「峰田くん、この前、遊んだあれ、覚えてる?」
「覚えてるぞ。でも大丈夫か? 読まれやすくなっちまう」
「それでいいんだよ」
峰田は、緑谷の自信に満ちた顔を見た。
彼に勝算があるのならばと、峰田はそれに従うことにした。
「任せたぜ、緑谷」
「うん!」
一方、ミルコは感心していた。
油断しているところに不意打ちを食らって倒れても尚、次の作戦を瞬時に考えられる緑谷。
モギモギがクッションになったとはいえ、今回の戦いで一番攻撃力のあったかかと落としを受けて尚、怖がることなく挑む気でいる峰田。
「根性はあるらしいな。嫌いじゃないぜ、そういうの。なあ、緑谷!」
最初に攻撃を仕掛けたのは、緑谷だった。
フルカウル8%の力で、パンチとキックを混ぜながら、多彩な技を繰り出していく。
しかし、先ほどの攻撃に比べたら、緩い緩い。ミルコは簡単にいなしていく。
「さっきの本気パンチは結構効いたぞ。……はーん。まーた何か考えてるだろう?」
「どうで、しょう、ねっ!」
とはいえ、緑谷は必死である。
20%の力を使ったのだ。その消耗はやはり激しかった。残された力を上手に、適切に使わねばならない。
だが、そんなことは出来て当たり前の話だと彼自身よく分かっている。今はそれよりも峰田だけが気がかりだった。
その頃、峰田はといえば。
彼は、自分の靴の裏にモギモギを貼り付ける作業に必死であった。
「真ん中から少しでも貼る位置ずれると、大変な目に会うからな、慎重に、かつ急げっと」
峰田は、一足毎に3個のモギモギを貼り付けると、履いて立ち上がる。
さながら、見た目はローラーブレードである。
「やったるぜー!」
峰田は慣れた様子で歩き出した。
靴の裏のモギモギが地面と接触する度に勝手に跳ねるため、一歩一歩が特大ジャンプとなるのだ。
遊びで開発したこの技が役に立つとは。しかし、楽しんでる暇は無い。急ぎ、二人の元へとジャンプしながら向かった。
「待たせたな、緑谷!」
「峰田くん!」
「必殺、グレープバニー! 絶対引っ付いちゃる! うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃっ!」
峰田は、ウサギのようにミルコの周りを跳びながら、頭のモギモギを投げまくった。
「私の前でウサギを名乗んな!」
ミルコは思わず叫んでしまった。
あんなかっこ良くないウサギがいてたまるかと。
「ちっ、さっきの変なくっ付く物体か。厄介だな」
緑谷の狙いはこれだったのかとミルコは気がついた。
いくらミルコでも、あのモギモギによって機動力が落ちてしまう可能性は確かにあった。
しかし、峰田の大きく跳ねるだけのジャンプは、実に軌道が読みやすい。
モギモギに頼ったジャンプのため、方向や速さに対して融通が効かないのだ。
「グレープバニーから、じゃなかった。えっとー、エロ田だっけ? お前からやっつけてやるよ!」
峰田のモギモギを走りながら華麗に避けつつ、ミルコは彼にどんどん近づいていく。
「うわー来たー!!」
峰田は、迫るミルコの気迫に押され、彼女とは逆方向にジャンプしてしまう。
ここだ。
峰田の次に着地する地点を予測し、ミルコはそこへ急行する。
着地する瞬間に峰田を襲うのだ。
彼女のそんな意図に、峰田本人も気が付いたのだろう。
泣くしかなかった。だが、既に跳んだジャンプは自身でも止めることはできない。
二人の距離が近づく。
「待て待てやめろー!! やめてくれー!! ごめんなさーい!! ……なーんてね♪」
「は?」
混乱するミルコ。敵前でなぜ笑える?
そんな彼女に、突然、衝撃が襲い掛かった。
「ぐはっ!?」
ミルコは、ガードもできないまま横腹を蹴られ、勢い良く吹っ飛んだ。
あのミルコが、初めて倒れたのだ。
「はあ、はあ、なんとか、間に合った」
緑谷はひと安心し、息を吐いた。
彼の全身にはまたプラズマのようなものが発生していた。
連続でのフルカウル20%は流石に堪えたようだ。
「緑谷、ナイス! 俺の軌道が読みやすいということは、それはつまり相手の攻撃も読みやすくなるってことだな」
「うん。ミルコさん、なら、確実に、峰田くんの着地、地点を狙うと、考え、たんだ」
「っておい、大丈夫か。ボロボロじゃんかよ」
「痛かったぜ」
ミルコの低く唸るような声に、二人は慌てて身構える。
ミルコは、既に立ち上がっていた。
彼女のピチピチのヒーロースーツは、轟たちの攻撃、そして緑谷の攻撃で既にボロボロとなっていた。しかし、そんなものどうでも良いといった感じで、口角を曲げ、実に楽しそうに笑っていた。
「こっちも本気、出さないとな!!!」
それは一瞬の出来事。
ミルコは、脱兎の如く、猛スピードで校庭を走り抜け、二人を瞬殺してしまったのだ。
二人からすれば、彼女の声を聞いた直後に倒れていた、そんな感覚しかなかった。
「ふうー。…………。あっ、やべー、マジになっちゃった……」
珍しく慌てた様子のミルコ。
対して、A組のクラスメイトたちは、恐ろしい光景を目の当たりにし、無言の状態。
校庭には戦慄が走っていた。
そんな中、唯一、相澤だけは満足げに微笑んでいた。
そんな校庭の真ん中で、仲良く横並びで倒れている緑谷と峰田。
「緑谷、俺を使ってくれてありがとな」
「こちらこそ。あの一撃は、峰田くんのおかげだよ」
「エロは世界を救うのさ」
「あはは。負けちゃったけどね。でも、楽しかったよ」
二人はゆっくりと上半身を起こすと、どちらからともなく拳を交わした。
「よくやったぞ二人とも!」
「作戦良かったぞ、緑谷!」
「ナイスファイト、峰田!」
「爆豪、飯田、轟もお疲れ!」
称賛するクラスメイトたち。
「馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。まあでも悪くなかったぜ」
「あっ、ミルコさん。ありがとうございました」
「おおっ! スーツが破けて際どくなっとる!」
ミルコは、二人の頭を乱暴に撫でてやる
すると、ミルコの手に、峰田の頭にあるモギモギがくっ付いてしまった。
ミルコはもう片方の手で反射的に取ろうとしてしまい、両手がくっ付いてしまった。
まるで手錠をされているかのように拘束されてしまった。
「チャーンス!」
峰田がなぜか元気になった。
「やめろ、くそ、エロ田! お前どこ触ってんだ!」
「はあはあはあ。この腹筋がたまらんのですよ」
峰田は我を忘れて、ミルコのお腹を撫で回していた。
「てんめ〜!!」
「峰田くん、やめなきゃ! 危ない!」
緑谷が止めようとしたのも虚しく、モギモギが悲しく地面を転がった。
峰田ことエロ田は、またもや地面に埋まってしまった。
こうしてミルコの授業は、峰田の意識と共に、終わりを告げた。
「相澤、さっきの言葉、撤回する。先生って大変だ」
「分かってくれて嬉しいよ。ウサギ先生」
「んだよそのネーミング。まあでも、根性あるやつばっかじゃねえか。気に入った」
「いつでも特別講師として来てくれて構わんぞ」
それに対し、あーはいはいと二つ返事をして、ミルコは気絶している峰田の前でしゃがみ込んだ。
「次来た時、もし私に勝てたらー、今度は好きなだけ触らせてやる。強くなれよ」
そう言い残し、ミルコは去って行った。
もし峰田がこれを聞いていたら、きっと彼はどんな特訓にも耐えられるに違いない。
「ど、どうしよう」
だが、それを教えて良いものか、聞こえていた緑谷は、一人悩むのだった。
そして、相澤は一人頷くと、
「あいつ、教師向いているかもしれん」
などと、恐ろしいことを考えていた。