農家なセーラー服っ子のスターデューバレー   作:馬汁

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買い物に出会いにあいさつ

 シャワーで汗を落として、汚れきった服からまだ来ていない別の服へ着替えて、僕は外へ繰り出した。この服はさっきまで来ていた物と瓜二つだから、汚れ以外に見た目の変化はない。

 今頃ではあるけれど、持ってきた服がセーラー服系の物だけなのは頭がおかしいと思わないでもない。退職したばかりの頃の僕が、本当に頭がおかしかったのかもしれないけども。

 

 今では正常な頭になっていると思いたい。なんて願いながら町を歩く。

 広場の辺りには、数人の人影が見える。花壇に水をやっているおばあちゃんと、掲示板に向かって何かをやっている人が居た。

 

 確か雑貨屋さんはあそこだったっけ。僕は掲示板のそばに寄ってみる。

 

『高品質な種、あります。 ピエール商店へ!』

 

「……やっぱり店前に貼るより手紙を出した方が……?」

 

 はあ。どうやら広告を貼っていたらしい。掲示板の面にシワなく張り付けている。対してそれを貼る男は何か悩んでいる様子だ。

 声をかける前に、広告の張り紙を一瞥。種が置いてあるらしい。一応、この町で農場をやるつもりで越してきたから、幾らか自前で種を用意していたりはする。もちろんそれらは無限にある訳じゃないから、ここで買うことになるだろうけど。

 

「こんにちは」

 

「おわっ?! あ、ああ! こんにちは!」

 

 そんな大きな声で話しかけてないのに、だいぶ驚いたな。

 

「驚かせました? ごめんなさい」

 

「ああいえ、大丈夫です。どうかしましたか?」

 

 人当たりの良さそう……というか、どこと無く気が弱そうな顔だなあ、と思いつつ質問してみる。

 

「種ってどういう物が置いてあるんだろう、と」

 

「種ですね! 今は春が旬のものを揃えてますよ。にんにく、パースニップ、さやえんどう……そしてカリフラワーです。他にも幾らかありますよ」

 

「へー」

 

 お世話の必要が少ないと聞くから、根野菜のパースニップを既に買っている。

 1つだけの作物を育てる予定だったけれど……。まあ、そもそも畑を少しも耕せていない現状じゃ、種を持っていても仕方ないな。

 

「もしかして、引っ越してきた方ですか?」

 

「うん、僕がそう。名前はノアだよ。……僕が引っ越してくるって事は、町中で知られてたり?」

 

「ある程度知られてますよ」

 

「なるほどー」

 

 うーん、ミニ有名人。といっても、見た所町の規模自体が小さいから、「ある程度」の人数も少ないのだろう。

 

「私の名前はピエールです。この張り紙を見たらわかると思いますけど、このお店を経営してます」

 

「うん、よろしくします」

 

「はい。よかったら見て行きますか? 種以外にも食材や加工食品も一通り置いてますよ」

 

「食材……。そうだった、晩ご飯の用意もしないと」

 

 と言ってもまともな調理器具はないから、まな板の上だけで調理できるものが良い。

 ……店売りの弁当かエナジーバーが主食だった僕の頭じゃ、生野菜か缶詰を使ったサンドぐらいしか思いつかないけど。ついでに言えば、それも完成させられるか不安だ。

 

「……まともなキッチンの設置が優先かなあ。特に電子レンジ。あとエアコンも無かったっけ」

 

 ひとりごちる僕。それに気づかないピエールさんがお店の扉を開くから、僕もその後ろをついて行った。

 

 

「生活必需品は大抵あるみたいだ。あ、このリンゴ美味しそう」

 

 こういう果物も滅多に食べなかったなあ。種とかで食べずらかったりするし、食べ方次第じゃ手が汚れるって避けてたんだけど。

 うん、1個買ってしまおう。

 

「それとパンと、ツナ缶とマヨネーズ。あー、食器とかも用意しないと」

 

「引っ越ししたばかりだと用意する物多いですよね」

 

「んー」

 

 僕に必要なのはしばらくの食料と、それと持ってこれなかった日用品。あと、そもそもの生活水準が低いが故に元々持っていなかった物も一応。化粧品も貰い。

 しかし、この店でもどうしても見つからない物が幾つかあった。

 

「……まあ、これぐらいで良いかな。これでお願いします」

 

「はい、お会計ですね」

 

 いつの間にか籠いっぱいになっていた品物を、バーコード付きの物とそうでない物で分けて会計を始めた。

 

「この町のお店については、ご存知ですか?」

 

 これぐらいの作業程度なんでもないのか、手元や目線の方向だけはそのままに、器用にも言葉だけこちらへ向けてきた。

 

「このお店と、鍛冶屋と、大工さんと。あとjojaマートだったよね」

 

「ええ、そこで手に入らない物はバスで買いに出かけたりします。後は作ってもらうか、自作ですね」

 

 自作かあ。

 農作物に関してなら、種と時間さえあればいくらでも自作できる。けど鍋や包丁もできるというわけでも無い。

 

「鍋とか包丁とかは、もしかして鍛冶屋さんが売ってくれてる?」

 

「ええ。金属類は鍛冶屋のクリント。電気製品とかは、大工のロビンを頼ると良いですよ。工事や設置の方まで手配してくれるので、心強いはずです」

 

「なるほど、なるほど」

 

 職人さんから買い物するっていうのは珍しい経験になるな。どんな風にやり取りするんだろう。表面加工とかしてくれるかな、とかを思ってみる。

 

「ただ、大量生産品とは訳が違うので、やっぱりお高いです。その分良い物を作ってくれるので、相応かと」

 

「そうなんだね。まあ、最低限の自炊ができる程度のものだけならなんとか……買えるかな?」

 

 現金はしばらく困らない程度の物を持ってきてるし、大丈夫だとは思うのだけれど。そういえば田舎に持って行く分の運送料とか考えてなかった。こういう所は大抵特別料金なのだ。オーダー料と運送料、どっちが高いのだろう。やっぱりオーダーかもしれない。

 

「どうぞ、お釣りです。今後ともご贔屓ください」

 

「うん、ありがとね」

 

 さて、次はどこを行こうか。

 広場はとても広い、いや広場だから当然だけど。でもここからどうしようかな……。手土産用意すれば良かったと後悔。でも地元って観光名所でもなんでも無いような所だから用意できなかったし……そもそもそういうアテなかったし。

 ……どうしよう。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 手土産はともかく、とりあえず何処かを訪ねようかなと思って……その前に買い物の荷物を家に置いて、再び町へ戻ってきた。

 町の外にあるとはいえ、往復にそう時間はかからない。

 他人の民家を訪ねるのは中々緊張する。広場で緊張を誤魔化すためにウロウロしていると、カーカーという、台車かなにかを押している様な音が聞こえた様な気がした。

 

 ……淀んだ空気のオフィスにやってくる清掃業の人を思い出した。どうしてか。

 なぜ頭に思い浮かんだのか知らないけど、少なくとも今のとは関係ないだろう、と目を伏せる。数年程度とは言え、あそこでの記憶がどうも染み付いてしまっている様だ。

 

「うお、あぶねっ!」

 

「うひゃ?!」

 

 目線を上げて声の方を向いて、体が反射的に後ろへ退く。石畳に叩きつけられたお尻が痛い。

 

 過去の事は忘れようと首を振っていたら、注意が散漫になっていたみたいだ。視界の悪い曲がり角という訳でもないのに、近づいてくる人に気付かないだなんて……。

 

「すまん! 怪我は無いか?」

 

「ううん、大丈夫……」

 

 差し出された手を掴んで、立ち上がる。

 金髪の青年が申し訳なさそうに見てくる。彼の小脇に抱えられたスケボーからして、さっきの音は彼がスケボーを走らせる音だったのだと納得した。

 普通、音が近づいて来たら周囲に気をつけるだろうに。どうも私は音を聞き流していて、接近に気付けなかったらしい。

 

「ごめん、ボーッとしてた」

 

「そうなのか、診療所まで運ぶか?」

 

「あ、いや。難しい考え事をね。だから具合が悪いとかじゃないよ」

 

 別に風邪や体調不良でボーッとしていた訳じゃ無い。だとしても運んでもらうつもりも無い。

 

「ならせめて、ベンチに座っていてくれ。ほら」

 

「うん、ありがとう。そっちこそ座って……あ、キミはなんともない?」

 

「なんとも無い。ぶつかっても無いしな」

 

「良かった」

 

 僕の無事に安堵してくれる彼だが、そういえば名前はなんだろう。今は挨拶回りの最中だから、聞いてしまおう。

 

「僕はノア。引っ越してくる人が居るって噂が流れてるらしいんだけど、知ってる?」

 

「ああ、聞いたことがある。俺はサムって言うんだ。よろしく。さっきはすまなかった」

 

「気にしないで、僕にも落ち度はあるよ」

 

 

 

 と言っても、真っ白なセーラー服が……。まあ、ズボンの方は汚れたかもしれないけど。しりもちを付いた程度なら大丈夫かな? 

 

「しかし、綺麗な髪だな。おふくろのとは負けず劣らずだな」

 

「へへ、ありがとう」

 

 出かける前にシャワーを浴びたというのもあるんだけど。しかし初対面で髪を褒めるとは、お目が高い。

 

「僕、挨拶しに町を回ってたんだ」

 

「挨拶回りか。良い事かもしれないが、どこまでキッチリしなくても受け入れてくれると思うぞ?」

 

「ホント? でも……」

 

「真面目な人、っていう印象が付くぐらいだな。普通に過ごしていれば、ほとんどの人と知り合えるさ。……約一名を除いて」

 

 予想の通り、それぐらいには小さな町だったらしい。それでも全員と良好な関係を築くのは、時間と苦労を伴う筈だ。

 僕としては良好な関係性を保とうと思っているが、多分完全達成は無理だ。

 

「これからどうするんだ?」

 

「挨拶がぼちぼちで良いなら、うーん。……開拓かなあ」

 

 げんなり。そんな音が聞こえるのを錯覚するぐらいには、態度に現れていたと思う。

 木、岩、草。どうやっても砕けない石まである。端っこまで動かす力もないし、そうなると……。

 

「爆発物……かな」

 

「おいおい物騒だな」

 

「いや、爆発させるのは農場にある岩だよ。どうしてもつるはしが負けて」

 

「ああ、そういえばあそこの土地凄いことになってたな」

 

 でしょうでしょう。あそこは森とか荒野とか超えて混沌だったもの。

 あの混沌を耕すにはまだまだ時間と手間が掛かるに違いない。

 

「クリントの所はどうだ? たまに鉱山に潜るから、爆発物の用意もある筈だ。その鉱山入り口の横に建ってる、冒険家ギルドを訪ねても良いかもしれない」

 

「なるほど、アドバイスありがとう。早速行ってみるよ」

 

「ああ、鉱山にはあそこの川の上流に向かえば良い。クリントの工房はその川の橋を渡って、Jojaマートより下流の方だな」

 

「なるほど。工房の方が近そう」

 

「そうなる。あ、ついて行った方がいいか?」

 

「ううん、ありがとう。でも一人で行こうかな」

 

「そうか。それじゃあ……良い一日を?」

 

 何だそれ。ついつい吹き出して、肩を揺らして笑ってしまった。

 

「あはは。ごめんね、ふふ」

 

「礼儀とかそういうのは苦手なんだよ……」

 

「そっか。大丈夫、僕には気安く話して良いよ。男友達みたいな接し方で全然」

 

「有り難くそうさせてもらうよ……。てか、あんた女だろ」

 

「……よいしょっと」

 

 ベンチから立ち上がって、数歩進んで回れ右。サムと向き合うと、にっこり。あるいはニカっと笑う。

 その表情のまま、さようならの言葉の代わりに手を振った。

 

「? ……??」

 

 その戸惑った表情は、僕ほどではないが可愛い物だった。

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