龍ニが去っていた後、芳村は部屋を片付けながら懐かしい思い出に浸っていた。それは,芳村と龍ニが初めて出会った時のことであった。
芳村は1人の人間を愛し,子を授かり,幸せな時間を過ごしていたが,それは自分が所属するVという組織によって,瞬く間に壊されてしまったのだ。Vは人間と愛を育み庇う芳村を裏切り者として、殺害するべく使いを飛ばした。芳村は抗った。抗い続けて結果,愛する人間を亡くし,残った自分の娘でさえも、自分といると危険であると判断し,友人のノロイに託した。
彼はそれからも必要以上につけ狙ってくるVを蹴散らし,古い廃墟ビルの一室に身を潜めた。
「ここまで来れば、しばらくは安心か」
芳村はずっと研ぎ澄ましていた身体の緊張を解き,ゆっくりと壁に腰をかけた。動き続きだったので持ち前の体力も底をつきかけている。疲労しきっていた芳村は目を瞑り,自分が愛した女性のうきな,そして、娘のエトを思い浮かべていた。もしも,自分がVなどに所属しなければこんなことにはなっていなかったのではないのか。
(俺は,愚かだった)
突然,大きな金属音とともに芳村が休んでいた一室の扉が正面から倒れてきた。芳村は解いていた緊張感を再び張り巡らせ,倒れたドアの砂埃に浮かんでいるシルエットを覗き込んでいた。
「おっさん,ここまでだ」
声を聞く限り,自分とかなり歳が離れていると青年と悟り,微笑した。
「青年.....いや子供にはまだ負けられないな」
「そうかよ。Vからあんたに対して排除命令が出ている。俺は仕事をしにきただけだ」
途端,青年が芳村に走ってくる。芳村は赫子を出現させて,構えた。青年も身体から羽赫を出現させて,無数の赫子を飛ばしてきた。芳村はそれを難なくいなし,青年の身体を赫子で突き破いた。
(許せ青年。こちらもまだ死ぬわけには行かないのだ)
貫かれて,青年は身体を一切動かさなくなった。芳村は事切れたと思い赫子を身体から抜こうとした瞬間,事切れたと思ってた青年の拳が動き出し,芳村の赫子をへし折ったのだ。
「ん!??」
芳村は一瞬のことに判断が追いつかなかったが,自身に備わっていた持ち前の反射神経ですぐに青年から距離を取り,折られた赫子部分に手を当てた。
「青年と思って油断していた」
青年はというと,折った芳村の赫子をそのまま口の中に入れて,かき氷のようにばりばりと食べていった。
(そうか。君も.............)
「なら,私も少し本気を出そう」
——————
(それが,私と
そう懐かしき思い出を浮かべていた,芳村の鼻にツンとするような濃い血の匂いが混じってきた。と同時に芳村の表情は先程からは想像もできないような険しい表情になっていた。
「久しぶりだな功善,元気にしているか?」
「今になって現れるとはな...茶は...いるか?芥子」
そう言った芳村の目は赫眼に変貌していた。