日出づる国、異世界に転移す 非公式外伝『GW』 作:島スライスメロン
その後の本編の描写と矛盾などがある場合がございます。
ご了承の上お読みください。
この作品は基本ギャグ時空となっております。キャラ描写につきましては、原作作品と異なる場合がございます。くれぐれもご注意ください。
本作には独自設定が登場する場合がございますが、公式ではない点をご留意ください。
※2022年2月7日、本文内容を修正いたしました。以前投稿時とは少し変わってます。
※今回のお話は月詠月夜の裏場面編です。③④で古橋たちがドム大陸にいる間に日本で起こっていたことを掲載いたします。
* * *
―前回のあらすじ―
禁断の地にて異世界人との接触を果たした、鹿屋航空基地第1航空群第1航空隊の面々は、元居た地球と新世界との相違点に関して、ここに古から住まい続けてきた現地の先人たち、その彼らが遥かに遡る先祖の代より長きに渡って懸命に蓄積してきた、経験からくる知識と推察により多くのことを知り、この世界に自分たちの地歩を築き上げる機会を手にした。
それは、異世界転移による未曽有の混迷という事態からの脱却、その救済の道に繋がる可能性のある機会である。
そして今回の話は、そんな一縷の望みに望みをかけた者たちによる、決して表に出ることのないであろう、隠された影部分の物語である。
【番外編 月詠月夜裏面① 日本SIDE編】
【海上にある小島群】
海上にポツンと浮かぶ岩の窪みで、数十羽もの鳥が羽を休めている。
窪みの外では、空に浮かぶ灰色の雲から降り注ぐ多量の雨が猛威を振るっており、飛び出せば鳥たちの体は低体温症に見舞われるだろう。鳥たちは身を縮ませ、体温の維持に努めていた。
その岩の小島から離れた場所にあるまた別の小島では、鳥ではなく蝙蝠が先ほどの鳥たちと同じように岩の窪みの中に身を隠し、雨が上がるのを暗闇の中から窺っていた。
雨に打たれる海面の下では、頭上の喧騒など何吹く風といった具合で遊泳する魚群が、自らより小さいプランクトンなどを捕食したり、また自身がより大きな海洋生物に捕食されたりしていた。
鳥、蝙蝠、魚。生き物の種類は様々で、どれも特徴が異なるが、だがしかし共通してどの生き物もその瞳はぎらつき、自らの生存の為に原始の炎を灯していた。
生存競争の渦中にあるもの皆が持つ、その熱を。
* * *
【日本国 東京都 首相官邸 首相の部屋】
日本国総理大臣広瀬勝首相は、昼食後の休憩時間において、束の間の仮眠を取っていた。
安寧を貪って、彼は静かに思索する。胃に食べ物を入れ、血糖値が変化をすると急速な睡魔に見舞われるのは人間の生まれ持った肉体的な性であるが、年齢を積み重ねて、余り無理のある体と脳の使い方が出来なくなってからは、このような生理的欲求には若い時分の頃と比べて我慢が足りなくなり、誘惑につい屈してしまいがちになったと。そして、高い地位についたおかげで時間の使い方に余裕が出来たのが、せめてもの救いであるだろうか、とも。
思えば遠くに来たものだ。昔の自分は、別に今の自分のような総理大臣を目指していた訳ではなかったと思う。否、正確には目指していたからこそ今の総理大臣としての自分があるのだが、当時はそんなことよりも先ずは自分の欲求に正直になることを第一に考えていて、それを実現するために我武者羅になっているうちに何時の間にか総理大臣などになっていた、というのが恐らく正確な経緯である筈で、だがしかし、今こうして政界のトップに立ってそれで万事満足しているかというと、それは違うと思う。むしろ総理大臣になってもなお、それは人生の通過点に過ぎないとして次の目的に万進することを望んでいる自分がいる。きっとそれが広瀬勝という人間の在り様なのだろう……と、広瀬は自身という存在を見極め、理解しようと問答した。それはきっと気の緩みであり、退屈潰しという趣の事象であるのだろう。
彼は続けて考える。だがそれにしても、先ほど食した鯖の味噌煮の実に美味なこと。鯖の旬である秋季から冬季にかけての時期からは外れているものの、それでも脂の乗った鯖の身に、濃厚な味噌がしっかりとしみ込んだ上質な鯖の味噌煮は、臭み除けの生姜や長葱、それに食用酒の効能も相まって、ふっくらとジューシーな食感に仕上がっていた。それを口に含んだ時に広がるのは、海と陸地の見事なハーモニー(調和)である。鯖の身を歯で噛みしめると、魚肉はその度にほろりと解れて、鯖という魚が持つ海の辛さと苦さと甘さなどが、味噌や生姜、長葱など陸の食材の持つ辛さや甘さなどの土の風味と複雑に絡み合い始める。そうやって口の中で食材が踊っているところに、次は酒の醸し出す旨味がやってきて、全ての味を存分に引き立てるのだ。
たかが鯖の味噌煮であり、されど鯖の味噌煮に過ぎないのであるが、美味いものは誰が何と言おうが美味い。それは宇宙の真理なのである。
その美味い料理であるが、それは其処ら辺に自然に実っていたものを、あるからただ取ってきた、などというものでは無論断じて違う。美味い料理を作るために、料理人が手間暇かけて調理したからこそ、美味い料理が出来上がるのだ。
それを踏まえた上で広瀬は、やはり権力にものを言わせて、吉田茂以来数十年ぶりに『官邸料理人』を復活させてよかった、と思った。ただ美味いものを食いたいという、俗人的な、あまりに俗人的なる私欲を満たしたいという、ただそれだけの理由で彼は、官邸料理の本場フランスに留学修行に行った経験のある超一流の調理スキルを持つ人材を、日本政府の持つ権限を存分に駆使して官邸料理人として雇い入れたのである。そしてそのシェフは、見事なまでに自身に与えられた役割を果たしているといえた。その人物の料理を、広瀬首相はあえて稚拙なまでの語彙力で表現する。そう、それは正に『セ・トレボン(まいう~)』なのだ……そうやって広瀬は自身のあげた功績を、人知れず密かに自画自賛した。
さて、しかし夜通しの緊急会議は大変だったと、広瀬は先ほどのことを思い出して、自分なりの見方で事態を振り返っていた。
* * *
自衛隊が異世界の大地と文明的な住民を発見したという報告は、すぐさま官邸、というより各大臣の元に上げられた。
とはいえ、その時点ではまだ情報の詳細は不明であり、政府としては即時に何らかの行動をとるということはなく、一先ず様子見してみるという判断を下さざるを得なかった。
そんな政府を横目に、自衛隊はより精密な情報を得るために、政府の作成要綱を参考にしながらも独自の判断ですぐさま精密調査隊を用意して、先行の部隊が発見したという未知の地へと調査隊を突入させた。そして、日を跨ぐ前後の時間帯になって再度異世界人を発見し、それからは彼らの動きを追跡した。そして彼らが活動の拠点としているであろう場所へとたどり着いたのが、追跡開始から更に数時間経過してのことであり、その時には既に日を跨いでいた。
それはある意味で迂闊な行動であり、だが結果論的には懸命な判断になるかもしれない。調査隊の派遣はともかく、現地人との接触を急ぎすぎたのは時期尚早と言えて、万が一の事態を考慮するのならば、もう少し時間をかけて観察を重ねてから、安全性を確認した上で接触を果たすことのほうが良かったのかもしれない。しかしそれを踏まえた上で、とんとん拍子に事態を進歩させていったことによって、国の抱えた問題―資源や食料、それに土地問題など―を多少早めに解決できるかもしれない機会を得たのだ。
これが吉と出るか、それとも凶と出るのかは、今後の行動次第であろう。ある意味では政治家の腕の見せ所かもしれないと、広瀬首相は状況を俯瞰して、そのシュールさに笑気を込み上げさせた。それは或いは、ただ単に正気ではなくなったということでしかないのかもしれない。
そうして広瀬が多少気を触れさせながらも、緊急の秘密閣僚会議に出席したのが日を跨いだ深夜の時間であった。急な招集も相まって、会議室内には今回招集された大臣及びその補佐官たちの睡魔と倦怠感、それにいら立ちを抱えた空気が満ちていた(一応、深夜に会議を開く旨を前もって告示し、食事と短時間睡眠を各々に取らせてはいる)。
周囲のそんな様子を横目に見ながら、自身もまた倦怠感を抱えていた広瀬はしかし、職務と地位役職に対する義務と責任感から、会議の開始を宣言することとした。
彼は席から立ち上がり、気と表情、それと姿勢を正す分の筋肉を引き締めて言葉を発する。
「各大臣及び補佐官の諸君。今日は急な会議の招集に参加して頂き、誠にありがたく思う。ではこれより、自衛隊の国外調査による新国外勢力の発見及び接触に関する事態進展度の説明会議を開催致する……と、取り合えずかたっ苦しい敬語はこれぐらいにして、皆本音で話し合おうか。今回は全会オフレコで行く」
半ば形式だった会式演説は、凡そ政界の慣習に基づくものであり、広瀬も役人の歴史を背負う立場から従ったが、それはそれ、直ぐに何時ものリラックスした状態に戻って、その場の空気を和ませた。
〔広瀬〕
「ではまずこれまでの調査結果と、それから今までに至る事態の流れについて、久瀬、説明を頼む」
広瀬の支持を受けた久瀬防衛大臣は、はっ、と了承の言葉を発して、事態の説明を開始した。
昨日の夕方、緊急特例に基づく国外広域調査任務を行っていた海上自衛隊鹿屋航空基地所属の第1航空群第1航空隊は、日本の南東約1200kmの地点において、データーベースにない大型飛行物体の反応を航空機のセンサーにて補足。その反応を頼りに、接近追跡を試みた第1航空隊は、その飛行物体の周囲に大規模な大地を発見。
そして飛行物体の正体を、航空機搭載の光学カメラで補足できる距離で確認したところ、飛行物体の正体である未確認生物と、その背部に騎乗した文明的な人類を発見するに至る。
未知の勢力を発見した第1航空隊の面々は、航空機のセンサーを駆使して相手の様子を確認したのち、航空機の燃料不足及び隊員の休養のために、一旦調査を中断して鹿屋航空基地へと帰還する。
その後、帰還した調査部隊と交代するものとして、短時間で第2次調査隊を発足・出動させた鹿屋航空基地は、数時間後に再度の現地勢力発見の報告を第2次調査隊より受報、更なる調査のために現地勢力を追跡し、そして先ほど現地勢力の拠点と思しき施設に到着した模様である……
現在の状況について整理した情報を、プロジェクターなどを交えて説明した久瀬は、あらかじめ用意していた資料を机上に置いて、周囲を見渡しながら最後にこう述べた。
〔防衛大臣 久瀬〕
「以上で、現状の説明に一度区切りをつけさせて頂きます。これまでの説明で、質問のある者はいらっしゃいますか?」
久瀬の発言に、真っ先に挙手して質問を投げかけたのは、官房長官の小清水であった。
〔小清水〕
「久瀬、質問があるんだが。
今回の自衛隊の調査において、外部から政府に関わりのない民間人を参加させたという説明があったが、それは一体どのような経緯を経てのことであるのか、説明頂きたいな」
小清水の発言に、他の大臣もざわつき始める。
〔経済産業大臣 渋川〕
「たしかに、自衛隊の調査隊に民間人が関わっていたとは……一体どういうことなんだろうか?」
〔厚生労働大臣 田嶋〕
「それって法的に大丈夫なのですかねえ?」
大臣たちのざわつきをよそに、久瀬は答弁を開始する。
〔久瀬〕
「それが、その部隊を統括する基地の指揮官に事態のあらましを問いただしたところ、どうやらその基地司令は、政府によって発行された緊急時対応マニュアルに従って、基地周辺の外務省職員にコンタクトを取ったところ、その職員からの紹介によって、問題の民間人を基地内部に受け入れ、調査隊に参加させた模様です。
そのことに関しましては、現在安住外務大臣が詳細に通じておりますので、彼に説明の代行をさせて頂きますが宜しいですか?小清水さん」
久瀬の弁に、小清水はうむと頷く。
〔小清水〕
「了解した。では安住、今回外務省職員が、自衛隊基地施設内への民間人の受け入れを示唆したということは事実だろうか?説明を頼む」
安住大臣が席から立ち上がり、説明を開始する。
〔外務大臣 安住〕
「はい。今回外務省の職員が、当該の基地司令官に対して、自衛隊基地施設内への民間人の受け入れを示唆したことは事実です」
安住の説明と、今回の事件に関する対応に、会議室内がざわつく。その中で渋川が安住大臣に質問を投げかける。
〔渋川〕
「安住君、それは一体どのような経緯からそういったことが起こったのか、説明をお願いできますか?」
〔安住〕
「はい。まず昨日の夕方、鹿児島県内の外務省関連施設内に居た外務省職員の狭間達夫氏は、現地の官宿舎に戻っていたところを、鹿屋航空基地司令官桐山勲留氏より連絡を受け、新世界における人類型勢力の発見について知らされます。
狭間氏は、暫定的規定対応策に基づいて、外務省としての事態に対する対応行動、即ち現地勢力の安全性が確認されるまでの間、外務省としては自衛隊の調査内容の精査に徹し、直接の接触を避ける方針を示しましたが、その直後、彼独自の判断において、民間人である曽我勇吾氏が自衛隊の現地調査へと関与することを桐山勲留氏に提案致しました。その後の動向に関しましては久瀬さんの仰る通りです。
つまり、今回の海上自衛隊国外調査活動に対する民間人の関与の示唆に関して、これは外務省の総意によるものではなく、現場の人間による独断であると断定させて頂きます」
安住の答弁に、場がざわつく。
〔田嶋〕
「安住大臣も今回は災難だねえ、部下が暴走してしまうなんて。
それで、その狭間氏と曽我勇吾氏の関係だけど、それは一体どういうものかね」
〔安住〕
「はい。今回今回狭間氏の示唆によって現場に派遣された人物、曽我勇吾氏ですが……彼は確かに民間人ではあります。それは決して間違いではなく事実です。
ですが、彼はただの民間人ではありません。何故なら彼は……あの世界的に有名な人材派遣会社『EDGEVIS(エッジビス)』の元職員であり、狭間氏とは以前同地で行われた国際親善イベントにて出会い、共に仕事をした関係だとのことです」
〔田嶋〕
「むっ……?」
〔参加者たち〕
「なんと」「EDGEVISだって?」
田嶋や他の幾人かの参加者たちは、安住の言った『EDGEVIS(エッジビス)』という言葉に反応した。それは予想外の展開に対する驚きと困惑を含んだ態度であった。
何故彼らはそのような反応をしたのか?その理由は、話を続ける安住によって明かされる。
〔安住〕
「さて、元EDGEVIS職員である曽我勇吾氏ですが、彼は同社の内部は無論のこと、国内、いや世界的に見ても稀な能力を持った人物であり、単なる民間人として扱ってよい人物とは言えません。
何故なら彼は、EDGEVISの中でもその特異性が強調される『CS』……『コマンドサポート』と同社内で呼ばれる、同社保有の『民間軍事部門』、その部署において類稀な功績を称えられたものにのみ与えられる、『等級A』の資格(ライセンス)を取得した特別な職員だったからです。
つまり、彼の元の職業は広義の『傭兵』に当たります。それもかなり凄腕の、です」
〔幾人かの参加者たち〕
「「!!」」ざわざわ……
安住の発言に、またも場がざわつくが、今度のそれは先ほどのように状況が不明であるが故の困惑によるものであったのに対し、今度のざわつきは意味を理解したが故の、驚愕によるものであった。
〔田嶋〕
「EDGEVISのCSと言えば、やはり数々の怪しげな噂の絶えない『軍需複合体』、あのEDGEVISのCSのことか。安住君の口から出たから一瞬聞き間違いかもしれないと思ったが、やはり聞き間違いではなかったか」
〔渋川〕
「田嶋さん、軍需複合体というと語弊がありますよ。当該企業のCS部門は確かに非常に高度な依頼遂行能力と、独自の先端技術開発能力などがありますが、さすがに一部門だけでそこまでの政治的な影響力は持ちえませんよ……最も、同社が本気を出した場合、国際情勢にすらも影響を与える、といった具合の『与太話』はちらほらと聞こえてきますがね」
田嶋、渋川の語りは、場の空気を反映しながらも多分に解説的であり、会議参加者たちの内心を代弁したものであった。
『EDGEVIS』。その会社は正式名称を『Expert Dispatching General Enterprise that acts on Behalf of Various Industries in Society(社会の様々な業種を代行し援助する専門家派遣総合企業)』といい、世界規模での活動範囲と、現代社会において要望される広範な種類のあらゆる依頼に対応した、様々な職能を持った専門技術者たちを擁する人材派遣・業務代行の会社である。
個人家庭のベビーシッターから、地域規模での紛争解決まで、その対応業務は非常に広範であり、そのどれもにおいて、自社の提供しうる範囲内での最善の資質を持った人材を、自社及び依頼先からの判断で選抜。そして選抜した人材を実際の業務現場に送り込み、依頼者の抱えた問題を解決することで、自社の利益と評価を上げていく。そうやって人材派遣業界においてのし上がってきた会社であるのだが、この会社の特徴は、時代に合わせたAIシステムの採用や、先進的なサイバー技術の導入といった先端技術の活用などといった面において他社に勝る、のというのもあるのだが、やはり一番目立つのは、人材派遣会社としては基本的ともいえる、優秀な人材の保持といった面で高い評価を得ている、ということだろう。
どんな困難な依頼も達成する鋼の精神力と技術力を兼ね備えたプロ集団。それがEDGEVIS職員の世間でのイメージであり、また会社が目指すものである。そして実際に、どんな無理な依頼を幾つも達成して見せたからこそ、今現在名声を得ているといえる。
さて、そんなEDGEVISの中においても特に優秀な、真のプロと目されているのが、安住の言った『A級職員』である。
現在EDGEVISのCS部門の職員には、実際の正規軍隊における階級のように、その能力に応じた3つのランクが割り振られている。
一般人と同等以上の能力を持つものはC級職員。プロ中のプロと目される者はB級職員になる。そして真のプロであり、不可能を可能にする『真の企業戦士(ビジネスファイター)』たる存在であり、CB級職員よりも遥かに上位の階級にあるのが、安住の言う特別な存在であるA級職員である。
A級職員とそれ以外の階級の違いは、難関試験突破の有無と、功績である。C級からB級への昇進は、ある程度の経験や評価の蓄積、それと簡単な試験(これも一般人には難関で、プロ中のプロと普通のプロという一般人にはなんのこっちゃな区別を生み出す要因となっている)の突破によってなされるのであるが、A級はB級職員に更なる試験を課して、その試験を突破できたものだけがようやく選定基準に到達できる領域だとされている。
その試験の内容は社内機密であり、社外にその詳細は一切漏れていないが、噂によるとその試験内容は正に職人としての命と物質的な命、双方の掛かった苛烈なものであり、中には試験突破に失敗してプロとしての道を閉ざされた者や、命を落としたものまで存在するといい、そこまでして職員を淘汰選別していく様を指して、EDGEVISを『軍需複合体(しのしょうにん)』などと揶揄する輩も、世間には存在するという。
さて、そうしてようやく選定基準に到達した者達は、そこから更に各自が実際に上げた『功績』を評価に加味されていき、専任のA級職員選定評価官が昇進の最終決定を下すことによって、それでようやくA級職員の階級と、その証である『資格(ライセンス)』が与えられる。この資格は実際の軍隊のものに置き換えると、米軍における準最高位勲章である各軍の殊勲十字章に匹敵するとされるほどの権威の光を持っており、これを持つものは世界の大半の軍事組織において、特別な客人として手厚く持て成されることは間違いないであろうと目されているほどに、個人の権利を保障するものである。
そんなEDGEVIS-CSの中で、正体不明の曽我勇吾なる人物は、選ばれしA級職員なのであると語った安住の発言は正に、議場内に衝撃を与えたのである。
〔田嶋〕
「しかし安住大臣の発言が真実だったとして、あくまで元傭兵で、今は一端の民間人に過ぎないであろうものを危険な調査に加えるのはなあ。
マスコミにばれたら面倒なことになるのでは?」
〔渋川〕
「いや、むしろ見事な選択かもしれませんよ。
未知の土地に公務員を送り込んで、態々危険に晒すよりは、『戦争馬鹿』にそれを代わって頂くというのは。
それに所詮傭兵のやることですから、仮にマスコミが騒いだとしてもすぐに話題が立ち消えになりますよ。しかも相手は元EDGEVIS職員とはいえ、今は個人業だというではないですか。そんな小さな規模では、仮にマスコミに知られたところで大した騒ぎにならないのではないですか?」
〔田嶋〕
「渋川さん、幾ら民間軍事会社の元職員だとは言え、一般の国民に対して『戦争馬鹿』は余りに言葉の暴力が過ぎるのではないですか?
その粗暴さ、政治家には命取りになりますよ。今後失脚したくなければ、お気をつけなさったほうがよろしいかと。
まあ、20年前ならいざ知らず、今は『民間軍事法』もあって、そこらへんの違法性はだいぶ薄れているのは確かに事実ですし、そうですね、問題というほどのものにはならないかもしれませんねえ」
田嶋の注意を受けて、緩んだ気を引き締めなおす渋川。また田嶋の方もまた、渋川の言葉を一考の余地ありと受け入れた。
そんなこんなで一旦空気が落ち着いてきた会議は、更に進んでいく。
〔副総理大臣 南原〕
「安住、今回調査に加わった曽我勇吾氏が、民間軍事法に基づいて傭兵として扱われるに足る人物であることは分かった。
しかし、それでもなお気になるのは、何故そのような人物が態々今回の自衛隊の調査任務に関わることになったのかであり、またその結果どうなったのかということだ。
外務省の見解を述べてほしい」
南原副総理大臣の質問に、安住は自己の意見も交えた外務省の意図を述べていく。
〔安住〕
「そのことに関して説明させて頂きます。まずは既に意見に出たように、まず第1の理由としては外務省の職員の身をむやみに危険に晒すようなことは、なるべく控えたいということ。この未知の世界にどれだけの国や団体が存在するか未明な以上、情報を揃えて安全性が認められるまでの間は、不用意な人員の派遣は出し控える必要があります。
これには、現在外務省は国内にいる残留外国人の扱いを巡り、当事者及び各省庁などとの間で調整や対応に奔走しており、今暫く外交準備のための時間が必要となっていることも理由として上げさせて頂きます」
南原は安住の説明に関して、ああまずはその点を上げるかと、冷静に納得した。
現在の外務省は、国外に出ることが出来なかったため、その仕事内容が国内の事項に対して集中している。即ち、転移減少に巻き込まれてしまった、日本への永住権を持たない観光客やビジネスマン、それに外交官に関する処遇を決めて、それを実行していくことである。
今の所は、暫定的に仮宿舎としてホテルや民宿などへの追加滞在の要請や、緊急のホームステイ制度施行による一般家庭への滞在、それに仮説の就寝場所の設置などを行うことによって凌いでいるが、転移現象という事態の解決に見通しが立ってない以上、どこかで限界が来ることは想像の範囲内であり、その対処のために外務省職員が奔走していたのだが、その余波として本来国外にて活動を行うべき人員ですらも、緊急事態に備えて国内に留めなければならないという本末転倒な事態すらも引き起こしてしまっていた。
―この会議の後の出来事であるが、日本がロイメル王国への外交特使派遣において、その航続能力から日本―ロイメル間を結ぶのに十分な能力を持っていた特殊輸送機山鯨や、その派生型である飛行艇『勇魚(いさな)』の出動を控え、敢えて速力に劣る輸送艦『おおすみ』をその足として用いたのには、山鯨の稼働コストや機体の内装設備、またロイメル側の大型航空機の受け入れ施設の不備といった問題以外にも、外務省内部にこのような問題があったためであり、つまりEDGEVIS職員の派遣とは、単に本来外交官が負うべき、未知の勢力圏において起こり得る危険な事態による被害を外部に肩代わりさせるだけではなく、そうした人員的、時間的余裕のない状況を計算に入れて採った、外務省による一種の代行案でもあったわけである―
安住は更に話を続ける。
〔安住〕
「次に第2の理由として、未知の勢力との接触に際して起こり得る、文化の違いに基づく暴力的な衝突の発生に際しても、非公務員である代理交渉人の存在を挟むことによって、その後の交流において後々まで禍根を残さないようにするため、という点を述べさせて頂きます。
発見された未知の勢力に関しまして、その文化様式は全くの未知であり、ちょとした行いが大規模な衝突の原因となり得ることも想定されています。
我々の常識においては友好の証である握手や、ハグ、それに挙手などが、相手にとってそうであるとは限りません。もしかしたらそれは宣戦布告の合図であるかもしれず、或いは降伏合図と受け取られる可能性もあります。それは向こうからしても同じであり、相手が友好の証としていきなり刃物で切り付けてくるなどといった可能性もあります。
そういった事態に陥り双方に被害が出た場合に、相手との関係を一度初期化して最初から交流を開始するために、政府関係者の派遣を一旦差し控えておく必要があったわけです」
安住の説明に、参加者達はううむと唸った。
確かに安住の言う通り、現状異世界の現地勢力の持つ文化様式は未知であり、友好の証として攻撃してくる可能性も皆無ではない。そうした事態に直面しながらも、双方に友好の意思がまだ潰えず残っている場合には、一度起こったことをリセットし、最初から事に当たらなければならない。
しかし、一度起こった出来事を無かったことにすることは容易ではなく、事件の被害者やその直接の関係者は無論のこと、事件を知った国民が怨恨や反感を持つ可能性がある。その点、所詮傭兵という存在であるのならば、国民の事件に対する悪感情は小さくなる。なにせ、自分から好んで危険を背負っているのだから、酷い目に合おうが自業自得であろう、という風に世論の方向を誘導するのが容易であるためだ。外務省の職員が被害にあうよりも、政府としてはよっぽど都合がよいわけである。
実際に被害にあう曽我勇吾氏及びEDGEVISに関しても、そもそも危険のある依頼であったことは事前にわかっていたはずであり、それを理解した上で依頼を承認したのだから、政府などに責任追求するのは民間軍事会社としての企業体制に問題がないか、などと主張して、政府に対する訴えなどにも反論することが可能であり、対応に抜かりはない。
参加者たちは安住の腹芸に思わず唸った。だがそれでも未だに安住及び外務省に対する疑惑の念は残っており、田嶋大臣が質問を投げかける。
〔田嶋〕
「安住大臣。あなたの言う公務員の安全を目的とした代理交渉人派遣の意図は分かった。
しかし、実際のところ能力も未知数なその曽我勇吾なる人物の、危険な調査活動への関与に関しては、任務の達成率などの点から賛同の意図を図りかねるが、それに対する説明はいかなるものだろうか?」
〔安住〕
「回答いたします。実は私は、個人的に曽我勇吾氏の能力に関しまして、実際に知っており、今回のような危険性を孕んだ調査活動においても、過度な問題の発生は避け得るであろうと判断し、氏の行動及び外務省と自衛隊の判断を容認する所存です。
これが曽我勇吾氏の協力を支持する第3の理由でもあります」
〔田嶋〕
「では曽我勇吾氏の能力、つまりこれまで上げた実績の説明をお願いします」
〔安住〕
「では、私が実際に氏の能力を間近で確認した、5年前の『AI博』における……『ウォーカー・クラッシャー事件』での氏の活躍と功績についてお話させて頂きます」
〔参加者A〕
「お?」
〔広瀬〕
「ふぅぅん?」
〔小清水〕
「ほう?そう来たか……」
安住の発言を聞いた参加者たちは、皆それぞれに強い衝撃を受けた。
何故なら、2045年の日本において『ウォーカー・クラッシャー事件』といえば、誰もが知っている大事件であったからだ。
〔田嶋〕
「あの大事件に関わっていたのが、件の曽我氏だと?」
〔渋川〕
「そういえば聞いたことがあります。あの事件の解決には、あるEDGEVIS-CS職員が関わっていたらしいと。
つまり曽我氏がその、事件解決に功績を上げた人物だということだね、安住?」
田嶋や渋川の反応に、安住はそれを今からお話ししますと、回答した。
〔安住〕
「では、まずはウォーカー・クラッシャー事件の概要について、改めて整理させて頂きましょう。この事件は―」
そうやって安住が始めた話に聞き入る参加者たち。
その反応は様々であったが、皆共通して緊迫感を持って聞いており、野次を飛ばしたりするものはいなかった。
そうして重苦しい時間が過ぎていき、気が付けば時計の針は十分以上も進んでいた。
そして安住が話を終えたところで、場の緊張感が一斉に崩れ落ち、ほっとしたため息で場が満ちた。
〔安住〕
「―というわけで、私としましては氏の高い能力に全面的な信用を置くものであります。田嶋さん、いかがでしょうか?」
安住に話を振られた田嶋は、そういえば自分が話を振ったのだったなと思い出して、返答した。
〔田嶋〕
「ううむ、なるほど。安住大臣ほどの男がそういうのなら、曽我氏の今回の活躍に期待が持てるかもしれないな。
安住大臣、長い話ご苦労だったよ」
安住の構想に、大臣たちは先ほどの懐疑的な態度とは打って変わった賛同的雰囲気を持ち始めた。
広瀬はそれを見て、事態を纏めにかかる。
〔広瀬〕
「取り合えず俺は今回の外務省の行動を、処罰なしってことで支持したいんだが、皆はどうだろう?
賛同の者は挙手してほしい」
広瀬の促しに乗った大臣たちは、大半の者が挙手をした。よって、安住及び外務省への処罰はなしということになった。
〔広瀬〕
「じゃあ次は、今回曽我勇吾氏の調査任務参加の依頼を実際に出した基地司令官の扱いに関してだが、久瀬、これに関して何か報告は?なぜその司令官は、傭兵とはいえ外部の人間を参加させた?」
〔久瀬〕
「説明させて頂きます。当該の、鹿屋航空基地司令桐山勲留氏ですが、氏は現行の民間軍事法に今回の任務を照らし合わせた上で、部隊を預かる立場から曽我勇吾氏に依頼を出したようです。
つまり、法的には問題はありません。
そして参加依頼を出した理由に関してですが、彼は外交交渉が求められるかもしれない今回の難易度の高い任務を、佐官がいるとはいえ現場自衛官のみで遂行するのには不安があり、現場の行動を補佐する人間を欲していました。
そして先ほどの外交官狭間氏に協力を求めたわけですが、その狭間氏は自身の代理交渉人として曽我勇吾氏を紹介したため、その紹介に従って曽我勇吾氏に今回の調査への協力を求めた、ということです」
〔広瀬〕
「なるほど。ま法的に問題がないのなら、何らかの処罰を下す理由はないな。
今回の防衛省及び桐山勲留氏の行動に関する処罰の不問に関して、何らかの意見があるやつは?」
首相の問いかけに、挙手したものはいなかった。
〔広瀬〕
「では政府としては、防衛省並び桐山勲留氏に対して、何らかの処分を行うことはなしとする」
こうして、取り合えず曽我勇吾氏の自衛隊の活動への関与に関する問題は終わり、会議の本筋である自衛隊の調査の話に戻った。
〔広瀬〕
「じゃあ、会議の本筋である自衛隊の調査内容について、今一度協議しようか。誰か質問のあるやつはいるか?」
広瀬の催促に、一人の男が挙手し話を切り出す。
文部科学大臣、朝倉である。安住に負けず劣らずの巨漢であり、学生時代は野球部でエースバッターとして名を馳せていたらしい。
朝倉は特徴的なまでに大きな丸い鼻を揺らして、質問を行う。
〔文部科学大臣 朝倉〕
「現地の勢力に関してですが、調査隊の報告の中に何らかの電波信号を確認したというものがございました。現地勢力の文明段階が電波を用いる段階にある場合、無線通信を介したコンタクトを採ることも可能だと思われますが、それに関しまして今後の調査における通信機の活用は如何なるようになるでしょうか?
私としましては、事態を穏便に済ませるためにも積極的に活用していくべきだと思っておりますが」
〔久瀬〕
「調査任務における通信機の活用に関しましては、現在衛星を用いた通信の中継が行えないため、航空機や船舶にその役割を代用してもらっているところです。
航空機は活動時間が短いため、新世界の勢力とのコンタクトに関しましては、その活用時間は短時間に限られます。今後新世界調査の発展度合に合わせて、現状の海洋上の船舶を用いた中継や、気球を用いた中継、それに新世界への通信施設設置などを随時行っていき、その頻度を増やしていく予定です。
最も調査隊の報告から推測するに、現地勢力の電波使用頻度は非常に低いものと思われ、現に調査隊も殆ど拾うことができなかった模様であるため、そのことを踏まえた現状で、自衛隊の調査活動における交信電波の使用は、その有効性が未知であると述べておきましょう。私からの答弁は以上です」
〔朝倉〕
「ご答弁ありがとうございます久瀬さん」
〔南原〕
「朝倉大臣に続いて質問のある議員はおりますか?」
朝倉に続いて話を切り出すものはいなかった。
〔広瀬〕
「ではこのあたりで一時会議を休会する。しかし緊急で事態が動く可能性があるため、閣僚各位は議員宿舎にて待機しておくこと。では解散」
そうして会議は一時休会することとなった。
* * *
数時間後、議員宿舎ではなく首相官邸内の首相室で休憩していた広瀬は、秘書官から事態の進展に関する緊急の報告を受けて、またしても会議室へと戻った。
会議室には、広瀬と同じように官邸内に残って待機していた南原や安住、久瀬などが集まっており、広瀬は取り合えず今いる彼らと話の擦り合わせを行うこととした。
〔広瀬〕
「調査隊からの報告が入ったようだな。どうやら現地勢力との正式交渉の段取りを取り付けることができそうだと」
広瀬からの質問に、安住が答える。
〔安住〕
「ええ。取り合えず調査隊は現地勢力との武力衝突は穏便に回避できた模様です。そのため、正式に外務省の方から交渉使節を派遣することを決め、調査隊にその旨を伝達しておくように鹿屋基地の桐山司令官に伝えました。
今テレワークシステムで自衛隊鹿屋基地と通信が繋がっております」
安住がそう述べると同時に、久瀬が防衛省の上級職員以上のみが保持できる専用の通信端末―市販品よりもずっと厚みのあるタブレット端末で、一見すると使い難そうであるが、防衛省を含む自衛隊関連施設とのみネットワークが繋がる特別なシステムを搭載しており、外部からのハッキングに強い上物理的・電子的防御強度も高い―の画面を広瀬に見せた。
画面には精悍な顔つきをした中年男性が映りこんでおり、彼が桐山司令官なのだろうと察した広瀬は、画面越しに彼に挨拶をした。
〔広瀬〕
「桐山司令官だね?私は日本国内閣総理大臣、広瀬勝だ。今回は新世界調査任務で、君の部隊が成果を上げてくれたようだね。国を纏めるものとして感謝する」
〔桐山〕
「鹿屋航空基地第1航空群所属、桐山勲留海将補です。総理のご感謝、誠に感慨無量です。この場に居ない部下たちも、総理のお声がけを知ればきっと喜んでくれるでしょう」
〔広瀬〕
「突然ですまないが、君にも会議に参加してもらう。通信端末越しに話を聞いてもらうだけだが、それでも今回実際に動くことになる君たちには我々の成すことを知る権利がある。会議の進展次第では、君に特別な任務を下すこともあるため、予め承知して貰いたい」
〔桐山〕
「ッ!」
〔安住〕
「ええっ!?」
〔久瀬〕
「広瀬さん、それは……」
広瀬の有無を言わさぬ強引な態度に、安住は驚き久瀬は絶句し、桐山も少し引いてしまうが、それでもすぐに気を取り直して広瀬の求めに応じた。
〔桐山〕
「了解しました。では通信は繋いだままにしておきます」
かくして桐山も閣僚会議に参加することが決定した。
広瀬はまだ固まっている安住と久瀬の間に立つと、二人の肩を強引に寄せて耳打ちした。
〔広瀬〕
「別にいいだろ、それくらい。どうせまだまだこっちの事情で振り回すんだから引き込むぞ」
広瀬の強気な発言を前に、安住と久瀬は額に汗を浮かべて苦笑するしかなかった。
* * *
閣僚たちが再招集に応じて会議室に集まったため、会議が再開した。
会議はまず久瀬が現在の状況を纏めなおし、先ほどの会議時点の後事態がどう動いたのかを参加者たちに説明した。
数時間前現地勢力の拠点に到着した第2次調査隊は、その後現地勢力による臨検を受けながら、安全を確認した上で現地勢力との交渉を開始。
そして現地勢力が(如何なる原理かは不明であるが)、何らかの現象によって言語でのコミュニケーションが『自動翻訳』されることで、障害や露語などが少なく意志の疎通が可能であること―これに関しては、国内において転移後に日本人―外国人間での言語の自動翻訳現象が発生したことから、ある程度可能性が立てられていた―が判明。
調査隊はその偶発的利点を生かしながら相手の情報を探り、対象勢力が少なくとも前近代国家ないし初期近代国家と同程度の発展段階と規模があることや、周辺地域の情勢などを確認しつつ、現地の責任者を介して現地勢力の政府と、日本政府間の正式交渉開始に関する事前の言質を取ることに成功した。
第2次調査隊は今現在も現地にて未確認勢力と交渉中であり、この任務は数日後まで行われる予定である……と、そこまで話した上で、そこから更に踏み入った内容、即ち新世界における現地勢力の現状と、その安全を脅かしつつある脅威に関してまで説明が及んだところで、田嶋からの質疑が飛んだ。
〔田嶋〕
「久瀬さん。現在現地勢力、名称ロイメル王国は、同大陸地域内に存在する覇権国家との間に衝突の危険性を孕んでいるそうですが、もし我が国とロイメル王国が友好条約を結び、それが防衛協定での同盟締結にまで話が進んだ場合、我が国は如何なる対応を取る御積りでしょうか?
自衛隊の活動に関しまして、その活動範囲を我が国の国内と国民の安全確保から広げるか否かを、ご説明のほどをお願いします」
田嶋の発言に、場の空気が再び引き締まる。
参加者たちの視線の集まる中、久瀬は質問に回答する。
〔久瀬〕
「防衛省といたしましては、このような事態に対して真相に関し精査しつつ、同盟国の安全保障のための自衛隊の防衛出動に関しては、当事国の要請があった場合にはこれを国会にて協議し、文民の支持を得た場合においてのみこれを実行する所存です。
ただ私個人としては同盟国に対する安全保障レベルでの支援に、それが日本の国益上やむを得ないのであれば支持賛同する立場です」
〔参加者〕
「「!」」ざわざわ。
久瀬の回答に場がざわつく中、田嶋は追求を施行する。。
〔田嶋〕
「それは、地球における自衛隊及び防衛省の活動を踏まえた上で、ということでよろしいですか?」
〔久瀬〕
「はい。地球において我が国を取り巻く軍事情勢は極めて不安定であり、数年前の第2次朝鮮戦争は我が国がそのことに真摯に向き合わなかったがために起こった悲劇的な事件でありました。
そのような事態の再発を防ぐために、我が国は積極的に我が国の周辺を取り巻く国際情勢に対し、関与していくべきものであると認識しております」
〔田嶋〕
「久瀬さんの意見は兎も角、例え防衛大臣といえど自衛隊を個人的に動かすことは文民統制上不可能であり、最終的な判断は内閣総理大臣に委ねられるものですね。
それを踏まえた上で、広瀬さんはどのようにお考えでしょうか?
我が国は周辺地域の治安に関して、自発的ないし受動的にどう動くか、ご回答お願いします」
指摘を受けた広瀬は、ようやくこの質問が来たかと事前に予測していた質問の到着に、気を引き締めながら自身の意見を述べ始めた。
〔広瀬〕
「今我が国が国外にて唯一存在を認識しているロイメル王国に関してだが、俺は友好関係を築くことに賛成の立場だ。
これには国内で不足する食料や燃料、それにその他資源の確保は無論のこと、この世界の住民たちと交流していくことによって、圧倒的に不足している『情報』の入手に関する我が国の負担を軽減する必要があるためだ。
現在我が国は衛星は無論のこと、地球において備わっていた『世界規模でのインターネット』や、『情報の蓄積された電子サーバー』へのリンクが途絶しており、つまりはこの世界に関する情報は無論のこと、元居た世界に関する記録すらも少なからず損失してしまったわけだ。
このことは、我が国の近代的発展を支えてきた情報技術における大規模な衰退を余儀なくする出来事であり、またそれに関わってきた各産業に対する被害をも齎したわけだ。
このような状況をいつまでも放っておくことは、我が国が新しい世界で生き抜いていく上では大きな不安要素であり、また国内の混乱の種にもなる。
古来、中国の著名な偉人である孫子は『敵を知り、己を知らば百戦危うからず』という言を兵法として残した。それが実際の戦争や、政治の場においては、行動の指針となる人の世の真理法則であることは、地球における数々の歴史的事象が物語っている。
100年以上前に我が国がアジアに対して、また欧米の列強国に対して行った長きに渡る不毛な戦争が、結果として我が国の国体の破壊と、それに伴う朝鮮半島分割や、大陸における中国共産党の跋扈に基づくアジア情勢の不安定化を齎したように、無知を抱えて行動することは、自己が破滅するのは無論のこと、他者に対しても不必要な被害を要求して、世にしこりを残すものであり、それを深い思慮を持って慎まなければならない。
それは世界の動きに対して追従するということではない。我が国は主権を持ち、国際社会に対して責任をもって関わり貢献していく立場にある。それはこの国の発展を支えてきた先人たちの知恵であり、工夫であり、また成果だ。
主権とは自由を主張する権利のことだ。そして自由とは、あらゆるものに対して好き勝手に振る舞うことではなく、また他者の横暴を黙認して無視することでもない。あらゆることの責任は自己に責任があるものとして背負い、義務を果たしていくことである。それを果たさぬ限り、我が国は自由ではないし、国が発展して国民が幸福になることもない。
幸福とは義務から与えられたそれを、他者に促されるままに肯定するものでは決してなく、自ら追求していくことそれ自体が幸福でありまた幸福を手にする過程なのだと俺は思う。
現在我が国を取り巻く状況は決して安泰したものではなく、事態は破滅的な方向へと刻一刻と近づいている。事態の解決を図るためには、この世界と一生関わっていく覚悟を持って突き進まなくてはいけないだろうこともまた、それに拍車をかけている。
俺たちの進む場所は希望のある未来か、それとも破滅しかない未来か、それを選択していくためにこそ、先ずは行動をしていこう。
今、俺たちの目の前には危険な闇が広がっている。その中には静かにして平和に暮らしている者もいれば、或いは瀕死の重傷を負って死に絶えたものたちもいる。他者の命を狙って、牙や爪を研いでいる野獣もいるだろう。俺たちはそれに対して目を閉じ、耳を塞いで生きていくのか?そうすれば、事態は勝手に変わっていくのか?
或いはそうかもしれない。だが例えば、俺たちが暗闇の中に火を灯して、闇の中を照らす光を齎したのなら、それは皆に等しく恩恵を与える希望ってやつになるんじゃないか?
夜の闇を払って朝の訪れを告げる、そんな希望の光ってやつにこそ、俺たちが求める何かがあるのだと、俺は信じたい。
或いはそれは無謀で、何の意味も持たない間違った道なのかもしれない。だけど俺は、自分で道を選べるのなら、光の道を歩みたいと思う。自分一人で死に絶えるよりも、誰かに道を示して死んでいったほうがきっと満足できるはずだと、自分に言い聞かせている。それがこの世に自分が生まれてきた理由だと信じてな。
何故俺たちだけがこの世界にやってきたのか、それはまだ分からない。だが、この世のことに何か意味があるのなら、いや、例え答えなどなくとも、成すこと全てに納得のいく答えを出していかなければ、俺たちは生きていることに何の感動もなくなってしまう。
そんな人生はいけないと、誰とも関わらず、一人で殻に閉じこもって一生を終えていく生き物にはなるなと、俺は親から、友人から、或いは一瞬であっただけの赤の他人にすらも言い聞かせられてこれまで生きてきた。
或いは他人はそんな人生を送ってこなかったのかもしれない。理由があって、一人で殻に閉じこもって生きていかなければならない事情を背負って一生生きていくやつもいるかもしれない。だけどそんな奴らにだって、生きていく権利があるのなら、俺は自分を苦しめる殻などいらないし、他者を苦しめる殻だって打ち壊してみせる。それが日本国総理大臣にまで上り詰めた広瀬勝って人間だと、俺はこの世界で名乗りを上げてやる。
日本と関わった国が戦争に巻き込まれる?そのことが日本自身をも戦争に巻き込んで、この国を危険に晒す?ああそうかもしれないな。
だが、だったら俺はその責任を背負って、国民がこれまで関わらずに済ませてきた問題や危機、その責任を一身に背負う覚悟を持って、戦争や政治に加担してやる。
国民は反対するかもしれないし、或いは首相の座を引きずり降ろされるかもしれない。だが、俺はそんなことよりも、日本という国が今後も生き抜いていくために必要なあらゆる物事を、この国の為に行ってから退陣したい。
資本家や経営者、一端の労働者を追い立てて、自衛隊を命令一つで死地に送り込んで、全国民から一斉に罵倒されようとも、この国を残すためのあらゆることの責任を果たしていく覚悟を見せていきたい。
それが内閣総理大臣広瀬勝の個人的見解だ、田嶋」
広瀬の見解をじっと静かに聞き続けていた田嶋は、広瀬首相の見解が終わったのを見計らうと、瞳を細めて静かにそうですかと、述べたのちに、こう切り出した。
〔田嶋〕
「つまり首相は、友好国の危機を『口実に』自衛隊の出動を行うこと、これを容認し、我が国の国際社会における立場を、軍事力によって強引に確立することに関してはこれを容認し、賛成する可能性を持ったまま政権の座に就き続ける、そう仰っているということで宜しいですか?」
田嶋の厳しい追及に、広瀬はまて田嶋、と一旦前置きしたうえで反論を挟む。
〔広瀬〕
「そこまでは言っていない。俺は別に自衛隊を使って国内や国外に対して過度の弾圧や侵略、占領行為を行うことに関しては割と反対の立場だし、自衛隊の派遣を含めた活動に関してはこれを議会並びに、国民の選挙結果に基づいて行うことは間違いないものだ。
ただ、米軍やNATOといった我が国と協力関係にある軍事勢力が軒並み消失・減少した状況では、我が国の防衛環境が国民の安全を保障する上で十分であるとは言い難い。そのため、自衛隊の活動範囲及び権限を広げることを国民に提示していくつもりだ。
国民だって、今が大変な状況であることは理解してくれるだろうからな」
〔田嶋〕
「そうやって一見国民や議員に選択の権利を与えるように印象付けながらも、実際のところ自衛隊の活動権限が広がれば、それは政府や国民の手から制御が離れていくように思われますが、そのような意図は御座いますか?」
〔広瀬〕
「はっきりと言おう。無い。俺はこの国と、それを守る国民と議員たち、そして自衛隊を信じている。そしてその期待と信頼がある限り、俺はそれを裏切ったりはしない。
それが俺の『政治理念』だ」
広瀬の言葉を聞いた田嶋はしかし、その言葉を聞いてどこか苦しさを感じるところがあったのか、瞳を閉じながら何かを堪え、やがてふっと力を抜いたかと思うと、言葉を絞り出すかのように語りを始めた。
〔田嶋〕
「政治理念、ですか……そうですね、確かに貴方はこれまでも国民や我々議員、それに自衛隊や警察機関、その他公的機関などを信頼して、その活動を支えていく努力をしてきました。そのことに欺瞞がないであろうことは、私もその活動を見てきた以上は知っています。
ですが……例えそれがどれだけ純粋な誠意に基づいたものであったとしても、貴方がこれまで積み重ねてきた功績が輝きを放っていたとしても、それでもなお私は……私だけではなく、国民や議員、それに公的機関に属するこの国の人々は、貴方という人を……『広瀬勝』という人間のことを『信頼してもよいのか』?
そんな問題が残っているということを、貴方自身は認識しておいででしょうか?」
田嶋の思わぬ首相批判発言に、会議室内がざわつく。
広瀬首相の取り巻きの一人であり、政権発足以来その活動を支えてきたはずの田嶋が、今この場で広瀬の人格を疑うような発言をしたのだ。そのことは、与党である民自党内部において、騒乱の種となるであろうことは明白であり、幾ら民自党の国内における権力体制が盤石であるとはいっても、野党である他政党が利することになる危険性を秘めており、こと現状のような緊急時において、そのような波乱が幕開けることは、その問題の影響が政府内部だけではなく国内の事情全てに影響を及ぼしかねないという点に関して、実に爆弾発言となったのだ。
田嶋の発言のその意図に関して、批判を受けた広瀬本人が説明を催促する。
〔広瀬〕
「どのような意図があってそんなことを言ったのかはわからないが、今の発言が非常に危ういことは理解しているか、田嶋?」
広瀬の態度の中に、怒りの情は含まれていなかった。心震えるような悲しみもなく、遊びに興じているような楽しみもなく、感動的な喜びもない、ただ答えが求められる問題に対して、冷静沈着に答えを問う論理的探求心が実体を帯びてそこにあるだけであった。精神状態がほぼ熟達の域にあるといってもよい。そんな広瀬を認識しながら、田嶋は自身の意見を述べていく。
〔田嶋〕
「無論私とてこの党の幹部の一人です。安易な発言がどのような危うい事態を引き起こすかは十分理解しております。ですが……
最近、とある筋から真偽の疑わしい噂に関するリークを受けましてね。
広瀬さんと久瀬大臣、それに幾名かの者が、この事態においてゼネコンやロボット・AI関連企業、それにJAXAなどを訪れて、とある計画を進めているようである、と。
その計画は、既存の我が国の地下開発や海底開発、宇宙開発の規模を超えた、膨大な予算と人員をつぎ込むことになる前代未聞の規模の事業であり、膨大な予算と人員が注ぎ込まれる可能性があるとね。
『神州警固番役計画』……この言葉に、覚えがございますね?」
〔広瀬〕
「……ったく、どこからそれが漏れたんだろうな。やれやれ」
田嶋と広瀬の発言に、参加者たちはどよめいた。
神州警固番役計画という謎の計画、それには広瀬と久瀬が関わっており、自分たちの知らぬ裏で何か大きな事態が動いている……そのことを察し、多くの閣僚たちが困惑し始めたのだ。
そんな参加者たちに対し、広瀬は説明を開始した。
〔広瀬〕
「どうせいつか話すことになると思って先延ばししていたんだがな。だが話題に出たのではしょうがない。この場で説明することとするか。
『愛と平和』、その実現に向けた秘策について、その概要をな」
そういって広瀬は椅子から立ち上がり、専任の秘書官(外見から老若男女を見分け辛い相貌)と耳打ちで何らかのやり取りを行うと、秘書官は立体映像プロジェクター装置の所に移動して、操作員が動かしていた装置を、代わりに動かし始めた。
そうしてまず空間に投影されたのは『計画:Z611』という文字であるが、それを見た田嶋は僅かに瞳孔を収縮させた。驚愕や諦観が入り混じった複雑な感情による生理現象であった。
表向きは知られていないが、国家事業の計画名にZの頭文字が付く場合、それは機密等級が最高だという意味であり、神州警固番役計画やらの危険さを伺わせた。
次いで出た映像は地球の立体図であり、それを見ながら広瀬が話を開始する。
〔広瀬〕
「皆、日本が元の世界で周辺国家、いやアメリカや欧米、中東なども含めた世界全体の情勢の影響で、嘗てないほどの軍事的緊張に晒されていたことは既に知っていると思う。
南下を狙うロシア、太平洋進出に執着する中国。
それに紛争の続く中東に、EU体制崩壊で対立する欧州、原発事故後ますます環境汚染の進むインド、そして……未だ記憶も色濃いアメリカの『ホワイトハウス争奪戦争』に、その後の『第二次朝鮮戦争』。どれもこれも、一歩間違えば世界大戦に繋がる危機を孕んでいたが、我が国はそれに対し常に受け身であり続けた。
それは、我が国が100年前の国体変更以降国際問題の武力による解決を否定し、世界の平和に貢献するためだったが、変化し続ける国際情勢の中では、我が国本位の一方的な『事勿れ主義』は、その傲慢さと無責任さから常に国際紛争の要因となりつつある問題のある国是であり、その事が第二次朝鮮戦争も含めたアジアや世界の混乱に対する、悪意を持った者達の増長と暗躍を招いたことは明らかだ。
それ故我が国は戦後長い間討論の的となっていた『憲法9条』の改定に手を付け、その内容を変更するに至ったわけだが、それはつまり我が国が我が国を中心とした、世界の安全保障を担う新体制を構築するという意志表示であったと俺は考える。
世界の安全保障を担う新体制とは、即ち我が国の保持する技術、資源、それに築き上げてきた民族の文化・文明を駆使して、世界の混乱を狙う悪意ある者から善良な人々の尊厳と生命を保護するものであるべきだ。まずはそれを踏まえて頂きたい」
広瀬の唐突な個人的世界観暴露に、参加者たちは呆然としながらも、話し続ける広瀬の言葉を追うように耳を傾ける。
〔広瀬〕
「日本や世界の安全を脅かす事象は多々ある。地震や台風、それに洪水や豪雪などの自然災害や、暗躍するテロリスト、それに世界の経済・物流の流れなどは、日本の国民の生活はもとより、世界中の人々にとってもいつその身に災が及ぶかもしれない重要な問題だ。
日本はその問題に対し、真摯に向かい合わなければならない。そのための鍵が神州警固番役だ」
地球の立体図が変化し、別のものになる。その物体は砲身のような大型カメラや、様々な形状の電磁波アンテナ類などのセンサが幾つも配置された野暮ったい下面と、昆虫のそれとも鳥類のそれともつかない、羽上の何かとしか言いようのない半透明の薄い六角形の板の集合体が6基ほど生えた上面からなる、何らかの機械装置であった。
それを見た者は思う。羽があるということは、きっと天で活動するモノなのであろうと。そしてその推測が正しいことが、広瀬によって明かされる。
〔広瀬〕
「即ち、高高度に坐する自律観測衛星により世界中の状況を見張り、何らかの問題が起これば直ちに必要な物資と人員を招集、現場に派遣し発生した事件を解決する。なんてことはないよくありがちな警備システムだ。最も、使用されるテクノロジーが自律式中央管制型AIによる配下AIの一斉制御という、非常に難易度の高いものであることを除けばだが」
自律式中央管制型AIの導入という言葉に、幾名かの参加者からは息をのむ音や緊張した様子の生理現象が生じる。
広瀬の説明にだがしかし、彼の真意をまだ得ない田嶋もまた代謝を上げながら更なる質疑を重ねていく。
〔田嶋〕
「それだけではないのでしょう?」
その言葉から田嶋が計画の内容の更に深い部分まで知っているであろうことを理解した広瀬は、田嶋の希望に沿って計画の中身を更に開示して見せる。
〔広瀬〕
「ああ。防衛用海底基地設置による海域レベルでの安全確保に、緊急時避難用地下都市の建設。気象制御装置による天候の操作に、海岸周辺への大規模な堤防設置、あとは……
そう、労働力確保のために、WALKERの配備数を増産するだけでなく、人間の労働者の能力を根本的部分から工学的『向上(アップグレード)』することも検討の視野に入れてはいるな。
具体的には、現在認可の下りている埋め込み型チップによる肉体制御や健康維持の技術などを踏まえながらも、高齢者や身体障碍者などの一部対象者にはWALKERの部品等を『組み込む』肉体置換処置に関する制限を、現行よりも解除する。
そうすることで高齢化して能力の衰えた労働者たちを、人間の判断力と、AIの精密動作性、そしてWALKERの頑強さを掛け合わせた複合体(ハイブリッド)にする。
日々労働力が失われていく現状に対して、最新技術の導入という観点から延命の策を図ることは、この国の未来に繋がる重要な鍵になる。
無論技術的・倫理的な高難度の問題があり、先ずはそれを解決しなければならないがな」
”ざわっ!”
広瀬の言葉がそこまで進んだ所で、参加者たちの中から驚愕の声が次々と上がり始める。衛星などへの自立型AIの積極活用という案は、その現実性はともかくこの時代ならありがちな構想である。少子高齢化の進む日本においては、AIの活用は慎重を喫しながらもなるべく積極的に導入していくべき国策であり、他の国家と歩調などを調節しながらも進めてきたことである。
しかし、これが人間の工学的な能力向上に関わるとなると、話は大きく変わる。
2045年の現在、少子高齢化の進む日本においては、労働年齢の上昇及び労働期間の長期化が社会問題となっている。年金制度の実質的な崩壊に伴い、少なくない数の国民が老後生活で十分な経済的余裕と時間的余暇を得ることが困難という状況に直面し、労働を余儀なくされているのであるが、この状況に更に若年層の技術職離れという社会問題も絡んで、事態はより深刻になっている。
嘗ては技術大国として世界に名を馳せ、経済的に豊かとなった日本であったが、20世紀末期のバブル崩壊に伴ってその経済成長は停滞。長年日本企業や公的組織独自のシステムであった年功序列の見直しが求められ、実力主義が導入された結果各産業にてリストラが横行。時をほぼ同じくして、経済成長を狙う海外の新興経済国による人員の引き抜きによって、多くの技術者と技術が海外に流出して、日本の海外における競争力は低下した。
国内に残ったのは選別された機械のような労働者と、その労働者を酷使する経営陣、そしてその双方にもつかない非労働者であった。
ニート。元来イギリスにおいてNot in Education, Employment or Training(非通学、非労働、非職業訓練)という一文を略した語として誕生したこの単語は、だがしかしバブル崩壊後の日本文化に瞬く間にその概念を浸透させ、市民権を得るに至った。そして、それは新しい被差別階級の誕生をも意味した……否、彼らは被差別階級でなければならなかった。
ニートの大半は、社会の為の生産物を何ら生産することがなかった。また彼らの大半は社会から何ら恩恵を受けることもなかった。それ故彼らは自ずと『不可触民』となった。食って寝て遊ぶだけの彼らに対し、労働者が関わるのは何ら意味がなかったし、政府もまた救済などしようとは思わなかった。政府を牛耳る経済界にとって彼らは体の良い『搾取対象』であったためである。別にニートが特別金銭を持っていたわけではなく、碌な学歴や社会経験のない彼らは資本家からしてみれば騙しやすく、絞りやすい鴨であったためだ。ただそれだけの理由で、ニートは資本家から適度に可愛がられて、不要になれば容易く切り捨てられた。代わりなどいくらでもいたし、事実上の消耗品でしかなかったが、ニート自身が望んでそうなったのであるから、どのような末路を辿ろうと自業自得であったといえただろう。
彼らは観客のいない舞台でひたすら馬鹿騒ぎに興じる、道化以上のものではなかった。賑やかしですらなく、役者とすらも呼べない虚無であった。
さて、状況に困ったのは労働者である。経営者からは酷使され、ニートはお荷物。経営者に立てつく根性もない惰弱で哀れなる彼らは、だがしかし経営者たちの愛玩動物であるニートに対してすらもストレスをぶつけることはできず、ただひたすらに働き続けた。働いて、働き続けて、身は細り、命も絶えだえとなった。彼らに残るのは生に対する執着と世の理不尽に怒りだけであり、それは時に絶望からくる死への願望へと転換されたりもしたが、だがしかし彼らは生き延びた。
そうして労働者が怒りを胸に生き延びていると、突然奇妙なものが現れた。
スイスというチーズフォンデュと時計産業、それに金融業と雄大なアルプスの山々くらいしか取り柄がないような、自然豊かな欧州の田舎だか都会だかよくわからないところから出てきた、とある一人の技術屋―それくらいしか人間としてできることがなかった不器用な人間という意味で―が開発したそれは、出現当初では先行して世に出た数多くの同系列技術の中に埋もれ、その有効性を早くから見出していた一部の個人や団体以外からはさほどその存在を容認されてはいなかった。むしろまるで創作物の中から飛び出したかのように滑稽さを感じさせる奇抜な造形から、敬遠すらされていた。
製作者の欠落した倫理、技術に対する余りに楽観的な観念により、無秩序に世に放出されたそれが、凶悪犯罪などを引き起こしてしまったことも、世間からの冷たい評価に拍車をかけた。
着火した人々の危機感によって反AI団体の活動が活気づき、勢力が拡大したことによって、マイノリティであったそれが政治的な権限すらも有する有力団体へと成長していった。
だが幸いというべきか、或いは不幸な悲劇というべきか、資本をスイスに握られている資本家や政府要人による必死の宣伝で、それは警察機関や軍事組織、医療機関、それにゼネコンや発電会社、先端技術開発企業などの大規模な企業における新規の労働力として徐々に採用されるようになり、またAI推進団体と反AI団体間の長きにわたる闘争の果てに確立した、それの扱いに関する現実的妥協点の裁定及び監視体制の確立により、世間のそれに対する奇異の視線は徐々に鎮静化を見せ、十年以上の時を経る頃には一定の市民権を得るに至っていた。
人々はその奇妙な物体―機械を人の形に組み立てたもの―全般を、従来のロボットやアンドロイドといった概念ではなく、悲劇的な末路を辿った開発者の面子を立てて、彼の作品と同様に『WALKER』と呼称した。
WALKERは従来人間だけが持ち得ていた高度な判断力や学習能力を備え、人間と同じかそれ以上の精度・速度で人間の労働を代行することが可能な倫理思考型労働機械である。
予め設定されたプログラムは無論のこと、経験を蓄積することによって動作の精密性を洗練させていくことができ、それは実際の動作は無論のこと、言語による対話に対しても反映され、稼働初期は文脈上の単語選択ミス、即ち実際の社会における人間文化と照らし合わせた場合の、ちぐはぐな言葉使いなどが見られる可能性もあるが、最終的には人間と変わらぬコミュニケーション能力を有することが理論上可能であり、そして現実に2040年代ごろには、WALKERの倫理観は少なくとも現代的な社会機構の維持・発展に寄与するのに不足しない段階まで向上している。
そうなると、人間のWALKERに対する親密性は一気にその心理的距離を縮めた。見た目は機械の集合体であるWALKERはだがしかし、そうであるが故に人間からの羨望を浴びるようになった。モーター駆動の四肢、感情を排した頭部、それに人工物由来の動力は、その人間がどれだけ鍛え上げようと決して到達しえない、肉体的な限界を超えた無機人工物質ゆえの高性能を備えていたのである。
何時間もの連続稼働に耐える耐久性。破損しても簡易に交換できる機能性。そして過酷な労働に対して寡黙に耐え続ける様は、WALKERと同じ現場で働く労働者からは特に良く見られた。そして彼らはこう思うのだ、『自分もWALKERのようになりたい』と―。
人間の動作を拡張する補助機器は既に市場に出ていた。ボタンや操縦桿によって操作される重機、腕力や脚力を向上させるパワードスーツ。それに人間の動作などと連動したり、人間の感覚を拡張させるウェアラブル機器。これらはその性能故に個人の所有が制限されるWALKERと比べて、その普及範囲は広範であった。
機能はものによってはその性能に制限が欠けられ、また使用目的に関しても法や技術的な手段による限定などが掛けられたりもしたが、それでも社会全体に普及しつつあった。
或いはそれは人間の進化の必然であった。人間の技術の進歩とは、四肢の延長という目的を多分に含んでいたものであるためである。
重機の開発が人間に山を開拓する能力を与え、パワードスーツが人間の筋力そのものを疑似的に重機の域にまで向上させ、そしてウェアラブル機器が人間と機械を繋ぐ神経となった。人は機械の創造主であり、また機械を支配する頭脳であった。
されども、人間はそれで満足はしなかった。重機が自らに変わり力のいる労働を行い、パワードスーツが労働の負担を軽減させ、そしてウェアラブル機器があらゆる機械の操作を簡易化させてもなお、人間の肉体そのものは機械と比べて相対的に貧弱であった。ハンディキャップと言ってもよい。
元来それだけが人間の持ち得る全てであった時代は時の流れと文明の進歩と共に過去のものとなり、いかに肉体外部の機械を使いこなすかが人間の生き方の大半を占めるようになったが、そうであるが故に人は自らの生身の肉体の弱さに対し、厳しい眼差しを向けるようになった。
容易く損壊する肉の肉体が恨めしい。環境で、使い方で、また単に経年劣化によってその機能を低下させていき、最後は全く用をなさなくなる臓器なるものの、なんとも重い障害であることか。人間もWALKERのように、強靭なる不朽の容器(からだ)を持てないものか……そんな思いを抱くものが、一定数出始めるようになった。
需要という意味では、それは確かに経済的な活性を見込めるものであった。要らない臓器を、より品質の優れた機械に置き換えることの、何が不況を生み出すというのか。むしろ労働年齢と期間が延びているのにも関わらず、実際に働く者たちの肉体的な問題を解決せずして、この国の発展などを如何に臨み得るというのだろうか。それはこの国を支える者たちからの、淀みのない社会に対する不満であり要望であった。
だがしかし、幾ら労働者たちが肉体の工学的改造を切望したとて、社会の仕組みがそれを許さなかった。
WALKERの存在がそれを阻んだというのが、大きな一因であった。
確かに、登場初期のWALKERは犯罪に多用された。
人間以上の身体能力、人間以上の思考能力を持って、強盗や誘拐、テロ活動などに安易に用いられた。
偏にWALKERの管理体制の不備がその原因であった。
されども稼働当初に問題を孕んでいたWALKERの管理体制は、その重大性から国家を超えた国際社会レベルで瞬く間に整備され、少なくとも個人が国家機関の許可なくこれを所持及び製造することは、これを固く禁じられ、制限されるようになった。
即ち、違反者は情け容赦なく処罰されることが決まって、それが故にWALKER犯罪の件数は目に見えて減るようになったのである。
だがそうであるが故に、人間の工学的改造、即ちWALKER化に対する制限は掛けられることになった。
WALKERの安全性とは、即ち国家等級の管理体制があって初めて成り立つものであり、これを個人そのものに対して与えることと限りなく同質である人間のWALKER化などは、その根本的な問題点から頓挫することになった。
個人の肉体の権利を他者に委ねる案もあったが、それは個人の人権の保護という観点から早々に却下された。
また技術的な問題もあった。人間の肉体を人工物に置き換えるに際して、製品自体の品質不良の発生や、肉体の異物に対する拒絶反応を如何に乗り越えていくのかといった課題が、人間の有機機械化の早期実現に対する技術的な壁となって立ちふさがった。
即ち人間の工学的機械化とは、倫理的な問題と技術的な困難から、その実現に停滞を余儀なくされったのであり、それはまた同時に労働者の敗北をも意味した。
労働者に許されたのは、ナノマシンを用いているとはいえ本質的には古来よりの薬学的治療と大きく異なることのない有機的肉体の修復による治療と、電子チップ埋め込みによって神経や筋肉の電気的制御の補正をかけることで、衰えた肉体の酷使することを可能とするという、凡そ慈悲的とは言えない工学的延命であった。
さらに言えば、それですらも経済的に豊かな労働者のみが得られる医学的恩恵であり、貧しい者は従来と同じように自身の肉体に鞭を打って、精神力のみを頼りに活動を続けるしかないのである。
そんな現在の日本の状況に対し、広瀬は人間の工学的改造の制限解除によって流れを変えようという。あまりに世界の潮流に反した計画の内容に、会議の参加者たちからは多くの反発が飛び出した。
曰く、他国との歩調はどうするのか。実行した場合、大きな反感を買うのは確実であり、国際問題に発展するという者。
またある者は、ただでさえ国民に負担を強いているのに、より大きな重荷となる計画の実施は国民の生活と安全を保障するという政府の存在意義に反する重大な造反であり、計画の実施は許されないという意見を繰り出し、広瀬はそれらの批判―広瀬本人への直接の抗議ではなく、独りごとのようなつぶやきという形ではあった―を浴びてなお、動じることなく不動の姿勢を保っていた。
実際、精神も肉体も全く動じてはいないのであろうことを、田嶋は確信していた。
それが広瀬勝という人間の持つ、怪物『鬼』の如くに凡人離れした強みの資質であることを知っていたためである。
〔田嶋〕
「首相、それに久瀬大臣。貴方がたはこの新世界で一体何をされる御積りですか?
私は貴方の言う『希望のある未来』が、恐ろしい災厄のように感じられます。
脅威となる他国のいない今、何故そのような大規模な計画が必要であるのか、ご説明頂きたい」
〔広瀬〕
「そうだな。他国の在せぬ今は内政の安定事がまず第一に優先されるべき事項であり、そこに認識の不備はない。ではその後は?
例えば現在我が国には、転移現象に巻き込まれ故郷への帰路を失った外国人が少なからず在留している。
だが故郷を失った異邦人たちを、いつまでも国内に留めておくのが健全な対策であるとは、俺には思えない。いずれ彼らにも日本の国籍を与えて国民として扱うか、新天地を与えてそこを居場所として活躍させるべきだろう。
言っておくが安易な同化政策は駄目だ。追い詰められている者に選択の余地のない指示を突き付けることは、ほぼ確実に大きな反発を招く。彼ら自身に非がないからだ。例え考え得る最善の策であったとしても、彼ら自身に選択権を与えてから選ばせなくては、彼らは日本政府に対し疑惑と反感を持つだろう。
前提としてまず、俺たちは完全じゃない。間違いのない道なんて誰も、誰にも提示してやれない。政府にできることは、人々が幸福を得るための選択肢を確保してやることだけだ。
国民も外国人も人としての能力は平等だ。それ故に人権もまた等しく扱われなければならない。
外国人だからといって低い賃金で長時間過酷な仕事を与えてぞんざいに扱うなど言語道断だ。彼らもまた、愛する者もいれば命がけで立ち向かわなくてはならない者がいる。それを軽んじれば、それは人道の堕落と損失を招き、やがて積み重なった怨恨の縁によって生じた因果の応報が、俺たちの行く先を闇に閉ざして消してしまうだろう。
これは決して真偽の怪しい空想などではない。人間のあらゆる行いは縁の線というもので全てが繋がっていて、それは宇宙規模での科学法則とも言える。
鬼を切る者は鬼の悪意によって首を跳ね切られ、仏を滅するものはまた仏の法力によってその身を滅ぼされる。物事に真の自由などはなく、色即是空、空即是色と経を唱えたところで、人間が煩悩から逃れられることはなく、我はそれが個人の内に帰結するがために真我という完全に到達することはない。
物事の因縁や在り様とは元来そういうもので、その法則は生身の人間程度がどうこうできるようなものじゃない。
それを忘れて驕り昂ぶり、成すことを誤れば、俺たちは安易な悪政執行者に堕ちて、腐り落ちる国の中に飲まれるぞ。
それを避けるためには智的精神が必要だが、故にまずは精神的な余裕を生むに足る、全体ないし個々の生活の安定が重要であり、その為に国力の立て直しと増強は必要だ。
今という危機的状況だからこそAIや労働者の力が必要なんだよ、田嶋」
田嶋は広瀬の一見静かな口調で紡がれる言葉の裏に、本気の熱量を垣間見た。その熱量は赤い未熟な火種を超えて、青く揺らめく強い炎であるように見えた。そう、田嶋は確かに見たのだ、広瀬の体から立ち上る、青く揺らめく鬼の火を。
田嶋はその火を見て、自身の肉体から霊魂とでも呼ぶであろう何かが剥がれ落ちそうになるのを感じ取った。意識を保ったまま肉体の動作が停止しそうだといってもよいし、意識の流れと肉体の動きに齟齬が生じかねないといってもよい。
とにかくそんな摩訶不思議な現象が起こり得そうなほどに、広瀬の熱量はその威力を発揮したのだが、田嶋はそれを意に会することなく、丹田に力を込めながら精神強度を向上させることによって広瀬の火に耐え、広瀬の理念に臣下としての忠告を上納した。
神秘的事象の否定といってもよいそれは、長年政界で戦い続けた彼のような者にとっては成し得て当然の事象であり、そこに青臭い感動などなければ、さりとて年老いさらばえた耄碌なども一切含まず、成熟した合理的精神があるのみである。
〔田嶋〕
「広瀬さんはかつて、その苛烈な行動から『護国の鬼』と呼ばれたことがあるらしいですが、私は貴方が単なる鬼ではなく、生者を死地へと誘う『鬼火』になることを懸念しております。国力の立て直しと、それに伴う体制の変革。それを受け入れる者も中にはいるでしょう。或いは大多数の国民がそれを望んでいるのかもしれません、ですが。
現実問題として、エネルギーと資源が不足している問題に対しどう対処される御積りでしょうか。現在国内にある分のエネルギーでは、地球にいたころと同様の経済活動や国家事業などをするにしても、さほど長持ちはしません。WALKERの稼働、生産、出荷などに要するエネルギーは元より、宇宙開発や海底開発に要する資源とエネルギーの確保は、いかにして行われるのでしょうか。
具体策を仰っていただきたい」
〔広瀬〕
「エネルギー、そうエネルギーの確保は確かに重要だ。現在の文明は何事もエネルギーの確保なくしては成り立たないからな。
だが幸運なことに、その問題はなんとかなりそうだぞ田嶋。
朝倉、例のエネルギー確保策について、今ここで概要を説明してくれ」
広瀬の推し薦めを受けた朝倉文科大臣が、大きな体をよいしょと持ち上げ話を始める。
〔朝倉〕
「さて、突然のことですが皆さん、現在日本のエネルギー資源が不足状態にあることは、既にご存じかと思われます。
文明の維持発展に要する資源の大半を国外に依存している我が国では、石油は勿論、その他のエネルギー資源も国外からの輸入品で賄っており、それが今回の転移に際して、問題が表面化してしまいました。その事はこの国にとって大いなる不幸です。
ですが、不安に苛まれるのはまだ早期です。確かに我が国はエネルギー資源の大半を輸入に頼ってきましたが、だからといってそれを良しとし自ら資源を産出する努力を怠っていたわけではありません。
作物から生産できるバイオ燃料は無論の事、海底のメタンハイドレートや地熱、ダムを利用した水力など、我が国は自前の資源を有効活用して、エネルギーを確保することを目的とした事業や研究を長年模索しております。
それらの中には期待に応えたものもあれば、失敗し投資した資本を還元することすらままならないものもあり、千差万別であります。
今更何故このようなことを説明するのかというと、実はもうすぐ有効なエネルギー確保策が成功しそうだからです」
朝倉の言葉に会場がどよめいた。
現在のエネルギー不足問題に対する有効な対策とは何か?そのことに参加者達の好奇心は釘付けとなる。
参加者達の視線を一身に受けながら、朝倉が話を進める。
〔朝倉〕
「ところで皆さん、『ナトリウム』をご存じでしょうか?恐らく学生の頃、理科の時間に学んだことを覚えている方もおりますでしょうが、ナトリウムは元素番号11番、第1族元素に属するアルカリ金属であり、原子量は22.99。医学や工業的にはソジウムとかソーダなんて呼んだりもしますが、取り合えずこの場ではナトリウムで呼称を統一しましょう。
さてこのナトリウムですが、地球上の環境において、ナトリウムは特に海水に多く含まれる元素であり、その比率は海水1kgに対し、ナトリウム10.5~10.8gとなっており、これは海水中の金属の中で最も多いといってもよい量です。
そのナトリウムですが、不純物を取り除いた純ナトリウムは、水と反応を起こすことによって水素を発生させます。この時化学反応によって電気が生じるわけですが、この原理を発電に応用すれば、海水から無尽蔵のエネルギーを取り出すことが可能です。
これまでは海水からナトリウムを取り出す際の効率やナトリウムの危険性の観点から実用化には至っておりませんでしたが、近年その効率を急速に高める技術が開発されたことで、実用化に向けた研究が各国にて活発化しておりました。
我が国も例外ではなく、海洋に国土を多く面する我が国にとっては、この海水から抽出するナトリウムを用いた発電は、次世代を担うものとして日々研究が進められております。
さて、ここまで話したところで話が本題に進めましょう。我が国の次世代エネルギー研究機関は、転移現象の起こった4月中旬ごろ、海洋上にてとある実験を行っておりました。その実験は残念ながら転移時の余波で失敗に終わってしまいましたが、その後周辺海域の海水サンプルを取ったところ、とある重大な発見をしました」
〔安住〕
「その発見とは何でしょうか?」
〔朝倉〕
「先ほど、地球の海洋においてはナトリウムが1kgあたり10.5~10.8gほど含まれるという話をしましたね。さて、この世界の環境は地球とは多少異なるものであることは、これまでの学術調査の結果から参加者のみなさんも既にある程度理解されていると思われます。それを踏まえてこの世界における海水中のナトリウム含有量を説明させて頂くと、なんとこの世界の海水中には1kgあたり平均42グラムも含まれているということが発覚したのです。
即ちこの世界の海水からは、地球の4倍程度のナトリウムを採取することが可能であり、これは海水を原料としたナトリウム発電機の実用化に対し、大きな技術的ブレイクスルーを生み出すのに十分な比率なのです」
〔安住〕
「即ち、将来的にエネルギー不足は解決の見通しがたつ可能性があるということですか?」
〔朝倉〕
「完全な埋め合わせがいつ頃になるかはなんとも言えませんが、少なくとも1年半ほどの研究に投資を許可して頂けたのなら、取り合えず現在のエネルギー不足問題に関して、数年間は5パーセントから10パーセント程度補える可能性がありますし、その後事業が軌道に乗った場合は更に増加が見込めます」
朝倉の発言に、場がざわざわと盛り上がる。当面の問題であったエネルギー問題の解決に、多少の余裕ができたのだから無理もない。
その参加者たちの盛り上がりの中で、田嶋はただ一人冷静に状況を分析していた。
〔田嶋〕
「盛り上がっているところ悪いですが、その成果というのは研究が上手くいったときの話でしょう?現状成果を上げているわけでもないのに、そのような安易な目測を立ててよいのでしょうか?」
〔朝倉〕
「確かに現状大量生産の目途がまだ立ってはいませんが、それに関しましては既存の技術を組み合わせたとしても、多少の遅れが生じる程度と見積もられており、遅くとも2年からプラス3か月程度でエネルギー問題の解決を見込むことが可能です」
それを聞いた田嶋は、面倒くさいことになったぞと内面でふてくされたが、それが表情などに出ることはなかった。それは偏に政治家としての経験の豊富さゆえである。
〔朝倉〕
「首相の仰る神州警固番役計画なる新体制発足計画に関しましても、今すぐとはいかずとも、今後10年というスパンで実現することは不可能ではないと思われます。
……というより、急がないと少々まずいことになると思われます」
〔田嶋〕
「?というと?」
〔朝倉〕
「兎に角これを見て頂きたい」
そういうと、朝倉はプロジェクターを操作している総理秘書官に近づいて、板状の情報記憶媒体を渡した。
立体映像が、新しい像を投影する。様々な生物のものである。
〔朝倉〕
「これは転移に国内のにて捕獲された新種の生物群であります。海洋由来のものが大半を占めますが、中には飛翔能力を持った哺乳類や爬虫類などもおります。
なお飛翔生物群ですが、1m未満の常識的体格の個体の他に、全長で3メートル級、翼幅は更に大型な個体が複数捕獲されました。体重も一部個体は100kgを超えるなど重量級です。
なおこれらの生物は体格こそ巨大ですが、共通して非常に臆病かつ繊細な性質で、原動機の音や排ガスなどに対して強い警戒心を抱き、近くでそれを感知するとその場から逃げ去りますし、人間に対しても積極的には襲い掛からないようです。ですが問題はそれとは別方面です」
次の画像をと朝倉が秘書官に言うと、次に映し出されたのは細菌やウイルスなどのCG図であった。
それを見て、事情を察した参加者は緊張で額に汗が張り付く。
〔朝倉〕
「これら生物の体内から、少なくとも70から80種ほどの未知の病原体やウイルスが検出されました。その多くは地球上において過去に存在が確認された物に酷似しており、それらに対する免疫手段を我々は幸運なことに保持していますが、肝心なのはこの世界の生態系に関して、現状我々が無知に過ぎるということです」
朝倉の発言は、いつの間にか場を静かにさせていた。話は続く。
〔朝倉〕
「これらの生物が、どこに生息しどの程度の活動圏を有するのか、我々は知りません。
ですが、画像の生物のように海洋渡航能力や飛行能力を有する生物が、遥か遠方から群を以て侵入してきた場合、我が国の生態系や社会基盤が崩落する恐れがあります。
新世界の生態系は我々にとって脅威です」
明らかになった残酷に、会議室内が凍り付く。
〔朝倉〕
「我々はナノマシンの製造技術を有して、過去よりも病原体に対する強力な対抗策を有しております。
ですがそれらとて、完全に未知なる病原体に対しては、その機能を十全に発揮することが出来ません。
現状では、マシンの過剰反応がアレルギーなどを誘発する可能性がある為、マシンの稼働能力に制限を加えております。
即ち設定の範囲を超えた稼働を抑えることによって、被治療者の心身に無用な害を及ぼさないようにしているわけであります。
むしろ無用な被害をいかに抑えるかということにこそ、今日のナノマシン医療における技術的・倫理的な命題があるといってもよいでしょう。
よって新型の病原体に対しては、都度専用のものを開発・製造するのが最も有効ですが、そうなるとそこに莫大なエネルギーを投じることになり、また感染拡大を防ぐために人の往来に対し制限を掛けなければならなくなり、国の機能が停滞してしまいます。
過去の世界規模の感染症流行がそうであったようにです」
沈痛な空気が場を包み込む。この場に居る者は皆、過去に幾度も起こったそれを経験している。それが齎す事態を知っている。それは個人の経験においてもそうだが、それ以前に、人類の本能という部分で、未知の脅威に対する警戒心を持っているのだ。
人類も含めた生命は皆、微小な生物から始まった。時間と環境が変化作用を生み出し、やがて弱肉強食という原理を生み出した。細菌と細菌が食らい合い、勝った方が生き残り敗者は滅ぶ、それを幾十億年も繰り返した末に生命は海を這い出て地に上がり、地に沈んで生態域を広げ、多様な生態系を築いた末に人類が誕生した。
人類は高等生物である。単細胞生物やウイルスとは比べ物にならないほど複雑な構造と機能を有する巨大な個の怪物モビーディックであり、また群体(レギオン)たるリヴァイアサンである。
有した免疫は、細菌やウイルスなどの病原体を駆逐し、無力化させるものの、だからと言って下等に対して常に優勢にあるかと言えばそうではなく、時として自身より遥かに規模において劣る筈のそれらに対して、敗北を喫することも稀ではない。
即ち生物の優劣とは生存と勝利を決定づける絶対条件ではなく、生存は様々な要因を積み重ねた結果論であるに過ぎない。
色即是空、万物は常に誕生を繰り返して変化し続けるが故に永遠不変などはなく、生存と死滅とは絶えず変化を続ける生命の有り様そのものであるともいえる。
大宇宙の原理の前に、人間などは矮小な蚤に過ぎないのだ。
〔朝倉〕
「また問題は他にもあります。
すいません秘書官さん、天候の項目の6番画像を表示お願い」
画像が生物のものから、景色を映したものに変わる。海上で複数の竜巻が発生しているものだ。
〔朝倉〕
「これは先日南東900kmの地点にて捉えられた画像です。
見ての通り複数の竜巻を捉えたものですが、これらは海上の大気の温度差から生じ、海水を巻き上げながら北上を続けていきました。
その移動速度は相当なもので、最高時速が100km前後ほどに到達していました。
推測ですが、恐らくこの惑星のコリオリ力などの影響によるものです」
朝倉の説明の意味を理解していない様子の閣僚が、疑問を呈する。
〔閣僚A〕
「どういうことですか?」
〔朝倉〕
「ここ一か月半の調査から、この惑星は推定ですが地球よりも遥かに大型の可能性があります。衛星を飛ばせていないので水平線などから導き出していますがね。
しかし、今我々の一日のサイクルは地球とさほど変化しておらず、日の出から日没までは凡そ地球での5月の平均時間とさほど変化がありません。
ですが、それはつまりこの惑星の自転速度は地球よりも高速であるということであり、それに伴って上空の偏西風や、地表のコリオリ力なども地球よりも強力になっているということです。実際航空機や観測気球による高高度調査で、それが確認できています。
さて、そのことによってどのような問題が起こるのか?渋川さん、地球において毎年のように日本の南東側から飛来する気象現象がございましたね」
突然話を振られた渋川は、動揺しながらも回答した。
〔渋川〕
「……えー、『台風』ですか?」
〔朝倉
「その通りです。地球ではほぼ毎年台風が発生し、日本に飛来していました。この世界においても、台風が発生し日本に飛来する可能性があります。
しかも、その脅威度は地球よりも深刻だと考えられます」
一旦息をつきつつ、朝倉は更に話を続ける。
〔朝倉〕
「先ほど申した通り、この惑星の自転速度は恐らく高速であり、上空の偏西風や地表付近のコリオリ力は強力です。これらの作用によって台風は地球のそれよりも高速で移動してくるでしょう。
更に、この台風には海洋に含まれる膨大なナトリウムが含まれており、上陸地点に深刻な塩害を齎します。それで農産業が被る被害は、大規模なものになるでしょう。
この世界の海洋は、我々に恵みだけでなく災いも齎すのです。
さて、それを踏まえた上で、総理の進めております神州警固番役計画、まあ略して神警番計画としましょう、それが我が国にどのような利を齎すのかというと、即ちこれまで上げた新世界の脅威の被害を低下させることができます。
観測衛星による災害発生の早期発見と、それに基づく迅速な避難。
脅威生物飛来による感染症蔓延に対する予防と撲滅。
労働力の充実による経済発展や災害時の早期復興の実現。
更に、軍事力を背景とした周辺地域の監視及び物流や生物移動の管理を行うことで……」
〔官僚A〕
「周辺地域の監視及び物流や人移動の管理?軍事力を背景?
首相はそんなこと言ってませんよ?」
〔朝倉〕
「まだ言ってなかったので代わりに言っておきました。
広瀬さん、別に私が説明しても構わないでしょう?」
〔広瀬〕
「癪だが、どうせ言うつもりだったしいいぜ。
ここにいるみんなに、はっきりと言ってやればいい。
余分な遠慮や忖度はいらない。完結、明確に言って、そしていやというほど理解させてやってくれ。
俺たちの計画が、いかに重大かを」
〔朝倉〕
「はい。という訳で説明させて頂きますが、神警番計画は国内は無論のこと、国外の広い範囲まで含めて行う予定となっております。
我が国内部だけ監視しても、より遠方から飛来する脅威は防げない訳ですので、現在の我が国の領土領海を超えた所まで活動圏を広げて、脅威となる生物はこれを発見次第直ちに捕獲・調査、場合によっては最低限のサンプルのみを残して残りは殲滅することも想定しており、その為には軍事力を背景とした強い活動力が必要な訳です。
その様な理由で、今後我が国は軍事富強国としての道を歩んでいくことになるでしょう
言っておきますが、時間の猶予は皆さんが思うほど無いと考えたほうが良いです。
今こうしている間にも、この新世界の脅威が日本を襲来するかもしれませんから、最善よりも最悪を想定した方が生産的です。
他はともかく、監視・管理体制だけでもどうにかして敷くべきです。
私からの説明は以上です」
朝倉の嵐のような喋りに、思わず参加者たちは呆然となったが、話の内容を吟味するうちに気分が高揚してえーっ!!という驚愕が場を満たした。
〔官僚A〕
「状況が無茶苦茶過ぎてワロタ。
これは早くも日本終了のお知らせのようですね。
自由は失われ、人々は独裁国家の奴隷になるんだ。
愛と平和という名の暗黒時代開始です。
何が国だよク〇ニしろオラァ!」
〔官僚B〕
「やめろ馬鹿。お前はどこの〇田〇庸だ。最後の一文は幾ら何でも不味いって。
童貞とかク〇ニとか、〇米田〇治にいじられるぞ絶対。
取り合えず謝罪しよう、な」
〔閣僚A〕
「お騒がせして申し訳ありませんでした…
あー羽黒刑務所行きてェー。パ〇プカットすれば男の俺でもメデューサ症候群発症するかなあ?
殺〇少女たちの中でレ〇ハーレム作るのが俺のTSドリームなんだ」
〔官僚B〕
「こいつ、全然反省してねえ……全く反省しない上で更にその上を行きやがった……
その生きざま、正に悪魔付き。サスペンス×エロス×ヴァイオレンス!
知らないやつは全く知らないネタが平気で飛び交うこの作品の如く、〇田〇庸は正しく講〇社の怪物だぜ……!」
〔官僚C〕
「〇田〇庸や講〇社に限らず漫画家なんて大体どこのどいつも怪物なのでは?ボブは訝しんだ」
作者の気分を反映して妙なテンションになった場を鎮めるために、安住は広瀬に縋りつく。
〔安住〕
「広瀬さん、いくら何でも過激すぎませんか?
こんなの聞かされて冷静でいられるほど、僕らは下劣な畜生ではありませんよ!
幾ら広瀬さんが血の代わりにWALKER用のオイルが流れ、脳の代わりに電子チップで駆動する冷徹なサイコパスロボットだとしても、あんまりです!!
せめてフ〇ーザ編後の孫〇空程度の慈悲を持ち合わせて下さい!」
〔広瀬〕
「誰が宇宙の悪魔〇イヤ人だ!
俺も流石に『死んでもでえじょうぶだ、〇ラゴン〇ールで生き返れる』なんて言えるほどに異星人メンタルしてねえよ!
少なくとも鼻の無い〇リリンよりは地球人的だよ、おいっ。
取り合えず落ち着け安住。動揺したからってキャラをブレさせるな。誰が誰だか読者が分からなくなるだろうが。
朝倉の言い方だとちょっと問題ありげだが、実際には国内の状況に合わせて、修正などを加えつつ段階的に施行していくからな?何も最初から全部やるってわけじゃない。
だが最終的には、計画の完遂を目指して進めていくつもりだ」
〔田嶋〕
「総理、そこまでして計画に拘る理由とは?」
田嶋や安住、その他の閣僚の注目が集まる中、広瀬は自身の本意を晒す。
〔広瀬〕
「こういうと胡散臭いように思われるかもしれないが、俺の望みは簡潔にただ一つ。
『愛と世界平和』。この実現こそが俺が総理になった理由であり、人生の目標だな。
言葉にすれば簡単だが、これの実現には多くの困難が付き纏う。対話は大事だが、武力も必要だろう。それだけだ。
例え転移がなく地球に居た場合でも計画は施行していたが、まあなんとも面倒なことになったもんだ。
新世界で零からやり始めようぜ、この国の歴史ってやつをよ」
〔田嶋〕
「強引ですな。撤回の意思は?」
〔広瀬〕
「無い。強行採決あるのみだ。どのような妨害にあっても絶対に計画は通す、絶対だ」
広瀬が真顔で語った唐突な理想論に、田嶋はやれやれと肩を竦めながら、ため息を漏らした。
〔田嶋〕
「総理、我が国はあくまで民主制国家なのです。いくら個人や政党が強引に物事を進めようとしたところで、国民の支持が無ければ権力を維持することは出来ません。
そして、総理の言い分を国民が飲んでくれるかどうかは未知数です。国民が物資とエネルギーの不足に貧窮しつつある現状で、多くの物資とエネルギーのリソースを割りかねない大規模な事業を強行することは、致命的な失策になりかねないのです。
仮に総理のお考えが正しい可能性があってでもです。例え正しさを含有しようと、国民がそれを否定したら即ち間違っているということになります。正しさとはあくまで結果論なのです。例え理屈が通ていなくとも、納得が通てしまえばそれは即ち正しいのです。個人の主観などというものは、物事の発生過程における些末な障害に過ぎないのです。
それを踏まえたうえで、一体どのように国民を納得させるのか、お考えを聞かせて頂きたいのですが」
田嶋の問いを、広瀬は奇妙な笑いを浮かべて受け取った。まるで田嶋の質問を事前に待ち望んでいたかのように。
その様子に、田嶋は引っ掛かりを覚える。
〔広瀬〕
「ククク、なあ田嶋、人に納得を与える方法って何だと思う?
真実をありのままに話すことか?まあそれも悪くはない。悪くはないがそれじゃあ50点ってところだ。真実ってやつは時として残酷で、人の心を容易く傷つけちまう。そんな状態じゃあ納得なんてしにくいってもんだ。
だからな……場合によっては『嘘』を練り混ぜることも必要なんだよ。
嘘っていうのは普通悪いもののように思えるが、ところがどっこい場合によっては下手な真実よりも人の心を支える良薬になるんだ、これが」
〔田嶋〕
「……?一体何を仰いたいので?」
広瀬は答えを大げさに答えた。
〔広瀬〕
「要するにだ、政治家が国民を導く時にも、それっぽい理屈を作ればあとは国民の側が自分で納得してしまうってことだ。
だから俺は、ある件に関して重要な嘘をつく……というか『もうついた』んだよ」
〔田嶋〕
「……なんですと?一体何を?」
戸惑った様子の田嶋の疑問に広瀬は解答を用意する。それは実に禄でもない話であった。
〔広瀬〕
「2週間前に記者会見を開いて、日本の残存資源とエネルギーについて説明しただろ。確か1年半位しか持たないって話だったよな。
まあそれ実は真っ赤な嘘なんだよ♡」
ざわ……と、場がどよめく。かなり予想外の事実であった。
田嶋もとても驚き、即座に広瀬に突っかかる。
〔田嶋〕
「え、えーッ!?
なんですと……あんなに重要な話が嘘だったとは一体……?これまでの話し合いの意味とは……?
じ、実際はどうなんですかっ!?」
田嶋の問いに対し広瀬はにこやかに笑いながら万歳した……両手を目一杯広げて。
その意図を理解した田嶋は、唖然とした。
〔田嶋〕
「ま、ま、まさか……
あと『10年』は戦えるとぉ……ッ!?
ほげェーッ!!!!」
〔広瀬〕
「うーん日本驚異のメカニズムってやつだな♡
資料の数値をチョイチョイっと弄ったらできたぜ、驚くほど簡単にな」
とんでもないことを何でもないことのように軽い態度で話す広瀬に、田嶋は怖気つきながらも追及は忘れないで行う。というか、そうせずにはいられなかった。
〔田嶋〕
「そんなことして、本物の資料が流出したらどうするんですか!?国を揺るがす大問題ですぞ!!」
田嶋の必死の追及にしかし、広瀬は
〔広瀬〕
「流出、そんなことはありえねーんだ田嶋」
〔田嶋〕
「なんですと!?何故!?」
〔広瀬〕
「日本の資源とエネルギーの備蓄量の調査、そんなもんはな……
ハナから実在しねーんだ、少なくとも国として公式にやってはいない」
広瀬の爆弾発言に、場が凍り付く。
〔田嶋〕
「え、え、え? い、いつから……」
〔広瀬〕
「そこらへんは内緒だが、俺の任期中にやったことは一度たりとてない、な」
広瀬は更に爆弾発言を続けていく。連鎖爆発発生中。
〔田嶋〕
「何故そんなことを……?」
〔広瀬〕
「仮に外国からの物流が止まっても、国を維持するためだな。
ああでも、じゃあなんで10年なんて数字を俺が上げたかっていうと別に適当じゃなくて、個人的なツテで調べたらそんくらいは算出できた。
案外表に出さない隠し資源貯めこんでる連中って国内にいるんだな。まあ俺もやってるけど。
とにかく、国民が思っている以上の資源とエネルギーが、この国にはあるんだぜ」
心理的な爆発事象が続けて起こる中、田嶋はビビりながらも弁を走らせていく。そうしなければ、立ち止まったら吹っ飛ぶとでもいった感じで。
〔田嶋〕
「何故態々国民に嘘を……?」
〔広瀬〕
「そりゃもちろん防衛上の懸念からだよ♡
危機感を募らせれば厭でも腹が据えるってわけだ。
訳の分からん世界で生活する上では、防衛力の向上は絶対条件だからな。多少の嘘は大目に見ろ」
〔田嶋〕
「これまでの我々の話し合いは一体何だったのか?さきの朝倉大臣の話とか……」
田嶋の様子はもはやほぼ泣きに入る直前であったが、そんなことを広瀬は気にせず、自身のペースで田嶋を宥めた。
〔広瀬〕
「ん-、ほら、敵を欺くにはまず味方から欺けと古来より言うだろう?一体だれがそんなこと言い始めたのかは知らないが、いいこと言うよな役に立つわ。
ぶっちゃけ世の中敵だらけだし、信じられるのは絆した親兄弟と、姉妹、子供、それと飼いならした愛玩動物ぐらいだっていうのがこの世の真理なんじゃねえかな。なに?そんなこと俺が言っても薄っぺらい?そうだなそれもまた真実だ。飢えて乾いて、そうして縋ったものを至高の真実として受け入れたのなら、人は幾らだって強くなれるし生き延びればそれが力になる。俺はそんな人間をこそ愛したいね。
まあそういうことということで、ホントすまないな皆。でもな、騙されるやつが悪いんだぜ?今回の件は俺とお前らで責任を折檻ということで、話は終わらせよう。いいな?」
今回の件は特に深い理由などはなく、多分ノリでやったぽい。
まあ、そんな大事じゃないしいいよね!(よくない)
〔田嶋〕
「これバレたらどうするんですかねェ……」
〔広瀬〕
「本当は資源が余分にあることが分かったら、国民は喜んで使いつぶすぜ。
だからこそ、嘘でも危機感を演出しないと先がないんだ。
つまり、神警番を阻む資源的、エネルギー的問題は実はないということだな」
〔田嶋〕
[(こ、この総理大臣、一切信用できない……言うこと成すことの信憑性が悉く薄っぺらすぎて、まるでこれじゃあ鬼は鬼でも天邪鬼ではないですか。
かの物の怪は言うことすべてが事実と反対になるといいますが、広瀬首相の場合は真偽の判断すらも疑わしい……
と、取り合えずこの手の相手にまともに向かい合ってはいけない。こちらもまたのらりくらりと舞い躱す姿勢をみせなければ飲み込まれる)取り合えずこの件は保留ということで」
〔広瀬〕
「本当にそんな曖昧な答えでいいのか?」
〔田嶋〕
「今の件は余りに急な話がすぎて、まだ検討すべき点が多いと判断しますので」
かくして、広瀬総理の鬼の所業こと神警番計画はその賛否決定が保留されることとなった。やり方がえげつない。
さて、場が落ち着いたところで、機会を窺っていた南原が会議の進行を進め始める。
〔南原〕
「さて、田嶋大臣の次に質問のある議員はいますか?」
南原の催促に、安住が挙手して身を上げた。
〔安住〕
「どうやらこの世界では人間間の場合なら、使用言語に関わらず意志の疎通が可能であることが、国内での事例及び今回の調査で発覚しましたが、その原因に関する調査はどの程度進んでいるでしょうか?
久瀬さん及び朝倉さん、ご説明の程お願いします」
安住の質問に対し、先ずは久瀬が説明を開始する。
〔久瀬〕
「俺から先に話そう。調査隊からの報告では、現地勢力にとっても原理は不明なようだ。ただ、我々との意思疎通に関してそれを可笑しく思うような態度が見られなかったことから、恐らくこの世界における普遍的な現象であると思われる。俺から言えることは以上だ。国内での調査に関しては、朝倉さん、お願いします」
久瀬に続き朝倉が現状の調査結果を述べる。
〔朝倉〕
「現在国内で発生している言語の自動翻訳現象に関してですが、調査の結果遺伝子に未知の物質が混入していることが判明しており、その物質が脳や神経系の一部に変化を与えているらしいことが判明したことは以前にもお話しましたね。
言葉を発する時や文字を記載する際、また逆に言葉を聞いたり文字を見たりする際に、脳内から質量の微細な変化を齎す重力波のようなものが計測されると。
更にAIに関しましても、量子コンピュータを搭載したWALKER等高性能電子製品の場合、対話インターフェイスの駆動時に同様の現象が発生するらしいことも判明し、これは量子コンピュータに何らかの作用が働いているものと考えられます。
仮説としては、我々の次元とは異なる時空間に人間のやAIのコミュニケーションを補助する何らかの存在が予測されますが、その原理や正体に関しては依然不明のままであり、また人間の肉体や精神に与える影響も不明です。
まあ、何もわかっていないということですね」
朝倉の説明に、参加者たちは面倒くさそうにため息を漏らす。
日本が地球からこの世界に転移した際、国内において言語による意思疎通の障害が突如消えた。何語を喋って聞いても、見ても書いても、誰もがその意味を程度の差はあれ理解できるようになった。
一応未就学児や就学初期の児童などに、成熟した大人が用いるような複雑な言い回しを使っても、蓄積した知識や人生経験の差から意味や意図をはっきりと理解するようなことはなく、また『わび・さび』や『人道』、『善悪』『正義』『真理』などといった抽象的、観念的な概念に関しても、理解度が個々人によって異なるらしいことが判明している。
言ってしまえば翻訳は機械的な性質であり、抽象的な物事の明確なる観念的本質(イデア)を訳することは叶わず、ただ単にある単語をそれに該当する別の語に置き換えているというだけのものであるようだ。
何故そうであるのかは謎だが、それは全人類の知性が一つに結混合されたなどというわけではなく、個々がその個性と自立性を保ったままに、膨大なデータを保持しているサーバーベースとでも言うべきものに接続され、必要に応じて限定的に個に対して情報が落とされ、用が済むたびに個の内部から消去されるというものなのではないかと推測されている。
それを裏付けるように、自動翻訳現象が記憶や知識の根本的な上昇には繋がってはいないということも判明していた。
つまり足し算を覚えたばかりの小児が、二次関数やフェルマーの最終定理などのより高度な数学を理解するなどといったことは起こっておらず、科学者が未知の理論を発見するなどということもなかった。
即ち地球に居た頃知らなかった物事を理解するという事象は、言語のみを別枠として生じていなかったのだが、何故言語という限られた事象においてのみ、このようなことになったのかに関しては、それが意図のあることなのかそれとも偶然なのかすらも未知である。
そういった事象に対して、便利だと楽観視するものもいれば、知らない間に個々の人格に干渉されているようで本能的、生理的に気持ち悪いという不快感を感じるものもまた少なくなく、原因の解明が急がれている。
〔南原〕
「さて、他に質問のある者は?」
南原の催促に名乗り出るものはいなかった。
〔広瀬〕
「いないようだな。さて、そろそろ意見が出そろったと思うし、そろそろ会議を纏めようと思うんだが、日本が国を挙げてロイメル王国と国交を成立することに賛成の者は挙手を頼む」
広瀬の促しに、参加者たちの中で次々に挙手するものが現れる。全員一致ではないものの、過半数を超える参加者が賛同の挙手をした。
〔広瀬〕
「では今後我が国はロイメル王国と正式な国交を開くために、交渉を開始することとする。
外務大臣の安住は交渉者の選定をお願いする。
久瀬は交渉者の移動手段と派遣する護衛官の選定について、安住大臣と話を交えつつ行ってほしい。
では今回の会議は以上にて解散。安住と久瀬はこの後の記者会見に備えて準備してほしい」
かくして調査任務の報告会を兼ねた会議は終わり、参加者たちは会議室から出ていったのであった。
その後、広瀬と安住、それと久瀬は今回の調査内容及び政府の方針を(未確認の武装勢力であるアムディス王国の存在や自衛隊出動の可能性など、一部情報を隠しながらも)マスコミの前にて発表し、かくして日本は異世界文明との接触という一大事に向けて、国をあげて動き出すこととなった。
* * *
【東京 とあるビル街】
多くのビルが立ち並ぶ経済区域の中に、そのビルはあった。
高さや規模は周囲と比べても特別巨大ということもなく、平均前後であるそのビルは、デザインも平凡な四角いコンクリートビルであった。
EDGEVIS日本支部の本社である。
世界的企業であるEDGEVISは、どちらかというと質実剛健なことを尊ぶ社風であり、社内の雰囲気も華やかさや絢爛さは余りないものの、それでも質の高いもので満たされている。
床は頑丈な石を。絨毯は頑丈な絨毯を。壁も、エレベーターも、階段や手洗い、施設内を照らす電灯などの光源類に至るまで、まずは頑丈さが優先された。とはいえ素材の安全性も考慮され、発がん性物質などはなるべく用いられないようになっている。物持ちのよさは道具だけでなく、人間に対しても同様であり、厚生福利は充実しているらしい。最もその分職務内容は難しく、入社もまた困難である。
社内には様々な部署があり、事務は無論のこと宣伝広報部もあり、またその逆に世間の情報を収集し分析する情報部なる部署も存在する。情報部では日々新聞や雑誌、ラジオ、テレビ、コンピュータなどのマスメディアから世間の流行や情勢を探っており、更に独自の調査隊が自前で世界のニュースを追跡したりもしている。
そんな情報部の一室、テレビ情報収集室の中では、室内の壁一面を占める膨大な数のテレビとそれを見る分析官がいて、その時もテレビに流れる政府の緊急記者会見を見ながら、独り言を呟いていた。
〔EDGEVIS 社員A〕
「新世界に人類発見、孤立した我が国に希望の光が、かあ。
さて、経済が活気づくまであとどれくらいかかるかねえ」
〔????〕
「楽しそうだな、お前」
〔EDGEVIS 社員A〕
「あ、CS部門の茂瀬部長。ご無沙汰しています」
分析官から茂瀬と言われた男は、EDGEVISの民間軍事部門コマンドサポートを統括する茂瀬拓海(もせ たくみ。45歳既婚男性、快活な質の男)その人である。
一見すると気の良さそうなおっさんであるが、その実態は歴戦の戦士であり、彼の存在がCS部門の地位と評判を向上させ続けている。
〔茂瀬〕
「新世界に人類発見か。景気がよくなりそうでいいなあ」
〔????〕
「そうですねえ」
〔茂瀬〕
「お、明海女史じゃないか。相変わらず苦労しているかい?」
茂瀬が存在に気づいたのは、艶のある黒髪を長く伸ばした相貌麗しい女性であった。明海美子(あけみ よしこ。35歳未婚女子。広報宣伝部のエース)。
〔明海〕
「今は混乱している日本経済ですが、これをきっかけに立ち直るといいですね」
〔茂瀬〕
「なるさ。きっと。交渉人になった『アイツ』がどうにかする」
〔明海〕
「!?どういうことですか?『彼』とこの件と何の関係が?」
〔茂瀬〕
「詳しいことは後で話そう。だが、面白いことになるってことは確かだぜ。
数年前の『ウォーカー・クラッシャー事件』でも活躍したアイツのことだ、きっと何かしてくれるぜ」
茂瀬と明海の謎の会話に分析官が疑問を浮かべたものの、そんなことはお構いなしに二人は話し続けた。
〔茂瀬〕
「そう、アイツ……曽我勇吾は只者じゃあない。どこで何やってようがそれは変わらないさ。A級資格を取ったアイツならな」
茂瀬は、嘗ての部下に対して『上官』としての期待を掛けていた。
* * *
【日本国 東京都 首相官邸 首相の部屋】
午前を振り返って、今日もまた忙しいと思いふけた広瀬は、もうすぐ赴かねばならない午後の職務に億劫な思いを馳せながら、溜息を洩らした。
〔広瀬〕
「しっかし最近は会議と待機ばかりで体が鈍ってしょうがない。まあこの好機に放置してきた問題に手を付けられたが、それでもまだまだ問題は山積みだし、先が思いやられるな。
まあ、それでも『こいつ』を稼働する必要があった就任時ほど切羽詰まってはいないのは、幸いと言えるか。
俺とこの国を守る、最終手段ともいえるこいつを……」
そう呟く広瀬は、職務檀に備わったボタンを押した。途端……
―床と天井、部屋の壁全てが分解した。部屋を構成する物質的要素の悉くが、亀裂を走らせながら自ら崩れ去った。―
それは天変地異、地震や台風、火山の噴火の暴力によるものであるのか。人為の破壊工作、爆弾やもっと原始的な暴力によるものか。否である。部屋の破壊的変化の原因は何らかの暴力によるものではない。それはこの部屋に予め仕組まれた仕掛けによるもの、機械的な機構に基づく変形のそれである。その証拠に、崩れた部屋の天井や壁はガシャガシャと音を立てながらも、その奥にある第二の床であり、天井であり、また壁である銀色の金属の中に収容されていく。そうして収容された床や天井、壁に変わるように、ロボットアームや箱が銀色の壁内から出現する。
出た箱はひとりでに開くと、中には武器が入っていた。銃や刀剣、それ以外のもの。それらが大量に出そろう。
首相官邸の一室内は瞬く間に『武器庫』へと変貌した。
そして刀剣や鈍器、それに軽火器や重火器などの無数の武器の中に、その赤黒く彩られた鎧はあった。それは戦国時代頃の具足を意匠としつつも、所処が機械で構成されている強化外骨格であり、骨格に装着された装具群によって、まるで骸骨の侍が不動の姿勢で立っているかのように見えなくもない。
〔広瀬〕
「『鬼武者』……俺の半躯、俺の力、そして日本の武威の象徴。
人類とAIの融合体にして、それを分け隔てる鎧。
内閣総理大臣用強化外骨格、最終戦争対応型生命維持機関。
人の身で鬼に成るための拘束具、義体、そして棺桶。
決して表に出ることのない亡霊、か」
内閣総理大臣広瀬勝用強化外骨格『鬼武者』。それがその鎧の名であり、今はまだ活動していない戦術級機動兵器である。
生産性を度外視して最新の科学技術を惜しみも無く投じたその装備は、内閣総理大臣の身に危険が及んだ際の緊急時生存維持装備であり、国家の存続を阻む脅威に対して内閣総理大臣自身がそれに対峙するための決戦兵器でもある。
骨格単独でも並のコンバット・フォース・ウォーカー(CFW)と同等以上の戦闘力を備える上、人間が装着することによって機械的な反応速度の低下等と引き換えに人間的哲学倫理を獲得。人間のみが可能な非合理的なる感情行動の施行を補助し、数学的道理を超越した駆動を可能とするそれは、AIによって常に合理的行動を優先するWALKERでもなく、また感情に基づく非合理的行動をする人間でもない、双方を併せ持ち、双方を超越した複合体を体現する存在であった。
その鬼武者に、広瀬は歩み寄って寄り掛かると、淡々とした口調で呟いた。
〔広瀬〕
「偶には使って馴らすか。鬼武者装着、メンテナンスモード」
それに応えるのは中性的な機械合成音。様々なサンプルを基にして設定されたそれは、人の温かさと機械の冷たさを併せ持った、不気味の谷の呻き声のようである。
〔鬼武者AI〕
「了解、メンテナンスモードで起動します」
刹那、鬼武者の骨格が蠢き、広瀬を飲み込むかのようにして身に纏わりついた。
広瀬の手は鬼武者の手。広瀬の足は鬼武者の足。広瀬の胴は鬼武者の胴であり、またその頭は広瀬のものでありながらも、鬼武者に飲み込まれその身の一部となることで、つまりは広瀬の脳を持った鬼武者の頭となった。
機にして鬼、甲冑の現人鬼鬼武者、ここに推参。
鬼武者を纏った広瀬は、近くにあった武器の中から拳銃と刀を右手と左手にそれぞれ割り振ると、またしても淡々とした口調で自身以外誰もいない室内にて言葉を呟いた。
〔広瀬〕
「訓練、状況、室内。目標、CFWレベル2、2体。邪魔なものを片付けろ」
広瀬の呟きを拾った鬼武者のAI及び室内のAIが、その意図を推測して最も確立の高いものを選択する。即ち模擬戦の為に室内の邪魔な武器やら装飾品やらを、邪魔にならないところに移動させたのだ。
天井や壁から延びるロボットアームが、迅速に室内を片付ける。20秒もかからずに室内はすっきりして、人一人が運動するのに十分な空間ができた。
部屋の片付いたのを確認した広瀬は、呟く。
〔広瀬〕
「訓練開始。立体映像投射」
広瀬が言い追えるのと同時に、広瀬の目前に一体のCFWが出現する。立体映像によるダミーであるそれは、出現後直立姿勢を取ったのち、両手に持った口径12,7mmの拳銃を拳を放つかの如く同時に突き出した。刹那、騨ッ!という発砲音が響く。発射された12.7x99mm弾が音速以上で跳ぶが、広瀬は発射より先にしゃがんで回避していた。その上で自身も右手の12.7mm拳銃をCFWに向け、引き金を引く。
発砲音が響くのとほぼ同時に、拳銃の弾がCFWの顎―人間でいうその辺りという意味―に着弾、頭部を揺する。CFWの特殊合金製装甲は12.7mmにも耐える強度を誇るが、部位によっては衝撃などを殺しきれないこともあり、顎はその弱点となる部位である。無論ただ闇雲に撃った所でCFWの認識速度と反射行動の前では例え拳銃騨であろうと回避されるのがオチであり、だがしかしそうであるにも関わらず広瀬の銃撃がCFWに直撃したのは偶然ではなく、CFWの回避を計算に入れて、その行動パターンを推測した上で未来位置に弾丸を置いたというつまりは純然たる理論によるものであった。
〔広瀬〕
「Bingo!反応は良好!」
顎への拳銃弾直撃によって光学センサの焦点が僅かにブレたCFWはしかし、その後も6.3秒間で2発の追撃を受けながらも背後に飛び退くことで、それ以上の被害を抑制。姿勢を奇麗に拳銃を再度突き出したところで、しゃがんだ姿勢から低空跳躍を行った広瀬の繰り出した切り上げの斬撃によって、2つの拳銃を同時に失った。
CFWの武器を無力化した広瀬は、逆手に構えた高周波刀を突きあげた姿勢のまま垂直跳躍し、左膝蹴りでCFWの左手をえぐり取る。その反動で地面に戻る広瀬は更に、右足で蹴りを繰り出してCFWの左わき腹を蹴り飛ばした。その感触が右足にかかる。立体映像を相手にしているのに感触や反動があるのは、鬼武者のAIが人間の肉体に振動や電気信号を流しているためだ。
さて、そうして一体のCFW―①-を相手取っている広瀬の背後に、拳銃弾の衝撃が走る。鬼武者の装甲は12.7mm程度なら防いでくれるため大事には至らぬが、背後からの奇襲は戦略的に痛い失点である。
広瀬が振り返ると、CFW―②-がもう一体いた。広瀬は2体のダミーCFWを出していた。
広瀬は拳銃を捨て、刀を片手逆手持ちから両手持ちに構えなおして、突貫した。
CFW②の拳銃弾を装甲や刀の刃で受けつつ、距離を詰めた広瀬は上段から刀の刀身を叩きつける。
ガキィンという衝突音が広瀬の耳を打つ。CFW②が腕部収納の高周波ブレードを露出したのだ。高速振動する物質同士の衝突はエネルギーの拮抗を生んで、二つの刃はその破壊力を失ったため必然切り結びあった。だがCFWは鬼武者の刀の相手を左手に任せ、右手を自由に鬼武者の手首を切り落としにかかる。
〔広瀬〕
「見える!追える!戦いの流れを感じるぞ簡単に……破ッ」
だが、その意図に気づいた広瀬は左手の甲を咄嗟に迫る刃に向けて、刃を受け止めた。手甲からの高周波によって高周波ブレードの威力を減じさせたのである。想定外の出来事にAIの判断力を鈍らせるCFW。広瀬は手甲の高周波出力を上げると、刃の上を走らせてCFW②の右腕まで到達させ、高周波ブレードの基部ごとCFW②の右腕を粉砕する。そうしてCFW②が右腕を失ったことで、広瀬の左手は自由になり、再度両手の力を乗せた刀を押し込んで、左手も右腕同様に高周波ブレードの基部ごと粉砕した。
両手を失ったCFW②に密着した広瀬は、刀を腹部に斜め下から突き刺して、CFW②の内部を破壊しながらその背中から貫通するまで押し込んだ。更にCFW②の頭部に手甲の高周波を叩きつけて頭部の外装を破壊し、また内部のカメラ類もその衝撃で損壊してパーツがぽろぽろとこぼれた。
両手と頭部を失ったCFWはしかし、残った脚部や内部のシリンダー、ジャイロバランサなどの駆動部を我武者羅に動かし続ける。闘争の意思の潰えぬそれを広瀬は両手で抱え上げて、力のままに地面に叩きつける。
〔広瀬〕
「圧倒的な力!まるで凶戦士になったかのような全能感!恐れを感じず破壊に興奮する!」
”ズドンッ!”
地面に落ちたCFW②を、広瀬は足で踏みつけて体重をかける。広瀬自身の体重に加えて鬼武者の重量も乗った質量の拷問に、CFW②の機構がミシリと異音を発する。もはやそれは堂々たる戦いではなく、蹂躙。
3回繰り返した広瀬は、だがしかしそこで中断して背後を振り返る。
〔広瀬〕
「忘れてはいない。相手は一体だけなじゃない」
先ほど拳銃を破壊されたCFW①が、高周波ブレードを展開して広瀬に突貫してきたのを、恐らくそうなるであろう、と予測した上での行動であった。
〔広瀬〕
「一体既に死に体ってことは、こうなるということだ!」
広瀬は突貫してくるCFW①に対して足元のCFW②を蹴飛ばす。突貫してくるCFW①は、センサにてそれを確認していたであろうにも関わらず、構わずに突っ込んでいく。回避を選択せず、そのまま突っ込むことを選択したらしい。当然衝突する2機のCFW。ガシャンという音を立てながらも、されどCFWはそれを気にする様子すらも無く、止まらずに立ち向かってくる。
AIに執念などないはずだが、それを感じさせる気迫。勝利への最短距離を突っ走る躊躇の無い合理的な疾駆であり、愚鈍ですらある。
刹那、足元のCFWを蹴り飛ばすと同時に踏み込んでいた広瀬の刺突が、突貫するCFWの眉間に刀の刃を突きたてる。その上で突貫の勢いを削いでCFW①を浮かせた広瀬は、CFWの両手をアッパーカットで穿ち、腕ごと胴体を破砕した。
そして木偶と化したCFW①を、またも地面に倒れ伏させた広瀬は、先ほどと同じようにCFWを三度足踏みしたが、唐突に動きを止めた。
〔広瀬〕
「訓練終了。装着解除。室内を通常状態に移行」
途端、広瀬の相手取ったCFWは消え、また解除された鬼武者が最初室内に現れたのと同じ位置に自動で戻り、ロボットアームによって壁の中に収納された。それと入れ替えに配置され直される装飾品が、部屋の景観をほぼ最初の状態に戻す。床の絨毯だけは鬼武者の走り跳び回ったことによりその痣の如き破壊の後が残っていたが、それも床絨毯修復用ロボットー家庭向け清掃ロボットに似た小型円形のもので、機能がほんの少し違うだけのもの―が、破壊された絨毯を瞬く間に修復することによって、それも消えた。
広瀬の撃った拳銃の弾も、そもそもが立体映像であり、反動は鬼武者側の機能で再現されたものの、実際に発射されたわけではなかったために、壁などに跡などはなかった。正にリアリティア的事象。高度に発展したAIと立体映像、それに機械工学が、人間から現実(リアル)を奪った。高度に発展した科学技術は現実すらも捏造し、欺瞞する。唯一無二の現実は、幾多もの要素を積み重ねによって如何様にも変化する。確かなものなど何もない。色即是空,空即是色。
先ほどの戦いが嘘のような静けさの支配する室内で、広瀬は淡々と呟く。口調は平坦ながらも、彼の肉体からは抑えきれぬ熱が漏れ出していた。鬼火の如き青き熱が。
〔広瀬〕
「今この時、俺は平和を尊び、全てを愛している。
『故に神羅万象を破壊し、戦争を体現する』。勝利を以て全てを制する。
愛と平和とは、得てしてそういうモノだろう?なあ。
俺は鬼になる。鬼の力で世に泰平を齎すために、広瀬勝は……既に死んでいる。
俺は、鬼だ」
自分だけの世界で、彼は瞳にギラついた原始の炎を灯しながら、誰に問うでもなくその言葉を発した。
まず言葉ありき。光あれ。彼は信(いのり)を魂に刻まれたものである。
戦の真の如き信、その言葉と光を。
* * *
【鹿児島県 鹿屋航空基地 司令官室】
〔桐山〕
「しかし大変なことになったな。敵になる可能性が高い勢力を調査してこいとは
」
今朝の閣僚会議後、広瀬と久瀬から新世界の人間世界について調査するように命じられた桐山は、現在現地にて猛威を振るっているらしい勢力を偵察しなければならなくなったため、悩んだ。
〔桐山〕
「いくら推定で文明レベルが劣るであろう相手とはいえ、未知の世界で安易なことはできないからな。誰を送るべきか。
成川はちと頭が固くて融通が利かないし、理恵でいいか。柔軟ではないが慎重さがあるし、取り合えず決定。飯の後で話をするか」
桐山は重要な任務に思いを馳せながらも、この後始まる昼食に対してこそ先ずは真摯に向かい合おうと決めた。
その後、異世界の食材を用いた料理の試食は何事もなく進行し、桐山は胸中の感情と腹を満たした。
その後理恵阿達(たかえあだち)2等海尉を呼び出した桐山は、今後の任務について話を行ったのだが……
〔桐山〕
「―念を押すが、我々はこの世界の文明レベルを把握していない。現地にどのようなテクノロジーが存在しているのかは、はっきり言って未知数だ。くれぐれも注意してくれ」
〔理恵〕
「はい、現地では慎重に行動し、隊員に危害の及ばぬように細心の注意を払い、任務を遂行します。
ところで指令、早速質問なのですが」
〔桐山〕
「なんだ?」
〔理恵〕
「アムディス王国って一体どこにあるんでしょうか?現地の地形や国家の勢力図について知らなければ、偵察しようにもできませんが」
〔桐山〕
「……あー、まあなんだ、古橋達調査隊が調べてくれるだろう。多分後で送られてくるから、それまで待ってくれ」
〔理恵〕
「後でとは、具体的にいつ頃でしょうか?」
〔桐山〕
「……今日の夕方から現地勢力と色々と情報の擦り合わせをやるようだから、それ以降だな」
〔理恵〕
「明日以内で間に合いますかね?」
〔桐山〕
「……どうだろ?」
上からの指示で大事な任務を賜った桐山と鹿屋基地。だがしかし実際の所、前途多難であった。
* * *
ロイメル王国編につづく
以上、番外編でした。
今回のお話は、タイトル通り月詠月夜④の番外編であり、古橋たちがキャンプ・ガイチに居る間裏で起こっていたことを書きました。
日本編とあるように、次いで投下するロイメル王国編に続きます。本編の更新はどうしたって?ば、番外編書いてからでいいっすかねえ?(泳ぐ目)
えーさて、今回は日本政府の動向に関して描写しましたが、広瀬首相、絶対あんな青臭い理想論を長々と喋るキャラじゃないよね(メタァ)。田嶋大臣のキャラ付けといい、なんか調子に乗って色々と盛った内容にしちゃったけど、原作のキャラたち絶対あんな性格じゃねーよ。なんだよ愛と平和って。しかも最後『故に神羅万象を破壊し、戦争を体現する』って、一体どこの中二病だよ(白目)。
……えー、なんであんな原作とかけ離れたキャラになったかっていうと、一重に作品の最大の「ラスボス」にするためです。ラスボスってなんだよって話ですが、この作品はあらすじにある通り『西暦2045年の地球から転移してきた日本が出現してしまって』『異世界国家群が日本と対峙する』話なわけです(嘘は言ってない)。で、日本と対峙する異世界の国家にとっては、広瀬首相以下日本政府の人員は皆倒すべき強大な『敵』なわけですよ(この時点で何かおかしい)。
づるにすって原作もそうですが、この作品も話は基本王道的な英雄物語です。善の英雄が悪しき敵を打ち倒すという過程を、色々説明やら装飾やらして盛り上げながら、最初から決まっているオチに持っていくわけですが、んじゃあ個々の物語の出来なんて最初から意味ないじゃん、全部予定調和なんだから途中でどれだけ困難だの苦悩だの挟んだところでエンディングでは登場キャラが集まって大団円なんだろ?そうなんだろ?と読者が白けてしまうことがあるわけです。それは否定しません。
それを踏まえると、じゃあ凝った物語を制作するよりも、キャラの描写盛ったほうが読者の気を引くにはよくね?っていう意見も出てくるわけですよ(どこからだw)。
例え筋書きが詰まんねえ作品でも、個性的キャラクターが突き抜けた動きをしてくれれば、読者に愛される理由になります。原作でも自衛隊とか日本ってもはや背景設定じゃなくてキャラクターだよねってくらい動いていて、そこが読者受けしてるんじゃねーのと一読者の個人的意見を述べさせて頂きますが、つまりはそういうことなんですよ、キャラを動かすと受けるっていうのは。
最も、簡単に言葉にできることが実践できるかというとそうじゃなくて、つまりはそういう拙さが原作と本作の乖離を生んだわけです。原作通りを期待しているファンの方には、そこの部分で低評価されてしまうかもしれません。ですが、そこを踏まえた上で敢えて原作とは違うキャラ描写をしたのは、キャラと世界設定の持つポテンシャルを踏まえたからです。
原作は近未来SFであり、SFガジェットが多く登場します。AI、ロボット、強化外骨格、その他さまざまなガジェットが登場し、その描写が作品を盛り上げているわけですが、ではそれと関わるキャラのほうはどうなのかというと、まあ割と平凡、この話の広瀬首相みたいになんたら計画で愛と平和が破壊で戦争とか言い出すヤベー奴ではなくて、ちょっと行動が過激な政治家のおじさんってレベルであり、それはそれでいいんですけど、じゃあそれで印象に残るかっていうと、ちょっとパンチ力弱い感じです。パンチングマシーンでは100出すかもしれませんけど(そういうことじゃない)。
それを踏まえて、内閣総理大臣ってキャラにどう命を吹き込むのかっていうと、これはもう徹底的に胡散臭く書くしかないんですよ(?)。
というのも個人的に政治家っていうのは胡散臭い職業、役職だと思っていますので、その中でもトップに立つ首相なんかはもー胡散臭くてしょうがない。ならその通り書くしかない。書いて、一目で政治家だってわかるキャラにしなくちゃいけない。本作の広瀬首相が歯の浮いた胡散臭い理想論を吐くのは、そのためです。ラスボスなのだから、滅茶苦茶胡散臭くないと駄目だったのです。ただ外から見てちゃんとそう見えるのかは微妙ですが。読者の方、どうでしたか?あくまで個人の意見ですけれども、賛同する方いるかなぁ?(いないと断ずる)。
というわけで本作は原作と全然違う作風なわけですが、あくまで非公式ですのであしからず。原作の広瀬首相はここのよりもっとヤベー奴だからそっちを愛でて下さい(風評被害)。
しかし毎度のことながらパロネタのネタが10年以上古い件。最新のネタなんて知らんし、うっせーわタ〇ホームの壁にすんぞ(Ad〇感)。
あー最近某島〇争が更新したようで。3年って長いね、事実上エタ―ってた。この作品もああならないように注意しないと。まあプロットがメルトダウンしたからそれどころじゃないんだけど。
今回の設定↓
・官邸料理人
広瀬首相が個人的に美味い料理を食べたいがために、吉田茂以来数十年(というか1世紀近く)ぶりに復活させた、官邸直属の料理人。表向きには料亭政治の廃止なんかを制度発足の理由にしているらしいが、作中でそんな設定が役に立つことはきっとない。
官邸料理の本場フランスに留学修行に行った経験のある超一流の調理スキルを持つ人材を、日本政府の持つ権限を存分に駆使して官邸料理人として雇い入れた。
或いは〇力〇芽や〇藤〇沙にクリソツな女性シェフなんかがいるかもしれない。セ・トレボン。(またマイナーなネタを……)
・EDGEVIS(エッジビス)
正式名称を『Expert Dispatching General Enterprise that acts on Behalf of Various Industries in Society(社会の様々な業種を代行し援助する専門家派遣総合企業)』といい、世界規模での活動範囲と、現代社会において要望される広範な種類のあらゆる依頼に対応した、様々な職能を持った専門技術者たちを擁する人材派遣・業務代行の会社である。
個人家庭のベビーシッターから、地域規模での紛争解決まで、その対応業務は非常に広範であり、そのどれもにおいて、自社の提供しうる範囲内での最善の資質を持った人材を、自社及び依頼先からの判断で選抜。そして選抜した人材を実際の業務現場に送り込み、依頼者の抱えた問題を解決することで、自社の利益と評価を上げていく。そうやって人材派遣業界においてのし上がってきた会社であるのだが、この会社の特徴は、時代に合わせたAIシステムの採用や、先進的なサイバー技術の導入といった先端技術の活用などといった面において他社に勝る、のというのもあるのだが、やはり一番目立つのは、人材派遣会社としては基本的ともいえる、優秀な人材の保持といった面で高い評価を得ている、ということであろう。
どんな困難な依頼も達成する鋼の精神力と技術力を兼ね備えたプロ集団。それがEDGEVIS職員の世間でのイメージであり、また会社が目指すものである。そして実際に、どんな無理な依頼を幾つも達成して見せたからこそ、今現在名声を得ているといえる。
■『CS』
『コマンドサポート』と同社内で呼ばれる、同社保有の『民間軍事部門』。
非常に高度な依頼遂行能力と、独自の先端技術開発能力などがあり、同部署が本気を出した場合、国際情勢にすらも影響を与えるともされるが、真偽は不明。
大方手の込んだ誇張、『与太話』の類であろう(と、思われるが真相は……?)。
■ランク
EDGEVISのCS部門の職員には、実際の正規軍隊における階級のように、その能力に応じた3つのランクが割り振られている。
一般人と同等以上の能力を持つものはC級職員。プロ中のプロと目される者はB級職員になる。そして真のプロであり、不可能を可能にする『真の企業戦士(ビジネスファイター)』たる存在であり、CB級職員よりも遥かに上位の階級にあるのが、安住の言う特別な存在であるA級職員である。
A級職員とそれ以外の階級の違いは、難関試験突破の有無と、功績である。C級からB級への昇進は、ある程度の経験や評価の蓄積、それと簡単な試験(これも一般人には難関で、プロ中のプロと普通のプロという一般人にはなんのこっちゃな区別を生み出す要因となっている)の突破によってなされるのであるが、A級はB級職員に更なる試験を課して、その試験を突破できたものだけがようやく選定基準に到達できる領域だとされている。
その試験の内容は社内機密であり、社外にその詳細は一切漏れていないが、噂によるとその試験内容は正に職人としての命と物質的な命、双方の掛かった苛烈なものであり、中には試験突破に失敗してプロとしての道を閉ざされた者や、命を落としたものまで存在するといい、そこまでして職員を淘汰選別していく様を指して、EDGEVISを『軍需複合体(しのしょうにん)』などと揶揄する輩も世間には存在する。
そうしてようやく選定基準に到達した者達は、そこから更に各自が実際に上げた『功績』を評価に加味されていき、専任のA級職員選定評価官が昇進の最終決定を下すことによって、それでようやくA級職員の階級と、その証である『資格(ライセンス)』が与えられる。この資格は実際の軍隊のものに置き換えると、米軍における準最高位勲章である各軍の殊勲十字章に匹敵するとされるほどの権威の光を持っており、相応に個人の権利を保障するものである。
・神州警固番役計画
広瀬と久瀬がその実現に向けて密かに進行している国防計画。
日本や世界の安全を脅かす事象は多々ある。地震や台風、それに洪水や豪雪などの自然災害や、暗躍するテロリスト、それに世界の経済・物流の流れなどは、日本の国民の生活はもとより、世界中の人々にとってもいつその身に災が及ぶかもしれない重要な問題。それらを解決するための手段の確保が、当計画の概要だとされる。
世界中の状況を見張り、何らかの問題が起これば直ちに配下AIの一斉制御によって必要な物資と人員を招集、現場に派遣し発生した事件を解決する自律式中央管制型AI搭載の自律観測衛星の配備や、防衛用海底基地設置による海域レベルでの安全確保、緊急時避難用地下都市の建設に、気象制御装置による天候の操作、海岸周辺への大規模な堤防設置などの対災害設備の充実に加え、労働力確保のためのWALKERの配備数を増産や、人間の労働者の能力を根本的部分から工学的『向上(アップグレード)』する『複合体(ハイブリッドヒューマン)』の実現などを目指している。
これは、現在認可の下りている埋め込み型チップによる肉体制御や健康維持の技術などを踏まえながらも、高齢者や身体障碍者などの一部対象者にはWALKERの部品等を『組み込む』肉体置換処置に関する制限を、現行よりも解除するものであり、そうすることで高齢化して能力の衰えた労働者たちを、人間の判断力と、AIの精密動作性、そしてWALKERの頑強さを掛け合わせた複合体(ハイブリッド)化。日々労働力が失われていく現状に対して、最新技術の導入という観点から延命の策を図ることを目的としている。
だがこれらの案には無論技術的・倫理的な高難度の問題があり、先ずはそれを解決しなければならない為、早期の実現は困難。
その為計画の完遂には10年以上という長いスパンを要し、立案者である広瀬及び久瀬の意思を引き継ぐ政権の確立が求められるが、その問題に対しどのような対応策を取っているのかは不明。
ただ、この両者は密かに若く有能な人員を招集した『個人塾』を開いているとされ、そこでこの計画の実施に向けた何らかの工作を行っているとも推測できるが、実際の所その実態を知るであろう者は固く口を閉ざしている。
表に出ない政府の闇が明かされるときはくるのであろうか?未来にあるのは希望か、それとも……
・内閣総理大臣広瀬勝用強化外骨格『鬼武者』
文字通り、広瀬勝専用の強化外骨格装備であり、生産性を度外視して最新の科学技術を惜しみも無く投じたその装備は、内閣総理大臣の身に危険が及んだ際の緊急時生存維持装備にして、国家の存続を阻む脅威に対して内閣総理大臣自身がそれに対峙するための決戦兵器でもある。
骨格単独でも並のコンバット・フォース・ウォーカー(CFW)と同等以上の戦闘力を備える上、人間が装着することによって機械的な反応速度の低下等と引き換えに人間的哲学倫理を獲得。人間のみが可能な非合理的なる感情行動の施行を補助し、数学的道理を超越した駆動を可能とするそれは、AIによって常に合理的行動を優先する。WALKERでもなく、また感情に基づく非合理的行動をする人間でもない、双方を併せ持ち、双方を超越した複合体を体現する存在である。
その装甲は一部ではあるが高周波発生機構が仕込まれており、既存の火器だけでなく高周波兵器に対しても一定の防御性能を発揮する。実際性能試験では、手甲などによって既存の軍用高周波兵器の威力を抑制する効果が確認されており、その性能は現行兵器よりも1~2世代ほど跳びぬけていることはほぼ確実であるといえよう。
いくつかの固定内臓武器を備える他にも既存の装備の運用が可能であり、12.7mm拳銃や高周波刀などの他にも、データベースに保存された大量のデータによって様々な装備に対応している。
この場合の対応とは単に持って使うというだけではなく、持った武器に合わせた最適な照準計算や威力予測計算、また操作・操縦方法のガイドやメンテナンスの方法に至るまで全てを可能とするという意味であり、これは日本だけでなく地球上に存在するあらゆる種類の兵器に対応させることが可能。
またそれだけでなく、未知の道具の場合もデータベースに保管された既存の道具や事物のデータをもとにして、その機能や性能を搭載AIによって推定、算出して使用可能とする機能も備わっている。
即ち『既存の技術体系の延長線上にあるものならば』全て武器として使用可能。魔法?日本が魔導科学の研究推し進めれば使えるんでねえの(適当)。
サイズさえ合うのなら戦車だろうと戦闘機だろうと乗りこなし、軍艦の単独指揮すらも可能とするであろう。
無人機に至っては、国内製は元よりハッキングに成功さえすれば他国製のそれであろうとも支配下に置き、操作することが可能であり、その為の電磁戦能力も備えているなど、その性能は既存の汎用人型兵器を超えた万能の領域に達している。
なお米国やロシア、英国など日本以外の先進国も同様の装備を配備しているとされるが、その真偽や性能、活動内容は重度に秘匿されている。これもまた政治というものであろう。断じて混沌の〇タル〇ルフとか〇イケル・〇ィルソン・Jr的なものではない。How do you like me now ?レッツパーリィィィィ!(これが作者の〇統領魂だ)
・『何が国だよク〇ニしろオラァ!』
書いていいんだアレ
ネタ元は10年以上前だと?こんな古いものを!(戦慄)