(サバナに交渉行った時はアッパー系魔法薬飲んでた)
ラギー・ブッチにとって愛と人間は金で買えるものである。前者はともかく後者は売ったこともある。なので大して親しくもない(ラギー視点。相手がどうかは知らない)他寮の先輩に金は出すから性転換薬を服用して子宮を貸して欲しいと言われたときにも、断るのではなくまず額面と条件を聞いた。
一時的にでも籍を入れる必要があること、一年以上も保つような性転換薬、それも内蔵まで変化させるようなそれは服用者への負担が大きいことも加味しても、イデア・シュラウドが提示した額は法外の一言に尽きた。仮にも魔法士であるラギー(のパーツ)を売り払って得られるだろう額と比べてもなお多い。支払額を決めた本人は「魔法士の生涯年収考えたらここで一年以上止まるのは大きいよ」などと言っていたが、そもそも夕焼けの草原は物価が低いのだ。ラギーの出身地域ならばなおさら。
「まあ危ないからね。出産自体命がけだし、シュラウドの子は尚更」
伊達に「呪われた血筋」などと呼ばれていない。嘆きの島におけるテクノロジーの発達が早かったのは大いに理由があるのだ。生まれた子が半数以上成人できた代などシュラウドには一度もなかったし、おそらくこれからもない。そもそも一夫一妻が基本の地域なのに迎えた妻の数がここ五代で一人あたり平均3.6人という辺り、時代の違いを加味してもラギー本人の危険度は非常に高い。
それでも、ラギーの知る相場と比べれば、裏があることがむしろ当然と思ってしまうような額だったから、ハイエナの少年は疑念を隠しもせずに聞いた。
「代理母に出す額じゃないっスよ?」
「いやほらレオナ氏に睨まれるのも嫌だから……」
この返答には子宮と子供を売り買いする界隈を知っているラギーも納得した。イグニハイドの寮長はいかにもイグニハイドというようなオーバーサイズのパーカーの上からでも分かる貧弱そうな体つきをしていて、レオナ・キングスカラーが本気にならずともあっさり砂にされてしまいそうな雰囲気があった。レオナがどこまでラギーのために動くかは置いておいて、ここまで分かりやすい借りを見逃がす人間ならナイトレイブンカレッジに入っていない。
他人の命と身体に付く値段を知っている分、これ以上の値が付くことはまずないと分かってしまった。最終的にラギーの下に入ってくるだろう額と、ラギーでは手を出しようがない類の命の危機を天秤にかけて、前者に傾くことが在り得るのがスラム出身者である。
生命には値段が付くこと、それが立場によって異なることをラギー・ブッチは知っている。夕焼けの草原における生きたハイエナは、マイナス方向に値が付かないことも。
「まともな市民籍も欲しいっスね。スラムの外のやつ」
「え、ホントに受けるの」
なんでこんなとんでもない提案をされた自分よりも驚いているんだ、とイデアの返答にラギーは呆れた。
自寮の寮長に気に入られている自覚はあるが、果たしてそれが卒業後まで続くのかは不透明なままだ。それなら、確実に食べていける選択肢は悪くない。
はじめの妻と二人の子を亡くした父よりも、四人の子の全てが五つになれなかった叔父よりも、シュラウドの血に怯えているのはイデアなのだと思う。顔も知らない自分の母のように青い炎に包まれて死んでいく女も、イデアが送ってやれなかった弟のようにゆっくりと弱って朽ちていく子供も、見たくなかった。
「わかった。夕焼けの草原だとちょっと時間かかるけど嘆きの島なら来週にでも。ついでに
胎内に死の色をした魂を宿しても十月十日生き延びられるだけの体力と、後天的に増幅された所為でべらぼうに魔力の多いイデアとの間に生まれた子供が早々に冥界へ旅立たない程度の魔力しか持たないこと。その双方を満たすのは生中な難易度ではない。獣人特有の強い生命力と、
「乗った。んー、できれば夕焼けの草原の方がありがたいんですよね。市民籍持ちのハイエナが確実に記録に残るんで」
「……となるとまずレオナ氏に話通さなきゃ不味いか。了解。なんとかしてみる。……たぶんレオナ氏が準備済みだと思うけどごり押しするつもりだったら面倒だなどれ持ってこ」
熱く、乾いて、太陽に近く、けれど生きて行くに十分なだけの水がある場所。サバナクロー寮は夕焼けの草原の最も暮らしやすい地域に似ている、らしい。最も暮らしにくい場所しか知らないラギーには確信が持てないが、
「……というわけで夕焼けの草原の住民籍が欲しいんだよね。これ依頼料兼手土産」
サバナクローへやってきた未来の雇い主が「手土産」と称して持ってきた、そこらの子供でも使える魔力消費量でコップ一杯の水を生成する魔道具らしきものを見、あまつさえもう一つ用意された同じ物を渡されたラギーは世の理不尽に唇を噛んだ。
これがあれば、何人死ななくて済んだだろう。水も燃料も決してタダではない。煮沸の必要のない水は貴重品だ。カリム・アル=アジームのユニーク魔法を見た時と同じ感覚は、レオナ・キングスカラーの言葉で遮られた。
「幾らだ」
見れば、レオナもその、夕焼けの草原に住む者なら誰でも喉から手が出るほど欲しいだろう魔導機を物のついでのように持ってきたイデアに顔を顰めていた。
「こんな代物が世間に出てねえってことはなんか問題があるはずだ。生産費か、持続性か、安定性あたりにな。てめえが半端もん持ってくるとは思えねえ、だったら費用だ。幾らした?」
そう言うレオナは、ラギーと違って水に困るような立場ではないが、まさにその立場故に
「……井戸掘るより高いからあんまり意味ないよ。熱砂辺りに持ち込んだときのシミュ終わってないから売る予定ないし、そもそもまだ世に出せる段階じゃないんだって。魔導エネルギーならともかく個人魔力で動かそうとするとブロット浄化の問題で連続使用できないから」
ラギーには、魔導機の技術的な部分は分からない。
「……イデアさん、」
ラギーが困惑したように呟く。今すぐにでも地元に帰って祖母に渡したい気持ちと、そんなことをすればきっと彼女は近いうちに死んでしまうという確信とがハイエナの中で渦を巻いていた。乾きに死ぬ者も当然いるが、水の利権は人を殺すに十分な理由になる。そのことをきっと、イデア・シュラウドは真の意味では知らないのだろうと思えた。知らないから、こんなとんでもない物を持ってきて、あまつさえ他者に差し出せるのだと。
「使ってるパーツ全部に僕のロゴ入れたから、盗まれたら言ってね。自作品流すのは最終手段にしてるからたぶんすぐ見つかる」
「おいラギー。そうなったら俺にも言え」
渇きに苦しむ自分たちを憐れんでいる、のならレオナには別の物を持ってきただろう。この水生成魔導機は技術的な限界で個人レベルでしか使えないのだと
「……そういうことじゃないっス」
ラギーは、イデア・シュラウドの事を知らない。そんなもの知らなくても生きていけるから、シュラウド家のことだって魔法史概論の授業でモーゼス・トレインが話した内容くらいしか知らない。死者の国の王たる「
「ラギー氏」
だから、ラギーは知らなかったのだ。イデアがこんな物を造れることも、ラギーに支払われる報酬がまだ家督を継いでいない
「それね、完成度上がって熱砂の国に普及したら、取り合いとかじゃなくて水が増えたことで人が死ぬよ」
砂漠に雨が降ると人は死ぬ。人の通る道として機能している
「そういうこと考えなかった時代もあったけど……それで今でも人死んでるから、さすがにね」
ビームってロマンだよね、くらいの軽い気持ちで取り組んだ魔導エネルギー砲の効率化は、加速器環境の魔素子研究に一役買ってもいるはずだが、去年輝石の国で起きたテロ事件で使われたような高火力携行兵器に利用された。
ジャミル・バイパーから聞いた話だが、出力が下がるとはいえタブレットに搭載できるまでに小型化した反重力装置は、ビーンズデーのジャケットに使われるような魔法的光学迷彩と合わせて暗殺に利用されることがあるのだという。
発表した魔法理論を扱いきれずに死んだ魔法士のニュースを見たこともある。
それから、「魔導工学革命」は。
あれだけでは魔法士の価値が消えるにはほど遠いことを、他ならぬイデア・シュラウドは知っている。イデアが個人的に利用するくらいならまだしも、スマートフォンのように普及させるには魔導鉱物は希少すぎる。それでも人が夢を見て、そして死んでいくのを、好きにすればいいとまではイデアは言えなかった。言えなかったのだ。弟を地上に留め置くためにイデアが支払った代償を、冥界から魂を奪うための条件を、誰にも言えなかったように。
「アズールくん、取引しませんか」
まさかモストロ・ラウンジのアルバイト雇用契約以外でこの人魚と契約を結ぶ日が来ようとは半年前のラギーには思いもよらなかったが、イデア・シュラウドとそれなり以上に仲のいい相手は非常に限られる。あからさまにラギーのことを警戒しているジャミル・バイパーよりは、まだアズール・アーシェングロットの方が話ができるだろう。
「お話を伺いましょう」
今し方営業時間の終わったモストロ・ラウンジのVIPルームへとラギーを通して、人魚の支配人はそう言った。
「イデアさんのことなんですけど」
イデア・シュラウドから「男性と結婚するから身体性別変化の魔法薬を入手したい」と依頼されたのは半年前のことだった。その時は薬剤資格を持つ専門家と繋ぎをとっただけだが、夏期休暇明けにそういう生態の人魚でもないのに女性になった生徒がいるとなれば、その薬の服用者など自明の理だ。
「魔法薬に不安でも?あれはさすがにクルーウェル先生の伝手のプロですよ」
「あれ、アズールくんに依頼したんスか……?いやそうじゃなくて」
イデア・シュラウドは、
たとえば青く燃える炎の髪の端にちらりと赤が混ざる瞬間に、流氷よりも冷たく光る金の瞳に。肉持つ人間には見えないはずの魂を見据えて姿を変えたはずの人間を識別していることに、在り得ないほどの構築速度で魔法陣を描く青炎の魔力に。水中の人魚と紛う、冷え切った体温に。
肉食の獣に狙われているような、ハンターの銃口が向けられたときのような、サイやキリンを怒らせたときのような、ひたと迫る死の気配が。何日も水や食糧が手に入らなかった後の眠気のような、乾いて渇いて口にした生水に中たって腹を下した日のような、じわりと滲む死の臭いが。イデアからすることがあった。
間違いなくその気のない相手に一々怯えるのははっきり言って面倒極まりないが、かと言ってラギーではどうしようもないものだとも分かっていた。イデアの私室に充満する人間には聞こえない
「……その、特定個人に対する恐怖心だけ紛らわせる方法ないっスか」
死に慣れることはないと、ラギーは知っている。スラムではいつでも隣り合わせのそれに、本当の意味で慣れる日が来るのなら、それはラギーの心臓が止まるまさにその瞬間でしかないと知っている。その恐怖をどうにかしたいのなら忘却と薬物と快楽とで、誤魔化すしかないのだと、知っている。
「恐怖心……まあ、たまにシャチみたいな威圧感ありますよね、あの人」
アズール・アーシェングロットは、深海のいきものだ。病よりも負傷を、甘言よりも捕食者を、寿命と飢渇ではなく上位者の気紛れをこそ恐れ、死後の魂は海と空に溶けゆき決して地の底へ辿り着くことのないもの。だからだろうか、彼は
「やっぱアズール君に言って正解だったっス。とりあえず髪に触れるような距離まで近づくとやばいのは分かったけど、このままだとちょっと。体外受精?ってやつは今一信用できないんで最期の手段にしたいし」
アズールは人魚の常として、人間が一生知ることのない数の死を海底で見てきている。妖精族の一種として数えられていた時代があるほどに高い魔力を持ち、しかし捕食者に対して抗う術を持たない人魚の幼生は普通の魚よりもずっと食べられやすい。そのためか、人魚は同種の海棲生物と比べてもなお多くの卵を産む。アズールにも、卵の頃には数億の兄弟がいた。
「……そもそも人魚は冥界とは縁遠いので、あまり参考にならないかと。原因が僕の思っている通りなら、死への恐怖心や警戒心とリンクしているものです。和らげるのは危険だと思いますよ」
「役に立たねー!んなこと分かってるんスよ。あー、じゃあ、定期的に愚痴つきあってくれません?食いもん頼んで売り上げ貢献するんで……」
昨年度までのラギー・ブッチなら死んでも言わなそうな台詞に、アズールは目を見開いた。それだけの金銭を得ているとしたら、レオナ・キングスカラーからではないだろう。サバナクローの寮長は最低限以上の報酬は現金ではなく物資と教育とで支払っていた。
「一発でお金の出所が分かるの一周回って怖いですね……」
「今、服から消耗品から全部イデアさんが出してくれるんですけど落ち着かなくて」
アズールにも憶えがないと言えば嘘になった。機密保持料も兼ねているにしたって、イデア・シュラウド製の魔導パーツ──それも
「あの人貢ぎ癖ありますよ。身内認定するとどうにかしてお金使おうとしてくる」
「わかる」
いつの間に、というくらい懐かれているのはラギーだって自覚しているが、それにしたってやりすぎだろう。どうせ結婚するなら一生面倒を見るも同然だからものの数に入らないなどとイデアは言っていたが、そもそも
「ジャミルさんもイデアさんと共通の趣味があるみたいなんですけど結局殆どお金使ったことないそうです。僕も正直取引のリターンを釣り合わせるのに必死ですよ、できてませんけど」
「できてないんスか」
「あの人自分の技術料分かってないんですよ。開発費用も度外視で材料費だけで計算してくるのホント勘弁して欲しい……」
「ホリデー後半はくそでかいベッドで添い寝してたんですけど」
このままでは誰かに吐き出したかった話の半分もできない、とラギーは慌てて話を変えた。イデアの魔力特性が極端に攻撃的なのは周知の事実だ。魔法士にしろそうでないにしろ、普通の生き物では自然に流される魔力でさえ攻撃と認識して免疫機構が機能するほどに、イデア・シュラウドの魔力は冥府の気配が濃い。そのままでは同質の魔力を胎に宿すことなどできないので、親和性を上げるために一日中同じ部屋で過ごすところから始めて、手を握ったり添い寝したり、最終的には触れるだけとはいえキスもした。日給で結構な額が貰えたのでラギーとしては不満どころか万々歳だが、特に機密契約をしたわけでもないのでそれとこれとは別の話だ。
「これ僕が聞いていい話ですか?」
「俺が話してんだからいいんスよ。身体は女になったけど俺別に野郎の顔見て寝る趣味ないんで後ろ向きたいんですけど、そうするとルーク・ハントに狙われてんのかってくらいの悪寒がするから寝るどころじゃなくて」
「めちゃめちゃ直接的に死の予感じゃないですか怖」
「どっちが?」
「両方に決まっているでしょう」
「てかあの人死体みたいな温度で鼓動も呼吸も消化も音も殆どないんでビビるんすよね。反射で売人脳内検索しちゃう」
「海でも死体は食料ですけど、いくらなんでも
「あ、アズールくんたちも食べるんすか。オレらも売れないとこは食べますけど、新鮮な内臓は食うより売った方が得なんで」
「その話詳しく」
「違法だけど大丈夫っスか」
「だめです」
ゆらり、ゆらり、炎が揺れる。人肌よりも海の水よりも冷たく燃える、青い魔力。
「一応聞きますけど」
不定形の長髪を右手で掬い上げ弄びながら、この寒気にも随分慣れたな、とラギーは答えは否だろうと思いつつも口を開いた。
「どうしたの」
ラギーは、愛も人も金で売れる類の
「オレのこと愛してます?」
不安そうな声なんかでは全くなかったので、イデアは大いに戸惑った。お金を出して迎えたのはイデアの方だが、初めからラギー・ブッチの体質を求めていることについては説明していたし、ラギーもそれで納得しているように見えた。なのでそんなことを聞かれるとは思っていなかったが、金銭的利益以外の形で愛が欲しいと言われるならまだわかる。けれど、ラギーの口調は明らかに「答えはノーだと分かりきってるけど一応確認しておこう」という時のものだった。
「え、別に。一緒にいて安心できるタイプだとは思ってる……あ、オルトのこと馬鹿にしないのは好感度高い」
この「一緒にいて安心できる」には「利害だけで話が成立するから」が入っているのだろうな、とラギーは思った。この男が、自分の方は感情の赴くまま無軌道にあれこれ渡すくせして、損得よりも感情主体で付き合おうとする相手のことは信用できない性質なのだと、ラギーもいい加減気付いていた。
「よかった……マジで入れ込まれてたらどうしようかってアズールくんと話してたんスよ」
ああ成程、とイデアは心中で呟いた。今では飲食業以外にも手を広げたモストロ・グループの会頭は、
「そしたら今頃ラギー氏のための
イデアなら、イデアの魔法なら、ラギーの魂を縛り付けて、イデアが地上にある限り死なないようにすることができる。イデアが冥界へ行く時に、道連れに連れて行くこともできる。今は機械の身体に入っている
「こっわ。オレ死ぬときは普通に死にたいんで勘弁してくださいね」
このハイエナが死んだら、きちんと冥界に辿り着けるよう道標を灯すくらいのことはしてやろうと思う。ゴーストとして彷徨い自分の朽ちた肉の形を忘れるよりは、
イデアのそんな感傷は、けれど続くラギーの言葉であっさり打ち切られた。
「アンタ不健康だから売れそうにないし」
「ひどない?魔力量と特性がアレだから売れるとこならすごい値段になりそうだけど」
不健康な生活を送っているのも内臓の状態が悪いだろう事も否定はできないが、例え死後の肉体であっても自分が無価値であるような言い方をされるのは嫌だと思ったのだろうイデアは、そう反論する。
鬱々と何事か呟いて自己完結していただろう学生時代から、今のように反論できるようになったのを、健全な精神性に近づいたと言っていいのかラギーは少し迷った。迷ったがそれに答えを出すよりもイデアの提示した情報それ自体の方が重要だったので、その疑問は暫く脇に置いておくことにした。もしかしたら二百年くらい。
「妖精族売りさばくようなルートなら値段つくのか……今度聞いとこ」
「まあ魂に手出さないなら
「イデアさんたまにオレより倫理観やばい時ありますよね」
「えっ心外」
「ま、いいっス。愛とか要らないんでこれからも金だけくださいね」
やっぱり、彼を選らんで正解だったのだろうとイデアは思った。
「うん。あ、お金以外で欲しいものあったら言ってね。造れそうなら造る」
人間の心なんていう国際単位系で計測できないものを求められるよりも、物質的で即物的な要求の方が、イデアには余程信頼できた。それと同じくらい、工学技術も。誰にでも使える物、誰にでも等しく作用する物。そういった物の方が、真実の愛とかいう幻より、ずっと確かにイデアを救ったから。
「あの水魔法のやつすごかったんで治癒魔法欲しいっスね。とりあえず淋と梅毒と破傷風だけでいいんで……」
イデアがサバナクローまで持ってきた水生成魔導機は改良が繰り返され、夕焼けの草原全体に普及し始めている。十年後には渇きに嘆く子供はいなくなるのかもしれないと、チェカ・キングスカラー名義で届いた礼状をラギーも読んだ。その子供たちの中にはラギーの同種も含まれているのだと、
「難易度解って言ってるでしょ絶対……やってみるけど、僕自身治癒魔法は苦手だからあんまり期待しないで」
これを、愛と呼ばない自分たちは少数派なのだとは思う。思いはするけれど、ラギーもイデアもその言葉に夢を見れるような生き方はしてこなかったのだから仕方ない。愛が金で買えることを、