日出づる国、異世界に転移す 非公式外伝『GW』   作:島スライスメロン

4 / 10
※今回の話は2020年11月に投稿されたものです。
その後の本編の描写と矛盾などがある場合がございます。
ご了承の上お読みください。
キャラ描写につきましては、原作作品と異なる場合がございます。くれぐれもご注意ください。


第4話 月詠月夜(ファーストコンタクト) ~憧憬は真実から遠い羽化登仙《ライアニズム》~ ①

月灯りに導かれ、心繋いだ物語―

 

 

嘘は言ってないはず(根拠は無い)。

 

 

 

 

【月詠月夜(ファーストコンタクト) ~憧憬は真実から遠い羽化登仙《ライアニズム》~ ①】

 

 

  *   *   *

 

 

【2045年6月 鹿児島県鹿屋市】

 

昼間の正午を過ぎて西側に位置し始めた、異世界の白く眩い1つの太陽の光に照らされる地上世界で、1機の飛行機が滑走路に降り立った。

 

その機は全35.6 m、幅:30.4 mの単葉固定翼機であり、細長い円筒形の胴体の中心より少し前側辺りから左右に伸びている一対のテーパー翼(胴体の付け根部分から先端に行くにしたがって細くなる、直線寄りの台形状の翼)は、地面に対して水平より多少上向きな傾斜角度が掛かっており、その中ほど辺りには細長く捻じれたバターナイフを思わせる4枚の羽根が十字に並んだプロペラエンジンがそれぞれ2つずつ、計4発搭載されている。

 

海上自衛隊の保有する哨戒機、P-3Cである。

 

海上哨戒飛行による水上船舶の監視から潜水艦の発見任務、また救難作業に物資・人員の輸送作戦など、様々な場面で活躍できる機能を有する本機は、世界有数の高度な海上戦力を保持した組織である海上自衛隊にとっても非常に重要な機体であり、その運用は何時の時代でも多くの人々に支えられてきた。

 

しかし2013年に後継機P-1の導入が開始されてからは入れ替えを目的とした退役が行われ始めたため、2045年現在日本が保有している機体数は非常に少ない。飛行可能な機体ともなると更に希少であるが、その機体は状態が良好であるのか、その希少な飛行可能機体に含まれるようである。

 

そのP-3C-垂直尾翼に描かれた3280という機体番号からサンニーハチマルを略して「サニハマ」と密かに呼ばれている―が今降り立ったこの場所は、海上自衛隊の施設『鹿屋航空基地』である。

 

日本の南西海域の安全保障と、奄美群島から甑島列島に及ぶ広大な海域・離島の海難・急患輸送等を目的としたこの施設では、哨戒機や救難ヘリコプターが配備されており、日夜日本とそこに住む人々の安全な生活のために稼働している。

 

滑走路から駐機スペースに移動した機体はその場でエンジンを停止し、胴体横に備わった乗降扉が開くと、機内の人員区画に収納されたタラップが展開されて、機体のクルーが続々と降りてくる。

 

その総勢10名を超える部隊は、この基地に所属する第1航空群第1航空隊の隊長を務める古橋牧夫(ふるはし まきお)一佐―精悍な顔つきをしていつつも、最近腹回りの恰幅が良くなってきた41歳男性―率いる古橋班である。

 

さて、機体から降りた古橋班の隊員たちであるが、彼らは降りてまず、今降りたばかりの機体を見回って、機体に違和感が無いかを確認し始めた。

―パーツの欠損・脱落を確認しているのである―

 

就役から半世紀以上が過ぎ、老朽化の進んだP-3Cには、常にパーツの欠損・脱落のリスクが付き纏っている。

 

機体の耐久年齢はもはや風前の灯であり、これを飛ばすこと自体がもはや好事家の趣味とさほど変わらない非常に手間がかかるものとなっている。

国内どころかメーカーに在庫がない正規パーツを、海外のまだP-3Cを使っている、あるいはかつて保有していた国から取り寄せる。

それすらなければ特注のパーツを企業に作ってもらう。そんなことが日常風景であった。

 

実際近年では幾度かパーツの脱落事故を起こして、世間を騒がせることもあった。

―それでもこのような機体が毎年退役を免れ、維持費が抽出されているのは、超法規的な理由があるからだというのが、もっぱらの推測である―

 

さて、そのような事情で機体の離陸直後点検を行っている隊員たちは、隊員の誰よりも年上であるこの『先任のロートル士官殿』を、まるで老人を労わるかのように手厚く扱わなければならなかった。

 

〔隊員A〕

「隊長、2024年とかならいざ知らず、今は2045年ですよ。俺たちは何時になったら後継の機体に回されるんですか」

 

隊員の1人が、毎回続くこの面倒な『介護』に思わず不満を漏らす。

この点検は言うなればお漏らしチェック、おむつの確認に等しい作業であった。

……時は西暦2045年、少子高齢化社会の波がこんなところにも!―

 

さて、若い隊員のそんな不満を聞いた古橋は、まあ分からないでもないんだがと胸の内では同意しながら、言った。

 

〔古橋〕

「上が予算をもぎ取るまでだよ」

 

それがいつになるのか、古橋には未知だった。

 

異世界の6月は、地球のそれよりも期間が長いらしい雨期の影響で、割と雨が降りやすい。今もまた空には雨雲がかかって、地上を水浸しにしようとしていた。

 

 

  *   *   *

 

 

どうにか雨が降る前に機体の確認を終えた古橋は今回の飛行任務の報告のために基地司令部に向かうと、この基地を統括する第1航空群司令の桐山勲留(きりやま かおる)海将補(49歳 男性)と対面し、今回の任務の内容について述べ上げた。

 

〔古橋〕

「報告いたします。今回の飛行任務では―」

 

古橋の報告を聞く桐山司令。彼は古橋の報告を聞き終えると、彼に次の任務を与えた。

 

〔桐山〕

「古橋1等海佐、君の部隊に対して雑誌記者が取材に訪れている。ブリーフィングルームに向かわせるので対応するように」

 

桐山司令の指示を受けた古橋は、部隊の他のメンバーを何名か集めるとブリーフィングルームへと向かう。

ブリーフィングルームに入ると、先に入室していた雑誌記者が落ち着いた様子で待っていた。

年齢は30代前半といったところか、焼けた肌色をした雑誌記者の男性は入室してきた古橋たちを一瞥すると、ニカッと屈託のない笑みを浮かべた。

他者に対する遠慮というものをさほど持っていない様子の記者に対して、今回の取材を対応する隊員たちは自己紹介を行う。

 

〔古橋〕

「お待たせしてすいませんでした。鹿屋航空基地付、第1航空群第1航空隊所属の古橋牧夫1等海佐です」

 

〔成川〕

「同じく第1航空隊所属の成川2等海尉です」

 

〔理恵〕

「第1飛行隊所属、理恵阿達(たかえあだち)2等海尉です」

 

〔元原〕

「どうもこんにちは。私は烏賊スルメ出版の元原橘樹(もとはら たちばな)です。今回は当誌の取材に協力していただきまして、大変感謝いたします」

 

元原が名刺人数分を差し出すと、成川たちはそれを受け取って一瞬目を通した。

 

―烏賊スルメ出版所属 雑誌月間JAS―WINGS取材記者 元原橘樹―

 

その目を通した名刺全員がをポケットに仕舞い込むと、その光景をさっと流した元原がさっそく取材開始を催促する。

 

〔元原〕

「早速ですが、取材を開始させていただきたいと思います。よろしいでしょうか」

 

〔古橋〕

「はい、構いません」

 

〔元原〕

「では、始めさせていただきます。今回古橋1佐たち第1航空隊の面々は、日本の国境外に突如現れた未知の組織勢力、つまりはドム大陸国家群を発見し接触を図ったとのことですが、そのことについて細かくお話をお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか」

 

〔古橋〕

「ええ、あれは先月の中旬のことでした―」

 

 

  *   *   *

 

 

【同時刻 ドム大陸 禁断の地北東部】

 

 

日本とは打って変わって雨の降る気配のない晴れ空の下にて広がっている、緑の葉を纏わせた木々が生い茂る森の中には、ぽっかりと切り開かれた場所が存在した。

その場所は上空から見ると長さ3km、幅最大500mほどの楕円形となっており、段差や傾斜のない平らな面となっているその切り開かれた内側の地面の上には、多数の長方形の木板が敷かれて、舗装道を形成している。

 

その舗装道の横には、牧場の牛舎に似た木造の建物―龍舎―が2つ設置されている。どちらもその大きさは牛を収めるのに必要な大きさを遥かに超えているが、片方は内部に体長が8メートルにも及ぶ翼龍が何体も収容されている。凡そ30体ほどが収容されているがその内部にはまだ余裕があり、あともう5、60体ほどは収容できるのではなかろうか。

 

更にもう片方の龍舎には、全長が25メートルにも及ぶ母龍と呼ばれるより大型の翼龍を2体収容しており、ここもまだあと2体ほど収容できる空間的余裕があるようだ。

 

二つの龍舎の横には、見張り塔を兼ねた木造の砦が建設されている。

 

他にも翼龍のクッションとなる干し草の保管庫や、保存食の入った食糧庫、戦闘時に武器となる石や砂を積んだ小山などが散って配置されており、ここが軍事施設であることは一目同然であった。

 

そこはロイメル王国翼龍騎士団の訓練場を兼ねた砦、通称『キャンプ・ガイチ』である。

 

ロイメル王国本土より離れること凡そ数100km、大陸最北東部の海岸線から150km程度内陸の場所に位置するこの施設は、数年前に同国が禁断の地の開拓を公式に発表した時よりも、更に以前から建設が始まっており、同地の来るべき開拓に際してまずは行われるべき原生の自然脅威、野獣や野鳥、野蟲に怪奇植物などの駆除を行うための前線基地として、また他国との戦争に備えるための軍の遠征訓練の拠点としての機能を持っている。

 

貨物の空輸に際して用いられる龍籠や龍車の離着陸の為に簡易舗装である木板滑走路を備えており、荷物を満載した母龍が離着陸を繰り返しても耐えられるようになっているし、また雨天時においても大地のぬかるみに左右されることなく滑走路としての機能を果たしてくれる。

 

さて、そんなキャンプ・ガイチにおいて今から空戦訓練に挑まんと滑走路に待機しているのは、クック氏の率いる第8翼龍騎士団、団結を現す黄色い円形のシンボルを団旗に頂く『円陣の突破兵(サークリット・ブレークスロハー)』である。

彼らは団長であるクックを先頭に、20を超える隊員たちが離陸の時を待ちながら翼龍の背中で待機していた。

 

さて、翼龍の離陸は規則正しく行われなければならない。8メートルを超える体躯を誇るライト級戦闘翼竜―ひと口に翼龍などと言っても実際の所は様々な品種が存在し、ロイメル王国で主に運用されているのは、トカラと呼ばれる比較的従順で操作しやすい品種である―は最高速度が150km以上にも達し、万が一衝突事故など起こせばその衝撃で飛行姿勢を崩して制御が困難となり、最悪地面へと墜落してしまう。そうなれば翼龍も、それを操る騎士も負傷は免れないだろう。

 

それ故に離陸前に近接する翼龍との距離を一定以上に保ち、更に前方の翼龍がある程度高度を取ったのを確認してから、離陸を行わなければならない。

 

とはいえ普通そのようなことは翼龍騎乗訓練の最初の時点で習うことであり、熟練した騎士と翼龍ならばそれらの手順に全くもたつくことなくできる程度のことである。

稀に事故を起こすものも出現するが、その理由の大半は注意散漫であったり、あるいは精神的な不調を抱えたまま態と事故を誘発したというような、呆れたものとなっている。

 

さて、その様な事情を踏まえつつも、定められた規則に従って行動することが求められる軍隊という組織においては、訓練というものは欠かすことができない。

良い兵隊とは良い訓練から生まれるものであり、訓練とは規則を精神と肉体を鍛えるのと同時に、規則を叩き込むことであるといえる。

 

そんな彼らの姿を、いつもは人のいない滑走路の横で、黒い箱のようなものを背負って居構えた者たちが捉えていた。

 

その黒い箱―ビデオカメラ―は、ロイメル側のそれが精々非常に粗いセピア色の静止写真を焼ける程度であるのに対し、鮮やかかつ精密な色のついた精巧な写真を、動画という時間軸のある形で焼くことができるという点で、ロイメル側にとっては非常に画期的なものである。

 

そんなビデオカメラを保持する日本からの訪問客、外務省や文部科学省、それに防衛省などから派遣されてきた調査員の傍で、数名の現地人―地球でいうところの南欧人の風貌に近しい―が様々な話をしていた。

 

〔現地人A〕

「……現在我が国の航空戦力は、大陸内においてアムディス王国、フラルカム王国に次ぐ第3位の規模を誇っておりますが、国際情勢の不安定化を受けて現在急速な増員を―」

 

現地人のうちの一人で、どうやらロイメル王国の翼龍騎士団の現状について話しているらしい人物は、50代前後の初老の男性であり、顔の作り自体は精悍ながらも穏やかで柔和な表情をしてみせ、日本からの来客に居心地の良さを与えようという気遣いが垣間見える。

 

ロイメル王国航空軍第5群司令並びにキャンプ・ガイチ基地司令を務めるフォンク・ロソン副将軍(51歳、男性、猿人と人間の間に生まれた半猿人。若干毛深いが、人間と見た目でさほど違いはない)である。

 

〔現地人A改めフォンク〕

「さて、翼龍と交流する上で大切なのはその龍を思いやり、気持ちを理解することです。翼龍の気持ちは鼻息や声色、体温に、体の振るわせ方や目の動かし方など様々な特徴を総合的に洞察することでわかります。彼らはとても高度な知性を持っており、賢い。善悪を見抜く倫理感を持ち、虐げられた弱者を助け、邪悪に立ち向かう正義と勇気を持つ、人間のパートナーなのです」

 

彼は客人を持て成す必要から、相手を退屈させないように様々な話題を自ら切り出して、解説していた。

 

ロイメル王国及びドム大陸の軍事から、文化、風習などに至る話は日本人の興味を引き、話をする彼は満足そうであった。またその一方で、彼もまた日本人について興味深々であった。

 

今彼らが使っているビデオカメラ、それだけでもロイメル側にとっては驚異的であるというのに、日本人が国を説明するのに用いた『幻影を発生させる道具』で、基地の作戦室に出現した未知の世界『日本』の光景は、彼に強い衝撃を与えるものであった。

 

海の波のように地上を行きかう大勢の人間に、天を貫く摩天楼。灰色、黒色、白色、ガラス、それに草木の緑などが合わさった都市の風景。夜でも明るい不夜城。

そんなロイメル王国よりも遥かに高度な文明都市を築き上げたかの異世界の国は、こちらの世界と違って魔法が存在せず、それ以外の技術のみを用いているというまさに驚くべき幻想の如き代物であった。

 

そんなロイメル王国を凌駕する文明を築き上げた偉大な彼らはしかし、この世界に飛ばされてきたことに不安を覚えているようであった。

常識から何から違うところから、突然やってきてしまったのだから無理もないが、それでも今こうして彼らのようなものが自分たちとの交流を模索していることに、どこか夢のような浮遊感がある。

 

『禁断の地』……今から200年前、大陸の開拓を推し進めた先祖たちに起こったとある悲劇から、誰もが手出しを控えていた場所。未だに原因の分からぬ未知の災害はしかし、今後同じことが起こることもなく、200年の時を経たことで安心しきった人間たちは再びこの地に足を踏み入れた。

 

だがそんな人々が遭遇したのは、『神の涙』に匹敵する魔化不思議な現象であった。異世界人、転移、新しい未知の国。果たしてそれが大いなる神の如何なる意思によるものなのか、人間の浅慮では測りかねた。

 

そんな現状を鑑みながら、フォンクはふと思い出す。彼等日本人と初めて出会った時のことを。

 

 

  *   *   *

 

 

さて、事の起こりは地球時間の西暦2045年4月中頃である。

その日、日本は突如異世界に転移した。

その2週間後の4月30日の夕方、広瀬内閣は公式記者会見を開き、日本の食糧・エネルギー資源に関する現時点での推定備蓄量と、現状の消費量が続いた場合の『すべての国民の健康で文化的な最低限度の生活』態勢が維持できる限界点(つまりは国民総飢餓状態までのタイムリミット)を発表。

 

これによってどれだけ国内の対象資源を節約しても、1年半程度経過すれば現状の国民生活を維持できないことが現政府によって公式に認められ、その対策として民営の食糧・エネルギー資源関連企業並び事業者の半公営化推進と、現行の社会福祉・社会保障制度の見直し、また国内の永久在住権を保有しない外国人旅行者及び留学生、労働者の在留権の暫定的延長に、それら外国人に対する居住地及び食料・衣類の提供など、様々な緊急時特例の発動が決定した。

 

ただ、それらの節約策だけでは本質的に問題の時間延ばしにしかなりえないことは誰の目にも明らかであり、また将来の社会の発展のために、文化レベルを以前の地球世界時程度までに回復、あるいはそれ以上のレベルに上昇させるためにも、現状の備蓄資源に代わり得る新資源の発見及び確保が日本政府の第一種優先課題となった。

 

内閣はこの問題の解決のために、特例法を施行して自衛隊の活動範囲並び行動圏を延長、

国内並び国外における日本国民の安全確保に必要と判断された場合の、武力の行使が暗に明言され、また定められた日本の国境並び防衛識別圏を越境し、現状確認の取れない未知の外部領域の調査を行うことが正式に決定した。

 

この発表に基づいて、陸海空並び航空自衛隊宇宙作戦隊は直ちに部隊並び人員を選抜し、調査隊を編成して各地に派遣した。

 

異世界という未知の環境で、国境の内外を問わずに様々な調査活動を実施した自衛隊はしかし、海洋や新発見の島々で地球上の生態系上存在しない数々の新種の生物種を発見するものの、それらは主に周辺海域に生息する魚介類であったり、海藻や海草、それらを捕食する鳥類や、大型海洋哺乳類や爬虫類などで、土質で育った野菜類や穀物類が圧倒的に不足していた。

 

そもそもまともな大地が存在していなかった。見つかった島々の多くは海底火山やサンゴ礁、生物の死骸や排泄物が堆積して出来たと思われる岩石質の小島ばかりであり、野菜どころか鶉の卵ほどの小さな果実が実りそうな木々が生える余裕すらもなさそうな島ばかりであった。

 

確かに野菜や穀物、果実がなくても、それ以外の食糧で食い繋いでいくことは可能であろう。

だがしかし、豊食によって洗練され肥え切った現代日本人の衣食観念が、果たしてそれを許容できるのかというと、それは非常に困難であるといえるだろう。

地球世界との断絶によって多くの嗜好食品、某有名メーカーM社のハンバーガーや大佐おじさんのところのフライドチキンなどはもとより、製造にスパイスを多用する東亜国家発祥の辛くて茶色黄色い飲み物の国民食や、海外産の養殖海老を具として用いる某インスタントラーメンとその系譜、砂糖を用いる市販の菓子や飲料などの大半が、製造が軒並み制限ないし停止し始めたことなどもあって、国民の豊食に対する要求は日に日に高まっていたのだ。

 

そんな状況の中、周囲の期待を背負いながらもさほど成果を上げられていなかったことに現場が先行きの不安を感じつつあった調査開始2週間後のある日、事態を大きく動かす出来事が発生した。

 

 

  *   *   *

 

 

【日本SIDE 5月中旬】

 

〔コック長〕

「ゲーハッハ!梅ジャムとチリを融合!顕現せよ特性ソース!」

 

広瀬内閣の公式発表から2週間後。

その日の早朝、鹿児島県鹿屋市に存在する海上自衛隊の施設『鹿屋航空基地』の食堂では、厨房から響き渡るコック長の地獄の魔王の如き圧を秘めた上機嫌な雄叫びをBGMとして、多くの平隊員たちが朝食を取っていた。

 

昔から燃料供給地として在日アメリカ軍の来訪も多いこの基地は、半ば日米共用施設状態だと言われてきたが、数年前に起こった第二次朝鮮戦争の際により多くの米海軍や米海兵隊が訪れたことをきっかけとして、食堂を含めた施設は多くが新調され、ますます日米共同施設の色を濃くしている。

 

食堂はスペースが大きくなり、大人数が入ることができる。椅子や卓も心なしか平均的な日本人用よりも少しだけ大きいように見えるが、実際に少し大きく、そして頑丈で『重い』。

……基地内に密かに広がる噂によると、有事の際にはこれでバリケードを作って敵の侵攻を食い止めるらしいが、所詮椅子や卓にどこまで強度があるのかは不明である。

 

さて、そんな鹿屋航空基地の食堂であるが、その日の朝食の献立は、梅ジャムとチリソースが入った特性ミートソースと、パルメザンチーズ、キャベツが白米の上に乗ったタコライス丼(仮称)、わかめの味噌汁、それに様々な豆の煮つけという、タコライス定食のような何かであった。

 

食堂を訪れた基地の隊員たちは、凡そ一般的な家庭や外食でまず見ることのないこの独特なメニューを、特に臆することもなく手慣れた様子で自分のプレートに盛っていく。

沖縄県の辺野古基地からやってきた軍付きのシェフがもたらしたとも、現コック長が辺野古シェフとの殴り合いの末に力づくでレシピをもぎ取ったとも言われるこのメニューは、いつしかこの基地の隠れた珍名物(?)となりつつあるという。

因みに味に関しては、『好き嫌いが分れる味』とのことである。

 

さて、そうして基地の隊員が集まって朝食を取っている食堂の一角で、物を食べながら会話を交わしている男たちがいた。

 

第1航空隊所属の鎌田2等海士、内海1等海士、風森1等海士、鉄尾海士長、竜馬(たつま)海士長、島郷2等海士、本塁(もとるい)1等海士の7人である。

 

場の話題は話は主に竜馬が牽引している。

 

〔竜馬〕

「おう鎌田、内海。近場のコンビニを一通り回ってみたが、今の所カップラーメンなんかは無事だぜ。ただパン類や総菜類が少なくなってきているな。

あと今週のヤ〇グマ〇ジンだけどな、休刊してたわ。グラビアと〇岸島掲載楽しみにしてたのによ」

 

竜馬の振った軽い内容の世間話を適当な相槌を打ちながら豆の煮つけを咀嚼している内海の隣で、鎌田は竜馬の話題に乗っかった。

 

〔鎌田〕

「それまだ続いてたんですか……もう2045年ですよ?まあ食料が足りないのはしょうがないですよ。今後のことを考えると、どこも出荷を抑えざるを得ないでしょう」

 

〔竜馬〕

「ま、だから俺らが調査に出て食料と紙とインクの原料、それに青少年の幼気な貞操観念を揺さぶるようないいグラビア写真を撮影するに足る、秘境のビーチを探さにゃあならん訳だ。今は基地でこうやってちゃんと飯を食えるわけだが、何時までも現状のままだとこの先献立が貧しくなっちまうし、ヤ〇グマ〇ジンも廃刊しちまう。それは避けにゃあならん」

 

〔風森〕

「全く竜馬先輩は……まあ、かれこれ2週間経ちますが、見つかるのは鳥の群れやよくわからん海洋巨大生物、それに猫の額ほどちっぽけな岩ばかり。全くまともな資源が見つかるのはいつのことになるんすかね」

 

〔本塁〕

「全く、俺たちはつくづく運がいいのか悪いのか……海外派遣から戻った直後にこんなことになっちまうとはなあ。

日本は今の所相変わらず平和だが、元の世界のことが気がかりだぜ。

アフリカとか中東とか、あの辺りはずっと昔から今に至るまで、地域を巡る利権や対立なんかが国際関係も含めて不安定になりがちだし、最近も割ときな臭い感じだったからな」

 

本塁の言う海外派遣とは、海上自衛隊が行っているアフリカや中東での海賊対処や情報収集などの任務のことである。

 

先ず前提として、現在の日本は海洋国家であり、国家を富ませるための多くの資源を国外に依存している。

その資源の行き来する交通網の範囲は広く、遠く中東やアフリカ、場合によってはヨーロッパなどにも到達している。

 

しかしそれら海外の地域においては、治安の乱れた場所も存在し、そしてそのような地域に住む人々や、その地域に対して外部から何らかの目的を持って干渉しようとしている者達が、海上を征く船舶を狙って海賊行為やテロを仕掛け、被害を齎すような事件も起こる。そしてそんな事態が発生したり、或いは未然に防ぐためには、防犯のために治安維持戦力を現場に送り込み、事態を解決する必要がある。

 

特に、アフリカ北東部に位置し、中東やヨーロッパに繋がるために日夜多くの船舶が航行していくソマリア沖やアデン湾あたりの海域は、海上輸送の大動脈とでも形容すべき世界の物流における重要な場所であり、それ故に船舶に積まれた荷物や乗員の身を狙う海賊の活動が活発であった。

 

そこは日本にとっても重要な物資流通網であり、日本から出航する船や、日本を目指す船がこの海域において海賊に襲撃されて被害を受けないようにするため、海上自衛隊は2009年から米国などを含めた各国の海軍や海上司法機関と共にこの海域を警邏しており、その拠点をジブチ共和国に設置し、人員と機材を部隊ごと交代制でこの地に派遣している(なお陸上自衛隊や航空自衛隊も、この地に共に派遣されている)。

 

その努力の甲斐あってか、当該海域における海賊事案の発生件数は低下し、ほぼ根絶することができた。

 

そして2020年からは、オマーン湾、アラビア海北部及び、バブ・エル・マンデブ海峡東側のアデン湾の三海域の公海―これには沿岸国の排他的経済水域が含まれる―において、自衛隊による『情報収集活動』を実施し始めることとなった。

 

その目的は以前の海賊対処のためのものというよりも、国際情勢の変化により日夜危険性を増していくであろう中東地域において、日本関係船舶の安全確保に関して政府が一体となった取り組みを行うこととされる。

 

これの具体的なものとしては各国の『軍事的な動向』を観察し、政府の外交政策や自衛隊の有事に対する事前準備に反映することがあり、これはもはや海賊対処の域を超えたものであり、警察活動からより軍事的な段階への推移であるといえよう。

 

日本の平和を守るため、また世界の平和を守るために、自衛隊は活動を続けてきた。それは隊員の誇りであり、信念でもあるといえよう。

 

竜馬はそれを噛みしめながら、話を続ける。

 

〔竜馬〕

「それと……やっぱり『大陸』とか『北の連邦』のほう、それと『半島』なんかの動きだな」

 

〔本塁〕

「……ぁあ~」

 

竜馬がその語を出すや否や、場の空気が嫌悪感で満場一致した。

 

〔竜馬〕

「今世紀が始まって以来、あの『大陸』は経済発展を背景として他国に積極的な裏工作を仕掛けて、多くの国と人に迷惑をかけているし、『北の連邦』は周辺国への軍事的恫喝に事欠かない。

 

それに『半島』。あそこは結局『大陸』と地続きで、海を挟んで欧米と共に発展していった日本とは違うんだな。儒教だかなんだか知らないが、よくもまああんなにいい加減な国民性が出来たもんだよ。6年前の戦争の時だって、あいつらのせいで

日本がどれだけの被害を被ったか……

 

失われたもんは二度と戻ってはこない。そんな当たり前のことを踏みにじって、世の中に多くの混乱を振り撒こうとしている連中のことは一切許せんし、だからこそ俺たちは地道な努力を積み重ねてきたのに、まさかここにきてそれが崩れてしまうような事態が起こっちまうなんて、俺は一体この憤りをどこにぶつければいいんだ、たくっ!

 

俺らがいない間に、地球はどうなっちまうんだろうな。アメリカやヨーロッパなんかは確かに強いが、だからこそ弱い立場にある者達のことが心配でならないぜ。

ふとしたきっかけで、平和なんて崩れちまうからな」

 

竜馬は、胸に秘めた滾る熱情を発露し、それは周囲にも多少の影響を与えた。

 

〔島郷〕

「同意っす。はあ~アデン湾やジブチの平和を、もう俺たちは守ってやれないんだなあ」

 

〔内海〕

「あれからもう3か月なんですよね」

 

 

〔鎌田〕

「自分は先月配備されたばかりですけど、先輩方は大変な人生を歩んできたんですね」

 

アデン湾やジブチなど、日本から海を隔てて距離的に遠く離れた海外地域に派遣された経験のある、竜馬などの先輩集団の話を聞いて、新入りの鎌田は感慨深そうに反応していた。

 

〔鉄尾〕

「アフリカの空気や中東の空気、お前にも吸わせてやりたかったよ。

そう、戦場の空気をな……」

 

鉄尾海士長が地球を思い出して、頬に走った二本の傷跡を撫でた。

その様子を見た鎌田は、経緯は知らないもののその傷に込められた何か触れがたい事情を察知して気圧される。

縮む鎌田を見て竜馬がその場を和ませようと気を遣う。

 

〔竜馬〕

「鉄尾、お前な……

まあなんだ、鎌田、お前もすぐここの空気に馴染むさ。

馬鹿は多いがどいつも根はいい奴だと思うぜ?扱いをミスったら悲惨だけどな。

それより飯食おうぜ。ここの飯はうまい」

 

そう言って匙でタコライスを口に掻き込む竜馬の気の良い態度を見て、鎌田は今日こそ何か調査に進展があることを祈りながら味噌汁を啜っていた。

味噌汁を漂うわかめは、地球世界にいたころと変わらずわかめの味であった。

 

 

  *   *   *

 

 

同じころ、一般兵用食堂とは別に存在する幹部用食事室で、基地の幹部たちが会して朝食を取っていた。メニューは食堂と変わらないが、盛り付け方や食器など見た目に関する部分は一般兵よりも多少等級が上がり、リッチな感じとなっている。

そんな食堂とは多少異なる空気を纏う室内で、その場を取り仕切る基地司令の桐山が話を切り出した。

 

〔桐山〕

「哨戒機による調査開始から早2週間、任務に対する隊員たちの様子はどうだろうか?」

 

桐山の質問に古橋が答える。

 

〔古橋〕

「隊員たちは士気を保っております。ですが、やはり現在の状況下ではそれもいつまでもつものか。この未知の惑星は我々にとっては刺激が多すぎます」

 

古橋が指摘したのは、地球とは異なる未知の惑星の調査が、本来地球人が持っていた常識との齟齬を引き起こすことによって、隊員たちの精神に負担となっていくだろう、ということであった。

古橋の言葉を吟味した桐山は、自身の考えを打ち明ける。

 

〔桐山〕

「この広い宇宙において、異なる惑星の生命が出会ったことが、悲劇を招かないことを目指して、我々は奮戦しなければならん。そうでなければ我々は、地球でも、この惑星からも、我々自身の尊いものを永久に失ってしまうだろう。各員それを胸に刻んで、任務に励んで欲しい」

 

暗に、辛い状況でも人間の尊厳を失うな、という叱咤を受けた幹部たちは、各自桐山の言葉を食事と共に噛み締めた。

 

〔桐山〕

「さて、真面目な話をしておいてなんだが、皆昨日の晩餐のメニューを覚えているだろうか?」

 

桐山の唐突な質問に、意図が分からないながらも成川2等海尉が答える。

 

〔成川〕

「魚の煮つけでしたが……」

 

〔桐山〕

「うむ、そう魚の煮つけだ。実に魚らしいいい味だったが、今後は食料の備蓄的に、ああいった地球からの備蓄分の海戦物類は出しにくくなる。また備蓄中の畜肉類も同様の扱いを受けるだろう。しかし動物性蛋白質がない食事というものは物足りないところがあるだろう。そこで……」

 

そういった桐山は、そんなものをどこにしまっていたのか、食卓の下からA-4サイズほどの大きさのボードを取り出して、それにプリントされた図を幹部士官たちに見せた。

それを見た瞬間、場に戦慄が走る。

 

〔幹部A〕

「あの桐山司令、それは……」

 

〔桐山〕

「うむ、これは最近コック長が釣ってきた魚なんだが……可食食材だそうだ」

 

〔幹部A〕

「は?」

 

桐山のボードに描かれていたもの、それは地球においてラブカと呼ばれる深海魚―2016年に公開された怪獣王映画において、その作品中の怪獣王のモチーフとなったことは記憶に新しい―と、イボガエルをニコイチしたような容貌の、奇妙な生物の写真であった。

日本人が凡そ食欲をそそりそうもないそのような生物の姿を見せられたことで、幹部士官たちの食欲は一気に消え失せた。

そして、桐山の言葉の文脈から出題者の言わんとしていることを理解してしまった幹部たちの表情は、みるみると青ざめていく。

 

〔成川〕

「あの、桐山司令、もしや昨日の食事はその生物を……?」

 

〔桐山〕

「いや、昨日の魚は備蓄分の冷凍ブリだが、近いうちに我が基地の食事にこれを取り入れられることとなったので、是非皆に一目見て頂こうと思ってな、今日はこの写真を用意させていただいた。見た目は多少不細工に思うかもしれないが、味の方はコック長が保証するレベルだ。今夜あたりにでも試食品として出てくるかもしれないので、皆期待していてくれ」

 

期待どころか処刑宣言ではないか?と幹部士官一同は思ったが、当の基地司令は心臓に毛でも生えているのか、状況を特に気にする様子もなく、その気分を損ねるわけにはいかないので皆黙り込むしかなかった。

その後の朝食において、彼らの味噌汁に浮かぶわかめが本当にわかめだったのかは定かではない。

 

 

  *   *   *

 

 

【ロイメルSIDE】

 

その日、キャンプ・ガイチに向かって飛行する翼龍と騎士の一団があった。

翼龍騎士団総長ラーツを団長として君臨する第1翼龍騎士団である。

彼らは昨日本国を出発し、本国とキャンプ・ガイチの中間にある中継基地にて1夜を明かし、そして今日キャンプ・ガイチに到着する予定である。

アラスカ程の広さを誇る広大な樹々の海の上を飛ぶ25騎の翼龍の編隊は、なんともちっぽけなものであった。

 

〔若い騎士〕

「昨日から、どこまで行っても森しかないですね」

 

ついひと月ほど前に第1翼龍騎士団に入団したばかりの新米騎士ロイが、自然の作り出した壮大な光景を前にしながらも、うんざりしたように言葉を漏らす。

それを見たラーツは、中世的な美顔を微笑ませながら、若輩者を揶揄い可愛がるような声色で諭した。

 

〔ラーツ〕

「なんたってドム大陸で一番広大な土地だからな。殆ど人の手も入っていないし、目印も我々が設置したものが少しある程度だ。おかげで今自分たちがどこにいるのか大雑把なことしか把握できない。一応先ほど確認した地上の標識からして、目的地まであと300kmほどだな」

 

ラーツの言葉に、ロイははあ、とため息をつく。

 

〔ロイ〕

「あと2時間もここを飛ばないといけないなんて、気が滅入りそうです」

 

〔ドイル〕

「ロイ、弱音を漏らすな。忍耐は騎士の重要な資質だぞ」

 

〔ドイル〕

「分かってますよドイル副団長。ところでなんで我々は、禁断の地で訓練なんてしているんでしたっけ?」

 

新米騎士のロイが唐突にふとした疑問を口にする。それは自身の任務を再確認するためであって、別に読者への説明とかじゃないんだからねっ///

さて、ラーツがロイの素朴な質問に答える。

 

〔ラーツ〕

「おいおいロイ。ちゃんと説明しただろうが。現在我々の属するロイメル王国は、海を越えた北方にテスタニア帝国、西に森を挟んだアムディス王国といった軍事国家の脅威に晒されている。それらの脅威に対抗するために、個々の兵士の技量と体力を養い、物量に勝る敵に対し質で対抗する。そのために遠征を繰り返し行う必要があるわけだ。過酷なようだがそれでもやらねばならないのだ」

 

ラーツの説明にロイは自身の任務を理解した。

 

〔ロイ〕

「この遠征を何度も繰り返さなければならないなんて。はぁ~、大変だなあ」

 

〔ラーツ〕

「なあに慣れていくのさ。そのうち自分でも分かるようになる」

 

〔ロイ〕

「ところでこの『羅針盤』なんですが、これってどういう理屈で方角を示すんでしたっけ」

 

ロイが龍のうなじに括り付けられた道具を見ながら、またも疑問を口にする。

その道具は革のベルトで固定されたメーターのようなもので、そのおかげで翼龍は首に腕時計がまかれたような外見となっていた。

その質問にも、ラーツが答える。

 

〔ラーツ〕

「うむ。『羅針盤』は方角を示す道具だが、その原理は磁石の性質を利用している。

この世界の北と南にはそれぞれ磁石の極が向くようになっているから、それを利用しているな」

 

〔ロイ〕

「なふほど。ところで磁石と磁石が引き合うのって、魔力によるものなんですか?」

 

〔ラーツ〕

「いいや。魔力を帯びない磁石でも同じように引き合うから、磁力と魔力は別の力らしい。ただ、魔力を帯びた磁石の方がより強力な引力を発揮するらしい。風の噂によると、強力な魔力を持った者はそれ自体が強力な磁力を持つ磁石人間になることもあるんだとか。そういう者の場合、近くの金属全てを引き付けてしまうため、鎧を着て過ごさなければ飛んできた物で怪我をしてしまうため生活が大変なんだと」

 

〔ロイ〕

「なるほど。それは大変そうですねえ」

 

そんなこんなで2時間後、第1翼龍騎士団はキャンプ・ガイチに到着した。

キャンプ・ガイチでは先に送られていた第8、第9翼龍騎士団が彼らを出迎え、少し奮発して箔のついた食事が、長距離から移動してきた第1翼龍騎士団の面々の疲労を癒していた。

 

午後からは早速この地での訓練が始まるため、皆英気を養った。

 

 

  *   *   *

 

 

【日本SIDE】

 

朝食を終えた第一航空隊の面々は班ごとに分かれて、その日の業務を行う。この後飛行を控えた班もあれば、遅番で夕方や夜間まで自宅や寮に戻って休憩を取る班もある。

次に飛行任務を控えていた成川2等海尉の班の班員はブリーフィングルームに向かった。今日の任務の確認とフライトプラン作成を行うためである。

とは言っても任務内容はここ2週間ほどは殆ど陸地調査飛行の繰り返しであり、精々フライトプランを組むくらいしかすることはない。

 

第一航空隊P-3C運用小隊の1つ、成川班を率いている成川二等海尉―彫りの深い精悍な顔つきで、鼻が鋭く耳たぶが大き目なのが特長―が、『黒板』(昔ながらのそれではなく、大型の多機能電子ディスプレイ)に今回の任務に関する情報を、専用の付属タッチペンを用いて図や文字で描きながら説明し、それを同じ機に搭乗する他のクルーが聞きながら細かい質問やプランの積めなどを行うと、時間はあっという間に進んであっさりとブリーフィングは終了した。

 

そうしてフライトプランを該当部署に提出して、ようやく実機への搭乗が開始する。

今回成川班が搭乗する機は機体番号3373(さざなみ)のP-3Cである。

 

1978年の調達開始(実機の引き渡しは81年)が開始されたこの機種は、その後随時導入機数を増やしていき、97年度時点で通算101機ほどが海上自衛隊に配備された(事故による損耗を含む)。

 

その後は装備の旧式化に伴って随時退役が行われ、また後継機P-1の導入がその流れを更に加速させもしたが、何故か今から凡そ6年前の西暦2039年に勃発して、東アジア地域を震撼させた第二次朝鮮戦争の時点で、既に運用開始から半世紀を過ぎていたにも関わらず、以前より随時実施されていた幾度にも渡る改良と機体の延命措置のおかげで、事故で失われた機を除く大半の機体が無事に混乱に塗れた戦乱の時代を乗り越えて、2045年現時点においても何機かの機体は現役で稼働運用を続行中なのである。

 

維持の理由としては、海外への遠征機材として喪失の惜しくない旧式機を残している、ということらしい。そのせいでもはや日本版B-52Hと化しているなどと軍事趣味者からは言われているらしい。

 

性能はもはや原型を残していない等級で向上しているのだが、具体的にどの辺りが強化されたのかというと……それは後々述べられることとなるので、ここでの説明は控えさせていただく。

 

さてそんなP-3Cであるが、今回の飛行任務に当たっては、機外に武器を搭載せずに飛行することになっている。

 

P-3Cは対艦ミサイルや対地ミサイル、それに自衛用の近接空対空ミサイルなどの攻撃・防御兵器を機外に搭載することができるが、今回の調査任務に当たっては、未知の異世界でどのような勢力と遭遇するか不明であるため、相手をなるべく刺激しないようにそれらの武器を相手から見える位置に設置しないことになっている。

 

万が一P-3Cに敵対的攻撃行為を行う勢力などと接触した場合は、なるべく逃走行動を取って戦闘を避けるか、もしくは相手側の誘導に従って穏便に接触できることを祈るかのどちらかとなっている。

 

なおこの際の勢力とは、人類に該当する高等知的生命体に限らず、単体ないし群れで行動する生物全体を指してそう呼称することになっている。つまり渡り鳥の群れなどが偶然ではなく意図的に調査隊を攻撃してきた時などにも、上記の対応策を取るということである。

さて、一見して不用心であるかのように思える対応策であるが、無論問題点を考慮し、それを補う策も同時に取っている。機外に武器を設置することはできないが、反面機内に武器を持ち込むことは、任務の危険性を考慮して認可が下りていた。

そのため……

 

〔隊員A〕

「鉄尾海士長、準備は出来ましたか?」

 

〔鉄尾〕

「装備があまりに貧弱極まりないことを万全というのなら、済んでいる」

 

そう言って銃―テーザーライフルと呼ばれる非致死性の武器―を背負った防護服姿の男が、皮肉の混じった返答を同僚に返した。

 

彼、鉄尾海士長は『フライト・キャビン・トルーパーFlight Cabin Trooper(航空機内室付騎兵、FCT)』と呼ばれる役職の隊員である。

FCTとは、主に哨戒機の隊員を護衛するために第二次朝鮮戦争後に新設された新しい区分の役職であり、その任務は哨戒機が敵対勢力による襲撃を機内もしくは機体そのものにて受けた状況で、携行火器を使用して敵対勢力から味方を保護することであり、所詮民間航空機におけるスカイマーシャルに相当すると考えていただいて宜しい。

 

この様な役職が誕生した背景には、ドローンや航空型WALKER、また個人用の滞空装備といった兵器の発展によって、飛行中の航空機内部侵入という前世代においては荒唐無稽とされていた戦術を実際に採ることが可能となってきたためである。

 

旧来では想定されていなかった新種の脅威が確実性・有効性を年々増していくことを警戒した先進国の軍隊は、それら航空機の脅威を取り払う戦闘要員を哨戒機や輸送機、その他航空機全般に搭乗させておくことを推奨するようになり、海上自衛隊もその例に漏れずP-3Cなどの航空機に戦闘要員を搭乗させることで、飛行中のハイジャックに備えている。

 

武装は機内の設備に被害を与えないように、威力の調整が利き取り回しにも優れた電磁棍棒やテーザーガン、指向性電磁波の照射兵器が主であるが、万が一の状況を想定して20式小銃やベネリM3T散弾銃、またスーパーハンドアローこと91式携帯地対空誘導弾改2(SAM-2C)なども携行される。とはいえ強力な火器の使用に関しては、使用すればほぼ確実に機体に損傷を与えるため、主に低空飛行時や海上・陸上への着陸時など機体の損傷による被害が比較的少なく済む状況下で使用することが推奨されており、またその仕様状況も機体の外部に取りついた外敵を内部からの攻撃によって吹き剥がすことが前提となっている。

 

〔鉄尾〕

「もっと優れた装備が欲しいところだがな。空では貧弱な人間の生存は保証されない」

 

〔隊員A〕

「またそんなこと言って。先輩が一見かっこつけているけど、実際はスーパーメカデスドSキリストの奥さんの尻に敷かれていているヘタレだって割と皆知ってるんですからね.。知らないのは新米の鎌田くらいでしょう。それに皆が皆白兵戦狂いのケンカ馬鹿じゃないんですよ。これ以上窮屈になりたくありませんよ」

 

〔鉄尾〕

「フッ妻のことはよせ思い出すだけで恐ろしい」

 

そう語る鉄尾の足はガクガクと震えていた。

 

〔隊員A〕

「目そらさないでこっち見てくださいよ」

 

そう言って鉄尾の同僚は、パワーアシストで駆動する防護服に身を包んだ自身たちの境遇を自嘲した。

 

P-3Cの乗員は機体の与圧が喪失した時―即ち機体の損傷を意味する状況―に備えて、与圧服を兼ねた防弾服を装着している。

戦闘機パイロットのそれに似た与圧防弾服はしかし、場合によっては瞬間9G以上にも達する急加速の強烈な反動・衝撃に備え、また高高度を超音速飛行中の機体から機外に脱出する際に肉体を保護する強度を併せ持つ高度な機能のそれとは違い、高高度の低圧から最低限度乗員を保護することと、ある程度の爆風や破片を防ぐ程度の性能となっている。

この装備はその重量から確実に機体のペイロードを圧迫するが、それでも搭乗員の生命を確保する効果から導入されている。

 

……2045年のアフリカや中東では、このような装備の有無がそのまま兵士の生存を左右した。海賊たちが海を跋扈し、無人航空兵器が鎬を削るかの地域では、多少高度を取って飛行したところで、極超音速機以外の航空機に対して物理的距離が安全を確保してくれることなどは、非常に稀であったからだ。

 

念のため捕捉させていただくと、それなりに重量があるといっても基本的に自身の配置されたポジションから離れることがない哨戒機の乗員にとっては、装備による動作の低下はさほど作業効率を低下させない。

 

機内での会話は肉声によるもの以外にも、骨伝導インカムを通じても行われる。

これがあることで、全長が35メートルもあり、また機外に4発ものエンジンを載せた機体の中でも迅速に意思疎通を取ることが可能となっているのだ。

機内では、離陸発進に向けて隊員たちの作業が進む。

 

〔隊員B〕

「各計器正常に作動。与圧装置正常。空調、機内大気正常」

 

一方その頃別の格納庫では、とある機体が最終調整を受けていた。

その機体は複合材製の灰色のボディを持つ航空機型ドローンで、名を八咫烏といった。

日米の共同開発によって製造された機体であり、グローバルホークを参考にしながらもその機体規模は巡航ミサイル程度に留まっており、地上施設だけでなく護衛艦のヘリ格納庫への収容が可能となっている。

なおコンパクトな反面、速度性能を優先したために既存の同規模ドローンよりも燃費が非常に悪化しており、長距離・長時間の飛行に際しては増槽の追加ないし空中給油機による支援を行わなければならず、その分運用コストが高く付くという短所が存在する。

そして今、機体に飛行距離延長用の増槽が取り付けられていた。

 

〔整備員〕

「管制室、こちら5番格納庫。八咫烏の発進準備が完了しました。コントロールをそちらに移します」

〔管制官〕

「こちら管制室。コントロール受け取りました。発進に移るので1番格納庫前に機体を移動させてください」

〔整備員〕

「了解」

 

コントロールを管制室に移動しながらも、格納庫から滑走路手前までの移動は現場の手を使うこととなっている。

八咫烏移動用の小型車両で機体をけん引し、滑走路手前まで移動すると、既に滑走路前で待機している成川隊のP-3Cがあった。

エンジンを弱稼働させいつでも滑走路内に侵入できる態勢のP-3Cの機体は、先ほどから降り出していた雨に濡れていた。

 

〔管制官〕

「3373、『八咫烏32』のコントロールを譲渡します」

〔隊員C〕

「八咫烏データリンク完了。コントロール入手しました」

 

管制塔が整備班から八咫烏の制御権を譲渡されたところで、P-3C 3373号機の機長

及びパイロットを務める成川からの無線通信が入電する。

 

〔成川(P-3C 3373号機 機長兼パイロット)〕

「離陸準備完了……管制室。こちら3373。発進許可願う」

〔管制官〕

「こちら管制室。滑走路侵入良し」

〔成川〕

「了解。1番滑走路クリア。これより発進する」

 

P-3Cのエンジンが唸りを上げ、プロペラの回転数が上昇すると、機体は次第に加速していきV-1(離決心速度)、V-R(機首引き上げ速度)、V-2(安全離陸速度)を超過して、機体は浮遊し空へと飛びあがった。

P-3Cが離陸した後の1番滑走路に、今度は1機の航空機型ドローンが姿を現す。

灰色の機体はジェットエンジンを稼働させて、離陸の時を待っていた。

P‐3Cの機内から、ドローンのオペレーターが管制室にドローンの離陸許可を要請する。

 

〔隊員C〕

「管制室。『八咫烏32』の離陸発進許可を願う」

〔管制官〕

「状況クリア。発進どうぞ」

P-3C機内からの遠隔操作で離陸した八咫烏は、先に発進していたP-3Cを追い抜いて先行していく。

 

 

  *   *   *

 

 

【ロイメルSIDE】

 

歓迎を兼ねた昼食の後、第1翼龍騎士団の面々は早速訓練に乗り出した。

晴れ空の下、基地の滑走路に居並ぶ25騎の翼龍たちのうち、特殊な一騎を除く24騎の背中には、石を詰めた箱を積載している。

これは彼らにとっての武器である。一定の強度と重さ、大きさを備えた石は使い方次第で凶器と化すが、翼龍騎士がそれを使う際はつまり地上より高い高度から、100km以上の速度を持って地上に降り注ぐことを意味する。例え鋼鉄製のヘルメットを装着していても、重さが数kgから10kg以上にもなる単なる石の直撃が戦闘力の喪失を招きかねないのである。

 

〔ロイ〕

「でも地味ですよね、投石って」

 

新米のロイがそんなおのぼりな発言をしたのを聞いた先輩騎士の1人が、初心者を揶揄う。

 

〔先輩騎士〕

「じゃあ『アレ』使うか?第8の連中が使ってるんだが」

 

そう言って先輩騎士の指さした先にある『ある物』を見たロイが、予想外の代物に拍子を突かれてつい間が抜けてしまう。

 

〔ロイ〕

「え!?『アレ』って武器なんですか?」

 

〔先輩騎士〕

「いや、本来は建築材とか燃料なんだけどな、だが『アレ』を武器として使う変わり者も多いぞ。とにもかくにも筋力(フィジカル)が必要だけどな。1度使い慣れたら片手で振り回せるようになるぞ」

 

〔ロイ〕

「じょ、冗談ですよね?」

 

〔先輩騎士〕

「ところがどっこい。世の中には冗談みたいな連中がごちゃまんといるものさ。例えばかの有名な吸血鬼ハンターの男は、とある島で『アレ』を武器に大立ち回りしたらしいぞ」

 

〔ロイ〕

「吸血鬼って実在しないんじゃ?」

 

〔先輩騎士〕

「教育機関じゃそうなっているがな。だがどうしたわけか、世間じゃあ吸血鬼の噂に事欠かない。もしかしたら本当にいるのかもな、吸血鬼ってもんが」

 

〔ロイ〕

「ひェー」

 

〔ドイル〕

「こらババッダ!ロイを揶揄うな。ロイも馬鹿な先輩の相手をまともにするんじゃないぞ」

 

〔先輩騎士改めババッダ〕

「すいませんドイル副隊長!さてロイ、精々訓練に励んで一丁前の翼龍騎士(ワイバーンライダー)になるとしようか」

 

〔ロイ〕

「精進します」

 

 

そんなこんなで時間を使っていると、ラーツの宣言が始まった。

 

〔ラーツ〕

「よーし訓練開始だ。私の合図で離陸するんだぞ」

 

そうして訓練が始まった。第1翼龍騎士団の団員はまず最初に離陸して上空に待機したラーツの咥えた、ホイッスルに似た角笛の合図に従って翼龍を発進させていく。

まず団は第1、第2の2小隊に分かれ、そこから更に3人1組の班に分かれて行動する。

ロイはラーツ、ドイルと一緒の班なので、彼らと共に行動する。

そして基地から約1時間ほど飛行した地点で、投石訓練を行うこととなった。

 

 

  *   *   *

 

 

【日本SIDE】

 

〔鎌田〕

「飛行開始から2時間ほどで雨が止んだおかげでその後は視界が良好だったけど、今回新しい収穫は無かったな」

 

洋上を飛ぶP-3Cの機内で、鎌田が今日の調査について思いを巡らせた。

基地で雨に晒されたのもつかの間、飛行から2時間経過して日本から距離が置かれると、空は晴れて洋上の視界は良好となった。だがしかし、それでも見つけられたのは怪鳥の群れやそれを襲う怪魚など、以前から見られるものばかりで、新しい情報はあまり得ることができなかった。

そうしている間に飛行開始から6時間ほどが経過し、そろそろ調査を打ち切って「さざなみ」は基地に帰還しようという間際になった。だがしかし……

 

〔内海〕

「成川二尉。レーダーに反応あり。南西約250㎞。かなり大きな飛行物体と思われます。速度は約150㎞」

 

日本から直線距離で凡そ1000km付近にて、改良型を搭載して従来より索敵範囲が伸びていた対空レーダーに、南西約250kmの距離を時速150kmの低速で飛行する正体不明の飛行物体が検知された。

レーダーの反射電波の波長数値から、RCS(レーダー反射面積、Radar Cross Section)は凡そ数メートル規模だとレーダー員の内海は推定し、上長の成川に報告を上げた。

報告を聞いたパイロット兼機長の成川は帰還の予定を撤回して、直ちに新しい指示を繰り出す。

 

〔成川〕

「総員警戒態勢。レーダーや外に目を光らせろ。これから目標に接近し、正体を確認する。

進路を南西に向かって250kmに向けるぞ。

DCO、至近の八咫烏を目標物体に対し接近させろ。コントロールは主導するように」

 

成川の指示により、「さざなみ」の上空1000メートルを自動追尾飛行モードにて追従していた八咫烏1機が、成川隊のドローン・コントロール・オペレーター(DCO)である八田青木3等海尉―童顔で、もう30半ばに差し掛かろうとしているのに高校生甲子園球児くらいにみえないこともない―による操作を受けて飛行モードを自動から手動モードに切り替えられて、目標の存在する座標へと向かっていく。

 

なお自動で目標座標まで飛行させることも可能であるが、今回は調査飛行であるため何か不測の事態が起こった場合にすぐさま引き返すことができるように、手動による制御を行っている。

 

そうしてオペレーター主導の飛行を行っていた八咫烏が積載したテレビカメラの視界に、陸地を捉えられ始める。鎌田、鉄尾、それに八田の視線はドローンからの情報がフィードバックされるモニターに釘付けになった。

 

〔鉄尾〕

「……陸地だ」

 

〔八田〕

「かなり大きな島、いや、もしかしたら大陸の可能性もありますね」

 

八田が思わずそうつぶやくと、他の隊員も同調して黙って頷きはじめる。

テレビモニターに映りこんだのは、夕暮れの西に沈みゆく、赤い太陽の光に照る黄昏の世界の中で、波がぶつかり飛散する岩の沿岸に、緑の葉を生い茂らせている樹々の森、黄緑色の草原、それに岩肌見せる山々の連なりなど、広大な地上の光景であった。

 

その広さはテレビモニターに収まりきらないほどで、ともすれば島というレベルを超えて、大陸である可能性すら感じさせるほどのものであった。

八田は早速機長席にいる成川に報告を上げた。

 

〔八田〕

「な、成川二尉!陸地です!日本から南西約1200㎞地点に陸地が確認できます!」

 

〔成川〕

「う、うむ!ではレーダーが捉えた飛行物体はどうだ!?確認できたか?」

 

今日の午前から6時間ぶり、いや、調査が開始して2週間目にして、国外にてまともな陸地を見つけた事に鎌田たちは気分を高揚させたが、すぐにレーダーが捉えた飛行物体の事を思い出し、DCOの八田が八咫烏を操縦して目標座標に向かわせる。

 

目標座標に到達した八咫烏は八田の操作で機首下の円いセンサーポッドをぐるぐると動かすと、件の物体の姿を捉える。

 

その画像が通信によって「さざなみ」機内のテレビモニターに移しだされたとき、DCOの八田が思わず言葉を漏らす。

 

〔八田〕

「ド、ドラゴン?……」

 

〔複数の隊員〕

「「え?」」

 

〔八田〕

「ドラゴンといっても往年の〇ルース・リーじゃありませんよ。羽を

 

(ミシミシ)

 

生やした

 

(ミシミシ)

 

デカい蜥蜴が

 

(ミシミシ)、

 

背中に人間を背負って

 

(ミシミシ)

 

飛んでいます!」

 

八田は自身の知識を動員して分かりやすく光景の説明をした。それ自体は見事な解説であった―がこの時、何故か急に横から突風が吹いて機体を揺らし、その揺れで外板とフレームが軋んで異音が生じたため、成川は上手く聞き取ることができず別の理解してしまった―

 

〔成川〕

「八田、〇ルース・リーを生やしたデカい棘がセナ缶人間をCEOってとんでも埼玉ってなんだ?」

 

〔八田〕

「ファッt!???????」

 

 

それが日本人が異世界にて初めて龍―地球世界において進化論的に発生せず、この世界においてその発生が生じた未知の生態系―に遭遇した瞬間であり、また異世界の人類の存在を確認した瞬間であった。

そして、成川に難聴天然属性が付き、八田に突っ込み常識人属性が付いた瞬間でもあった。

 

1つの太陽と、それに付き従う1つの明星の光にて暮れなずむ星の片隅で、何かが起きようとしていた。

 

 

つづく☆




以上、第4話でした。

原作は元々作中年代が2024年だったのが途中で2045年に変更されたのに際して、妙なところで奇天烈怪奇なところ(2045年時点でP-3Cが就役中)ができてしまったので、そこをネタにしてみました。

現実にはB-52Hという上には上がいる状態(?)ですが、もうあれは例外中の例外ということでw

他にもいろいろと突っ込めそうなところは突っ込んでいきますので、適当に笑って流していただければ。

ただ今作はあくまで外伝なので、ここでの描写が絶対正しいということはないです。
変な横文字(『翼龍騎士と書いてワイバーンライダー』とか)もあくまでここ限定のオリ設定ですw原作には一切出てきません。

あと今回から台詞の上にそれを発してるキャラの名前を記載しています。キャラの書き分けがあまり出来てなくて読んでて分りにくいかな?と感じたので。

今回のタイトルの元ネタは某ゲーム曲から引っ張ってきてます。書きたい作品内容と曲のイメージが合ったので(なお実際出来上がった内容は)。

さて、今回のお話はもうちょっとだけつづきますので、次回もお楽しみに。

※2020年11月19日、成川二尉の役職をパイロット(機長)だと明記しました。
また、一部文章及び台詞を改訂いたしました。


今回出てきた奴の設定↓
・P-3C
ロッキード社(現ロッキードマーティン社)が開発した航空機、P-3シリーズのタイプC。愛称はP-3の頃から一貫してオライオン。
P-3シリーズは旅客機のL-188エレクトラを改造し、哨戒機化したもの。

P-3シリーズのアメリカでの初飛行は1958年(運用開始は62年から)であり、海上自衛隊における調達も78年から97年までと、作中の2045年時ならば古い機体なら確実に半世紀、最終調達機もほぼ半世紀と、就役期間の長さが伺える。2013年に運用を開始したP-1と随時置き換えている筈であるが、随分と長生きの機体もあったものである。

作中での維持理由としては、作中でも述べた『海外への遠征機材として喪失の惜しくない旧式機を残している』というのが専らの理由である。

自衛隊はジブチやアデン湾などの海外にも展開しているが、その様な遠征先だとP-3Cより大型のP-1が格納庫に入りきらなかったりする(マジ)ので説得力はあるが、それは現在(2020年)での話であって、四半世紀後になってもP-1がちゃんと入る施設を新しく造らないものなのだろうか?
まあ実際のところ、アフリカや中東までP-1送り込まなきゃいけないほどの危険が起こることは現状なさそうである。じゃあ既にある機材を使い回そうか。

パーツも確保が難しくなっている筈であるが、何故態々維持を?それは神(ワイアード氏)のみぞ知ることかもしれない……

一応本作では機体寿命の延長措置や、様々な改造によって2045年時においても通用しうる機体にする予定であり、その詳細は次回以降明らかになる。

因みに自衛隊ではP-3Cから導入を開始したため、書類上でもP-3ではなくP-3C表記だったりする。割とどうでもいいことだが。

・八咫烏
グローバルホークを参考にして、日米にて共同開発を行った航空機型ドローン。
その機体規模は元となったグローバルホークの半分以下であり、巡航ミサイルに近いものとなっている。その機体規模の小ささからフリゲートや駆逐艦規模の艦艇での運用や、輸送トラックなどからの射出が可能。

滞空時間よりも速度性能を追求し,既存の巡航ミサイルへの搭載等で実績のあるウイリアムズF-107をベースとした改良型ターボファンエンジンを搭載することによって最高時速950kmを発揮するが、その分既存の同規模のドローンと比較すると燃費効率の点で劣り、増槽や空中給油による支援の必要性が増しているため運用コストも高額化している。

固定装備として3連装式12.7mm機関銃GAU-19を機体下面に装備している。余談だが回転型砲身の機関砲という点で近代航空機用機関砲の傑作であるバルカンことM61と混同されがちであり、メディア等ではバルカンと表現されることもあるが、政府や開発企業の公式文書にてバルカンがこの銃の通称として用いられたことはない。

・キャンプ・ガイチ
ロイメル王国が禁断の地北東部に築いた軍事施設。
森を切り開いて建設しており、その際に出た木材を施設の建築などに流用している。
翼龍の離発着に備えて木板を敷き詰めた滑走路を置いており、龍車を引いた母龍の運用が可能となっている。

本来は禁断の地の開拓に際する前線基地としての役割を果たすはずなのであるが、開拓があまり進んでいないため作中ではもっぱら遠征訓練施設としてしか機能していない。

基地司令はフォンク・ロソン副将軍。彼はロイメル王国航空軍第5群(禁断の地方面を活動地とする)の司令を兼ねている。彼が家族に一緒に移住することを提案したら却下されたため、基地近くに小屋を建てて独り単身赴任している。さみしい。

・トカラ
ロイメル王国の翼龍騎士団の用いる翼龍の品種名。比較的従順で操作しやすい。

ロイメル王国の翼龍騎士団の場合、戦闘用として用いるのは8メートル前後のライト級(他国のウェルター級やヘビー級と比較した等級)と、それより上の母龍級(25メートル)になり、それより下の5メートル程度のものはもっぱら訓練や連絡用、軽攻撃用の汎用個体と位置付けられている。

航空戦力としての能力は世界レベルで見ると平凡であるが、闘龍などのように飼育に特殊な手間が掛かるということがないためロイメル王国のような低文明国家においては比較的重宝されていると思われる。

因みに同じ名前のトカラという品種の馬が日本の在来種として存在する。元ネタか(ry

・フライト・キャビン・トルーパーFlight Cabin Trooper(航空機内室付騎兵、FCT)

主に哨戒機の隊員を護衛するために第二次朝鮮戦争後に新設された新しい区分の役職であり、その任務は哨戒機が敵対勢力による襲撃を機内もしくは機体そのものにて受けた状況で、携行火器を使用して敵対勢力から味方を保護することであり、所詮民間航空機におけるスカイマーシャルに相当すると考えていただいて宜しい。

この様な役職が誕生した背景には、ドローンや航空型WALKER、また個人用の滞空装備といった兵器の発展によって、飛行中の航空機内部侵入という前世代においては荒唐無稽とされていた戦術を実際に採ることが可能となってきたためである。

旧来では想定されていなかった新種の脅威が確実性・有効性を年々増していくことを警戒した先進国の軍隊は、それら航空機の脅威を取り払う戦闘要員を哨戒機や輸送機、その他航空機全般に搭乗させておくことを推奨するようになり、海上自衛隊もその例に漏れずP-3Cなどの航空機に戦闘要員を搭乗させることで、飛行中のハイジャックに備えている。

2045年における平均的な装備は、機内の設備に被害を与えないように、威力の調整が利き取り回しにも優れた電磁棍棒やテーザーガン、指向性電磁波の照射兵器が主であるが、万が一の状況を想定して20式小銃やベネリM3T散弾銃、またスーパーハンドアローこと91式携帯地対空誘導弾改2(SAM-2C)なども携行される。とはいえ強力な火器の使用に関しては、使用すればほぼ確実に機体に損傷を与えるため、主に低空飛行時や海上・陸上への着陸時など機体の損傷による被害が比較的少なく済む状況下で使用することが推奨されており、またその仕様状況も機体の外部に取りついた外敵を内部からの攻撃によって吹き剥がすことが前提となっている。

WALKERではなく人間の歩兵がこの役職についているのは、人員も含めた機内の設備に対する細心の注意を払えるほどにWALKERのAIシステムが発展していないためと、あと作中の捜索任務では未知の勢力と遭遇した際に交渉を行うことなども考慮されているため(AIに交渉は任せられない)。

・テーザーガン、テーザーライフル
スタンガンの一種であり、電気を通す針(ワイヤーで銃本体と繋がっている)を射出し、電気的ショックを対象に与える武器。

主に攻撃力を抑えた非殺傷兵器として用いられるが、状況によっては殺傷兵器と成り得、実際に死傷者が出ているため扱いには十分注意が必要。
これは玩具ではなく、立派な武器である。

作中では主に航空機内や船内など、火器の使用が限定される状況で用いられる。
対WALKER仕様の電圧を上げたタイプがあり、これは主にWALKERの電子機器類にダメージを与えることを目的としているが、その分取り扱いは非常に危険であり、くれぐれも漏電などには注意。とりあえずラバースーツと竹でも纏おうか?

・電磁棍棒
棍棒の一種であり、接触による通電によって対象にダメージを与えることを目的としている。

スタンガンよりも通電範囲が広い分誤爆の可能性も上がっているため、取り扱いには十分な注意が必要。とりあえずラバースーツと竹でも(ry

対WALKER仕様のものも存在するが、こんなものがWALKER相手に役に立つかというと……万が一に備えた最低限の装備にして、最後の武器。使う時は相手と刺し違える覚悟を決めよう。必死で抱き着けば多分当てやすいはず(なお巻き添え)。

なおコーラをぶっかけると威力倍増である。えっなんでかっていうと詳しくは通りすがりのサラリーマン『ウインド』が作中最強な漫画作品(隠す気無い)の第一巻でも読んで頂ければ……分かるはず(説明が遠回りだって?察しろよ)。


・タコライス丼
鹿屋基地の名物料理。

梅ジャムとチリソースが入った特性ミートソースと、パルメザンチーズ、キャベツが白米の上に乗った丼もので、沖縄県の辺野古基地からやってきた外人シェフがもたらしたとも、現コック長がシェフとの殴り合いの末に力づくでレシピをもぎ取ったものとも言われている曰くつきのメニュー。

因みに味に関しては、『好き嫌いが分れる味』とのことである。料理に自身のある方は実際に作ってみてはいかがだろうか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。