・大笛型睡眠魔法具
地球世界でいうところの、スイス辺りの地方で民謡楽器として使われているアルプホルンというものに形が酷似している魔道具。

睡眠魔法(眠りを促す指向性音波及び気体の合わせ技。中和剤の体内接種にて対処可能)を発生させることができる。

使用者の呼気によって内部に組み込まれた魔鉱石仕掛けが働くようになっており、そのため使用者には強い肺活力が求められる。

この魔道具を扱うのに必要なのは、知力でも技術力でもない。ただ純粋に肉体に宿る鍛え上げられたフィジカル(物理力)である。

その仕様上、音波と気体が相手に到達しなければ効力を発揮しえないが、その有効範囲は凡そ50~100メートル程度。携行性や使用時の手間などを考えると、人間同士の戦場ではあまり役に立ちそうもない。

中和剤を飲むことで効力を無効化できるのもそれに拍車をかけている。

もっぱら野生生物捕獲用の道具である。

・安眠導入魔法装置
幅約1メートルの香炉のような形の魔道具。
別に軍向けの道具というわけではなく、民間向けのものが様々な商会から割と発売されている類の生活商品であり、起動すると内部に入れられた薬剤に応じて様々な香りや薬効の気体を放出して、体をリラックスさせてくれます。
熱で薬剤を温めて気化させるタイプと、音波で気化させるタイプがあるらしい。

・火薬噴射装置
火薬を噴射する装置。地球世界でいう『ギリシア火薬』に相当する。
主に戦列艦の艦首に装備されている。エネルギー充填120パーセント、うてー!
ただし装置の品質に問題があり、火薬のエネルギーに耐えられる構造と強度になっていない(具体的には砲口付近がラッパのように広がっている。砲身が火薬の燃焼ガスにちゃんと耐えられず、砲口付近で生じる圧力の変化で砲口が花のように広がる)ために装薬の威力を上げられず、またエネルギーも拡散して弾がちゃんと真っ直ぐ飛んでくれない。
皇帝陛下がまともな銃や大砲を欲しがるわけである。

・対大型害獣用催眠音波発生装置
巨大な喇叭のような形状の魔法兵器。テスタニア帝国の技術水準では非常に複雑な機構を備える。
そのせいか、あまり稼働率はよろしくないようである。50パーセント出るか出ないか。

個人携行の大笛型睡眠魔法具と比較すると、睡眠ガスを放出しない点で劣るっているように思えるが、ガスなんて使用すればするほどその場に滞留するので、艦隊の全員に態々中和剤を配らなければならなくなるから面倒くさいガスはいらない、となった。

その分音波の射程が個人携行品よりも延長されている。効果もかなりあるそうである。

だが所詮は対大型害獣用である。船の下に付ければ魚が眠りまくって、取りまくれそうって?
いやいや魚は寝ても海面まで浮かんでこないから。

・リウマード・サルゥ・ミルガンド
テスタニア帝国先代皇帝。
穏健かつ開明な人物で、民主制度の導入や奴隷制度の廃止など、開放的な政治改革を目指していたが、(作中2046年の)15年前に惜しくも崩御する。
因みに趣味は地獄絵図集めだが、息子の性格がああなった理由はわからない。

・ベルマード・サルゥ・ミルガンド
・テスタニア帝国現皇帝。28歳。
先代皇帝とは真逆の残虐かつ冷酷無比な人格の人物であり、齢13歳の時に君臨してから奴隷制度の拡張や言論弾圧などの非人道的政策をリードした。
因みに父親の趣味は地獄絵図集めだが、本人の性格がああなった理由はわからない。

・ロスキーニョ・ルガー
テスタニア帝国の侯爵であり、奴隷長官。現皇帝ベルマードの側近役筆頭を務めている。
今作では昔から優秀な兄に劣等感と嫉妬心を抱いている設定となっており、原作とは異なった人物像となっている。
皇帝の様々な無理難題に振り回される中間管理職として、様々な苦労を背負い込んでいるのではなかろうか。
趣味は吹奏楽であり、自宅には大量の楽器が保管されている。
肺活量はそれなりに強いようである。
最近は登山やステップダンス、水泳なども学び始め、ますます肺活量に磨きがかかりつつある。


今回は以上です。次回またお会いしましょう、では。
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