グラウンドでたった1人、サッカーボールを蹴っている少年がいた。
ボールを蹴り上げるその力は弱々しく、その表情は曇っている。まさに心ここに有らずと言った少年は思わず力加減を間違え、ボールは明後日の方向に飛んで行った。
ころころと転がっていくボールはやがて、見知らぬ少年の足元で止まった。少年はボールを取ろうとも、返してもらおうともせずに、その場で呆然と立ち尽くす。
「君、サッカー好きなの?」
見知らぬ少年は足元のボールを手に持ってそう尋ねた。
「……わからない」
少年には自分がサッカーを好きかわからなくなっていた。昨日とっても大事な試合で、絶対に勝つと大切な人に約束した筈なのに、それなのに負けてしまった。
約束を守れなかった少年はサッカーボールを見る度にそのことを思い出し、とても嫌な気持ちになった。これではサッカーを辞めてしまうのも時間の問題……けれど――
「それじゃあ、一緒に思い出してみようぜ、君の大好きだって気持ちは消えてない……俺にはわかるんだ。だから――」
――サッカーやろうぜ!
~プロローグ 前編 もう一度、始めよう~
「やば、完全に遅刻や」
目覚まし時計を見れば午前10時。朝が早い中学生活の真っただ中である彼、『新嶋啓介(ニイジマ・ケイスケ)』は特に焦ることもなく、大あくびをしながら支度を始める。
朝食の食パンをくわえて玄関から出ようとすると何かを思い出したかのように自室へ戻り、少年と少女が楽しそうにサッカーをしている写真立ての横に置いてある御守りを手に取る。
「こいつを忘れたらアイツに怒られてしまうからな」
その御守りを学生服のポケットにしまうと、やはり遅刻であろうとも焦ることなく学校へ向かった。
学校に着いたころには職員室でこっぴどく先生に叱られ、その後ケイスケは『めんどくさ』と口癖を呟きながら授業を受けていた。
そして昼休み、常に気怠いようすだったケイスケは一目散に教室から出るとある場所へ向かう。
そこは校舎裏にひっそりと佇む、おんぼろな小屋。その入り口には『蒼蓮中サッカー部』と書かれていた。
ケイスケは蒼蓮中サッカー部、唯一の選手である。そんなケイスケは本格的な部活動はできないものの、独りだけのさぼり場としてこの部室を愛用していた。今日もこの部室で午後はずっとさぼってやろうかと中に入った。すると――
「げっ。アンタ、いたんか……」
「あっ!! 新嶋君、またここで学校さぼるつもり!?」
「やかましいな。頭に響くからおっきい声ださんといてくれ」
大声でケイスケに向かって怒鳴り散らすのは『音無春奈』。最近になってこの蒼蓮中学に転校してきた二年生の女子生徒。
なんでも日本のサッカーレベルを上げる為の強化委員としてこの学校にやって来たらしく、ことあるごとに事実上廃部同然となっているこの『蒼蓮サッカー部』を復興させたいようだ。
「何言ってるんですか! あなたの悪評のせいで部員がぜんぜん集まらないんですよ! 責任取ってください!」
「知らへんわ。わいには関係のない話や。」
「関係大ありです! とにかく放課後にはちゃんと部員集め手伝ってもらいますからね!」
勝手に放課後の約束をされたケイスケだったが、相手にすること自体が面倒になり『はい、はい』と言いながら部室にあるボロボロのソファーに寝転がる。しかし、これ以上に蒼蓮サッカー部の悪評を広めたくない音無はケイスケの耳を引っ張って無理やり教室へ連行するのだった。
放課後、音無との約束を守る筈もなく早々に帰宅しようと校門へ歩くケイスケの前に再び立ちふさがる存在。またもやケイスケの天敵、音無春奈だった。
深いため息を吐いた後、ケイスケは自分を睨みつける音無の横を素通りしようとするが、足を引っかけられてそのまま転倒する。
「あ痛たた……アンタ、可愛い顔して結構えげつないな」
「新嶋君がそういう態度で来るからです。とにかく、部員勧誘に行きますよ」
「えぇ……意味ないと思うんやけどな」
またもや強制連行されて着いたのは昇降口の前。音無から『蒼連サッカー部、部員大募集中!』と書かれた用紙を渡されたケイスケは、また大きなため息を吐くと下校しようとしている生徒たちに配り始めようとする。しかし、音無はともかくケイスケは札付きの不良として悪評が知れ渡っている為、誰も用紙を受け取らないどころか目さえ合わせてくれなかった。
「せやから言うたやろ、意味ないって」
「こ、こうなったら新嶋君、あそこの木に向かって思いっきりシュートしてください!」
「はぁ? どういう意味?」
「新嶋君のすっごいシュートを見せれば、きっと周りの新嶋君を見る目が変わると思うんです! なにせ私達中学生の間ではサッカーブームが到来してますからね! ……まぁ、その筈なのに新嶋君のせいで部員集め苦労してるんですけど……」
「聞こえてんで。……ったく、今回だけやからな」
音無が何処からともなく取り出したサッカーボールを手に取ったケイスケは音無が指差した木の近くまで歩く。そしてボールを地面に置き、思い切り上空へ蹴り上げると――
「シャイニングブレイク……!」
オーバーヘッドキックで木に向かってシュートした。すると蒼い閃光を纏ったボールは木に激突し、その幹にはボールの大きさの焦げ跡がくっきり付いていた。
並の人間が死ぬほど特訓して習得できる必殺技と呼ばれるシュートを放ったケイスケに、下校中の生徒たちの視線が集まる。その生徒達の中には目を輝かせる者や、ケイスケを敵視するような者など様々な生徒がいた。しかし、視線が集まったのは一瞬、生徒達はそそくさと校門へ歩いて行ってしまった。
「これでわかったやろ? この学校でサッカー部を復興させたいならわいを追い出すんやな」
そう言ってひらひらと力なく手を振り帰ろうとするケイスケ。そんな後ろ姿は何処か悲しげで、危うい何かを感じさせた。
音無はケイスケに向かって叫ぶ。
「新嶋君にとって最後のフットボールフロンティア出場、私は諦めませんから! 絶対に部員を集めて、一緒にてっぺん目指しましょう!!」
その言葉にケイスケは足を止める。色々な感情が渦巻く。もう、本気でサッカーをできない気持ち……そして3年生である自分にとって最後のフットボールフロンティア出場。
この気持ちはあの日、果たせなかった約束の残留。
長い時間が経ち、もう約束なんて意味がないのかもしれない。けれどケイスケはほんの少しだけ――約束の続きをしたい。
心のどこかでそう、思っていた。
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