「ん?これは一雨来そうだな」
店内のガラス越しに外の様子を見ているのは、”喫茶店”あんていく”の店長である芳村だ。彼の経営しているここ、”あんていく”は表向きどこにでもある普通の喫茶店だ。しかし実際には喰種達にとっての拠り所であり、困った喰種や飢えている喰種達にとって希望の架け橋のようなものだった。そしてここで働いてるスタッフは皆、喰種だ。そして店長である芳村もまた....
「四方君、守るために自分を犠牲にすることに果たして意味はあるのか」
そう芳村が語りかけた相手は同じくあんていくの裏方で働く、四方蓮示という男だった。彼は少し考え、芳村の問いかけに応じた。
「研のことですか?」
彼がそう呼ぶ研というのは、以前まであんていくで働いていた心優しい青年だった。しかし彼はある事件を境に変わってしまった。いや変えられてしまったというべきか。想定していた答えを前に芳村は答えた。
「うむ、彼だけではないが......。彼が何故アオギリに入ったのか...」
「守るためでしょうね...。
アオギリの樹というのは奪うためなら手段を選ばない卑劣で凶悪な喰種が集まる集団だ。彼らはあらゆる区を襲い縄張りを増やし、またCCGという喰種対策組織の各区に設置している支部を襲ったりしている。そんな組織の数は減るどころか襲った喰種を従わせ、どんどん拡大しているのだ。
「うむ.........だが、自己犠牲は誰も幸せにならない」
「自己犠牲とは誰かの為に自分の人生を潰す行為だ。やり続けるとそれが癖になる。結果、自尊心は失われ自らの人生を他人に委ねようとするのだ。それでは本人が破滅の道を辿るだけだ」
「そうですね。ですが....研はそれでも守りたかったんでしょうね。その為に自分の道を断ち切ってでも」
「あぁ。彼は優しすぎる。だが、その優しさが己の身を削っていることに気がついていない。だから.....ケアも含め、あんていくは彼の心の拠り所であってくれればいいと、私は思うよ」
そう言った芳村の顔はとても優しさに満ち溢れていた。彼もまた金木を心の底から心配しているのだ。本当なら自分たちを守るために自己犠牲を行ってほしくはない。しかし、金木が自分で決めた道なのなら仕方ないと止めないでいた。なので、芳村は金木のためにできることを最大限しようとしていたのだ。
「研だけじゃないです。芳村さんも十分優しい」
「私のは長い人生から出来た副産物だよ」
(金木君のことだけではないんだがね..............
《コクリア内部》
「四方龍二だ」
そう言った彼の名前に驚く金木。腕を震わせながらも立ち上がり問いただした。
「四方、もしかしてあなたは四方さんの.....」
「!!....お前あいつを知ってるのか?」
アオギリに続き四方という言葉で驚く龍二を見て金木は確信した。彼は四方蓮示の血縁者なのだと。そう考えるとどこか面影があると金木は感じた。金木はあんていくにいた頃、四方蓮示には戦いの基礎を教えてもらった。そんな彼の血縁者だから弱い筈がないと、金木はこう口にした。
「教える前に、もう一度戦ってください」
そう言った金木は対策を立て直し戦闘する構えをとった。彼が龍二との戦いにこだわる理由は、強い相手と戦いそこから得られる経験値が欲しかったからだ。
「そうか。じゃあ仕方なーーー
龍二が話している隙に金木は先手を取り攻撃を仕掛けた。真っ赤な赫子を彼の身体に思い切り叩きつけた。衝撃と共に地面がヒビが入り砂埃が舞う。
「やる時は先に仕掛ける。貴方がさっき教えてくれたことでしたね」
「へぇ、やるな坊ちゃん。だが......まだつめが甘いな」
「っ!!」
クリンヒットしたと思われた金木の赫子は龍二に全くダメージを与えて
いなかったのだ。いや正確にはクリンヒットしていたのだが、強靭な龍二の肉体を金木の赫子では傷付けられないでいた。それを見て金木は驚愕する。
(僕の攻撃が、何も聞いていない。....ヤモリを倒して力を手に入れたと思ったのに..)
「いんや、強いよお前」
その言葉と同時に金木の身体に痺れが走った。金木は予期せぬ全身の麻痺により頭が真っ白になっていた。その中で唯一よぎるのは、自分はいまだ強者になれていないという現実だった。
「ふん」
その間、強靭な拳が金木を襲った。金木の身体は遥か先の壁に押し当てられる。当たった壁は粉々に砕けちり、金木は地面に落ちた。
「準備運動に丁度よし。だな」
「がっ、うぁぁ」
「戦いはな、相手との力量差とかも頭ん中入れてやらないとな。痛い目みるぜ」
「僕は........まだ弱いっっままな、のか....っ」
金木は自身の置かれている状況に焦りと不安を感じていた。守るためにあんていくを出てアオギリに入ったというのに弱い自分のままでは何も守れないと。頭の中で葛藤を繰り返すあまりその精神は壊れかけていたのだ。
「あっあぁぁぁぁぁあ!!」
(僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い僕は弱い)
その脆く壊れやすい精神が崩れ落ちた。
「僕はぁぁぁぁ全部守りたいのにぃっっ」
(僕のせいで僕のせいで僕のせいで僕のせいでみんな死ぬみんな死ぬみんな死ぬ。りょーこさんも僕のせいで死んだ)
先程までの様子と変わった金木を目の前に龍二は動揺していた。ただ拳を入れただけだというのに、龍二の思っていたダメージ以上に目の前の金木はダメージを受けていたのだ。それは身体的ダメージではなく心身的なダメージも受けていることを感じ取っていた。
「おいおい、大丈夫か?」
「ぼくがぁがぁぁあがぁぁぃぁあ」
「こいつ!」
龍二が驚いたのも無理はない。金木の身体には先程まで見ていた赫子とは別の赫子がでかかっていたからだ。その赫子は先ほどまでの赤い赫子とは違い、紫色で形状は百足に似た形に形成されていた。
「おいおい、嘘だろ。力を隠してた?!」
(いや恐らく自我崩壊してやがる)
「ぼぐがぁぁあぁぁぁぁはっはっはっはぁぁ」
咆哮のようなものをあげた後に彼の口から不敵な笑い声聞こえ始めた。その不気味さに龍二も迂闊に近づけないでいた。
「お前、赫者だな。しかもまだ未完成の.....」
「はっはっはっばっはぁばぁぁ!!1000-7はぁぁぁあ」
龍二が警戒して構える中、金木はその不気味な赫子を動かしながら龍二に向かって行った。大振りの赫子による攻撃が龍二を襲う。腕を構えてガードするが、先程受けた赫子とは桁が違い龍二は傷を負った。
「ちっっ!こいつ破壊力が桁違いに上がってやがる」
傷を負った龍二は金木と距離を取るべく後ろに下がった。しかし金木は龍二に休ませる暇もなく追撃を加えてきた。龍二の腹を金木の赫子が貫いたのだ。龍二は辺りに血を撒き散らし、赫子を見つめていた。
「がっはっっ!」
(こいつはヤベェ。回復が間に合わねぇ)
しかし龍二は自身の身体を貫いた赫子を掴み自らの身体ごと回転させ、壁に思い切り叩きつけた。と同時に金木の身体も壁にめりこんだ。
「全く、シャバに出れると思いきやとんでもない落とし穴だなこりゃ」
「ぼくがぁがぁぁあがぁぁぃ」
金木は再び立ち上がり龍二を睨らみ続けている。
「そんな睨むなよ。怖いな」
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