日出づる国、異世界に転移す 非公式外伝『GW』   作:島スライスメロン

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※今回の話は2020年9月に投稿されたものです。
その後の本編の描写と矛盾などがある場合がございます。
ご了承の上お読みください。
この作品はギャグ時空につき、キャラ描写につきましては原作作品と異なる場合がございます。ご注意ください。
ではどうそ。



第3話 陰謀者たちの事件簿その1 カーネギー公暗殺未遂事件② ☆おまけ付き

・前回までのあらすじ

テスタニア帝国の奴隷管理長官ロスキーニョは、ベルマード皇帝の気まぐれ発案による炎龍捕獲任務に出征し、見事3体の炎龍の捕獲に成功する。

この成功に国内での権力が盤石になる中、悪道を突っ走る彼のもとに警邏隊の内偵を名乗る男が現れた。

数多くの贈賄にて経歴真っ黒焦げの彼の身は、一体どうなってしまうのか!?

因みにロスキーニョは難を逃れます(ネタバレ☆)

 

 

【シリーズ『陰謀者たちの事件簿』その1 カーネギー公暗殺未遂事件②】

 

 

  *   *   *

 

 

「私は警邏隊内偵課の者です」

 

!?

 

突然訪ねてきた男の存在に、疑問を抱いていたロスキーニョは、彼が国内、特に政府の悪事を探り、断罪の刃にかける恐るべき存在、内調であることを知り、動揺していた。

 

「(いるのかよ!内偵いるのかよ!)」

 

動揺するロスキーニョは、もしや自身の関わってきた数多くの悪事がばれたのか!?と思い、額に静かに汗が流れ始める。

そんなロスキーニョの様子を気にしているのかいないのか、特に表情や態度を変えることもない目の前の男は、言葉を続ける。

 

「昨日、この皇城内で賄賂の受け渡しが行われていたというタレコミがございました。侯爵閣下には念のため、昨日の行動についてお話を確認させていただきます」

 

それを聞いてロスキーニョは、心の内で人知れず動揺する。

何故なら彼は、昨日どころか何度も莫大な賄賂を各所から受け取っているからだ。

 

「(くそ……!!祈るしかない、この内偵がポンコツであることを祈るしかない……!!)」

 

ロスキーニョ絶対のピンチ!果たして彼はこの危機を乗り越えることができるだろうか!?

尋問後……

 

「失礼いたしました侯爵閣下! あなたが賄賂を受け取った証拠はございませんでした!我々は引き続き贈賄事件を捜査いたします」

 

そういった内調の捜査官は、引き連れた部下と共に帰っていった。

 

「(よしっ!!ポンコツだ!!)」

 

内偵の無能さのおかげで賄賂の受け取りがばれずに済み、安心するロスキーニョ。

彼は、さて疑いも晴れたことであるし、今後も賄賂をじゃんじゃんもらい受けるぞと、気持ちを新たにしていた。

 

がしかし、彼に待ち受ける困難は、これで終わりではなかった。

 

 

  *   *   *

 

 

「侯爵!捕らえた炎龍ですが、非常に衰弱しきっております」

「……なんだと?」

 

尋問の翌日、執務室で積み上げられた書類を前に、承認のサインを筆記する仕事をしていたロスキーニョは、突然の部下の報告に対して意表を突かれていた。

 

「どうやら地下牢の環境が合わないようでして、まるで雨に濡れた子猫のように弱っております」

 

そう報告した部下は、閣下いかがなさいますか?とロスキーニョに支持を仰いできた。

こうして内偵調査での尋問に引き続き、ロスキーニョは炎龍の飼育問題に直面することとなった。

 

「(あれだけ苦労して捉えた炎龍……万が一死んだら、また捕獲に送らされる!)」

 

もしまた炎龍の捕獲などに送られたら、今度こそ命はないかもしれない。

炎龍の痰で頭かち割られて死んでたまるかと、ロスキーニョはすぐさま部下に指示を飛ばす。

 

「よし!私の許可で魔導士を遣わそう!いいか、絶対に死なすのではないぞ!」

 

そして急遽呼んできた龍生物専門の医療魔導士に、地下牢の中で衰弱しきっている炎龍の様子を診せる。

衰弱しきった炎龍を診た魔導士は、ロスキーニョに診察結果を伝える。

 

「運動不足ですね。狭い牢屋の中で、すっかり筋肉が硬くなってしまっています。それと栄養状態もよくありません。ストレスによる肉体の負荷も相当に蓄積しております。こんな状況では、とてもじゃないですが闘獣としての活躍は見込めないでしょう」

 

「どうしたらよいかね?」

 

ロスキーニョの質問に対して、魔導士は冗談のない至極真面目な顔で返答する。

 

「いいですか、よく聞いてください……彼らを自由に遊ばせてあげてください」

 

「……は?」

 

「しっかりと餌をあげて、広い場所で遊ばせてストレスを発散させてあげてください」

 

「え、炎龍を解き放てと?」

 

「ペットの世話は飼い主の義務ですよ、ロスキーニョ侯爵閣下」

「(こいつ炎龍をペットって……私はあいつらの飼い主じゃないわーっ!)」

 

そう思いながらも、何故か管理権が自身のものになっていた(皇帝直々の勅令による)ことから、どうにか対処しないといけないため、知恵を絞っていた。

 

「うーむ、どうしたらよいだろうか。炎龍たちを運動させねばならないといっても、勝手に外に出したら粛清されるし、かといってあの皇帝に意見を仰ぐのも嫌だからな……困ったものだな」

 

そこに部下の男が、何やら報告書を持ってくる。

 

「閣下、首都水道局に派遣する奴隷についてですが……」

 

部下が偶然言った、水道という言葉にロスキーニョは反応し、名案を思い付く。

 

「そうか!水道だ!」

「は?あの、閣下……?」

 

後日、水道局から首都地下の地図を取り寄せたロスキーニョは、その図面を見て自身の名案の成功を確信した。

 

「やはりそうか……私はついている」

 

テスタニア帝国の首都には、膨大な数の住民の生活を支えるための大水道が走っている。

そして炎龍を隔離している牢屋の斜め下にも、地下大下水道の空間があったことから、そこを改造して炎龍の運動スペースとすることを、ロスキーニョは思いついたのである。

 

水道局の長官と会談し、特殊な交渉術(贈賄)で水道工事を行うことを約束させ、皇帝に秘密でこっそり地下大水道と炎龍の牢を繋ぐ工事を行い、地下牢と下水道を繋げる秘密の抜け穴をくり貫いた。

 

大勢の帝国民が毎日出す膨大な量の生活排水が流れてくるそこは、密閉された熱い空間の中で、水と共に流れ着いた生ごみや糞尿などの様々な有機物が腐敗を起こし、発酵することで様々なガスを発生させており、人間にとってあまり過ごしやすい環境とは言えなかった。

 

しかし、元々火山地帯で過ごしていた炎龍にとっては、その空間はむしろ本来過ごしていた火山に近く、むしろ快適な空間となっていた。

 

そんな空間を与えられた三匹の炎龍たちは、限られた空間ではあるものの、牢屋より広くて身体のこりをほぐせる運動が行えることから、不調が治っていった。

 

更に、地下に出没する新鮮な生き物たちを食らうこともでき、更に発酵した食べ物という『嗜好品』と、あらゆる栄養素が詰まった『下水』という御馳走に囲まれたこともあって、みるみるうちにストレスを晴らしていった。

その結果……

 

「なんだか最近炎龍元気じゃないか?」

「そうだな。あれなら皇帝陛下の機嫌を損ねることはなさそうだ」

 

炎龍の世話をする兵士たちの会話を聞いて、ロスキーニョは一先ず安心する。

彼は最近すっかり日課となった、秘密の抜け穴を塞ぐ隠し扉を魔導仕掛けで解放する仕事にすっかり慣れ切っており、牢から水道に移動してくつろぐ三体の炎龍の様子を、巧妙に隠蔽して設けられた水晶製の隠し覗き窓から見て、心を和ませていた。

 

「ははは、最初は恐ろしい怪物だと思っておったが、こうしてみると実に可愛らしい蜥蜴ではないか」

 

ロスキーニョは、自身が世話を取り仕切っている3体の炎龍に対して、愛着が湧きつつあった。

 

「なんだろうなこの感覚。世間の荒波を離れてゆっくりと落ち着ける……これが幸せというものか」

ロスキーニョは、苛烈な職務の合間にほんの少しだけ挟まれる何事もない時間に『癒し』を感じながら、心を穏やかにしていた。

 

昼間に地下牢の秘密扉を開けて炎龍たちを広大な自由空間を持った『牢屋』として改築された地下大水道の一区画に移動させ、夕方の日の沈むころに他の区画からくみ上げた水を流し込むことで炎龍たちを地下牢まで戻す、そんな単純な作業が、ひたすらに平穏の象徴あった。

 

「できることならこのまま一生、ここで炎龍を見ながら余生を過ごしたい……」

 

心を穏やかにするロスキーニョは、そんな密かな願いを胸に秘めつつ、日々帝国を牛耳る陰謀を巡らして、充実した毎日を送っていた。

 

だがしかし、そんな状況はある日を境に一変してしまう。

 

日本国の出現である。

 

 

  *   *   *

 

 

突如として異世界に出現した地球世界の国家、日本。

2045年の時間からやってきたその強大な国家は、その優れた技術力と人間力をもって、瞬く間にロイメル王国とアムディス王国含むドム大陸国家と国交を結び、勢力を増大させた。

そして、そんな日本に愚かにも宣戦布告してしまったテスタニア帝国は、動員した兵20万のうちの18万が4日も経たずに全滅し、更に奴隷の突然の大量失踪と、それに同調した反乱もあって、瞬く間に敗走していった。

 

「悪いがベルマード皇帝はここまでの男のようだ。もはや見捨てるしかない。

まあ、あれはあまりに愚かすぎたからな、当然の報いといえよう。

さて、私は日本国と兄上に協力し、隙を見てこの国を支配してやることとしよう。

恐らく一番の障害は兄上だな。ここは私直接動くとするか……」

 

ロスキーニョの予想通り、ベルマード皇帝は瞬く間に進軍してきた日本国の自衛隊に捕らえられそうになった。隙を見て逃げ出したものの、どこかに消えて未だ姿を現さない。

恐らく戦闘のどさくさに紛れて死亡しただろう、と推測したロスキーニョは、戦闘終了後、早速怪しげな動きを見せ始めたカーネギーの後をつけ、その目的―先代皇帝と共に葬られた法案の復活―を知って、自らの野望が阻まれようとしていることを理解すると、実の兄であるカーネギーを自らの手で謀殺した。

ボウガンの矢が体に突き刺さり、帝都郊外のファムスの丘の高台から落ちて、下にある川に流されていくカーネギーを見ながら、ロスキーニョは呟く。

その声は冷酷でありながらも、どこか哀しみの色を帯びていた。

 

「……永遠の別れだ……兄上………(例え血を分けた兄弟といえど、邪魔ならば廃除するのに躊躇はない。

あれの失態は先代の皇帝を敬愛しすぎたが故に、時流の読みを間違えたこと。

それで私が勝った。最後の最後で愚かだったな、兄上よ。

これからは私が帝国の皇帝として、あなたに代わりこの国を導いて行きます

そう、この国をより強大な『力』でね……)」

 

皇帝と兄いう2人の邪魔者が消えたことで、遂に表に表れ始めたこの男の野心。

テスタニアはこのままロスキーニョの持つ『狂気』という名の闇に支配されてしまうのか?

 

 

が、しかし。

 

 

ロスキーニョが兄であるカーネギーを謀殺した数日後、日ロア同盟との会談を前にして、突如失踪してしまったカーネギー公に代わる代表者を選定する会議に、ロスキーニョは出席していた。

無論野心溢れる彼は素直に日本と会談するつもりなど微塵もなく、ある計画を立てていた。

 

「(ククク、会談に表れる日本、ロイメル王国、アムディス王国の特使を捕らえて人質にし、例の『雌エルフ』との交換のだしに使う……奴らは確実に要求に応じるだろう。その愚かさゆえにな。

そして『雌エルフ』を手に入れて、その力を利用することで、私は炎龍たちを完全に支配下に置く。

手元に置きながらも、頬を撫でることすらもできない炎龍たちを……

ハルディーク皇国も狙っているようだが、3体の炎龍を操る我らならば、かの国をも退けることができよう。

そして列強国を超えた力で、私は世界の全てを……

……フフフ、我ながら名案だな。絶対に我が国をより強大な帝国へと変え、かの列強国すらも凌ぐ世界最強の支配者として君臨するのだ!)」

 

自身の壮大な野心計画に酔いしれるロスキーニョは、筋書きどおりに事を進めるべく、予め内通者としてリマーベル・サナル伯爵、クリフトフ・ビュース伯爵、ベーデル・ビョルリンゲル子爵を用意した。

万全の態勢を整えた彼は、会議という名の茶番劇の始まりを今か今かと待ちわびていた。

 

さて、そうして彼が赴いた会議会場では、参加者たちが絶対に姿を現すことのないカーネギーの登場を待ちわびるも、ロスキーニョの策略によってそれは実現しなかったため、カーネギーがいないまま始まることとなり、この場に邪魔者などいないと密かに喜んでいるロスキーニョが会議を私物化するべく動く。

 

が、しかし。

 

「では……先ずは立候補者を―」

会談のために代表者を選定し始めた議長の言葉に、即座に反応したロスキーニュは、キタッ!と思いながら自ら躍り出る。

「(キタッ!)では私―」

 

まずは先手を取る、そうすれば議会の流れを掌握できると思い、ロスキーニョは先走った。だが、事態は彼の予想外の方向に進んだ。

 

「―確認する前に、議長である私から1人推薦者がいる!」

 

 

「―が立候補を……(……ん~?)」

 

思いもよらない議長の言葉に、機先を取ろうとしたロスキーニョは困惑した。

 

「(……うわあ思いがけないフライングスタート!?なんだなんだ?一体全体何が起こったぁ?)」

 

まさかの事態に思わず困惑するロスキーニョ達を余所に、議長は突如ギリガン・スウォルト侯爵を推薦したいと思っている、と言葉を続け、ロスキーニョを驚愕させた。

議長の推薦に、普段は銀鎧を着た猛将としての姿を広く知られているものの、今回は地球でいうところのトーガに似た白い衣服で身を整えているギリガンが、喜んで引き受けましょう、というと、その場の議員たちは興奮してオォォォーーーーーーーーー!!と雄たけびと喝采を上げた。

議長の先の読めない言動によって状況が思いもしないものになったことに困惑しながらも、ロスキーニョ以下の陰謀に関わる面々はどうにか支配権を握ろうと、あの手この手で会議の流れを自分有利に整えようとする。

まず動いたのはクリフトフ氏である。

 

「ちょ……ちょっとお待ち下さいッ!」

 

クリフトフは語る。

ギリガン侯はつい数年前に『侯爵』の称号を与えられたばかりであり、侯爵として働いた経歴、経験が浅いこと。

それに先日の海戦で、大敗を喫しながらもおめおめと逃げ出した、所詮腰抜けであったこと。

そんな人物がこの栄えある帝国の代表者として選ばれることに、自身は納得出来ないが、皆はどうであるのか、と。

 

クリフトフの咄嗟の機転に、人知れずロスキーニョはガッツポーズを上げた。

 

「(いいぞクリフトフ伯爵!さすが私が見込んだ小物、こういう場面で頼りになるな!そのままギリガン候を扱き下ろしてくれ!)」

 

そしてクリフトフの機転によって、議会の流れが自の望む方向に変わり始めたのを見たことで、ロスキーニョは人知れずほくそ笑んだ。

 

が。

 

「別に『侯爵』になったばかりでも良いではないですか?それに……海戦で戦った相手は『ニホン国』、負けるのは(かつてと違いその実力が判明した今でこそ言えることですが)致し方なかったでしょう。

むしろ(絶望的な状況下で)兵を悪戯に減らさずに賢明な判断力で撤退というある意味勇気のいる行動を取った。

(問題が全くないとは言いませんが)彼は十分代表者としての資格はありますよ、そうは思いませんか、クリフトフ殿?」

「よ、ヨドーク公……!?」

 

クリフトフの意見は、ヨドークによって冷静に退けられてしまう。

突然の横やりに、思わず挙動が乱れてしまうロスキーニョ一行。

 

「(くそう!折角議会の流れが変わってきていたのに!クリフトフやっぱり役立たず!)」

 

事態に対応しきれないリマーベル、クリフトフ、ベーデル達3名は、揃ってロスキーニョへ視線を向け助けを求める。

 

「(ロスキーニョ侯爵……ボスケテ……)」

 

そんな三名の情けない失態に、ロスキーニョはかなり焦る。

 

「(うわあこいつら……凄く役立たず。3人寄れば文殊の知恵とは何だったのか)」

 

何故か日本の諺を知っていたロスキーニョは、どうにか話をそらそうと、話題の焦点をずらすために議長に話を振る。

 

「少し宜しいでしょうか議長殿?

確かにギリガン侯は軍人としては非常に優秀なお人です。それは私も認めています

(そう、確かに軍人としては優秀な部類に入るのだろう、だが……)」

 

ロスキーニョは口ではギリガンを讃えたものの、心の内では『最も、兄上に似て甘い理想主義などに陶酔するような、所詮頭の緩い愚かな老人に過ぎないがね……』などと、ギリガンに対する蔑視の念を抱えて嘲笑していた。

ロスキーニョの言葉は続く。

 

「ですが……そんな根っからの軍人をこの国の代表者とするのはいかがなものかと思います(という理屈で納得しろ!)。

ましてや一度敗戦を喫した軍人など……納得しませんよ、私は(理屈なんぞどうでもいいが、私は絶対認めん!)」

 

ロスキーニョは、一度はギリガンを讃え上げることで歪んだ自己愛に凝り固まった悍ましい本質を他者に悟られないように工作した上で、最もらしい理屈をつけてギリガンの能力不足疑惑を浮き上がらせてみせた。

この巧みな弁舌技術こそが、これまで皇帝の側近を務めあげてきたロスキーニョの得意とする、他社を蹴落とす必勝の策略術の根幹であり、咄嗟の機転を利かせたロスキーニョのその巧みな弁舌に誘導された周囲の議員は、議長のギリガン推薦に反論を立て始めた。

 

「い、言われてみれば確かに……そんな気がしないこともないかなあ?」

「確かに軍人を国の代表者として行かせるのは……チョットなぁ、まずいかも」

「そうですな、あの男は、一度この国を敗北へと導いた男だ!……そんな男に会談など任せたら、またどんな失態を犯すか!」

 

「(フフフ、例え権力の座に着いていようと、所詮こいつらはノリと勢いで生きている下劣な存在……賢人が小難しい言葉で語る真実よりも、阿呆が大声で叫ぶ支離滅裂な嘘を信じ込む愚かなサルに過ぎん……)」

 

野次馬と化した議員達に、いいぞお前ら!と密かに声援を送り始めるロスキーニョ。

議会の流れが自分優位になってきたのを見計らった彼は、ここで勝負に出る。

 

「国の代表者には『知識』『教養』『統率力』『支持率』が必要だ。

そしてカーネギー公にはその全てを兼ね揃えていた……」

 

嘘さ、兄上にそんなものはない、あるのは私だというのがロスキーニョの真意。

だがこの男は勝負に勝つためならば、いくらでも外面の良い嘘を吐き続けることができる。

そしてそのことに対し、この男が疑問や迷い、躊躇を抱くことはなく、反省もない。

彼こそはロスキーニョ・ルガー。権力欲に凝り固まり、他者を蹴落とし続けてきた悪魔のような男であり、時代の覇者の座を狙う陰謀者である。

その陰謀者の演説が、最高潮に達する。

 

「だがしかし!!そのカーネギー公が『賊徒に射られ死んだ』今!!

その代わりとなる新たな逸材人を代表者にする必要がある!!

よって……代表者にはカーネギー・ルガー公爵の弟である……この『ロスキーニョ・ルガー侯爵が引き受けます』!!」

 

やるべきことはやりつくした、後は周囲の反応次第だ、と身構えるロスキーニョ。

 

その演説が終わった時、まず一瞬の静寂があった。

だがそれはすぐに熱狂へと変わった。

 

―おおおおお!―

 

ロスキーニョの演説に感銘を受けた議員たちが盛り上がる。

 

ロスキーニョの演説で使われた言葉も仕草も、全ては計算の上に成り立つ偽りだらけのはったりだ。

 

だがそのはったりを利かせた欺瞞塗れのロスキーニョ一世一代の大芝居に、リマーベル、クリフトフ、ベーデル達も乗っかかり、場の空気はロスキーニョ一色に染まる。

そして議員たちが喝采し始め時、ロスキーニョは勝利を確信した。

 

「(決まったな!これであとは会談に赴き、計画を実行するだけ……)」

 

もはやこの流れは誰にも止められない。議長やギリガンといった障害に思わず焦ってしまったが、最後はやはり自分の思い通りになる、それこそがこの窮屈で下らない世界の法則であり、神の作った絶対真理なのだ……そうロスキーニョが勝ち誇っていたその時であった。

 

先ほどから沈黙し、静かにロスキーニョの演説を観察していた議長が口を開いたのは。

 

「それは……少し可笑しな話ですなぁ、ロスキーニョ候」

 

突如議長が、場の熱狂に水を差すような一言を漏らしたことで、場の空気が覚め渡り、しんと静まり返ったような緊迫した空気に変わる。

 

「…それは……一体どういうことでしょうか?(!?……何に気が付いたのだ!?)」

 

議長は特徴的な髭を何回か撫でた後、ロスキーニョ侯の方に威圧的な目を向けながら答える。

ロスキーニョはその議長の不審な態度に、つい気圧されてしまう。

 

「(な、なんだこいつ……目力が凄い。まるで4択クイズの答えを精いっぱい引き延ばす、色黒の司会者のそれなんだが!!)」

 

なぜかまた日本人にしか通用しない、しかも微妙に古い例えを頭に思い浮かべながら、顔を僅かに強張らせるロスキーニョ。

その妙な態度に気づいたのか、議長は一瞬にやり、と不敵な笑みを浮かべ、こう言い放った。

 

「ロスキーニョ侯―私は……

 

カーネギー公が『死んだ』などとは一言も『言っていませんが?』」

 

「―なっ!?」

 

ロスキーニョはその瞬間あっ、しまった、と思った。

彼は理解してしまったのである。自らの犯した、全てを台無しにする失態に。

 

そんなロスキーニョの前で、議長のロスキーニョに対してのみ残酷な言葉は続いていく。

 

「フゥム、実に可笑しな話だ。

私は、カーネギー公は『不在』と言った。

だが、貴方は『死んだ』と答えた……それも『賊徒に射られた』という理由も付けて……

それは何故でしょうか?」

 

議長の言葉を聞いたロスキーニョ候は、そう、そこだと、自らの犯した覆しようのないミスを振り返り、悔しんだ。

先ほどの『賊徒に射られた』というくだりは、後日捜査が入った際に誤魔化すために、予め用意していた『虚偽の事件内容』だったからだ。

本来なら買収した捜査員に語らせるはずだったそれを、先ほど冷静さを失った際に思わず言ってしまったのだ。

自ら発案した策に、自らの掘った墓穴で嵌る……それはロスキーニョのような陰謀者にとって、最大の屈辱であった。

そして、議長の指摘をきっかけにして、他の議員も先ほどまでのロスキーニョたちの不審な行動に気づき始める。

 

「そういえばそうですな。一体ロスキーニョ侯はどこからそのような情報を得たのでしょう?―不自然だ」

「自身の兄を簡単に『死んだ』という人は普通いませんね―その実行に関わった者でなければ」

 

議員たちが口々に不審点を上げ始めると、追い詰められ始めたロスキーニョは、だがしかしこの状況に心が追いついていなかった。

 

「(野次馬、心変わりはっやい)」

 

ロスキーニョは、変わり身の早い議員たちの動きに、もはや警戒すら通り越して、(疾きこと風の如く……これが野次馬騎馬隊かあ~)と、賞賛の意すら湧き上がっていた。

 

「そういえば先ほどからリマーベル伯、クリフトフ伯、ベーデル子爵もやたらとロスキーニョ侯を立てているような?はて、一体どのような事情があるのでしょうかねぇ?……」

 

妙に鋭いことを言う議員たちの言葉に、もはやロスキーニョの世間体は崩壊寸前であった。

 

「(ええいおまえら……やめろ、やめてくれ、揃いも揃って、みんなの前で行動の粗を言うのはもうやめてくれっ!!)」

 

あまりの屈辱に、『恥』という言葉が何度も脳裏をよぎっていくロスキーニョはしかし、無駄と理解しつつも自らの置かれている逆境を覆そうと試みようとした、その瞬間。

その場に、ロスキーニョが一番予想していなかった人物が現れ、遂に事件の真相が明らかになったのである。

 

「もう苦しい言い逃れはよせロスキーニョ侯」

「ッ!? その声、まさか……(まさかまさかまさかまさか!馬鹿な!?)」

突如聞こえてきたのは、ロスキーニョにとって『とても聞きなれた声』であった。その声がする方向へ議会の一同が一斉に目を向けるとそこには……彼が自らの手で殺め、川に落ちたはずのカーネギーが立っていたのである。

 

「あ、兄上ッ!?(なんで生きてるの!???????????)」

 

死んだはずの兄のまさかの登場に、ロスキーニョの顔が思わず真っ青に染まる。

 

「幽霊ではない……ホラッ!足もちゃんとあるぞ」

 

目の前の兄が幻ではなく、生存した本物の兄であることを理解したロスキーニョは、更に顔を青く染め、むしろカーネギー以上に幽霊のような姿を晒す。

 

「(ああああ足なんてあんなの飾りだろう兄上ェェ!?)」

 

80パーセントの完成度の理論―何の理論かは不明―で所詮偉い人であるカーネギーに口出ししそうになったロスキーニョはしかし、その言葉を口に出すことができないほど焦燥しており、焦燥のあまり口から黄色いビームのようなものが吹き出そうになっていた。だがそれを出すとCERO的に大変なことになるので、必死で留めていた。

 

「(ああ、不味い出そう……それはそれとして、問題なのはあの状況で兄上は確実に死ぬはずということ!何故生還を……)」

 

そう思いながら兄を動揺した目で見ていたロスキーニョは、カーネギーが少し横に動いた時に背後から姿を現した、兎獣人バンデットバニーの子供に気が付く。

「(なんだこの子供は?兄上の小姓か?)」

ロスキーニョはそれをカーネギーの『奴隷』だと思ったが、その子供が発した言葉に、思わず自らの耳を疑った。

 

「戦争が終わって……母さんと『父さん』と一緒に国へ帰ったんだ…。

その後すぐに『父さん』は「大事な用があるから」って言って、直ぐにお城へ行ったんだ。

僕は人目のつかない川沿いの森で一人で遊んでたら……聞こえたんだ。

だんだん弱くなってくる…『父さん』の心臓の音が……そしたら」

 

怪我をしたカーネギーが見つかった、というわけである。

 

ロスキーニョは最初、『父さん』が誰のことを指しているのか理解していなかった。しかし目の前の兎獣人の子供を優しく撫でる兄の姿と、そんな兄を安心しきった目で見つめる子供の姿を見て、全てを悟った。

 

「(お父さん!?……兄上に息子だと!?

兄上に獣人の子供がいるなんて、そんな報告一切受けてないぞ!?

私身内なのに!?なんですけど!?)」

 

ロスキーニョは、身内の突然のカミングアウトに頭がついていけない、中高年の悲しい性を発揮して、状況を理解しながらも現実として受け入れることができなかった。

 

そして、子供が兄を助けたこと、その兄が生きてこの場にいることで、その場の全員が事情を悟ったことを、ロスキーニョは思い知ることとなる。

 

やがて数人の警備兵に取り囲まれたロスキーニョは、最後の望みとして、議会席にいたリマーベル伯達に助けを求める目を向ける。

 

「(そうだ、リマーベル伯!クリフトフ伯!ベーデル子爵!助けてくれ!頼む……なあ……)」

 

しかし、彼らはシラを切るような素振りを見せ、目立たないようその場を後にした。

 

だがそのことがかえって、ロスキーニョの『黒さ』を証明することとなったのである。

 

(はぁッ!?……あ……あぁ……なんで……なんであいつらあああっっっ!!!!)

 

ここで望みを絶たれたロスキーニョは……『狂った』。

この時彼の胸の内に宿ったのは絶望と憤怒、憎悪、そして『悦楽』。

これまで自身が纏ってきた嘘という名の鎧を取っ払って、裸の本性を現したことで、この世の全てを下らぬ茶番と嘲笑いながらも、激しく嫌悪し否定せんとする狂人の精神領域に足を踏み入れてしまった……

否、既に足を踏み入れていたものの、これまで表層に出てこなかった醜い部分が、ようやく自制の窮屈さから解放されて誕生の産声を上げたことで、実体を得たのである。

そして狂人と化した彼は、その感情の対象をこの国の全てに対し向けることで、人の姿をした『悪魔』へと変貌した。

 

「ヒヒヒ……ィ」

 

狂ったロスキーニョは声を上げて大きく笑う。新たに地上に生まれた悪魔の産声が、世界を埋め尽くさんとするかのように……

 

「ヒィ〜ヒヒヒヒッ!

アヒャッ!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャー!

ケヒィーッ!短けぇ夢だったか………もう………

 

もういらねえやこんな国!があああああああああああっ!」

 

そうしてテスタニア帝国を手に入れることを諦め、滅ぼすことを独善的に決定したロスキーニョは、周囲の警備兵に取り押さえられながらも、隠し持っていた携帯用魔伝石を使って、炎龍の閉じ込められている『赤門』を管理している、常勤の兵に門を開放する指示を伝えることに成功した。

 

 

「(陰謀って……最後は結局フィジカル!キヒッ!)」

 

 

  *   *   *

 

 

……さて、ロスキーニョが密かにそんなことを考えている頃、彼の連絡を受けた赤門では、駐留する兵士たちによって炎龍を解き放つための作業が慌ただしく行われていた。

 

赤門の近く、地下に建設された赤門管理室の中で、兵士たちが壁に開けられた穴から出ている、何処かに繋がった紐を引っ張って、赤門の仕掛けを駆動していた。

 

「Fours gate open! (4種の拘束制御術式解放!)

Force gate open!(軍用拘束制御術式解放!)

Quickly! Quickly! horse gate open!(早く!早く!軍馬の疾走のように拘束制御術式を解放せよ!)

Fourth gate open!(第4拘束制御術式解放!)

20 seconds before. All out! Pull the throttle! All right Let's go!(20秒後、水道弁開き牢内に注水を開始せよ!)」

 

厳重に施された4種の軍用魔法防壁が解除され、まず第1防壁である巨大な魔鉱金属板張りの木製扉(大きな一枚の鉄板を作れないため木材に小さな魔鉱金属板を何枚も張っている)の地上3か所の赤門が、特殊な魔法仕掛け(魔導蒸気を使った古代ローマ式自動扉開閉)によって左右に開いていく。

その中には地下に続く坂道が見えるが、その途中には地上赤問と同じような扉が3枚続いており、それらも地上3か所の第1門と同じように魔法仕掛けで開いていく。

その厳重な扉の奥にこそ、炎龍たちが隔離されている地下牢が存在していたが、その地下牢では地下大水道からくみ上げられた水が、秘密裏に通された水道を通して地下牢の天井や側面の壁などに設置されているスプリンクラーから放出されることで、地下牢が水浸しになって沈み始めていた。それにより、そこにいる炎龍たちは強制的に牢から追い出される。

 

ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ〜ッ!という地響きが地上を震えさせるほどに、その工程は大掛かりであった。

 

そうして強制的に地下牢から這い出てきた炎龍は、久しぶりに見る太陽照り付ける地上世界に、猛烈な鬱陶しさを感じながらも、自由という概念を記憶の底から蘇らせて、これまでの地下生活の鬱憤を爆発させていた。

 

―ギャオオオオオオオオオオオオオッ!!!!―

 

憤怒の籠った咆哮を高らかにあげるのは、ロスキーニョが苦労して捕獲し、その後も色々と趣向を凝らして飼育していた3体の炎龍。

 

―『ヘトヴィヒ』―

 

―『シュナーベル』―

 

―『ツェプター』―

 

巨大な翼を羽ばたかせるたびに、多量の火の粉を蝶の鱗粉か、さもなくば名探偵の孫のジッチャンのフケのように撒き散らしながら、大空を優雅に飛行する。

地下に這いつくばる亡者から、空の王者としての権威を取り戻したそれらは、もはや人間の支配を受けつけることなく、破壊者としての本能のままに帝都を襲う災害と化した。

 

 

   *   *   *

 

 

ロスキーニョが苦労して捕獲した3体の炎龍が地上に解き放たれる。

地下の密閉空間で長い年月に渡って、寝て食って遊ぶ自堕落生活を送っていたことですっかり英気が養われていた炎龍は、久々の地上に興奮しながら、空と大地という広大な世界を支配していたことを思い出すかのように、激しく暴れ回り始めた。

このまま地上は地獄に変わってしまうのか?

 

「いいぞ、ヘトヴィヒ シュナーベル、ツェプター!このままこの国を亡ぼすのだ」

 

3体の炎龍の活躍に心振るわせ、興奮するロスキーニョ。

生まれ育った世界への未練を断ち切るかのように、悪意に塗れた凶悪な心をさらけ出す。

その解放感は、これまで仕方なく抑圧していた分の反動で、実に快適な気分を味わっていた。

世界の全てが自分のもののような万能感に、精神が肥大化していくロスキーニョ。

が、しかし。

 

 

―「『新しい友達』に助けてと伝えるんだ」-

 

 

カーネギーの秘密の作戦によって、日本国航空自衛隊の戦闘機であるF-35Jが颯爽と登場したことによって状況は一変する。

 

F-35Jは地球の先進科学によって実現した、炎龍をも凌ぐ高度な戦闘能力をもって、瞬く間に3体の戦闘力を奪っていった。

F-35Jから投下される細長い槍状の形をした巨大な武器―ミサイル―が、その後部から爆炎を吹かせながらこの世界のどんな弓矢よりも凄まじい速度で飛翔し、更に風や重力による影響に縛られない自由かつ意図的な軌道を描いて炎龍に着弾する。

 

―ドドドドォォーーーーーーンッ!!―

 

地球世界製の高性能炸薬を凡そ10数キロほども積むことで、大型爆撃機ですらも破壊しうる威力を発揮する中距離空対空ミサイル。この世界の対空兵器で比類するものがないほどに強力な破壊力を秘めたそれの爆発をまともに食らい受けることで、瞬く間に重傷を負っていく炎龍たち。

養った生命力のおかげか、3体の炎龍たちはミサイルの一撃にもなんとか耐えることに成功していたが、爆発の衝撃と飛散した破片によって、大木のように太ましい腕は無残に千切れ、要塞の壁のようだった鱗は掘り返したように捲れ剥がれており、肉体の半分以上から出血するほどの深刻な傷を負っていた。

警備兵に身を拘束されながらも、議員達と共に避難しながら偶然空を見上げた時にそれを目撃したロスキーニョは、あまりの事態に驚きを露わにする。

 

「な、なんだあの武器はっ!?ヤバイ!!!」

 

爆発する兵器自体はロスキーニョも知っている。所詮火薬というものは、低い文明に属するテスタニアにおいてもその存在を知られており、多少の保有もしている(だからこそ銃や大砲も製造に踏み切ったのだ)。

しかし日本の未知の兵器から放たれた武器の破壊力は、ロスキーニョの、いやこの国の全ての人間の知る火薬の破壊力とは、あまりに格別した凄まじい威力を発揮していたのだ。

 

「日本の力があそこまで強力だとは予想外だ……に、逃げるのだ炎龍よ、ヘトヴィヒ、シュナーベル、ツェプター……!!」

 

重傷を負いながらも、その瞳に闘争心を燃やしてF-35Jとの戦いに挑む3体の炎龍。

しかし炎龍がF-35Jを獲物として捉える以上に、炎龍を獲物として捉えていたF-35Jは、ロスキーニョの悲壮な願いを木っ端みじんに討ち砕くかのように、再度ミサイルによる大変遺憾である無慈悲な攻撃を行い、そして今度こそ炎龍の肉体に致命打となるほどの損傷を与えた。

 

―ドドドドーーーン!!!!―

 

それによって最後の生命力を喪失した3体の炎龍の肉体が、地上に墜落していく。

ドシン、という轟音と共に大地を打った炎龍の肉体は、もはやそれが魂の抜けた肉殻ですらなくなって、静かに横たわっていた。

その光景を見たロスキーニョは、あまりの大きな悲しみに、肉体の力全てを使って慟哭した。

 

「ヘトヴィヒー! シュナーベルー! ツェプターーーー!うおおおおおっーーーー!!!!

……アーハハハハハハハ!!!!!なんてこった!アーハハハハハッ!!しんじまった!!えんりゅうが、さんびきのえんりゅうがバアーンって、バアーンって!!!!

 

……嘘だ嘘だ嘘だッ!こんなこと起こってたまるか!はははあぁっ!!」

 

三頭の炎龍を失って、ロスキーニョは慟哭した。

ロスキーニョにとって、彼らは皇帝の無理難題によって芽生えるストレスからロスキーニョを守る、心の支えとなっていたのだ。だがそうであったからこそ、彼らの喪失で心に強い衝撃を受け、そしてそのことが彼の狂った心を激しくかき乱して、一周回って奇跡的に正常な思考に戻った。

 

だがしかし、正常な思考を取り戻しながらも今の自身の状況に納得がいくはずもないロスキーニョは警備隊に取り押さえれれながらも、その場で暴れだしていた。

 

そんな取り乱している彼の哀れな様子を見て、冷たく声を投げ掛ける者がいた。

 

「哀れなものだなロスキーニョ、私の弟よ」

 

ロスキーニョの兄であり、陰謀によって命を落としかけたカーネギー公その人である。

彼は、人が目を背けるような陰惨な陰謀術の限りを尽くして権力の座を掴みながらも、それが覆された途端に全てを失ったロスキーニョに対して、役職に縛られた公人の立場ではなく、家族として―血を分けた実の兄として―の言葉を掛ける。

 

「ハハハハハッ……あー……兄上、兄上ェッ!!」

 

警備隊に取り押さえられる中、ロスキーニョは声を掛けたカーネギーに対して、その怒りと悲しみに満ちた視線を、刺し殺さんばかりの気魄を込めて向ける。

そんな態度を見たカーネギーはしかし、特に責め立てるような様子もなく、ただ淡々と、しかし冷酷な言葉を吐き出し始める。

 

「金、名声、権力、力……それに囚われ、追い求めるばかりだと、いつしかそれらに支配され、自らの意思すらも見失ってしまう。

悪魔に身を捧げ、その魂を差し出すことは、自らを奴隷に貶める可能性を秘めているのにも関わらずだ」

 

そんな兄の厳しくも甘い言葉に、ロスキーニョは思わず反論した。

 

「臆病者の貴様が、何を言い出すのか兄上よ!

貴様は先代の皇帝の影を追い求め、帝国の現状を変えようとすらしていなかったではないか!

あの、我が国の主要産業である奴隷貿易を潰し、国を衰退させんとした、愚かなる皇帝リウマードの影をだ!」

 

それに比べて、帝国を今のように立派に発展させたのは私だ。私がいなければこの国はとっくの昔に衰退していたであろうに、それを未然に防いだ私はなんと素晴らしく、そして兄上はどうしようもなく愚かなのかと、ロスキーニョは上機嫌に捲し立てる。

だがそんな弟の様子を冷めた目で黙って見ていたカーネギーは、こう言葉を返した。

 

「だがしかし、そうやって目先の利益ばかりを追い求めたが故に、我が国の臣民の目は何時しか曇りきって、国を愛する無名ながらも勇敢なる者たちが、戦の最も危険な場所に無思慮に送り込まれて、その代えがたい命をなんとも下らないことで使い潰されるようになってしまった。

 

しかもその裏では、金回しの算段ばかりを好んで自ら死地に立つことすらも忘れた、哀れな金の亡者たちが、これぞ我が世だとでもいわんばかりにのさばり、そしてそんな者たちの元に、我が国を搾取せんという悪行を目論んで近接してくる、他国の夷敵達が訪れるようになったのにも関わらず、その危険性を軽視して受け入れ、関係を癒着するようになったがために、この国の貧しき民たちを支えるはずの富が、個人の見栄のためや、異国の誤った発展のために浪費されるようにもなったのではないか?

 

 

そのような国は果たして……そう、金の亡者たちが義者を使い潰し、誰も彼もが見てくれの美しさと、卑しいけだもののごとき本性のために疑心暗鬼に駆られて自己の利益ばかり追い求める徳無き国が、足元が崩れ始めたときにそれに気付きを得て対処することが可能であろうか?

心ある他者から、善意による救いの手を差し伸べてもらえるだろうか?

 

先代のリウマード皇帝陛下は、我が国がそのような砂上の楼閣になることを危惧し、だからこそ改革を図ろうとしたのだが……その先代の努力を、お前は残念なことに台無しにしてくれたな。

 

ロスキーニョ、お前の敗因はこの私を殺め損ねたことではない。

この国の、いやあらゆる世界でそこに暮らし住む、普通の人々の中においてさえ普遍的に存在する、他者を思いやる優しさ、そして種族や立場を乗り越えて、算段なく純粋に他者に手を差し伸べて協力する勇気、そんななんの変哲もなく、だがしかしそれ故に尊いものにこそ、お前は敗れ去ったのだよ。

 

今のお前にはもはや理解できないことかもしれないがな。

亡者の髑髏の上に立つ、不安定な雪の玉座を夢見ている、今のお前にとっては」

 

カーネギーは友人のギリガン侯とヨドーク公に、無名ながらも国のために貢献している前線の多くの兵士たち、これまでの過酷な扱いから反乱を起こしながらも、過度の復讐行為を抑えて理性的に行動した奴隷たち、今回の戦争に巻き込まれながらも手を貸してくれた日本人たち、そして今は亡きリウマード皇帝の姿を思い浮かべながら、弟の語る現在の『素晴らしい』帝国の有り様に疑問を呈した。

 

即ち邪智暴虐なる皇帝の下で、限られた一部の人間ばかりが他者の支配や蹴落とすことで身を富み続けることの危険性。またそのような者たちが、貧しいながらも真に国を憂うものを陥れて、足を引っ張ったり騙して利用することで安易に保身を図るような体制。

 

そんなものは、脆く崩れ去る儚い幻想でしかなくなるかもしれないが、それがお前の望む素晴らしい帝国とやらで、そしてお前はそんな掃きだめのような所の皇帝になどなることが、本当の幸せだと考えているのか、と。

 

そんなカーネギーの言葉を聞いて、だがそれでもなお意地があって自論を引き下げないロスキーニョと、そんなロスキーニョを鋭い眼差しで見据えるカーネギー。

 

「ロスキーニョ……」

「兄上……いやカーネギー……」

 

相反する二人の対立はしかし、お互いに引くことはなく、一触即発の空気をその場に生み出す。

 

このままでは際限の無い争いに発展してしまう……そんな張り詰めた空気はしかし、そこに急遽飛び込んだ第三者によって、唐突にかき乱された。

 

「やめて……父さんに関わらないで」

 

カーネギーの義理の息子カリムが、カーネギーを守るために、ロスキーニョとカーネギーとの間に立って、ロスキーニョを牽制した。

 

「ヒャー……この子供……兄上の!」

「そうだ。私が保護して育てている、私の義理の息子カリムだ。

お前に会わせたのは初めてだったな」

 

先ほどの衝撃的な新家族発表の時は思わず動揺してしまってたが、カーネギーによって正式に宣言されることで、ロスキーニョは改めて事態を把握する。

兄上よ、貴方は私を非難していながらも、自らも人飼いを?……ロスキーニョはそんな視線をカーネギーに向けながら、心無き傲慢な言葉を浴びせる

 

「ははは、所詮兄上も私のことをとやかく言えませんな。義姉上との間に御子が生まれないからといって、そのような兎を代わりに飼っておいでとは。

ですがこのような獣など、獣人など所詮我らヒトの奴隷、家畜に過ぎない。しかしこの兎は実に状態が良―

 

「僕は奴隷じゃない!!」

 

―い……!?」

 

自身の言葉を遮るように、カリムが大声を上げたのを見て、ロスキーニョは気圧される。

そんなロスキーニョを押すほどの威圧感を出しながら、カリムは言葉を続ける。

 

「僕は……僕たち獣人は、誰かの奴隷なんかじゃない。

僕たちはただ、人と獣の間に生まれただけなんだ。

獣の血が混じっていても、ヒトの血が薄くても、僕らはどちらの世界でも腫れ物なんかじゃない。

 

僕たちはただ、姿かたちが違うだけの『人間』なんだ……

だから父さんは……本当の父さんではないけれど、僕のせいで行き場を失いそうになったこともあるけれど、それでも沢山の愛情をくれた。

行き場のなくなった僕に行き場を与えてくれたんだ。

 

だから獣人のことを悪く言う人は勿論、父さんのことを悪く言う奴も、僕は絶対に許さない……!

 

僕には父さんの言葉も、貴方の言葉もまだ難しくてよく理解はできないけれど、それでも僕は、父さんの作ろうとしている世界が、どこよりも正しくて、皆に優しい世界になることを信じてる!そして貴方のように、皆の世界を壊そうとする者は、誰になんと言われようと必ず倒して、平和を守ってみせる。

それが僕の生まれた意味で、これから生きていくことの全てだ!!」

 

そんないつもとは違う殺伐とした雰囲気を纏う息子を見たカーネギーは、自身のことを心から慕っているが故の事態だと即座に理解し、故に優しく頭を撫でながらも、諭して落ち着かせる。

 

「カリム、いいんだ、お前がそこまで私のために気負う必要なんて、お前のこれからの人生は、他の誰かの為ではなく、お前自身のために生きるべきなのだから。

それでなカリム、この男は、いやこの人はね、私の弟……カリムから見ておじさんにあたるんだよ。そう、私たちは家族だった……今この時までは」

 

そう述べたカーネギー公は、戸惑いながらも弟に対する敵意を消さずに警戒するカリムに対し、少し下がっていなさいと優しく諭すと、一歩前に出てロスキーニョと正対する。そして引き締まった精悍な表情で少し思案した後、彼はカリムの横やりに呆然としている弟に対して、顔の力を緩めながらため息を吐き、落ち着いた態度で、しかし心は真剣にして話を切り出した。

 

「なあ兄弟よ。我らは何時頃から……そう、何時頃からお互いのことを、家族としてではなく他人として見るように……いや、違うか。

先にお前を突き放したのは私の方か」

 

それは、カーネギーがロスキーニョに対し長年抱いていたわだかまりであった。

彼は家族でありながらも自身の忌み嫌う奴隷管理長官の座に就いた弟に対して、愛憎の入り混じった感情を、狂気という名の災厄がこの国を蝕んできたこの十数年の間、ずっと抱き続けていた。

 

振りかざせば安堵と平穏を得るが、同時に苦しみと悲しみを背負うことになる『正義』という名の空しき武器を恐れて胸に仕舞い続けながらも、ふとした拍子にそれを振りかざしてこの国の全てを葬り去りたくなる自身の『狂気』に歯止めをかけ続ける日々は、特に自身と正反対の道を歩んでいった弟のロスキーニョに対し、激情を募らせていたのである。

 

しかし良心故に心に巣くう魔獣を解き放つことを抑えなければならなかったカーネギーは、弟を打倒し引導を渡す代わりに、距離を置いてお互いが傷つくことのないようにしてしまった。

 

それが、結果として両社の間に壁を築いてしまうことになったのである。

見えることのない心の壁という名の障害越しに、相手の出方を窺う緊張した偽りの平和……いつ終わるかもしれないそれはしかし、今日この瞬間、唐突に終わりを迎えた。

長年続いた孤独な闘いに決着を付ける時が、ようやく来たのである。

それを自覚し、改めて決意を固めたカーネギーは言葉を続ける。

 

「権力というものを手にしてから、我らの人生は少しずつ、だが確実に別の道を進んでしまったな。

外務官の私は忙しさを理由に家族と向き合うことを避け、いつしかそれが当たり前のようになってしまっていた。

本当は、狂っていくこの国の中で、変わってしまったお前と会うのが恐ろしかったからだというのに……

母上が死に、父上が死んで、私は二人から託された一族を守るという使命を、しっかり守り切れていなかったかもしれない」

「兄上、貴方は……」

 

ロスキーニョは思い出す。優しかった父母のことを。そして二人のもとで、共に育った兄、カーネギーを見て、自分が歩んできた道と対称な人生を歩んだことに対し、思いを馳せる。

そして、自分のことも……

 

その上でロスキーニョが選んだ道は―

 

「ヒヒヒ……もはやすべては過去のことだ。時は戻らず、ただ流れていくだけだ。

兄上、人生とはなんであろうな。一度進んだ道で栄光をつかみ取ることもあれば、ふとしたきっかけで転がり落ちることもある。

我々兄弟は、2人そろって別々の道を行き、そして完全に目的地を違えてしまったようだな。

だが、もはや戻れんのだ。どれだけ苦悩を抱えても、過去へ逆行することは……誰にも、できない……」

「ああ、そうだ、そうだな。もうかつての場所には戻れない……」

 

ロスキーニョはカーネギーに対してとても自重めいた言葉を、哀しげな感情を乗せながら絞り出した。そしてそんなロスキーニョを見るカーネギーの瞳もまた、悲しみに揺れていた。

 

少しだけ、そう瞬き一回ほどの瞬間を、お互いに黙り合って思考の整理に費やしたのち、まずはカーネギーが話を切り出した。

 

「警備兵たちよ。その男……奴隷管理長官にして、我が弟であるロスキーニョ・ルガーを、早急に牢に移送せよ。

彼の方が階級が上だからといって決して遜ったり、或いは臆する必要はない。そのような風潮はもはやこの国には相応しくなく、そして廃れていくべきものである。

 

彼はもはや我が国の……我々自身が作り替えていく、新しい在り方の国においては、単なる一人の罪人であり、更生させるべき身の上である。それは実に軽蔑すべきことである。

だがしかし、だからこそ丁寧に……これまでの罪人のように、暴力によって肉体と精神を屈服させるのはもう沢山だ。

 

これからの罪人は、国の法を犯し、そこに住まう人々にありとあらゆる脅威を与えるが、そうであろうともこの国にいる間はその人間としての有り様を尊重され、価値を認められなければならない。

そうすることがこれまで世の中の法則をより良き方へと導いてきた先人たちに対する礼儀であり、そしてこれから生まれ来る新しい時代をその手で築いていく者達への餞別となるのだから。

 

だから彼の……弟の体を、あまり痛めつけて、傷付けたり命を奪い取ったりせずに、きちんと移送するように頼む。家族が居なくなるのは……もう沢山だ」

 

カーネギーの身を切るような辛さを悟った警備兵たちは、困惑しながらも気の狂ったロスキーニョを安全に抑えようとする。そんな彼らを見るロスキーニョは咄嗟に体をこわばらせたが、やがて憑き物が取れたかのように安堵して―或いは単に諦めたのか―警備兵たちに己の身を委ね、その場から移送されていった。

 

その場を感慨深そうに眺めていたカーネギーを、カリムが心配そうに眺めている。

そんなカリムの視線に気づいたカーネギーは、心を落ち着けるべく近くにあったベンチにカリムと一緒に座り込んだ。

 

やがてそんな彼らの下に議長が訪れて、カーネギーの右側に座るカリムとは反対側、つまりカーネギーの左側に腰かけると、彼は今回の件について振り返り出した。

 

「まさか彼があんなに危険な人物であったとは……追い詰めておいてなんですが、よくもまああんなに変貌したものですね」

 

一見して理知的に思えたロスキーニョの意外な本質に議長は驚いたが、カーネギーは幼きと時同じ時を過ごした間柄であるが故に、彼の本質を遥か昔に見抜いていた。

 

「議長、ロスキーニョ侯は、恐らくずっと誰かに認めて貰いたかったのです。

上級貴族の息子としてでもなく、カーネギー・ルガーの弟としてでもなく、ただありのままにロスキーニョ・ルガーという個人を認め、受け入れてくれる誰かが……

しかしその誰かが欠けたままでいたせいで、自分で自分を慰め続けるしかなかった……

私がもう少し、彼の心を埋めていれば今回のようなことにはならなかったのかもしれない」

 

ロスキーニョの身内であるカーネギーの口から語られた真実の欠片に、議長はカーネギーの心の傷を垣間見た。

そしてそんな彼の心の傷に触れないように、話題を変える。

 

「ロスキーニョ侯の話術の巧みさに、一時はどう彼を追い詰めたものか悩みましたが、まさか彼自身の失態が状況を打開する切っ掛けとなるとは。

こちらとしてはそれで作戦が上手くいったので喜ばしいというべきなのでしょうが、あの理知的だったロスキーニョ侯は何故あそこで襤褸を出してしまったのでしょうか?

私はそこが気がかりでして」

 

議長の抱く疑問に、カーネギーは少し理由を思索して、そしてもしかしてという理由に辿り着くと、自身と同じように謎の答えを探し求めている議長に意見を出した。

 

「きっと私を超えられたことが嬉しかったのでしょうね」

 

「嬉しい?」

 

「子供のころ、弟と遊ぶと大体は私が勝って彼が悔しがるのですが、偶に彼の方が勝ったときには、それはもう大きく喜んだものですよ。

 

でも大人になると、お互い勝負するようなことはめっきり減ってしまい、そんな光景を見ることは無くなってしまいましたが。

でも弟にとっては大人になった今でも、どこかで私と張り合いたい気持ちがあったのでしょうね。そしてそれが叶ったことで、本人も思わぬ内に心に隙が……

 

まさかそれが実現する瞬間が、こんな事態を引き起こしてしまうとは、人生は余りに波乱に満ちています」

 

ルガー兄弟だからこそ理解でき、そしてルガー兄弟でなければ理解できない道理や感覚を、議長は想像で補おうか迷ったが、知らない方が良い絆もあるのかもしれないと、詮索することを止めた。

例え理解できない事象が存在しようと、それはそういうものとして、それのありのままの性質を受け入れる柔軟性こそきっと、尊いものであろうのだから。

 

 

「カーネギー公、傷は痛みますか?」

 

議長はカーネギーの身を案じて、矢が突き刺さった跡が今もまだ残る彼の右脇腹の具合について聞いてみたが、カーネギーの一番の痛みはそことは別のところから生じていた。

 

「ええ、とても痛みます。そう、余りに痛くて、耐え難いほどに……」

 

カーネギーの辛そうな様子を見た議長は、その理由を察して、先に議場に戻りますと言ってその場を去った。

 

残されたカーネギーとカリムは、しばらくその場に腰を据えたままであったが、やがてベンチから立ち上がって、彼らを待つ者達の下へと去っていった。

 

 

   *   *   *

 

 

その後、カーネギー達新政権のメンバーによって反乱罪を勧告されたロスキーニュは、法の捌きの下に命を奪われることを避けられた代わりに、奴隷のいなくなったリノーロ監獄に囚人として収監された。

 

国を蝕んだ『狂気』という名の病の責を一身に背負い、地位、権力、名誉、仲間、その全てを失ったこの男は、リノーロ監獄の片隅に設けられた特別収容牢、その厳重に管理された脱出困難な密閉空間の中で、かつての栄光という幻想に取りつかれながらも、現実の苦境に対し苦悶し、それを時折自嘲しながら、不自由な日々を送っている。

それはきっと永く続くだろう―彼の魂を導いて、肉体という軛から解放する役目を持った使者が現れるその時まで―。

 

 

   *   *   *

 

 

リノーロ監獄の面会室で、収監中のロスキーニョが『我々』と面談している。

 

―あの出来事の裏にそんないきさつがあったんですね―

 

「私だって陰謀者とか色々言われるがね、散々苦労もしてきたんだぞ、分かっているのかお前たち」

 

―今回の敗因は何ですか?―

 

「兄上が運と人望に恵まれすぎた……」

 

―ぶっちゃけ過ぎですよ……―

 

「でも、殺したはずなのに生きているだの、拾った子供に助けてもらっただの、議長を味方につけてたとか全く予想しておらんし、挙句の果てに異世界からやってきたヤバイ奴らと知らない間に通じていたとか、もうそんなのこちらの努力ではどうすることもできないだろう……

私の運はベルマードが皇帝になった時が最高潮だったようだ。それ以降はその遺産を食いつぶしながら、上手く世渡りしていたに過ぎんよ。それがあの議会の時に枯渇して、従わせていた連中は瞬く間に離れていった。

運と人望に恵みに恵まれて、それだけで世渡りしていける……どこかにいないかね、そんな陰謀者が」

 

そうして今回の出来事を語り終えたロスキーニョは、長い話を喋り終えたことに安堵して、全身を脱力させながら深く長い呼吸すると、さて、と前置きして『話を切り替えた』。

 

 

「ところで……『お前たちは何者だ』。

どうやって私と面会の許可を取った。

そもそも、何故私と面会したのか。

目的は一体何なんだ?

旅途中の僧侶だなどと語っておったが、明らかにお前たちの気配はそんなものではない……」

 

そうである。

この話は最初から、『何かがおかしかった』。

何故ロスキーニョが長々と自身の身の上を語り明かしたのか。

何故『あなたたち』はそれを認識し続けたのか。

これまでのいきさつに疑問を浮かべる彼に対し、黒いフードで顔も体も隠す『我々』は必要な情報だけを与える。

 

「……いえ、世を渡って行きつくままに修行を積む我々ですが、旅の途中で辺境の国で炎龍が捕らえられるも、制御できずに国が滅びかけたところを、とある国がその危機を打ち払ったという話を聞きまして、大変興味がわいたので是非現地の者に話を伺いたかったのですよ」

「日本の情報か……で、それを手に入れて、お前たちは何をどうするつもりだ?」

 

「我々の目的は単純ですよ。その国と我々が共に手を取り合えるのか、それとも互いに腫れ物として関わり合うのか……

そのどちらに転ぶのか、それは現段階では何とも言えません。

しかしあなたの話を聞いたうえでは、かの国はとても優れた『力』を持っているようだ。

それに『志』も素晴らしい。敵対していた者に悪意無き慈愛の手を差し伸べられるなど、そう簡単にできることではない。

その強さ……我々としても非常に興味深いところです……」

 

そう語る『我々』を見るロスキーニョの眼光はしかし、鋭く警戒を示すままである。

別にそれを気にしているわけではないが、表面上は波立てることなく会話を続けているほうが得策であると判断して、話を切り替える。

 

「ああそうそう。話は少し変わりますが、貴方は『これ』をご存じでしょうか?」

 

そう言って『我々』の中の一人が、懐から長さ30センチ程度の瓶と小皿を取り出し、蓋を開けて中身の液体を小皿に取り分ける。

その液体は、『黒くドロドロとしており、非常に刺激の強い臭いを発していた』。

ロスキーニョは、その液体を『以前見たことがあった』。

 

「む……?それは我が国の鉱山地帯から出てきた妙な液体と同じものではないか。何故そんなものを?」

 

そのロスキーニョの言葉を聞いた『我々』は、自分たちの予想があっていたことを確認して、彼に気づかれないように表面上は無反応を装いながらも、密かに『警戒心』を強くした。

『これ』の価値に未だ気づいていない様子のロスキーニョを見ながらも、『我々』はその目的上、不要な情報開示は伏せる。

 

「いいえ、偶然我々も同じものを見つけたので、同じように『これ』を見つけた貴方なら、何か知っているのではないかと思いましてね。その様子だと、貴方も『これ』のことはよく知らないようですね」

 

『我々』は言葉に平然と嘘を混ぜ、この男がこれ以上話に踏み込むことを牽制する。

最も、このような『分かりきった芝居』、見抜けない方がどうかしているため、ロスキーニョも『これ』が何か、自身の知らない価値を秘めたものだと漠然と察し始めた様である。

……権力を失って牢屋に閉じ込められたこの男には、もはや何かを成すことなどできはしないが。

 

そう、今のこの男は大した脅威ではない。脅威があるとすれば……この男が破滅するきっかけとなった、『未知の勢力』であろう。

……正直『我々』でも正面から立ち向かうことを避けなければならない相手であることは、この男を始め、各地で聞き込みを行った者たちの話からも明らかである。

くれぐれも注意しなければならない。

 

「さて、そろそろ日も暮れてきたようですし、かなり長い時間話し込みましたから、今日はもうこれでお開きとしましょう。

貴重なお時間を取らせていただき、誠にありがとうございます、ロスキーニョ『元』侯爵閣下。

 

さて、『我々』は閣下の推測通り、旅の僧侶などではありません。

 

『我々』の存在は有名であるため、余計な騒ぎを避けるために敢えて名を伏せて接触させていただきました。ご無礼をお許しください。

遅ればせながら名乗らせていただきます。『我々』の本当の名は……」

 

いつの間にか監獄の外は空が曇り、雷が轟音を伴って地上世界を揺るがす中で、『我々』はロスキーニョに対し、その正体を明かす。

それを聞いたロスキーニョは、僅かな間を開けた後に、記憶の底から知識を引っ張り出した様子で、その顔を驚愕させる。

 

「馬鹿馬鹿しい。一体何の冗談だ。お前たちが『あれ』であるなどと、そんな話信じられんよ」

 

「フフフ、貴方が信じようが信じまいが、我々は確かに実在するのです」

 

そう言って『我々』の中の一人が、懐から1枚の四角い紙を取り出して、ロスキーニョに見せる。

その紙の片面には、真ん中に位置する赤い円を中心として緑、青、桃色の外縁がそれぞれ取り囲むように描かれている。

その赤い円を中心とした3重の輪の中には、十字型の黄色い星のシンボルが散らばっており、その他にも龍や鳥、獣や昆虫など様々な生き物の姿が小さく描かれている。

―『曼荼羅』と呼ばれるその図像は、何やら宗教的な意図を含んでいる気配を放っていた―

 

「『まず言葉ありき、そして光あれ』……聖なる燔祭の日、それらは聖なるものに飢えたる清浄なる不朽の亡者たちと共に、聖なる星の祭壇にて運命の神楽を演じ舞う。

愚者たちは煌めきに焼かれ知るであろう、その者たちの名を……」

 

そう語る『我々』の―全身を黒いフードで覆いながらも漏れ伝わる、圧倒的な『威』の気配を有する13人の姿―を見ながら、ロスキーニョは訝し気にその名を口に出した。

……今はもうこの世界には存在していない、過去において滅亡した筈の『我々』の名を。

 

「まさか実在したのか……?『アルサレム王国』の『赤い円卓』……『星壇13守護霊団』」

 

 

そうだ、我々はここにいる。ここにいる……

 

 

            シリーズ『陰謀者たちの事件簿』その1 カーネギー公暗殺未遂事件 終了―

 

 

―――

 

☆今回の第2部にしておまけ『 荒涼たる新世界?後日譚 -PLANET THE HELL-』

 

苦戦しながらも黒いアイツらを倒して、再び帰路につく別班と宇津木たち一行。

森の中をしばらく移動していると、粕谷が茂みの中に何かを発見した。

 

「隊長、何か妙なものがあります」

「妙なもの?何だ?」

「なんだか卵か繭のような、細長い物体が茂みの中にあります」

 

そういって粕谷が指を向けた方向に一同が目を向けると、確かに彼の言う通り、卵か繭のような黒くて細長い、大きさ1メートル幅30センチ程度の楕円状の物体が、茂みの中に横たわっていた。

 

「まさか先ほどの怪物の卵なのでは?」

 

先ほど遭遇した怪物が頭をよぎり、警戒心を最大に高める宇津木。

しかしそんな宇津木を余所に、鈴木は部下に指示を飛ばした。

 

「よし長谷部、あの物体を確かめろ」

「了解」

 

あの、危険なのでは、と止める宇津木を余所に、鈴木の指示に従って楕円形の物体に近づく長谷部。

 

「一体なんなんだあ?さっきの化け物だったら、今度は成長する前に仕留めてやるぜ」

 

そう言いながら物体に触れようとした瞬間、物体が蠢き始めた。

 

「隊長!攻撃の許可を!」

「まだだ!正体を確認するまでそこを動くな!」

 

鈴木の無慈悲な命令に、危険と理解しながらも従わざるを得ない長谷部。

なんでこんなことを!と鈴木の指示を取り下げさせようとする宇津木を、しかし鈴木は無視して、物体の動きに注意を配る。

 

「内側から何かが出てくるぞ!備えろ長谷部!」

 

鈴木の言葉が長谷部に届いた刹那、物体が内側から割れて、中から黒い物体が飛び出す。

 

― じょうじ!(おぎゃー!) ―

 

それは、先ほど一行が駆除した蟲型巨大生物、それの小型版である、卵から孵化したばかりの幼虫であった。

 

「報告!物体は先ほどの敵の卵でした!隊長!攻撃許可を!」

「長谷部!……よし、攻撃許可認定!いつでもやっていいぞ!」

「うおおおお!」

 

フルオートモードのM-4AAに指をかけた長谷部は、飛び出した幼虫と、その背後の楕円形の黒い卵に対し、無慈悲な弾丸を与える。

バリバリ、ブシャアッという音を立てながら、謎の粘液をまき散らしながら砕け散る幼虫と卵。長谷部はそれを見て、無感情な言葉を発した。

 

「目標沈黙、動きなし」

「状況終了。よし、移動を続けるぞ」

 

遭遇した敵を撃退した一行は、再び移動し始める。

そして数十分後。

 

「隊長、また先ほどと同じ物体を発見しました」

「よし、今度はすぐ攻撃開始だ」

 

2個目の卵は、先ほどとは違って発見されてから即時破壊され、幼虫が飛び出すことすらなかった。

再び移動を開始する一行。

 

「あの、隊長。二度あることは三度あるといいますし、またあの卵が出てくるんじゃないですか」

「粕谷さんですか。やめてくださいよ縁起でもない」

 

粕谷のジンクスめいた言葉に、先ほどから不安な気持ちを何度も味わっていた宇津木は即座に言い返す。

その時、長谷部がまた何かを発見し、指さした。

 

「隊長、三つ目です。またあの卵ですよ」

 

二度あることは三度ある。粕谷の言葉が現実を引き寄せたか、再びあの卵が姿を現す。

 

「隊長。また即時攻撃しますか?」

長谷部の言葉に少し思惑した鈴木は、悩みを打ち明けるかのように言葉を発した。

 

「なあ、3つも見つかったんだから一つくらい持ち帰らないか?」

 

その後全体一致で反対されたため、卵は全て無事駆除されることとなった。

破壊された卵と幼虫を前に、鈴木は次の言葉を語ったという。

 

「うーん、残念!」

 

こうして日本の危機は人知れず去ったのである。

 

……

 

……

 

……

 

……かさっ

 

 

☆おわり☆




以上、第3話です
今回の話では、前回に引き続きテスタニア帝国において展開されたカーネギー公とロスキーニョ候の、お互いの意地をかけた陰謀バトルの裏側を描かせていただきました。
兄を葬るロスキーニョは無論悪なんですけど、それに対して策で対抗するカーネギー公もまた、方向性が違うだけで陰謀巡らせているといえますよねえ?(強引理論)

まあそこらへんは軽く流すとして、本編では炎龍を開放するところで本人の出番が終わってしまった、ロスキーニョ・ルガーというベルマード皇帝を超えるテスタニア編の真ボスの話をじっくり書こうと思ったのは、家族の対立というわりかし重くなりがちな話を、ゆるふわなな雰囲気の中で綿あめよりも軽い笑いのノリを交えることで重さを軽減させながら書いてみたかったからです。

兄と弟という関係で、残念ながら敵対することになってしまったルガー兄弟のわだかまりを、二次創作を通じて疑似的に解消することで、テスタニア編という希望が見えながらもどこか暗さの残るオチで終わった話に、自分なりの決着を付けてることができた気がします。
最後の最後に謎に満ちたオリキャラ軍団が出てきましたが、割とやらかしたと思います。キャラが多いので上手く動かせないかもしれませんwまあそこらへんは今後詰めていくとしましょう……

今回はおまけをつけてみました。序盤からシリアスなノリで終わらせたくなくて、オチで軽い笑いを取ればバランスが取れるかなあと。
晩節を汚す……になるかもしれませんけど、それでもどうにか温かい目で見守ってほしいというのが個人的な希望です。


今回出たやつの設定です↓
『カーネギー公暗殺未遂事件』
・警邏隊内偵課の男
城内で賄賂の受け渡しが行われているという通報を受けてロスキーニョを尋問した人物。
だがしかし、杜撰な取り調べによって特に陰謀者の尻尾を掴むこともなく帰っていった。一体何をしに来たのか。
こんな男が内偵なんかをやっているテスタニア帝国の腐敗っぷりが心配である。まあおそらく新政権下でこいつの首は飛ぶだろうが。

・地下大水道
テスタニア帝国の地下に建設された大規模な水道。
多くの住民や奴隷、家畜などが使用する水や、使用した下水などが流れる都市の血管。
全長20メートルの炎龍が3匹入ってこられる程度には広いようである。
首都水道局が管理しており、時折維持のために整備工事を行う。現在はそれの労働力として奴隷が数多く駆り出されている模様。
長年捨てられてきた排泄物やごみなどを栄養源として様々な生物が生息しており、ネズミや黒いアイツ(この世界基準で中型サイズのもので、大きくても全長70センチくらいとやっぱりデカい)、どこからか迷いこんできた家畜や、野生の魔獣などがその存在を確認されている。
また、その性質上様々な有害ガスなども発生しており、空気の循環も非常に悪いことから臭くて暑くて息苦しい空間となっているが、火山地帯という極限環境に生息する炎龍にとってはさほど問題にはならないようである。
区画の一つが偶々炎龍用地下牢の近くを通っていたことから、炎龍の飼育用スペースとして改造、飼育檻と化している。
炎龍が逃げ出さないように、区画の区切り部分には鉄の柵や鎖、網などが設置されている。
また、水をくみ取って炎龍のいる地下牢に送る魔導ポンプが設置されている。
赤門開放後、その存在が新政権により発見され、現在は元に戻す工事が奴隷抜きで行われている。

・地下牢
炎龍を閉じ込めていた地下牢獄。元々炎龍とは関係なく存在していたらしいが、その本来の用途に関しては今の所明らかになる予定がない。
作中では改造工事を請けて地下大水道と繋がるトンネルができた。このトンネルには隠し扉がついており、魔導仕掛け(魔導蒸気の力を使う原始的な機構)により開閉される。
天井や壁などに水を放出するスプリンクラーや蛇口が付いている。
水晶製の隠し覗き窓なるものが存在し、内部の炎龍に気づかれないように巧妙に隠蔽されているんだとか。

・赤門
捕獲した炎龍が地下牢から出てこないように建造された特殊な防壁。地上に出口が三か所存在する。
四種の軍用拘束制御術式が施された厳重な魔法防壁が4つ配されており、巨大な魔鉱金属板張りの木製扉(大きな一枚の鉄板を作れないため木材に小さな魔鉱金属板を何枚も張っている)が、特殊な魔法仕掛け(魔導蒸気を使った古代ローマ式自動扉開閉)によって左右に開閉する。
第一防壁の下に地下に続く坂道が続き、その坂道に第ニから第四までの防壁が設置されている。この厳重な扉の奥にこそ、炎龍たちが隔離されている地下牢が存在している。
因みに4種の拘束制御術式の詳細は以下の通り
・感覚を麻痺させる魔法
・空間認識を誤らせる魔法
・魔力の使用効率を下げる魔法
・地下牢全体の強度を底上げする
富士山麓の地球防衛軍基地やクロムウェルは関係ない。

・『ヘトヴィヒ』『シュナーベル』『ツェプター』
テスタニア帝国が秘密裏に保有していた三体の炎龍。
全体雌。

・星壇13守護霊団
『守護天使の騎手』『星霊預言士』『救世主の癒し手』『アルサレム王国の赤い円卓』など、『今はもうこの世界には存在していない、過去において滅亡した集団』、それが最も多く使っていた名称。
彼らに何があったのか、何故滅んだはずなのに存在しているのか、それが明かされる時に何が起こるのか、恐らく誰にも予想することはできないだろう。
―今はそれしか明かせない―


・『荒涼たる新世界?後日譚 -PLANET THE HELL-』
・黒いアイツの卵
黒いアイツが生み出した卵。
卵一つから十匹の幼虫(ベビー)が誕生する。
誕生した幼虫は、別に人間の顔に張り付いたり胸を突き破ったりはしないようだ。
地上では悲鳴ってわりと人の耳に届く。

・M-4AA
作者が「あれ?素のM-4にBURST(フルオート)モード付いて無くね?」と気づいて咄嗟に考えた架空銃。
特殊部隊向けのM-4A系列の2040年代モデル。
単発、BURST、セーフティーモードを切り替えられる。
またナノマシンを使用した使用者認証機能も付いており、敵に奪われた際の対策にもなっている。
現状は銃本体だけに付いている機能だが、そのうち銃弾の方にも付いたりするのだろうか?アイ・アム・ア・ローウ



今回は以上です。次回またお会いしましょう、では。
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