モニターに映る景色の眼下に発展した街並みが広がる。拡大すれば多くの人々がこちらを見て、祭りのように騒ぎ立てている
これから行うことは、人として最低の行為だ。おそらく私は未来永劫、史上最悪のテロリストとして歴史に語られていくことだろう。だが迷いはない。今の私には、自身の全てを失ってでも成し遂げねばならぬ想いがある
“ガンダムスローネ アイン”の背中にマウントされたGNランチャーを右肩にジョイントし、砲身を展開してから擬似GN粒子をチャージさせる
ターゲットは………もっとも高いビルに居住しているAEU軍のスポンサーである世界有数の資産家
「ミハエル…ネーナ…お前たちの咎をもらうぞ」
チャージ完了のアラートと同時に、赤い極太の粒子ビームがビルの上部を貫通した
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AEU領の首都に在住していた監視者への攻撃が完了してから1日が経った。私はある無人島に“スローネ アイン”を配置し、空を見上げる
その時、2つの赤い線を描きながらこちらに接近する機影を確認する
「…来たか」
その2つの影…“スローネ ツヴァイ”と“スローネ ドライ”が近くに降下すると、弟と妹が神妙な面構えでこちらを見ていた
「来たぜ、兄貴…いきなり座標データなんか送ってきて、なんのつもりだよ」
「新たな指令が通達されて予定が変わった。“チームトリニティ”として再結集し、ユニオンの武器工場を破壊しろとのことだ」
端末を操作しながらミッションの内容を読み上げ、最後にある事項を伝える
「なお、工場に在籍するものは一般市民も含めて紛争幇助対象と見做し、1人残らず始末することだ」
「………!」
それを読み上げた時、ネーナの表情が歪む。読み上げられた行為を心底嫌悪している…そんな感情が見て取れる
「…なあ、兄貴…本当に1人残らず殺しちまうのかよ?」
「何か問題でもあるのか?ミハエル」
「いや、だってよォ…直接戦ってるわけじゃあねえんだろ?ただ武器のパーツを作ってるだけじゃねえか…実は武器を作ってるなんて知らねえかもしんねえ。それなのに全員殺すって…」
「何を言っている。これは直接下された正式なミッションだ。我々には戦争根絶のためにミッションを遂行する使命がある」
「兄貴はそれでいいのかよ!?」
「いいも何もない。それがガンダムマイスターとして生み出された我々の存在意義だ」
今までミハエルは何か不満があれば文句を言うが、それを行う理由に納得すれば大人しく下がっていった
だが、ミハエルは一歩も引き下がる気がないという気持ちが態度に強く現れている。それだけ
「ミハエル、なぜそのような感情的な理由でミッションを拒否する。そもそものお前の性格を考えれば、これほどお前の好みと一致する任務はあるまい。何もできない人間を一人一人、虫けら同然に踏み潰して…」
「やめてよヨハ兄ィ!!」
嫌悪感を煽るよう、具体的にどのように人間を殺すのかを言葉にしていくと、堰を切ったようにネーナが叫ぶ
「ヨハ兄ィ、ネーナたちも別れてから変だよ!今まで全然連絡してこなかったし、昨日も街を1つ壊滅させたって情報が入ったし……ヨハ兄ィはすっごく優しかったのに、今は全然優しくないよ!」
「………」
「ねえヨハ兄ィ、刹那たちのところに行こうよぉ。すっごく楽しいんだよ。この前クリスとフェルトと一緒に買い物に行ったんだけど、あんなに楽しかったの生まれて初めてだったの」
普段からよく感情的で表情が変わるネーナだが、ここまで大声で叫んで、悲しそうな顔をするネーナは初めて見る
「あそこよォ、スッゲェ自由なんだぜ。ロックオンとかラッセとか色々教えてくれるし、イアンのおっさんの整備もスゲーんだ!あのクソ眼鏡とか嫌な奴もいるけどよ、ゼッテェ兄貴も気に入るって!」
「一緒に行こ、ヨハ兄ィ。みんなヨハ兄ィに怒ってたけど、謝ったらきっと許してくれるって!」
プトレマイオスチームと送った1ヶ月間の生活を語るミハエルとネーナの目は生き生きとしていた。きっと、それほど2人はプトレマイオスチームに受け入れてもらえたのだろう。それがどれほど2人にとって望ましいことだったのか
この変化を、どれほど私が望んでいたことか
「奴らに絆されたか…いいだろう。お前たちがミッションを受けなくてもいい方法が1つだけある」
そんな2人の様子を見て、私は確信する
「もう2度とガンダムには乗るな」
私の………決断は間違っていなかった
「は…?」
「…な、何言ってるの、ヨハ兄ィ?」
「もっと分かりやすく言って欲しいか?“ツヴァイ”と“ドライ”を私に渡せと言ったのだ。そして2度と私の前に現れるな…3回だけ警告してやる」
目に見えて困惑する弟妹だが、私は2人に近づきながら冷淡に言う。前方にはミハエル、右側面にはネーナ
「最初の警告だ。“ツヴァイ”と“ドライ”を渡せ」
「ちょ、ちょっと待てよ兄貴!!いきなり何言ってやがんだ!?」
「そうだよヨハ兄ィ!いくら何でもそんな冗──」
パァン!
ネーナが抗議の声をあげるが、途中で途切れる
ドシャァ!
なぜなら───私がネーナの腹部を撃ったからだ
「うあ”あ”あ”あ”あッ!!」
「ネーナァ!!」
「痛い!痛いィイ!!」
倒れたネーナは撃たれた箇所に手を被せて痛みにのたうち回る。ピンク色のパイロットスーツが血の色に染まっていく
「兄貴テメェ!ネーナに何しやッ」
憤怒の感情を爆発させるミハエルだが、私はすでにミハエルの眼前まで近づいている
とっさに銃を取り出そうとするが、回し蹴りで銃を掴む腕ごと体を蹴り込んで吹き飛ばす。銃が体から離れ、仰向けに倒れているミハエルの首を踏みつけて押さえる
銃を突きつける
「ガァ…!」
「2度目の警告だ。ガンダムを渡せ」
「だッ…だれが…!」
パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!
「ぐ、ぇ…!?」
「残念だ」
警告を無視して反撃しようとするミハエル。ミハエルの抵抗力を削ぐために両肩と両脚の関節、そして腹を撃ち抜く。すると動力を失ったMSのように押さえつけた体が脱力し、全身から流れる血液が地面を濡らす
首から足を退けると、空になった銃のマガジンを捨て、予備のマガジンを装填して再び眼下の弟に銃を突きつける
「やめてヨハ兄ィ!!ミハ兄ィが、ミハ兄ィが死んじゃうよぉ!!」
ネーナが泣きじゃくって私に懇願する。ミハエルは重傷だ。早く治療しなければ出血多量で死ぬだろう
だが、奴が来るまで時間を稼がねばならない。いかにも奴が来たタイミングでミハエルとネーナを殺すのを諦め、アインに乗った風に見せる必要がある
2人への情と、合理的な判断が胸中でせめぎ合う
「お前、たち…は………」
ダメだ、抑えろ私。これは2人を生かすために必要なのだ!だがミハエルは死にかけている。ネーナも傷を負っている。違う、私は間違っていない、中途半端なことをすれば2人の心に迷いを生む!ならば2人を傷つけろ!精神的にだ!恨みを抱かせろ!!
「どこまでも、役立たずだったな」
「ヨハ……兄ィ……」
「さあ、ガンダムを私に寄越せ」
答えられないと分かっていながら、ミハエルに無意味な警告をする
「ゥ……ァ……」
「…答える気はないと判断した」
「…やだ…お願い、ヨハ兄ィ…やめて…!」
いつまで私にこんなことをやらせる!1番先に来るのがお前なのは分かっているのだ!
チャキ…
「さよならだ」
「やめてええええええええ!!!」
早く来い!!
その時、空色の天幕に、緑色の流星が落ちた
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「もう少しで座標データの予測ポイント地点に着く…」
地上のアジトからガンダムスローネに乗って勝手に出撃したスローネチーム2人を、同じアジトで待機していた“ガンダムエクシア”が追跡する。クリスのハッキングで得たデータから移動ルートを把握、そのデータを元に刹那はミハエルとネーナを追ってきたのだ
「場所は…あの無人島か…?」
そしてついにとある無人島の海域まで辿り着いた刹那は、2機のガンダムを探そうとし…
「あれは…“スローネ ツヴァイ”!」
その時、突如島の中心から赤い粒子を撒きながら浮遊するツヴァイを発見する刹那。そしてツヴァイはそのままエクシアに目をくれることもなく、どこか
「どこへ行く!ミハエル・トリニ───」
ピピピピ!
直後、エクシアへの攻撃を知らせる警告音
「何!?」
島から太く、照射し続けるビームがエクシアのいた場所を通過する。エクシアの高い運動性でビームをギリギリで回避した刹那は、その攻撃に既視感を覚える
「この赤い粒子ビーム…まさか!」
砲撃地点に目を向けると…すでにこちらに向かってGNビームサーベルを構える“スローネ アイン”が近づいていた
バヂヂィ!
エクシアは右腕の折り畳まれたGNソードを展開して、鍔迫り合いの形でビームサーベルを防ぐ
『邪魔をしてもらっては困るな、刹那・F・セイエイ!!』
「ッ…!やはりヨハン・トリニティか!」
(この男がここにいるということは、2人はトリニティとして行動するために動いたのか!)
この1ヶ月、ミハエル・トリニティとネーナ・トリニティは共に生活した人間だ
ネーナが過剰なスキンシップをしてきたり(クリスの入れ知恵)、ミハエルにケンカを振られたり、ネーナが勝手に部屋に入ってきたり(リヒティの入れ知恵)、最初はただただ迷惑極まりない存在だった
しかし時間が経つにつれ、ネーナは過剰に距離を詰めてくることは無くなったし、ミハエルも何かと突っかかってくることはなくなった。何より共にミッションを行った者同士、少なくとも刹那にとっては、何の情も抱かない人間ではなくなっていた
そんな矢先にヨハン・トリニティの民間人への攻撃の報告。そしてミハエルとネーナの脱走
ピピ!
ミハエルとネーナが離反して敵に回った…そう思っていたからこそだろう
『ミハ兄ィ!!起きてよミハ兄ィ!!死んじゃやだぁ!!』
「なっ…!?」
拡大した映像に映った、血の海に沈むミハエルに泣いて縋りつくネーナを見て、刹那が動揺したのは
「ぐあッ!」
『よそ見をしている暇があるのか、エクシア!!』
「くっ…!」
『沈め!!』
その隙を突いたアインの前蹴りが胸部に直撃し、コックピットを激しく揺らす。落下しながらも姿勢を正そうとするエクシアに追撃のビームが6発迫り来るのを、アクロバットのような機動で5発回避し、躱しきれない最後の1発をGNソードで切り払う
『これを防ぎ切るか…エクシアのマイスターに選ばれただけのことはある』
「貴様!!」
GNソードの刀身を折り畳み、ライフルモードに変えてアインに撃ち込む
それをアインはエクシアに脚を向ける形で水平に倒れ込み、上下左右に移動し、回転も織り交ぜながら的確にエクシアの粒子ビームを避け続ける
「この機動は…!?」
『この私に射撃で張り合おうなどと!』
右肩にGNランチャーをセット、GNビームライフルと同時に撃ち、先ほどの倍の量のビームをバラ撒く
躱し、GNシールドで防ぎ、そうやってビームの弾幕を辛うじて凌ぎながら、刹那は通信回路をアインと接続して叫ぶ
「貴様っ、貴様は何をした!?」
『通信だと?』
「なぜお前の弟は撃たれている!?なぜ、お前の妹は泣いている!?──答えろォ!!」
GNソードも展開し、激しい攻撃を真正面から突破しようとするエクシア。しかしそんな抵抗も、刹那の問いかけも、ヨハンは嘲笑う
『お前も情に絆されたか、刹那・F・セイエイ』
「何…!?」
『あの愚弟も愚妹も同じだ。使命を忘れ、感傷に流され…』
「この!」
会話の合間に撃ち込まれたビームを回避させる刹那…だが回避先を読んでいたヨハンの偏差射撃によって、右脚の先を撃ち抜かれる
『だから殺すのだ。役立たずなりに役立ってもらおうと囮に使ったのだがな…』
「!」
『貴様たちに…ガンダムは相応しくないッ!!』
右脚の爆破で態勢を崩したエクシアに、トドメのGNランチャーを撃つべく標準を合わせ…
「うおおおお!!」
しかし刹那は、態勢が崩れた勢いを逆に利用してGNビームダガーを2本投擲した。高速で飛来する2つのダガーのうち、1つがGNランチャーに命中し、射撃の前に破壊する
『ぐお!?ッ…なんだと…!』
ヨハンは驚愕する
従来のMSでは不可能な柔軟な挙動。人間に近い動きが可能とされているエクシアの機体構造だからこその反撃だった
刹那はドライの近くに寄り、ドライに座標データを送信してから外部音声でネーナに呼びかける
「
「ッ!本当…?ミハ兄ィ、助かるの!?」
「この男は俺が相手をする…行け!!」
「……!うん!HARO、コックピットを近づけて!」
『早ク乗レ!早ク乗レ!』
ネーナはHAROに指示を出してドライを動かせると、ミハエルと一緒にコックピットに入り、ドライを操縦する
「刹那…!絶対に死んじゃダメだからね…!」
そしてHAROがアジトへの最短距離を算出すると、ドライは全速力で青空を飛んでいった
『逃がすわけには…』
「させるかあぁぁ!!」
逃げるドライに向けてGNビームライフルを向けるアインに、エクシアが凄まじいスピードで距離を詰め、GNソードを振り下ろす。これをアインは右手の、そして新たに肩から取り出したGNビームサーベルを左手に持ち、受け止める
「貴様はあの男と同じだ!身勝手なエゴで争いを引き起こし、無関係な人間を巻き込む!」
刹那の脳裏に浮かぶのは、自身に戦闘技術を仕込んだ赤髪の男。自ら娯楽のために戦争に興じる最低最悪の人間。やり方と理由は違えど、自らの弟妹を何の感慨もなく殺すと告げるヨハン・トリニティは、刹那にとって許し難い存在となった
「貴様のような歪んだ男が………ガンダムで、あるものかッ!!」
『こいつ…!!』
擬似太陽炉を搭載してる分、純粋な出力では優ってるアインだろうと、近接戦闘に特化したエクシアを相手するには少々分が悪い
『ハア!』
そこでヨハンはエクシアとの鍔迫り合いをわざと負け、その力を利用して前方向に回転する
すると拮抗する力が急になくなったGNソードは空振り、逆に前回転したアインは勢いに任せてビームサーベルを突き立てるべく構える
『終わりだ!!』
ビュオオ!
直後、側面から突如放たれた2本のビーム
『左!?』
とっさに回避運動を取るものの、手放したビームサーベルが飲み込まれ、粒子ビームの中で爆散する
「これは…」
『この火力の砲撃…ヴァーチェか!』
2人の視線の先…そこには鎧を纏ったかのような重鈍なガンダム“ヴァーチェ”が、両肩のGNキャノンを構えてアインを見据えていた
『刹那…道中で“スローネ ドライ”と遭遇。今ロックオンが彼女たちの護衛のために同行している』
「ロックオンが…!」
『ヨハン・トリニティ、貴様の行動はヴェーダの計画と相反する。何より……貴様の愚かしい行いの数々はガンダムマイスターに相応しくない…!』
普段はヴェーダ以外に興味がなく、どこまでも冷淡なティエリアらしくない熱のこもった言葉を言う
『ヴァーチェ…いや、“ナドレ”の相手をするほど私は無謀ではない。ここは引かせてもらおうか』
『逃がすものか!』
ティエリアはアインの動きを止めようと行動する
『引かせてもらう!』
が、その前にアインが手に持ったビームサーベルを、勢いよく「回転させ」ながらヴァーチェに投げつける
『そんなビームサーベルで!』
ヴァーチェは左に少しズレてビームサーベルを回避
その時、高速回転するビームサーベルにGNビームライフルを3発撃ち込む。するとビームサーベルに当たった粒子ビームが拡散し、散弾銃のようにヴァーチェに直撃する
『うわあああっ!?』
「粒子ビームを拡散させた…!?」
思わぬ不意打ちを受けたヴァーチェが動きを止めている隙に、アインはビームをヴァーチェに撃ちつつ撤退する
「ティエリア!くっ!」
即座に追いかけたいが、ティエリアが狙われている以上無視できない刹那は、エクシアでヴァーチェの前に飛び出して攻撃をガードする
その間にもアインと2機の距離はどんどん離れていき…
『…さらばだ。ミハエル、ネーナ』
最後に誰にも聞こえない小さな一言をこぼしてから、“ガンダムスローネ アイン”は離脱した