「今日は特別講師を呼んでいる。最近弛んできてるお前らにはちょうど良いだろうと思ってな」
1年A組の担任たる相澤は、いつもの如く気怠そうに生徒へ向けて発言した。
「クラス委員長としてもそれはありがたい! いや、喜ぶべきことなのか……」
「えっ、女ヒーロー!? 相澤先生ー、女性? 女性ですか?」
「綺麗でナイススタイルですかー?」
「上鳴、峰田。あんたら、うるさい。あたしはホークスがいいなー。ロックでイカすしカッコいいじゃん」
「どこもロックではないぞ。耳郎よ。ホークスは、ああ見えて真面目で学生の私にも親身になってくれる堅実なプロヒーローだ」
「何かしら、嫌な予感がするのよ」
「大丈夫だよー、梅雨ちゃん。きっと楽しいさー」
「確かに弛んできてますわ」
思い思いの言葉を口に出す生徒たち。
そんな中、相澤は、
「気をつけろ。この雰囲気、保てんぞ」
と言うと、小さく笑った。
ぞくっとして、ほぼ全員の生徒が身構えようとしたその時、教室前方の扉が吹っ飛んだ。同時に、何者かが教室へと飛び込んできた。
ある者は立ち向かい、ある者は怯えていた。
侵入者は立ち上がると、教室内を眺め、嘲笑した。
丸い尻尾に長い耳。どこからどう見てもそれはウサギだった。
筋肉ムキムキのウサギだ、と誰かが呟く。
「紹介しよう。わざわざ教室の扉をぶっ壊して登場してくれたプロヒーロー、ミルコだ」
「怒ってんのか? 相変わらず相澤はかてーの。こんくらいの登場のほうが活入るだろう」
「まあな。こういうのは久しぶりだ。ありがたい」
「はっ。授業の内容も任せるって言ったよな。よし、任せろ」
「No.5だ!」
「かっこいー!」
「すげー!」
生徒たちの羨望の眼差しをよそに、ミルコは一人一人を一瞥した。
「この中で1番つえーやつ。だれ?」
「「はい!!」」
ミルコの不躾な質問に対し、複数の生徒の返事が重なる。
挙手したのは、飯田に轟、爆豪、緑谷の4人。
「おめーら! 俺がいんだろうが!」
爆豪が立ち上がり、目を尖らせた。
「爆豪君、俺は、クラス委員長は、誰よりも強くあるべきだと思ってるんだ」
「今はNo.1の息子だから、一応、な」
「僕も、強くなりたい!」
「希望じゃねーんだよ! 今だっつーの!」
爆豪は、今にも手を出しそうだ。
「はいはいはいはい」
ミルコは、そんなもんどうでもいいとばかりに手を雑に振り、彼らの言い争いを中断させた。
「そんじゃさー、まとめてかかってこいよ」
平然とした顔でミルコはそんなことを言い、授業内容はあたしと戦うこと、と続ける。
「で、授業の目的はあたしに勝つこと、な」
いち早く相澤を見る爆豪。相澤の目は閉じられていた。
それを確認するや否や、爆豪はその場で小さく爆発を起こし、教壇にいるミルコへと一直線に飛びかかる。
教壇が転がり、爆豪が着地した時には、彼女の姿は既に教室の窓の外。
同じく窓から飛び出す爆豪。出遅れた三人もそれを追った。
「はえー!」
他のA組生徒も興奮しながら校庭へと向かう。
「ギリギリだろ、なあ、衣装さ、ギリギリだぞ、あれ」
峰田だけは別な興奮の仕方をしていた。
生徒全員が校庭に到着する頃には、すでに辺りには爆発音が鳴り響いていた。
目で追うのがやっとの速さで、ミルコは爆豪の攻撃を次から次へと避けていく。
ならばと爆豪は、爆発の範囲を広げることでマルコにダメージを負わせようと火力を調節しながら戦い出した。
「なるほど。じゃあ上げる」
ミルコは、爆豪の意図を読み取り、さらにスピードを上げ、爆発をすれすれで交わしながら、彼の懐へと飛び込む。
爆豪はそれを読んでいた。自爆覚悟でミルコに攻撃をしようと着火したその時、ミルコの蹴りが彼の腹にめり込む。
ミルコも彼の行動をさらに読み、阻止するために懐に入った時には既に蹴る体制を取っていたのだ。
しかもこの蹴り自体も強烈でなおかつ速いのだ。
なす術もなく、爆豪は後ろへと吹っ飛び、着火は不発に終わった。
「次は俺に行かせてくれ」
間髪を入れず、飯田が攻め込む。
早く試してみたいと、彼のスピードに対する情熱が彼の足を動かしたのだ。
相手はNo.5ヒーロー。最初から全力で。
飯田は、フェイントなどかけることもなく、一直線でミルコの元へ。
レシプロターボを最大限に発揮できる軌道。それが今の最速の攻撃だった。
エンジンたる脚からは炎と煙を出し、身体をも超えてそれは超速の蹴りとなる。
それに対し、ミルコは、動かず避けようともしなかった。
渾身の一撃を入れる瞬間、飯田の目に、彼女の上がった口角が映り込む。
蹴りを真正面からガードしたミルコ。だが、彼女の立ち位置は変わらない。
「いってー」
言動と表情が合っていないミルコは、飯田の脚を掴むと、そのまま片手でジャイアントスイングを味合わせ、放り投げた。
そのまま木の幹に激突した飯田はうずくまってしまった。
「緑谷、トリは頼む」
轟がミルコの前に立つ。
「エンデヴァーんとこの! いいぞ、楽しみだ」
我慢できなかったのか、ミルコから歩み寄っていく。
「ども。加減できないんで」
「どうぞっ」
とふくらはぎを膨らませると、スタートダッシュを切った。
しかし、轟との間に突然氷の壁が現れる。だが、そんなものミルコには関係なく、
そのまま蹴りで粉々に砕いた。
轟は、それを予想して、すでに炎を放っていた。しかし、手応えがない。
おかしいと思った時には、すでにミルコはすぐ近くまで迫っていた。
炎の攻撃が来るだろうと踏んで、氷の破片などお構いなしに跳躍していたのだ。
轟は、反射的に氷の壁を出し、後ろへ飛び退いた。
「くそっ」
「氷ばっかかよ!」
蹴りで氷を砕くと、ミルコは間髪入れず飛び込んでいく。
今度は氷の壁も間に合わず、蹴りを腹に入れられてしまう。
だが、轟は立ったまま後ろに引きずられただけで済んだ。咄嗟に、腹部に氷を張っていたのだ。
「待たせたな」
圧縮した炎を左手に纏わせ、同時に左腕を冷却。
無数のパンチをミルコに浴びせる。
轟焦凍にしかできない、爀灼熱拳・連撃。
ミルコは、そのパンチを受け流していく。
髪の毛がチリチリと燃え出し、受ける掌が火傷を負っているのが分かった。
それでも、
「火力は父親に引き継がなかったのか?」
轟の未だ燃える腕を掴んだ。
「嘘だろっ!?」
「パンチはなー、こうするんだ!」
轟の頬に、まともにミルコの拳が入る。
轟は、背中から倒れた。
「……みんな。僕が、勝てるのか……」
顎に手を当て、緑谷は思考し出した。
「ミルコさんの能力はウサギ。攻撃の主体は強靭な脚力による蹴り。跳躍力もずば抜けている。まだ必殺技も使っていない。かっちゃんの攻撃を避け、飯田君と轟君の技を防げていた。体力、頑丈さ、共に高い。典型的なパワータイプ。なのに、スピードも備わっている。すごい、さすがNo.5。でも……」
「なんだ、考え事か?」
緑谷の目の前にはミルコの顔があった。
「うわっ、す、すみません」
「闘わねーの?」
「それは、ぜひ闘いたいです! けど。勝利するためには……。えっと、あの、提案、なんですが。4対1じゃダメでしょうか?」
「ははっ! そんなことか。けど、あいつら、のびてんじゃねーか?」
そう言って、ミルコは笑ったのだが、その笑顔もすぐに消えた。
爆豪、飯田、轟の3人は、クラスメイトたちの介抱もあって、復活し、もう立ち上がっていたのだ。
彼らの目には、先ほど見せた闘志が未だ焼き付いている。
「はっ。いいぜ。おもしれー」
ミルコは、心底楽しそうにニヤついた。